俳諧ガイド 目録

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名残裏・挙句の作法

名残裏・挙句の作法 索引

名残裏・挙句名残裏・挙句について蕉風以外の説確認したこと
名残裏・挙句作法名残裏・挙句について芭蕉の伝貞門の伝

 


 


名残裏・挙句
名残裏・挙句について
① 名残裏は、歌仙の場合懐紙二の折の裏で、31句目から36句目までの6句ある。
② 挙句は、歌仙の場合末尾の36句目、名残裏の6句目である。
蕉風以外の説
❶ 挙句は発句に返らぬようにする。
❷ 発句・脇の作者は、挙句を詠まない。
❸ 挙句は、発句にある字を避ける。
❹ 挙句は、前句が春のときは、春が五句続いていても、必ず春を付ける。
❺ 挙句は、無常・述懐句は避け、満尾を悦び、目出度く詠む。
芭蕉の俳諧で確認したこと

❶ いかなる意図か、説明がなく「返る」の意味がつかめない。むしろ「発句に通じさせる」ことがある。「直旨伝」に、「所以ある俳諧には、発句に心の通ふやうの名残の花有るべし」とある。これは、名残の花(匂いの花)についてではあるが、「挙句も亦、自然とそのこころばへなり」と続けている。(匂いの挙句)
  ┌発句  鼓子花の短夜ねぶる昼間哉    芭蕉  尚白筆懐紙、大津奇香亭
  │脇    せめて涼しき蔦の青壁     奇香
  ├──
  │名ウ5 機たゝむ妻戸に花の香を焼て   芭蕉
  └挙句   よき語るけふのはつ春    尚白
  ┌発句  五月雨をあつめてすゞし最上川  芭蕉  真蹟懐紙、大石田一栄亭
  │脇    岸にほたるを繋ぐ舟杭     一栄
  ├──
  │名ウ五 平包あすもこゆべき峰の花    芭蕉
  └挙句   山田の種をいはふ村雨     曾良

 ・ 例は枚挙にいとまがない。発句に「返る」ことで、円環を閉じ、挙句の果てを回避する。
 ・ 「冬の日」に、巻を越えるものがある。
巻一┌発句  狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉 芭蕉
  └脇    たそやとばしるかさの山茶花   野水
         ↓↑
巻五┌名ウ1 元政の草の袂も破ぬべし      芭蕉 ※無季
  │名ウ2  伏見木幡の鐘はなをうつ     荷兮 ※春季、花
  │名ウ3 いろふかき男猫ひとつを捨かねて  杜国 ※春季、非恋
  │名ウ4  春のしらすの雪はきをよぶ    重五 ※春季
  │名ウ五 水干を秀句の聖わかやかに     野水 ※無季、匂い
  └挙句   山茶花匂ふ笠のこがらし     羽笠 ※冬季、匂い

  挙句は発句に返らぬようにする。
 △ 会によっては、発句に心の通う挙句を仕立てる。


❷ 発句の作者は詠まないが、脇の作者は普通に詠む。
 ・ 「直旨伝」に、「発句の作者揚句せずといふは、句引して末に揚句の作者を書なり」とある。発句の作者だけの制約であるが、時には許す。
 ・ 同じく「直旨伝」に、「揚句は発句の主、又は亭主のする所にあらず」とある。「脇主」とはしていない。つまり、「亭主」即ち「脇の作者」ではないのである。
  ┌───┬─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
  │ 集 │  巻  │発句│ 脇 │第三│月1│月2│花1│月2│花2│挙句│
  ├───┼─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
  │炭俵 │道くだり │桃隣野坡│利牛│利牛│野坡│野坡│利牛│利牛│野坡
  └───┴─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘

 ・ この発句の詞書きは、「天野氏興行」。日本橋桃隣亭の興行であるから、脇主野坡の挙句で差し障りはない。
  ┌───┬─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
  │ 集 │  巻  │発句│ 脇 │第三│月1│月2│花1│月2│花2│挙句│
  ├───┼─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
  │ひさご│木のもとに│芭蕉│洒堂曲翠│洒堂│洒堂│洒堂│野水│野水│洒堂
  └───┴─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘

 ・ この巻、巻頭に「ひさご 膳所」とあるのみで、興行場所は膳所のどこか不明。挙句が洒堂(珍碩)であるから、膳所の医師珍碩の洒楽堂ではなく膳所藩士曲翠亭である。
  ┌───┬─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
  │ 集 │  巻  │発句│ 脇 │第三│月1│月2│花1│月2│花2│挙句│
  ├───┼─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
  │続猿蓑│いさみ立 │里圃│沾圃│芭蕉│沾圃│馬莧│沾圃│沾圃│里圃│里圃
  └───┴─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘

 ・ この巻は、発句主が挙句を詠む変則のように見えるが、発句の初案は「いさみたつ鷹引居る霰哉」で、芭蕉の作である。金蘭集に「続猿蓑には『鷹引居るあらしかな』と有て里圃が句なり。これは撰集の時に里圃が句になし給へるならむ」とある。
 また、去来相伝の「元禄式 ㉑」にも「発句の作者、挙句をせず」とあり、芭蕉の迂闊とは思いづらい。撰集の最終稿は支考を経ているので、なおさらである。

・ 両吟の場合はどうか。芭蕉の両吟歌仙は、9巻ある。内、亭主が明らかなものは、4巻。
  ┌───┬─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
  │ 集 │  巻  │発句│ 脇 │第三│月1│月2│花1│月2│花2│挙句│
  ├───┼─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
  │真蹟 │時節さぞ │杉風│芭蕉│芭蕉│杉風│   (名の記載なし)   │
  │虚栗 │詩あきんど│其角│芭蕉│芭蕉│其角│其角│芭蕉│其角│其角│芭蕉│
  │浅草 │磨なをす │芭蕉│桐葉│桐葉│芭蕉│芭蕉│桐葉│桐葉│芭蕉│桐葉
  │真蹟 │雁がねも │越人│芭蕉│芭蕉│芭蕉│芭蕉│芭蕉│越人│越人│芭蕉
  │夕顔歌│月見する │芭蕉│尚白│尚白│芭蕉│尚白│尚白│尚白│芭蕉│尚白
  │百囀 │鴬や   │芭蕉│支考│支考│芭蕉│芭蕉│芭蕉│支考│支考│支考│
  │炭俵 │梅が香に │芭蕉野坡│野坡│芭蕉│芭蕉│野坡│野坡│芭蕉│芭蕉
  │続寒菊│五人ぶち │野坡│芭蕉│芭蕉│芭蕉│芭蕉│野坡│野坡│芭蕉│執筆│
  │小文庫│新麦は  │山店│芭蕉│芭蕉│山店│山店│芭蕉│山店│山店│芭蕉│
  └───┴─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘

 ▼ 発句・脇の作者は、挙句を詠まない。
 △ 発句の作者及び亭主は、挙句を詠まない。


❸ 「元禄式 ㉑」に「挙句に発句の字せず」とあるが、字により許している。
  ┌発句  いろいろの名もむつかしやの草 洒堂 ※ひさご
  │初ウ12  生鯛あがる浦の哉      洒堂
  └挙句   は旅ともおもはざる旅    荷兮

 挙句は概ね春であるから「春」の字は許したようだ。

→「俳諧ガイド/発句作法/芭蕉の俳諧で確認したこと❹」参照。

 ▼ 挙句は、発句にある字を避ける。
 △ 挙句は、発句にある字を避ける。但し、「春」及び「てには」を除く。


❹ 芭蕉の俳諧ではありえない。挙句に、新たな景物を入れないのはたしなみの一つで、「直旨伝」に「今更事をもとめ、耳立やうの事を慎べきなり」とある通りである。しかし、季を伸ばすことはない。七部集名残の折、春4連続ならある。
  ┌名ウ2  つらつら一期聟の名もなし   荷兮 無季 ※春の日「蛙のみ」
  │名ウ3 我春の若水汲に晝起て      越人 若水:春(新年)
  │名ウ4  餅を食ひつゝいはふ君が代   且藁 餅・祝う:春(新年)
  │名ウ5 山は花所のこらず遊ぶ日に    冬文 花:晩春
  └挙句   くもらずてらず雲雀鳴也    荷兮 雲雀:三春

  ┌名ウ1 黄昏の門さまたげに薪分     荷兮 薪:三冬 ※曠野「美しき」
  │名ウ2  次第次第にあたゝかになる   冬文 暖か:三春
  │名ウ3 春の朝赤貝はきてありく兒    舟泉 赤貝:三春
  │名ウ4  顔見にもどる花の旅だち    松芳 花:晩春
  │名ウ5 きさらぎや曝をかひに夜をこめて 冬文 如月:仲春(晒し:三夏)
  └挙句   そら面白き山口の家      荷兮 無季

  ┌名ウ3 花のあと躑躅のかたがおもしろい 里圃 躑躅:晩春 ※続猿蓑「いきみ立」
  │名ウ4  寺のひけたる山際の春     馬莧 春:三春
  │名ウ5 冬よりはすくなうなりし池の鴨  沾圃 冬より:初春
  └挙句   一雨降てあたゝかな風     里圃 暖か:三春

 曠野「美しき」の巻は、5連続を避け雑句としていることで、6連続はありえないと分かる。
・ 春を三句で去ることが多い。
  ┌名ウ1 いがきして誰ともしらぬ人の像  荷兮 無季 ※冬の日「炭売の」
  │名ウ2  泥にこゝろのきよき芹の根   重五 芹:三春
  │名ウ3 粥すゝるあかつき花にかしこまり 野水 花:晩春
  │名ウ4  狩衣の下に鎧ふ春風      芭蕉 春風:三春
  │名ウ5 北のかたなくなく簾おしやりて  羽笠 簾:三夏
  └挙句   ねられぬ夢を責るむら雨    杜国 村雨:初夏 ※村雨単独は雑

  ┌名ウ1 元政の草の袂も破ぬべし     芭蕉 無季 ※冬の日「霜月や」
  │名ウ2  伏見木幡の鐘はなをうつ    荷兮 花:晩春
  │名ウ3 いろふかき男猫ひとつを捨かねて 杜国 恋猫:初春
  │名ウ4  春のしらすの雪はきをよぶ   重五 春:三春
  │名ウ5 水干を秀句の聖わかやかに    野水 無季
  └挙句   山茶花匂ふ笠のこがらし    羽笠 山茶花:初冬

 通常3句続きの春を2句で終えるより、雑・夏・冬の1,2句で終えたほうが収まりがよい。
・ なんと、尾張貞門末期、才麿と親交のあった東鷲編「小弓俳諧集」に春6連続があった。
  ┌名ウ1 世の中の左細工も長閑也     東鷲 長閑:三春 ※小弓俳諧集「五鬼前鬼」
  │名ウ2  恋の宗旨を替る出かはり    冬央 出替り:晩春
  │名ウ3 燕のかたい契は書ぬ文      如儂 燕:仲春
  │名ウ4  今やうとさへいへば正月    東鷲 正月:初春
  │名ウ5 その力花には笆のなかりけり   如儂 花:晩春 ※ませの
  └挙句   しらぬ顔して陽炎の中     冬央 陽炎:三春

 春3句あれば、挙句は雑・夏・冬でけりをつけたほうがよい。「季を延ばし」て春が六つ続くと、もっと春を付けたくなるのではないか。

→「貞享式海印録/秋季・春季、六続き異例」参照。

  挙句は、前句が春のときは、春が五句続いていても、必ず春を付ける。
 △ 春は、3~5句続ける。名残の裏も同じである。


❺ 「侘び・寂・撓り」の芭蕉俳諧はそうでないことが多く、「老・病・傷・死・殺生・暗・陰・貧・苦」などや「神祇」も詠む。
<「七部集」の挙句>
  廊下は藤のかげつたふ也  白髪いさむ越の独活苅    その望の日を我もおなじく
  寝られぬ夢を責るむら雨  山茶花匂ふ笠のこがらし   弟も兄も鳥とりにいく
  君のつとめに氷ふみわけ  くもらずてらず雲雀鳴也   大根きざみて干にいそがし
  ついたつくりに落る精進  そら面白き山口の家     人おひに行はるの川岸
  田楽きれてさくら淋しき  田にしをくふて腥き口    むしろ敷べき喚続の春
  ねぶりころべと雲雀鳴也  見渡すほどはみなつゝじ也  虻にさゝるゝ春の山中
  春は旅ともおもはざる旅  田の片隅に苗のとりさし   さゝらに狂ふ獅子の春風
  北野の馬場にもゆる陽炎  枇杷の古葉に木芽もえたつ  霞うごかぬ昼の眠たき
  春は三月曙のそら     雛の袂を染るはるかぜ    屏風のにみゆる菓子盆
  まだかびのこる正月の餅  余のくさなしに菫たんぽゝ  ちつとも風のふかぬ長閑さ
  輪炭のちりをはらふ春風  男まじりに蓬そろゆる    瀬がしらのぼる陽炎の水
  あら田の土のかはく陽炎  一雨降てあたゝかな風    鴨の油のまだぬけぬ春
  腰かけつみし藤棚の下

<元禄6・7年興行俳諧の挙句>
  かはらけ嗅き公家の振舞  唯よきほどにはるかぜぞ吹  巣をくふ鳥の人に怖ざる
  蛙の丈の見ゆる苗代    かづらの長き藤のはびこり  奈良はやつぱり八重桜かな
  声も賢なり雉子の勢ひ   百姓やすむ苗代の隙     はる風さらす谷の細布
  はや鎌倉の道の若草    若松うゆる天神の宮     田舎の谷になまる
  結び残りの句を慕ふ春   屏風の陰にみゆる菓子盆   かげろふ落る岩の細滝
  掃目のうへに色々の蝶   小船を廻す池の山吹     くれかゝる黒谷のみち
  足もとよりも雲雀あげたり 畳もにほふ棚の松茸     役者もやうの衣の薫
  いつつも春にしたき世の中 日がな一日鳥のさへづり   日ぐせになりし春のあめかぜ
  文に書かるゝ柳山ぶき   どちらへむくも空はのんどり つゝじの肥る赤土の岸
  米の調子のたるむ二月   柳にまじる土手の若松    春の日南に昼のしたゝめ
  岨のはづれを雉子移りゆく 上髭あつてあたゝかなかほ  柳のさし木みどりのび行


 ・ 「満尾を喜」ぶという「詠み手の心情」が入っては、一巻が台無しである。また、「目出度」い句など一つもない。

  挙句は、無常・述懐句は避け、満尾を悦び、目出度く詠む。
 △ 挙句は、ひたひたと付けてしまうのがよい。追悼・追善では、あえて祝言を用いる。


名残裏・挙句について

<蕉風の名残裏>

 ① あっさり、きっぱりと詠み、一巻を収める。

 ② 仰々しい言葉を避けるが、平淡過ぎぬよう配慮する。

 ③ 一座の興をそがぬよう、付けの工夫に時間を掛けないが、付けが大まかにならないよう留意する。

<蕉風の挙句>

 ④ 挙句は、「発句主・亭主(脇主ではない)」はしないが、例外もある。

 ⑤ 発句にある字(仮名書きは相当する漢字)を用いない。但し、「春」及び「てには」を除く。

 ⑥ 一座の興をそがぬよう、すぐに出す。必要があれば、後で付け直す。

芭蕉の伝
山中問答

名残の折
 名残の折は一巻の首尾なれば、その坐を屈せぬやうにすべし。匂ひの花・挙句にいたつて、高貴の人をまたせぬるは不礼也。
 俳諧は言語の遊びにして、信をもって交る道なり。妙句に一坐を屈しさせんよりは、麁句にその坐の興を調へよとなり。
 一巻の変化を第一にして滞らず、あたらしみを心懸べし。好句の古きより、悪き句の新しきを俳諧の第一とす。
 歌仙では、[名残の折]が[名残裏]に該当する。
直旨伝
花の句
 所以ある俳諧には、発句に心の通ふやうの名残の花有るべし。挙句も亦、自然と其こゝろばへなり
 例えば、客来て其日の事を述て先より、雑談時をうつし、帰る時に至りて、又其日の事を云事、礼を尽して罷帰るが如し。但、発句に同意にせよといふにはあらず。
 匂ひの花とは本式会に称すべし。常には名残の花といふべし。
直旨伝

名残の裏の事
<句作>  翁曰、名残の裏は句の事を捨て、いかにもすらすらと句作すべし。「不深切に、やり句するやうにせよ」とにはあらず。今更事をもとめ、耳立やうの事を慎べきなり。又、句並を追ふにも及ばず。
<古説>  揚句は付かぬやうにといふ古説も、一句に成て、一座退屈し、興醒るゆゑに、かくいふなり。又、兼て按じ置ともいへり。ものに著すべき俳諧などは、跡にて付直すべし。
<挙句主1>  揚句は発句の主、又は亭主のする所にあらず。始の一順の終に執筆の句なくば、執筆すべし。
<文字>  (挙句で)発句にある文字を用ひず
<挙句主2>  相伝は是の如くなりといへども、賀莚追善など曠の会には其座其巻の摸様によりて、発句主に名残の花を所望する事もあり。さる事あれば、揚句も亭主にさすることもあり。かやうの事は例にはなき事なり。
<挙句主3>  発句に発句の作者揚句せずといふは、句引して末に揚句の作者を書なり。句引とは巻末に誰何句と書。他は准てわきまふべし。
<挙句の花>  揚句の花、宗祇の神祇の巻にせられし事は、常には無きことなり。
師説録
折端等
 匂いの花、揚句にても、恋の句をする事くるしからず。かへつて祝儀なりと、翁の申されしにて、しるべし。
師説録
挙句
 揚句はひたひたと付て仕まふがよきなり。
海印録

挙句に始めて、景物を不出事
 伝に曰く。「挙句に初めて『神・釈・恋・無常・名所・他季』等の景物を出ださず」と云へり。さるは、後の会釈なくて興なき上に、「まだ、此の巻には何が出でず」と、求めたるごとく見えて、却つて拙き故也。
 さるに、近世、挙句に至りて、前に漏れし物を言ひしろひ、初めての景物を付くる人あり。例なき事也。但し、神祇は制の外にや。
[冬の日]述懐・名所 しら髪いさむ越のうど刈 荷兮 ※「はつ雪の」前句は鳥戦
[千鳥掛]神祇    御灯かゝぐる神垣の梅  執筆 ※「京までは」
[印の竿]神祇    馳走の雑者運ぶ神垣   鼓蟾 ※「あなむざんやな」
[ぶり俵]神祇    こゝに匂うて拝殿の梅  執筆

 此の外、釈・無常・名所・他季類の例は見当らず。
 按ずるに、こは古今通式なれども、神祗はめでたき物なれば、翁の了簡もて許されけむ。尤も、前三例は、翁の捌き也。
貞門の伝
俳諧埋木

名残裏の心得

  「 紹巴、言ふ。名残の裏などに、事がましき(仰々しい)詞など、ゆめゆめせぬ物なり。付句も、前句にひかれ、節立つ物にて候へば、付句にて、やすやすとやること、功者の心得なるべし。


  「 愚案ずるに、誹諧は、とにもかくにも、よく付たるを、もてはやし侍れば、名残の裏にても、たゞ、おほ付きならざらんやうに、たしなむべし。
 さすがに誹諧は、連歌よりも、ことひろき道にて侍るめれば、つけ侍らん手立ても、少なからぬにや。
 長頭丸も、さのみこそ、のたまひしか。さりとて、前句にせんなきことなど、一句を飾らんために、ことおほくたらんは、あやなきわざにこそ侍るべき。
 また、無文(むもん、表現が平淡な句)にて、あまりに、ぬるきやうならんも、聞き所なきものなれば、その程のさしはからひ、たゞその人の心得なるべし