貞享式海印録巻三 神祇・無常・釈教・乾坤

貞享式海印録 巻三② 索引
神祇神祇、二去神の字、面去宮、面去
祭、折去神に釈・無常、付句非神物・神祇、越、嫌はず
神・釈、越、嫌はず神・無常、越、嫌はず
無常異無常、三去同体、無常、面去
無常、二句続死、折去
釈教釈教、二去非釈物・釈、越、嫌はず寺・坊、面去
寺、音訓変はり、五去仏・菩薩、類変はり、二去
仏の字、面去僧・尼・講、面去釈・無常、越、嫌はず
乾坤乾坤の論雨言ひかへ、三去雨、同訓、五去
時雨、折去降物変はり、二去降り物に、聳・雷・空、越、嫌はず
降り物に、降・聳、風、付句霜、面去露、面去
雪、面去氷、面去風、言ひかへて、二去風、同訓、三去
嵐・颪、折去春風、秋風、折去風に、吹・寒、越、嫌はず
風に、降・聳、越、嫌はず聳え物、二去雲、三去
霞・霧、折去煙・陽炎に降・聳、越、嫌はず聳え物、付句、並に雷
空に天人、晴れに照り、越、嫌はず空・影、五去
照・晴、五去闇・曇・光・天、面去天気、折去
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻三、神祇・無常・釈教・乾坤を見る。


貞享式海印録 巻三

神祇

□ 神祇、二去。(古へは、三去)㋬       ↑ トップへ

 神祗(しんぎ)を景物とするは、御国の上つ代を慕はしめて、誠の道に誘ふ設けなるを、今の人のさかしらに、祢宜の次は押勧化(おしかんげ)と謗り、鳥居の後は鳩の屎に汚して、そを滑稽と心得けるは、風雅には遠き人ならむ。
 そも、俳諧は天地を拈挙して、諸の情を催さしむる物なれば、兼て知るべきは、其物々の本情ぞかし。

[深川]

     ┌ 那智の御山は春遠き空    嵐蘭
     │町中の鳥居は赤くきよんとして 翁

[誰]

     ┌ む月晦日のいもひする家   才丸
     │祈りする祭りの中を押され出で 才丸

[梅十]

     ┌ さあ只今とふるゝ寒ごり   五雨
     │大木は見えても宮の小さゝよ  仲志

[別座]
晩鐘を

初ウ6  ┌ 毎年の秋は配る御祓     杉風 ※集「毎年秋は」
     │ 四
初ウ11  │こんもりと鳥居隠るゝ花の中  子珊
 歌仙四所├─七
名オ7  │拵へて明日の祭りをねつて見る 杉風 ※こしらえて
     │ 三
名オ11  │片曽木の末社は横に転け玉ふ  杉風 
※集「片そぎ~こけ給ふ」

 歌仙に神ばかり出て、釈出ぬも、釈ばかり出て、神出ぬもあり。神祗は、趣向少き故に、多く出でたるはなし。

[百囀]

     │氏神の花も盛りに咲揃ひ    支考
   付句└ 鳥井を越えて延びる青柳   支考 ※鳥居

 神祗付句の例は、多けれども、略す。

△ 神の字、面去。(古へは、折去)       ↑ トップへ

[其鑑]

     ┌ 祭りの恋は神も見許し    鷺洲
     │  七
     └ 踊上戸のかつらぎの神    雲里

[なむ俳諧]

     │頭巾きてどれも咳気の神心   汶東
     ├─九
     │赤飯はどこからけふの神送り  里鳳

[雑]

     │俗名をあがむる神も所柄    楊水
     ├─
     └ 道祖の神の見ゆる陽炎    普船

[庵記]

     │子を連れて御礼参りに薮の神  楚山
     ├─
     │ 植口あくる神の苗開     露川

[たそ]

     │浮名をば糺の神もどちへやら  北枝
     ├─
     └ 小豆にめでよ疱瘡の神    八紫

△ 宮、面去。       ↑ トップへ

[花摘]

     │宮川にすべる様なる月のかげ  其角
     ├─十二
     └ 神さびかすむ総一の宮    柴雫

[やへ]

     ┌ 我れに幸あれ弁天の宮    只丸
     ├─
     └ むし取りにゆく苔の古宮   伊良

△ 祭、折去。(古へは、百韻二)       ↑ トップへ

[梅]

     ┌ 米の出来れば祭礼のさた   羽嵇
     ├──
     │御祭にはこちも小僧も初参り  蓮二
     ├──
     │祭場の太鼓の音の近うなり   蓮二

[八夕]

     │角もじのいわし鱠に牛頭祭   宇中
     ├──
     │戯れも讃仏乗の壬生祭     尚流

[山カタ]

     ┌ 祭過ぎても里の大名     東羽
     ├──
     │土器で祭るなおれにや茶碗酒  白狂

[文月]

     ┌ 祭らぬ星も出て遊ぶ空    柳鼓
     ├───
     │祭りには不明の門もあくとやら 野航

△ 神に釈・無常、付句。(多例省)       ↑ トップへ

[拾]

     ┌ 出水に下る宮の材木     翁
    釈│世渡と関に道ある寺のせど   其角

[類]

名ウ3  │手力雄大飯くひを守り玉ふ   沾洲
  4 釈└ 此御出頭千手観音      其雫 
※このごしゅっとう

              

[己]

   無常┌ 死なずば人の何になるべき  土芳
     │神風や吹起されてかい覚めぬ  翁

[其袋]

   無常┌ 骨の供して御国迄ゆく    百里
     │迁宮にあはぬ涙もかゝる哉   嵐雪 ※せんぐう、遷宮

△ 非神物・神祇、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 ゑぼし・装束・宮家・鈴・雛・七夕祭の類、暦・天文・占・初午・玄猪、時節に作る。

[山琴]

    ・┌ ゑぼしも脱がず除夜の転たね 凉菟
     │あちらから嘘つく時は此方から 巴兮 ※こちらから
     └ 引きはかへさじ弓矢八まん  曽北

[類]

    ・│隼の祭見る間や峰の月     秋東
     │ 無地には染めぬ千丈の蔦   貞佐
     │事とへば畑の主も神の秋    応三

△ 神・釈、越、嫌はず。(七部及多例省)       ↑ トップへ

 神釈打越を嫌ふは、古風の涅覔(ねちみゃく)也。
 蕉門には、故なき事に。去嫌を立てず。
 「禰宜、法印の中垣を見て、今も隔つる事と思ふは、愚也」といふに、傍の人難じて曰く、「然らず、神道、仏道ともに道也。あに嫌はざるべきや」。

 答へて曰く、「道をとくをもて嫌ひといはば、国王聖賢の道も、千筋に文道も亦多岐也」。
 客代りて曰く、「神仏、元一体ならずや」。

 答へて曰く、「昔祖翁、御傘の式を改めし物、限りなし。其故を説きし書なくとも、一理万通すべし。若し、打越に米あらむに、餅も、飯も、酢も、酒も元一体とてきらはむや。さばかり遠慮なくとも、好物あらば、君がまにまに」と、一座の人々をうなづ(か)せける。

[一]
百韻
見渡せば

     │銭の数素戔雄よりもよみ初めて 翁
     │ 正哉勝々双六にかつ 似春 
※まさやかつかつ、正哉勝勝速日天之忍穂耳命
    名│思へらく軽板は釈迦の道なりと 翁  ※かるたは。「釈迦十」の札あり

[春と秋]?
衣装して

名オ1  │講堂に僧立並ぶ春のくれ    嗒山 ※集は、前川の名
  2  │ 流れに立つる悪水の札    曽良
  3  │形代にまな箸ならすしめの内  翁  
※集「生膾箸、なまばし」、真魚箸と異なる

[天河]

     ┌ 尊い事はお文様にも     北溟 ※集「御文にも櫛」、源氏「玉鬘」
     │外にない此味はひのとろゝ汁  其芳
     │ 山は兀げても神は在します  支水
     │横雲の裾ふく風になく烏    仙潮
     └ 和尚は愚ちにたばこ好き也  雲二 ※ぐ痴に、

[なむ俳諧]

     │光明を放ちて駕にお上人    汶東
     │ 公事はころりと負られたげな 陲夜
     │さん用の二つ違ひしえびすかう 支考

[むつ]

   天部│大黒は棚に転んで守るらむ   嵐雪
     │ むりづくめにて済す年寄   素秋
     │尼寺の夜食は二時の物にます  東潮

[長良]

     │縁日の天神ばしはいつも闇   琴風
     │ 商ひするもあれは慰み    梨雪
   神仏│持仏へも朝寝はばゝのお断り  霜烏

△ 神・無常、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[蓬]
海くれて

    神┌ 鳥居兀げたる松の入口    工山
    釈│笠敷いて衣の破れつゞりゐる  桐葉
    無└ 秋の烏の人くひにゆく    翁

[拾]
[金蘭集]
さびしさの

名オ4  ┌ 節句の宵に祭重なる     丈草
  5  │町端の埃掃きためて火に燃す  鼠弾 ※集「日を燃す」
  6  └ 死を忘れたるぢゞの岩畳   翁  
※がんじょう

[草刈]

     │死ざまは銭六文に草枕     従吾
     │ 烏の日ぐれ鷺の明ぼの    牧童
     │海士小舟浜の鳥井に波よせて  林陰

[梅十]

    神│大木は見えても宮の小さゝよ  仲志
    釈│ 六部の宿をかさぬ所也    梨雪
    無│聖霊にほしか嗅がする浜の月  蓮二


無常

□ 異無常、三去。(歌仙に、三迄)(古今、同)       ↑ トップへ

[秋]
粟稗に

初ウ6  ┌ 死んで間のなき玉祭る也   越人
     │ 三
初ウ10  └ 白き袂の見ゆる輿舁     翁  
※こしかき

[拾]
[金蘭集]
さびしさの

名オ6  ┌ 死を忘れたるぢゞの五調岩畳 翁  ※がんじょう
     │ 三
名オ10  └ 墓に物いふ秋は来にけり   鼠弾

[ぶり]

     ┌ 世を朝顔の花に驚く     巻耳
     │ 二
     │掘つて来る薬も頼み少なくて  凉菟

[星月]

     ┌ さゝげも芋もかるゝ玉棚   松波
     │ 二
     │神垣を恐るゝ喪屋の火の汚れ  文翅 
※けがれ

[難]

     │野送りの空にしられぬ袖の雨  抒柳
     │ 四
     └ 父聖霊もさぞやうり家    高莄

[みかん]

     │母方にはなれて月の物さびし  雪芝
     │ 四
     └ 先度の風に人死がある    支考

[一橋]
とまり江や

初ウ2  ┌ なくなく消ゆる幽霊のきぬ  清風
  歌仙に│ 二
初ウ5  │子を殺す愁ひは夜の子規    才丸
  五所㋬├─七
名オ1  │田の中に掘残したる石の塚   清風
 此外なし│ 八
名オ10  │ 誰が人魂の空にゆくらむ   才丸
     ├─四
名ウ3  │懐の骨はかへらぬ世なりしを  才丸

△ 同体、無常、面去。       ↑ トップへ

[蓬]

     ┌ 秋の烏の人くひにゆく    翁
     ├─
   死人└ 早桶急ぐきえがたの露    翁

[印]

     │あなむざんやな甲の下の蛬   翁
     ├─
   戦死└ 去年の軍の骨は白ざれ    鼓蟾

[拾]
此里は

     ┌ 春ともいはぬ火屋の白幕   桃鯉
     ├─五
   葬所└ 秋風すごし義朝の墓     桃先

[草刈]

     ┌ 年寄の身のあすはしら露   牧童
     ├─
   老死│よい人であつたが爺は死れけり 烏水 
※じじは

[白雪]

     ┌ 何の無心に幽霊は来る    嵐七
     ├─
     │あら閻浮恋しといひて竹の杖  露丘 ※えんぶ=現世

△ 無常、二句続。(多例、省)       ↑ トップへ

 世に、無常一句捨と云ふ掟あるは、非なり。悼みの発句、脇は、大方無常にて仕立つる物なれば、さる法は、なき理也。

[次韻]

     │灯をくらく幽霊を世に返す也  其角
     └ 古きかうべに鬘引つかけ   翁  ※かつら

[鶴]

     ┌ 浮世の露を宴の見納め    執筆
     │憎まれし宿の木槿のちる度に  文鱗

[さる]

     ┌ 何を見るにも露ばかり也   野水
     │花とちる身は西念が衣着て   翁

△ 死、折去。       ↑ トップへ

[己]

     ┌ 秋たつ蝉の鳴死にけり    翁
     ├──
     └ 死なずば人の何になるべき  土芳

〔新白〕

     ┌ 死なれた人の状の名をよむ  乙由
     ├───
     │死ぬる身も十夜のうちは果報也 唐庭


釈教

□ 釈教、二去。(古へは、三去)       ↑ トップへ

 釈教とは、三世因果を説いて、六道輪廻を断たしむる事をいへり。
俳諧の本意も、禅にこそあれ。此故に、句毎句毎の変化を教へて、前句の執念を断たするは、風月の遊戯より、悟道の本源に誘ふ翁の深意也。
 されば、釈の句作らむにも、其本意をしるべく、知りて自在を扱ふは、素より禅俳の宗也けり。

[拾]
〔鵜の音〕
ひき起す

名オ9  │懸合に申して通る鉢叩     翁
     │ 二
名オ12  └ 盆の仏の名はあまた也    野童 
※集「名にあまた」

[俳]

     ┌ ざれたる窓に鉦の音きく   江山
     │
   回向│道心の訪うて悲しき野べの墓  一竜

[鶴]

     ┌ 笑へや三井の若法師ども   コ斎
     │
   寺号│あし引の盧山に泊る淋しさよ  楊水

[東花]

    ┌ 胡瓜見てゐる山寺の僧    支考
     │ 二
初オ5寺中│お談儀も盆のぞめきの高灯ろ  琴左

[其袋]

     ┌ いづくの僧ぞ札配りゆく   嵐雪
     │ 二
    僧│新発知背は秋葉の二三尺    立吟 
※集「小新発意(こしんぼち)勢は」

[新百]
百韻
凩の

名ウ2  ┌ ちさいびく尼の槍持につく  支考 ※比丘尼
     │ 二
名ウ5 僧│狸ではないか山路をゆく坊主  団友

[難]

     ┌ けふの精進は鯖江さう也   山隣
     │ 二
   縁日│九日に薬師参りはうさん者   高莄

[汐]

     ┌ 観音様のけふは仏餉     柴友 ※ぶっしょう
     │
   飲食│旦那から戒められし飲酒戒   辰徉

              

[きく十]
後朝に

初ウ1  │斎くひてねてゐる牛も二三匹  乙甫 ※集「斎(とき)喰ふて」
  歌仙五│ 五
初ウ7  │あの袖をふるとてけふも壬生参 伯兎
  所出た│ 三
初ウ11  │法印の後に誰やら袴きて    塵生
  るは例├─三
名オ3  │法談の下手は嘘かと思はるゝ  伯兎
  多し │ 三
名オ7  │催促もない仏へは猶ぶ礼    塵生
     │ 四
名オ12  └ 名は何とやら山の坊様    塵生

              

[壬]
[何袋]
鴬の

     │東山中にも花は清水寺     乍木 ※さぼく
   京寺│ げに長閑なる知恩院のかね  一桐 ※ちおいんの鐘

 釈二句続の事は、皆よく知りたれば挙げず。

△ 非釈物・釈、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 庵・坊・院・寮・笈・撞木杖・頭陀袋・鐘・十徳・常の衣・行脚・坊主子・寺子、西行・長明・布袋の風流人・木像・先祖・伯父の説法・呑は極楽・迷悟・閻魔、鬼地獄、寺号の村名(僧正が谷・寺町・数珠屋町)、数珠懸鳩、盆・彼岸・十夜(時節に作る)、菩薩樹(菩提樹)・けまん(華鬘)の類。

[芭蕉談]

 東武の会、盆を釈とせず。嵐雪、是を難ず。翁曰く、「盆を釈といはば、正月、神祇ならむ」と也。

[むつ]
生憎に

名ウ2  ┌ 彼岸七日を天王寺山     桃隣
  3  │ちる花を風に吹きこむかます銭 介我
  4 院│ 施薬院より若草をつむ    其角

 寺と院、越しても、異居所なればよし。

[二見]
[幽蘭]
三十句
皆拝め

12  庵┌ いなり参りに縁かりし庵   曽良
13   │朝月の柱にかゝる作の面    岱水
14   │ 尊とや僧のせがきよむ声   宗波 ※とうとや
15   │侍が身をかへよとや秋の蝉   翁  ※集「侍の」
16 笈?└ 笈の内にも夢は見えけり   路通 
※集「おもひの内にも」

[夕顔]

     │看経の真昼中は名に立ちて   利立 袁立
     │ 須磨のせき寺幾夜丸腰    宰陀 ※集「関もり幾代」
    鐘│風?氷る一夜一夜に寒うなり  白鳳 ※集「鐘のこゑ」

[句兄]

     │病中を乳母の尼に逢ひたがり  其角 
     │ 琴の下樋に何を入れけむ     ※したび=琴の空洞
 長谷の鐘│在所でも余所に聞きなすはせの鐘

[梅十]

   十徳│十徳に秋の埃りを遠ざかり   蓮二
     │ 縁に茶瓶の茶をあふぎ立て  桃川
     │内証は言うてやらねど斎のかね 仲志

[文月]

    衣│衣さへ着ねば牛とは見えぬ也  柳鼓
     │ 揚屋めかして雨ののうれん  嵐枝
     │精進とあれば鮑は片思ひ    市狂

[売]

     │舌根の念仏にやする居士衣   嵐雪
     │ 小城は稲の中につゝ立ち   翁
     │〓砧上手也          嵐雪

[浪化]

   西行┌ 凡そ久しき西行の跡     林紅
     │蛬物の葉毎に鳴きのこり    胡中
     └ 瓦きらつく寺の月の夜    吏全

[其袋]
味酒に

名オ5長明│長明と浮世咄さむ山の奥    嵐雪
  6  │ 松風の音地震又ゆる     鋤立
  7  │闇きより心のそこる定の内  立志 
※集「心の底凝(そこる)定(じょう)の内」

[壬]

     │山伏につひ成つて来て札配る  苔蘇
     │ 一り行きても宿をとる旅   玄虎
   布袋│懸物の布袋の顔に月さして   雪芝

[夕顔]

   先祖┌ 先祖のたびへ頭を入れて見る 李賦
     │着と早留主のやつれを恩にきせ 大圭
     └ 文箱の中は古仏也けり    白鳳

[一]
見渡せば

     ┌ 狸のこつちやう如来寺の秋  似春
     │狼や香の衣にちる紅葉     翁
  僧正谷└ 尸導く僧正が谷       似春

[一]
物の名も

三ウ4地獄┌ 地獄破りや芝居破りや    翁
 5   │小柄ぬき剱の枝の撓む迄    信章
 6 天堂└ 滅金の光り握る修羅王    信徳 
※集「めつきの日影」

[いせ]

     │一つ家の天目に酔ふ満願寺   珍舎
     │ 紅畑からばゞが出て来る   菊二
  数珠懸│曇る日は数珠懸鳩の疾起きて  東里

[未来]

   彼岸│一通りひがんの花の咲きちりて 嵐雪
     │ 日永に廻るさがや太秦    其角
     │暖に綿子とらせむ弱法師    嵐雪 ※よろぼうし

[たそ]

    盆┌ 盆の心も荻に静まる     右範
     │米買の仰むく空に秋もはや   野航
     └ 和尚の目には鏡より猶    馬岐

[山中]

   十夜│昔から十夜は月夜頓て雪    凉菟
     │ あちらへ越して舟を見廻る  昨嚢
     │花鳥の烏の中に鉢坊主     琴之

 此外、二の巻、表嫌はざる物の部にもあり。

海印録、巻二「表に惜しまないもの、△非釈物並に鐘」を見る。

△ 寺・坊、面去。(古へは、折去)       ↑ トップへ

[三匹]

     ┌ 月澄みわたる寺々のかね   里臼
     ├─七
     │寺の小僧のたゝかるゝげな   季覧 ※集は、たゝかれるげな

[草刈]

     │山寺のこんな月夜は薬也    烏水
     ├─八
     └ 俳諧仕たき寺がある也    牧童

[山琴]

     │寺にゐる心のごとくきれいさよ 巴兮
     ├─九
     │芳飯も昔にかへるびく尼寺   柳士 ※ほうはん=具載せ汁掛飯

              

[さる廻]

     ┌ 畚に赤子をゆする小坊主   史邦 ※ふごに、もっこ
     ├─十一
     └ 公事に負けたるならの坊方  翁  ※ぼうかた

△ 寺、音訓変はり、五去。       ↑ トップへ

[小文]

初ウ2  ┌ 石町なれば無縁寺のかね   翁  ※集「石丁、こくちょう」
     │ 五
初ウ8  └ 無住になりし寺のいさかひ  翁

[春]
なら坂や

名オ9  │一夜かる宿は馬かふ寺なれや  野水
     ├─五
名ウ3  │漣や三井の末寺の跡取に    旦藁

[梅十]

     │山懸けて五石にたらぬ国分寺  蓮二
     │ 六
     └ ねはんの斎に寺の追従    七雨

△ 仏・菩薩、類変はり、二去。       ↑ トップへ

[誰]

     ┌ 花の弥生のはせの観音    其角
     │
     └ 角力仲間に祈る自己仏    才丸

[夕顔]

     │冷やかに観音よりも我が力   円入
     │ 三
     │何菩薩花は白きを後にする   我笑

[鶴]

     │岩根ふみ重き地蔵を荷ひ捨て  其角
     │ 四
     └ 千声唱ふる観音の御名    其角

△ 仏の字、面去。(古へは、音訓、折去)       ↑ トップへ

[四幅]

     │毎日の鐘も聞えて仏在世    曽北
    音├─十
     │ 先づ大仏に肝がつぶるゝ   凉菟

[藤]

     │明り窓付けて仏間も四畳半   和菊
    音├─十
     └ 念仏は棚へ皆はなし講    東吾

[俳]

     │石仏いづれ欠けぬはなかりけり 路通
    訓├──
     │仏には筺の花を奉つる     惟然

△ 僧・尼・講、面去。       ↑ トップへ

[星合]

     ┌ 薄べり敷いて僧堂の月    正秀
     ├─十
     │草村に寝所替ふる行脚僧    丈草

[雑]

     │よしの山仏法僧のことし鳴く  楊水 ※今年
     │ 十
     └ 奥は栞の僧正が谷      普船

[二見]
[幽蘭]
三十句
皆拝め

14   ┌ 尊とや僧のせがきよむ声   宗波 ※とうとや
     ├─十一
26   └ 子ながら僧のはづかしきぞや 岱水

[天河]

     │尼寺の花さけばこそちりもすれ 其芳
     ├─
     │鉢巻に尼入道も田刈時     楚由

[鎌]

     │湯講はじまる里坊の秋     木導
     ├─
     │暮れぬ内から御命講押しあふ  千那 ※おめいこう

△ 釈・無常、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 古今の変化、陰陽の消息は、人界の恒なるを、仏道には無常といふは、仏土は常住不変なる故也。
 其中にて、俳諧に無常といふ物は、死去、衰亡の変をいへり。そは人界の様なれば、世出世異なる釈と、越を嫌ふべき理、露もなけれど、釈氏専ら無常を説く故に、同じ物と惑ひけむ。
 夫れ、仏は、草木、国土、悉皆の誓ひをもて、洩さず化益(けやく)すれば、仏の道にとくとて、釈の越に物を嫌はば、国土の中残る物なからむ。
 そも、俳諧は、花鳥風月に日を送るためにもあらず、奇言怪語に人を驚かすためにもあらず。
 かゝる法界の理を貫通する捷径(しょうけい、近道)の学なる を、俳門に入り、却つて物理に暗くなる人あるは、作家の教へ。宜べ(むべ)ならぬ故也。
 譬へば、墓は亡跡なれば無常、卒兜婆(卒塔婆)は、供養具なれば釈也。
 若し、是を墓に立つる物とて、嫌はば、水も、花も、米も、銭も、土器も、灯篭も、皆々越を咎めむや。そとば立てぬ塚も、世に許多(あまた)あり。墓に立てぬそとばも、亦あり。
 左の例を見ば、疑念はれなむ。

[拾]
[継ハシ]
すずしさを

名オ4 塚┌ ぬし討たれては香を残す松  素英
  5  │晴るゝ日は石の井撫でる天乙女 清風
  6 経└ 艶なる窓に法花よむ声    翁

[拾]
[幽蘭]
雪ごとに

名オ4 塔┌ 九輪は落ちて青石の塔    曽良
  5  │一かいの松動くほどふく嵐   岱水 ※ひとかいの
  6 尸└ むくろばかりを残す夕月   嵐竹

[句餞]

名オ4 尸┌ 捨てし尸のよみがへりたる  沾蓬
  5  │行尽す五天の昔法もなく    其角 
※集「五天むかしの」、のりもなく
  6 僧└ 髪ある僧に鐘つかせきく   露荷

[一橋]

    尸┌ 小雨にもゆる埋草のほね   湖春
     │布子きて布子にかへる北の果  清風
    仏└ 終にこたへず黄檗の釈迦   湖春

[蓬]

    塔┌ 五重の塔のほとり夕ぐれ   桂楫
     │鶺鴒の尾を蜘のゐに懸けられて 叩端
    死└ 風に身をおくけふの討死   桐葉

 運び相似たるごとく見ゆる例を、少しあぐ。


乾坤(けんこん)

□ 乾坤の論       ↑ トップへ

 蕉門の去嫌に、「天象」と云ふは、「日・月・星辰」に限り、降物と云ふは「雨・露・雪・霜・霧・霰の類」をいひ、「氷は水」に属し、「風」は一体異也。
 聳物(そびえもの)とは、「雲・霞・虹・霧・靄・曇の類」をいふ。
 霧の両部に渡るは、「谷・岸」の山・水に属する如し。
 「稲妻電光」は、光物と云ひ、「天・空・和日(にわ、普通日和と書く、穏やかな天気)・泙(なぎ)・天気・照・晴・闇・朧等」は、乾坤の雑部に入る。
 かく六に分て、各越を許すは、付句の害なからしめむため也。

 机前の客、難じて曰く、「『月・日・星』に『降・聳・風等』を嫌はぬは、宇宙の物なれば、さもあらめど、『天・空』を嫌はぬは、其の理聞えず」。
 陳じて曰く、「夫れ『天・空』は、上界也。三光、其の中を廻る。又、国土は下界也。人物、其上に生ずれども、是を隔てず。天、何ぞ日月を防がむや」。
 又、問ふ、「『照・晴・闇・朧の類』は、三光とは体・用<の関係>ならずや」、
 「然り、人倫の越に『噂・支体(肢体)・情・態芸等』を忌まざるに等し」。
 猶問ふ、「雲は風に起り、風に鎮まる。何ぞ、越を厭はずやあらむ」。
 諭して、曰く、「『雲・霧・烟・雨の類』、風と争ふ時は、必らず動く。動く物、夫のみならず、草木なびき、鳥冲り(ひいり、高く飛び)、浪逆だつ迄、万象、風気を受けざる物なし」。
 客曰く、「従来の論、明かに知りぬ。今はた請益せよ、乾坤の物の句去を定められし事を」。
 微笑して曰く、「三光は、人倫二去に比し、『降・聳』は、『生・植・衣・食類』の二去に類す。『稲妻』は、同じ光物と思ふらめど、三光に越を嫌はぬは、『鬼・仏』の人倫に異なるごとく、『降・聳・風光・天晴等』の各(おのおの)かはりて越を憚からぬも、『山・水・場・居所』の互にして論なき如し。天の覆ふ処、地の載る所、何ぞ二つの理あらむ。もし、天地の制度に別有りといはば、そは人理の迷雲にて、争でか(いかでか)明覚の暁に到らむ」といふに、其人、大悟の横手を打ち(よこでをうち、思わず掌を打合し)ぬ。

△ 雨言ひかへ、三去。(歌仙に、三四)       ↑ トップへ

[古今抄]

 あめ・さめにかはりては、百韻に六も七もあるべき也。

[既望]

     ┌ 城とり廻す夕立の影     狢睡
     │
     └ 衾作りし日は時雨けり    蓮香

[俳]

     ┌ 雨に肥えたる峰の早わらび  奇香
     │
     └ 出よときほふ舟のむら雨   官江

[三日]

     │川のない所は雨に田を植ゑて  霤石
     │
     │殊更に時雨た月を秋の色    柳江

[射]

     ┌ 野中の杜に過す夕立     渭白
     │
     └ 秋の雨とて定まらぬ空    自笑

[一]
須磨ぞ秋

二オ1  │血の道気恨む幾日の春の雨   似春 ※ちのみちき
    ㋬│ 二
二オ4  └ 時雨の松の針立をよぶ    翁

△ 雨、同訓、五去。       ↑ トップへ

[壬]

     │秋風の雨ほろほろほろと川の上 土芳
     ├─四
     └ 哀れにぬるゝ雨の白鷺    雪芝

△ 時雨、折去。       ↑ トップへ

[桃白]

     │見かへれば家に日のてる村時雨 濁子
     ├───
     │初時雨六里の松を伝ひ来て   翁

[白扇]

     │其かげや時雨て雲に一昔し   北枝
     ├──
     │露白く時雨て晴れて夕薬師   従吾

[雑]

     │村時雨十夜の内を案じけり   渓石
     ├──
     │蔀する北の家陰の露時雨    渓石

[後桜]

     ┌ けふの芝居の露ぞ時雨るゝ  木道
     ├──
     │ 宗旨自慢の御命講時雨るゝ  木因
     ├──
     │西様としらで江口が秋しぐれ  支考 ※さいさま、西行のこと

△ 降物変はり、二去。(七部及多省)㋬       ↑ トップへ

[冬団]

    霜│霜覆ふ蘇鉄に冬の季をこめて  安信
     │
    露└ 色々おける夕暮の露     如風

[印]

    霜┌ 力も枯れし霜の秋草     享子
     │
    雪│酒肴片手に雪の傘さして    享子

[類]

    霰┌ ぬり笠を着て霰宜しき    寒玉
     │
    雪│春の雪好な所へ降りにけり   仙芝

[浪化]

    雪│居ふろの中で見てゐるはたれ雪 致画
     │
    雨└ 入違ひとぶ雨の乙鳥     可夕 ※つばくろ

[続虚]

    雨┌ 灯火遠き稲塚の雨      其角
     │
    霙│ちらちらと霙降りこむ衿寒し  露荷

[草刈]

    雨│あたゝか過ぎて雨の気遣ひ   長緒
     │
    霜│月残る野は霜解の伝ひ道    牧童

[こせむ]
四十四
しをらしき

   露┌ 露を見知りて影うつす月   鼓蟾
     │ 二
初オ5 雪│白雪や足駄ながらも未だ深き  薼生
     │ 二
初オ8 雨└ 雨に洲先の岩を失ふ     致画

[やわ]

    霧│薄霧の中に一むれ雁の声    左白
     │
    雨└ 祭のせどに雨のほろつく   彳人

△ 降り物に、聳・雷・空、越、嫌はず。(一づゝあぐ)       ↑ トップへ

[さる]

    雪┌ 鴬の音にたびら雪ふる    凡兆
     │乗出して肱に余る春の駒    去来
    雲└ 麻耶が高ねに雲のかゝれる  野水

[小文]

    雪│雪に出て土器売を追ひちらし  翁  ※かわらけ
     │ 只原中に月ぞ冴えける    山店
    雷│神鳴のひつかりとしてさたもなき 翁

[続さる]

    雨┌ 生駒気遣ふ綿取の雨     沾圃
     │うき旅は鵙と連れだつ渡り鳥  里圃
    空└ 有明高う明けはつる空    馬莧

△ 降り物に、降・聳、風、付句。(同)       ↑ トップへ

[冬]

発句  雪│初雪のことしも袴着て帰る   野水
脇   霜└ 霜に又見る朝顔の飯     杜国 
※集「まだ見る」

[鶴]
百韻
日の春を

初ウ14 雨┌ 橋は小雨のもゆる陽炎    仙化 ※集「小雨を」
二オ1 雪│残る雪残る案山子の珍しく   朱絃

[奥]

    霧┌ 足元ばかり見ゆる雲霧    不玉
    雨│雨もらぬはしの下こそ静かなれ 不玉

[蓬]
何とはなしに

名オ10 雲┌ 雲は夜盗のあと埋む也    翁
  11 雨│村雨にそゝぎ捨てたる馬の沓  叩端 
※集「村雨の」

[桃盗]

    雨┌ 俄かな雨に縁の切干     巴兮
    風│笹のはに交りてさわぐ風の蝉  北枝

 凡そ、降物・聳物・風・光の類、取合歌仙十四、五は例あり。
 又、降物のみ出したる巻も、聳物のみ出したる歌仙も、又、此類の一向出ぬもあり。但し、百韻には、さる事なし。

△ 霜、面去。       ↑ トップへ

[次韻]

     │さてもかひて簀子折焚く初霜ぞ 翁
     ├─六
     └ 提灯きつて霜のかげろひ   楊水

[類]

     │ましこひく霜よりけふの行方哉 昌貢
     ├─十一
     │楢小なら嵐と霜に養はれ    昌貢

△ 露、面去。(歌仙三、百韻に六迄)       ↑ トップへ

[だて]

     ┌ 稀に蛍のとまる露草     栗斎
     ├─四
     │梓弓矢の羽の露を乾かして   素蘭

[ひな]
[袖草子]
水仙は

初オ6  ┌ 仁といはれて渡る白露     執筆
     ├─六
初ウ7  │はらはらと葉弘柏の露の音   千川 泉川

※ 泉川と千川。大垣の蕉門俳人.pdf

[ひな]
[袖草子]

発句   │しのゝ露袴に懸けし茂り哉   翁  ※集「篠(ささ)の露」
     ├─九
初ウ5  │露深き曹洞宗の夕勤め     千川

[類]

初オ6  ┌ 畑に箆は浩然の露      掃尾 ※へらは
     ├─八
初ウ9  │熊本は露もかゞやく冠木門   園非 ※かぶきもん

[五色]

     │露の身か富沢丁ののれん出る  長水
     ├─八
     └ いとゞ貧家に露の霊棚    蓮之 ※たまだな

[一]
色付くや
百韻

脇    ┌ 山を絞りし榧の下露     杉風 ※かや(かや油)
     ├─十五
     │ 灰吹捨つるあとの夕露    翁
     ├─十三
     │ 草庵さびし杜の下露     杉風
     ├─九
     │ 木賊にかゝる真砂地の露   翁
     ├─十二
     │小徳利の露もありしと山や思ふ 翁  ※集「露もあらじ」
     ├─十八
     └ 後妻打や相槌の露      翁  ※うわなりうちや

△ 雪、面去。(季かはりても)       ↑ トップへ

[古今抄]

 古式に、雪、百韻四といへり。今式も同じ。

▲ 支考の[なむ俳諧]、百韻に五つあり。又、[韻塞]、[其袋]、[庵記]等の歌仙に、三出たる例もあり。
 同じ面去といへども、其間五去位の物は、凡そ歌仙に三は許したり。

[柿]

    雑│月雪の柳や花に時鳥      支考
     ├─五
     │鳥の来る榎の雪に日のさして  子直

[拾]

    春│北の方若狭境に残る雪     支考
     ├─六
     └ 炷物たきて雪になす空    支考

[三匹]

     ┌ 雪折竹にちよつとわら茨   芦本
     ├─六
    春│春の雪土蔵の屋根に上げてある 支考

              

[類]

名オ1  │一袋画の具をときて雪の山   甫盛
  同季㋬├─三 ※同季か?雪消は仲春
名オ5  │雪消えて疝気たしかに物申す  百里

[其袋]

     │てる月は雪の柏木笹の霜    嵐雪
     ├─四
     └ 又乙雪とちぎる別れ路    立志 
※おとゆき(積雪が消えぬ間に降る雪)、集「ウハユキ」と振る。

[冬の梅]

     ┌ 餅雪の名に年の坂越     廬元
     ├─七
     └ 冬至冬夜の雪も催し     白里

[なむ俳諧]

     │雪降れば梺の在所白うなる   許舟
     ├─
     │薄雪の絵に似て萩に小柴垣   貫仙
     ├─
     │初雪は伊吹の山にちつくりと  左明
     ├─
     │雪はちれどもちるはずの雪   支考
     ├─四
     └ 町中に洗たく川の雪消えて  左明

△ 氷、面去。       ↑ トップへ

[市の海]

     ┌ 氷つたあみをたぐる漁船   古道 ※りょうせん
     ├─
     │引起す氷を児の持歩行     梨里

[春]
なら坂や

名ウ4  ┌ 高低のみぞ雪の山々     越人 ※たかびくのみぞ
  5  │見付たり廿九日の月寒き    荷兮
挙句   └ 君の勤めに氷ふみわけ    羽笠

△ 風、言ひかへて、二去。(歌仙に四五、多例省)       ↑ トップへ

 古式は言ひかへも、風体も三去なれども、雨よりも多用なる故に、二去に許せり。又、蕉門には風体の論なし。

[韻]

     ┌ 肩で風きる後の出代り    李由
     │一嵐老樹の花の崩れ立ち    許六

[浪化]

     ┌ 亡跡ばかり寒き木嵐     雨村
     │秋もはや袷重ねの風の色    外故

[山中]

     │角立ててかぶる頭巾に山颪   蘭少
     └ 風のふくにも般若心経    凉菟

[みかの]

     │布海苔干髪ほろほろと東風吹て 風文
     └ 胡瓜のあらし赤走りけり   虹桟

[藤の実]

     │あともなく雲は陽吹の押まくり 貝寿 ※ようずの
     └ 浴衣の粘の過ぎる秋風    鳩枝

△ 風、同訓、三去。       ↑ トップへ

[既望]

     │風止て流るゝ儘の渡し舟    正秀
     │
     │秋風に網の岩やく石の竃    鬼苓

[さる廻]

     │胸むしに又起さるゝ秋の風   岱水
     │
     │春風に太鼓聞ゆる旅芝居    嵐蘭

[卯辰]

     │身にしめる風より蚤は捕へられ 四睡
     │
     │風かはる夜は星影のきらめきて 江尒

[枯]

     ┌ 風なき雪の柳地につく    千里
     │
     └ 行脚かへりに更くる秋風   千川

[東六]

     ┌ 舟は出てゆくけさ方の風   湫曛
     │
     └ 月と風との垣に瓢たん    章重

[長良]

     ┌ 肌寒いとは風の軽薄     泊楓
     │
     └ 風の拍子に蝶も一さし    仲志

[水仙]

     ┌ 土蔵のかべをからす秋風   杏雨
    ㋬├─二
     │川風のきてはしばらく軒の音  杏雨

[梅十]

     │さく花を惜まぬ風の吹いて行き 梨雪
     ├─二
     └ 炷物の香の風に外迄     仲志

[笠]

     ┌ 和らかな物きれば風ひく   童平
     │ 二
     │言伝を呼ばれど風に聞違ひ   楚琢

[己]
歌仙五
芋種や

脇    ┌ こたつふさげば風かはる也  半残
     ├ 四
初ウ1  │秋風に槙の戸こづる膝入れて  良品
     │  七
初ウ9  │月くれて石屋根まくる風の音  良品
     ├─十四
名オ12  │ 風冷え初むる牛の子の旅   翁
     ├─二
名ウ3  │神風や吹起されてかい覚めぬ  翁

△ 嵐・颪、折去。       ↑ トップへ

[古今抄]

 嵐、折を隔てゝは許すべし。

[あら]

初ウ1  │初嵐初せの寮の坊主ども    野水
     ├─十四
名オ4  └ 秋の嵐に昔浄るり      荷兮

[萩枕]

     ┌ 嵐にたわむ笹のこま垣    残夜
     ├──
     └ 嵐に光る宵の明星      曽良

[東六]

     ┌ 嵐の口を雲のうつすら    朴人
     ├──
     └ 嵐のつよい山の片ひら    朝宇

              

[山中]

初ウ4  ┌ 釣瓶颪の榎更けゆく     蘭少 ※集「釣瓶おろし(下ろし)」→妖怪
     ├──
名オ3  │角立てゝかぶる頭巾に山颪   蘭少 
※集「山おろし(颪)」→風

△ 春風、秋風、折去。       ↑ トップへ

[宇陀]

 新式今案に、春風一座に二句、俳諧に春の風と、今一つあるべし。秋風、松風、同前。

[一]
百韻
梅の風

     │いかに漁翁心得たるか秋の風  翁  ※謡曲「白楽天」
     ├──
     └ ぬるい若衆も夢の秋風    信章

              

[みの]
胡草

     │春風の池に鏡を掘出す     麋塒
     ├─
挙    └ 馬蹄に鼓送る春風      翁

 こは面去にて、同じ春風とあり。春の風とかはらば、面去にても可ならむか。

△ 風に、吹・寒、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[きそ]

     │宵闇の廊下で紙燭吹消して   野坡
     │ 山のあちらの細き鹿の音   岱水
     │有る程の小袖着破る秋の風   野坡

[十七]

     │みそすらぬ庵は夕かげ吹入れて 竹遊
     │ 今もよそなき青表紙あけ   一橘
     │風になびく駿河商人花盛    舟竹

              

[みかの]

     ┌ 簾を巻ける風の一吹     一楓
     │輪番も頃日馴の明やしき    以水
     └ 鳰にふみよる月のやゝ寒   志水

[白扇]

     ┌ 小便に出て寒きくつさめ   氷麦
     │花もまだ十日過ぎねば木々の色 東園
     └ 霞をさつと吹渡る風     詞端

△ 風に、降・聳、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[奥]

    風│風の香も南に近し最上川    翁
     │ 小家の軒を洗ふ夕立     柳風
    霧│物もなく梺は霧に埋もれて   木端

[沾圃亭]

    風│漉水のとくとく落つる春の風  翁
     │ 門の左は見ざるいはざる   沾圃
    雨│時の間に一村雨のふり通り   馬莧

[茶]

    雪┌ 土屋わらやの並ぶ薄雪    白雪
     │朝から嘴ならす鳥の来て    桃隣
   野分└ 早う野分の吹いてとる也   芦雁

[砥]

    霰│入違ひ入違いふる玉あられ   其継
     │ 蜜柑のかざのはんなりとする 浪化
    風│金屏を畳みよせたる秋の風   呂風

[続虚]
面白く

第三  嵐│榧をひる嵐の窓の月澄みて   其角 ※かやを簸る
初オ4  │ 竿さしながら睡る筏士    露荷
  5 霙│ちらちらと霙ふりこむ衿寒し  露荷

 板本、紙の端にて、誤って此「筏士の句」を脱し、次の丁と、長句を並べ書きたるを、古写本より得て、爰に補ふ。

※ 「堀川通、載文堂、西村市郎右衛門蔵版」は脱し、「日本橋、万屋清兵衛彫行板」は脱していない。

[浪化]

  照降雲│照降の雲を覚ゆる頭痛持    林陰
     │ 今来た人も円座一枚     支考
    風│面白い方より風のそよめきて  桐之

[浪化]

    風│春風の野は閙しき仕事時    外故 ※さわがしき
     │ ひがんの花の有がたきかね  秋幽
    霞│明暮と霞にみゆる砥並山    松宇

△ 聳え物、二去。(古今同)㋬       ↑ トップへ

[蓬]

    霧│ 白子の太夫我れきりの海   工山
    霞│笠持ちて霞に立てるやせ男   翁

[春]

    霞│山かすむ月一時に家立てて   雨桐 ※集「館立てて」
    曇└ くもりに沖の岩黒く見え   執筆

[深川]

    雲│刈株や水田の上の秋の雲    洒堂
    霧└ こえ草烟る道のきり雨    北鯤

[其鑑]

    曇│雪の晴れてかてかとして打曇り 鷺洲
    雲└ 鳥は雲井に春のゆく時    始流

[別]

    虹┌ わづかに虹の残る夕月    杉風
    曇│奥山の五器に茶をくむ花くもり 滄波

[山中]

    霧│薄きり渡る山のくまとり    北枝
    虹│ひいよろと虹を引出す鳶の声  桃妖

△ 雲、三去。(古今同)       ↑ トップへ

[古拾]

     │浮雲の消えてあとなき控帳   杉風
     └ 探幽が筺の雲に残る月    翁

[小文]

     │雲きれの山の端薄く塞ぐらし  養浩
     │いらいらと星の苛つく横雲に  嵐竹

[射]

     ┌ 樗の花に雲のきれぎれ    周以
     │ 四
     │ほろほろと雨のこぼれて月の雲 管呉

[このは]

     ┌ 先目にかゝるいかほねの雲  許六
     │ 四
     │木やりする采に挑ぐる花の雲

[百囀]
歌仙四

     ┌ しつぽりとやる雨の雲立   夕市
     │ 九
     │ 日のうらうらと昇る青雲   薼生
     ├─八
     │月に又あばらな雲が流れより  薼生
     ├─三
     │黒かみの雲井高はし仏達    夕市

△ 霞・霧、折去。       ↑ トップへ

[蓮池]

     ┌ 僧の飯くふ鐘かすむ空    落梧
    ㋬├─十
     │朝霞生捕られたる物思ひ    惟然

[皮篭摺]

名オ1  │誂への日和に山や霞むらむ   ロ遊
     ├─
挙句   └ 木綿に滝のかすむ山中    凉菟

[ひな]

     │門番の寝顔にかすむ月を見て  翁
     ├──
     │石畳む鳥居の奥は春霞     此筋

[鵆]
星崎の

初ウ12  ┌ 山も霞むと迄はつゞけし   知足
     ├──
挙    └ 霞の外にかねをかぞふる   執筆

[一]
百韻
梅の風
四所

     │さや綸子霞の衣の袖はえて   翁
     ├──
     │古帳に横点をひく朝霞     信章
     ├──
     │朝霞徐福が贋の売薬      信章
     ├──
     └ 岩はしやりんと懸けたる一霞 信章

[やへ]?

     ┌ きりは妹の声を隔つる    示右
     ├──
     │きりそびやかすしのゝめの空  示右

△ 煙・陽炎に降・聳、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 煙は火体、陽炎は水気なれば、降、聳に嫌ひなし。

[東藤亭]

     │侘びつゝも栗の毬たく細燻り  桐葉
     │ 独うけたる有明の松     工山
     │薄雪は淀の天守を降りかねて  東藤

[藤の実]

     │里坊の煙横川に立ちはなれ   鳩枝
     │ つきしとみたる楯の雌羽   貝寿
     │北風にうづまき出づる雪の雲  巴流

              

[一橋]

     ┌ 只陽炎の墓にちりなき    清風
     │巣を懸くる筧の乙鳥顔出して  一晶
     └ 二粒三粒雨草をうつ     一晶

[浪化]

     ┌ 梺の雲に山の重なり     祐子
     │行く春の花と浮世に惜しまれて 路走
     └ 人も陽炎我れも陽炎     執筆

△ 聳え物、付句、並に雷。       ↑ トップへ

[浪化]

    雲┌ 雨の用意か雲のあたゝか   河菱
    霞│梺より霞んで峰に残る雪    十丈

[其鑑]

    曇│くもらねば鑑に花のむく世界  此柱
    雲└ ねはんの宵の雲も彩色    巴州

[小文]

    雷┌ 又とろとろと神鳴がなる   嵐竹
    雲│風雲の走る間を月のかげ    養浩

 古式には、同体物の付句に、種々の禁あり。
 そは、凡そ、景色もて付くる故に、さるべき道理也。
 蕉門には、仮令、句面は景色を並べても、意(こころ)の変化を宗とする故に、咎なし。

△ 空に天人、晴れに照り、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[行脚]

    空│草臥れて降止む事か雪のそら  蒲道
     │ 十津坂本につゞく松杉    吟堂
    天│楽の音も聞えて花に天少女   午潮

[このは]

    晴│行々子鳴いて雷はれ渡り    聴写
     │ 青山風の蒼き海原      牧合
    照│裸にもなられぬ旅の照付けて  和琳

△ 空・影、五去。(古へは、面去)       ↑ トップへ

[桃]

     │たらずとはしらで大工の上の空 梅石
     │ 四
     └ 空は鴉にあくる白かゆ    梅石

[百歌仙]

     │降りもせぬ空は暗みて星のなき 如昼
     │ 四
     └ 一升舛もいらぬそら泣    五呑

[射]

     ┌ 秋の雨とて定まらぬ空    自笑(加賀)
     ├─四
     │遣取も師走の空の暮かゝり   自笑 ※やりとりも

[小弓]

     ┌ 空の寒じに鳥の地をとぶ   渭川
     ├─四
     │雀羽のぬれたる声の雨の空   園女

[柿]

     │秋もはや梢々のしぐれ空    支考
     │
     │さる程に師走の空の暮れかゝり 子直

[はの]

     │花に車空にしられぬ道造り   倫里
     │
     │一席に一つの命空に炷き    倫里

[たそ]

     │日のかげのあらたに杉の梢から 鴟皮
     ├─三
     │鶏の影恥かしう掃きちぎり   従吾

              

[桜山]

     ┌ 日かげの鳥の鷹に追はるゝ  一康
     │ 四
     │月かげも吹きちる川の夕嵐   如空

△ 照・晴、五去。(古へは、面去)       ↑ トップへ

[古今抄]

 照り曇り、此類面をかへ、百韻に、七八もあるべし。

[やわ]

     │土用から照り始めたる嬉しさに 宇中
     ├─四
     └ 松に並んで鷺に日のてる   薼生

[文星]

     ┌ かし傘にはやるてりふり   楚弓
     │ 六
     │月にてる宿老殿のかき団扇   張芝

              

[其鑑]

     │聖霊も月夜の娑婆に気のはれて 岡一
     ├─三
     │雪のはれてかてかとして掻曇り 鷺洲

[星月夜]

     ┌ 好んだやうに降りはるゝ雨  武郁
     ├─十
     │だゞくさな伏見竹田の霧晴れて 文蝶

△ 闇・曇・光・天、面去。       ↑ トップへ

[梅十]

     │闇にかぎ月に見よとや梅の花  里人
     ├─
     │門前の闇に小僧のわる狂ひ   里紅

              

[鶴]

     ┌ あられ月よのくもる傘    文鱗
     ├─十
     │雨さへぞ賤しかりけるひな曇  コ斎

[きく十]
六日

     │定まらぬ早西の風の照曇り   伯兎 ※さにしの風、南西風で不漁
     ├─十一
     │歌よまぬ目には雨かと花曇   伯兎

              

[七さみ]

     │有明の光たしかにけさは又   宇中
     ├───
     │此度の光を花といひちらし   宇中

              

[梅十]

     ┌ 洗上げたるやうな晴天    伯風
     ├───
     │花ぐもりあすの天気を受合て  伯風

[枯]

     │漣や我物にして秋の天     角上
     ├─十四
     │ 三河なまりは天下一ばん   去来
     ├─八
     │青天にちりゆく花の芳しく   去来

△ 天気、折去。       ↑ トップへ

[やわ]

     │荷を先へ送つてあとによい天気 朴人
     ├───
     │観音の手にも及ばぬ天気合   程己


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