貞享式海印録巻二 人倫 

貞享式海印録 巻二②



人倫人倫と人倫の運び人倫二去
人倫の噂    主  ・  誰  ・  身  ・  独  ・  媒 
人倫、異体、越嫌はず人倫越、仏・鬼・仙・天人類嫌はず
姿・情・用、何にも嫌はず人に一人、越嫌はず
一人に二人、二去人、音訓かはり、二去人、同訓、三去
父・母、言ひかへ、二去子、二去非人倫と人名、越嫌はず
異人名、二去同体古人名、面去官名・武名・仙・俗名、各折去
老・若、面去達・衆、面去誰・師・独・使、面去
己・我、五去男・女、音訓かはり五去男・女、同訓、面去
武・賤・稚、面去君・客、面去妻・娵・親・祖母、面去
雇人・奉公・坊主・弟子、折去同季、百韻二の物異支体、越、嫌はず
髭に髪、二去髪、面去手・口・目、三去
頭・尻・腹、面去顔・足、面去肌・裸・皺・腰、面去
身・心、三去気、三去洟に洟紙、五去
涙、夢、五去軽病、二去重病、面去
尿屎・雪隠類かはり、面去異述懐、越、嫌はず同体述懐、三去
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻二、人倫を見る。


貞享式海印録 巻二

人倫

 人倫と人倫の運びに、別ある事       ↑ トップへ

[古今抄]

 昔の俳諧も、今の俳諧も、打越の論の明かならぬは、姿情の二つの分らざる故也。

▲ 去嫌の総論也。蕉門には、姿情体用の別をもて、万法一理の法式を定めたるに、翁の在世にも、亦三億の衆生有りけむ。此、歎きあり。あゝ、作家労したり。

 夫が中にも、「人倫の運び」は、仮令、雨ふり風吹くといふとも、見るか聞くかの境より、「起居見聞の詞に就いて、人の様は多き筈なれば」、百韻は、百句ながら「人倫のはこび」ならずといふ事なし。元より人倫を二句去と定めたるは、「 」父母と云ひ、男女と云ひ、目立ち耳立ちたる文字の外は、或ひは自他の境に分ち、或ひは姿情の違ひを考へて、打越の付心と別ならば、「人倫の噂」は似通ふとも、一巻の配りは変じ易からむ。

▲ 「起居の文」原文は、「父母」の上「 」にあり。隔句文にて、初心に解しがたければ、かく入れ代へて記す。本文に人倫の運び、人の様、人倫の噂と云ふは、皆人事にて、二去の人倫ならず。今是を人倫、噂、姿、情、用、の五つに分ちて下に註す。

 此段の意(こころ)は、噂以下の人事は、仮令、似通うたる事にても、付肌の変あらば、打越を許せとの謂ひ也。

 然れば古抄の掟たる、主、誰、身、独、媒と云ふ類は、只人倫の噂にして、人倫とは定むべからず。此等に、法制の寛猛(かんもう)をしるべし。

▲ 此五類は、元より字書人倫門の属字なる故に、古式は人倫と定めたるを、蕉門には、総別軽重を論じて、仮に「噂」と号けて、人倫越を許したり。
 此のごとく法の寛なるは、前意を転ずる別法あるが故也。

     △ 人倫二去(証句略)

 父母・男女、此の四品は、人倫の凡例也。此類は、二句づつ去るべし。

▲ 此類とは親子・兄弟・娵聟・舅姑・祖父祖母・孫彦・伯父伯母・甥姪・妻妾等の、六親九族の文字也。是に僧名・俗名・現在に作る古人の名等を准ず。此准ずる物の中には、越を嫌はざる物もあれば、証例にて見よ。蕉門に、人倫二去と云ふは、古式に效はず(ならわず)。句面に人の働きの、有無に拘はらず、只類字を嫌ふのみぞ。さるは、六親九族の字類は、互ひに目立ち、耳たつ故也。

     △ 人倫の噂、越を嫌はず。

 主・誰・身・独・媒、此五品は人倫の噂也。指合をくるべからず。

▲ こは、古式の文句を借りて、蕉門にては、此類は、「噂」と号けて越を嫌はずと云ふことを、手近に述べたる文也。
 此文、簡古なる故に、古来只此五字のみ人倫とせぬ事と心得違ひ、此五字に数千の名類を含みたる事をしらで、七部の註者も、爰は人倫越などゝ註して、自らも昔の付句を怪しめり。
 今、是を解し、其部を分て証句をあつ。人々百年の迷雲を払ひて、明かに察せよ。
 ・ 「主」とは、物を主どる(つかさどる)人の例に上たる一字也。
 君・関白・納言・頭・介等の官名、僧の官名、大名・奉行・代官の類、神主・坊主・名主・何主の類。又、帝・仙洞・新院・春宮・宮方・公家方・殿・御簾中・御台・局・奥様・内室・後家・方丈・住持・西堂・納所・隠居・座頭・庄屋等の居所名の物。又熊谷・塩冶等の姓名、並びに古人名等也。
 ・ 「誰」とは、男女を分たず、弘く他をさす例字也。
 翁・老・若・僧・尼・人・相人・遊人・何人の類。客・友・仲間・連衆・連・同士・近付・道心・乗合・旦那・あなた・先生・貴公・慰々・恋君・民・百姓・賤奴・丁稚・敵・味方・汝・其許・足下等の類也。
 ・ 「身」とは、自らをさす例字也。
 我・己・某・私・拙者・手前・自身共・此方等の類也。影法師も、此中に入る。
 ・ 「独」とは、人数をさす例字也。
 一人・二人・幾人・何騎・軍・多勢・群集・屯・余・衆生等の類也。
 ・ 「媒」とは、態芸もて号くる名の例字也。
 仏師・医師・画師・何師の類。酒好・餅好・何好の類。糸売、綿売類。関取・草取の類。槍持・沓持の類。曲者・馬鹿者の類。大工・木挽・左官・石切・日用、諸職名。碁打・三絃弾・万歳・大黒舞、諸島者の類。六部・順礼・道心・遊行・何参・後生願の類。宮司・社務・祢宜の類。武士・侍・小姓・供奉・出代・新参・手代・番頭・腰元の類。使・飛脚・懸乞・水汲・田打・駕舁・六尺の類。上手・下手・上戸・下戸・猿引・馬士の類。大力・英勇・阿房の類。 何番・何守の類。傾城・太鼓持、遣手の類。
 推して知れかし。此類、証句多けれども、一例づつ挙ぐ。


 ○印は人倫。●印は噂、句頭に書くも噂也。

[古今抄]

 天童・天女・帝・仙洞・新院・鬼・仏、此類古式に色々の説あれども、人倫には二句づつ去るべき也。

 △ こは上文とも自語相違なれば、支考捌き巻◆の例を示す。

[印]

    君│ 長生は殊更君の思深き      北枝
     │  賤が袴はやるゝともなき     曽良
     │ 初花は万歳帰る時なれや     翁

◆[桃]

    君│君が代は袋も持たず風の神     童平
     │  御文に残る事はおじやらぬ    里紅
     │ 鼻ひれば嫁も機嫌を取りに来て  梅因

[拾]

     │ 晴るゝ日は石の井撫づる天少女  清風
     │  艶なる窓に法花よむ声      翁
     │ 勅に来て六位泪に彳みし     素英

[印]

    官┌ 守の館にて笙かりて吹く     享子
     │ 十重廿重花の陰なる昼の庭     鼓蟾
     └  抜菜一荷を分くる里人     翁

[みの]

    官│判官のえぼしほしとや思ふらん   土芳
     │  木ばた辺りの雪の夕暮      風麦 ※木幡
     │ 売庵を見せむと人の導きて    翁

[類]
五十韻

名ウ2  ┌  誰が子の太刀をかへす石尊   格士 格枝
  3  │ 宵廻り伏屋に生ふる名のうさも   風葉
  4 官└ 兵部卿とはうたかたの粕     艶士

[桃]

    官┌  口では覚えにくい治部卿    里紅
     │ うは言も尾のある様な瘧也     退々
     └  むしろ屏風に老の挽臼     葵明 

[炭]

     │ 初午に女房の親子振廻うて   翁  
     │  又此はるもすまぬ浪人     野坡 
   僧官│法印の湯治を送る花盛       翁

[白扇]

     │ 春雨の古みに落ちぬなら茶好   范孚
     │  あのふり袖に咄こそあれ     吾仲
   大名│ 一宿で五百つかへばお大名    去来

[文月]

     │ きせるにも小指をそらす甥の来て 六之
     │  麦秋なればうたに諷はれ     野航
   奉行│ 此公事は捌く奉行もにこにこと  東羽 

[浪化]

     │西行の歌は村雨三日の月      八紫
     │  木曽の酢茎に偖は新そば     牧童
   代官│代官の秋をいかにと宜まへば    支考

[一橋]

   神主│神主の水くむ真間の宮処      立志
     │  上着しるべに死がい尋ぬる    清風
     │母親の利口あと先しどけなし    立志

[難]

     ┌  東近江に聟をたづぬる     山隣
     │ 雨乞を神も咎めず笠踊       曽及
   坊主└  月よのかげは皆坊主也     素然

[ひな]
[袖草紙]

   亭主│ 月の宿亭主盃持出でよ      翁
     │  朽ちたる舟の底作りけり     杏沓
     │唐人のしれぬ詞に黙きて      千川 
※うなづきて

[茶]

    院┌ 院も白髪を佗び玉ひけり     桃後
     │ 和かに鶴鳴更かす夜の月      雪丸
     └  須磨の砧は下手で持つたぞ   翁

◆[しし]

     ┌  神より祢宜のさび渡るらむ   桃風
     │ あし引の山家なればととろゝ汁   半睡
    院└  花山の院も旅はわらんぢ    山隣

[続花]

    宮┌  布せはいただく大塔の宮    岷雫
     │ 炭がまの烟から日のくるる色    車葉
     └  馬にも干物花聟の花      敬由

[蓬]

   公家┌ 公家に宿かす竹の中道      翁
     │ 月くもる雪のよ桐の下駄すげて   叩端
     └  酒のむ姨のいかに久しき    桐葉

[山カタ]

     │ 豆種をよれる娘の叱られて    野航
     │ 寺参りではなうて田廻り    白狂
    殿│ 御替の殿は御慈悲なさたのあり  六之

[笠]

     │老僧の連にいつもの将木さし   童平
     │  明けて見たればそば粉ではなし  里紅
   庄屋│庄屋迄節用集を借りにやり     米花

[黄山]

     ┌ 大工の長さ春の短さ       蓮二
     │出代もあれの是のと置きはぐれ   里紅
   後家└  鎰を提げたる後家の憎さよ   童平

[桃]

     │ 日は軒に若代の朝ね叱られて   琴舟
     │  どこの使か顔も覚えず     里月
   後住│ 名月の芋に後住も居馴まれ    里紅

[桃]

   隠居┌ 隠居は隙な麦の秋中       潜之
     │ 物読の鐘を昼かと聞違へ      藤関
     └  橋のふしんに黒む御奉行    管五

[類]

     │兄の長二寸伸びなばひたち帯    仙芝
     │  褌をせぬ時代かしこき      秋色
     └ 針店に〓いつからぞ        済通

[鶴]
百韻

     ┌  つれなき聖野に笈を解く    枳風
     │人あまた年取物をかつぎ行く    楊水
    姓└  酒もりいさむ金山が洞     朱絃 
※盗賊、金山八朗衛門

[枯]

    姓│ 手分けして赤飯配る大井殿    集加 ※信濃佐久の大井氏
     │  をかしくあたる百姓の弓    其角
     │ 日の色に心定むる鐘楼守     轍士

[鵆]

    古┌  露寒げ也義経の像       菐言
     │ 白絹に萩と葱をおり込んで     如風
     └ 院の曹子に炷物を乞ふ     知足

[雪白]

    古┌ 楊貴妃からが柳風ろとは     倚菊 ※集「柳風呂」
     │ 白々と音せず雪の白々と      一庸
     └ 嫁入ねり出すはしの欄干     二川 ※よめり

[古今抄]

 僧。古式に人倫ならずといへども、指合をくるべき也。

▲ 僧は仏者の総名にて、人の字に類すれば、噂なる事は知りつゝ、古式を拒めむとして過つたり。下に支考の証をひく。さらば、僧名も噂とすべきを、人倫に類せしは空海、慈覚と云ふ時は、耳立ちて聞ゆる故也。

[西花]

    誰│ 姥捨のうたには誰も袖ぬれて  支考
     │  白髪ばかりの庵の酒もり    雲鈴
     │ 見違へる隣のかめが嫁り前  一介

[桃]

    翁┌ 翁の鹿のぴいと尻声      韋吹
     │ 此中へ新そば二升ほしがりて   里紅
     └ 聟のいびきをのぞくお袋   岩芝

[さる]

    老│ 魚の骨しはぶる迄の老を見て  翁
     │ 待人入りし小御門の鎰     去来 ※かぎ
     │ 立ちかゝり屏風を倒す女子ども 凡兆

[二見]

     │男なき妹が簾を守りかねて   路通
     │  泪火桶に洟紙をほす      翁
    老│老ぬれば針のみゝずの背きける  友五

[やへ]

     ┌ 殿の玉はる女房にそふ    好春
     │ 嘘をつくたいこ持には嘘つきて 示右
   長老└ 旦那揃ひのひろき長老    和及 

[別座]

     │ 住うくて住持こたへぬ破れ寺  子珊
     │  とうとうとなる浜風の音    杉風
    若│若党に羽おり脱がせて仮枕    桃隣

◆[つくも]

     │ 隠してはおれども聟は角力取 里紅
     │  隙な大工の来ては追従    岩芝 
    尼│尼寺の花に短尺付けたげな    山蜂

[たそ]

  人ヒト┌  木履の後の人の静さ     夏由
     │ 返事せぬ節句を門にめでたがり  山隣
     └ 子供よせても一芝居なる    素然

[鶴]

   人ト│囚人を頓て休むる朝月夜     コ斎
     │  萩さし出す長が連合     不卜 ※集「つれあひ」
     │ 問し時露と禿に名を付けて   似春 ※伊勢物語6

[笠]

     │ 一薬罐かへて和尚の長咄    諷山
     │  書付けておくみその寝かげん  葉柳
   人ト│ 田を植ゑる時は雇人さし合うて 箕由

[ひな]
[袖草紙]

   人テ┌ 追人も連にさそふ参宮    曽良
     │ 丸ごしに捨て中々くらしよき   残香
     └  物の訳しる母の尊さ     木因

[一橋]

   人テ│ 既にたつ討人の使いかめしき 曽良
     │  一夜の契り銭かづけたる    翁
     │ 松明に顔見むといふ君は誰  其角

[桃]

   人テ│ 不拍子な相人に砧さびしかり  里紅
     │  都の秋をよそに尼達     和荊
     │ 菓子やりて膝になつくる子供衆 酔菊

[初茄]

   人テ│遊人の小春は夜を昼なれや    十知
     │  枯野に灯捨てし残月      呉天
     │西行は笠嫌ひやら手にさげて   風草

[浪化]

     │ 江戸鑑又誰やらが取出して   柳士
     │  尋ぬる箱の見えぬふろ棚    そ桃
  人ニン│町人の武士と出合ふは難しく  逸正

[翁]

     ┌  ことしは下女をいなす分別  魯可
     │ 遅き日に出てしやくりの止りかね 沾圃
     └ 客のなければねてくらす也   嵐竹

[雑]

    友┌  湯屋の休みをしらす友達   芒風
     │ 日待よりけふ其のままの神詣   岩翁
     └  果報のつくを老の身の幸   未伯

[餅搗]

     ┌  柿にふらふら客の木上り   佳峰
     │ 天台の梺の秋は一乗寺      乙孝
  各・輩└ 各はなの太き輩       麗羊

[みかむ]

     │母方に離れて月の物さびし    雪芝
     │  鼠のこもる巻稿の中      卓袋
   朋輩│朋輩の髪を結ひあふつゆの雨   猿雖

[水仙]

   仲間┌ 仲間で猜む坊の殊勝さ    杏雨
     │ 六月もしたつく山の薄しめり   青猪
     └  火串せぬ夜は妹と麦打つ   野坡

[笠]

     ┌ 阿房はこしをかけて長ぐひ   連支
     │ 物前のるすは内儀の気訯ひ   里紅
 連・同士└  湯治の連も中のよい同士  諷山

[六行]

     │ 脱つ着つ○母の公義の一つ物   胡洞
     │  節季は止めに縁の言懸け    以全
    衆│ 江戸立と加増の衆を聞合せ   諷沙

[袋]

    僧┌  秋をしる身と物よみし僧   等躬
     │ 更る程壁突破る鹿の角      曽良
    伽└  島のお伽の泣きふする月   翁

[さみ]

     │聟殿とよぶ新しい所帯持     銀桂
     │  論語にもない版の上置     可哉
   近付│ 精進も近付ぶりに思ひ出し   一宇

[笠]

     ┌  せはしい秋に孫の初産    童平
     │ 頭から先へ新酒の酔うて来る   連支
   旦那└  けふの旦那はほめぬ駕舁  蓮二

◆[三顔]

   何某│ 夕顔や何某の院も裏借家   岷青 ※院は
     │  焦がしたる扇遣ふ蚊遣火    朝四 ※集「こがしたる」
     │ 生立もかしこい甥に慰みて   里紅

[三匹]

   歴々┌  醍醐あたりはひよつと歴々  芦本
     │ 猫の子を貰ひに文の書きちらし  季覧
     └  小ぬかのかかる嫁々の笄   杜草 ※かかのこうがい

[其袋]

     ┌ 親しらずとて旅に泣くめる   舟竹
     │人の垢夜々かはる一夜妻    嵐雪
   恋君└  目疣をさすれ君が鬢櫛    秀和

[しし]

    民┌  茶筌の雨も民の潤ひ     普及
     │ 御手づから菓子下さるゝ爺と婆 観水 ※じじとばば
     └  美しい子に赤き着る物    泝青 そせい

[印]

   百姓┌  本家の早苗もらふ百姓    翁
     │ 朝の月囲車に赤子をゆすり捨て 亨子
    敵└  討てぬ敵の画図はうき秋   鼓蟾 ※集「絵図」

[五色]

名オ2  ┌  貸座敷へも合点する君    宗瑞
     │ さなくても瘧震ひの恋衣     素丸
   丁稚└  蛇さへ見れば寺の小丁稚   蓮之

[五色]

名オ1  │ 若衆火燧の傍へ寄付かず   蓮之
     │  天下太平穀潰すふえ      咫尺 ※集「穀つぶし殖(ふえ)」
    奴│ 吹矢筒たえて奴のなかりせば  長水

   
[文月]

初ウ10  ┌  尻も結ばぬ伯母の言伝    水胡
     │ かまはずにおけば瘧も独り落ち  槐二
    己└  猫と己とがるすの飯次    江北 
※集「猫とおれとに」

[炭]

     │ 同じ事老の咄のあくどくて   桃隣
     │  欺されて又薪部屋に待つ    野坡
    我│ よい様に我手で算を置いて見る 利牛

[炭]

   手前│手前者の独りも見えぬ浦の秋  野坡
     │  めつたに風のはやる盆過ぎ   利合
     │ 宵々の月をかこちて旅大工   依々

[天河]

    影│影ぼしも笠きてしれぬひち曲り  亀来
     │  夜更のかねの空に乱るゝ    唯人
     │唐人の供も何やら唱へ言     山朴

[初茄]

    独┌  赦免にもれて独り見る月   翁
     │ きぬぎぬは夜なべも同じ寺の鐘  呂丸
     └ 宿の女の妬き物かげ      曽良

[雑]

   幾人┌ 幾人顔をはらす懸乞      普船
     │ 闇の夜は路次の狭きに咳払ひ   仙化
     └ 子は杖になる老の小便    其角

[しし]

    媒┌ 仲人に聞くにちりめんもぬふ  半睡
     │ 十夜には恋と無常の寺参り   里兄
     └ 御町奉行の名さへ伊達殿   若推

[文月]

初ウ5  │勘介に明日の軍を囁けば     杞音
     │ 十人前に余る冷めし      帰的
   何師│ 金屏に御師の不便を紛らかし  里紅 
※集「まきるかし」

[拾]

     ┌  身の売代を子に残しゆく   友五
     │ 泣顔を隠す畑の忘れ水      夕菊
   何師└  奈良にも恥ぢぬ脇師なるらむ 曽良 
※能のワキ役者

[笠]

   何師│ 紙帳から顔出す塗師の咄好  白狂
     │  茶碗を添へて盆に小薬罐    東羽
     │ 猫の子に娘の袖をあぶながり  野航

[枯]

   何師│ 在処から医師の普請を取持ちて 臥高
     │  片町出かす畑新田       元道
     │鳥さしの仕合わろき暮の空    去来

[俳]

   何好│餅好の友をほしがる春の雨   丈草
     │ 我が小力に〆る巻わら     惟然
     │ 物申は誰ぞと窓に顔出して   去来

[初茄]

     │ 茸狩の袂かぎあふ姉妹     丈草
     │  寺領にはちと過ぎた百姓   李夕
   何好│ 上方で目が肥えたやらふしん好 呉天

[百歌仙]

     │ 此事が叶うた上の娵にせむ   葉文
     │  道具もなうて夜食振廻     天垂
   何好│踊好丸う成つたり崩れたり    葉文

[歌]

     │ 後呼の女房の角に母の角   百陀
     │  幟節句の向うまで来る     以之
   何売│飴売も太鼓のないは嘘らしい   麦士

[笠]

     │娘より供を馳走の親心    箕由
     │  雨にはあかで浄るりにあく   蓮二
   何売│糸売に花の都も気のつまり    広山

[錦]

   何取│ 生きて世に取後れたる老角力  其角
     │  もと吉原の情かたらむ     嵐雪
     │ 花鳥に夫婦出たつ花盛     其角

[炭]

     ┌  分けにならるる娵の仕合   利牛
     │ はんなりと細工に染むる紅欝金  桃隣
   何持└ 槍持ばかり戻る夕月      野坡

[笠]

   何者│ 長居しておじやる月見は胡散者 荷丁
     │  咄にとれて砧とぎるる     童平
     │出代に小のの小町はない筈ぢや 蓮二

[天河]

     │ 九代目の名主に立ちて秋の風  麦士
     │  今度の娵も葛城の神     以之
   医者│医者殿の嘘も頭の兀かかり    巴静

[笠]

     │ るすにさへなれば姑の謗り言  童平
     │  雇はれぬ日も湯に入りに来る  連支
   大工│ 屋根を先づ塞げば大工へらす也 蓮二

[梅十]

     │ 二三反親の代から作り取り   里人
     │  呼ばるる日にもかたい精進   蓮二
   木挽│ 平生も木挽の膝のくせにこそ  羽嵇

[四幅]

  屋根師│屋根茨のけふは爰から庭を見る  東吾
     │  嘘つきばかり皆揃うたり    栞舟
     │禿迄一歩にきつと畏まり     紀白

[炭]

   日用│ 朝霧に日雇揃ふる貝吹いて   孤屋
     │  月の隠るる四扉の門      其角
     │祖父が手の火桶も落す斗り也   其角

[桃]

     ┌ 角力ひいきの神も立方     松波
     │ 温めて薬罐くさがる濁り酒    雨汀
   手伝└  鑿潰さるる邪魔な手伝    芳水

[壬]

   何掘│ 大内に井戸掘をめす秋のくれ  一桐
     │  地震に転ぶ松の下露      乍木
     │ 有明に母の里より文をこし   百歳

[白扇]

     │ 川一つ隔てて武士に入交り   吏全
     │  何につけても例の慇懃     元士
   碁打│ 雨ふりをさて幸ひと碁打連   荻人

[三日]

     │ 山雀の鵙のと言うて子供達   芝船
     │ 納所の瘤を見てをかしがる   除風
  将木指│ 詰めてゐる物を笑止な将棋指  林角

[ひな]

   万歳│万歳の姿ばかりはいかめしく   木因
     │  村はづれ迄犬に追はるる    斜嶺
     │ 咄きく行脚の道の面白や    此筋 ※行脚は人?

[難]

     │ 金持つた甥の異見は花咲いて  風曲
     │  節は近江で仕廻ふ献立     野棠
   大黒│ 叱られて大黒舞の拍子ぬけ   蘇守

[枯]

     │ 生るるや声も慥かに男の子   其角
     │  取りちらしたる朝夕の酒    風国
  節季候│節季候の年程有て拍子ぬけ    横几

[梅十]

   六部┌ 六部の宿をかさぬ所也     梨雪
     │ 聖霊に于鰯かがする浜の月    蓮二
     └ 唐人うたの踊をかしき     泊楓

[むつ]

   順礼│ 露草に影もねてゐる順礼等   沾荷
     │  かち歩の役に当る月の夜    鬼谷
     │忍夫是に忍べと古皮篭      芳津 ※しのびづま

[夕顔]

初ウ7遊行┌ 遊行に負けぬ砂運びども    円入 ※「砂運び」も
  8  │ 月は今残りて谷の松桧      利角 ※集「月は今朝」
  9  └  いぬる伯父御に尻の穂薄   宰陀

[行脚]

   道心┌  葛輪の秋に葛葉道心     牛潮 ※くずわ:地名
     │ 瓢たんに任せて垣は荒れ次第   五桐
     └  唐画の様に子供連立つ    凉菟

[桃]

   何参┌ 薬師参の傘に夕ばれ      里紅
     │ 花けしの咲きこぼれたる畑道   千桴
     └  犬も見知りてなかぬ畚振   鯉計 ※ふごふり

[梅十]

  後生願┌ 後生願といへば否がる     羽嵇
     │ 瓜畠の番の代りに朝の月     泊楓
     └  銭がよいとてのする駕舁   有琴

[梅十]

   祢宜┌  社領で歌もよめる祢宜殿   七雨
     │ 文書いて絹の仕きせも勤めから  蓮二
     └  年忌にはよぶ祖母の友達   羽嵇

[むつ]

     │養子聟一日二日物思ひ      氷花
     │  髪の結目のかゆき姿見     仙化
   武士│ 駕を縁迄上ぐる武士めかし   介我 ※のりものを

[なむ]
百韻

二オ3 侍│ どことても侍衆の神以     過角 ※集「神ン以」
  4  │  猿にをられてをしむ筍     石人
  5  │ あのぢゞはとにも角にも娑婆塞 許舟 ※集「娑婆ふさげ」

[枯]
百韻

三ウ2腰元┌ 腰元が尻たたく飼猿      岩翁
  3  │ おもはゆきつき蝋燭の立兼ねて  轍士 ※つき:秉、秉払なら人
  4  └ 遊行の前にならぶ十念     集加 ※十念も人?

[歌]

   奉公┌  直に此季もお側奉公     里紅
     │ 草にさへいつまで草と聞からに  冠那
     └ 聟は言ひたい事もひかふる   左角

[梅十]

     │相客の障子一重に灯の明り    梨雪
     │ 伽した後のうつかりとなる   羽嵇
   出代│出代も馴染の花の咲揃ひ     呂杯

[むつ]

   薮入┌ 薮入に出る若輩な髭     介我
     │ 見懸より鉄砲雉は手軽くて    桃隣
     └ 子供の鳴の聞ゆ平城      東潮

[天河]

    使│ 戻りにというた使の未見えず  連支
     │  節句をよそに麦のうら町    三伍
     │伯母ながら姑なれば気の置かれ 有琴

[桃]

   飛脚┌ 飛脚にまめな顔見せてやる   山流
     │ 奈良懸けて浪花へ後の十三夜   虚白
     └ 翁の鹿のぴいと尻声      韋吹

[ひな]

     │ 日盛りは孫に吸筒提げさせて  濁子
     │ 和田秩父とも独り若党    涼葉
   懸乞│懸乞の来ては詞をあらしける   翁

[三日月]
長歌行

名オ4水汲┌ 水汲が来てしるる飯時     呉天 ※集「知れる」
  5  │ 尤もな異見にさする膝頭     友松 ※集「意見に」
  6  └ 団三郎は丸ねしてゐる     李夕

[雨法会]

     │ 化粧からけふは見かふる娵の花 六芝
     │  彼岸の笠の夕薬師迄      胡洒
   田打│ 言伝は田打に届く片便宜    乍才 ※かたびんぎ:片便り

[続花]

初ウ2  ┌  けふは女房が気をかへた髪  木十 ※集「女房の」
  3  │ 物前の廓のすががきやりはなし  鳥道 ※やり:遣り手
 4 六尺└ 足の揃はぬ医者の六尺    柴翁 ※六尺:下男・駕篭かき

[山カタ]

     │ 行灯に縁から娵を見送らせ   東羽
     │  くもりてゐても厄空の中    栗几
   駕舁│駕舁もかへぬ合点の相詞     右範

[俳]

   上手┌  いつ作つても詩は上手也   支考
     │女房に只笑はれぬ覚悟して    丹野
     └  尻はれ武士の二ばん生えとも 土竜

[たそ]

   下手┌  豆ふは普下手と聞ゆこる   野航
     │ 湯の山の出る日はぢゞの機嫌也 東羽
     └ うばがいびきの我身ながらも 六之

[深川]

名オ9上戸│ 付合は皆上戸にて呑明かし   嵐蘭
  10  │  さらりさらりとあられふる也  岱水
  11  │ 駕で和尚は礼にあるかるる   洒堂

[秋]

   下戸┌ 下戸を憎める雪の夜の亭   荷兮
     │ 早咲の梅を我が身にたとへたり 翁
     └  嫁りせぬ娘の眉かかでゐる  鼠弾

[炭]

     ┌  又さたなしに娘よろこぶ   野坡
     │ どたくたと大晦日も四つのかね  孤屋
   無筆└ 無筆の好む状のあと先     利牛

[続の原]

     │ 蛼に年へて妻の髪かはり    松涛
     │  囚獄あく日は盆の黄昏     才丸
   乞食│乞食ども世は物たらぬ月の陰   挙白

[其袋]

初ウ2  ┌  頭数なる鎌倉の〓       立吟
  3  │ 仙台の米続き来る恒の産     嵐雪 ※集「つづけくる」
  4  └  近き雲居は禅の魂      立吟 
※雲居:松島瑞巌寺中興の僧

[深川]

名オ7馬士│馬士をまつ恋つらき井戸の端   洒堂 ※集「馬方を」
  8  │  月夜の髪を洗ふもみ出し    許六 ※集「月夜に」
  9  │ 火灯して砧あてがふ子供達   翁  ※集「火とぼして」

[雑]

初ウ8  ┌  神田祭りに出す兄弟     其角
  9  │ 月にしる利屋鞘師の頭付    普船 ※とぎや。あたまつき
 10 何番└  所帯もへたる裏門の番    仙化

[桃]

   何番┌  どの御番衆か馬ふれてくる  達水
     │ 木戸一重中に祭りの立別れ    里風
     └ 聟の心のとかく煉酒      路角

[庵記]

     ┌  尾端に取るる女子衆の中   斗旭
     │ 歯をみがく揚枝の先の時鳥    任節
   何番└  昨日の花見けふのるすばん  露川

[壬]

名オ9何守│ 稲妻に舟こぎ習ふ渡守     村鼓
  10  │  露にけさばや着物の紋     百歳 ※きるものの
  11  │子供等が伝ふる家を争うて    翁

    

△ 人倫の字、異体に用いては、越嫌はず。       ↑ トップへ

[行脚]

     │姫松の住よし詣十三夜      任行
     │  舟からそよぐ岸の萩のは    蒲道
     │姥鴫の人を泣かせて我れも鳴き  凉菟

△ 人倫越に、仏・鬼・仙・天人類、嫌はず。       ↑ トップへ

[古今抄]

 昔より、旧式にも部類を定めかねし、仏と鬼の打越には、仮令人倫ならずとも、人倫の様は嫌ふべき也。

▲ 人倫越に人倫、噂だに嫌はず。況んや世界異なる鬼・天女・仙人の類を、争でか嫌ふべけむ。
 仏弟子のごときは、常の人なれども、古人と釈部に入る故に、人倫とせず。
 古今抄には、いかなる了簡もて書きけむ。◆支考の付句にても、嫌はざる事しるし。

[さいつ比]
[袖草子]

     │ みつわくむ老の姿も志賀の介  翁 ※集「三つ輪、志賀之助」、初代横綱
     │  まだけまだけと戸をたゝく風ろ 立圃
    仏│布袋とは弥勒菩薩の化身也   翁

[冬団]

     ┌ 妾が号けしひよこなく也    安信
     │ 木綿はた果てぬ涙にぬらしけり  如風
    仏└  訪はむ仏の其日近づく    知足

[ひさご]

     ┌  李もつ子の皆裸むし     越人
     │ 珍しやまゆにる也と立止まり   荷兮
    仏└ 文殊のちゑも槃特がぐち   越人

◆[笠]

     ┌ 娘は裏の口でせんたく     蓮二
祖母の事↓│ 懸乞も尻つぼらぬは隙さうな   里紅
    鬼└ 鬼はるすかと棚さがしする   連支

[山中]

    鬼┌  今のうき世に鬼は御ざらぬ  凉菟
悪人の事↑│ 送られて送り戻せば明けわたり  昨嚢
     └  あの男には若い母親    琴之

[つばめ]

    仙┌ 細長き仙女が姿たをやかに   翁
     │  茜をしほる水の白波      翁
     └仲綱が宇治の網代と打眺め    北枝

△ 姿・情・用の三、何にも嫌はず。       ↑ トップへ

 「姿」とは、支体門の字類也。五体中の名処、及び病名等も此部に入る。下に証句あり。
 「情」とは、心に思ふ事の詞をいふ。言語門の字類也。証句は以下、異述懐、越嫌はざる所にあり。
 「用」とは、態芸をいふ。貴賤・男女・僧俗の行ひをいふ。詞は、皆々用にて、言語門の字類也。
 右三類は、多用なれば、百韻百句ながらに続きても、去嫌の論なし。
 今、初心のために、半歌仙に相印す。
 人  人倫。人名。
 ウ  人倫噂
 ス  すがた
 忄  
 用  態芸
 一行に、二三筋あるは、上より次第す。

[冬]
狂句の巻
前半18句

 ス人   凩の竹斎に似たる哉
 ウ     ぞやとばしる笠のさゞん花
 ウ用   有明の主水に酒屋造らせて
       頭の露をふるふ赤馬     生
      朝せんの細り薄の匂ひなき   植
 用     日のちりぢりに野にかる
 ウ    庵は鷺に宿かすあたりにて
 ス用ス   生す間を思ふ の程
 忄ス用  偽りのつらし絞り捨て
 用     消ぬそとばにすごすごとなく
 ウ用   影法の暁寒く火を焚いて
 ウ     あるじは貧にたへしから家
 ウ古   田中なる小万が柳落つる頃
 用ウス   霧に舟ひく ちんば
 用    黄昏を横に眺むる月細し
 用     隣さかしき町におりゐる
 ウ用   二の尼に近衛の花の盛きく
 ス用    蝶は葎にとばかり かむ

 右一折の中、人事なき句は、只二句也。
 凡そ、歌仙に人倫、十より多きはなし。

 さて、昔、獅子門下の五竹、人事二去の新制をはじむ。鳳尾園(※東為坊、五竹門)、是を難じける其の陳に、「初心に三変を教ふる方便に、仮に設けし由」の返書あり。其の弊、既に定式となり、彼の一派には、「見る・きく」と云ふ用も、「見ゆ・聞ゆ」と云ふ情も、皆人倫と思へり。そは倫の字の義の不明なる故也。又、諸門にも、噂と人倫を打混じたり。
 是、皆、翁を師とせざる弊也。

△ 人に一人、越嫌はず。       ↑ トップへ

[類]

     │鶏の鶉なくかも一人かも      堤亭
     │ 鳰てる月の大般若かゆ      其角
     │足の毛を人むしれども関はなし   潘川

[文月]

     │雇人のかゝも出代る心やら     台太
     │ 尻も結ばぬをばの言伝      水胡
     │かまはずにおけば瘧も一人落ち   槐二

△ 一人に二人、二去。       ↑ トップへ

[七さみ]

初ウ11  │花に一人只人ならぬ御目元     里冬 ※集「花に独(り)」
     ├─二
名オ2  └ 二人静の俤にたつ        宇中

△ 人、音訓かはり、二去。       ↑ トップへ

[砥]

名オ9にん│村切に役の人足詰めさせて     呂風 ※集「封切に」
     │ 二
名オ12ひと└ 薮をはなれず人近な雉      林紅

[夏衣]

     ┌ 鴉は歌をよむ人を笑ふ      南木
     │
     │降人となる魂の九寸五分      南木

△ 人、同訓、三去。(歌仙に四五)㋬       ↑ トップへ

[拾]
夕顔や

初オ4  ┌ 馬の廻りは皆手人也       野明 (鳳仭の名)
     ├─ 三
初ウ2  └ ほたゆる牛も人にからるる    翁

[拾]

     │菰ばかり身にまく人を見知兼ね   丈草
     │
     │花さくを旅すく人もなかりけり   去来

[浪化]

     ┌ 人の噂は空の身の上       丈紅
     │
     └ 人まつ程に退屈はなし      先之

[深川]

     │擌揚げて水田も暮るゝ人の声    野水 ※はが=小鳥わな
     │
     │米五升人がくれたら花見せむ    嵐蘭

[三日]

     ┌ 金ほしがるも人は尤も      除風
     │
     └ たとへば人を駒鳥の声      支考

[新百]

     ┌ 夜寒になつて人も恋しき     水甫
     │
     └ きく人ありとびはをさし置く   仄止

[本朝]

     ┌ 負はれて来ねばならぬ老人    左把
    音│
     └ どちへもつかず今に客人     百朶

[白ダラ]

     │此橋で月夜をほむる人通り     北枝
    ㋬│ 二
     └ 一里出て寝りやけさは旅人    万子

[山カタ]

     ┌ 談義の僧は越前の人       馬岐
     │ 二
     │小袖着た人はしらみも恐入     馬岐

[其袋]

     │人の垢よるよるかはる一夜妻    嵐雪
     │ 三
     │硯石くぼしと人に見られては    秀和
     │ 四
     │ けふぞから人天穿のはれ     嵐雪
     ├─ 三
     │ この手かしはの人みしりして   秀和
     ├─ 九
     └ ならはしのうたを人のよの中   舟竹

△ 父・母、言ひかへ、二去。       ↑ トップへ

[桃]
短歌行

名オ2  ┌ さし合ひな事言ひて伯母様    夏橋
     ├─ 三 │ 三
名オ6  │ 桃色にくむ乳母が衿裏      一酉
     ├─二
名ウ2  │息子より母親の気の轡むし     一庸

△ 子、二去(古へは面去)       ↑ トップへ

[奥栞]

     ┌ 秋は子供に任せたる秋      不撤
     ├─
     │稚子の這来る道を片付けて     不玉
     └ ぶりうるをの子静か也けり    玉又

[しし]

     ┌ とめて灸を居うる坊主子     山隣
     │
     │三弦でもてなす雛の女子客     音吹

[山中]

     │這廻る子供に道具あぶながり    野臼
     │
     └ 女子童べの中に禅門       方錐

[六花]

     │なぶればなぶりかへす女子衆    流枕
     │
     │笛吹いて遊びにありく手習子    麦士

△ 非人倫の名と人名、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[冬]

     │ 凩の身は竹斎に似たる哉    翁
     │  誰ぞやとばしる笠のさゞん花  野水
   官名│ 有明の主水に酒屋造らせて   荷兮

[虚栗]

     │ 山吹や無言禅師の捨衣     藤匂
     │  腕を薪の飢の早蕨       其角
   古人│子路が廟夕方や秋とかすむらむ  其角

[浪化]

    仏│ 無縁寺の寝釈迦祭りは節句過  万子
     │  花の咲いたを見たる空豆    八紫
     │西行の歌はむら雨三日の月    牧童

△ 異人名。二去。(歌仙に四)       ↑ トップへ

[古今抄]

 古代の有様を思ひ寄せて、当句の人の俤に写さば、是も句毎にあるべけれど、其の世、其の人の名をさしては、例の一二句に過ぐべからず。

▲ 此一二句と云ふは、歌仙の事也。古人の名は、人よくさかしら立に付くる故に、かく戒めたれど、風音ある作ならば、三四は苦しかるまじき事、証句にてしるし。

[一]
百韻
見渡せば

初ウ14  ┌ 宗盛の心よくもない春     似春 ※集「よぎもない春」
     ├─ 二
二オ3  │世のきこえ定家西行時鳥     翁

[炭]
百韻
子は裸

三オ6  ┌ 売人もしらず頼政の筆     孤屋 ※うりて
     │ 二
三オ9  │祇王寺をみなみに取つて二尊院  孤屋 
※集「妓王寺のうへに上れば」

[東花]

     │麦からの笛や布袋の夕涼み    露川
     │
     └ 静一人をあら武者の中     仙角

[三匹]

     ┌ 銅鍔のなんだ弁慶       汀芦
     │
     │一休の状に瓢の歌がある     季覧

[小弓]

     ┌ 最上を春よ沢庵の夢      山夕
     │
     │直義の初子持たるゝ月の照り   岩翁 ※はつこ

[焦]

     │教経と波に聞ゆる叱り声     其角
     ├─
     │登蓮が下駄の前ばに雨はれて   紫紅
     │ 三
     │孔明の刀懸也鹿の角       其雫
     ├─
     └ 頭巾とらする通円が像     其角

△ 同体古人名、面去。       ↑ トップへ

[冬]

名オ4  ┌ しばし宗祗の名を付けし水   杜国
   風雅│ 六
  11  │日東の李白が坊に月を見て    重五 ※じっとうのりはく=丈山

[春]

     ┌ 秋の和名にかゝる順      旦藁 ※源したごう
   風雅├─ 六
     │紹鴎が瓢はありて米はなく    野水

[越]

     │此筋を翁と曽良と二人連     広千
    俳├─ 七
     │連俳も生物知の孫平次      如晴 ※なま・ものしり

[いせ]

     │月花を墨に染めたる妓王妓女   茂秋
   美女├─
     │菊の日の楊貴妃の名に悋気して  温故

[鎌]

     ┌ 絵も楊貴妃の浴みうるはし   夜谷
   美女├
     │白みそをいとふ迄こそいよが妻  千梅

[奥栞]

     ┌ など寂蓮は物うかるらむ    支考
    僧│
     │花の雲慈覚の寺の七ふしぎ    不玉

[夕顔]

初ウ11  │花の陰達磨の外に何もなし    円入
    仏├── 十三
名ウ1  └ 苔の下より出山の釈迦卜治   円入

△ 官名、武名、仙、俗名(各折去)(百韻に三)       ↑ トップへ

[八夕]

     ┌ 頼朝公の七年の時       之川
    武├──── 4面
     │信玄をはじめ何れも我を折りて  寸昭

[一]
須磨そ

     ┌ 日影を盗りて仙境に入る    似春
    仙├── 2面
     └ 蝦蟆鉄拐や吐息つくらむ    似春 ※ひき・てっかい

[新百]

     ┌ 長助どのは今の長庵      団友
    俗├──
     │主従が同じ程なる長太郎     水甫

[餅搗]

     ┌ 雪に馴れたる駕の百助     乙孝
    俗├──
     │孫六が吹革祭りは雪もふり    佳峰

[一]
見渡せば

二オ10  ┌ 所立退く浪の瀬兵衛      似春 ※なみのせひょうえ
     ├── 26
三オ9  │又爰に孔子字は忠治郎      似春
    俗├─ 13
三ウ9  │六蔵が生駒の山の雲早み     似春
     ├─ 7
名オ3  │伺公する例の与三郎大納言    似春

 百韻に俗名四は、此外になし。

△ 老・若、面去(古へは、折去)       ↑ トップへ

[やへ]

     │ 老松は常盤のみかは振りのよき 酋始
     ├─ 十一
     └ 魁を望むに老の辞退なく    和道

[花摘]

     │老らくの本卦返りを祝ふらむ   其角
   音訓├─ 五
     └ 老功を欺く程に軍して     其角

[桃]

     ┌ 連歌の口も古い老僧      序柳
   音訓│
     │忘れずに老木の花もひがんから  乎哉

              

[桃盗]

     │若い衆のそつと覗いて戻りけり  北枝
     │ 九
     │身代も若木の花の咲初めて    柳士
     ├──
     │若い時思うた事は無分別     巴兮

[冬梅]

     │家渡を見による花の若世帯    貞阿
     ├─ 九
     │小便を恥かしがるも若いから   五雪

[藤]

     │旅やせの髭も若やげ菊にけふ   三伍
     ├─ 七
     │若い娵並んでひよんな事ばかり  左什

△ 達・衆、面去。       ↑ トップへ

[桜]

     │ばゝ達の又より合うて茶の匂ひ  風絮
     ├─ 八
     └ 兄弟子達のあとに連立     知子

              

[草刈]

     │上﨟衆の夫はきれいに菖草    北枝
     ├─ 七
     │爰許はいせの桧垣の旦那衆    牧童

[桃]

     │そろそろと十夜着飾る参り衆   夏橋
     ├─ 七
     │大工衆に傍輩の名を立てたがり  里紅

[砥]

     │よい衆の見たがられたる秋の暮  臥高
     ├─ 八
     └ 越前衆の遅う立たれし     正秀

[渡鳥]

     ┌ 折々見ゆる爰の家中衆     去来
     ├─ 七
     │ 松のあちらを通る公家衆    卯七
     ├─ 十
     │寒うなる秋をよいとはよい衆也  素民

△ 誰・師・独・使、面去。      ↑ トップへ

[山カタ]

     ┌ 黙ってをれば誰もさびしい   右範
     ├─ 八
     │雪隠にゐるとは誰れもしらなんだ 六之

[草刈]

     │山里に誰まつ風の吹く嵐     浪化
     ├─
     │誰が家の子ぞ少年の花の時    支考

              

[拾]

     ┌ むりに望みを懸けし師の坊   曽良
     ├─ 十三
     │ 奈良にも恥ぢぬ脇師なるらむ  曽良

[山カタ]

     │紙帳から顔出す塗師の咄し好き  白狂
    ㋬│ 三
     │居風呂のぬるいはお師の馳走振  六之 ※すえふろ

              

[三匹]

     ┌ 娘ひとりを玉に育てる     汀芦
     ├─ 八
     │我独り忘れてをれば皆わすれ   杜草

              

◆[八夕]

     │すぐられた〓          文釆
     ├─ 十
     └ なけば使の戻りかねたる    何竺 (竹+工)

[古今抄]

 使、百韻に四。

 使、百韻に四とあれど、此のごとく、面去の◆自証あり。

△ 己・我、五去       ↑ トップへ

[山カタ]

     │小いわしも己が門をば直ぐ通り  白狂
     │
     │土器で祭るな己にや茶碗酒    白狂

              

[汐]

     │山を見る窓から我を寒がらせ   柳江
     ├─三
     │眠ければ我身をつめる春の日に  柳詞

[はの]
百韻

二ウ12  ┌ 願で練る子と我舞へば月    青雨
     ├─ 三
三オ2  │ 我等も見たが苦しかるまじ   古井

[春]

     ┌ 莚二枚も弘き我が庵      越人
     ├─ 六
     │我が春の若水汲みに昼起きて   越人

△ 男・女、音訓かはり五去。       ↑ トップへ

[古今抄]

 男女音訓にかはり、百韻に四、異体数限りなし。

[星月夜]

 女、ヲウナ・メ・ジョ・ニョとかはり、折に一づつ。女鳥・女松・女波等の異体、面去。

▲ 此のごとくあれども、◆支考にも◇其角にも、音訓五去、同訓面去の証句あり。異体は三句の字去、勿論也。

[蓬]

初ウ7  │面白の遊女の秋の夜すがらや   翁
     ├─ 五
名ウ1  │歌よみて女に蚕贈りけり     翁

◆[いせ]

     │月花を墨に染めたる妓王妓女   茂秋
     ├─ 四
     └ 女房の伊達は捨てぬ蜷川    卜国
 ※卜かトか

[このは]

     │合羽きてはやる三国の女郎町   許六 独
    ㋬│ 二
     └ 粉川床しき女夫順礼

              

[やへ]

     ┌ 御坪の内にをの子召さるゝ   度征
     ├─ 四
     │くつわよりせく男尚したはれて  文石

△ 男・女、同訓、面去。       ↑ トップへ

[一]
百韻
此梅に

初ウ10  ┌ 吉祥天女も是程の月      翁 ※きちじょうてんにょも
     ├─ 四
二オ1  │けさの雪貧女一文が粘をとく   翁 
※ひんにょいちもんが糊を解く

◆[冬梅]

     │邂の花に女中の宵催ひ      竹夜 ※たまたまの
     ├─ 九
     │おとし言よそに狂女の高笑ひ   千鳥

[古拾]

     │出女の玉依姫は是とかや     似春
     ├─ 八
     └ 小町がはての女がたとも    似春

              

◇[雪の光]

     ┌ 水くむ男菊をたのしむ     楚雀
     ├─ 八
     │股立に公家の通りの男ぶり    百花

△ 武・賤・稚、面去。       ↑ トップへ

[鶴]
百韻
日の春を

二ウ7  │理不尽に物くふ武士等六七騎   芳重
     ├─ 七
三オ1  │此国の武仙を名ある画に書かせ  其角 ※集「絵を」

              

[みの]
木の本に

初ウ2  ┌ 顔垢れたる賎の子供等     良品
     ├─ 14
名オ5  │賎が家も蚕仕まへば弘く成り   良品 ※集「賎の屋も」

              

[むつ]

初オ4  ┌ 子供の三十稚名をよぶ     馬耳 ※おさなな
     ├──
名オ3  │稚きは田舎の水に色黒し     馬耳

△ 君・客、面去       ↑ トップへ

[続虚]
四十四
旅人と

初ウ2  ┌ 齢とをしれ君が若松      嵐雪
     ├─ 15
名オ4  └ 君流されしあとの関守     翁

[むつ]

     │手の下の君にぬかれて昼の月   冬市
     ├─
     │此足は君かと問うて冷火燧    嵐雪

              

[笠]

     ┌ 祭りの客に残る相口      広三
     ├──
     └ 隠居の客の帰る相談      諷山

[浪化]
百韻
水仙の

初ウ5  │ねる客かけつ投つの亭主振    文砌 ※集「寝る客に」
     ├── 35
二ウ13  │さく花にけふはお客といはればや 桐之

△ 妻・娵・親・祖母、面去。       ↑ トップへ

[句餞]

名オ4  ┌ 弟に許す妻の盃        露荷 ※おとと
     │ 七
名オ12  └ 独り簾をあみくらす妻     沾荷

[さみ]

     │雇人に交りて娵も木綿取     菊旦
     ├─
     │七夕のよめりに月も笠をきて   玉蘭

              

[笠]

     ┌ 調市の親の来ては吹聴     米花
     ├─
     └ 親のあみだも今は不馳走    米花

              

[笠]

     │年越に出入のばゝが礼に来て   里紅
     ├─七
     │寝つ起つぢゝとばゝとが花の春  里紅

△ 雇人・奉公・坊主・弟子、折去。       ↑ トップへ

[山カタ]

     ┌ 髭はあれども供は雇人     白狂
     ├──
     │雇人はばゝもめつたに叱られず  東羽

              

[山カタ]

     │奉公をさせても親の苦はやまず  東羽
     ├─
     └ 奉公がらに似せぬ衿付     白狂

[韻]

第三   │奉公ぶり出代る前の際立ちて   李由
     ├── 20
名オ6  └ 姉妹ながら妾奉公       李由 ※集「兄弟ながら」

              

[汐]

     │よう廻る坊主あたまを振廻し   凉菟
     ├─ 七
     │江戸御ざれ坊様御ざれせまきらひ 凉菟

              

[天河]

     ┌ 素読の弟子の茶を汲みに立つ  鷹仙
     ├──
     └ 灸居ゑあふ弟子比丘尼達    連支

△ 同季、百韻二の物。       ↑ トップへ

[韻]

初オ6 秋┌ 腹のふくれた踊聞ゆる     李由
     ├─── 26
名ウ3 夏│雨乞の踊の代に屋根茨きて    李由

[笠]

    春│大工衆もけふはあちらへ出代て  里紅
     ├───
    秋│出代の子に似ぬちゝの片律義   葉柳

 右、歌仙の例也。季をかへては、如のごとく歌仙に許し、同季は、百韻ならでは許すまじきか。

△ 異支体、越、嫌はず。(古へは三去)       ↑ トップへ

[古今抄]

 身に毛といふ類は、二句去に許すべし。

▲ 目の越に、涙も嫌はねば、身に毛の類、越を嫌ふに及ばず。◆支考捌巻の例を見よ。

[蓬]

    涙│ふる雨に老いたる母の涙顔    工山
     │ 一輪さきし芍薬の窓      東藤
    目│碁の工夫二日閉ぢたる目を明て  翁

[茶]

    目│篭作る傍にあぶなく目を塞ぎ   桃鯉
     │ 松ばの埃のにゆる鍋ぶた    翁
    首│雉笛を首に懸けたる狩の供    翁

[ひさご]

    目┌ 目のうち重く見やりがちなる  野径
     │けふも亦河原咄をよく覚え    里東
    顔└ 顔のをかしき生付也      泥土

◆[笈]

    目┌ ぢゞを覗けば目を明けてゐる  許六
     │貰うたる赤の強飯のやんはりと  李由
    口└ 用にも立たぬ口たゝく也    汶村

◆[東山墨]

    鼻│眺むれば鼻から寒し月のかげ   宇中
     │ 隣ながらも遠きうどんや    右範
    顔│寺参りせぬやらぢゞの顔も見ぬ  范孚

[炭]

    手│よい様に我手でさんを置いて見る 利牛 ※集「占(さん)を」
     │ 正直是はあはぬ商       桃隣 ※集「しやうしん:正真」
    肩│帷子も肩に懸からぬ暑さにて   野坡 ※かたびらも

[韻]

    尻┌ さんない尻の余る小たらひ   徐寅
     │引飯のさん用立つる男部屋    許六
    肩└ 肩で風きる後の出代      李由

[焦]

名ウ1 胸│田舎間に足を伸せば胸は不二   専吟
  2  │ 借りた鏡はどれも南天     秋航
  3 腹│暮の花二王の腹をたゝくらむ   其角

[俳]

   背頭┌ 背中は寒く頭うちける     木白
     │時雨たる旅の巾着便りなき    梅額
    手│ 手をひかへたる猿沢の魚    配力
     │歌よめと皆々ゑぼし傾けて    木白
   涙黛└ 泪もろしや賎が黛       半残

△ 髭に髪、二去。       ↑ トップへ

[桃白]

初オ6  ┌ 衿に押込むおとがひの髭    海動
     ├─ 2
初ウ3  │笠とれば前髪ゆるむ草鞋懸    翁

[笠]

     ┌ 踊のかみに鏡さしあふ     素流
     │
     │髥も髭もそられず旅労れ     里紅 
※ほおひげもひげも、髥・髯は䫇の俗字

[鎌]

     ┌ 髪をきられてなつかしうなる  紫遊
     │
     │るすの間は誂へておく作り髭   夜谷

△ 髪、面去。       ↑ トップへ

[冬]

     │月にたてる唐輪の髪の赤枯れて  荷兮
     ├─ 六
     └ 白かみいさむ越のうど刈    荷兮

[やへ]

     ┌ 番にあたらぬ馬の髪かる    林鴻
     ├─
     │尺の髪白き翁の物語       示右

[奥栞]

     │ゆふかとすれば只ぬくる髪    重行
     │ 九
     │黒かみ重く東風に吹かする    呂丸

△ 手・口・目、三去。       ↑ トップへ

[古今抄]

 目・鼻・耳・口・手・足、此品は支体の体(てい)なれど、平話の用多ければ、折をかへて四つばかりも有るべし。

▲ かくいふは大凡の論也。支体には軽重有りて、一例ならず。譬へば「マナコウデ」とは、目だてども、「目手」とは、耳立たぬごとし。

[さる]

初ウ5  │卯の刻の箕の手に並ぶ小西方   珍碩
     │ 3
初ウ9  │懐に手をあたゝむる秋の月    凡兆

[類]

     │せゝる手の乳房争ふ蝸牛     其角
     │
     │蛸引に手際さえぎる巴なり    百里

[五日月]

     ┌ 粟ひえも手を待つてうなづく  野泊
     │
     └ 三十日払の手にもたまらず   其友

[東花]

     │ぬきれ手を取出してかる晩稲哉  一吟
    ㋬│ 二
     └ 棒で手伝ふ川舟の舳      寸虎 ※じく、舳先

[砥]

     │菰僧に大事の手ども所望して   林紅
     │ 二
     └ 手の際ばかり残る松明     路健

              

[己]

     ┌ 小僧のくせに口答へする    土芳
     │
     └ 人に取付く浮名口をし     良品

              

〔頭陀行〕

     │囁いてをれば内儀の目がとまる  芳草
     │
     │鶏のひよこを眉目に連れあるく  り斧

△ 頭・尻・腹、面去。       ↑ トップへ

[卯辰]

初オ6  ┌ 秋の夕べを頭なぶらせ     李東
     ├─  十
初ウ11  │花見よと局頭に誘はれ      紅尒

              

[其鑑]

     ┌ よその咄の出れば尻馬     始流
     ├─ 八
     │いさかいの尻は遙かに下り舟   慈竹

              

[類]

     │腹切のしかも笑うて山は花    其角
     ├─ 五
     │回船の腹へよせたる蜑小舟    潘川

[本朝]

     │青漬にゐのこの腹を持かねて   三逕
     ├─ 七
     │なぶられて将木に腹は立たぬやら 昇角

[卯辰]

     ┌ 昼寝せぬ日のくせにむか腹   乙州
     ├─ 十
     │月の前いたむ腹をば押しさすり  小春

△ 顔・足、面去。       ↑ トップへ

[梅十]

     │今に酔ふ寝起の顔に春日影    梅光
     ├─ 五
     │言伝を届けてたもる顔でなし   有琴

[拾]

     │ 顔のほくろを悔む乙の子    路通
     │ 八
     │泣顔をうつす畑の忘れ水     夕菊

[山カタ]

     │紙帳から顔出す主の咄好き    白狂
     │ 八
     └ 親父の顔もけふは朔日     六之

              

[続の原]

初ウ7  │はしたなく紙帳の外に足もれて  琴風 ※「はしたなく」は、
     ├─五                 [鬼+七][鬼+八]の二文字
名オ1  │消ぬべく足跡のなき嵯峨の雪   扇雪

              

〔市梅〕

     ┌ 松茸取の登る足元       紗柳
     ├─五
     └ 叶はぬ足にはむる水足袋    宇鹿

△ 肌・裸・皺・腰、面去。       ↑ トップへ

[其袋]

初ウ9  │新ふろを入れ和らげよ花の肌   嵐雪 ※あら風呂を
     ├── 18
名ウ4  └ 桃の葉しほる湯肌美し     笠凸

              

[山カタ]

     ┌ 裸にならねや角力は詮なし   白狂
     ├──
     └ 水ふろよりも滝に裸身     栗几

              

[韻]

     │皺の手に琥珀の数珠の尊さよ   木導
     ├─ 八
     └ 前に皺よるかいわりの帯    木導

〔金竜〕

     ┌ 腰で風きる槍狭箱       仲二
     ├─ 十
     │中乗の腰にさしたる一節切    其筈 ※ひとよぎり、尺八

△ 身・心、三去。(歌仙に四)       ↑ トップへ

[さる]

     │金鍔と人にいはるゝ身の安さ   翁
     │
     │花とちる身は西念が衣きて    翁

[続花]

     │笠ぬひの菅に憂身はやつれけり  大漁
     │
     │袖香炉人には見せぬ身のひねり  和専

[続花]

     │相そりに若殿原の身だしなみ   湖十 (二世)
     │ 四
     └ 身にあぐみたる寺の浪人    文石

              

[だて]

     ┌ 酒の遺恨をいふ心なし     等躬
     │
     └ 月のひづみを心より見る    素蘭 (※須賀川)

[百歌仙]

     ┌ 見えぬ道具の心むつかし    一介
     │
     └ 風の心の直る行水       一顕

[百歌仙]

     │転んではならぬ心にはれ小袖   虱的
     │
     │照降りのある心やらわせられぬ  梅先

[むつ]

     │操なる人の心にうけばりて    桃隣 
     │
     │けふの月旦那の心定まらず

△ 気、三去。(歌仙に四)㋬       ↑ トップへ

[韻]

     ┌ 元気を得たる尾張商      許六
     │
     └ 気を付けて見る小の十五夜   許六

[其鑑]

     │膳事も若い大工に気は置かず   始流
     │
     │聖霊も月夜の娑婆に気の晴れて  一宇

[東六]

     ┌ 是は気味よう秬にふく風    薼生 ※きび
     │
     └ 奉公に気をかねてとやかく   宇中

[このは]

    ケ┌ 乞食六部の脚気煩ふ      聴写
     │
     │色気なき西八條の作功者     列孚

[笠]

     │物前の留主は内儀の気扱ひ    廬元
     ├─
     │糸とりに花の都も気のつまり   広山
     ├─
     │空病は咳気の神もしらぬふり   廬元
     ├─
     └ 気の取憎い寺のばゞ様     廬元

△ 洟に洟紙、五去。       ↑ トップへ

[類]

     │洟紙は貰ひ遣ひの木綿坊     太岱
     │ 四
     └ 奈良を勤めてやまぬ水洟    青峨

[そこ]

     ┌ 一歩二つを洟紙におく     支考
     │ 八
     │肘張りて洟かむ奴は彼の男    胡仲

△ 涙、夢、五去。(古今同)       ↑ トップへ

[一橋]

     ┌ 棺舁きおくる昼泪なき     立志
     │
     └ 思ひにたらぬ涙もどかし    立志

[夕顔]

     ┌ 此蘭の露涙かよへり      宰陀
     ├─ 六
     │さよ姫の涙はくちに落ちにけり  宰陀

              

[むつ]

     ┌ 抜刀にておはれたる夢     桃隣
     ├─ 九
     └ 栄えうにならぬ元日の夢    冬市 ※集「栄耀(えよう)になぬ」

[次韻]

     │何を覚めて蛤のねて夢見たる   才丸
     ├─ 十三
     │昼夢の飯たく程に夕ぐるゝ    其角

△ 軽病、二去。(一方軽キ、同、歌仙に三)       ↑ トップへ

[あら]

     │空蝉の離魂の煩みの恐しき    其角 ※かげのなやみ
     │
     └ やけど直して見しつらき哉   其角

[己]

     ┌ 腹の鳴りくる水のかはりめ   半残
     │
     │碓も病人あればかさぬ也     半残 ※からうす

[卯辰]

     │月の前いたむ腹をば押しさすり  小春
     │
     └ 許さぬ物か妹が疱瘡      牧童

[韻]

     ┌ 根太潰して角力崩るゝ     木導
     │
     │息災で花見る人は羨まし     馬仏

△ 重病、面去。       ↑ トップへ

[炭]

     │終宵尼の持病を押へける     野坡 ※よもすがら
     ├─
     └ 只ゐるまゝに肱煩ふ      野坡 ※かいな

△ 尿屎・雪隠類かはり、面去。(百韻に二、三)       ↑ トップへ

[去来抄]

 凡兆曰く、「尿屎の事も申すべきか」。
 翁曰く、「嫌ふべからず。されど百韻といふとも二つには過ぐべからず」。

[蓮の葉]

 今も世上の有様を見るに、牛馬は市朝に屎を落し、人も槍持せながら路傍に小便するは、常式の事にして、糞汲みの、雪隠のといふは禁ずべからず。小児の尿屎は各別の事也。其余、人の前につくばひて、屎する人も、放屁する人もあるまじ。

[三笑]

     │小便の目利に空の後立て     琴之 ※集「空は後立て」
     ├─六
     └ 雪隠かとて粗相千万      蓮二

[笠]

     ┌ 糞取に来て手紙届くる     里紅 ※こえとり
     ├─六
     │傘も小便すればさし憎い     諷山 ※からかさも

[笠]

     ┌ こえの土産に服部の新     童平
     ├─十
     │みて置いた小便桶の在処     蓮二

[文操]

     │こえ舟といふを始めて嗅ぎ玉ふ  蓮二
     ├─
     └ 急ぐ心は雪隠であろ      兎士

[白ダラ]

     │雪隠につひ落したる百の銭    従吾
     ├──
     │厩こえの匂ひも風になく雲雀   従吾 ※まやごえ

[長良]

     ┌ 今の返事はせどの雪隠     呂杯
     ├───
     └ 階子の坂にこまる小便     里紅 ※はしご

[難]

     ┌ 疝気が嘘をついた雪隠     観水
     ├──
     │こえ舟の匂ひは大和河内迄    乎哉
     ├──
     └ 連を待せて長い小便      素然

 近世尿屎の類を曲節と心得、一句の作意もなく、前句に寄もなきに、好んで用ふる人あり。甚だ誤り也。作に雅味なく、付にをかしみなくば、決して用ひまじき事也。

△ 異述懐、越、嫌はず。(古へは、異も三去)       ↑ トップへ

 述懐とは、情の事なれば、七情皆しかれども、文家の習ひに心ならぬ事のみをいへり。そは浮世の常にて、物は満たざるにこそ、趣き多かれば、表も越も嫌ふべからざることわり也。

[印]

   わび│佗しさに心もせばき蚊や釣りて  翁
     │ 髪きる処を夫は押へる     観生 ※つま
  うき涙│入山の茨に落ちしうき涙     曽良

[初茄]

  身の恨┌ 赦免にもれて独り見る月    翁
     │きぬぎぬは夜なべも同じ寺の鐘  呂丸
  恋の恨└ 宿の女の妬き物かげ      曽良

×[壬]
○[何袋]

    ┌ かたみにを残す陸奥     式之 ※集「形見にひん」、鬢のこと。
     │懸香を小袖の振にぬひ含み    村鼓 ※かけごう、「ふり」は袖の一部
   乞食└ 三弦弾いて並ぶ乞食      翁

[冬]

    貧│あるじは貧に堪えし虚家     杜国
     │ 田中なる小万が柳落る頃    荷兮
     │きりに舟ひく〓         野水

[あら]

  不遁世│我儘にいつか此世を背くべき   越人
     │ ねながらかくか文字歪む戸   傘下
   不忍│花の賀に堪へかねたる涙おつ   傘下 ※こらえ

[夏衣]

   恨み│うば玉の夜着に恨みて只戻り   南木
     │ 偖工夫する金の出処      南木
   浮世│戸隠の力及ばぬ世也けり     支考

[其鑑]

   恨み│浅茅生の露に恨みの歌を述べ   池柳
     │ 鯉のあたまは得手ぬ庖丁    千中
    貧│貧乏もかせぐ峠へ追へかね    鷺洲 ※おわえかね(方言)

△ 同体述懐、三去。       ↑ トップへ

[売]

[さみ]

[難]

[柿]

     ┌ 金にはなるゝ腰のやゝ寒    吾仲
    貧│ 二
     │質におく十二一重の歌詠みて   范孚 ※十二単

[夏衣]

     │肩衣に花も咲かねば世を捨てゝ  支考
  世の恨│
     │長生に世の嬉しさも悲しさも   慈竹

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