貞享式海印録巻五 辞(てには)

貞享式海印録 巻五② 索引
多用の辞
(てには)
多用の辞続き、限らず三四越並、嫌はざる辞
「て・に・を・は・の・と・も・る」
打越並、嫌はざる辞
「す・ふ・ず・ぬ・ば・し・へ・たる・ても・にも」
越並あるは、三越、嫌はざる辞
「が・か、なに・いか・いかが・なぞ・たれ・いつ・いづこ・いく、や」
上下にかはり、越、嫌はざる辞
「で・ど・よ・ぞ・む・らむ・しく・しき・けり・なり・るる・なら・やら・から・より・うち」
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻五、辞(てには)を見る。


貞享式海印録 巻五

多用の辞(てには)

□ 多用の辞続き、限らず。       

[鶴]
百韻
日の春を

初ウ12  ┌ 恥かしの記を閉づ草の戸   芳重
  13  │さく日より車かぞふ花の陰   李下
  14  │ 橋は小雨のもゆ陽炎     仙化 ※集「小雨を」
二オ1  │残る雪残案山子の珍らしく   朱絃
  2  │ 静かに酔うて蝶をと歌    挙白
  3  │殿守が眠たがりつ朝朗     千里
  4  │ はげた眉をかくすきぬぎぬ  翁
  5  │罌子咲て哀に見ゆ宿なれや   枳風 ※集「情に見ゆる」

 「る」、八続き。

 此外「て・に・を・は・の・と・も」等の、多用の辞は、続き限りなし。
 下に挙ぐる、続き越、嫌はざる例の中にもあり。

△ 三四越並、嫌はざる辞。       ↑ トップへ

 ▽ て・に・を・は・の・と・も・る(▽は、三並の印)
 以上の字類、如此、上中下並びに、三四五越、歌仙に一所。百韻に、字かはりて 二三所は、例あり。
 二並べ越しは、長き巻には、同字も数所あり。
 ----○ ------● ----- │と・は、を・に、ぬ
  ------▲ -------    │て・に
 ----○ ------● ----- 
  ------▲ -------    
 ----○ ------● ----- 
  ------▲ -------    
 ----○ ------● -----

[古今抄]

 「腰のて」「腰のに」といふ事は、七々の低句に限りて、高句の中間には、其咎めなし。
 或ひは、「見れば」「きけば」のごとき、「は」を濁る詞より、押字(「と・は」の類)も抱字(「を・に」の類)も、すべて付句を去るべき也。されど、打越に付くる時は、五もじか七もじか、同拍子には用ひず。畢(おわんぬ、完了)の「ぬ」は増して、不(ず、打消)の「ぬ」とても、総じて辞の指合は、吟声に語路あしき故也。(約文)

▲ 爰にいふ「てにをはとばずぬ」の類、皆、越並も付句も嫌はざる事、下にひく支考捌きの例にても、明か也。[古今抄]には「婆々」に「婆々」の付の自証をさへ引きたるに、辞の「ば」の字を嫌ふとは、いかなる思惑にや。

[鵆]
二十四句
杜若

第三   │二つし笠する烏夕ぐれて    桐葉
 4   │ かへさに袖をもれし名所記   叩端
 5 上て│住馴れ月まつ程の浦伝ひ    菐言
 6   │ 夫とばかりの秋の風音     自笑
初ウ1  │捨てかね妻よぶ鹿に耳塞ぎ   如風

[句兄]

初ウ10  ┌ 浄るりよく幕を通さず    介我
     │月雪に寸切はやす寮住ひ     嵐雪 
※集「寸」に「サン」と振る。尺八
   中て│ 団栗枯れ遊山絶えけり    神叔
     │二三俵引抜そばの頼もしき    介我
     │ 馬に聞かれ逃ぐる盗人    其角
     │大音の川幅越える向ふ風     神叔 ※集「越ゆる」
     └ 一木屋焚い仕まふ杣方    嵐雪 ※集「一小屋」

 三越は多し。

              

[皮篭摺]

名オ7  │椎の木通ひ馴れたる角田川   神叔
     │ 逢はさぬ恋か母を誓文     沾州 沾洲
     │錦木そよろといはず立ゑぼし  景帘
     │ 横の袖からたばこ盆ひく    桑露
 上に七越│朝顔障子を立てし子の忌日   神叔
     │ 紙魚を払へと渡る初雁     其角
     │夕月親しむ気味で袴とる    心水
     │ かるたも打たず君が寝ぬ色   沾洲
名ウ1  │鬢付半分借りし大鏡      景帘
     │ 何処で落して此笛のさや    団友
     │船頭合点をさせて石清水    桑露
     │ 見事な石をいるゝ壺笠     心水
     │辛い香むせ返りたる荒布屋   沾洲 ※集「荒布店(あらめだな)」

 四五越は多し。

[さる廻]
初茸や

初ウ2  ┌ 諏訪の落湯洗ふ馬の背    史邦
  3  │弁当の菜を只おく石の上     半落
  4  │ やさしき色咲ける撫子   嵐蘭
  5  │四つ折のふとん君が丸くねて 翁
  6  │ 物かく中つらき足音    岱水 ※集「内に」
  7  │月暮れて雨の降りやむ星明    史邦
  8中に└ 早せの俵ほめく刈豆     翁  ※熱く(ほめく、火照る)

 印を入れたるは、同辞続きたる所也。

[桃白]
[ひな]
十三夜

初ウ1  │切麦をはや朝かげに打立てゝ  涼葉
  2  │ 幸手をゆけば栗橋の関    翁  ※さって、奥州街道の宿場
  3上を│松杉を挟み揃ふる寺の門    曽良 ※集「揃ゆる」

[拾]
[幽]
其かたち

初ウ10  ┌ むりに望み懸けし師の坊   曽良
  11  │峰の供花の岩屋もつらからめ   路通
  12  │ 上る小あゆくまむ谷川    友五 ※集「登る子鮎」、子鮎≠小鮎
名オ1  │若き身の隠居と成りて日は永し  苔翠
  2中を└ 顔のほくろ悔む乙の子    路通 ※おとのこ、末っ子

              

◆[東山墨]

     │保元あれど平治は只二巻    伯兎
     │ 行水のぞく壁と成ぬる     松宇
     │神鳴光るばかりに笹の風    秋幽
     │ 此山伏をしらぬ物なし     左明
   上は│竜宮いつも月夜の白妙に    過角

[焦]

脇    ┌ 菊いただき松の小虱     山蜂 ※小鳥名、松毟鳥(まつむしり)
第三   │柱巾私雨に月出でて       一雀 
※集、巾に「フク」と振る。にわか雨
 4   │ 京の箴揚弓になる      其角 ※集、箴に「シンシ」と振る。楊弓
 5   │誰れかある帯の楔に九寸五分   山蜂 ※集、栓に「クサビ」と振る。
 6 中は└ 四目中手舟の乗合      大町 ※よんもくなかて、囲碁。

[根本]
百韻

二オ3  │三尺鯉に小あゆに料理の間   其角
  4  │ はや兼好を憎む此年      才丸
  5  │幾廻戦ひ夢と覚めやらず    コ斎 ※いくたびのたたかい
  6  │ 逝く水闇を捨てぬ物かは    素堂
  7  │白鳥祝部湯立の十五日    清風 ※しらとりのはふり
  8  │ 夫酔醒愚にくさめして   翁  ※それよいざめの
  9上の│橇進みかねたる黄昏に    嵐雪 ※かんじきの

 この巻「上の四越」、今一あり。

◆[東花]
八表

     ┌ 梅津桂竹の子の雲      支考
     │六十の賀をあやかりに樽さげて  正秀
     │ 夫は是は狂歌様々      野童
     │窓明けて月を落せば野の様に   風国
     │ 鶉の声江を隔てたる     野明
     │ひだるさを知らでや秋を好むらむ 泥足
   中の└ 風に一葉身こそ安けれ    為有

 短句、皆の也

              

◆[梅十]

     ┌ よめる様に状の誂へ     蓮二
     │市のない日は店先の静にて    有琴
     │ さあ只今ふるゝ寒ごり    七雨
     │お飛脚いへば何所でも油断せず 羽嵇
   中と└ 舟をたゝく鷺の立ちゆく   梅光

              

◆[三笑]

     ┌ 西に地獄極楽もある     昨嚢
     │寒声に月更けぬる浪花橋   琴之
     │ 随分人物は落さぬ      蓮二
   中も│背から親仁を誉むる子はなくて  古賀
     └ いせへは誰れ来るはず也   播東

◆[文月]
短歌行

初ウ5  │正月御ざり懸つて此寒さ    里紅
  6  │ 孫になぐさむ老の懐      嵐枝
  7  │入相隣りに花の旦那寺     柳鼓
  8  │ 蓬に杵のどこもさし合ふ    帰的
名オ1  │出代鼠とらずの笑好      嵐枝
  2  │ 大工のいびきまたぐ暗がり   里紅
  3上も│漏桶置いた所はもりもせず   帰的

              

[既望]
[さる廻]
初茸や

初ウ9  │胸むしに復起さる秋の風    岱水 ※集「起らるる」
  10  │ 畚に赤子をゆす小坊主   史邦 ※ふごに
  11  │花守の家と見えた土堤の下   半落
  12  │ 細き井溝を上る若あゆ     翁  ※いみぞを
名オ1下る│春風に太鼓聞ゆ旅芝居     嵐蘭

[やへ]
半日は

初オ4  ┌ 闇の夜渡面楫の声      去来
  5  │訛らずに物いふ月の都人     景桃
  6  │ 秋に突折むしくひの杖    乙州
初ウ1  │実入よき岡べのわせ田赤らみて  史邦 ※集「早田(わさだ)」
  2  │ 里近うな馬の足跡      玄哉
  3  │押割て犬にくれけりあぶり餅   示右
  4中る└ 奉加に出づ僧の首途     翁  ※かどいで

△ 打越並、嫌はざる辞。(〇は並の印)       ↑ トップへ

○ 四段す・ふ・ず・ぬ・ば・過去のし・へ・たる・ても・にも

[桃白]
[ひな]
いざよひは

名ウ4  ┌ 竹の子あら猪の道      翁
名ウ5  │雪ならばそりにのるべき花の山  涼葉
挙句 中す└ 春風さら谷の細布      濁子

◆[たそ]

     │榎から序におろ樅の枝     雨青
     │ 日に何里程雲にとぶ雁     山隣
   下す│月よりも国土をてら殿の恩   夏由

[未来]
両の手に

初ウ4  ┌ 豆蒔仕廻宵過ぎの東風    翁
  5  │酒さます杖にかぼそき禿ども   嵐雪
  6中ふ└ はぐやと貰老の紅裏     其角 ※集「剥げやと」、もみうら

              

[さる]
市中は

第三   │二番草取りも果さほに出でゝ 去来
  4  │ 灰打ちたゝくうるめ一枚   凡兆
  5下ず│此筋は銀も見知ら不自由さよ 翁

              

[俳]

     ┌ 刻みもはて仏垢づく    荻子
  不の │初花の垣に古竹結渡し     惟然
   中ぬ└ 道はかどら月の朧さ    元代

◆[越]

     ┌ 狐はつら物ときく也    仙雅
  不の │国々を我れ見歩行て野も山も  管小
   中ぬ└ 火燵はなれ俳諧の時    不柳

              

◆[山カタ]

     ┌ 参つて見たれ寺にゐぬ也  白狂
     │碓に日雇は雪踏脱揃へ     東羽
     │ 若代になれ質も気位    野航
     │重箱に何やらけふは配合ひ   白狂
   中ば└ 旅に遊べ気もまめになる  東羽

◆[白ダラ]

     ┌ 帰ろとすれ羽おりとらるゝ 牧童
     │よの中の理窟が否で花の奥   雨青
   中ば└ 猿でなくん呼子鳥也    支考

◆[三日]

     ┌ 出て眺れば稲の刈しほ    林角
     │鷺の羽も山より暮れて水の月  支考
  中れば└ 三日ゐたれば里の肌寒    芝船

[風麦亭]
〔風麦懐紙〕
四十句
木の本に

     │着替れば染物くさき単物    翁  ※懐紙「着かゆれば」
     │ 奥の座敷へ膳据うる也    半残 ※同、土芳
  上れば│花あればむさき家にも止められ 土芳 
※同、三園。「いやしき家にとどめられ」

              

[拾]
[幽蘭集]
初秋は

初ウ3  ┌ 田面にむれ鷺の羽をのす  知足 ※たづらに。伸す 
  4  │お乳添て若うに物や言ひぬらむ 如風 ※集「御乳(おち)添ひて」
  5中し└ 思ひ残し遠の国がへ    自笑 ※幽蘭「おもひ残せる」

[卯辰]
八朔や

名オ4  │いつの日か障子に張り人歩帳 牧童
  5  │ 額もぬかず角入れてより   乙州
  6下し│唐の芋料まとひ夕まぐれ   北枝 ※はかり

              

◆[やわ]

     ┌ かゝの在所いては逗留   宇中
     │七日ある彼岸の花もけふばかり 支考
   中へ└ 余程柳乙鳥の来る     致画

              

[鵆]

初ウ5  │哀さを溜めて書きたる文の来る 路通
 6   │ あくたもくたのせまる物前  知足 ※ものまえ、大事の前
 7下たる│何所となう取弘げたる中屋敷  知足

◆[新百]

     │門外に笠を脱いだる天竜寺   団友
     │ 死なれた人の状の名をよむ  乙由
  下たる│帷子もひねに成りたる八九月  支考

[一橋]

名オ6  ┌ 陸に朽ちたる帆柱の折れ   清風
 7   │十二年先の丁を指ふせて    仙庵 ※ひよみを、日読み・暦
 8中たる└ 〆出されたる吉原の里    清風

              

◆[白扇]

     ┌ いつ覗いても明てゐる寺   東園
     │乞食の心に盆も過行きて    詞端
  中ても└ 人に問うてもさびしがる月  嵐青

              

◆[山琴]

     │軍にも連歌をせねばならぬげな 見竜
     │ 偖年号もかはるものかな   見竜
  上にも│山家にも町といふのがあればこそ巴兮

 其理、推してしるければ、何れも多例を挙げず。

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 「のノが」「疑ノか」、「異なる疑(なに・いか・いかが・なぞ・たれ・いつ・いづこ・いく。)とかはり。
 「や」、異・同とも、傍に、疑・歎・願・の印あり。

のノ:【格助詞】主格、水-ある。対象、水-欲しい。

疑ノ:【古、副助詞・現、終助詞】疑問、飲みます-。反語、これが飲めよう-。難詰、こんなの飲める-。勧誘、飲もう-。

異なる疑:【代名詞(+)】 なに、何。いか、如何に。いかが、如何か。なぞ、何ぞ。たれ、誰。いつ、何時。いづこ、何処。【接頭語】いく、幾。

:【古、副助詞・現、終助詞】 疑問・反語、 月-あらぬ。 詠嘆・感動、あらうれし-。 「接続助詞ば」に付いて、願望・意志、見ば-。あらば-。

[ぶり]

     ┌ 仕様ようて餅も格別    蒲道
     │黒谷の隣に白きけし畑     閑鹿
     │ 誰が来たやら戸明てゐる  素冠
     │むりばかりいはれて君は後向  蒲道
  のノが└ 其誓文いる場ではなし   凉菟

◆[いせ]

     │所化寮の下冷先づ悟られず  李江 ※しょけ、修行
     │ 茶筌にひゞく宇治の川音   関石
     │夢でゐる駕の立場に夜明けて 南畝
     │ 大名おりの髩は重たい    加濃 ※びんは
  のノが│衣張の手元に琴の曲出る   珍舎

◆[雪白]

名ウ3  │お袋亭主さうなる仕廻た屋  以之
 4のノが│ 朝寝といふも大体の事    左把
 5 上並│甕舟着いてもふらぬ花の中  麦士 ※集「花曇り」

◆[梅十]

           用受
     ┌ 耳も遠い目も疎うなる   呂杯
     │乗物を舟に舁こむ暮の月    梅光 ※かきこむ
   異が└ 殿も踊好きで京から    里紅

※ 用受:用言を受ける意。接続助詞。

              

[拾]
[幽蘭集]
色々の

名ウ3  │曇ると思へば果は風になり  東藤
  4  │ 筆一本に花の一時      翁
  5 か│誰れしる桃源洞の芳しさ   工山 ※集「かうばしき」

◆[三笑]

     ┌ 談義の鐘どちら半尺    琴之
     │青鷺も見えず青田の葉の戦ぎ  桃妖
    か└ 雪隠とて粗相千万     蓮二

◆[笠]

     ┌ 飯はないと捜す膳棚    广三
     │名月の池を盗みに網提げて   里紅
    か└ 化しはせぬそばの白花   連支

[焦]

名オ4  ┌ 泄痢といふ松の下臥    虎笒 ※「さはら」と振る。差腹の見なしか。
  か上並│楼門の莚とくるゝ総清め    其角
     └ 目安作しのぶ北山     弁外

              

[拾]
久方や

11 いかで│蛬いかでうき身の情けなき   翁
名オ12  │ 茎たくましき筒の鶏頭    嵐雪
名ウ1いつ│いつとても両部の護摩の片燃に 其角

[春]
なら坂や

4 いかに┌ 暁いかに車ゆく筋      荷兮
初ウ5  │鱈負うて大津の浜に入にけり  旦藁
6  なに└ やらきかむ我国の声    越人

[袋]
風流の

発句   │風流の始め奥の田植歌   翁
脇    │ いちごを折て我設け草    等躬
第三 イや│水せきて昼ねの夢直すらむ 曽良 ※集「石や」

[夕顔]

     ┌ 庚まつに申をまつに  宰陀
     │出くすみの君は襖の内よりも  円入
  イや並└ 頼む使備中がるす    維明

[類]

名オ4  ┌ 繋がぬ舟悋気仕給へ   紫紅
  5  │薹にたつ物の哀れ八代賀丸 其角
 イや三続└ 梟に袈裟御隠居の顔   其角 其雫

[あら]
遠浅や

発句   │遠浅浪にしめさす蜊収   亀洞
脇    │ 春の舟間に酒のなき里    荷兮
第三 や並│長閑けしや早き泊に荷を解て 昌碧

[あめ]

     │筑前九十九兀の其一人   之道 
     │ 己が 〓 いはぬ針立
   や並│灯火月も出かゝる舅入

[金竜]

     ┌ 三とせの松のみき細ると 暁梧
     │卯月より和漢の文の土用干   里川
    や└ 席余りら尻も据わらず  五夕

※ やら:【終助詞】推察疑問、「だろうか」の意。
 ・ にやあらむ→にやらむ→やらむ→やらう→やら。

[句兄]

初オ5 や│淋しくも人見るらむ刀持  其角
  6  │ 後るゝ徒士はかつぐ袖笠   彫棠
初ウ1  │桟造所はしがの浦なれ   粛山 
※集「掛造(かけづくり)所は」、懸崖造り
  2  │ 鐘も只なれ老の称名     其角 ※ただ鳴れ
  3 い│夜の人見ば此野に隠れ住  彫棠 ※集「夜ルの人」

◆[東花]

     │麦からの笛や布袋の夕涼    露川
     │ 臍を気遣ふ六月の雲     支考
    や│秋しのや外山を淀の舟に見て  捨石

[古今抄]

      秋風もたつ梢に雲の色
       簾を捲いて亭の月かげ
      松むし轡も鈴もなくからに
   (直し)
      なくからに鈴も轡も松むしも

 発句に、疑ひの「や」有りて、第三に口合の「や」もじは、遠慮すべし。爰をもて転倒したり。(約文)

▲ 此「や」は、疑ならず。皆、歎也。同体の「や」も、越嫌はぬ故に、[東花集]にも付たり。
 此の第三の先案、平句なるを直さむと、打越に仔細をいひ、転倒して節を付たる自賛をいへるのみ也。指合ならぬ故に、「遠慮」と言たれど、無用の詞に義を持たせて、人惑はせなり。
 爰は「同体の『や』もじに、打越の嫌ひはなけれど、しか言うては平句なる故に、浮きたる『や』もじをぬき、転倒して節を付たり」と、云ふ所なれど、支考の一癖詮方なし。

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 にてノで・ど・よ・ぞ・む・らむ・しく・しき・けり・なり・るる・なら・やら・から・より・うち

※ 品詞は様々。

:【格助詞】場所を表す、八九間空-雨降る柳かな。

:【接続助詞】逆接条件、寒けれ-二人寝る夜ぞ頼もしき。

:【間投助詞】呼び掛け、市人-この笠売らう雪の笠。詠嘆、稲妻に悟らぬ人の貴さ-。【動詞】命令形の末尾、憂き我をさびしがらせ-閑古鳥。

:【係助詞】強調、係り結び、霧しぐれ富士を見ぬ日-おもしろき。文末で強い断定、蛤のふたみに別れ行く秋-。【終助詞】強意、吉野にて桜みせう-檜笠。

:【助動詞】意志、月さびよ明智が妻の話せ-。推量、芋洗ふ女西行ならば歌詠ま-。【動詞】活用語尾、月花もなくて酒の-独り哉。【接尾語】形容詞語幹に付く、しぐるるや田の新株の黒-ほど。

品詞   働き    語幹  基本  未然  連用  終止  連体  已然  命令 
助動詞  推量・意志 -   む   ま   ○   む   む   め   ○  

らむ:推量、鰹売りいかなる人を酔はす--。

助動詞  推量    -   らむ  ○   ○   らむ  らむ  らめ  ○  

しく:【形容詞】活用語尾、粟稗にとぼ--もあらず草の庵。【助動詞】希望、未然形・連用形「まほしく」の末部。

形容詞        うつく -し  しく  しく  し   しき  しけれ ○  
助動詞  推量     -  まほし まほしく まほしく まほし まほしき まほしけれ ○  

しき:「しく」に同じ。おもしろうてやがて悲--鵜舟かな。加えて、「助動詞」推量「らし」連体形の一部、人ら--影。

助動詞  推量    -   らし  ○   ○   らし  らし  らし  ○  
                               らしき        

けり:【助動詞】過去、なりに--なりに--まで年の暮。詠嘆、旅烏古巣は梅になりにけり

助動詞  過去・詠嘆 -   けり (けら) ○   けり  ける  けれ  ○  

なり:【助動詞】断定、命--わづかの笠の下涼み。伝聞・推定、朝茶飲む僧静か--菊の花。【ラ四動詞】成るの連用形、旅烏古巣は梅に--にけり。【形容動詞】活用語尾、三日月に地は朧--蕎麦の花。

助動詞  断定    -   なり  なら  なり  なり  なる  なれ  なれ 
                       に                  
助動詞  伝聞・推定 -   なり  ○   なり  なり  なる  なれ  ○  
動詞   -     成   -る  ら   り   る   る   れ   れ  
形容動詞 -     きれい -なり なら  なり  なり  なる  なれ  なれ 
                       に                  

るる:【助動詞】「る」連体形、猪もともに吹か--野分かな。「らる」連体形の一部、鸛の巣も見ら--花の葉越し哉。【ラ下二動詞】草枕犬も時雨--か夜の声。

なら:【助動詞】断定、蕣や是も又我が友--ず。未然形はなし。【ラ四動詞】成るの未然形、面白し雪にや--ん冬の雨。【形容動詞】未然形、活用語尾、誰とても健か--ば雪のたび(卯七、猿蓑)。

やら:【副助詞】不確か、山路来て何--ゆかし菫草。【格助詞】並立、野--山--。【終助詞】推定疑問・伝聞、からの芙蓉は夏咲くとやら(佳木、四幅)。【ラ四動詞】「遣る」未然形、麦藁の家して--ん雨蛙(智月、猿蓑)。

から:【格助詞】起点、昨日--ちよつちよと秋も時雨かな。

より:【格助詞】起点、今日--や書付消さん笠の露。比較、石山の石--白し秋の風。同時、草の葉を落つる--飛ぶ螢哉。【ラ四動詞】「寄る」連用形、冬篭りまた--そはん此はしら。

うち:【接頭語】「打ち」強意、秋の夜を打ち崩したる咄かな。整調、--寄りて花入探れ梅椿。【タ四動詞】「打つ・撃つ・討つ」連用形、碪--て我に聞かせよや坊が妻。【名詞】「内・中・裡・家」、物ほしや袋の--の月と花。

[炭]
雪の松

名オ7  │雪舟なくばと自慢こきちらし  沾圃
  8  │ 隣りへ行て火を取て来る    子珊
  9 で│又けさも仏の飯埓を明け    利牛

[歌]

     ┌ 亭主の連を顔あしらふ    麦士
     │一昨日も爰の榎に鐘を聞き    風草
    で└ 念仏けす市の誓文      巴静

[山カタ]

     │近江も替はれば涼し青畳    右範
     │ 三十年のたびに木枕      六之
    で│土器祭るなおれにや茶碗酒   白狂

              

[山カタ]

     │山家とはいへ十里を見晴して  栗几
     │ 具足飾らぬ迄の式台      白狂
    ど│くるゝ事知らねば金は溜れも  東羽

「ども」:【接続助詞】逆接の確定条件、秋風の吹け--青し栗の毬。元【接続助詞】「ど」+【係助詞】「も」

[歌]

     │若けれ倶にかゝみて木綿取   東棠
     │ 小鷹の殿は惚るゝ道理や    茂秋
    ど│八朔に遊び足らね月はなし   乙由

              

[三日]

     ┌ あのけしき見雪の仮橋    支考
     │五六本田中の松のあつちこち   井炊
    よ└ おれは狐に化されたか    除風

              

[汐]

     ┌ 時宜ではない何も否々    林角
     │度々に網を下して磯せゝり    里洞
    ぞ└ こゝらの家の幾つ有らう   白庭

[とて]

     ┌ 花もちるよ負けてさへ否   之白
     │雲雀とん雀ちうちいう蝶しろり  鬼貫
    ぞ└ いか様是は春めでたや    執筆

              

[春と秋]
〔真向翁〕
衣装して

初ウ6  ┌ 聟の利発を町に弘め    嗒山 前川
  7  │手造りの酒の辛みも付にけり   曽良
  8 む└ 月も今宵と見馬の市     翁  ※集「見ぬ駑馬の市」

※ 「春と秋(桃鏡撰、宝暦13年序、井筒屋庄兵衛他板、酒田市立図書館蔵)」にこの巻を見ない。この集には、「水仙や」「白菊の」の2歌仙のみである。照合は、「芭蕉連句集(岩波書店)」によった。別の「春と秋」か。
 ・ 初ウ8、「見む」では分からない。「見ぬ駑馬の市」で、了解可能。
 ・ 前川(ぜんせん)・嗒山(とうざん)。前川は、津田姓で大垣藩士江戸詰め、嗒山は元禄2年に三月ほど江戸下向したという。ほぼ同時期の歌仙が残るが、同一人か、不明。
 - 元禄2(1689)年 春 「衣装して」歌仙、曽良・前川・路通・芭蕉、江戸
 -   〃      2月「かげろふの」歌仙、芭蕉・曽良・嗒山・此筋・嵐蘭・北鯤・嵐竹、江戸(嗒山旅亭)*嗒山の歓迎会。此筋も大垣藩士(荊口の子)、嵐蘭以下は「「芭蕉書簡、閏1月付」で誘われた。

[拾]
[幽蘭]
雪ごとに

    む┌ 誰か便ら碑の銘の露     雨桐 桐雨 ※集「すむらん」
     │若生を朽木の花に植添へて    曽良 ※わかばえを
   らむ└ 春の遊びに母衣かゞるらむ   路通

[あつみ]

   らむ│初霜はよしなき岩を化粧ふらむ  翁
     │ 夷の衣をぬひぬひぞなく    曽良
    む│明日しめ雁を俵に生置きて   不玉

[みの]
木の本に

初ウ3らむ│判官のゑぼしほしとや思ふらむ  土芳
  4  │ 木ばたあたりの雪の夕ぐれ   風麦 
※木幡(こわたとも)、京の地名
  5 む│売庵を見せと人の導きて    翁

[八夕]

   むと│兀殿を張返さむと梓弓      彳人
     │ 駒も向ふの明神の前      乃露
  らむと│夕暮に牛房ひくらむと眺れば   蓮二 ※ごぼう(牛蒡)

              

[奥栞]

     │東風渡る琉球表新しく      支考
     │ 切違たる小田の水音      呂丸
   しく│浅ましく馬の背かぬる木津の舟  不撤

[あら]
落着きに

初ウ3しき│空蝉のかげの悩みの恐しき    其角
  4  │ 後なかりける金二万両     越人
  5 き│いとほしき子を他人とも号けたり 越人 ※なづけたり

[桃実]
水鳥よ

名オ11  │帷子に風も涼しき中小姓     洒堂
  12  │ 明日御返事を黄昏の文     其角
名ウ1しき│美しき声の匂ひを似せて見る   兀峰

[雪の光]

     ┌ さびしき時は内で小細工    智貞
     │有明の御出で遅しと一葉ちる   呂什
   しき└ いよの便りのひしと恋しき   百花

              

[たこ]
[智周発句集]
いざ子ども

名オ11  │るり灯は月をくゝりしごとく  梢風
  12  │ 僧の髭そる盆の夕ぐれ     之還 三園
名ウ1 也│女郎花媚くと踏敷きて     翁  
※集「なに妬く(ねたく)やと」

[白ダラ]

     ┌ 一度ある事二度もある    支考
     │春は花秋は紅葉とかはれども   従吾
    也└ あかぬ物には豆腐けり    北枝

              

[深川]
青くても

名オ11  │乗物で和尚は礼にあるかるゝ   洒堂
  12  │ 立込めてある道の大日     翁  ※だいにち、大日如来
名ウ1るる│はご揚げて水田もくるゝ人の声  岱水  ※はご(擌)、獲鳥具

[東山墨]

     ┌ をばのゐらるゝ内ばかりこそ  梧雲
     │前垂は似合うて髪の美しさ    大川
   るる└ 茎の匂ひの時雨待たるゝ    子靖

[ぶり]

   るる┌ 竹に生るゝ鳥の囀       凉菟
     │取立つる江湖は春の半ばより   竹遊
  らるる└ かゝる時にも三日ねらるゝ   竹遊

              

[春鹿]

     ┌ 爰へ若衆が一人来たなら    嘯風
     │みそ摺て見せうと言うて小摺鉢  鴎小
   なら└ 否ならばおけ降りたくば雪   国推

[鎌]

     │何にきく物やらしらず湯治好   千梅
     │ 松の嵐を中腰に受       千那
   やら│月のくれ鶏目とやらで哀れ也   千那

[百歌仙]

     ┌ 独り遊びを三つからする    市中
     │ずんぶりと月の出る迄花見衆   潮風
   から└ 春になるから米の買置     軒滴

[百歌仙]

     │夜へ残す昨日けふから月の弓   万友
     │ 又新しき秋の帷子       李青
   から│袋から盆の茄を打明けて     天垂

[山カタ]

     │上る火の後から消えるたばこ盆  野航
     │ ふしんはもはや畳しく迄    六之
   から│隣から呼次にする聟の花     蓮二

[梅十]

     │忘れたる窓から秋を覚え初め   梨雪
     │ たらいでいはす童の髪     桃川
   から│あちらから使と文と行違ひ    里紅

              

[汐]

     │入相にふらりと月の木の間より  白庭
     │ 萩の扉を見れば児達      嵐海
   より│蛬細う鳴くよりやめてをれ    兎好

              

[冬]
霜月や

初ウ11  │旅衣笛に落花をうち払ひ     羽笠
  12  │ のりもの許す木瓜の山間    野水 ※集「篭輿(ろうごし)ゆるす」
名オ1うち│骨を見て坐ろに涙うちかへり   翁  ※そぞろに

[汐]

     │うち霞む窓を明くれば清閑寺   一故
     │ 今の嵐に傘が飛ぶ       井炊
   うち│忽ちに鬼にならうとうち恨み   凉菟


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