貞享式海印録巻三 時分・時節・雑

貞享式海印録 巻三③ 索引
時分時分、同字、三去異時分、越、嫌はず
夜分、二去夜体、越、嫌はず夜分、付句
時節時節年、音訓変はり、二去年、三去涼、同季、面去
寒、季変はり、三去寒、同季面去時節の詞、同季・他季共に、越嫌はず
異月、並に音訓とも五去異名の月並、越嫌はず春夏秋冬の字変り、越嫌はず
春夏秋冬の字、各五去春夏秋冬の字を用ふる心得春秋同季、五去
夏冬同季、二去他季、歌仙に五所の例春秋の季を引上ぐる心得
素春、歌仙に一。百韻に二季移り夏冬、移り
他季、一句挾み四季移り、変格当季、按ずる事
春、他季を当季に捌きたる例春、季を活かしたる例
雑の物を、季に捌きたる例(春)夏、他季を当季に捌きたる例
夏、季を活したる例秋、他季を当季に捌きたる例
秋、季を活したる例雑の物を、季に捌きたる例(秋)
冬、他季を当季に捌きたる例冬、季を活したる例短歌行、春四続
雑、表裏季なきをいふ雑の体、季ありて、季の用なきをいふ
無季の格、季の詞隠れたるをいふ四季の格
一句離れて雑となる物、同季越嫌はず春秋の慥かなる季を、雑に用ひたる例
雑の巻文台開新式歌仙
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻三、時分・時節・雑を見る。


貞享式海印録 巻三

時分

□ 時分、同字、三去。(多例省)       ↑ トップへ

 朝・夕・暮・夜・昼・明等の同字、各歌仙に三四づゝは、例あり。取合せては、十余も出たり。

[鵆]

     │静かなる亀は朝日をいたゞきて 安信
    朝│
     │滝つせに行ふ法の朝嵐     如風

[ぶり]

     │屋根にまた月在りながら朝烏  竹遊
    朝│
     │朝飯の火をたくにさへ上手下手 竹遊 ※あさはんの

              

[三日]

     ┌ 夜雨の音もけさのかゞやき  支考
   今朝│
     └ 夕べの雪をけさ起きて見る  井炊

              

[春鹿]

     ┌ 夜明のかねに涼し過ぎたり  峰蛙
    明│ 二
     │有明の松をかすりて入りかゝり 松絃

[みかの]

     ┌ 主なき清水ぬるむ明ぼの   白川
    明│ 四
     │有明に色持ちありく鶏頭花   岱下

              

[藤]

     ┌ 普請場遠く呼ばる昼飯    巵朝
    昼│ 五
     └馬士の昼ねに馬のはねあふ   扇得

              

[浪化]

     ┌ 夕日を残す木啄の松     里楊
    夕│
     └ けしは皆ちる夕立のあれ   何由

[萩枕]

     │紙衣もむ夕べながらに月澄みて 白之
    夕│
     │肌脱ぎて人に見せたる夕まぐれ 菊石

[三日]

     ┌ 夕べの咄今思ひ出す     芝船
    夕│
     └ 春の烏にこゝの夕ぐれ    柳江

              

[草刈]

     │名月は梺の橋の暮れかけて   長緒
    暮│
     │暮六つをつくと安井の門さして 支考

[白扇]

     │𥶡入はとなりでたゝく月の暮  牧童 ※たがいれ
    暮│
     │庭の灯に普請の飯の暮かゝり  十岐

[梅の別]

     │水ふろの夢も現つも明けくれて 執筆
    暮│
     │夕暮を冊子にをしむ窓の月   子靖

              

[新百]

     │月夜にも闇にも鶉々なく    支考
    夜│
     │夜明かと思へば雪の降つてゐる 反朱

[七さみ]

     │都から月よを懸けて牛祭    宇中
    夜│
     │工んではねてもねられず小夜衣 凉菟

[梅十]

     │春のよの明れば駕の灯を消して 梅光
    夜│
     │月よとも闇ともしれぬ雨けしき 仲志

[梅十]
七百訓

     ┌ 雁はよるひるなしに長旅   呂杯
    夜│ 二
     │鉦の声四十八夜があるさうな  桃川

              

[焦]

     │ほろは山手の裏反す宵の雲   虎笒
    宵│
     └ 宵の管絃は雛のかまぼこ   旦泉

[射]

     │ぐちに出て今宵は何と小豆がゆ 河菱
    宵│
     └ けふの日和は宵に見て置   野角

[蓬]
何とはなしに
歌仙に夜5

  初オ5│月くもる雪の夜桐の下駄すげて 叩端
     ├─七
  初ウ7│面白の遊女の秋の夜すがらや  翁
     ├─八
  名オ4│ 三股の舟深川の夜      翁
     │ 五
  名オ10│ 雲は夜盗のあと埋む也    翁
     ├─四
  名ウ3│風くゝる大年の夜の七つきく  叩端 ※集「風くらき」

△ 異時分、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 諸書に、時分と夜分、二去と云ふは、古式のさた也。次の例を見よ。

[鵆]
星崎の

    時│式日の日もかたぶきて心せく  如風
     │ 浅草米の出づる川口     重辰
    景│欄干に頤並ぶ夕すゞみ     翁

 此等は同時分なれども、時分と景色の別にて、越を許せり。此類、四の巻月の部に、例多し。

[其袋]
蜻蛉の

    昼│山寺は昼も狐のさまかへて   沾荷 ※様変えて、化けて
     │ 花とひ来やと酒造るらし   翁
    夕│夕霞日々に重なるまりの音   露沾

[壬生]

    夜│残る蚊に袷きてよる夜寒哉   雪芝
     │ 餌畚ながらに見する渋あゆ  翁  
※えふご、魚篭。集「さび鮎(落鮎)」
    夕│夕月の光る椿は実に成りて   土芳

[笈]

    昼│みぞ川に昼飯喰の鋤つけて   李由 ※集「溝川に」
     │ 茶売の影を娘出て見る    汶村
    明│よそよりは夜明の早き山の月  木導

[七さみ]

    宵│天目も宵の瓢も転けてある   凉菟
     │ よその砧をこちで合はする  貞吾
    明│旅人を見送る月の明渡し    一彳

[俳]

    朝│朝から口ばしならす鳥の来て  桃隣
     │ 早う野分の吹いてとる也   芦雁
    宵│せんたくの暇を貰ふ宵の月   支考

[たそ]

    夜│年の夜の隣は鍵や大黒や    雨青 ※集「鍵屋大黒屋」
     │ 衣をきても魚をくひても   夏由
    朝│鎌倉は後ろに明けて朝の月   山隣

[別座]

    朝┌ 鎌鍬とらぬ八朔の朝     滄波
     │秋の水ざるに鯰を引上げて   滄波
    夕└ わづかに虹の残る夕月    杉風

[梅十]

    朝│湖に片破残る朝の月      仲志 ※かたわれ、片割れ
     │ 扇もいらぬ風の自由さ    梨雪
    暮│浪人の常さへあるに秋の暮   羽嵇
     │ 碁ばんはあれどうつ相人なし 泊楓 ※相手なし
    昼│看経の鉦に昼ねを驚かし    蓮二

△ 夜分、二去。(古へは三去) ㋬       ↑ トップへ

 夜分とは、暮れて、「宵・更・夜・闇・朧・暗き・星明り等」也。

[続さる]
いさみ立

名オ7  │火燵の火活けて勝手を静まらせ 馬莧
     │ 二
  10  └ 仰にかけむの違ふ夜寒さ   馬莧 ※ぎょうに加減の

[浪化]

     │月の夜に偖もお広い下屋敷   可夕
     │
     └ 今宵はきつと今庄の恋    芦錐

[韻]

     ┌ 宵の豆麩の氷る俎板     朱紬
     │
     │暮切て灯とぼす迄の薄月夜   朱紬

△ 夜体、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[本書]

 虫・砧の類は、夜の心ならでは面白からず。されども夜分に指合なし。其外は、此類にてしるべし。

▲ 其外とは、月・稲妻・暮・夕・明・暁・露・霜・閨・枕・夜具・蚊屋・眠・起・夢・灯の類。夜の心に作りても、嫌ひなし。

[炭]

     │寝所に誰もねてゐぬ宵の月   翁
     │ どたりと塀のころぶ秋風   孤屋
    虫│蛬薪の下より鳴出して     利牛 ※きりぎりす

[鵆]
から風や

     ┌ 小くらい月を不機嫌で見る  知足
     │新綿をふとんに入るる下り前  知足
    砧└ 砧をもつと遠う聞きたき   路通

[花摘]

     ┌ 鈴懸しほる夜終の法     円入 ※鈴懸→注※1。集「よすがらの」
     │月山の嵐の風の骨にしむ    曽良 ※集「嵐の風ぞ」
   稲妻└ 鍛冶が火残す稲妻のかげ   梨水 
※集「電(いなずま)の影」

※1 篠懸衣(修験者が衣服の上に着る麻の衣。露を払いやすい)のこと。植物のスズカケは晩春で、合わない。
 また、「しほる」は、「絞る(しぼる)」ではなく、「霑る(しおる、しほる)」で、湿らす、濡らすの意。 なお、「花つみ」は、作者を田入と誤る。

[一橋]

     │月かげの夜終廟の草刈りし   清風
     │ 身ふるふ羊秋寒げなる    言水
   明暮│明暮を山見ぬ舟に楫をれて   清風

[炭]

   露霜┌ 割木の安き国の露霜     翁
     │網の者近づく舟に声懸けて   利牛 ※あみのもの、漁師
     └ 星さへ見へず廿八日     孤屋

[笈]

   蚊帳┌ 蚊屋の傍にて茶漬くふ也   支考
     │商ひの工夫に落ちぬ盆の前   正秀
     └ 月よはとかく十五十六    臥高

[さる廻]

 夜具・寝│四つ折の布団に君が丸く寝て  翁
     │ 物かく内につらき足音    岱水
     │月くれて雨のふりやむ星明り  史邦
     │ わせの俵にほめく刈豆    嵐蘭
    起│胸むしに又起らるゝ秋の風   岱水

[本朝]

     │行灯も眠たう成て後夜のかね  阿文
     │ 鼠は升の道かへて出る    其考
    月│歌によむ程はあれねと月の影  試中 ※集「荒ねと」

△ 夜分、付句。(多省)       ↑ トップへ

[韻]
三吟

     │尼になる宵はひそかに洗ひ髪  木導
     └ 星は気疎く光る雪空     汶村 
※けうとく、きょうとく(近世)


時節

□ 時節       ↑ トップへ

[古今抄]

 今、答ふ。新式は、「三十年四十年(「そち」)には、年(とし)の字を二句嫌ひ、物の数の七十八十(そ)には、嫌ふまじきはず也」と、細註は殊に分明也。(本文長ければ、上下を省く)

▲ 此段は、応安新式の仮名遣論也。貞徳は、「年の字には、チの訓なし。そじのじは七十(ななそ)の字といふ心也」と、御傘にいへるを、支考難じて、「字といふ謂れなし。そじの『じ』は、としの略の『じ』也」といへり。
 是、貞徳、支考、皆誤りにて、新式のソヂとある方、正し。こは、としの約を「チ」※2といへば、そぢと年とは、二句さるべき道理也。

※2 「チ」は「路、ミチ」の略音である。古くは「チ」と発音したが、「三十路」などの場合は、連濁音化して、「ミソヂ」と読む。

・ 「十路(そじ)」は、二(ふた)・三(み)・四(よ)・五(いつ)・む(六)・七(なな)・八(や)・九(ここの)に付いて、年齢を十歳単位に数える。「三十路」は、三十歳代である。

・ 接尾語「路」は、「三日路」のように、日数の下に付けて、その日数かかる道のりを表した。それで、人生を旅にたとえて、年齢を表すようになったか。「四十路の坂を越え」などがそれである。

・ 「そち」は、中古まで、物の数を数えるのにも用いられた。後拾遺集の序、「みそちあまりむつのうた人をぬき出て」は、36人である。

△ 年、音訓変はり、二去。       ↑ トップへ

[ひな]
水仙は

初ウ10  │ 乱より後はしらぬ年号    翁
     ├─二
名オ1  │此石の上をうき世に年取りて  翁

△ 年、三去。(古へは、面去)       ↑ トップへ

[深川]

     │花の春小田原陣の前の年    桃隣
     │
     │薪一駄なくても年はとられけり 洒堂

[五日月]

     │質置の音も鎮まる年の闇    鷺白
     │
     │繰つて見て年忌驚く当り年   可推

[笈]
※湖南部

     │何方も今年の花は十日過ぎ   支考
     ├─※三
     │めつさうに白子の浜の年仕廻  正秀

[翁]

     ┌ 只年寄の子は子也けり    沾圃
     │ 四
     │月と花ことしの明を尋ねばや  沾圃 ※今年のあきを

△ 涼、同季、面去。       ↑ トップへ

[春鹿]

     │夕月の笠乾きたれや涼しいわ  露情
     ├─
     │夜明のかねに涼し過ぎたり   峰蛙

△ 寒、季変はり、三去。       ↑ トップへ

[小文]

    冬│寒さうに薬の下を吹立てて   史邦
     │
    秋│肌寒き隣の朝茶呑合ひて    翁

[桜山]

    秋│下戸は茶づけの肌寒き袖    里楊
     │
    冬└ 野郎のうたも寒き朝妻    句空

[ひさご]

    春│鴬の寒き声にて鳴出し     二嘯
     │ 六
    秋│ まだ上京も見ゆるやゝ寒   及肩
     ├─五
    冬└ 撰余されて寒き曙      探志

△ 寒、同季、面去。       ↑ トップへ

[三日]

     ┌ 白い木槿の寒いやう也    林角
    秋├─九
     └ 三日居たれば里の肌寒    林風

[笈]
※湖南部

     ┌ うまい所を起す肌寒     正秀
     ├─ 八
     │濁酒鼻も酔はずに寒がりて   正秀

[深川]

     │衣うつ梺は馬の寒がりて    翁
     ├─十一
     │懐にこぼす涙のやゝ寒き    游力

              

[俳]

     ┌ せ中は寒く頭打ちける    木白
    冬├─十
     │鷹の爪胝寒く鳴くならむ    半残 ※あかぎれさむく

[山中]

     │茶の花に寒さぞ増る困快寺   里臼
     ├─十四
     │けさの寒さは事も愚かや    里臼

△ 時節の詞、同季・他季共に、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[ひな]
傘に

初ウ7名月│金払ひ名月迄は延びられず   曽良
  8  │ 上り日和の浦の初雁     涼葉
  9 秋│秋もはや升で斗りし唐がらし  翁

[小文]

   八朔│八朔の髥剃りに廻るらむ    嵐竹 ※ほおひげそりに
     │ 御門徒寺の角力つぶるゝ   史邦
    秋│秋蝉のいりつく様になく時ぞ  山店

[桜山]

    盆│盆過のさむみも付かず照渡り  管呉
     │ 野にさく萩の牛に踏まるゝ  枝動
   名月│名月に毛せん借りて供連れて  虚舟
     │ 都にすめば分限者のまね   市仲
   彼岸│彼岸には後生の花の咲きかゝり 十丈

[東花]

   正月┌ 臼も正月杵も正月      虎睡
     │花鳥に味のあるこそ凡夫なれ  黒太
    春└ 朝寝夕ねに山里の春     自能

 季異なりたる例は、推してしるければ、挙げず。

△ 異月、並に音訓とも、五去。       ↑ トップへ

[続さる]

     ┌ 正月物の衿もよごさず    臥高
     ├─
     └ わらびこはゞる卯月野の末  翁

[新百]

     │京衆は三月顔に出歩行きて   仄止
     │ 四
     └ けしの盛りの四月中旬    水甫

[文月]
短歌行
卯の花や

初ウ5  │正月も御ざり懸つて此寒さ   里紅
     ├─六
名オ4  └ 庫裏の焙炉の四月一ぱい   柳鼓

△ 異名の月並、越、嫌はず。(古へは二去)       ↑ トップへ

[花の蘂]

 月並の月は、衣更忌(きさらぎ)、弥生の類、二句去也。

▲ こは、古式をいへる物也。
 蕉門には、異名の月並同士も嫌ひなし。只、月並とかはりては、争で(いかで)か、きらはむ。

[鶴]

   師走│水車米つく音は師走にて    其角
     │ 梅は盛りの院々の閑     似春
   如月│如月の蓬莱人もすさめずや   コ斎

△ 春・夏・秋・冬の字変はり、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[深川]

    冬┌ 綿館並ぶ冬向の里      許六
     │斥鸚階子の鎰を伝ひ来て    翁  ※みそさざい、集は「鷦鷯」
    春└ 春も其まゝ七くさもたつ   嵐蘭

[寒菊]

   夏冬│夏冬は取りおく橋を懸け初めて 野坡
     │ 門に顔出す月のたそがれ   翁
    秋│雲行も秋の日ぐせのざんざぶり 野坡

[風麦亭]
※四十句
木の本に

    秋┌ 髪筋よりも細き秋風     風麦 ※懐紙は、芭蕉句
     │鶴の夢薄の中にまどろみて   土芳 ※懐紙は、雷同句
    冬└冬のそほづの弓を失ふ  半残 
※そおず、案山子。懐紙「冬のかゞしは」、三園句

[誰]

    秋┌ 小田の秋しれ飯こぼす人   其角
     │蝶花に在りたきまゝも四つの恩 挙白
    春└ 九十九なれや久かたの春   才丸

[むつ]

    夏│此夏の扇は尽きて骨ばかり   介我
     │ 尺朝がほの花の一時     素秋
    秋│皿戻す心遣ひの秋がつを    己応

[小弓]

    春│春の旅串柿くへと後手に    鼠弾
     │ 脇ざしどもを駄荷に預ける  夕道
   夏秋│夏ならば月よの様な秋の風   左次

△ 春・夏・秋・冬の字、各五去。㋬       ↑ トップへ

 春・夏・秋・冬の同字、各歌仙に三つづゝは例あり。
 そは、歌仙に、月三つ、花二、素春一、出づる故也。
 夏・冬の字も、夫に準じて、三つは許せり。但し、各取合せては、歌仙に、八九ばかり也。

[其袋]

    春│感じては鬼が詩をつぐ春の雨  其角
     │ 九
     │老僧の若衆連れたる春の月   百里
     ├─五
     │餅花もやゝとすゝけてけふの春 嵐雪

[夏衣]

    春│ 春の拍子の山静か也     慈竹
     ├─四
     │降埋む雪にも春を待つならひ  支考

[本朝]

    夏│雛形の廿四ばんに夏待ちて   左把
     ├─
     │ 夏大根の種は遅蒔      流辛
     ├─七
     └ 閏があれば夏の隙さよ    比誰

[炭]

    秋│熊谷の堤切れたる秋の水    岱水
     │
     │手前者の一人もみえぬ浦の秋  野坡 ※てまえしゃ、富豪

[桃盗]

    秋│村雨は秋の物とて山颪     柳士
     │ 六
     │ 下地窓より秋を覗いて    柳士
     ├─
     │日のうつる障子に笹の秋更けて 牧童

[枯]

    冬│ 水くれいとて夏冬もなし   嵐雪 ※集「水享(クレ)い」、所望の意
     │ 六
     │温かにふろ吹にゆる冬の月   東潮

 七部集に、春の字三つ出でたる巻、八あり。其余、例多し。

[そこ]
百韻
秋六

     │ふらふらと百日紅に秋の色   吏全
     ├─
     │ 雀(カラ)吹きたつる秋の朝風 浪化 ※集「雀(スズメ)吹きたつ」
     ├─
     │ 濃茶に並ぶ人々の秋     浪化
     ├───
     │さをしかの声も高野の秋の坊  支考
     ├─
     │ 余程媚びたる後家の秋風   半綾
     ├─
     │秋なれや越の白根を国の花   浪化

△ 春・夏・秋・冬の字を用ふる心得。       ↑ トップへ

 春・秋の字を用ふる事、手柄物也。近世、季節に困りて、春何、秋何と用ひたる句あり。冬とも夏とも入れかへられむは、拙き限り也。さる遣ひ方ならば、一も許さず。

[続さる]

     ・春無尽先づ落札が作太夫    馬莧 ※おちふだが

 百姓の金の入用は、春仕入也。是、秋冬に動かず。又、「賑ひ」「暖か」「物うからぬ」「心長閑」「日永」「めでたき」「心動く」などの所へ、春と用ひて、其意を含ませたり。此故に、「賑」と遣ふよりも、「春」と遣ふ方に、「賑」の余情を含みて、却つて働きあり。此意もて用ふる故に、幾か所出ても、意かはりて面白し。

[韻]

     ・黒い帯女のしたる夏の月    汶村

 是、白浴衣の余情也。冬・春に動かず。又、「涼し」「暑し」「明易し」「うつくし」「山深し」などの所を、夏の字にかへたり。

[蓬]

     ・ 秋の烏の人くひにゆく    翁

 是、哀れなる体也。又「残署」「冷気」「夜長」「寂寞」「豊凶」「閑静」「殺伐」等の心に、秋と用ひたる例、多し。

[冬]

     ・ 冬の朝日の哀れ也けり    翁

 古今珍らしき見立也。此外、「寒凍」「短日」「枯衰」「年末」等の用ひ方、推してしるべし。返す返すも、力なき事に春秋の字を用ふる事なかれ。

△ 春・秋、同季、五去。(三より五まで続)㋬       ↑ トップへ

[或書]

 翁曰く。同季五句去也。此間、他季を入るゝなり。しからざれば、廿句隔てゝもならず。

▲ これ、[三部書]の古式を述べし物也。歌仙表、五目に月在りて、秋三つつゞき、ウ七目の定座に月を出す時は、いつにても秋五去になる也。其間に他季なきとて、うらの月を省かむや。抑も、月花には数の定めあり。他季には定めなければ、趣によりて、其間に、夏・冬両季出だしたるも、亦一向なきもあり。今、両例少しづつあぐ。

[春]

   秋 │菊ある家によい子見ておく   旦藁 ※集「菊ある垣に」
     │ 冬 夏 ※同面、五
     └ 萩ふみ踏す万日の原     野水

[砥]

     ┌ 廿四五夜のほのくらき月   呂風
     ├─夏 冬
     │みかむのかざのはんなりとする 浪化
 ※かざ=香気

[鳥劫]

     │ どちこちなしに月の約束   怒回
     ├─四
     │取分けてざつと済みたる花角力 怒回

[みかの]

     │許しおく花野の駒の連れいとひ 友之
    ㋬│ 四
     └ 鳰にふみよる月の良寒    志水
 ※にお。ややさむ

[深川]

   素春│細かなる雨にもしほる蝶の羽  利合 ※霑る
     │ 秋
     │西日いる花は庵の間半床    桐奚 ※集は、巴竹作

[山中]

     ┌ くはずや否や江湖崩るゝ   乙由
     │ 夏 冬
   素春└ 薄紅梅の偖も咲いたり    凉菟

[山カタ]

     │開帳はひがんを懸けて観音寺  馬岐
     │
   素春│打明の火に雪隠も見霞て    東羽

 春五去は、一方素春也。

[冬]
霜月や

初ウ5  │雉追にゑぼしの女三五十    野水
    ㋬│ 四 夏
初ウ10  └ 我月出でよ身は朧なる    杜国

 春五去は、一方素春なり。㋬四去は、此外になければ、好んでまぬる事にあらず。

△ 夏・冬、同季、二去。(一より三迄続)(古へは、五去)       ↑ トップへ

[古今抄]

 昔より、同季はすべて五句去なるより、それとこれとの指合に、よき句の害となる時も多し。此故に、今の俳諧の春・秋は、例の五句さるとも、夏・冬は、只三句さるべし。
 又、曰く。春秋は五句続く、故に五句去る。夏冬は三句つゞく故に、三句さるべき道理也。

▲ 許六の書にも、同様にいへり。  さるに、[ひさご][深川][韻塞]に、翁二去の例あり。
 [東花][桜山伏]は、支考の巻なるに、是にも二去の例あるをもて考ふるに、祖翁、一旦は三去と定め給ひて、又、二去に許し給へる事、凉菟・十丈等の巻(※射水川か)に例あるにてもしるし。

[深川]
口切に

名オ4 夏┌ 鳥の涙か枇杷の薄色      嵐蘭
     │ 二
名オ7  │日盛りに鯔うる声を夢心    洒堂

[韻]
けふばかり

初オ6 夏┌ 先づ工夫するかやの釣りやう 執筆
     ├─ 二               ※面を隔つ。
初ウ2  │粽つむ笹の葉色に明けわたり  許六

[東花]

     ┌ 笠きて膳にすわる撫子    支考
     │
     │雨ふりに木履もつ手は羽抜鳥  其由

              

[ひさご]
亀の甲

名オ1 冬│薄曇る日はどんみりと霜折れて 乙州
     │ 二
名オ4  └ 撰りあまされて寒き曙    探志

[射]

     ┌ 腹の寒さの飯時になる    桃妖
     │
     │遣取りも師走の空の暮れかゝり 自笑

[桜山]

     ┌ 火燵の酔をさます欄干    杉更
     │
     │雪一つはらはら雨と成りにけり 韋吹

[このは]

     │寒仏になのはの軒の枯れつゞり 孤外
     ├─
     │ ぞつと寒げの間日に影さす  何狂
     │
     │きらきらと雪吹の中の岩氷柱  何狂

[金竜]

     │述懐の霜はおけども日剃りして 東鷲
     │
     └ 嫉妬の笆を破る年の尾    千石 ※ませ、かご

△ 他季、歌仙に五所の例。       ↑ トップへ

 他季を中に用ふる事は、巻の趣によりて定めなし。
 夏か冬か、一方出でたるも、双方一向出でぬもあり。凡そ、歌仙に夏冬合せて、七八所は例多し。
 近頃、夏・冬をかはるがはる出す物と、頑に覚えし人あり。同季の句去は、何のためぞや。

[行脚]
此の巻夏二あり

    冬│鼻の先あぶれと火鉢持ちて来る 吟堂
     │ 二
     │ 今夜戻りてあすは春也    支嵇
     ├─四
     │面白うかゝせて雪はふりにけり 支嵇
     │ 六
     │ 夜も頭巾をかぶる山ぶし   支嵇
     ├─五
     └ 夜の明けかゝる菜畑の霜   蒲道

              

[ひな]
芹焼や
冬二あり※3

初オ4  │ 折々涼む裏の柿の木     翁
     ├─六
初ウ5  │日盛りは孫に吸筒提げさせて  濁子 ※すいづつ
     ├─九
名オ3  │旅瘡や長き五月の舟泊り    濁子 ※たびかさ
     ├─九
名ウ1  │時鳥すわやと蚊張釣りかけて  翁  ※集「蚊帳」

※3 「冬二」は、連続2句。
名オ7  │燒たてゝ庭に鱧するくれの月  芭蕉
名オ8  └ まき藁まくも肌寒き風    涼葉

 あら野、初雪の巻中に、他季なし※4。其外にもあり。

※4 他季は、この場合夏季。
・ 阿羅野「初雪や」の季 …… 1冬、2冬、5月秋、6秋、7秋、16月春、17花春、18春、19春、28秋、29月秋、30秋、32秋、34花春、35春、36春

△ 春・秋の季を引上ぐる心得。       ↑ トップへ

[ひさご]
亀の甲

初ウ2  │ ふろのかげむの静か也けり  野径
  3 春│鴬の寒き声にて鳴出し     二嘯
  4  │ 雪の様なるかますごのちり  乙州 
※梭子魚、稚魚はイカナゴ・コオナゴ
  5 △│初花に雛の巻樽居並べ     珍碩 ※まきだる、進物の酒樽

 「静也けり」と云ふ余韻、若ふろ(初風呂、新年)に気延(きのび)の体と見立て、「初音の鴬」を付たり。
 すべて春・秋の季を引上げ、月・花を引上げ、あるは、他季しげく出す等の事、皆かかる故ありて、其季ならでは叶はぬ様の所に用ふる也。始めて出す季は皆かくのごとし。其次より続けてゆくは、仔細なけれど、始めて出たる季節の前句に、不用なるは、いと見苦しき限り也。

△ 素春、歌仙に一。百韻に二。㋬        ↑ トップへ

 句・脇・三の素春は常体にて、(素春を)中に出すは、或ひは「秋発句の引続き」か、「他季の花、発句に出でたる時」か、或は「花表に出でたる時」か、又「何事なくても、季の入用ある時」か、表にも裏にも後の表にも出す也。
 何れにても、「春と春五去る時」はよし。歌仙、「発句に素春ある時」は、中に出さず。百韻には二所よし。但し「歌仙にて素秋出でたる時」は、素春せず。
 百勻には素秋・素春、一つづつはよし。

[続寒]

発句   │五人ぶち取つてしだるゝ柳哉  野坡
脇    │ 日より日よりに雪解けの音  翁
第三   │猿引の月を力に山こえて    翁
初オ4  │ そこらをかける雉の勢    野坡
  5  │あたたかに成ても明けぬ北の窓 野坡 
※集「暖ふなりても」

[其袋]

名オ7  │うなゐ等がとさかを拾ふ磯遊び 其角
  8  │ 沖の子の日に海松をひく   百里
  9  │玉造浪花はかすむ古都     嵐雪 
※集「難波は霞む古都」
  10  │ 蟻の力も廻す輪蔵      其角 ※りんぞう、一切経の回転書架。
  11  │老僧の若衆連れたる春の月   百里

[鶴]
百韻二所
[十七回]にもあり

発句   │日の春をさすがに鶴の歩み哉  其角
脇    │ 砌に高き去年の桐の賢    文鱗
第三   │雪村が柳見にゆく棹さして   枳風
     ├─────
三ウ2  │ 梅のさかりの院々の閑    似春 
※集「梅は」「院々を閉(とづ)」
  3  │二月の蓬莱誰もすさめずや   コ斎 ※「すさむ」は「遊む」で「賞玩する」
  4  └ 姉待牛のおそき日の脚    千り 芳重 ※集は「日の影」

△ 季移り。        ↑ トップへ

 季移りは、両季穏かに移るを宗とす。
 只「月」といひ、「花」といふ句は、何季にも移りよし。

 「涼」は夏・秋に懸り、「寒」は秋・冬・春にあり。「足袋」「扇」は四季用ふる故に自在也。
 雁・彼岸・出代等の、春秋に渡る物は、句数をもて、いづれかしれたり。
 さて、二季移りは、歌仙に幾所もあり。三季移りは、歌仙に一所、百韻に二所也。四季移りは事満つる故にや、常にせず。
 句続きも、二季にても三季にても、凡て九句続き以上は稀なり。或は、夏秋春とも、秋春夏とも、冬秋春とも、春秋冬とも、月花を続けたる前後に、夏か冬か一方あるは、例夥し。
 又、夏春冬とも、冬秋夏とも、月か花かを中にして、前後に他季を続くるもあり。
 又、春夏秋とも、秋冬春とも、春秋の中に他季一句入るゝ時、前後の続きに狭まれて、興を失はざるように、慥かなる季を用ふる也。
 中の他季、二三句続きたるは子細なし。
 さて、月も花もなき素秋か素春かに、夏冬を続けて、三季移す事のなきは、月花は風雅の眼(まなこ)なる故也。

[あつみ]
表三季

発句  夏│あつみ山やふく浦懸けて夕涼み 翁  ※温海山
脇   夏│ 海松かるいそに畳む莚帆   不玉 ※集「帆莚」
三  月秋│月出でば関屋をからむ酒持ちて 曽良
初オ4 秋│ 土もの竃のけぶる秋風    翁
  5 秋│印して掘に遣りたる色柏    不玉
  6 冬│ あられの玉をふるふみのゝ毛 曽良
初ウ1 冬│鳥屋篭る鵜飼の宿に冬の来て  翁

 冬の日※5、深川※6にも、発句より三季続けあり。

※5
冬の日

発句  冬│はつ雪のことしも袴きてかへる 野水
脇   冬│ 霜にまだ見る蕣の食     杜国
第三  秋│野菊までたづぬる蝶の羽おれて 芭蕉
初オ4 秋│ 鶉ふけれとくるまひきけり  荷兮
  5月秋│麻呂が月袖に鞨鼓をならすらむ 重五
  6 春│ 桃花をたをる貞徳の富    正平
初ウ1 春│雨こゆる浅香の田螺ほりうへて 杜国
  2 春│ 奥のきさらぎを只なきになく 野水

※6
深川

発句  冬│洗足に客と名の付寒さかな   洒堂 ※せんそく
脇   冬│ 綿舘双ぶ冬むきの里     許六
第三  冬│鷦鷯階子の鎰を伝ひ来て    芭蕉 ※みそさざい
初オ4 春│ 春は其まゝなゝくさも立ツ  嵐蘭
  5月春│月の色氷ものこる小鮒売    許六
  6 春│ 築地のどかに典薬の駕    洒堂
初ウ1 夏│相国寺牡丹の花のさかりにて  嵐蘭
  2 夏│ 椀の蓋とる蕗に竹の子    芭蕉

[枯]
百韻
泣中に

名オ6 夏┌ 皆刈こむや里の夏物     荷兮
  7 秋│秋の蚊のはらはら出し八つ下り 横几

 春夏秋冬の字は、目立ちて移りがたし。こは、六、七月にとる雑穀を、常に夏物といふ故に付けたり。

[歌]

    冬│年もはや王手々々と暮れかゝり 東羽
    春│ 隠居の鉦のいつも三月    白狂

 「いつも」と云ふ詞にて、移りたり。

△ 夏・冬、移り。        ↑ トップへ

[金蘭]

発句  冬│麦蒔いてよき隠れ家や畑村   翁
脇   冬│ 冬をさかりにさゞんさく也  越人 ※集「椿咲なり」
第三  夏│昼の空蚤かむ犬の寝返りて   野人

[ぶり]

    冬┌ 雪に諸鳥のどう暮すやら   楓里
    夏│是からの便よしのゝ釣瓶ずし  牛潮

 のみはいつもをり、鮓はいつもあり。

[笈]

    冬┌ 年越の夜の殊にうたゝね   巴丈
    夏│さては下戸苺の様に成にけり  露川

[東花]

    夏┌ 麦のほつらの山は村雨    支考
    冬│布子うりけふ白河の関越えて  前川

 いちごは比べ物、布子うりは戻り也。

[このは]

    夏│いはけなき紫のぞくかきつばた 孟遠
    冬└ ぞつと寒げの間日に影さす  何狂

 かきつは四季咲あり。殊に、「いはけなき紫」と云ふは、夏の莟(つぼみ、蕾)と見むよりも、冬の縮吹とする方、手柄也。
 此意を得る時は、石に木をつぎ、水より火を出すとも可也。

△ 他季、一句挾み。        ↑ トップへ

[句兄]

    秋│秋懸けて鯵の干物に鳥劫    其角 
   月秋│ 牛の埃をたゝく夕月
    秋│淋しさや二所権現の薮の色
    冬│ 莚きせおく餅搗の臼
   花春│仏だんは所化に任する花の頃
    春│ 二本榎かすむ入相

              

[八夕]
百韻

二ウ13花春│花にさく彼岸のかねは七つ過ぎ 示弓 ※集「花に聞く」
  14 春│ 専らあかい椿四五本     昌柯
三オ1 春│蚕飼する野上の長が揚畳    和竹 和什
  2 春│ 瓜実顔の禿蒔きおく     子直
  3 夏│初帯の強飯の豆を弾くとて   何竺
  4 秋│ 鶴屋の跡を濁す出代     宇中 ※でがわり
  5 秋│人のロに戸は明けてある秋の風 寸昭
  6月秋│ 広い世界に月は片破     乃露 ※かたわれ
  7 秋│看経もなむ西行と鴫鳴いて   蓮二

              

[白扇]

   月秋│行灯の光も薄き月の照り    路徤
    秋│ 吸物さとる松たけのかざ   林紅 ※かざ=香気
    秋│雁なけばつるがの秋を思ふ也  夕兆
    冬│ 小便に出て寒きくつさめ   氷麦
   花春│花もまだ十日過ぎねば木々の色 東園
    春│ 霞をさつと吹きわたる風   詞端
    春│ひばりなく源氏は陸に舟軍   嵐青

△ 四季移り、変格。        ↑ トップへ

[蓮池]
五十韻
蓮池の

名オ9 冬│雪の日は内迄鳥の餌をはみて  芦文
  10 春│ 琴習ひゐる梅の静かさ    蕉笠
  11 春│朝霞生捕られたる物思ひ    惟然
  12 春│ 衣着かへねばわるき春雨   越人
  13 夏│時鳥初音まつよは化粧して   翁
  14月秋│ 間垣の月に車忍ばせ     炊玉
名ウ1 秋│此里は籾する音のさらさらと  己百
  2 秋│ 孝子みかむを折持ちて行く  用呂

 虚栗に、夏一・秋五・冬二・春三、四季十一続きあり。

[拾]
十句前後夏

初ウ6 夏│ 桑くふむしの雷におづ    清風
  7 夏│夏やせに美人の容衰へて    曽良 ※かたち
  8 秋│ 玉祭る日は誓ひ恥かし    素英
  9月秋│入る月や申酉の方奥もなく   清風
  10 秋│ 雁を放ちて破る草の戸    翁
  11花春│干鮎の尽きては寒く花ちりて  素英
  12 春│ 去年の畑に牛蒡めを出す   曽良
名オ1 春│蛙ねてこてふに夢をかりぬらむ 翁
  2 夏│ 火串しるべに国の名をきく  清風 ※ほぐし=松明立て
  3 夏│扇にはやさしき連歌一両句   曽良

△ 当季、按ずる事。        ↑ トップへ

[本書]

 月花の句にも限らず、四季の付句に其季を案ずる事、前の二三句軽き時は、当季を捨て、趣向より按ずべし。
 譬へば、「獅子舞」と趣向を定めて、「門の花」とあしらひ、「長刀」と趣向を定めて、「橋の月」とあしらふ。
 前の二三句、重き時は、尤も其当季より按じて、「花鳥月露」の類に、一句の風情を尽すべし。
 此二つの按じ方は、元より、変化のためなる事を、知るべし。

▲ 近頃、季節に事を欠きし俳士あり。
 今宵は「友鵆の来れば」と、床には「筌(せん、底なし竹編筒)の花生」をかけ、「あられ釜」泌して、「寒入鉢に氷砂糖」もりて、いかめしく構へたる宗匠の捌きをきくに、「春若丸」には「朧饅頭」とあしらひ、「麗な妹」には「ひねた手管」をよせ、百韻四本の花だに、「花田・花塗・花かつを」の類を手柄顔に遣ひ、「帷子の辻」には、「蛍火打」を出し、「若竹屋」には「葭簾」を懸け、「素麺」「梅干」も季に連れて夏とし、「いが栗坊主」「豆男」も、秋に論なしとや。
 「月毛の駒」「月額」、或は月の「兀天窓(はげあたま)」などと、あらぬ詞を工み出し、「秋葉の宮」「真葛が原」「小菊」は、紙にも婢にもなり、「桔梗」は紋にも染にもなし、一巻終りて、「鹿の巻筆」を納む。
 つらつら一座の俳諧を見るに、季の句、更になし。

 又、作意を好む徒ありて、「笑ふ山」「染むる山」「残る花」「帰花」等の上下の字を、二所に分け用ひて、是を「割季節」と罵りあへり。却つて、其山の雑となり、其花の春となる事を知らず。
 或は、櫨(はじ)と恥(はぢ)、嵐とあらじの言懸けに、仮名違ひを弁へざるは、いかなる心の邪みぞや。
 これ、いにしへをかゞ見ざる故ならむと、爰に、古人の鑑をかゝぐ。

△ 春、他季を当季に捌きたる例。       ↑ トップへ

[俳]

     ・見知りたる弟切草の蒔え出でて 沾蓬

[ひさご]

     ・蝙蝠の長閑につらをさし出して 路通

[炭]

     ・新畑のこえも落つく雪の上   孤屋

[炭]

     ・ 枯れし柳を今にをしみて   岱水

[続さる]

     ・冬よりは少なう成りし池の鳧  沾圃 ※鴨

[枯]

     ・ 年越えすます坂の櫛挽    荷兮

[東西]

     ・ 誠にあすは衣更也      支考

[小弓]

     ・朝きりの雲雀を置いて流れけり 如行

[百囀]

     ・ 紙衣に隙をくるゝ禅門    風竹

[梅十]

     ・昼寝する裾に火燵の捨てられて 童平

△ 春、季を活かしたる例。       ↑ トップへ

[冬]

     ・ 其の望の日を我れも同じく  翁

 「其の如月の望月の頃」※7と云ふ、西行の歌をつめり。

※4 ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃  山家集

[冬]

鏡餅   ・櫛箱に餅居ゆる閏の仄かなる  荷兮

[雑]

若風呂  ・ 包銭やる湯屋の三方     普船

[雑]

鶏合   ・ けあひに強き黒鶏の声    横几

[七さみ]

鴬    ・ 還り本栖となくはづの事   一彳 ※集「鳴筈の事」

[ひな]

恋猫   ・我猫にのら猫どもが鳴佗びて  翁

[句兄]

恋猫   ・ 隣は男猫此方は妻      其角

[俳]

霞    ・ どちらへむくも空はどんみり 土竜

[鎌]

春宵   ・精進も同じ値の宵なれや    千梅

[宇陀]

雪解   ・下駄のはに一筋黒く解初めて  許六

[東山万]

花    ・白絹の無疵にちりてよしの川  某邑

 「渡らば錦中や絶えなむ」※8と云ふを反転したり。

※8 「竜田川もみぢ乱れて流るめり渡らば錦中や絶えなむ」(古今、読み人しらず)
 曲斎の言う「反転」とは、この和歌が、「春のあした吉野の山のさくら」という人麻呂の心に対して詠まれたという伝を踏まえ、元の花に戻ったことを言う。

[山カタ]

笑山   ・ 縁に旭の山もにこにこ    六之

[百歌仙]

海苔   ・薯蕷ならいせの何やら取に来い 天垂 ※とろろ

[十七]

出代   ・仮に居し昔男を又置いて    我兄

[はの]

涅槃   ・手枕は釈迦に始まり舞台借   倫里

[類]

初雷鳴  ・鳴神も呑みたい空にうひうひし 琴風

 此の如くの作は、同季の中には、さまでは早く聞えぬもあり。
 又、端に置いても、能く聞ゆるもあり。覚束なく思はゞ、今一句付け添へよ。又、かく作りて一句捨にする時は、雑になる也。

△ 雑の物を、季に捌きたる例。       ↑ トップへ

[山中]

     ・ 朧の清水季を持せたり    乙由

 柳原、鴬の滝、五月雨山の類は、不易の名なれば、季に連れても雑にて、打越も憚らず、植物・生類・降物の論もなし。仮令、風の柳屋と作りても、雑也。
 さるを、「季を持せたり」と作りたるは、一段の活也。さりながら、此粕を絞りて、「鴬の滝季を持せたり」、などゝ、再びする事なかれ。こは一句止の曲也。

[難]

     ・一霞汲まうと騒ぐ親父達    山隣

 「汲霞(きゅうか)」は、仙家の事なれば、雑勿論也。貞享、元文の間の諸集の中、此外に見当らず。こは草の巻なる故に、曲節に用ひけむ。諸家の季寄に、汲霞※9を出したるは、古式伝写の誤り也。

※9 例えば、「俳諧歳時記栞草、春之部」には、
 霞汲 流るゝ霞 ともに酒を云。[抱朴子]到リテ天上仙人以流霞一盃之。[書言故事]天仙ヅク流霞
とある。
 また、「抱朴子・袪惑」を見れば、
  仙人但以流霞一杯與我,飲之輒不飢渴。
  仙人は但だ流霞一杯を以つて我に与へ、之を飮めば輒ち(すなわち)飢渇せず。

とある。

△ 夏、他季を当季に捌きたる例。       ↑ トップへ

[ひな]

     ・蔓延りし広はの茶園二度摘みて 濁子 ※はびこりし

[別]

     ・乙鳥の三ばんに迄産連れて   桃隣

[笈]

     ・ 雉なくあとの豆のむらばえ  許六

△ 夏、季を活したる例。       ↑ トップへ

[花摘]

風の音  ・有がたや雪をかをらす風の音  翁

[百烏]

夏夜   ・ 八つか七つにしろりしのゝめ 乙甫

[さる]

青田   ・ 稲のはのびの力なき風    珍碩

〔名筺〕

稲荷祭  ・ 神も御たびの卯の日うらうら 枝翠

[鳥ノ道]

鮎取り  ・月残る夜ぶりの火かげ打消して 惟然

[浪化]

時鳥   ・ 本尊懸けたとなくは山寺   夏段

[別]

新茶   ・ よき雨間に作る茶俵     子珊 ※あまあいに

[別]

新麦   ・ くさみ付いたる片搗の麦   楚舟

[鶴]

柏餅   ・餅作る楢の広はを打合せ    枳風

[三匹]

水菓子  ・水は氷に錫のきれいさ     蘭少

[翁]

萍    ・花ながら壁にぬりこむ池の草  浩徳

[八鳥]

西行清水 ・ 結べよむすべ風流の水    好秋

△ 秋、他季を当季に捌きたる例。       ↑ トップへ

[桃白]

     ・焼めしに瓜の粕づけ口あけて  翁

[別]

     ・ ひばりの羽のはえ揃ふ声   翁

[続さる]

     ・大根の育たぬ里にふしくれて  翁

[鶴]

     ・ 炭竃こねて冬の拵へ     杉風

[きそ]

     ・ 夏過ぎてから塩に事かく   杉風

[拾]

     ・冷初むるゐろり普請に取かかり 雪丸

〔いさゝら〕

     ・ かやつるせわもやめて此頃  故江

[草刈]

     ・ 霧の重ねの日も朧なる    従吾

[白扇]

     ・口切をまつは茶の湯の命也   元士

[其鑑]

     ・葈の二ばんに鎌を懸る也    支考 葉圃 ※集「からむしの」

[山中]

     ・ 生るもならぬも皆接木也   里臼 ※集「実(な)るもならぬも」

△ 秋、季を活したる例。       ↑ トップへ

[星合]

踊り   ・許されて女中の中の音頭取   翁

[続さる]

稲    ・ 奥の世並は近年の作     翁  ※よなみ、作柄

[さる]

貢    ・ 年に一斗の地子斗る也    去来 ※じし、借地料

[韻]

貢    ・ 先づつみかくる年の物成   嵐蘭

[韻]

新藁   ・ 菊を見てからかゝる家ふしん 許六

[冬]

蕎麦畑  ・ そばさへ青し信楽の坊    野水 ※しがらき

[句兄]

砧    ・網になる衣はひかふる槌の音  彫棠 ※集「网(あみ)に成きぬはひかゆる」

[続花]

砧    ・すり木にて粘強うつも只ならず 湖萍 ※集「摺木にて糊強打つ(こわうつ)」

[つるも]

露    ・ 何白玉の答へしばらく    可及

[あら]

駒引   ・駒の宿昨日は信濃けふはかひ  野水 ※甲斐

[十七]

駒引   ・野髪にて繋ぐはかひの引余り  孤松 ※のがみ=自然なたて髪。甲斐

[十七]

蚊帳仕舞 ・ もはやつらねば何ぼとめても 孤松 ※集「何ンぼ止宿(とめ)ても」

[十七]

鹿    ・うづくまる上毛の星も青丹よし 柳岡 ※うわげのほし※10

※10 五月雨のひまなきころもさを鹿の上毛の星はくもらざりけり(新撰和歌六帖、家良)

[ぶり]

機織   ・ 五三と引きてきりはたりてふ 竹司

[類]

雁    ・ 平沙に並ぶ鳥は足軽     大町 ※へいさ、広い砂原

[笈]

秋冷   ・ けさあかつきのねびえ覚ゆる 団友

[東山墨]

秋冷   ・笛の音の冷りと風も音信れて  大川 蓼阿 ※ひやりと~おとずれて

[むつ]

角力   ・ 又投げられて頬べらの砂   孤松

[拾]

捨扇   ・ 破れ扇のほねをつながむ   友五

[はの]

出代   ・ 御心にいる騎を抱へる    橘下

[雑]

玉祭   ・ 戒名しらで祭る恋人     沾蓬

[雑]

玉祭   ・かも川にけさは流るゝ瓜茄   其角

[十七]

若煙草  ・雨をもつ程に莨のねせかげむ  非琴

△ 雑の物を、季に捌きたる例。       ↑ トップへ

[白ダラ]

     ・折からと萩本坊の御音信    北枝

 「萩のさく折から」と云ふ心を、含みたり。かゝる曲節の捌きは、一度限り也。必らずまぬる事ならず。さるに、近頃「折からと牡丹餅」、「折からと柳腰」などと、妄りに用ふる人あり。始めて用ひしは手柄なれども、再び用ひなば、恥ならむ。  [古今抄]、「梅本坊」と過つたり。

[藤]

     ・ 菊屋のうらも今花の秋    桂碩

  かく季を結びたるは、子細なし。

[山琴]

     ・白露の玉の芙蓉を手に居ゑて  見竜

[古今抄]

 「玉の芙蓉」は盃の名目なれども、発句に植物(うえもの)有りて、「芙蓉」を当季に用ひがたき故に、「白露」に季を持せたれば、「芙蓉」は雑にして、植物の雑を遁れたり。(約文)

[古今抄]

 草木鳥獣の画に、其季を持せながら、古抄は、生類、植物に嫌はずとや。凡て雑となさば、論なからむ。季をもたば、二句さるべきにや。此等は、「絵の月」「喩への花」の例也。

△ 冬、他季を当季に捌きたる例。㋬       ↑ トップへ

[ひさご]

     ・月氷る師走の空の天の河    正秀

[深川]

     ・ 忍返に残る橙        洒堂

△ 冬、季を活したる例。       ↑ トップへ

[後旅]

麦蒔   ・一とせの仕事は麦にをさまりて 翁

[韻]

麦蒔   ・ 野は仕付たる麦のあら土   許六

[夕顔]

雪    ・さあふりつむとうなゐ子がとぶ 利角 ※うない髪の幼児。集「飛(とぶ)」

[本朝]

雪    ・ふらぬかと思へば竹の折るゝ音 童平

[東山墨]

枯柳   ・ 葉はなけれどもげに柳也   子靖

[其灯]

大根引  ・ 穴におどろく尾張大根    楚雀

[はの]

寒声   ・ 鉦は松むし声でしてとる   倫里

[古今抄]
五の終

 同季は、三句去るべきやの事。

 昔より古法の俳諧にも、同季は五句去の定法なれど、五句つゞく物は五句去りて、三句つゞく物は三句さるべきか。
 今の俳諧の省法に、春秋は三句、四句に限り、夏冬は一、二句なればと、貞享の季節の跨ぎに(古今抄三の巻)、例の書捨て申されしを、百韻の法は元より公式にして、連歌の掟をいろふべきにもあらず。
 増して、季と季の五句去なるも、百韻は前後の害なからむ。
 今いふ歌仙と短歌※11とは、月花の座のせばしきより、月秋の断りもやかましければ、歌仙は、今の二花二月も然らむと、宗祇の比の勅免を古例に引きて、古翁は、例の門人に譲り申されき。

 況んや、今の短歌行の二花二月は、論に及ばず。
 然らば、春秋の季といへども、或は二句より三句に限り、夏冬の季も一句より二句に限りて、同季は、何れも、三句去と定むべきや。
 されど、発句・脇・第三迄は、其座に当季の用といひ、前後の配りに害なければ、春秋は、決して三句すべく、夏冬は、決して二句すべし。
 月花の座に至りて、春・秋を三句続けては、前後の配りに害あれば、其季は、二句にも省くべけむや。
 仮令、月秋を前に断ち、花前に春を呼出すとも、其春・秋は、二句に限らむか。然らば、此式の大たんなる、此等を、衆評の太騒(たいそう)といふべし。
 そもや、連誹の定法を動して、春秋を二句と定むる謂れは、名残の裏の七句目にて、花は元より月もすべけれど、春秋ともに二句の古例あれば、今いふ式の省法にも、二句並ぶるは、月花の会釈にして、賞玩の例によれりといふべし。
 然らば、歌仙の式とても、今の短歌の省法ならむには、全く無法の私(わたくし)を入れず。古製の例、なきにしもあらねば、今より、我門の学者達は、其座其座の衆評を伺ひて用ふるは、其人の自在にして、用ひざるは、例の不自在といふべし。
 抑も、東花式は、(中略)、多くは故翁の意を察して、万法一例の証文なれど、覚えず自己の道理あらむには、彼いふ校論の斧を惜しまず、例に一座の衆評より、一世の衆議に宜しく用捨すべし。百世の明監は、いさ恐るべき事也。

※11 短歌
 支考創出の「短い歌仙」のこと。初表4句、初裏8句、名残表8句、名残の裏4句の計24句で一巻とする。

 もちろん、芭蕉一座の俳諧に、短歌はない。

 長歌(初表8句、初裏16句、名残表16句、名残の裏8句の計48句)も創案されている。

▲ 此条は、「東花坊の新製」なる故に、一巻の終りに置いて、後人の定めを伺へり。  さて、一段の約まる(つづまる)所は、
 ○ 百韻、源氏、歌仙は、連誹の式に效ひし物なれば、翁の省法に任せて、
  「春秋は五去」にて、三より五迄続き、「夏冬は二去」にて、一より三迄続くる事勿論。
 ○ 短歌行は、しゝ庵の新製なれば、「春秋は第三迄続け」、「夏冬は脇に限り」、
  「月花の所にては、季を引上げても、二句と定め、句去は「春夏秋冬ともに
  三去にせよ」と也。
 「二月(にげつ、月二つ)の歌仙・短歌行等の新製」ある上に、何故かゝる新法を立てしかと考へ見るに、是春・秋の続きを削らむためのみならず、論ずる所は、春・秋の句去を省かむため也。
 此故に、条目に、「同季は三句去るべきや」の事と書きたり。「いかなれば、翁も破らぬ『春秋五去』を『三去』に削るや。何故に前後の季に害ありや」と、支考の心を察するに、短歌に春秋五去の法を用ひる時は、素秋・素春を用ふる所なき故に、続きを減じ句去を省きて、季を自在に用ひむためとしられけり。
 しかする時は、短歌行の月と月との間、十二句隔たり、花と花と の間十句あく故に、「其間に素秋も素春も自在に出されむ」と、ふと思ひ付ける故に、かく述べたり。
 されど、支考、生涯一巻も此捌きなきは、翁も廿五條に「二月歌仙式」を書捨て、自らは捌き給はぬ例に效うて、支考も後人の衆評を待ちけむ事は、結文に、「校論の斧をまつ」と云ふ詞にてしるし。
 此故に、しゝ庵の諸門人も、世評を伺うて是を用ひざりしと見ゆ。然るに、三世五竹坊、此段を見過りて、短歌の月花のことを、二句限りに減じけれど、同季三去の法は用ひざるは、彼の「得手に聞いて、勝手に行ふ」と云ふ世諺(せげん)に等し。蕉門扶育の志あらむ者は、悲嘆せざらむや。
 今なほ朧・雪炊の両流※12をくむ人、皆此毒に酔うたり。かゝる人の咄をきくに、「秋になれば夜も長く蚊も減りて、俳席も楽なれども、又第三の季に煩ふなど」といへるは、実に不便(ふびん)なる事也。其等の人とても、愚に生付きたるにはあらじ。只、其師に迷ひ付たるのみならやむ。
 よや、二流の人々、二句続の省法は、己が季節不自在なる儘に用ひて、三去の略式は、己が句作不鍛錬より用ひざる時は、徒に法を破る罪を、其祖に帰すれば、驚いて(目を覚まして)改革せよ。

※12 朧・雪炊
 「朧」は、朧庵こと、再和坊。雪炊は、以哉坊。安永9(1780)年、師の五竹坊が遷化。二人ともに獅子庵五世を名乗って美濃派は分裂、昭和の合流・合同まで続いた。

 二派だから、「両流をくむ人」は、美濃派全員となる。曲斎は朧系十三世の巒化、十四世の右麦に師事したが、蕉風復古を唱え破門されたという。しかし、安政4(1857)年右麦追善集を出しており、真相は不明。

△ 短歌行、春四続。       ↑ トップへ

[長良]
短歌
鵜の羽ほす
此巻季十七

名ウ1  │谷水の岩にせかれて花筏    梨雪
  2  │ 蕨かつけに遊ぶ児連     里紅
  3  │縁取にばばの馳走の蓬餅    霜烏 ※集「婆々が」
挙句   └ 風の拍子に蝶も一さし    仲志

 翁の歌仙に、季、廿八出でたるあれば、短歌に十七八あるべきはず也。増して稽古巻には、季も多く景物も頻りに出さでは、生涯句作に自在を得る時なからむ。
 又、季は常に暗記すべし。

 いざ月花といふ時に、先づと前句の見立にもかゝらで、各季寄くりたらむは、其句の付かぬ事、先にしられて、いと見ぐるし。


□ 雑       ↑ トップへ

[古今抄]

 和歌の集に、雑といふ題もあり。雑の体といふも有りて、連誹にも其名を伝へたり。今の俳諧に是を評する時は、雑の発句は、邂(たまたま)の用にして、四季の部立の曲節といはむ。
 今、按ずるに、名所に雑の発句とは、一句に其所の名を出し、其風情を移し、然も、又、当季を結ばむとする時は、姿情は必ず、穏かなるまじ。(約文)

[旅寝論]

 先師、ある時宣ふは、神祇・釈教・賀・哀傷・無常・述懐・離別・恋・旅・名所等の句は、無季の格有りたき物也。是を興行せむと思へども、暫し思ふ所ありと云々。

[芭蕉談]

 其無季の句といふに、二つあり。一つは、前後表裏、季と見るべき物なし。「落馬の吟」、是也。又、詞に季なしといへども、一句に、季と見る所あり。「猿の面の句」、是也。

▲ 去来は、雑二体ありといふを、[古今抄]には、今一体添へて、雑・雑体・無季の格と、三段に名を分けたり。是、本書の翁の説を述べしもの也。

△ 雑、表裏季なきをいふ。       ↑ トップへ

       名所  ・朝夜さを誰れ松島ぞ片心     翁
       名所  ・橋立や文珠のちゑを巻ろくろ   支考
       恋   ・恋をして思へば年の敵かな    去来
       逢恋  ・菅笠の雫にぬれてあふ夜哉    去来  ※ 笈笠
       名所恋 ・褌にうき名のたつや恋の山    支考
       出女恋 ・淀にまつ牛よりもつらし糸車   支考
       傾城  ・文と夢鏡を恋の三つ道ぐ     秋の坊 ※三つ道具


・ 下線の句、「引続錦紙」に「笈笠の雫にぬれて逢夜哉 其角」とある。「菅笠」は三夏の季語である。こちらによるべきであろう。

[師走嚢]

 「かちならば」の句は、「梶楢は杖突坂を落葉哉」の心也。「あさよさを」の句は、「麻よ竿誰れまつ縞ぞ片心」と云ふ言懸にて、季を隠したる物也(約文)

▲ かくいへるは、心苦しきこじ付也。雑と云ふ句に、季を隠すといふ事、あるべきや。あゝ、片腹いたし。※13

※13 「師走嚢、吹田屋多四郎板、明和元(1764)年跋」で確認。

     「かちならば杖つき坂を落馬哉
 是は歩(かち)ならハとよむ故に古来より季なしの発句と云ならハせり此句は
     「梶楢ハ杖突坂を落葉哉
 是落葉の発句を落馬と云紛ハしたる也(以下略)

・ 梅門は、「是を考すしてむさと季なしの句と片付る言ハ甚卒忽の至りならずやさしも天下の宗匠とも成へきと思へる人の故なくて季なしの発句はすべからず」と、大まじめである。

・ ならば、乙州の無季発句「亀の甲烹らるゝ時は鳴もせず」は、「花芽の香煮らるゝ時は菜来もせず」か。

△ 雑の体、季ありて、季の用なきをいふ。       ↑ トップへ

[本書]

   名所・蝸牛角ふり分けよ須磨明石   翁
 荘子に、蛮触の両国をたとへ、源氏に「其の境這渡る程」といへる詞より、思ひ寄せたれば、必らずしも蝸牛の当季にも拘はらず。此等を雑体といひて、名所の句の格ともなすべし。

[古今抄]

   庭前・松に蔦鶴となりても首たるし  支考
 しゝ庵の三詠にて、其松に鶴をよせたるのみ。蔦は句作の形容ならむと、其世に衆議有りて雑体となせり。

△ 無季の格、季の詞隠れたるをいふ。       ↑ トップへ

[本書口訣伝]

   歳旦・年々やさるにきせたる猿の面  翁
 無季の格は、句に当季の詞なくても、その季と聞ゆる句作をいへり。

[古今抄]

 五文字に迎年の意はこめながら、掟たる歳旦の詞なれば、是をも雑体とやいはむ、或は無季の格とやいはむ。然れば、雑といひ、雑体といひ、無季の格とは、今の新製にして、此等は今の俳諧の名目といふべき也。

▲ [格外弁][廿五条][古今抄]等に、無季の格を挙げたれど、「雑体に紛るゝ也」と云ふは、本書を委しく見ざる故也。爰に「とやいはむ」と、未定に書きたるは、始めて本書の意(こころ)を弘むる故也。結文に、三段に分けたる所にて、無季の格と云ふ名を定めたり。「 下線 」の文を除いて見る時は、意明らか也。
 [格外弁](鳳朗)は俄著述の物と見え、僅か十五丁の冊中に、卅四所写し違ひ見違ひ等あり。あゝ、著述はかたき物か。

[篇突]

   ※詞書「歳旦無季の格」
   歳旦・明くる夜の仄かにうれし嫁が君 其角 ※書は「明る夜もほのかに」、
   歳旦・君が代にあふや狩野家の福禄寿 許六

 鼠を嫁が君と称して、ほのかに嬉しといふは、元朝の曙ならではあるまじ。狩野家の布袋・福禄寿も、常は見あきたる風情もあれども、 初春の旦(あした)には、いとめでたき翫びならむ。此界に入りて、無季の味を察し知るべし。

[五元集]

   古戦・綱立ちて綱がうはさの雨夜かな 其角 ※つな、渡辺綱

 春雨ふる夜と題(※[五元集]にある題は「春雨」)あり、是を[格外弁]雑体に入れたるは、過ち也。

[花故]

     ・ゆく道やちりさへ跡の美しき  さよ

 こは花のちりたるを惜しむ行春の吟也と評あり。

※[花の故事] は、「ちるさへ」。
      行道や散さへ跡のうつくしき  さよ
       此句 雑ながら行春の吟と聞へ侍り

[笈]

        いがに帰りて親しき人々の魂
        など祭りて、
     ・家は皆杖にしらがのはか参り  翁

[笈]

     ・世の中はさらに宗祇の舎りかな 翁

 是、時雨の古歌取也。異本に、「世にふるは」とあり。
 しかいふ時は、只時雨の隠し詞となり、「よの中」と云ふ時は、時雨は俤となりて、句意は、浮世の観想となる也。
 蓋し、是、再案か。此外、前に挙げたる「季を活かしたる例」と云ふも、無季の格と其名かはれるのみ。作は一体也。

△ 四季の格。       ↑ トップへ

[古今抄]

     ・七浦や一字の題を一字づつ   見竜
 此等は雑とも決し難く、増して雑の体にもあらず。此句は、其時に其季の脇を付けて、四季の格ともいふべきにや。
 されど、故翁の滅後に至りて、ひたぶるの新製なれば、太騒(たいそう)を定むるに日なからむ。先づ一座の衆評より、今日の模様を定めむとて、鴬の脇にて侍りし由、此体も、やゝあるべき事也。

▲ こは、無季格の一変体也。無季の格には、雑の脇を付、是には、四季の脇を付けよとの謂ひ也。
 さりながら、此等の句は、再びあるべき句ならねば、こは、是限りの曲節也。さるを、思ひ過して、只、雑の句に、季の脇する人あるは、目覚しき事也。

△ 一句離れて雑となる物は、同季、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[古今抄]

 譬へば、浪人の扇一本とも、老人を蒲団(ふとん)に釣歩行く(あるく)ともいはむに、古抄は、姿情の用を分かたず。只名目を咎むる故に、季と季の害になる時多し。今いふ其句に其用をしらば、咎めるも咎めぬもあるはず也。仮令、咎むとも、必らず古法の五句去に泥まず。二句か三句にて用捨すべし。さはとて、此類は雑也とて、打越にも同季を出す族(やから)は、今の論に及ばざらむ。

▲ 古式は扇も五去也。蕉門には、一句放れて雑となる物は、越に同季を嫌はず。嫌はねばこそ、雑とする所詮はあれ。そは、支考も能く知りて、毎々、同季越を付けたるに、かく書きけるは、夢のわざにや。さらば自証を引いて、驚かさむ。
※ 「*」は雑句。

[だて]

    春│ある程に春をしらする鳥の声  素蘭
     │ 水ゆるされぬ黒かみぞうき  等躬
   *雛│まだ雛を労はる年の美しく   須竿

[句兄]

     │雉ねらふ矢先の楯になく烏   其角
     │ 鞍箱一つ見込み侘しき    専吟
  *傀儡│近付は乳母ばかりなる傀儡師  沾徳

◆[難]

     │一霞汲まうとさわぐ親父達   山隣
     │ 錦の男たびの白さよ     普及
 *十日夷│祈れども十日蛭子のつらいやら 素然

              

[俳]

    夏┌ かはり牡丹の名を弘めけり  土芳
     │献々に燗する事の上手なる   良品 ※こんこんに
   *扇└ 扇の角をつぶす舞まひ    風麦

[百歌仙]

     ┌ 麻の茂りもくれかゝる也   天垂
     │舟たづる浦は静かな浪の音   桃之
  *夏人└ 江湖の僧の連立ちてゆく   素之

[冬葛]

  *藻刈┌ 掻上げし藻のくさりたるかざ 楚舟 ※かざ、臭気
     │道にねし僧起こさるゝ一ばん荷 岱水
     └ 風に横ぎる蚊遣もゆかげ   杉風

◆[三笑]

  *昼寝│仏さへひるねの罰は当玉はず  蓮二
     │ 乞食の種も別に蒔かねば   伯兎
     │夕立のつらさもはれて此月夜  重葉

◆[三笑]

     │筍の伸ぶるに何も憚らず    昨嚢
     │ 茶の湯はわざとあれた風情を 古賀
  *塩鳥│塩鶴に先づは南部の物語    重葉

[続花]

   *羅│羅に古い衣桁の奥床し     其樹 ※うすもの
     │ 何もかまはず妻でよる年   貢橘
     │鏡磨鏡の汗はうかぬ汗     湖十

◆[山カタ]

     │分限者になる事も否土用干   六之
     │ 子供は何所に今の神鳴    栗几
  *行水│年よれば行水の湯を待ちかねて 野航

◆[難]

    夏│寝よいかと仕立た蚊張釣て見る 蘓守
     │ いらぬ二階の弘過ぎた家   野角
  *涼寒│涼しさも涼し寒さも又寒し   侶鵠
     │ あいあいとさへいはゞ孝行  禹洗
    冬│客のあるに目端のきかぬ懸乞や 東孜

◆[桃]

    秋│秋風に狂ふ江湖の小僧達    柳鼓
     │ 長湯憎んで水ふろをたく   帰的
  *節句│おは黒に宵の節句も更けて行き 嵐枝
     │ 猫に忘れた飯かりにやる   里紅
    秋│昼ねにも倦いて見に出る花戻り 帰的

[枯]

  *懸乞┌ 二季払にて国々の懸     芝拍
     │内にゐる弟息子の賢げに    探芝
    秋└ 後山まで刈寄する萱     游力

◆[東花]

     ┌ 屋敷畑に多き栗柿      烏吹
     │大風にきんか天窓を振りあるき 酉跡
   *鰯└ いわしのかざのしたるめし時 舟誾 ※かざ、香気

◆[西花]

     │竹切によしのゝ嵐吹きあれて  支考
     │ さびしき人の見え渡りけり  桂舟
   *柿│膳組はひじきの煮物柿膾    祢求

[むつ]
四十四

名ウ1  │誰が思ひ葡萄を隅に一包    流和
2    │ 礼もいはずに戻す文台    朱角
3 *天河│闇は猶白き筋たつ天の河    助叟

[小弓]

 *念仏踊┌ 踊労れし他阿の同宿     不角 ※たあ、遊行上人
     │児に化す例の狸ぞ御ざんなれ  不角
     └ 霧沈む也ほつとする也    東鷲

[百歌仙]

   *踊┌ けふはまうけて踊る内証   無心
     │旅人はどれからどれへ通らるゝ 定夕
    秋└ 烏の様に明かす既望     東枝 ※いざよい

[冬葛]

     │水汲みに出づれば月の川向ふ  楚舟
     │ 御寺の弟子はどちへ行かるゝ 岱水
  *菜種│居屋敷のあたりへ菜種蒔付けて 杉風

[名筺]

     │白壁の隣に月を侘びかねて   風草
     │ せんじ茶に迄例の物ずき   兆而
  *野遊│御尋に殿も野懸の袖の下    安栄

              

[韻]

  *大根│するすると大根の市の四つ下り 李由
     │ 姉が戻つてふゆるくひ口   許六 ※集、「ふへる」
    冬│白い物直を持上げて年のくれ  許六 ※ねを、「値」と同じ

◆[白ダラ]
七十二候
鼻声に

初ウ3  │をしの来る池に木のはを散し懸 八紫
4    │ 帰る日用に明日の約束    北枝 ※ひよう、賃金
5*囲炉裏│馬持に成った顔にてゐろりばた 牧童 
万子

[星月]

     ┌ 雪の板屋の暮れかゝる年   松阡
     │腰折に大名戻りそゝなかし   松流
     └ 誓文払土用八専       松笠

△ 春秋の慥かなる季を、雑に用ひたる例。       ↑ トップへ

[売]

     ・ 土のもちつく神事恐し    翁

 直会祭※14なれども、名をさゝぬ故に、雑としたり。

※14 尾張国府宮、追儺神事の一。土餅搗神事は、旧正月11日に行われる。

[茶]

     ・雉笛を首に懸けたる狩の供   翁

 首懸には、年中結び付けたる故に、雑としたり。吹く体は春也。
 [格外辨]、是を春と見損じたり。

[冬]

     ・忍ぶ間のわざとて雛を作りゐる 野水

[鵆]

     ・小蛤ふめどたまらぬ袖ひぢて  知足

[蓮池]

     ・土産にと拾ふ汐干の空せ貝   落梧

[ひさご]

     ・西風にますほの小貝拾はせて  泥土

[渡鳥]

     ・ 篭に入たる干たらこんにやく 一介

[雑]

     ・ かゞみの餅に残るむしろ目  探泉

[百囀]

     ・前がみの落ちたで恋の冴返り  風竹

[難]

     ・ 串柿ぬきに此月も百     乎哉

[蓬]

     ・鶺鴒の尾を蜘のゐに懸けられて 叩端

[炭]

     ・ てうてうしくも誉むる貝わり 嵐雪

[三日]

     ・橙はひよんな時にも生つてゐる 除風

[続花]

     ・ 雲に立ちたるいわし名高き  恵風

[難]

     ・ いわしは笹の火でもやかるゝ 丈志

[春]

     ・ 岩たけ取の篭に下げられ   旦藁

[草刈]

     ・ 荷うた人の見えぬ豆のは   支考

[百烏]

     ・我庵は切子の骨のから木立   支考

[韻]

     ・鵤に土くれ鳩の鳴連れて    許六 ※いかるがに

[雪白]

     ・ 苞は何ぢやと見るに山芋   露丘

 此等も例多かれど、少しあげおく。
 古人の活用かくのごとく、千変万化にして極りなし。人々己が拙きをはぢて、志を励まさば、釈迦何人ぞ。

△ 雑の巻。       ↑ トップへ

 雑の巻は、脇も雑也。表の内、何季にても、月一つあり。
 或書、雑の巻は、第三に興行の当季を出すと云ふは、非也。
 ひさごは、三、四月の撰なるに、雑の第三、冬季出たるを見よ。
 又、一書に「雑の第三は、春季たるべし。春は、季の始めなる故也」と云ふも、非也。「必らず第三に季を出す」と限る事は、なし。
 いづこにても、表の内、一季あらばよからむ。

[次韻]
五十韻

発句   │鷺の足雉脛長く継ぎ添て    翁  ※きじ、はぎながく
脇    │ 這句以荘子矣 其角 
※這の句荘子を以て見つ可し
第三   │禅骨の力たわゝに成までに   才丸
初オ4  │ しばらく風の松にをかしき  楊水
 5  夏│夢に来て鼾を語る郭公     其角
 6 月秋│ 灯心うりと詠じけん月    翁
 7  秋│微雨行麻がら山の木の間より  楊水 ※こさめゆく
 8  秋└ 粟に稗さく黍原の守リ    才丸

              

[ひさご]
百韻

発句   │亀の甲にらるゝ時は鳴きもせず 乙州
脇    │ 只牛ふんに風のふく音    珍碩
三   冬│百姓の木棉仕まへば冬の来て  里東
     │ ※一
五   月│独りねて奥の間弘き旅の月   昌房

 牛ふんの風を、畑中の凩と見て冬を付けたり。

[柿]

   月雪│月雪の柳や花に子規      支考
     │ 面白き世に面白き人     吾仲
     │ 三
    冬└ 餅つく音のよそに聞ゆる   蒙野

 発句に、四季の景物を尽したる故に、三四のあたりには、何季も興なからむとかまへて、雑を続け、表の終りに、無季ならぬ申し訳のみに、詠め物ならぬ冬季を出したり。心憎き捌き也。

[三匹]

     │俳諧はまつから赤しさるの尻  凉菟
     │ 峰の嵐に谷の水音      支考
    月│有明は只有明と見て置いて   反朱

 「嵐は嵐」、「水音は水音」と、明かに聞ゆるは、「吹凪ぎし暁」と見て、有明の観相を付けたり。

△ 文台開新式歌仙       ↑ トップへ

[きく十]
新式歌仙

発句   │箱の底ぬけてしるべし二見形  万子
     │ 墨画とならば松に貝あり   伯兎
    秋│十歌仙十色に菊の花喰いて   蓮二 ※集「十歌仙(とかせん)は」
    秋│ 秋をほめたも爰の事也    播東
    月│仰向けば鼻の穴迄月のかげ   昨嚢 
※集「あふぬけば」

 こは、菊十歌仙の祝ひにとて、菊阿(許六)の画ける文机※15を、万子の贈りたれば、其心を匂はせて、第三したり。前十歌仙は、常の三月、此一巻は二月歌仙也。是、新式の始めと見ゆ。

※15 二見形文台。芭蕉の文台は複数残るが、曽良に贈った文台は、表中央に夫婦岩、右下に松の扇面が描かれ、裏に「ふたみ/疑ふなうしほのはなも浦のはる/元禄二中春 芭蕉」とある。五竹坊書の文台は、表右上に夫婦岩、左下に、古梅の扇面、裏に「二見形 般子老人(支考)/二見とは松の朝日に梅の月」とある。美濃派では、夫婦岩と扇面を配置した意匠の文台を二見形と言うようだ。
 文箱は文台中央に置くから、どうしても夫婦岩は隠れ、万子の発句が生まれるわけだ。

[長良]
長歌行

     │嬉しさもうさも浮世の鵜の字哉 蓮二
     │ 蛛さへ網をはりて口過    梅光
   月花│月花も買うた程にはうれかねて 童平
    春│ 釣荷の中に雛も国がへ    仲志

[古今抄]

 此題に、雑の鵜飼とは難題にて、飼の字の意を運ぶ時は、とかく夏にして、雑に成りがたし。さはとて、四季の余興ならば、雑の外に題名なからむ。爰に按ずるに、発句と脇とに起定(きじょう)の二格は、此用ならむと、「蛛さへ網を張つて口過」と申し侍れば、飼の字は、おのづから二句の間に篭りて、前は慥かに、観想の雑ならむと。一座の衆評は、定まりぬ。

[しゝ庵十七回]

     │歌書よりも軍書に悲し吉の山  支考 遺吟
     │ ちる名は朽ちず花に紅葉に  廬元
    春│春は猶草も箒の手を待ちて   右範

 脇の花紅葉を、花庭の掃除と見て、箒と付けたり。「春は猶」とは、「花に紅葉に」といふ別を立てたる作也。
 此等の例をもて、第三に季の出づるも出でぬも、何季を用ふるも、皆前句より然らしむる故を、しるべし。
 雑の第三に、前の長良川を引きて、季とも雑ともなる春季を付けよなどと、臆説伝授する人もあるよし、承りぬ。
 抑も俳諧は、変化自在を宗とすれば、月花の置所、季の捌き、景物の配り等、毎篇新たにしてこそ、作者の所詮はあれ。いつも押判のごとき沙汰する人は、皆、ひが言を教ふる売子也と、人々勘破(禅語、看破のこと)し給へかし。

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