貞享式海印録巻二 山類、水辺、場、居処

貞享式海印録 巻二③



山類異山類、越、嫌はず山、三去峰・谷・島、面去山類付句
水辺異水辺、越、嫌はず水辺、三句続川・水、三去舟、五去
浪、面去流・滝、面去橋、面去海・浦・浜、面去池・井、面去
異場、越、嫌はず野、三去何里・里、面去
原・村、面去市、町、辻、面去庭・場、面去田・畑、五去
田に畑変はり、二去道、三去石・岩・砂・土、面去
居処異居処、越、嫌はず屋、三去商号の屋、五去
家、音訓変はり、二去家・宿・門(もん)・門(かど)、五去戸・垣、五去
壁と塀変はり、五去住・窓・柱、面去店・棚・畳、面去
庵・隣、折去風呂、折去普請、折去家敷(屋敷)・家根(屋根)、折去
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻二、山類・水辺・場・居処を見る。


貞享式海印録 巻二

山類

□ 異山類、越、嫌はず。(古へは三去)       ↑ トップへ

 山類とは山・峰・尾上・嶽・岫・峡・峠・岡・坂・九折・岨・谷・崎・梺等也。
 此類、各かはりて越を許すは、異水辺、異場類の、越の論なきに同じ。

[鵆]

    崎│星崎の闇を見よとやなく鵆   翁
     │ 舟調ふる海士の埋火     安信 ※あま、うずみび
    山│築山のなだれに梅を植ゑかけて 自笑

[舟竹亭]

    崖┌ 右も左も崖造る也      玄虎
     │わき出る雲より下の時鳥    舟竹
   尾上└ 尾上にかゝる鐘のつき初   翁

[金竜]

   山颪│恋種の白根吹出す山おろし   是汲
     │ 苧纑の粘と世には名のたつ  東鷲 ※おがせ
   岡連│岡連も舟も着いたる後れ市   暁梧 ※おかづれ

[梅十]

   碓氷│此様な空に碓氷が越されうか  七雨
     │ 何やらしれぬ鳥の一声    呂杯
   山門│山門に大木の花吹乱れ     羽嵇

[俳]
百韻
さぞな都

    颪┌ 横根颪に谷深き月      信徳 ※横根は根太。高嶺颪のもじり
山三続 山│山高く湯舟隔つる水遠し    翁
   浅間└ 浅間の烟軽石がとぶ     信章 ※素堂

△ 山、三去。(歌仙に四、五)       ↑ トップへ

[古今抄]

 古抄に、「山は三句去にて、峰は一座に二也」といへど、山を三句さらば、峰も梺も岨も谷も三句さるべし。然らば、海も沖も川も沢もすべて三句去ならむを、山と峰との去嫌は、廿余の違ひ有りて、百世の惑ひは此故也。(約文)

▲ こは、「御傘」を難じたる迄の詞にて、自らの捌きも此の如くならず。譬へば、人の字は総名にて、多用なれば、三句去り、首足の類は小分の名にて、その用少く目だつ故に、句去も異なるごとく、山峰の論も同じ事也。

[桐葉亭]

     │いちごふむ山より村の雨はれて 如行
     │ 三
     │樒篭に見よと摘みたる山の草  翁  ※はなかごに

[笈]

     ┌ 見えた通りはをば聟の山   風国
     │
     └ しぐれも露も北山の庵    去来

[初茄]

     ┌ 山そぎ作る宮の茨替へ    曽良 ※ふきかえ
     │
     └ つやにくもりし春の山彦   曽良

[浪化]

     │山陰のかねも暮れぬと鳥の来て 桐井
     │
     │落着は山田の秋の魴      二川 ※おしきうお?

[白ダラ]

     │出代に山の女を置合せ     巴兮
     │
     │湯の山に襖はづせば秋の色   野棠

[四幅]

     │恨めしの此砧やとうつの山   東怒
   名所│
     │山崎の花見てくらす弥三郎   凉菟

[越]

     │思ひやる山のあなたのたび衣  汶東
     │
     │かすむ時鴉も鳴かず花の山   許舟

[金竜]

     │山まゆを着ては杉並よけたがる 九皐
     │
     │一口の樽負山に宵の月     貞佐
     ├─
     │山独活は人に五寸のくさび也  梧枝

[山カタ]

     │又しても又しても出る郡山   白狂
    ㋬│ 二
     └ あたゝか過ぎて山も笑はず  六之

[山琴]
歌仙六

     ┌ 蝉吹流がす薮の山風     巴兮
     ├─四
     │御祓の威光で越ゆる鈴か山   巴兮
     ├─五
     │月ながら宿かりかねてかゞみ山 秋の坊
     ├─三
     │花のさく時は無芸な山やある  汀芦
     ├─八
     │茸狩にみの着て月も三笠山   北枝
     ├─九
     └ 詞ぞ残る山々の雪      執筆

△ 峰・谷・島、面去。       ↑ トップへ

[賀茂]

     │法印は詠めて御ざる峰の花   鴎笑 ※ながめて
     ├──
     │雪はまだ峰に残りて岨の花   東守

              

[東六]

     ┌ 岩に響いて雉は谷より    大川
     ├─八
     │谷の松峰は月夜の晴上り    大川

[江戸筏]

     ┌ 秋を深める谷の碓      只尺 ※からうす
     ├─四
     │花ぞ今谷中へぬくる人は人   只尺 
※やなかへ

              

[このは]

     │土用風島の屏風もかをるらむ  国音
     │ 五
     │島原のむほんに花をやり習ふ  壮奚

▽ 山類付句       ↑ トップへ

[あめ]

名ウ1  │山畑の木ねり色づく風の音   翁
  2  └ 石地の坂をかへる宮坊    珍碩

[つばめ]

初オ6  ┌ 柴かりこかす峰のさゝ道   翁
初ウ1  │あられふる左の山は菅の寺   北枝


水辺

□ 異水辺、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 古式は、水辺三去なる故に、非水辺物の論ありて、翠簾(すいれん)の菖(しょうぶ)にも、水辺のせんさくあり。
 蕉門には、すべて、異水辺を嫌はざるは、世界の中、水なき所なければ也。

[春]

    舟│立ちてのる渡の舟の月かげに  冬文
     │ 芦のほをする傘の端     執筆 ※からかさ
    磯│磯際にせがきの僧の集りて   旦藁

[花摘]

    川│川舟の網に蛍を引立てゝ    曽良
     │ 鵜のとぶあとに見ゆる三日月 釣雪
    水│すむ水に天のうかべる秋のくれ 珠妙

[あら]

    谷┌ 供奉のわらぢを谷へはき込み 野水
     │段々や小しほ大原さがの花   野水
    川└ 人負ひにゆく春の川ぎし   荷兮

[あめ]

    舟│畚提げて舟の杮を拾ふらむ   珍碩 ※ふご。こけら、×柿○杮
     │ はすね頭の髪もたばねず   之道 ※蓮根は瘡(かさ)の一
    水│をり並ぶ増水時の夕まぐれ   昌房

[焦]

    氷│つき流す氷の扉五六枚     東潮
     │ 鴛にくらぶる兄娵の櫛    序令 ※おし
    水│身へかゝる橋の玉水心迄    其角

[賀茂]

    川│すむ月の川へうき名も流されず 素後
     │ 盆は仏をせゝる時也     鴎笑
    海│冷まじき此北国の親しらず   正住 ※親不知は海岸

[梅十]

    舟│昼よりもぞんじの外の舟便   梅光
     │ 肴売つたが今はかはるゝ   伯楓
    滝│花のまゝ恵を付けてたきの下  七雨

▽ 水辺、三句続。       ↑ トップへ

[蓮池]
五十韻

発句   │蓮池の中に藻の花交りけり   芦文
脇    │ 水面白く見ゆるかるの子   荷兮
第三   │さゞ浪やけふは火灯す暮待ちて 翁

[荷兮亭]
[風月亭]
表六句

第三   │舟あてゝ櫂もぎらるゝ磯際に  荷兮 ※櫂捥らるる
 4   │ 汐の早きを越ゆる洲走    野水 ※すばしり、鯔の幼魚
 5   │海鳴りて山よりくもる暮の月  翁

[花摘]

初ウ5  │今宵又月には催ふ舟の数    遠水
初ウ6  │ 水せきあぐる松の片浜    岩翁 ※集「水施餓鬼ある」
初ウ7  │かつを切る小磯にむれて秋の風 其角

[続虚]
世吉

名オ4  ┌ 君流されしあとの関守    翁
名オ5  │明暮れは干潟の松をかぞへつゝ 挙白
名オ6  │ 命を思へ舟にはふむし    其角 ※集「這蟹(はうかに)」
名オ7  │起出でゝ手水つかはむ海の端  嵐雪 ※うみのはた

△ 川・水、三去。(多例省)       ↑ トップへ

[深川]

     ┌ 汐さしかゝる星川の橋    翁
     │
     └ 今は敗れし今川の家     嵐蘭

[あら]

     │山川や鵜の喰物を探すらむ   落梧
     │
     │川越の歩にさゝれゆく秋の雨  野水

[ぶり]

     │せんたくの自由を川の流れ行く 巻耳
     │
     │白川ときくより白しむくげ垣  巻耳

[焦]

     │鷲部屋のぐるりは西の川原にて 其雫
     │
     │めつかいも花を尋ねてくり矢川 紫紅

              

[続さる]

     │俎板のすずきに水を懸流し   里圃 ※集「鱸に」
     │ 三
     │草のはの窪みの水の澄みちぎり 馬莧

[誰]

     │水鳥の酒の接待立止り     其角
     │
     │浮鳧の頭からげの水櫛ぞ    才丸 ※うきかもの

[さる]

     │五六本生木つけたる水溜り   凡兆
    ㋬│ 二
     └ でつちが荷ふ水こぼしたり  凡兆

[山カタ]

     │居ふろの新湯も水に成かゝり  東羽 ※すえふろ
     │ 二
     └ 水もきれいにはしの山吹   東羽

[焦]

     ┌ 雫も水の濁る目薬      楓子
     │ 二
     │岩くゞる山椒魚も春の水    楓子

△ 舟、五去。(歌仙に三)(古今、同)       ↑ トップへ

[小文]

名オ8  ┌ 百里其まゝ舟のきぬぎぬ   翁
     ├─ 5
名ウ2  └ 障子重ぬる宿がへの舟    翁

[蓮池]
五十韻
蓮池の

初ウ4  ┌ 馬の乗つたる舟の狭さよ   鴎歩
     │ 5
  10  └ つなげる舟に有明の月    芦文

[浪化]

     │此日和舟はないかと聞きにやり 桐井
     │
     │舟あしも静に成りて薄月夜   一庸

[続新]

     ┌ 茨の上にあがる川舟     東棠
     │
     └ ね耳に水の出舟呼び呼び   白毛

[桜山]

     ┌ 舟着なれば何やらのかざ   方堅
     │
     └ 岩せの川の舟も通らず    是通

△ 浪、面去。五句以上。(古へは、百韻四)       ↑ トップへ

[古拾]
塩にしても

脇    ┌ 只今のぼる浪の味鴨     春澄 ※あじがも
     ├─ 七
初ウ4  │ 鼠あれゆくよさの夕浪    翁
     ├─ 十一
名オ4  └ 逆に這ひよる浅草の浪    翁

[一]
百韻
色付くや

初オ8  ┌ あつ湯を流す末の白浪    翁  ※にえゆを
     ├─ 八
初ウ9  │風匂ふ小便壺に浪こえて    杉風
     │ 三
  13  │島のけしき胡粉によする花の浪 杉風
     ├── 17
二ウ3  │又をかし磯うつ浪の子安貝   杉風
     ├── 25
三ウ1  │手拭の雫に浪や垢すらむ    杉風 ※集「よごす覧」
     ├── 18
名オ6  │ 冷も発らぬ大浪の跡     杉風 ※ひえもおこらぬ
     │ 七
名オ14  └ 是彼岸の浮草の浪      杉風 ※これかのきしの

[藤]

     │さゞ波の梺に年も押寄せて   三伍
     │ 四
     └ 松の山路も藤の波路も    半菘 ※はんすう、菘はすずな

[次韻]

     ┌ 踊浴衣の裾にたつ浪     才丸
     │ 六
     │蜆江の磯等岸等は白浪に    其角

[星月夜]

     ┌ 蛙なく江はもとさゝら浪   松阿
     │ 六
     │心にてまゝしき中も浪立たず  松弓 ※継しき

△ 流・滝、面去。       ↑ トップへ

[拾]
三十四句
冬景や

13   │かも川の流れに胸の火をほさむ コ斎
     ├─ 五
19   │朝霞賢者を流す舟見えて    翁
     │ 八
28   └ 流れに破る切子折懸     李下 ※切篭灯篭・折懸灯篭

[鵆]

     │一里の雲母流るゝ川上に    重辰 ※ひとさとの
     ├─ 十一
     │にし売の油流るゝ薄氷     如風 
※集「辛螺(にし)がら(殻)の」

              

[このは]

     ┌ 滝野の筋のひゞくはりま路  惟之
     ├─ 十一
     └ 光りてくわつと早き滝川   杜占

△ 橋、面去。       ↑ トップへ

[白ダラ]

     │此橋で月夜を誉むる人通り   北枝
     ├─ 九
     │板橋に夕べ泊りて直ぐ通り   長緒

〔頭陀行〕

     │懸けかへてすゞしさも尚橋の反 左月
     ├─ 九
     │はし懸る花見使の俄事     杜州

[草刈]

     │はし通る木履の音に目の覚めて 従吾
     ├─ 十二
     └ 木曽路のはしの文もさいさい 桐之

[続の原]

     │継橋の腐れ落ちたる霧の跡   松涛
    ㋬├─  三
     │夕霞矢矧の橋の短さよ     才丸 ※やはぎ、矢作

△ 海・浦・浜、面去、(古へは、百韻に四)       ↑ トップへ

[七さみ]

     ┌ 是から見ればびはの海面   之仲
     ├─ 八
     │いせの海白子は不断花咲いて  凉菟 
※伊勢、しろこ

[桃白]

     ┌ 水真白に海へ出る川     左柳
     ├─ 十
     │いづの海岬に舟をこぎ入れて  千川

[雑]

     │月雲に近江の海のなんどりと  普船
     ├─ 十六
     └ 南風なる横雲の海      普船

[むつ]

     │うみよりも霞の登る峰の坊   桃祗
     ├─
     └ 神軍とや海の真中      衣吹

[むつ]

初ウ7  │気遣な海をそびらに住みこなし 桃隣 ※そびら、背(そ)+平
     ├─ 9
名オ5  │海面に根もない烟持てゐる   冬市

              

[拾]

     ┌ けぶらで寒し浦の塩やき   路通
     ├─十二
     │西行の像を拝する浦の月    宗波

              

[山カタ]

     ┌ 浜の肴に鳶の暮れゆく    右範
     ├─
     │たび人も雨に遊んで浜のかざ  右範

△ 池・井、面去。(古へは、百韻に四)       ↑ トップへ

[翁]

     │鴻の池花見花見と貯置き    乙州
     ├──
     └ 蛙をはなす新しき池     圃角

              

[一橋]

     │榊持田中の井戸に水飲みて   一晶
     ├─
     └ 汲まぬ野井戸は毛物埋みし  清風


□ 異場、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 是も、山類・水辺の、越の論なきに同じ。

[深川]

    梺│衣うつ梺は馬の寒がりて    翁
     │ こえ草烟る道のきり雨    北鯤
    場│古戦場月も静に澄みわたり   嵐蘭

[鵆]

    園│氏人の庄園多き花ざかり    菐言
     │ 駕幾むれの春とゞまらず   如風 ※集「駕篭」
    田│田をかへす辺りに山の名を問て 安信

[続さる]

    町│むしごつる四条の角の河原町  惟然 ※虫篭、放生会
     │ 高せを上る表一箇      曲水 ※おもてひとこり、畳の梱包
    橋│今の間に槍を見隠す橋の上   臥高 ※見失う

[続さる]

     ┌ 持仏の顔に夕日さし込む   曲水
     │平畦に菜を蒔立てし莨跡    支考 ※ひらうね
   家場└ 秋風わたる門の居ふろ    惟然 ※かどのすえふろ

[天河]

    川┌ 又其川へ戻す行水      洞也
     │萩原へ阿保から出あふ連もあり 百川 ※はいばらへあおから
    山└ 山も案山子を笑ふ苗代    曽呂

[蓬]

    山│日かげ山雉の雛を追はへ来て  叩端
     │ 清水をすくふ馬柄杓の月   閑水 ※ばびしゃく
    野│面白き野べに鮓うる草の上   東藤

[金蘭]

    山│凩の寒さ重ねよいなば山    落梧
     │ よき家つゞく雪の見処    翁
    里│鵙のゐる里の垣根に餌をさして 荷兮

[やへ]

    里┌ 梺の里のおてゝ恋しき    凡兆
     │首とるかとらるべきかの烏鳴  示右 ※集「烏鳴く」
    野└ 野中にすつる銭の有丈    好春 ※ありだけ。

[鎌]

    野│野原にて愛宕参りの戻り雨   千那
     │ 横ほとゝぎすよこの尻声   木導
    浜│田植舟浜の女の棹馴れて    許六

△ 野、三去。 ㋬       ↑ トップへ

[鶴]

     ┌ あら野の牧の御召撰みに   其角
     │
     └ つれなき聖野に笈をとく   枳風

[韻]

     ┌ 松茸植うる野屋敷の山    米巒
     │
     └ よしのも枯れて冬は来にけり 毛釻

[難]

     │野送りの空にしられぬ袖の雨  杼柳
     │
     │野分たつけしきに梨の張かひて 素然

[続の原]

     ┌ 御湯の笹刈野べのさゝ原   調和
     │ 二
     │花人に苗売つるゝ吉野山    勇招

△ 何里・里、面去。       ↑ トップへ

[このは]

     ┌ 三坂三里に蚊母なく也    団音 ※よたか鳴くなり
     │ 四
     │丸い月押流されて何百里    壮奚

[東山墨]

     ┌ 都は一里よの中の奥     白狂
     ├─ 十三
     │ 十里の山を白書院より    過角
     │ 十
     │甘酒の箱根八里を馬の上    右範

              

[あら]

発句   │一里の炭売はいつ冬篭     一井 ※ひとさとの
     ├─ 五
初ウ1  │里深く踊教へに二三日     長虹

[俳]

     │暦よむ人なき里も安くゐて   半残
     ├─ 八
     └ 敵の首を贈る古さと     園風

[其灯]

     │烏丸といふがお里の事さうな  可枝 ※からすまと
     ├─ 八
     └ 一針づゝに近い里おり    芦丸 ※さと下り=里帰り

[其灯]

名オ2  ┌ 立つてあぶなき里の一つ家  曽平 ※集「建つて」
     ├ 九 同面
名オ12  └ 蘭から稲の中へ里坊     麦林 ※集「里を(○お)り」

[印]

     ┌ 蕪ひくなるしがの古さと   鼓蟾
     ├─ 九
     └ 杉菜一荷を分くる里人    翁

△ 原・村、面去。       ↑ トップへ

[浪化]

     │吉原に馴れねば少し胸騒ぎ   谷水
     ├─ 七
     │なぐれては小原の柴も昼下り  一点

[桃盗]

     │浮島が原とて残る月の色    巴兮
     ├─ 九
     │しの原と申すもこゝら五里三里 柳士

              

[文月]

     │指合もかまはぬ村の名を付けて 栗几
     ├─
     │山一重村は屏風を引廻し    嵐枝

△ 市・町・辻、面去。       ↑ トップへ

[梅十]

     ┌ 市の便りに色々の用     仲志
     ├─ 六
     │市のない日は店先の静にて   有栞
 ※ゆうかん

[笠]

     │すゝ掃の夜は居ふろに市が立ち 連支
     ├─ 七
     │染物を城下の市にあつらへて  蓮二

[拾]

     │冬景や人寒がらぬ市の梅    濁子
     ├─ 十二
     └ 萩ちりかゝる市原の骨    翁

[雑]

     ┌ いとゞ師走の市烏なく    其角
     ├─ 十六
     │市人の肩に棒おく懐手     其角

              

[続さる]

     │相宿と後先にたつ矢木の町   支考
     ├─ 五
     │むしごつる四条の角の河原町  惟然

[梅十]

     │御通りのあと迄町はきれい也  呂杯
     ├─ 十一
     │家作のわるい処が河原町    有栞

[笠]

     ┌ 足軽町は杉の生垣      蓮二
     ├─
     │町の調市の口にや勝たれぬ   連支 ※でっちの

              

〔百羽掻〕

     │三弦の木辻もうらはなく蛙   蓼太
     │ 三
     │白雪に占ひく辻もなかりけり  蓼太

△ 庭・場(ば)、面去。       ↑ トップへ

[古今抄]

 庭、折をかへて四。

 「庭、折をかへて四」と云ふは、古式のさた也。
 支考の巻にも面去の例あり。古式には、庭と場も七去なれども、蕉門には其さたなし。

[行状]

     │夜露にも打たれて庭の月と花  乙州
     ├─ 七
     │大庭に六具をしめて並ゐたる  木節

[雪白]

     │のうれんをはづせば直に月の庭 松宇 ※暖簾を
     ├── 十五
     │川狩の褌を庭に解き捨てて   蟠此 ※ふどしを

[桜山]

     ┌ 雨のふり出にさわぐふしん場 小春
     ├─ 十一
     └ 渡場かはる唐きびの道    支考

[山カタ]

     │渡場もあちらからこす薮一重  栗几
     ├─ 十四
     └ 左すまひの是はふしん場   六之

△ 田・畑、五去。(古今、同じ)       ↑ トップへ

[あら]

     │秋の田をからせぬ公事の長引て 越人
     │ 四
     └ 田にしをくひてなまくさき口 翁

[寒菊]

     │涼しさは堅田の出崎よく見えて 翁
     │
     │田の中にほらせぬ石の年ふりし 翁

[拾]

     │初秋や海も青田の一みどり   翁
     ├─ 六
     └ 田面にむれし鷺の羽をのす  知足 ※たづらに。はを伸す

              

[つばめ]

     ┌ 非蔵人なる人の菊畑     翁
    ㋬│ 三
     └ 小畑も近くいせの神風    翁

[梅十]

     │瓜畑のばんのかはりに朝の月  泊楓
     │ 六
     └ 雪まだ残る岨のはた打    里紅

△ 田に畑変はり、二去。       ↑ トップへ

[山カタ]

     │新道に畑をこぬる大工小家   白狂 ※だいくごや
     │
     └ 寺参りではなうて田廻り   白狂

△ 道、三去。       ↑ トップへ

[雪丸]

     │日傘さす子供誘ひて春の道   曽良
     │
     │落武者の明日の道問ふ草枕   翠桃

[一橋]

     ┌ 土堤に付いたる寺の裏道   湖春
     │
     └ 主をあはれむ道のべの数珠  湖春

[続花]

     │汐のくる道は通さぬはかりごと 乾什
     │
     │卜養の死なれてさびし歌の道  湖十

[桃]

     │息杖のあちらへむけば若狭道  鶴觜 ※いきづえの
     │ 四
     └ からつく道をげたの不拍子  鶴觜

△ 石・岩・砂・土、面去。(古へは、折去)       ↑ トップへ

[一橋]

     │春の雨石の筧の音すみて    清風
     ├─ 六
     └ 石居ばかりおもと一本    清風 
※集「礎ばかり老母草一もと」

[一橋]

     │石買に木賊刈るなる道分けて  才丸
     ├─十一
     │田の中に耕残したる石の塚   清風 ※すきのこしたる

[雑]

     ┌ 石切立てて門の雨露     彫棠
     ├─ 八
     │縁取を押へる石の初嵐     彫棠

[拾]

     ┌ 石ふみかへす飛こえの月   曽良
     ├─ 九
     └ 石碑にねて象潟の月     清風 ※いしぶみに

              

[春]

     │蕨にる岩木のくさき宿かりて  越人 ※いわきの臭き、泥炭のこと
     ├─ 四
     │ 岩の間より蔵見ゆる里    野水 ※いわのあい
     ├─ 15
     └ 岩たけ取りの篭に下げられ  旦藁 ※岩茸

              

[続有]

     │ひら砂にすぐつた様な松のはえ 浪化
     ├─ 十
     └ 小砂ぐるみにうつす鯉鮒   荻人 ※てきじん

              

[鵆]

     ┌ 土をつくねて獣をやく    路通 ※けだものを焼く
     ├─四
     │陽炎の金原つゞき土肥えて   知足


居処(居所)

□ 異居処、越、嫌はず。(古へは三去)       ↑ トップへ

[古今抄]四

 寺に居所は、二句去。御門は、居処に三句去。

[古今抄]二

 体用の差別にて、家に垣の類は、二句去と云へり。

▲ 蕉門には、異居所に嫌なき事は、自ら知りつゝ、ここは古式を従容して書きたれば、用ひがたし。
 其まま下にあぐ。
 偖、居所とは、人の住所なれば「宮・堂・蔵・湯殿・雪隠・門・垣・壁・築地」、又「棚・建具・簾等」の類は、勿論居所にあらず。其類は証句にも及ばず。
 異居所を嫌はざる故は、「巣」の越に「穴・殼」の類を嫌はざるに同じ。

[小文]

    寺┌ 無住に成りし寺のいさかひ  翁
     │持てなしの新剃刀も錆くさり  岱水
    家└ 土たく家のくさき着る物   史邦 ※土=泥炭

[花摘]

    宿│歌よみのあと慕ひゆく宿なくて 釣雪
     │ 豆打たぬ夜は何となく鬼   呂丸
    寺│古御所を寺と成したる桧皮茨  翁

[拾]

    寺│尼寺の春雨くらくしとしとと  昌碧
     │ 釣瓶なければ水のとぎるゝ  聴所
    軒│夕顔の軒に取りつく久しさよ  越人

[桃盗]

   戸口│せどの戸を誰が又明てとぶ乙鳥 巴兮
     │ 紙細工には雨の日ぞよき   蘇由
    寺│夕飯が否とは寺へお帰りか   音吹 ※集「夕飯を」

[其鑑]

    間│上段は高麗縁にみすを捲き   竹洲 ※こうらいべりに御簾
     │ 雲兀げかゝる空に日のあし  千中
    寺│桜さく寺に御講の仲間われ   渭流 ┐三 ※おこう
    庇│ 二重庇のはしに蜂の巣    宜由 │連
   屋敷│繋がれて番の屋敷は日も永し  此柱 ┘続

[笠]

    寺┌ 女はよせぬはずが山寺    広山
     │あの見ゆるこちらの橋に咄あり 連支
   二階└ 二階の雪のはけばふり込む  里紅 廬元

[しし]

   門口┌ 矢にふしぎたつ湯やの看板  知角 ※集、「箭にふしきまつ」
    の│茨きわたす菖も九万八千軒   曽及 ※ふき渡すあやめ
   三続└ 一分の金に店を追はるゝ   観水

[梅十]

    間┌ 明日の用意を床の活花    羽嵇
    の│出代の内は内儀も襷がけ    有栞
    内│ ねはんの斎に寺の追従    七雨
    三│藤橋も風のある日は越えにくい 梅光
    越└ 内は畳を敷いて畚ふり    呂杯 ※ふご(もっこ)振り

[さみ]

   造作┌ 造作寺の蝉に晩鐘      千梅
     │酒と名の付ば酸でも呑みたがる 玉蘭
   作事└ 非番の隙に窓の切張     佐角

[天河]

    店┌ 千種も店をかざる初月    北溟
     │みの笠に及ばぬ雁のたび馴れて 其芳
    軒└ 十軒たらず是も一村     支水

[其鑑]

   産家│産所へはこちの砧はひゞかぬか 田竜
     │ 小鍋のかゆに猫の狼ぜき   山市
    縁│掃きのけて箒をたゝく縁のはし 右兮

[己]

    院│有明の七つ起きなる薬院に   半残
     │ ひさごの札を付渡しけり   翁
   槙戸│秋風に槙の戸こづる膝入れて  良品

[花故]

    家│二つ家はわりなき中と縁ぐみて 一泉
     │ さゝめ聞ゆる国の境目    翁
    間│糸かりてね間に我がぬふ恋衣  北枝
     │ あしたふむべき遠山の雲   雲口
   草戸│草の戸の花にもうつす所にて  浪生

△ 屋、三去。(歌仙に四、五)(古へは、七去)       ↑ トップへ

[あつみ]

     │月出でばせき屋をからむ酒持て 曽良 ※関屋
     │
     │鳥屋篭る鵜飼の宿に冬の来て  翁

[俳]

     ┌ しゝが谷へも豆腐屋のゆく  支考
     │
     └ あたごの灯篭並ぶ番小屋   翁

[だて]
[雪丸]

     │黒木ふすぶる谷かげの小屋   北鯤 ※集「くろきふすべる」
     │
     └ 水の岩屋に仏造りて     嗒山 ※集「みつ(三つ)の岩屋」

[ひさご]

     │見知られて岩屋に足も止られず 泥土
     │
     │月花に庄屋をよつて高ぶらせ  珍碩

[其日]

     ┌ ぐちより金の延びる豆ふ屋  従吾
     │
     └ 晩の月見をさぞ庄屋殿    吾由

[つくも]

     ┌ 昼ねもろくにさせぬ小借屋  玄敲
     │
     └ 庄屋と見えて薮に白壁    拠遠

[笠]

     │昼飯に一丁程ある大工小屋   蓮二
     │
     │名古屋より遙々ぎふへ屋越して 蓮二 ※はるばる、やごしして

△ 商号の屋、五去。(古へは、折去)       ↑ トップへ

[浪化]

     ┌ けあげの茶屋の首尾も一段  支考
     │
     └ 紺屋のせどを流れくる川   牧童

[文月]

     │名月に酒屋のねるは不心得   杞音
     │
     │呉服屋は花にこてふのうり詞  栗几

[花摘]

     ┌ 青屋が涙爪にあゐしむ    仙化 ※あおや=藍染屋
     │ 六
     │たび姿直に揚屋の月を見て   其角

[雑]

     ┌ 包銭やる湯屋の三方     普船 ※さんぼう
     ├─三
     └ 亀屋の夜着も人の代ざかり  其角 ※集「さかり」は「昌」

△ 家、音訓変はり、二去。       ↑ トップへ

[翁]

     │勤めとて直に院家の廻らるゝ  里圃 ※いんげ=出家した公家
     │
     └ 繩でからげし家邪みけり   里圃 ※ひずみけり

[藤]
短歌行

初ウ7  │ぬり笠の花も昔の片山家    吏研 吏碩りせき ※かたやまが
     ├─ 二
名オ2  └ 仮家の所帯運ぶ家渡     吏研 風露
 ※やわたり=引越

△ 家・宿・門(もん)・門(かど)、五去。       ↑ トップへ

[雪丸]

     │尋ぬるに火を焚付くる家もなし 曽良
     ├─ 四
     └ 砧打たるゝ尼達の家     曽良

[笈]

     │二三軒家の後の花ざかり    許六
     ├─ 三
     │月雪に飛弾の金森家ふりて   支考 ※金森家は、高山藩主

              

[袋]

     ┌ 各武士の冬ごもる宿     翁  ※もののふ
     │ 四
     │住かふる宿の柱の月を見よ   曽良

[笠]

     │順礼の札置いてゆく報謝宿   諷左 ※巡礼
     ├─ 八
     └ 木賃の宿はかべも雨もり   箕白

              

[梅十]

     │門跡のお成りに山の奥迄も   梅光
     │ 三
     │門前の闇に小僧のわる狂ひ   り光

[炭]

     │ 門で押さるゝ壬生の念仏   翁
     ├─ 六
     │門〆てだまつてねたる面白さ  翁

              

[やわ]
四十四

二オ6  │ 門田の稲のもはや色づく   乙甫
     │ 5
二オ12  │大津せつたの門にじやらつく  季邑

[笈]

     │門〆てはひれば寒き松の月   卓袋
     ├─ 七
     │有明けて籾ほす門の秋日和   土芳

△ 戸・垣、五去。       ↑ トップへ

[白ダラ]

     ┌ 縁に戸板のころぶ夕月    北枝
     │
     └ 栞戸明けて欠して出る    北枝 ※あくびして

[むつ]

     ┌ 戸板に張りし庚申の札    材舟
     │ 四
     │冷水の錠を捻くる井戸のふた  材舟

[山カタ]

     │背戸からも月門からも月の影  白狂
     │ 三
     │我口に戸は立てずして大工ども 右範

              

[売]

     │ちる花に垣根をうがつ鼠宿   嵐雪
     ├─ 三
     │柴垣の古き都は荒れにけり   翁

[藤]

     ┌ 芋種もゆる岨の猪垣     隆五
     ├─
     └ 垣の詠めの胡瓜浅瓜     里紅

[やわ]

     │さし覗く双六寺の一重垣    自笑
     │ 八
     └ 馳走は垣に枸杞の和物    播東 ※くこの

△ 壁と塀変はり、五去。       ↑ トップへ

[山琴]

     │さく花の壁にうつりて皆白し  嵐青
     │
     │寺に似た家に塀から白つばき  荻人

[深川]

     ┌ 太刀長刀の光る塀ごし    桃隣
     ├─ 七
     └ 釈迦に賛する壁の懸物    杉風

△ 住・窓・柱、面去。       ↑ トップへ

[あら]

     ┌ こそぐり起す相住の僧    落梧
     │ 七
     └ 山伏住みて人叱る也     野水

[拾]

     │雪毎に梁たわむ住ひかな    岱水
     ├─
     │誰かすむらむ碑の銘の露    雨洞

              

[柿]

     ┌ 窓に火灯す十年の雨     呂物
     ├─ 十二
     │一寝入して其後は窓の月    丈草

[続虚]
二十四句

第三   │榧をひる嵐の窓の月澄みて   其角 ※かやを簸る
     ├─十四
18    └ たゝぬ戸立つる稲妻の窓   露荷

              

[汐]

     ┌ 小便に片手懸けたる縁柱   柴友
     ├─
     │朋輩の中に立てたる此柱    柳詞

△ 店・棚・畳、面去。       ↑ トップへ

[六行]

     │蒟蒻の仕にせの店も荒果てて  東雄
     ├─十五
     │娵娘茶店あがりの山戻     壺天

              

[さる廻]

     │たつ春の茶初穂汲みて棚の上  種文
     │ 十二
     └ 埓の明いたる禅の盆棚    史邦

[江戸]

     │古寺の畳をふめば物こける   風葉
     ├─ 十七
     │姉共に留主と見えたる袖畳   風葉

[難]

     │秋已にむほんを工む四畳半   杼柳 ※たくむ
     ├─七
     │月かげを入れて畳に藺の匂ひ  丈志

△ 庵・隣、折去。       ↑ トップへ

[こせむ]

     │梺より花に庵を結びかへ    曽良
     │ 十四
     └ 庵より見ゆる町のしら壁   致画 
※いおより

              

[ぶり]

     │黒谷の隣に白きけし畑     閑鹿
     ├──
     │何事も花の隣の懇に      素冠

[三笑]

     │隣には内儀のるすの薄月夜   播東
     ├──
     │よい所へ隣の人の来かゝりて  昨嚢 ※よいとこへ

△ 風呂、折去。       ↑ トップへ

[梅十]

     │新湯の辞義のはてぬ居ぶろ   泊風
     ├─
     └ 浴衣一つにふろの夕ぐれ   里紅

[山カタ]

     │山寺の湯ぶろは熱い名の立ちて 栗几
     ├──
     └ 忘れた秋をおこす水ふろ   野航

△ 普請、折去。       ↑ トップへ

[三日]

     │見た所軽いふしんと人はいふ  麗線
     ├──
     │普請して見せねばせぬも同じ事 宗知

△ 家敷(屋敷)・家根(屋根)、折去。       ↑ トップへ

[雪の光]

     │折節は目に触れてよき下屋敷  智貞
     ├─
     └ 家しきの衆のけふは布引   松吹

[雪の光]

     ┌ 中で取つたる家根の麦がら  許六
     ├───
     │雨乞の踊りの代に家根ふきて  李由

[炭]
百韻

初ウ12 ┌ 椋の実落つる家根くさる也  野坡
     ├──十七
二ウ2  └ 戸でからくみし居ふろの家根 野坡 
※絡組みし、すいふろの屋根


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