貞享式海印録巻四 非月・素秋・日

貞享式海印録 巻四② 索引
非月物非月物、月に付句も、越も嫌はず月の字有りて、非月物、正の月に三去
素秋素秋、百韻にても一第三にて留めたる素秋素秋三物
素秋の巻素秋中に出たる曲節百韻に、素春二、素秋一出でたる変格
日に、降・聳・風・冴・照・天の類、越嫌はず日に、月次、越嫌はず
日、三去日に、日次、二去日に、音の日次、越嫌はず
日次、二去数字日次、二去日次に、地名の月日星、越嫌はず
日に、けふ、付句日に、昨日・けふ・あす・朔・晦、越嫌はず
昨日・けふ・明日、各、面去同作の日、折去同季の日、折去
星、面去
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻四、非月・素秋・日を見る。


貞享式海印録 巻四

非月物

□ 非月物、月に付句も、越も、嫌はず。       ↑ トップへ

 日の有明・行灯の有明・恋の待宵・宵闇等也。

[八鳥]

発句   │霧深し日を有明になく鶉    夫木
     │ 三
初オ5  │着心も帷子涼し月すゞし    可蕩

 日を有明と云ふは、月ならぬ故に、第三迄素秋をつゞけ、定座に夏の月をしたり。日月二去なれば、四句目にてもよし。

[白扇]

   行灯┌ 長行灯の寒き有明      浪化
    月│すゝ掃の夜は月雪と白み合ひ  支考

[桃盗]

   有明│台所は鉄行灯の有明し     山紫
     │ 烏も起きて野分静まる    只草
    月│浮島が原とて残る月の色    巴兮

[渡]

   有明│鶏がなく台所には有明し    先放
     │ 二
    月└ 芋名月もやはり饅頭     先放

              

[桃白]

   待宵│待宵の鐘をよそにや忍ぶらむ  如行
    月└ 薬尋ぬる月のさむしろ    左柳

[深川]

    月┌ 恋もがさつに城下の月    洒堂
     │ 四
   待宵│待宵の身を悶へたる四つのかね 洒堂

 三の巻、恋の部にも、例あり。

[市庵]

   宵闇・ 下駄引きずりて帰る宵闇   荘蘭

 こは、例多けれど、前に論じたれば、略す。

△ 月の字有りて、非月物、正の月に三去。       ↑ トップへ

 月日・鴬の月日星・星月夜・卯花月夜・月夜柿の類。

[翁]

   月日│其夢の枯野を廻ぐる月日哉   沾圃
     │ 三
   有明│欞子から猫の帰るは有明か   虚谷 
※れんじから、軒・手すり、連子とも

[其袋]

    月│老僧の若衆連れたる春の月   百里
     │ 四
   月日└ 吉野の暦月日わりなき    其角

              

[十七]
飛騨人も

初ウ8 月│ 水くらくきく線の月     湖秋 ※集も線の月、いとすじの
     │ 四
名オ1 鴬│篭造り凡そ月日星なれや    知堂 ※集「篭工をふよそ(おほよそ)」

[古今抄]

     ・母に似よ鴬の子の月日星    蓮二
 此発句は、賀の金城にて、其母の若きより、俳諧の名にしられて、晩年に、此子を産めるに、花鳥の寵も常ならず。男なれば、かく祝ひける也。
 偖、此巻の評論に、「歌仙は今の二花二月ながら、此いふ月日星は声の文なれば、打任せては、月に用ひがたし。此等や星月夜の例に倣うて、此裏の折返に、異名の月をや用ふべけむ」とぞ。

 其後、此句の評論を思ふに、こは、古歌より母の一字を裁入れて、声に三光の文をいへれば、春季といはむに、論なけれど、細かに論せば、其子のいはけなく鳴習ふを、句意の詮用なれば、冬の方も然らむか。増して月日星の捌きといひ、冬春の紛れといひ、猶、はた、一世の衆議あるべし。

▲ 上文のごとく、春にて仔細なし。強ひて論ぜむ時は、付子(つけこ、音付の鳥)と見て、初夏とせむは、宜べ也。冬の笹鳴には、月日星の声なし。又、月次と月三去なれば、折返迄、五句も去りて、異名をせむは、無益也。
 異名ならば、越にてもよし。又、爰に三月歌仙と、新式の紛れを思はゞ、表五句目に、正の月を付けて、明かに新式としらすべき所也。

[星月夜]
弁難

 芭蕉式に、星月夜秋也。月にあらず、発句に、此詞、出づる時は、三句去りて、異名の月あるべし。御傘にも、星月夜秋なり。月の字三句去とあり。卯花月夜も、亦同じ。月のなき夜、卯の花の影、白妙にして、月かげに紛へるをいへり。何れも月にはならぬ也。(約文)

[古今抄]

 次に、星月夜の評論あり。是は、秋にして月にあらず。発句、脇、第三迄に此名目ある時は、其三句は素秋にして、七句目の月の座に、他の季にて、異名をすべし。

▲ 星月夜、発句にあらば、五句目。第三にあらば、七句目。いづこにても、三去にて、他季の月、出してよし。異名に及ばず。但し、星月夜に他季を結ぶ時は、他になる也。

[だて]

月定座 春│旅車明日は東の月と花     曽良
     ├─五
    秋│行帰り迷子よばる星月夜    嵐蘭 ※まよいご
     │ 五
月定座 夏│狼の顔見て明くる夏の月    嵐竹

[一]

発句  春│年たつや家中の礼は星月夜   其角
     │ 五
月定座 秋│有明に少き鯖の割こ物     翁

[星月夜]

    春│冴返る空や北斗の星月夜    原松
     │ 三
月定座 秋│娵取に桂の影の謡声      桃之 桃三

 三去の例、少けれども、古今通式也。異名に及ばぬ事は、月次、月日の例にても、明か也。又、「月草」は正字、[足+后]跖草(つきぐさ、鴨跖草)。「月毛駒」は正字。[刀+鳥](つき)なれば、月の越も嫌はぬ事、五の巻にいへり。


素秋

□ 素秋、百韻にても一。㋬       ↑ トップへ

[三冊子]

 師曰く、「素秋の事、せぬ方よし。するに習ひなし。時による也」。

▲ 第三迄に日・星・月次・闇・雨・朔・晦等ある時、素秋にてさしおき、定座迄に、他季の月する事、常也。
 又、障りなくても、月出しがたくて、素秋にする事も、常也。譬へば、六句表の第三に、日・星あらば、四句目か六句目かに、他季の月を出し、脇に月次あらば、六句目にすべし。第三にある時は、四句目に並ぶるの外なし。「歌仙」にて素春出でたる時は、素秋、決してせす。「百韻」には、素春・素秋一つづつはよし。

△ 第三にて留めたる素秋。(多例省)       ↑ トップへ

[笈]
付合三句
落梧亭

発句   │蔵の陰かたばみの花珍らしや  荷兮
脇    │ 折りてや掃かむ庭の箒木   落梧
第三   │七夕の八日は物のさびしくて  翁

△ 素秋三物。       ↑ トップへ

 ▽、さはりの印。

[白扇]
菊七組ノ内
其一

     │間引菜の隣りは菊の匂ひかな  浪化
     │ ひよ鳥のぞく窓の釣柿    林紅
     │自剃する鏡に秋を憐みて    支考

[白扇]
其二

     │町並の奥や菊にて明屋敷    呂風
     │ 鳩によばるゝ年寄の秋    荻人
     │勝つた事ばかり角力の関をして 嵐青

[白扇]
其三

     │酒飲といはれて見たしけふの菊 路徤
     │ 小袖に軽き萩の一枝     浪化
     │雁の声水に夕日のかげちりて  呂風

[白扇]
其四

  草体 │竹深く小鳥なく也きくの花   林紅
     │ 碁は手が冷ゆるまりは老人  嵐青
     │中汲を伊丹の聟がくれまして  荻人

[白扇]
其六

  草体 │菊の日や三浦の親父何所へやら 荻人
     │ 笠に禿と見ゆる茸がり    支考 ※かむろ
     │提重は秋野の鹿の蒔画にて   林紅

              

[柿]
尾城重陽九組
其三

     │九日を秋の眼やきくの花     東推
    ▽│ 薄着になれと昼の蜻蛉    楚山
     │持寄りの新そば切に笠脱いで   且栖 旦栖 ※集「道寄の」

[柿]
其四

    ▽│菊畑やけふの夜明の星下り   寄木 ※集「星くたり」
     │ 箒かざずは誰やらが秋     尚綱 尚絅
     │蓮のはの盆もいぬれば風立ちて  此通 ※集「いにやれば」

[柿]
其五

     │かゝる世に律義過ぎたり菊の花  独卜
     │ 初切米に冬をまつ顔      孤千
     │新酒にもならの都のふり行て   拾石 捨石

[柿]
其八

  草体 │餅つかで淋しう御ざるけふの菊  嘯風
     │ 検見の風のつらあてにふく   干皐
     │暮てゆく秋は落書のさたもなし  細石

              

[雑]
三物

     │懸けてまついよ簾も軽し秋の暮  其角 ※伊豫すもかろし
    ▽│ つはるを見るに文月の瓜   彫棠
     │衣うつ身を転ねにぬくもりて   粛山 ※うたたね

              

[三物]

     │秋たつやそよりと荻の上すべり  杉吏
     │ 垣の瓢の花も実を持つ     洞翠
     │部屋住の娵も彼岸の留守をして  志礫

[三物]

     │目にあかぬ花も紅葉も長良川   李仙
     │ 川音ながら遠き鹿の音     蓮二
     │秋といふ名には風さへ実の入て  泊楓

△ 素秋の巻。(多例省)       ↑ トップへ

[三千]
六表

発句   │雁がねや雲に道ある帆懸舟    有已
脇    │ 暮雪もいまだ八景の秋     蓮二
第三   │肌寒き僧も若衆も欄干に     和荊
4    │ 一
5  夏月│笋を盗みにいざと夜半の月    芝朴 ※たけのこを

[俳]

発句  ▽│蝿並ぶはや初秋の日南哉    去来
脇    │ 葛もうらふく帷子の皺     
第三   │小灯をさはらぬ萩に折懸けて   路通
4    │ 一
5  冬月│一通り霙にくもる朝月夜     惟然

◆[文月]
新歌仙
二花一月

発句  ▽│文月や雁もいろはは未だ知ず  嵐枝 ※集「雁は以呂波も」
脇   ▽│ 祭らぬ星も出て遊ぶ空    柳鼓
第三   │渡初すめば橋からきりはれて   帰的
     ├─三
初ウ1 春│遣羽子の音はヒイフウ三日の影  白狂 ※やりばねの

◆[文月]
葉月往来
二花一月

発句  ▽│風便に任する荻の葉月哉    吾仲
脇    │ 柳は無事に露も時雨も     山只
第三   │山雀の孫を相人に篭提げて    范孚 ※あいてに、集「相手に」
初ウ1  ├─三
    夏│蛍見にいざよひの闇の片明り   嵐枝

 近世、朧雪、炊下の人々、文月・祭月等の発句を正の月に扱ふとて、脇に「露の影」「踊のかげ」などと、影の字を付くる事あり。つくづく見るに、日のかげとも、灯のかげとも定めがたし。一句に影を結ぶはよし。脇に並べては、二階の目薬也。其始め、何人の仕出しけむさかしらにや。
 爰に支考の証を見て、二門の人々、弊を止めよ。
 さて、異名の月は、前句に用ある故也。

△ 素秋中に、出でたる曲節。㋬       ↑ トップへ

[古今抄]

 一巻の法式に、素春はあれど、素秋のなきは、月の八面にせはしければ、季と季の隔ても、やかましき故也。

▲ かくいへるは、面々の月を、皆秋にする時の論也。

[花の蘂]

 句脇に、他季の月、出でたる時、表に素秋をする事もあり。

▲ 他季の月出で、素秋あるも、又、前後なるも両例あり。

[雁木伝]

 素秋の事は、古来も稀なる甚秘也。夏の月にても、夏に通ふ秋の道具を付くる也。尤も、秋の句続くべし。

▲ こは古式也。蕉門に其さたなき事、証句にてしるし。其夏の月へ、夏秋通ふ季を結びて、素秋を続けなば、秋に引かれて紛はしく、却て、素秋の詮たつまじ。
 又、素秋と他季の月と続くに限る事もなし。又、他季の月出でゝ、素秋なきは、常の事也。

[根本]
百韻
涼しさの

脇  夏月│ 青鷺草を見こす朝月     翁
第三 秋 │松風の博多箱崎露けくて    嵐雪
 4 秋 │ 酒店の秋を障子明るき    其角
 5   │社日来にけり尋常の煤はくや  才丸

[ひな]
野は雪に

第三 春月│門ばんの寝顔にかすむ月を見て 翁
 4 秋 │ けさむき初る前栽の柿    宗波
 5 秋 │秋風に莚をたるゝ裏座敷    此筋
 6 秋 │ むしも雨夜は目覚がちなる  濁子
 7 秋 │肌寒く痞の方を下になし    千川 ※つかえのかたを

[一幅]
6句迄
紙衣の
[一葉]
17句迄
紙きぬの

5  秋月│夕暮の月迄傘を干して置く   応宇 ※月:三秋
6  秋 │ 馬に西瓜をつけてゆく也   葛森 ※西瓜:初秋
7  秋 │秋寒く米一升に雇はれて    翁  ※秋寒し:晩秋
     │ 五
13  秋素│よの中を鶺鴒の尾にたとへたり 葛森 ※鶺鴒:三秋
14  秋素│ 露にとばしる萩の下末    乙孝 ※露:三秋、萩:初秋
15  秋素│稲妻の光つて来れば筆投げて  一有 ※稲妻:三秋

 此巻、裏の月出ぬ先に、定座の所に、素秋出でたり。

 ※ 曲斎は、引書を[一幅半]とするが、[一幅半]は、「歌仙」と題して、表6句と翁句だけを載せるので、[一葉集]を加えた。  しかし、[一葉集]が追加した11句が、初折の裏か疑問があるので、[一葉集]が「翁の句」を引く[幽蘭集]を加え、次に掲げる。

[一幅半] 元禄13(1700)年[幽蘭集] 寛政11(1799)年[一葉集] 文政10(1827)年

   歌仙

紙衣のぬるとも折む雨の花 芭蕉
 すミてまつ汲水の生ぬる 乙孝
酒賣か船さす棹に蝶飛て  一有
 板屋〳〵のましる山本  杜国
夕暮の月まで傘を干て置  応宇
 馬に西瓜をつけて行なり 葛森



   この巻のおきなの
     句をわけて余ハ
         のそく



稲妻の光て来れは筆投て
 野中の別れ片袖をもく  芭蕉

 夕に駕篭を借みやこ人
命そとけふの連哥を懐に   仝

汐は干て砂に文書須广の裏
 日毎にかはる家を荷ひて  仝

 乞食年とる楢の木の中
聖して霰なからの月もミつ  仝

目前のけしきそのまゝ詩に作
 八ツになる子の顔清けなり 仝



紙衣のぬるともをらむ雨の花 芭蕉
 すミて先くむ水のなまぬる 乙孝
酒うりか船さす棹に蝶飛て  一有
 板屋〳〵のましる山本   杜国
夕くれの月迄傘を干ておく  応宇
 馬に 西瓜を付て行也   葛森



   此末翁の句のミ挙く





稲つまの光てくれハ筆投て
 野中のわかれ片袖をもく  翁
    ヽ
 夕に駕をかるみやこ人
命そとけふの連哥を懐に   翁
    ヽ
汐は干て砂に文かく須广の裏
 日ことにかハる家を荷ひて 翁
    ヽ
 乞食年とる楢の木の中
聖して霰ながらの月もミつ  翁
    ヽ
目前のけしき其儘詩に作り
 八ツになる子の顔清けなり 翁



紙きぬのぬるとも折ん雨の花 翁
 澄てまつ汲水のなまぬる  乙孝
酒うりか船さす棹に蝶飛て  一有
 板屋〳〵のましる山もと  杜国
夕暮の月まて傘を干て置   応宇
 馬に西瓜を付てゆく也   葛森
秋寒く米一升に雇れて    翁
 襦袢の糊のたらてさひしき 国
吹付て雨はぬけたる未申   森
 夕に駕をかる都人     国
命そとけふの連歌を懐に   翁
 寺に祭りし業平の宮    宇
世の中を鶺鴒の尾に喩へたり 森
 露にとはしる萩の下末   乙孝
いなつまの光て来れば筆投て 一有
 野中のわかれ片袖をもく  翁
君か琴翌の風雅をしたひつゝ 宇

 幽蘭集に
  此末翁の句のみ挙てと有て

汐は干て砂に文書須广の裏
 日毎にかはる家を荷ひて  翁

 乞食としとる楢の木の中
聖して霰なからの月も見つ  翁

目前のけしき其まゝ詩に作
 八ツになる子の皃清け也  翁

[住吉]
六句

発句   │浮きてゆく雲の寒さや冬の月  園女
     │ 三
 5   │鮭の出てけふは朝から酒になる 嵐竹
 6   └ 草にさらりと露をもてなす  青流

[東花]
八句

発句   │冬の月白し豆腐に梅の花    乙由
     │ 二
 4   │ 菊の節句は何の香もなし   水甫
 5   │夕暮はなくと読れしいなおほせ 仄止
 6   │ 鳥に取つては鳶の秋風    季嵐

[東山万]
八句

第三   │朧月おほとなぶらに更行きて  木因
     │ 二
 6   │ あるいて見れば面白き秋   木雨
 7   │稲雀茶の木畑や退所      翁遺吟 ※元禄4、義仲寺吟
 8   └ 偖露しぐれ時雨初めけむ   執筆

△ 百韻に、素春二、素秋一出でたる変格。       ↑ トップへ

[俳]
百韻
錦どる

発句 素春│錦どる都に売らむ百つゝじ   麋塒
脇    │ 一花さくら二ばん山吹    千春
第三   │風の愛三絃の記を和らげて   卜尺
     ├──二十八
二オ10素春│ 強盗春の雨をひそめく    昨雲
  11  │嵐更け破魔矢強まる音すごく  千春 ※集「つまよる」、爪縒る
  12  │ 鎧の櫃に餅荷ひける     麋塒
     ├──二十三
三オ7素秋│松髪の祖父蔦上下に出立でて  麋塒 ※じい。蔦上下:雑扱い
  8  │ 城主に霊の蜜柑献ずる    嵐蘭 ※霊の蜜柑:雑扱い
  9  │或卜に火あての松魚生きかへり 峡水 ※あるうらに。鰹:三夏


□ 日に、降・聳・風・冴・照・天の類、越、嫌はず。       ↑ トップへ

〔斥非談〕

 天象は、月日星のみ也。聳物、降物を嫌はぬは、鳥獣の人間に交はれども、人倫に嫌はざるが如し。但し、歌の題に天象と有りて、雲・霧・雨・雪・月・星等をよみ、又、字書の乾坤門に、聳降風等を属するは、去嫌の沙汰にあらざれば、門部を省ける也。紛ふ事なかれ。(約文)

[深川]
苅かぶや

脇    ┌ 暮れかゝる日に代かふる雁  嵐竹 ※集「城かゆる雁」
第三   │衣うつ梺は馬の寒がりて    翁
4  霧雨└ こえ草烟る道のきり雨    北鯤

[草刈]

   雷雨┌ ひかりと一つ神鳴の雨    万子
     │此宮の絵馬に鳩の住みあれて  支考
     └ 杜の下ゆく水に日のさす   牧童

[続さる]

   照降┌ 鳶で工夫をしたる照降り   支考
     │おれが事歌によまるゝ橋のばん 翁
     │ 持仏の顔へ夕日さしこむ   曲翠 ※集「持仏のかほに」
     │平畦に菜を蒔立てし莨跡    支考 ※たばこあと
    風└ 秋風渡る門の居ふろ     惟然 ※かどの

[やわ]
世吉

名ウ4日照┌ 松に並んで鷺に日のてる   薼生 ※集「ならびて」
 5   │からほりの花はすんかりすんかりと 致画 ※集「から堀の」
 6 冴え└ 冴かへれとや入相をつく   字中 ※集「晩鐘を」

[深川]

    雲│ゆく雲の長門の国を秋立ちて  洒堂
     │ 露に朽ちけむ一こしの錆   支梁
    日│西日いる花の庵の半間床    也竹

[越]

    日┌ 夕日の水に遊ぶ鳥ども    烏旧
     │花折りて持たぬ人なし花戻   不柳
   曇晴└ 藤の曇に山吹のはれ     管小

[花摘]
有難や

    天│すむ水に天の浮べる秋のくれ  珠妙 ※そらの
     │ 北も南も砧打ちけり     梨水
    ?│居眠りし昼の日陰に笠脱いで  釣雪 
※集「眠ては昼の陰(かげり)に」、日なし

△ 日に、月次、越、嫌はず。(古へは二去)(七部及多省)       ↑ トップへ

[奥栞]

     │立ちあがる鷺の雫の春日かげ  如行
     │ 撞木におろす酒樽の錠    支考
     │こき込の茶を干しちらず六月に 如行

[文月]

     │出る日に咲いて入る日に花の雲 柯白
     │ ひがんの角を隠す綿帽子   杞音
     │正月を毛の生える迄貯置き   白狂

[白ダラ]

     ┌ 何くはいでもねたい四月   従吾 ※しンがつ
     │こし張の浄瑠璃本を読みながら 北枝
     └ 西日さしこむ竈の鍋ぶた   支考

[さみ]

     ┌ 薮のあちらへ日はいるとかや 玉蘭
     │鯛よりも豆ふに安き花心    甫秋
     └ さみだれ山の杜の三月    露白

△ 日、三去。       ↑ トップへ

[枯]

初ウ1  │其向も世々の隣の日を受けて  楊水
     │ 三
  5  │日に添へて宮木の屑は泥に朽ち 沾徳

[越]

初ウ9  │村雨に日は照りながら峰の月  支考
     │ 三
名オ1  │乙鳥も日和を誉むるけさのはれ 管小

[冬梅]

     │雲は皆ちぎれて西に日のうつり 里紅
    ㋬│ 二
     └ 柳に結ぶかげも永き日    応国

△ 日に、日次、二去。㋬       ↑ トップへ

[新百]

     ┌ 畠の瓜の日にてられゐる   反朱
     │
     │菊の日の木賃返しに浅黄裏   団友

[其鑑]

初ウ10 ┌ 雲兀げかゝる空に日のあし  千中
     ├─二
名オ1  │繋がれて番の家敷は日も永し  此柱

△ 日に、音の日次、越、嫌はず。(多省)       ↑ トップへ

[百歌仙]

     ┌ 娵取つてから四五日もたつ  天垂
     │商ひが先づよの中の大事にて  知風
     └ ふるかとしては日の照てゐる 天垂

 月打越に、月(ゲツ)・月(ガツ)を、きらはぬも同じ。

△ 日次、二去。       ↑ トップへ

[冬]

     ┌ 釣瓶に粟を洗ふ日のくれ   荷兮
     │
     │寅の日の旦をかぢのとく起きて 翁

[行脚]

     ┌ 日がくれたらば又明けう迄  由洛
     │
     │ひよ鳥の日雇に鷺の新参者   五桐

[笠]

     ┌ 日雇にもなる大工なりけり  蓮二
     │
     │暖な日に開張へ誘はるる    里紅

[冬梅]

     ┌ 雲さへ拾ひ物の遊日     阿当
     │
     │昼からの永さも常の一日程   五雪

[三日月]

     ┌ 夏の日和の雲にかたまる   嵐七
     │
     │杖突の重石もきかぬ日雇とも  野秋

△ 数字日次、二去。㋬       ↑ トップへ

[百歌仙]

     │秋もはや六日立ちたる暮の月  三惟
     │
     └ 情の深い百日の宿      天垂

[行脚]

     ┌ 三日にあけず米は一俵    凉菟
     │
     │姫松の住吉詣で十三夜     任行

[江湖]

     │三日月に手習のるす覗かれて  桃主
     │
     └ 此晦日も大と思うた     鶏里

△ 日次に、地名の月日星、越、嫌はず。       ↑ トップへ

[鵆]

発句  星│深閑と星崎寒し草枕      舎羅
脇    │ 何をふれゆく鈴鳧の声    知足
     │絹をたつ日は殊更にめでたくて 安信 ※集「裁つ」

[白ダラ]

     ┌ 帰る日雇に明日の約束    北枝
     │寺持に成つた顔にてゐろり端  牧童
    日└ 日野から貰ふ手おり一反   万子

[文月]

     │桑名からくはで日永の里なれば 柳鼓
     │ 鷹野のふれに鷺もなく也   羽冠
     │降捨てた日和をけふの拾ひ物  帰的

 こは、異体字去の例にもあらず。填字の類にもあらず。日次の文字は多用にて、殊に筆画も少き故に、ての字、にの字の例にならへり。多用にても、筆画目だつ字は、嫌へり。蕉門に立つる一理万通の法式、爰にしるべし。

△ 日に、けふ、付句。(多省)       ↑ トップへ

[東花]
表八句
彦根

 7   │海尊はまかれてけふの寺参り  木導 ※常陸坊海尊
 8   └ 偖結構な日和なりけり    徐才 徐寅

△ 日に、昨日・けふ・あす・朔・晦、越、嫌はず。       ↑ トップへ

 此類、日の字を書いても、日の心なし。昔経(きのう)・今経(きょう)・翌(あす)(未考)・月立(ついたち)、月篭(つごもり)の心なれば、日の字に嫌はず。

[山琴]

     │粽笹にけふの節句はしれた事  香鵲
     │ たばこをすへば時鳥なく   丈紅
     │結構な日和に舟のさし合うて  鴉亭

[三匹]

     ┌ きのふは亭主けふは旅人   汀芦
     │杉原に硯を添へて縁の花    芦本
     └ 入る日の色についと乙鳥   執筆

[桃]

     │日やけより公事に倒るゝ北近江 里紅
     │ あじろの先へ走る伴僧    倚菊
     │朔日は朝ねもならぬるす居番  南節

△ 昨日・けふ・明日、各、面去。       ↑ トップへ

[茶]

     │茶ばかり呑みてけふも旅だつ  支考
     ├─九
     │雪ふり込んでけふもなる滝   桃隣

[山カタ]

     │ 親父の顔もけふは朔日    六之
     ├─十
     │重箱に何やらけふは配り合ひ  白狂

[浪化]

     │飛騨縞に出立てけふの公義振り 密水
     ├─十一
     │鮴すきのけふの仕事に一笊   可汲 ※ごりすきの。ひといかき

[続花]

     │けふは又松原見ゆる宿取りて  魚貫
     ├─七
     │はるゝ迄けふの祭の延びたさた 祗徳

              

[梅十]

     ┌ 明日の用意の床の生花    羽嵇
     ├─
     │花ぐもり明日の天気を受合ひて 泊楓

△ 同作の日、折去。       ↑ トップへ

[砥]

発句   │鴬に朝日さす也竹格子     浪化
   朝日├───三十
名ウ2  │ につと朝日のむかふ横雲   翁

[さみ]

     │柴舟にとへば花さく日和哉   玉鳳
   日和│
     │ 日和に垢のつかぬ青空    銀桂

[浪化]

    ウ│ 藤の日暮に山吹のひる    知足
   日暮├─
     │ ふしんの音の日暮はたつく  山之

[雑]

第三   │北にふす枯野の松の朝日かげ  彫棠
   日影├──十五
名オ1  │春日影いざりながらに蝿打ちて 彫棠

△ 同季の日、折去。(古今同)       ↑ トップへ

〔諸書〕

 春の日に、永き日・遅き日、面をかへて又ありと云へり。

[市海]

     ┌ 大坂の自慢海に春の日    野坡
     ├─
     └ 髪も結はずに遊ぶ春の日   執筆


□ 星、面去。(古へは七夕も折去)       ↑ トップへ

[其袋]

初ウ9  │星につむ銭を篩に篩ふとも   氷花 ※ふるいにふるう
     ├──十七
名ウ4  └ 星霜てるか諸社の贈官    嵐雪

貞享式海印録 巻四② 終り →「海印録、巻四③ 花」へ



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