貞享式海印録巻四 月

貞享式海印録 巻四① 索引
月の事助字の月秋発句にて、四五迄延びたる月
折端迄、延びたる月折口へ引上げたる月異名月
異名、歌仙に二同他季の月、歌仙に二歌仙、三月短句の変格
前後、同趣向の月古式、四月歌仙新式、二月歌仙
新式歌仙、表に出でたる月源氏、四月の論短歌、こぼし月
月、面を隔て、五去月日星、変はり二去月に月次、三去
ゲツとグワツ、二去訓の月・異名、越嫌はず音の月・異名・正の月、越嫌はず
月に弥生の類、越、嫌はず日次に月、越、嫌はず
月に、降・聳・風・照・朧・影・天等、越、嫌はず月に同時分、越、嫌はず
月待・月祭は正の月の事日に月、付句
月次・九月尽等に、月を付くる曲節月に紅葉の付
月に、蛍・稲妻・花火の付月に、闇・朧・雨雲・立秋・八朔・卅日の付
七夕に、月の付月食を用ふる曲節
月に、名所の付月の名所にて、花の句
前句より、月を言懸くる曲節月より、前句へもたるゝ曲節
隠月の変格月次に、月を持せし変格
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻四、月を見る。


貞享式海印録 巻四

□ 月の事       ↑ トップへ

[本書]

 月花は風雅の的也。月は、月々にあり、花は、四季にありて、四花八月(※百韻の場合)とは定まりたる也。(中略、此間の文先へ出す)
 初心の人はいかゞ、月は七句目、花は十三句目にある事は、ひたと他人へ譲る時宜也。いづこにありても、仔細はあるまじ。都て(すべて)、月花は風雅の道具なれば、なくて叶はね道理を知りて、さのみ月花の句に、新奇を求むべからず。
 一座の首尾の宜きに随ひて、毎々俤のある句成りとも、其時の程よき様に付けておくべし。


【新式・短歌】

    八    ノ    ノ ※「ノ」は「後(名残)の折」の略。「オ」は「表」。「ウ」は「裏」。
    句    ウ    オ     ウ    オ   二
  ─────────┬─────┼─────┬───  月
  ← 月 →│←   月   →│←   月   →


【歌仙】

         ノ    ノ
         ウ    オ     ウ    オ   三
        ───┬─────┼─────┬───  月
        ←   月   →│← 月 →│←月→


【古式歌仙】

         ノ    ノ
         ウ    オ     ウ    オ   四
        ───┬─────┼─────┬───  月
        ←月→│← 月 →│← 月 →│←月→

[北枝考]

 月花の座といふ事は、初心稽古のために書きたる物也。月花の座、更になし。発句にある時は、わけて風雅なるべし。脇にあるも、又いみじ。第三、四句目にあるもよし。五句目にあるを月の座といふは、秋の発句の時、五句より外、季続かざる故也。他季の発句ならば、六句目に月ありても苦しからず。只、表の内月一つ、裏の内月花とあるべき也。又、引上て出す月花は、正花(しょうか)正月(しょうげつ)あるべし。夫を、助字の月花に遣ふは不用也。(約文)

▲ 月は、端より端迄、いづこにても、一句立ちて前句に能く応ずる所へ出す也。
 新式歌仙と短歌とは上段(※①)のごとく※注1、常の歌仙は中段(※②)、古式歌仙は下段(③)のごとし。
 又、何の巻にても、月と月との間は同季・異季・異名にかはりても五去也。
 さて、八句ある表の月のみは、七句目迄に出して、端の八句目に出したる例なきは、表長くて、月の後るゝ隙なき故也。都て表に「他季の月」「異名の月」出で、或は月花の座入代へ(ノウ ※名残の裏)に、月出づる等の事、皆前句より然する事也。巻に摸様を付けむとて、かまへてする事ならず。

※1
①の解釈

※1 ①【新式・短歌】について
 上段下線部、曲斎述のように、①は、新式歌仙と短歌についての表である。

 新式とあるが、歌仙であれば、36句である。「短歌」には、「短歌行24句」及び「箙(えびら、靱に鏑矢2本・征矢22本、計24本入れた)24句」、並びに、「二十八宿(中国占星術の赤道28星座)28句」の三種がある。

 これらのうち、①図のように8句足して、36句になるのは、二十八宿だけである。

㋑【短歌行】24句  俳諧サイトでは、「後の折」を「名残の折」で統一。(「後」が正しい)
        名残裏  名残表    初裏   初表
        4句   8句     8句   4句  二
        ───┬─────┼─────┬───  月
        ←   月   →│←   月   →
〃【箙】24句
        名残裏  名残表    初裏   初表
        6句   6句     6句   6句  二
        ────┬────┼────┬────  月
        ←   月   →│←   月   →


㋺【二十八宿】28句
        6句   8句     8句   6句  二
        ───┬─────┼─────┬───  月
        ←   月   →│←   月   →

㋩【新式歌仙】36句(二十八宿に8句を追加した形)
   8句   6句   8句     8句   6句  二
  ─────────┬─────┼─────┬───  月
  ← 月 →│←   月   →│←   月   →

※ 芭蕉参加の巻に、これらの形式はない。24句のものが3巻あるが、何れも未完歌仙である。

芭蕉翁出座俳諧一覧、参照。

△ 助字の月。(休め字と云ふこと也)       ↑ トップへ

[深川]

                 店
名オ4  ・ 伏見あたりの古手屋の月   翁

[春]

                  也
名オ10 ・ 我名をはしの名に呼ばる月  荷兮

[炭]

               暮
初ウ8  ・ 槍持ばかり戻る夕月     野坡

 助字とは、傍なる「店・也・暮」などと作る所を、月の字に替ふるをいふ。此句、皆、定座ならねど、助字を用ひたるは、賞玩の意を失はざる故也。仮令、引上げても、こぼしても、座を動かす時は、賞する心なくては、叶はず。

△ 秋発句にて、四、五迄延びたる月(多例省)       ↑ トップへ

[三冊子]

 「春秋の季続き、四句目にて、花・月の句をする事、必らずあるまじ」との師説也。

▲ こは、師説の聞違ひ也。花は表の内、四句目以下に決してせず。月は六句目の端迄する事は、面毎に出づる物と、折に一つ出づる物との違ひある故也。
 凡そ、四、五句目に月の延びるは、句脇に日星の障りあるか、さるべき前句を得ざるか也。六句目に出でしは、元よりしかり。

[鵆]

 4   ・ 風ろ焚きにゆく月の曙    翁

[秋]

 4   ・ 月なき岨を曲る山間     一井

[小文]

     ・ 夜市に人のたかる夕月    史邦

[菊の露]

     ・ らふそくの火を貰ふ夕月   正秀

[さる廻]

     ・ さしこむ月に藍がめのふた  半落

[韻]

     ・ 秋もやうやう湯豆ふの月   許六

[東山万]

     ・ 灯はとぼさでも先づ月夜也  一盃

              

[其袋]

        発句「日」アリ
 5   ・いる月に薄化粧うたる武者一人 翁

※ 発句  蜻蛉の壁を抱ゆる西日かな   沾荷 ※とんぼうの

[深川]

         脇「夜」アリ
 5   ・古戦場月も静に澄みわたり   嵐蘭

※ 脇    昏かゝる日に城かゆる鷹   嵐竹 ※くれかかる

[伊賀三吟]
表六句
稲妻に

 5   ・又起きて有明細き家の霜    猿雖

△ 折端迄、延びたる月。(七部及多省)       ↑ トップへ

 端の月は、百韻にても一所なり、定座をこぼすは、歌仙に二所はよし。例は、証句のうち、傍に「又ウ何」としたり。

[鵆]
表六句
焼飯や

6   春・ 曇りをかくす朧夜の月    越人

[渭]

    秋・ 月も三笠の名にうかれつゝ  素天

              

[桃白]

オ6   ・ もう山のはに月の一ひろ   聴所

[翁]

     ・ よのあくる迄酒とらぬ月   圃角
                又ウ九
       ※初ウの定座は7

[雑]

オ6   ・ 鯉のごみはく月のうたかた  彫棠
                又ウ八

[むつ]
剛力に

オ6   ・ 星の備を崩すありあけ    白桃
               ※又ウ十一

[きそ]

    冬・ もはや今年も末の弓張    杉風
                又ウ十一

              

[俳]

ウ12 春・ 道はかどらぬ月の朧さ    元代

[句餞]
半歌仙
江戸桜

ウ12 春・ 祢宜おりかはる春のよの月  濁子 ※集、「春の夕月」、挙句

[あつみ]

ウ12 春・ 朧の鳩の寝所の月      曽良

[翁]

     ・ 光りかすまぬいせの有明   魯可

[其袋]

初ウ12秋・ 月も聞ゆる水戸の下町    嵐雪

[渡鳥]

     ・ 一むら雨の打ちあぐる月   素民
                又ノウ一

              

[星合]
牛部屋に

                又ウ八
名オ12 ・ 薮くゞられぬ忍路の月    史邦 路通

[沾圃亭]

                又ウ十一
名オ12 ・ 月を隣にてんかんをきく    馬莧 ※天漢=天の川

[梅さが]

初ウ12春・ 海は朧にかゝる三日月    天垂

              

[句兄]
ゆふだちや

                又ウ十一
挙句   ・ あれを馳走に月の鴬     柴雫

[夕顔]

挙句  春・ 鴻の背高し朧月てる     李賦

[其袋]

挙句  夏・ 文ひろげいづみな月の月   鋤立

 此二例は、四月歌仙の挙也。

[三冊子]

 月の定座をこぼす事、師曰く、五十韻より内にはあるべからず。奥に至つては、少しの興にもなる物也。歌仙は苦しかるまじ、略の物故也。

▲ 翁の、しか(※下線部)申し玉ふ故なき事、次の例にて見よ。

[炭]
百韻
子は裸

二ウ13 ・月花にかき上城の跡ばかり   利牛 ※にわか造りの城

△ 折口へ引上げたる月。       ↑ トップへ

[七さみ]

初ウ   ・うつかりと思うた空に三日の月 凉菟

[笠]

名オ   ・月くれて奉行を誹る日用ども  箕角

[其袋]

     ・傾城の文すかし見る朧月    清風

[俳]
百韻
錦どる

三オ1  ・去年裏の月の卅日の月くらし  暁雲 ※二ウに月の句が出なかったことを揶揄

△ 異名月。㋬       ↑ トップへ

 近世、「前に月並の嫌ひなき時は、異名は用ひぬ物」と覚えし人もあり。然らず、異名を用ふるは、前句に用ある故也。

[春]
春めくや

初ウ5  │肌寒み一度は骨をほどく世に  荷兮
  6  └ 傾城乳をかくす有明     昌圭

 こは、遊女の素肌を恥づる添臥の明の付也。されば、下四言、雑ならば、「東雲」とか「暁」とかすべきを、秋なれば「朝月」ともせむに、「さては閏の姿なし」と思惟して「有明」とは定めたり。
 異名の入用、皆々、かくのごとし。

[萩露]

    夏・暁の影をのせたる白牡丹    介我

[みかの]

     ・ 影なつかしき極陽の霜    風之

[西椿]

     ・ 桂かげちる夏のよの霜    そ貢

[冬]

    秋・西南に桂の花の莟む時     羽笠

[難]

     ・久かたの兎も豆が好きさうな  曽及

[夕顔]

     ・宵の照御簾の釣かぎ影もれて  我笑

[百歌仙]

     ・ てる夜の蟹の身の少さゝよ  江柳

[十七]

     ・ さゝらえ男端山訪はるゝ   習之 ※細愛壮子、万葉に出る

[山中]

     ・影高う桂男の顕はれて     北枝

[ぶり]

     ・ 九々によまれぬ十三夜也   喜丸

[東六]

     ・明日の夜の芋をはれとや八幡聟 凉菟

[天河]

     ・立待も本尊は座しておはします 乙由

[しし]

     ・ 廿三夜も杉の暁       山隣

[別]

    冬・かんかんと有明寒き霜柱    八桑

[金竜]

     ・弓張を素引く嵐や凩や     順応

 作異なるを、少しあぐ。因みに云ふ、蕉門には「嫦娥」「金剛」「盃の影」等の、古式に用ひ来りたる物を用ひざる物あり。そは、姿の有無にて自得せよ。桂かげ、玉兎の類も、かゝる作をもて用ひたれど、夫も稀れ也。

△ 異名、歌仙に二。(多例省)       ↑ トップへ

[韻]

初ウ7 神│宵闇はあらぶる神の宮迁    翁  ※みやうつし。集、「宮遷し」
     ├─
名オ11 │有明は毘沙門堂の小方丈    許六

[其袋]

初ウ8  ┌ さゝらえ男現孕うだ     嵐雪 ※細愛壮子うつつ
     ├─
名オ11 │既望の光に寺の米無尽     嵐雪 ※集「十六夜の」

[類]

第三   │有明の舟に車をかきのせて   其角
     ├──
名オ11 │ちるといる後の曙匂ひけり   其角 ※集「ちると入ル」

[文操]

     │狩衣既望の闇を待懸けて    蓮二
     ├─
     │有明も花も心のみよしのに   桃如

[五色]

     │有明は必ず鍛冶の影なれや   咫尺
     ├──
     │桂男は壁一重なる寒鼓     長水

△ 同他季の月、歌仙に二。(異他季の例略)       ↑ トップへ

 是は、古今通式也。百韻には、同他季の月、四迄はよし。

[ひな]

第三   │門番の寝顔に霞む月を見て   翁
    春├─
初ウ11 │朝月に花の乗物せつぎ立て   千川

[ぶり]

     │あの山の朧を見よと月出でて  村女
    春├─
     │時めきてみすのあたりは月と花 村女

[続虚]

     │山をやく有明寒くみす巻きて  其角
    春├─
     └ 月夜の雉のほろほろとなく  其角

[三日]

     │推しやれおれが心と冬の月   支考
    冬├─
     │枯果てゝ柳はすんと月の色   麁線

[誰]
百韻

     ┌ 松とるあとの月は汚れず   渭橋
     ├─
    春│こぎつるゝ花に月よの女舟   氷花
     ├─
     │月の宿あかすうらゝに麗とも  才丸

△ 歌仙、三月短句の変格。       ↑ トップへ

[うやむや]

 月、短句にては揃へず。長句ばかりは、苦しからず。

有耶無耶之関、俳諧月之伝

▲ 歌仙に、短月二つは常也。三つは、外に見ず。凡そ、巻中、曲節と云ふは、常の曲節也。
 変格と云ふは、かくはせぬ所なれど、前より催されて出来し例。又、六の巻の変格は、すまじき例也。

[売]

   地名┌ 七曜山を出でかゝる月    翁
     ├─
   地名│ 〓不便や姨捨の月      翁
     ├─
     └ 髪きる宵の月ぞひそめく   嵐雪

[拾]

     ┌ 石踏みかへす飛越の月    曽良
     ├─
     │ 碑にねて象がたの月     清風
     ├─
     └ 鳥放ちやる月の十五夜    素英

[拾]

     ┌ 乗りゆく馬の口とゞむ月   重辰
     ├─
     │ 樽きりほどき月も汲みけり  安信
     ├─
     └ 魚つむ舟の岸による月    重辰

[炭]

     ┌ 月の隠るゝ四扉の門     其角 ※よとびら
     ├─
     │ 顔に物着てうたゝねの月   其角
     ├─
     └ 北より冷ゆる月の雲行    孤屋

[続虚]

     ┌ 新らし舞台月に舞はばや   仙化
     ├─
    釈│ 月にや泣かむはせの篭人   文鱗 ※こもりど
     ├─
    釈└ しらぬ御寺を頼む有明    観水

△ 前後、同趣向の月。(多例省)㋬       ↑ トップへ

 同趣向は苦しからねども、同体は宜しからず。

[続寒]

初ウ8  ┌ はね打ちかはす雁に月かげ  翁
    影├─
名オ11 │月かげに小挙仲間の誘ひつれ  野坡 ※こあげ、荷運び

[続さる]

初オ5  │月かげの雪も近よる雲の色   支考
    影├─
初ウ9  │馬引いて賑ひ初むる月のかげ  臥高

[拾]
[継ハシ]
涼しさを

初オ4  ┌ 夕月丸し二の丸の跡     素英
    夕├─
名オ11 │夕月夜宿取貝も吹きよわり   曽良 ※繋橋集「宿とり貝」

[拾]

初ウ8  ┌ 湯の時ふるゝ夕ぐれの月   支考
    夕├─
名オ11 │夕月を今年見習ふ山のはに   去来

[炭]
百韻
子は裸

初オ7  │暮の月干葉の茹汁わるくさし  利牛 ※ひばのゆでじる
    暮├──
二オ13 │暮の月横に負ひ来る古柱    野坡

[なむ]

     │そよそよと蚊屋に嵐の夕月夜  許舟
    夜├─
     │月夜をば誉めて置いたる長堤  過角

[韻]

初ウ10 ┌ 月夜に語る奥のよの中    汶村
    夜├─
名オ11 │そよそよと麻に風たつ夕月夜  李由

[韻]

初ウ8  ┌ 気を付けて見る小の十五夜  許六
    見│
名オ11 │水ふろの中より見たる暮の月  許六 ※すい風呂

[初茄]

初ウ8  ┌ 赦免にもれて独り見る月   翁
    見├─
名オ11 │明けはつる月を行脚の空に見て 曽良

[深川]

初ウ8  ┌ 酒で乞食の成安き月     嵐蘭
   飲食├─
名オ11 │皮剥の物煮て喰ふ宵の月    翁

[桃盗]

初オ5  ┌ 東殿より西殿の月  松碌  ※集、初オ5「東殿より西殿の事」。月句ではない
   方角├──        ※集、月の句は、初オ6「辻にある井戸は毎日朝の月 布胡」

名オ10 └ 雁南に東の月        松碌 ※集「ミンナミ、ヒンカシ」と振る

[春]

初ウ10 ┌ 別れの月に涙顕はせ     荷兮
   別れ├─
名オ10 └ 碁打を送るきぬぎぬの月   野水

[萩枕]

初ウ6  ┌ 月見歩行きしたびの装束   白之 ※集「月見ありきし旅の」
    旅├─
名ウ11 │夕月夜笈を後に突張りて    曽良 
※集「つきはりて」

[やへ]
半日は]

初オ5  │なまらずに物いふ月の都人   景桃
   何人├─
名オ11 │高麗人に名所を見する月と花  好春 
※集「コマ」と振る

[印]
あなむざんやな

第三   │渡守綱よる丘の月かげに    鼓蟾
   舟人├─
名オ10 └ よせて舟かす月の川ばた   翁

[拾]

初ウ3  │竹蜂の尖き月の夕嵐      叩端
   生類├─
名オ11 │蝙蝠のかけ廻りつる月の暮   桐葉

[菊塵]
白菊の

脇    ┌ 紅葉に水を流す朝月     園女
   植物├─
初ウ7  │晴々と月の出懸かる杉の枝   渭川 ※集は、「杉の森」

              

[俳]
百韻
さぞな都

初ウ13 │酒の月後妻打の御振廻     翁  ※うわなりうちの、謡曲葵上
    恋├──
二ウ14 └ 末世の衆道菩薩所の月    信徳 
※本来、末世の衆生。集、「菩提所」

[一]
百韻
見渡せば

三オ13 │忍ぶ夜は取手にかゝる閨の月  似春 ※とりで、捕縛
    恋├─
三ウ12 └ 顔は鍋ぶた胸焦がす月    翁

[一]
百韻
色付や

三ウ11 │唐衣涙洗ひし袖の月      杉風
    恋├─
名オ9  │揚屋より月は雲井に帰らるゝ  翁  
※謡曲国栖

 此三例は、百韻也。歌仙に、「恋の月」二つは、見当らず。

[次韻]
百韻
春澄にとへ

二ウ11 │禅小僧とうふに月の詩を刻む  翁
    僧├──
三ウ4  └ 月に秋とふ東金の僧     翁  
※とうがね、千葉県東金市

[花摘]
※四月歌仙

名オ5  │宮川にすべるやうなる月の影  其角
   地名├─
名ウ5  │かひしなのさやかに諷ふ春の月 其角 ※集は「甲斐歌や」

 神釈名所の例、前の「異名」「短月」の両部にもあり。

△ 古式、四月歌仙。       ↑ トップへ

[北枝考]

[春]
名ウ3 雑│さゞ波や三井の末寺の跡取に  旦藁
名ウ4 冬│ 高低くのみぞ雪の山々    越人

 此所、手前の趣向は打越よからず。向ふならば「飛鳥」「松杉」「天象」なるべく、其中にて月こそ、打添の姿宜しけれとて、「夕べか暮れか」と尋ね出すに、暁の月の細りたるこそ一入ならむと、

名ウ5 冬│見付たり廿九日の月寒き    荷兮

 と付たり。今一句、風情よき句あるべからず。
 此所は、花は引上げ、月は前に三つ出でたれば、冬を続くるか、雑にて挙げてよき所也。
 さるを、爰は、月ならでは叶はざる故に、月を出したり。如此時は、定めの外に月出ても、風興有力といふべし。故に、其興を惜しみて、挙句迄、冬三句続けたり。(約文)

※挙句 冬└君のつとめに氷ふみわけ    羽笠

▲ 月は面々に在りて、元、歌仙に四つなるを、百韻、後裏の月の省例もて、三つと定めけり。されば、ノウの月は、常例ならず。前説のごとく、月、花前に上りて、後裏無道具の時、前句によりてする事也。例は、「其袋」「翁草」「一橋」「夕顔」「白だらに」「花摘」「庵記」「小弓」等に、摸様さまざま也。

[俳]
長句

    秋│月のかげ砧の拍子乗つて来る  土竜
     ├─
    春│月花を糺の宮に畏まり     支考
     ├─
    秋│名月の餅に当てたる関東わせ  素文
     │
    夏│蚊の居ずばある物でない夏の月 翁

[笈]
秋ばかり

    秋│髯にのれんせりあふ月の秋   露川
     ├─
    秋│ おたびの宮の浅き宵月    露川
     ├─
    秋│月夜にて物毎仕よき盆の際   巴丈
     ├─
    秋│有明に百度もかはる秋の空   左次

 百韻、八月の例は、「一葉」「八夕暮」「桜山伏」「東山墨直」等にあり。
 「笠松、七十二候」、六月の例もあり。

△ 新式、二月歌仙。       ↑ トップへ

[本書]

 歌仙の時は、二花・二月(にげつ)とも有りたき事也。表の五句目に月在りて、裏の七句目に月秋(つきあき)をする事、花前の秋季もむつかしく、秋季の植物も仕がたし。
 秋季の発句ならぬ時は、表か裏に月一つ有りても、苦しかるまじき事にや。此後、器量の人もあるべし。夫も、亦、一座の会釈あるべし。 ※「二十五箇条」は「あひしらひあるべし」

▲ 貞享式相伝は、其角・許六・去来也。されば、三子の中、「此後器量の人」と云ふ遺言を重んじて、此式を立つべきを、本書にかくあるのみにて、一巻も翁の例なければ、世を慮かりて、おのおの閣き(おき)けむ。
 支考は、元禄八に、去来より伝へて後、再撰貞享式の志有りければ、是を空しくせじと、享保頃より此式を立てけり。
 「秋季の発句ならぬ時」とは、「秋発句の時は、大方第三迄に月出て、花迄の間長ければ、常の三月歌仙にせよ」と云ふこと也。
 「表か裏にと、座の定めなき」は、「春季にて、第三迄に花出でたる時、只一つの月を表に出しては、裏の飾りなき故に、月は裏も遅く出し、又、夏冬の発句にて、季も脇限りなどの時は、月を表にも出し、臨機応変にせよ」と云ふこと也。
 「夫も、亦、一座の会釈あるべし」とは、「新式好まざるの所にては行ふな」と云ふこと也。
 此故に、獅子門人の集にも、常の歌仙と新式交り出でたり。熟ら惟る(おもんみる)に、こは、翁仮初に思ひ付かれし事を、書捨て給ひしのみならむ。
 元来、歌仙は四月なるを、一つは、都ての省例なれども、又一つ省きては、余りに景少なく、月に連れて季三つへれば、季の活(かつ)を教ふる稽古巻には、好ましからず。先づは、変格のさた也。
 さるを、いつの頃よりか、季節不自在の人々、新式のみ用ひける故に、遂ひに其の門には、歌仙に月、三、四出づる事を、しる人も稀れに成りけり。殊に、裏移を定座とするも、頑(かたくな)也。

△ 新式歌仙、表に出でたる月。       ↑ トップへ

[しし]

 五め  月かげの横にさしこむ橋向ふ  桃風

[黄山]

 五め  月見には此一本の戸も明けた  米花

△ 源氏、四月の論。       ↑ トップへ

※ 源氏

※ 源氏 三折、六十句、三花五月。名称は、源氏物語60巻説による。芭蕉参加の巻に、60句形式はない。ちなみに、百韻15巻・50韻6巻・世吉3巻など。芭蕉翁出座俳諧一覧、参照。

 ┌─────────┬───────────┬─────────┐
 │   名残の折   │    二の折    │    初折    │
 ├───┬─────┼─────┬─────┼─────┬───┤
 │ 裏 │  表  │  裏  │  表  │  裏  │ 表 │
 │ 6 │  12  │  12  │  12  │  12  │ 6 │
 ├───┼─────┼─────┼─────┼─────┼───┤
 │挙5 │11    │11 7  │11    │11 7  │5 発│
 │句花 │月    │花 月  │月    │花 月  │月 句│
 └───┴─────┴─────┴─────┴─────┴───┘

[藤の首途]

 [藤の首途]源氏行に、始めて四月の省法あり。歌仙は、元、源氏の中二面を除きし物なれば、新歌仙の例をおす時はさもあらめど、歌仙にだに、四月あるに、源氏に四とは少な過ぎけり。此等は、其時、俄に思ひ付の変格ならむ。めでたからねば、獅子門の人々、捨て給へかし。

△ 短歌、こぼし月。(多例省)       ↑ トップへ

[いせ]

ウ五め  ・盛物にあはぬ十夜の夕月夜   桃如

 月を自在に扱ふ事は、何巻(どのまき)も同じ。

△ 月、面を隔て、五去。(古今同)㋬       ↑ トップへ

[印]

     ┌ 昔を恋ふる月の陵      北枝
     ├─
     └ 目がねして見て澄み渡る月  観生

[三匹]
百韻

二オ11異名│有明の山に入江のおくひ形   支考 ※集「おくひ形リ(なり)」
     ├─
二ウ5  │うつすりとあるは幾日の月の空 汀芦

[ひな]

     │朝月に花の駕せつき立て    千川 ※かごかき
     ├─
     │夕月に植木釣出す塀の内    左柳

[越]

     │月代の見ゆれば浜に初嵐    外故
     ├─
    夏│田を植ゑて其の田眺むる夕月夜 従意

[越]

     │流れては水にちりなき月の照  花村
     │
    冬│霙ふる空にも月の薄々と    任之

 異名、他季と組みても、句去同じ。

△ 月日星、変はり二去。(古今同)㋬       ↑ トップへ

[百囀]
鴬や

初ウ3 月│座敷には行灯付けるくれの月  翁
     │
初ウ10星└ 夜明の星の未だ一つある   支考 
※集「まだひとつ有(あり)」

[三匹]

    日┌ 春雨ながら雲に日のあし   支考
     │
    月│桐のはのすべるばかりに朝の月 水甫

[新百]

    日┌ 日はてりながら霰はらつく  反朱
     │
    星│花は今星の光りに咲揃ひ    支考

△ 月に月次、三去。(古今同、多例省)       ↑ トップへ

[花の蘂]

 月に月次は、字去の例にて三句去也。

▲ 近世、月次前にある時は、例句過ぎても異名する物と、心得違ひたる人もあり。月と月だに五去なるを思へ。又、面を隔てゝは、二去に許したる例もあり。

[ひな]
芹燒や

名ウ3 次│旅瘡や長きさ月の舟泊り    濁子 ※たびかさや
     │
名ウ7  │焼立てゝ庭に鱧する暮の月   翁  ※はもする

[秋]

     │ 月なき岨を曲る山間     一井
     ├─二
    次│このはちる榎の末も神な月   鼠弾

[類]

     │月の中の葛篭男は曇る也    其角
     ├─二
    次│ 御三所ながら同じ産月    其角

[句兄]

名オ6  ┌ 四月の腹といはぬつれなさ  其角 ※よつきの
    短│
名オ10 └ 鬠干したる月代の雲     闇指 ※もといほしたる

[夕顔]

    次┌ 暑気によわるみな月の蚊屋  尚白
   短濁│
     └ 随分細き小の三日月     尚白

[八鳥]

    次┌ 寒さ引づる卯月野の空    赤門
    ㋬│ 二
     │帚木の後の月迄取残し     赤門

[続有]
落柿舎七吟

発句  次│牛流す村の騒ぎやさ月雨    之道
     │ 三
初オ5  │月かげに苞のなまこの下る也  丈草
     ├─二
初ウ2  │ 御斎は月に十五はいある   之道 ※集「十五盃有リ」

△ ゲツとグワツ、二去。       ↑ トップへ

[このは]

   ゲツ│名月に尺八をふく人問はむ   孟遠
     │
   ガツ│うき恋せしとひとへ正月    旭亮

△ 訓の月、並に異名、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[百歌仙]

   つき│卯月まつ簾に風の当初めて   春草
     │ 用の多さに顔も洗はぬ    流水
   異名│弓張の只うそうそと日にてられ 如柳

[百歌仙]

   異名│有明の及ばぬ恋に立紛れ    一通
     │ さわくさわくと粟の秋風   杜良
   つき│長月は何が長うて暮れぬらむ  天垂

△ 音の月、並に異名、正の月、越、嫌はず。       ↑ トップへ

〔衆庵〕
[市の庵]
柳小折

名オ11異│川一つ渡りて寒き有明に    翁
名オ12 │ 岩にのせたる田上の庵    丈草 ※たながみの
名ウ1  │正月も往ぬれば淋し廿日過   洒堂 
※集「いにやれば(いにゃれば)」

[冬葛]

    音┌ 六月もはや昨日過ぎたり   曽良
     │簀の上に土器ほせば秋の風   楚舟
   異名└ 屋根の間へ落つる有明    杉風

[其袋]

第三  音│臘月の梅花はかゞず中々に   嵐雪 ※集「嗅ず」
 4   │ 夜行の砂の履にいそがし   秀和 ※やぎょうの
 5異名㋬│しらじらと嫦娥や酔を盗むらむ 舟竹

              

[十七]

    音│言訳も二月も尽きて教へかね  瓢水  ※集「いひわけも」
     │ 知契の事はいつか済むべき      ※ちけいのこと
    正│袖の月舟拾はれし礼と成り

              

[古今抄]

     ・六月や峰に雲おく嵐山     翁

 是は、落柿舎にて、名所三歌仙の発句也。此巻の五句目に至りて異名の月の評論あり。(中略)
 さみだれとは、仮名にかく故に、執筆の働きあれど、二月八月とは、仮名に書かれず。月といふ字の姿を恐れよとぞ。(約文)

▲ 「六ぐわつ」とは、仮名にかゝれぬ故に、三句去つても字形を恐れて、異名を用ひしと云ふ評論、甚だあやし。
 此等は、第三に正の月を付てもよき所也。前丁の、「続有磯海」落柿舎の七吟には、支考も交りたり。それに、「月並と月と二去」の許しあれば、其後の会に、かゝる論は、あるまじきはず也。

△ 月に弥生の類、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[古今抄]

 弥生といひ、師走といふ類に、異名の月をばつくべし。越を嫌ふは、古今の掟也。但し、弥生に只月とも付くべきにや。

▲ 月に弥生の類、付も越も嫌はぬ事は、支考の捌き巻にてしるし。
 何故に、かく自証相違の事を書けるや。

[翁]

     ┌ 弥生の霜はなんぼ程ふる   里圃
     │ふつつりと隣の人を忘れたり  乙州
     └ 夜の明くる迄酒とらぬ月   圃角

[汐]

     │弥生とは申せど年の若うして  凉菟
     │ 乗つた序に駕は京迄     八菊
     │九日や十日の月の照りたらず  紀之

◆[白ダラ]

     │紫の火燵ふとんに弥生来て   支考
     │ はやるといへばどこも三絃  長緒
     │此橋で月夜を誉むる人通り   北枝

◆[射]

初ウ11 │若い衆の拍子にあはぬ月と花  凉菟 ※集「若い衆と~華」
  12 │ 柳ばかりを植ゑて眺める   支考
     ├─
名オ1  │如月の空もくれりと春めきて  芦本 
※集「二月の~冬めきて」

△ 日次に月、越、嫌はず。(古ヘハ二去、七部及多省)       ↑ トップへ

 夏の日・日永・日和の類、影・照・晴などと作る時は、天象也。

[桃実]

   夏日│夏の日に〓          兀峰
     │ 這入せばむる母が蚊遣火   嵐雪
     │行水の跡もこぼさず月澄みて  嵐雪

[皮篭摺]

初ウ11  │江戸にわく金を思へば月と花  凉菟
初ウ12  │ 春の物見に百色の顔     ロ遊
名オ1日和│誂への日和に山やかすむらむ  ロ遊

[皮篭摺]

名オ5忌日│肱笠に忌日の使者の袖濡れて  其角 ※ひじがさ、傘代わりの肘
名オ6  │ 鵙のきげむにいらいらと鳴く 凉菟
名オ6  │待つ月やまりに尋ぬる帘    凉菟 ※さかのぼり、酒帘(しゅれん)

◆[浪化]

     │鳥の音も遠く聞ゆる朝の月   路青
     │ ふろしき懸のたびはやゝ寒  玄指
   幾日│幾日路で信濃へかゝるそばの花 胡桃

◆[梅十]

     │今の世は両六はらの月と花   梅光
     │ 旅行の内はしらぬ春哉    七雨
   日永│乗懸の牛に永き日歩ませて   羽嵇

◆[東花]
表八句

発句   │鬼松のかげやはらりと夏の月  呑水
脇    │ 地蔵の秋も近き索麺     支考
第三 日用│日用やら何やらしれぬ大工して 随岐 ※ひようやら。集「日傭やら」

◆[東花]
表八句

発句 日記│鶏頭や雨の日記の付落し    可吟
脇    │ 蔦のはそよぐ浪人の家    支考
第三   │行水にいざよひの闇の間もなし 指算 ※あいもなし

 自註曰く、「日記の打越むつかしければ、月を隠したる、いとよし」。

▲ 日記に月を嫌はぬ事は、支考捌きの前三例にてしるし。こは、此第三を誉め過しゝ筆先の過ちならむ。

△ 月に、降・聳・風・照・朧・影・天等、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[古今抄]

 さ月雨(さつきあめ)には、月を嫌へども、さみだれには嫌はずといへる耳目の変を、しるべき也。(約文)

▲ 正字は、「植水降(さみだれ)」也。「五月雨」と書きても、同字別吟、月に嫌はず。

[雪丸]

発句  雨│五月雨を集めて早し最上川   翁
脇    │ 岸に蛍をつなぐ舟杭     一栄
第三   │瓜畑いざよふ空に月待ちて   曽良

[一橋]

初ウ9 雪│雪をもつ樫や椹に露見えて   挙白 ※かしやさわらに
初ウ10  │ 虹の始めは日も匂ひなき   其角
初ウ11  │沈みては温泉をさます月すごし 翁  ※いでゆを

[深川]

発句   │冴え初むる鐘ぞ十夜の塚の月  杉風
脇    │ 忍返に残る橙        洒堂 ※しのびがえしに
第三  霜│馬取のはだせ乗りゆく霜踏みて 曽良 
※集「卸背(はだせ)」、肌背のこと

[やわ]

     │神鳴の落ちて晴れたる月のかげ 季邑
     │ どちら向いてもげに秋の山  貝紫
    霧│薄きりの中に一むれ雁の声   左白

[三千]

     │一ぺきの匂ひや月の新しみ   千山
     │ 風冷々とわせの穂揃ひ    冬月
    虹│とぶ雁に虹の浮はし筋違ひて  鵑翁 
※集「筋かひて」

[枯]

    曇│合羽なき馬より歎く雨曇り   神叔
     │ 小僧に成りて勇みつく顔   楊水
     │扇から湯銭さし出す月の暮   柴雫

[梅さが]

    雲│つかへたる雲を嵐の吹きやりて 支考
     │ 松のあなたを通る公家衆   卯七
     │月かげも羨れたり下屋敷    去来

[けふ]

    風│あれあれて末は海ゆく野分かな 猿雖
     │ 鶴の頭をあぐる粟の穂    翁
     │朝月夜駕に漸う追付いて    配力

[あめ]

     │本妻に妾を直す月の色     光延
     │ 恋によわきは角力取也    之道
   照り│てる暮や目深に着たる肥前笠  之道

[汐]

   照り│先にから使の者はてられゐて  凉菟
     │ 思ひもよらぬ唐人を見る   林角
     │卯の花にあしたの月の何とやら 柴友

[枯]

     │飯しひに内儀の出づるけふの月 尚白
     │ 功者に機を見て貰ふ秋    回亮
   明り│嘘寒き境格子の窓明り     芝柏

[市の庵]
五十韻

名ウ9  │久しうてのぼる古郷宵の月   敬之 ※集「古郷の」
名ウ11  │ 浪爰許に一夜きく秋     簑立
名ウ12 影│勉めする二人の影のやゝ寒く  キ柳

[八鳥]

    朧│朧舟汐汲男ながめゐて     好秋
     │ 小判拙き旅の夕ぐれ     好秋
     │物知の顔愚しく月に雲     蘭桂

[東花]

     │かへ取のせごし鱠に月を見て  一律
     │ 憚りながら神も萱茨     亀木
    空│松杉の匂ひに空の浅みどり   嘉竹

[百歌仙]

     │手ぎれいに晴切つてのく月の雲 林鹿
     │ 角力自慢に角力とらるゝ   汀亀
    空│四五日は病ひもようて花の空  如風

[枯]

   天気│茨渡す菖も匂ふ天気合     昌房
     │ 車の供ははだしなりけり   探芝
     │すむ月の横に流れぬ横田川   胡故

〔新白〕

     │あやつりは節句を懸てよい天気 唐庭
     │ そばも大方花のちらちら   水甫
     │月夜にも闇にも鶉鶉なく    支考

[桃白]
※[如行集]
ためつけて

初ウ8稲妻┌ 笈に雨もる峰の稲妻     翁
初ウ9  │能き程にねてから後の砧きく  聴所 聴雪
初ウ10  └ 夜の明く也と肝潰す月    越人

[俳]

     │嵐ふく雲間を分くる月二つ   松洞
     │ 杖を枕に菅笠の露      江山
   稲妻│稲妻に時々社拝まれて     翁

[古今抄]

 稲妻、雷光を天象に嫌はずとや、不審の儘に用ふべきや。但しは、今式の道理に任すべきや。

▲ 古式に「稲妻、非天象と云ふ」を難じけるは、支考の過ち也。

△ 月に同時分、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 一方は「時分」、一方は「景」を主とせしは、同時分嫌はず。又、「時不定の物」とくむ時は、双方、時分を主に作りてもよし。譬へば、「いざよふ」とは、暮れにも明けにもいはるゝごとし。

[雪丸]

    ●│瓜畑いざよふ空に月待ちて   曽良
     │ 里を向ふに桑のはた道    川水
    ○│牛の子に心慰む夕間ぐれ    一栄

[続有]

    ○│秋もやゝけさから寒き袷がけ  惟然
     │ 雁より鳧の早う来てゐる   野明 ※鴨
  ㋘  │抱込みて松山広き有明に    支考

[桜山]

    ○│里中は米つく音に暮れかゝり  正木
     │ 蚊遣ふすべて出たる裸身   為花
  ㋘ ●│夕顔のてりにあひぬる月の色  邦里

[別座]

    ○│入相を思へば秋のばせを哉   子珊
     │ 臼の跡つく庭の露草     杉風
  ㋘ ●│こち直す野分の空に月出て   杉風

[笠]

    ○│あの杜によそより早う暮掛かり 葉柳
     │ 待ちかねて見る関の相ばん  江橋
    ●│簾まく程にはれたるけふの月  諷山

[むつ]

    ○┌ 否といふ迄朝茶汲出す    助叟
     │今の間に霧のはれたる峰一つ  桃水
  ㋘  └ 星の備へを崩す有明     白桃

△ 月待、月祭は、正の月の事。㋬       ↑ トップへ

 立待・居待の類は「待」の字也。日祭(ひまち)・月祭(つきまち)の類は、「祭」の 字也。「まつり」の約、「まち」なれば、神祇也。待・祭、両方とも正の月、勿論也。証句、挙ぐるに及ばず。

△ 日に月、付句。       ↑ トップへ

[桃盗]

     │日のうつる障子に笹の秋更けて 牧童
     └ 雁南に東の月        松碌

[八夕]

     ┌ 夕日に遊ぶ庭の蜻蛉     昌柯
     │山里の月にと車引捨てゝ    和什

[東山万]

発句   │蜩や槙に日のてる降上り    国久
     └ 峰にかねつく弓張の空    至吹

 此付方は、前に呑まれず、殺風景ならぬ様にする也。

△ 月次・九月尽等に、月を付くる曲節。       ↑ トップへ

[新百]

     │帷子もひねに成りたる八九月  支考
     └ 月は十五夜十三夜月     仄止

              

[文操]

     ┌ 閏三月は四月と思やれ    乙由
     │有明も花も心のみよしのに   桃如

[足]

     │芋栗と味ひ分けて八九月    何声
     └ 詩にも和歌にも今宵一輪   羅々

[名筺]

発句   │菊の千代も七々四十九月尽   芦錐
     └ かねに紅葉をさそふ有明   宇兆

              

[百歌仙]

     │有明は花や柳に透通り     芦畦
     └ 卯月八日をまつねはんにて  天垂

[しし]

     │十三夜は忘れじ菊も其の名残  蓮二
     └ 木のはに霜の見ゆる長月   山隣

△ 月に紅葉の付。       ↑ トップへ

 紅葉類に夜体を対する時は、色を失ふ故に、古式には戒めたれど、其心もて付くる時は、よし。元より、夕月・有明・只月と付くるは、子細なけれど、度々かく付けむも、拙なからむ。只、法縛せられぬ様に在りたし。

[一橋]
花咲て

名オ9  │楢紅葉狂歌譁しく詠添へて   コ斎 ※集「やさしくよミそへて」
名オ10 └ 京の月夜は嘸踊るらむ     嵐雪

[山琴]

     │村雲に今宵の月は拾ひ物    曽北
     └ はさみ肴にもみぢ折りしく  秋の坊

[東花]

     │暮渡る西は法輪さがの月    抜不
     └ もみぢをふみに出たるさを鹿 柴友

[四幅]

     │学文に眼をさらす月の下    凉菟
     └ 紅葉の上をわたる通天    曽北 ※つうてん、東福寺に通天橋。

[翁]

     ┌ 夜のあくる迄酒とらぬ月   圃角
     │きり深く赤き紅葉も真黒に   桃隣

 こは、却つて法縛の捌き也。

△ 月に、蛍・稲妻・花火の付。       ↑ トップへ

[うやむや]

 月に蛍を結び、又、蛍を付くるには、両様ともに、光りを称美の物なる故に、蛍を育て、月に押されぬ様にすべし。
      岩陰は蛍に波のもえ上り
       孫のきげむのすゞしさを月

有耶無耶之関、月に蛍の事

[花摘]
有難や

第三   │川舟の綱に蛍を引上げて    曽良 ※集「引立て」
初オ4  └ 鵜のとぶあとに見ゆる三日月 釣雪

              

[壬]
霜に今

名オ8  ┌ 明日の鐘鋳の月も晴れたり  式之 ※かねい
名オ9  │稲妻に船こぎならふ渡守    村鼓

[砥]

     ┌ 痞にさはるたびの稲妻    岱水 ※つかえに
     │西行の像を拝する浦の月    宗波

              

[さいつ比]
※[袖草子]
重々と

名オ10 ┌ 花火灯して星祭る也     翁  ※集「とぼして」
名オ11  │傾城と襟の中から袖の月    立圃

[三千]

発句   │瓢から駒も雲井に花火哉    七里
     └ 月の梺に一はけの闇     蓮二

△ 月に、闇・朧・雨雲・立秋・八朔・卅日の付。       ↑ トップへ

 闇・雨・朔・晦には、月なき故に、常は月を延せども、強ひて付むには、種々の法あり。
 「助字の月」と云ふは、只、月の字を入るゝのみなれば、手段古びず。
 「観想の月」と云ふは、工夫の巧拙あり。
 「無」「過去」「未来」の月は、古みに落ちて、用ひがたければ、一変の工夫あり。
 「比喩」「背付」は、二度とは賤し。
 凡て、俳諧には、温故知新をはなるゝ事なし。

[やへ]

     ┌ 闇の夜渡る面揖の音     去来
   助字│訛らずに物いふ月の都人    景桃

[夕顔]

     ┌ 空は闇居水に光る暮の虹   万祖
   未来│月見むとての芋肥すらむ    白鳳

              

[東花]
表八句

 6   ┌ 月夜も花も関の開長     近利 ※集「開張」
 7   │雨上り水は朧に峰の雲     敦水

              

[炭]
百韻
子は裸

三ウ11 │落ちかゝるうそうそ時の雨の音 野坡 ※はっきり見えない時刻
12 助字└ 入舟つゞく月の六月     利牛

[山琴]

発句   │名月の浪にうくかと峰の松   蛙白
 一体の活└ 秋のけしきを洗ふ一雨    方堅

              

[雪丸]

     ┌ 霧立隠す虹の本末      曽良
   観相│そゞろなる月に二千り隔てたり 柳風

[東山万]

     ┌ 川ぎり遠き馬の鈴音     芳船
   未観│名月によからむ山のかゝりにて 甘石

              

[東山万]

     ┌ 雨気の雲に雨はふれども   支梅
    肖│名月の祝義に懸かる林和靖   従吾

[あら]

名オ10 ┌ あの雲は誰が涙包むぞ    翁
名オ11 │ゆく月の上の空にて消えさうに 越人

              

[春]
表六句
山吹の

初オ5  │朔日を鷹もつかぢのいかめしく 荷兮
初オ6 無└ 月なき空の門早くあけ    執筆

[八鳥]

     ┌ 日和に味の付いた朔日    此柱
    未│約束もかたき月見のはしの上  池柳

[あら]

名オ10 ┌ 雛飾りていせの八朔     其角 ※ひいなかざりて
名オ11未│満月に不断桜を眺めばや    其角

              

[__]

     ┌ 閏も同じ九日晦日    ※ここのかみそか
   比喩│そばは今花の盛りを月夜程

※ 晦日は、「三十日」と書く「みそか」を当てて、「みそか」と読み、「月の最終日」を意味する。
 陰暦の大の月は、30日で終わるが、小の月は29日で終わるので、「九日晦日(くにちみそか)」と呼ばれた。
 この句では、7音で読むので、「ここのかみそか」とした。
 ちなみに、芭蕉江戸下向の寛文12(1672)年から明治元(1868)年までの197年間で、平月・閏月ともに小の月になるのは、8回である。「閏も同じ九日晦日」の間隔は、最短13年、最長65年、平均26年で、なかなか珍しい。
 なお、この付合の出典は不明。

△ 七夕に、月の付。       ↑ トップへ

[うやむや]

 星合に、月を付くる大事あり。月は重く星は軽けれども、一夜の祝詞なれば、月は幽かに在りたし。(約文)

有也無也之関、七夕の伝

[一]
百韻
須磨ぞ秋

三オ12 │ 雲引きかつぐ星の通ひ路    似春 ※集「かづく」
三オ13 │ほとほとと天の戸ぼその暮の月  翁  
※とぼそ、扉。平家物語祇王

[天河]
八日の夜

発句   │思ひ出づる星も文にぞ八日の夜  百阿
     │ 物の哀れを月は御存じ     范孚

              

[歌]

     │七夕もふれば浮世と思召し    范孚
  無の変│ 萩に隠るゝ月も片破れ     佐曲

[柿]
三物

発句   │契るその星の使いかとぶ蛍    南利
  無の変│ 九つ前に入りがたの月     八菊

[柿]
三物

発句   │立琴に一葉のかくる夜明哉    乙由
     │ 月はいらせて山の稲妻     芦本

[柿]
三物

発句   │宵の雲仕廻うて星の出合哉    万里 ※しもうて
  無の変│ 壁も簾に見ゆる月かげ     凉菟

△ 月食を用ふる曲節。       ↑ トップへ

[翁]

     ・ 袂をぬらす宵の月食      沾圃

[このは]

     ・ 月食の兀げて更けゆく月の影  許六

 雨をうらみ雲を憎むも、月見る人の本情なれば、などか食をも憐れまざらむ。翁の病雁、病蚕も、悲心の吟也。されども、好んでするは奇怪ならむ。

△ 月に、名所の付。(多例省)       ↑ トップへ

[うやむや]

 月に更科、花によしのなど、付行く事なかれ。宇治に茶、竜田に紅葉と、付行く事宜きは、其場に在つての景物なる故也。

<有耶無耶之関、名所前後の事>

[古今抄]

 古式は、月に更科は、付句を嫌うて、吉野に花は、付句を嫌はず。されど、此論は今の用にあらず。

▲ 蕉門には、前を見かふる時は、更科に更科とも付け、又、前句を据ゑ置きては、吉野に花はさし置き、団子と付けても許さず。
 ウヤムヤの説は、古式なれば論に及ばず。[本書]に、「鳶に鳶の付」を一ヶ条としたるは、凡て、付句に数多ある「古式の物柄論」を、勘破させむため也。

[一]
百韻

発句   │見渡せば詠れば見れば須磨の秋  翁  ※ながむれば
脇    └ 桂の帆柱十分の月       四友

[一]
百韻

発句   │須磨ぞ秋しがなら伏見でも是は  似春 ※集「志賀奈良」
脇    └ ほのぼのの浦さし添へて月   四友 ※古今集「明石の浦に」

[一]
百韻

二ウ6  ┌ 木賊にかゝる真砂地の露    翁
二ウ7  │その原やこゝに築せて庭の月   杉風 
※園原や。つかせて。謡曲木賊

△ 月の名所にて、花の句。       ↑ トップへ

[うやむや]

      更科や曇るといふは花の事  ※凉菟作、「水薦苅(柳荘)」入
 月の名所に至る人、春は花にて、月の心を作る事あり。貞徳の片帆伝にも、「委く(くわしく)其場を弁へ、花にて月を称する体に作れ」といへり。一巻にする時は、表の月、桂男・嫦娥の粧ひをもて作るべし。(約文)

有耶無耶之関、月の名所に花の事

▲ 異名を用ふるは、古式のさた也。只、正の月にてよき事、前の月越に曇の付にてしるし。又、月といはでも、月の形容ある時は、別に月に及ばず。

△ 前句より、月を言懸くる曲節。       ↑ トップへ

[古今抄]

其一

 さて、前句より月を言ひかくとは、
     │掃除日の隙より所化の浮れ初め ※しょけの
     │ 玉の簾の高台寺前
  月定座│あらかねの芋は芋はと売歩行き
    月└ 今宵の月の名は隠れなし

 されば、前句より言懸くる月は、別に趣向を立つるに及ばず。すべては、前句の噂にして、月は安らかにすべき也。

▲ 「月を前より言ひかく」と云ふことは、翁にも諸門人にも、例なき新工夫也。
 定座越に、「日・星」ある所にて、此捌きあらば、面白からむ。此越は、日次(にちじ)なれども、を印せるは、此手柄に重みを付くる粧ひ也。全く、日次に月を嫌うてこぼしたるにあらぬ事は、此句の前後に「前句より言ひ懸くる月」とのみ書きたるにてしるし。
 さるに、近世、此捌きを、三通りに見過まりて、「日次に月越を嫌ふ」「月をこぼす時は毎々言懸く」「こぼし月は只月とだにいはじ。見立も趣向もいらず」と、思ひ誤まりたるは、笑止の事也。
 此等の新格を再び用ふる時は、先人の手柄を襲ふに似たり。以下、「宵闇の条」に、去来の「恥づるに堪へず」と云ふ遺戒を見よ。
 古今抄八条の月、大方しかり。

[古今抄]

其二

     │踏分けて出たる男鹿の山のはに
     └ 月は嬉しと思召すらむ

 是又、付方の一体也。彼いふ「前句の全体より、月を言懸くる句法」にはあらず。鹿の男振は、其前に用有りて、己が当句の趣向なれども、山のはの古語を借りて、次の月には言懸けたり。爰に、此句の付意(つけごころ)は、「嬉しとは見る人毎に思ふらむ山のは出づる秋のよの月」と、よめる歌の裁入(たちいれ)にて、月よりこなたを嬉しとは、翻転の句法也。

▲ こは、古歌取の法なれば、強ひて月の論にあらず。此捌きは、千変万化に、幾度も用ひらるゝ也。
 すべて古語取は、此の如く、翻転換骨等の句法を用ふる事、たち入第三の所にもいへり。
 本文を其儘に用ひては、手柄少なし。

△ 月より、前句へもたるゝ曲節。       ↑ トップへ

[古今抄]

其三

     │ちらちらと雲も晴れたる星の数
     │ 米のつもりも明日の雇人
  月定座│年よれば気の短さよ我れながら
     └ 素性の歌に恥づる長月
  ※注
 彼いふ翻(こぼ)し月に、月次・日次の指合は、字を嫌ふのみなれど、此のいふ星の指合は、趣向に夜分を遁るゝと、句作に当用を扱ふと、二品の骨折有りて、仮令言懸くるも、もたるゝも、是はむつかしき付合也。

※注 今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな (古今集、素性法師)

▲ 此文も、月次を正の月に扱ひたる手柄を、誉めむと、古式の夜分三去をもて書きたれど、蕉門の夜分二去は知れし事は、六の巻に「夜分越の変格ある自証」にて、明か也。すべて、支考の文は、かゝるあやかし多し。
 偖、此四条の月の自証を挙げたるは、翁にもなき作例なれば、こぼし月の名に便りて、月の自在を知らしめむため也。されば、此四を、「こぼし月の法」とは、見る事なかれ。又、「前句へもたるる月」と題したるは、前の、言懸くる月と云ふに、首尾せし撰集の摸様也。但し、此捌きは、翁の「文月」の一変格なれば、本文を分けて下に再出せり。

[古今抄]

其四

     │干物を忘れて露にぬらしけり
     └ 門は昼かと思ふ月の夜

 此付方は、姿情の両用にして、「干物」と「昼」の繋りを見るべし。総じて、翻し月の付方は、言懸くるももたるるも、二句の間の道理なれば、多くは情の運びならめど、此等は姿の証句といふべし。
 然れば、今いふ四品をもて、前後二品の凡例としらば、其余は、例の千変万化たるべし。

▲ 此結文に心をとめよ。四品をもて千変万化せよとこそ、書きたれ。必らず此捌きを、此儘に摺り写す事なかれ。

△ 隠月の変格。㋬       ↑ トップへ

[韻]

  月定座│宵闇はあらふる神の宮迁し    翁
     │ 北より荻の風そよぎたつ    許六
     │八月は旅面白き小服綿      洒堂

[本書]

 宵闇に、月は付け難し。打越には、殊に悪し。十句目は、花前に延びて無念なれば、三句の心に月を持たせて、八月の月(ガツ)の字にて、見渡の月(ツキ)の字は、会釈ひたる也。是を一座の捌きといふ。宵闇を、月とは思ふまじ。三句取合せて、月の字の働きとしるべし。

[宇陀]

 師曰く。宵闇といふ句に、月はなるまじ。此の宵闇を月にすべしと秋を付出し、八月といふ月次を出せり。全く八月賞玩にあらず。例の落穴也。月秋の場に(定座のこと)宵闇出でたればこそ、ふしぎの働きも有りけれ。毎度、宵闇・暁闇の月に成りては、をかしからぬ事也。

[古今抄]

 宵闇の荻に、只今の月の俤を含ませて、月といふ字に古法を捨てざる。遠くは「歌仙に二花二月の先兆」といひ、近くは「当座の妙用」といふべき也。

 然れども、此等の捌きは、故翁に、例の変通ならむに、我門の学者にも、一人二人は(去来、天垂、野坡を云ふ)聞誤まりて、宵闇を、いつも月也といへる。師道の興癈は、只、門人に在りて、百世の恐るべきは、遺訓のさた也。

▲ 三書、同意也。宵闇は、月ならねども、定座にて、此捌き有りし故に、月に成りたり。
 さて、上文に「歌仙二月の先兆」と云ふは、新式を立てむと思ふ腹にて、言曲げたる物也。是を、二月(にげつ)の先兆といはば、素秋と成りなむ。

[芭蕉談]

 風国が会に、宵闇の句出づ。
 去来曰く、「先師、既に此式を立てらるゝ上は、左法に習はむ」と。
 是を、月に用ひ侍る。此頃、許六の書(湖東問答)を見るに、「宵闇を月とし給ふは、故有りての事也。然るを、何の故もなく、月に用ふるは、あさましき事也」とあり。
 此事を聞いて、恥づるに堪へず。許六は深川の会徒也。いか様、仔細あるべし。

▲ 賢なる哉、去来。我過ちを、卯七に示して、百世の惑ひを解きたり。
 時に、或人、問うて曰く、「今若し、定座に宵闇出でば、如何」。
 答へて曰く、「そは、雑にしてさしおき、折端迄に、何季にても月をせよ」。
 又、問ふ、「其宵闇を、月にせむといはば、如何」。
 又、答ふ、「翁の捌きを写さば、去来に対して、又、恥ぢなむ。其句に応じて、一変格あらむは、よけむ。今、是を、予めいはば、夫も亦、粕とならむ。すべて、一変の捌きは、古法を破らずと云ふ大意を知りて後、時に臨みてする事ぞかし」。
 「因みに云ふ、翁の血脈相承は、其・去・許・支の四子也」と、湖東問答にいへるは違はず。そが中、去来・許六は、よく翁の言を信ず。此故に、翁の慮り有りて宣ひし事も、取捨せず。支考は、翁の金言といへども、其理を分別せずては述べず。其器量に任せて、折々自己の見を師に託すと、論に長じて、身を省みぬ失あり。其角は、その中にて両得両失あり。
 又、変格に自在なるは、木因・其角・支考・凉菟の四子也。以下は、此六人に敵せず。

[古今抄]

[西花集]表八句、肥前長崎
発句   │秋たつや朔日汐の星しらみ    卯七
     │ はらりとしたる松に稲の香   素行
     │姨捨の歌には誰も袖ぬれて    支考

 朔日の脇に臨みて、月は尤もむつかしく、増して、第三は、星白みに指合ふ。

 さとて、六句の表に、四句目迄月をこぼすべきにあらねば、爰に、姥捨の名を借りて、月の俤を含める也。

 さりや、吉野を花といひ、更科を月といはむに、誰れかは月花にあらずといはむ。増して、前句を田毎と見なしたる山田の形容を、称せざらむや。

 さりながら、いつとても吉野といひ、更科といひて、月花を隠すに論なけれど、前句のうつるとうつらぬとに、作者の眼力をしるべき也。

▲ こは、宵闇の隠し月を一変せし、無季格の捌き也。此段にて、凡ての変格の捌きを、戒めたり。若し、前句に移らぬ時は、鵜のまねならむ。
 偖、上文に「六句の表に四句目迄こぼすにあらず」と云ふは、自讃の言草也。月は、五句目迄延びてもよし。

 又、此表は、六句ならで八句也。脇も、[古今抄]には、「はらはら松の岡に稲の香」とあり。是、闇記の失也。

[焦]

名オ5 夏│鵺さしと是を号けてさ月闇    其角 ※集「名付て」
  6  │ 屁をふるはするゑぼし狩衣   其角 ※集「ひたたれ」、直垂
  7 隠│年をへて三笠の山をよみわかれ  楓子 ※集「年へては」
  8 秋│ 御恩の門へいざ生み給へ    其角 ※集「いきみたま」、生御霊
  9 秋│団栗と思召れよ老の母      楓子

 [西花集]は、元緑十一、[焦尾琴]は、同十四の出板なれども、是を編みしは、同時也。国は、江戸・長崎と隔りて、同体なる無季格・隠し月の捌きあるは、奇也。
 こは、二子偕に(ともに)、花摘の月山に、月を持せし捌きより、思ひ付し一変格なれども、姨捨の歌と云ひ、三笠の山を詠むと工みたるは、互に、十知の才の冥合也。
 偖、爰にて、名所の月を隠す道は絶えたれば、此葛を辿らずして、更に一路を見開くべし。

△ 月次に、月を持せし変格。㋬       ↑ トップへ

 此段は前と異なり、句面の月の字に、其影を隠したり。

[雪丸]
直江津
20句

発句   │文月や六日も常の夜には似ず   翁
脇    │ 露をのせたる桐の一葉     左栗
第三   │朝きりに飯たく烟立分けて    曽良 ※集「朝霧(あさぎり)に」

 此表に、月なし。按ずるに、「常の夜には似ず」と云ふ詞、全く大空の朗詠にて、月光は、句中に隠れ、月の字は句上に顕はれたれば、一句、其儘に、月とせしならむ。
 ○[七部大鏡]、古今俳諧、歌を引きて註したるは、非也。

[花摘]
羽黒山

名オ10  ┌ 篠懸しほる夜終の法      円入 ※集「しをる」、よすがらののり
11 月定座│月山の嵐の風ぞ骨にしむ     曽良
12    └ 鍛冶が火残る稲妻の影     梨水 ※集「火残す」

 つらつら、一巻を考ふるに、後表の口に名所出で、七八も過ぎ、又、名所のほしき所に、思ひよらぬ十句目に鈴懸の句出でたり。
 定座と云ひ、名所の好と云ひ、前句と云ひ、国柄と云ひ、其序と云ひ、並々の月・並々の名処を付けむよりも、月山と付けて、月をかぬるにしかずと、爰に後折の曲を成しけむ。
 尤も月山は、月の山とて、古歌多し。此句、此席を去り、此国を過ぎては、又ならぬ絶妙也。主人も、いとゞ興に入りけむ、「盃の肴に流す花の浪」と、匂の花に挨拶したり。
 蕉門には、かゝる応変の活ある故に、古式の異名物を用ひざる也。

[金言録]

 古き連歌に、年月と有りて、月の句なき表あり。其時の変によるべしと、昌琢の書にもあり。

▲ 連誹は、さもあらむ。翁の捌きは、其尸に月の魂を入れたれば、清光赫々たり。只、年月を月とはくらし。

[古今抄]

再出   │年よれば気の短さよ我れながら
     └ 素性の歌に恥づる長月

 昔、素性の「長月の有明」とよめる歌の噂なれば、畢竟は、長短の敵対にして、句情は恥の一字に尽くせり。

 はた、此句の称する所は、行平・業平の若き名にあらず。素性とは、隠居の禅門にて、老の短気を恥合うたる月の働きは更にして、其名の冥合は、神助ともいはむ。

▲ こは、文月の一変格にて、本歌の月に光を包みたる捌き也。前の月と此条とに、一変格の事をとくは、此等の例もて、今の学者に自在を得さしめむ婆心也けり。

 抑も、月花の捌きといふは、花に九条あり、月に八条あれど、一字も自己の道理をとめず。其座に臨み、其巻に随うて、例の不得止(やむをえず)といへる聖経の掟の変通に效へば(ならえば)、百世に好事の人有りて、奇を好み新を求めむとて、随意に月花を翫ぶべからず。月花は、よし神国の礼用にして、例の和すべく、例の節すべく、例に大和の名詮なるをしるべし。

▲ こは、月花の総結語也。近世、古今抄の学者、爰を考へずして、二の巻の「月花の句は、節句、正月の恒礼に似たれば、さして珍らしき詞を求めず」と云ふを、得手に聞違へ、或は「言懸くる月」は三通に過ぎて、只無作の徒言を正風体と思ひ、或ひは、月花の場に臨む毎に、爰は安しと雑兵に渡して、月花一句と云ふ手柄場をしらず。
 抑も、一巻の中にて、変化の敵と成りて、去嫌を争う物は、月花也。此故に、[古今抄]八・九条の月花に、八陣の変法を説きたり。弱兵の能くせぬ事は、証句にてしるし。例の和すべく、例の節すべくと云ふ駈引は、真に大将の大任ならむ。

貞享式海印録 巻四① 月 終り →「海印録、巻四② 非月」へ


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