貞享式海印録巻五 面去用言、面去辞・体言

貞享式海印録 巻五④ 索引
面去、用言面去、用言
遠、近、遣、追、廻、逢違、通、遊、掃、揃、投捜、提、抜、押、搗、染
消、汲、澄、濁、清、洗深、淋、泣、眠、覚、薄荒、恐、忘、急、悪、惜
憎、恨、忍、尋、嫌、飽飲、案、定、寄、終、続細、結、馴、初、被、商
召、向、笑、臭、呼、咄突、舞、冠、登、弱、和恥、作、借、侘、飛、語
誘、読、謗、誉、売、買貰、貸、重、並、盛、盗乱、巻、別、刈、離、果
植、枯、掘、破、起、脱隠、早、参、匂、動、干疎、踏、出来、仕廻、流行、歩行
面去、辞・体言面去、辞・体言
かりけり、さり、さていつ、いく、いかにはや、先ず、猶、必、皆、此方
爰(ここ)、どこ、よそあはれ、初(はつ)、外前、後、横、末、縁(へり)
西、東、あだ、くせ、俄仮、頃、徳、役、番、隙間(あわい)、礼、献(こん)
香(か)、賃、数、昔殿(どの)、留主、世中浮世、自由、義理、機嫌、景色
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

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貞享式海印録 巻五

面去、用言

□ 面去、用言(歌仙に三四)       

[古今抄]

 泣、笑、照、曇、植、刈、眠、覚、起、居、此十品は、態字の凡例にして、面をかへて、百韻に七八つもあるべし。

▲ 「居」の字は多用なれば、二去に入れたり。
 偖、面去と云ふは、凡て十去以上、其中多用の物は五去以上也。
 遠、近、遣、追、廻、逢、違、通、通、遊、掃、揃、投、捜、提、抜、押、搗、染、消、汲、澄、濁、清、洗、深、淋、泣、眠、覚、覚、薄、荒、恐、忘、急、悪(わる)、惜、憎、恨、忍、尋、嫌、飽、飲、案、定、寄、終、続、細、結(ゆ)、結、馴、初、被、商、召、向、笑、 臭、呼、咄、突、舞、冠、登、弱、和、恥、作、借、 侘、飛、語、誘、読、謗、誉、売、買、貰、貸、重(おも)、並、盛、盗、乱、乱、巻、別、刈、離、果、 植、枯、 掘、破、起、起こす、脱、隠、早、参、匂、動、干、疎、踏、出来、仕廻、流行、歩行、嗅

※ 文語動詞
【カ四】飽く・歩行く・動く・搗く・突く・続く・泣く・抜く・掃く・巻く・向く。/【ガ四】急ぐ・被ぐ・脱ぐ。/【サ四】荒らす・押す・起こす・捜す・咄す・干す・乱す・召す。/【ハ四】逢ふ・商ふ・洗ふ・追ふ・買ふ・通ふ・嫌ふ・誘ふ・仕廻ふ・揃ふ・違ふ・遣ふ・匂ふ・舞ふ・貰ふ・結ふ・笑ふ。/【バ四】遊ぶ・忍ぶ・飛ぶ・並ぶ・結ぶ・呼ぶ。/【マ四】恨む・惜しむ・汲む・澄む・染(そ・し)む・和む・憎む・盗む・飲む・踏む・読む。/【ラ四】売る・終る・借(か)る・刈る・枯(か)る・語る・冠る・謗る・作る・通る・濁る・眠る・登る・流行る・掘る・参る・廻る・盛る・破る。
【ザ上二】恥ず。/【バ上二】侘ぶ。
【ガ下二】提ぐ・投ぐ。/【ザ下二】案ず。/【タ下二】果つ。/【ナ下二】尋ぬ。/【マ下二】定む・誉む。/【ラ下二】恐る・隠る・離(はな)る・別る・忘る。/【ワ下二】植う。
※ 口語動詞
【カ上一】起きる。/【ラ上一】出来る。
【ア下一】覚える・消える。【サ下一】寄せる。/【マ下一】覚める・初める。/【ラ下一】馴れる・乱れる。
 ・ 文語動詞:【上二】起く。【カ変】出来(でく)。【下二】覚ゆ・消ゆ・寄す・覚む・初む・馴る・乱る。
※ 文語形容詞
【形シ】荒し・薄し・疎し・重し・清し・臭し・近し・遠し・早し・深し・細し・弱し・悪(わる)し。/【形シク】淋し。

[やへ]

     │遠山も窓の鏡に移り来て    又石
     ├─十四
     │ 夜目には遠し岸の捨舟    言水
    遠├─九
     └ まだ宿遠く入相をつく    又石

[むつ]

     ┌ 厠に遠くよわるむしの音   沾国
     ├─十三
    遠└ 地道ばかりを春の遠乗    鬼谷

         ○

[笠]

     ┌ 雛も内裏も近き山里     荷丁
     ├─四
    近│入相も近う聞ゆる曇空     里紅

[梅さが]

     ┌ 近い吉野や鷲尾の花     三惟
     ├─十一
    近└ 雨が近いと門の評判     天垂

         ○

[笠]

     ┌ 遣い安さに 〓       蓮二
     ├─九
     │銭遣うても旅は不自由     楚琢
     ├─十一
    遣└ 高い雪踏は気遣ふてはく   箕白

[三顔]

初オ6  ┌ 調市は余所へ来ても遣はれ  朝左 朝四 ※でっちは、博打語の当て字
     ├─七
初ウ8 遣└ 湯も相合に遺ふふしん場   曲紫

〔庵野分〕

     │信玄は天眼通の人つかひ    岡一
   ㋬ ├─三
    遣│遣余る資銭に所化の浮心    翠波

         ○

[韻]
秋もはや

初ウ12  │総嫁追出す肌の寒けさ     利牛 ※そうか、街娼
     ├─十一
名ウ12 追│酔のきほひに鹿をおふ也    許六 ※集「競いに」

         ○

[小文]
桜見る

初ウ1  │八朔の髥剃りに廻るらむ    嵐竹 ※集「さかやき剃りに」
     ├─十五
名オ5 廻│本堂を右へ廻れば反歩にて   山店 ※たんぼにて

         ○

[皮篭摺]

     │しとみにあひてよわき羽二重  心水
     ├─七
    逢└ 逢さぬ懸か母を誓文     沾洲

[餅搗]

     ┌ あふ夜の心仲をとらるゝ   信晶
     ├─十二
    逢│久しうて逢うて何から申そやら 麁羊

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[笠]

     ┌ 普請に向きの違ふ仏壇    連支
     ├─八
    違│誂へてやつた手紙の入違    連支

[砥]

名オ7  │行違ひ手振りで通る松の間   曲翠
     ├─九
名ウ5 通│しやらしやらと花見の通る真盛 正秀

[続さる]
猿蓑に

初オ6  ┌ 通りのなさに店立つる秋   支考
     ├─十
初ウ11 通│見て通る紀三井は花の咲懸   翁

[むつ]

     │外通る人呼び懸くる蔵の窓   茲少
   ㋬ │ 三
名ウ1 通│七つから大宮通り碓の音    宇月

         ○

[一]
須磨ぞ

     ┌ 天窓くだしに通ひ路の雨   似春
     │ 九
   通路└ 雲引きかつぐ星の通ひ路   似春

         ○

[名筺]

     │小夜着きて後の月見の舟遊   蓮二
     │ 八
    遊└ 隠れ笠きて遊ぶ日雇等    蓮二

[山カタ]

     │旅人も雨に遊うで浜の嗅    右範
     ├─八
    遊└ 農休みとて里の遊び日    右範

[初茄]

     │のせ乍ら牛も野遊したがりて  風草
     ├─九
    遊│遊人の小春は夜を昼なれや   十知

[さみ]

     ┌ 遊ぶ節句の髪をたしなむ   冠那
     ├─十
     │子心にちゑの付いたる雛遊   千梅
    遊├─十六
     └ 遊ぶ心の水に乙鳥      執筆

         ○

[韻]
秋もはや

初ウ6  ┌ 玉子のからの多き掃溜    利牛
     ├─十
名オ5  │すゝ掃の道具で恋の顕はるゝ  野坡
    掃├─十
名ウ4  └ 立廻つては座敷はく也    野坡

[賀茂]

初ウ9  │蝋燭に迷ふ螽を掃いて捨て   琢吹 ※いなごを
     ├──十五
名ウ1 掃│掃のけて春まつせどのたびら雪 楚竹 ※集「背戸に」

         ○

[続さる]
八九間

初ウ12  ┌ 見事に揃ふ籾の生え口    沾圃
     ├─八
名オ9 揃│月待に朋輩衆の打揃ひ     馬莧

[別]
紫陽草や

初オ4  ┌ 出駕の相人揃ふ起き起き   桃隣 ※集「出駕篭の相手誘ふ」
     ├─十一
初ウ10 揃└ ひばりの羽の生え揃ふ声   翁

         ○

[炭]
百韻
子は裸

三オ3  │縁端へ腫れたる足を投出して  孤屋 ※集「縁端(えんはな)に」
     ├──二十九
名オ5 投│投打ちも腹たつ儘にめつた也  孤屋

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[焦]

     ┌ 乳見せぬかと雛捜すらむ   野人
     ├─八
    捜│くま笹のひよこを捜す母の声  幾石

[黄山]

     │褌に印篭提げて夕涼み     米花
     ├─五
    提│舟梁に提灯提げて立上り    童平

         ○

[卯辰]

     ┌ 尿の馬を行抜きにけり    四睡
     │ 七
    抜└ はづみも抜けて物思ふ頃   漁川

         ○

[ひな]

発句   │傘に押分見たる柳哉      翁
     ├─六
初ウ2 押└ 黒部の杉の押合うてたつ   翁

[蓬]
海くれて

初ウ11  │花曇る石の扉を押開き     桐葉 ※集「華曇る」
     ├─十
名オ10 押└ 衣被く小姓萩の戸をおす   東藤 ※きぬかずく

[小弓]?

     │押しのぼす箱根の駕のまん丸に 如儂
     ├─十一
    押│押出しも念者育ちの立廻り   如儂

         ○

[柿]

初オ6  ┌ 餅つく音のよそに聞ゆる   蒙山 蒙埜
     ├─四
初ウ5 搗│菅笠の臼に晒を搗捨てゝ    呂物

         ○

[一]
百韻
物の名も

二オ12  ┌ 緞子の染木紙魚のさす迄   信徳
     ├─三
二ウ2 染└ 吹矢を折て墨染の月     翁 ※射当て賭博の遊具

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[一橋]
有るが中に

初オ6  ┌ 簗の火消ゆる秋の朝風    清風
     ├──十二
名オ7 消└ 鉑消えて瓦は土をかつぎたる 清風

         ○

[一橋]
みるべくば

初ウ1  │神主の水くむ真間の宮処    立志
     ├─十一
名ウ1 汲│蟾のゐて汲めぬ朧の清水哉   清風 ※ひきのいて

         ○

[深川]
冴そむる

初ウ9  │玉子すふ顔もをかしき濁り洒  杉風
     ├──二十
挙句  濁│ひばり啼きたつ声も濁らず   蒼波 宗波

         ○

[三日]

     │水清く流るゝ岩に橋懸けて   因民
     ├─六
    清└ 是なる水に雪の清滝     麁線

         ○

[冬]
炭売の

名オ1  │白燕濁らぬ水に羽を洗ひ    荷兮
     ├─六
名オ8 洗└ 釣べに粟を洗ふ日のくれ   荷兮

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[次韻]
百韻
世に有て

初ウ12  ┌ 無銭居士とて朝深き月    其角
     ├─九
二オ7 深└ 深く又深し竜頭の国     才丸 ※集「玄又玄し」と書く

         ○

[奥栞]

     │淋しきは雫の滴るゝせがき棚  如行
     ├─九
    淋│ちる銭の音も淋しき花の奥   呂丸

[藤]
短歌行

初ウ4  ┌ 裏家さびしき雨の三絃    里紅 其帛 ※集「三味線」
     ├──十三
名ウ2 淋└ 御るす屋敷の番さびしがる  和吹 鯉角

[山カタ]

     ┌ 細工に書いた画をさびしがる 東羽
     ├──
     │ たばこ求めた時はさびしい  六之
    淋├─十三
     └ 草餅搗いて閏さびしき    右範

         ○

[ひさご]
鉄砲の

名オ2  ┌ 〓 坊主泣出す       珍碩
   ㋬ │ 四
名オ7 泣│黄昏は舟幽霊のなくやらむ   珍碩

[拾]
[幽蘭集]
箱根越す

初ウ9  │長き夜を泣たる眉の重たげに  越人 ※集「長き夜に」
     ├─十三
名オ11 泣│泣泣てしやくりの留る果もなし 野水

         ○

[ぶり]

     ┌ 馬上に眠る笠のゆらつく   蒲右
     ├──
     │ 眠たさのくせに成たる此間  竹司
    眠├─八
     └ 一眠りして蝶のひらひら   曽北

         ○

[ぶり]

     ┌ 秋の暑さのさめかねてゐる  凉菟
     ├─五
    覚└ 飛ぶと見たれば夢は覚めけり 竹遊

[次韻]

     ┌ ことし此秋京を寝覚めて   呂丸
     ├─十
     │寝覚侘びて雪の炉に根深温むる 呂丸
   寝覚├─十九
     │夜の飯乏しく寝覚めける頃は  其角

         ○

[藤]

     ┌ 新地の市日覚え違ふる    吏荊
     ├─四
    覚│香具屋の雪踏は犬も聞覚え   如柳

[笠]

     ┌ 先に覚えてゐたる精進日   蓮二
     ├─十六
    覚│寺の名を飛脚の者もうろ覚え  蓮二

         ○

[冬]
霜月や

初オ5  │音もなき具足に月の薄々と   羽笠
     ├─六
初ウ6 薄└ 庭に木曽作る恋の薄衣    羽笠

         ○

[桃白]

     ┌ 小袖の粘のこはき薄霧    曽良
     ├─十
    薄│薄月夜麻の衣の影法し     史邦

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[韻]
けふばかり

脇    ┌ 野は仕付けたる麦のあら土  許六
     ├─十
初ウ7 荒│宵闇はあらぶる神の宮迁    翁

※ 「あら土」は「粗土」とも書く。「粗し」「荒し」は同語源。

         ○

[四幅]

     ┌ 醍醐の使者も恐入つたる   東恕
     ├─十四
     │夜歩行の昔思ふも恐しく    東恕
    恐├─十
     └ 恐れながらも天下太平    蓮二

[誰]

     ┌ 牛にれかみて寒さ忘るゝ   安信
     │ 六
    忘│さく花に昼飯時を忘れけり   重辰

[誰]

     │忘れずに取伝へたる弓咄し   嵐雪
     │ 八
    忘└ 忘れむと思ふ灸の熱さよ   挙白

[東六]

     ┌ 月を忘れぬ昼の山のは    宇中
     │ 八
    忘│どんな事言て遊ぶも忘れ草   宇中

         ○

[雨法会]

     ┌ 盆の急ぎにむしの機音    東羽
     ├─十
    急│暮懸くる山の急ぎのむら烏   汶架

         ○

[続有]

名オ8  ┌ 直まへりにもわるうなる空  惟然 ※集も「直まへり」
     ├─四
名ウ1 悪│わるい事して遊びたる子供衆  惟然 ※集「子鬼ども」

         ○

[あら]
美しき

初ウ7  │幾年を順礼もせず口をしき   松芳 ※いくとせを
     ├─六
名オ2 惜│十日の菊のをしき事也     荷兮

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[笠]

     │行義より乳母がきげむの取憎き 蓮二
   ㋬ │ 三
    憎│傘も小便すればさし憎い    諷山

[三匹]

     │ありかでは馬の上にはをり憎し 汀芦
     ├─十六
    憎└ 何をいうても憎い船頭    杜草

※ 「取りにくし」「差しにくし」「居りにくし」は、「難(にく)し」で、複合形容詞の接尾語。抵抗感を表す点で、「憎(にく)し」「悪(にく)し」と同語源。

         ○

[皮篭摺]

     ┌ 恨みて肩へかぶる小ぶとん  ロ遊
     ├─二十
    恨│三日月を失ふ雲と打恨み    凉菟

         ○

[次韻]
百韻
世に有て

二オ3  │頭巾被下て夜の雪踏の忍ぶ音  才丸 ※ずきんかずきさげて
     ├─十三
二ウ3 忍│釜冠る人は忍びて別る也    其角 ※筑紫祭りに鍋かぶり

         ○

[続の原]

     │水雲の僧を尋ぬる僧いづく   其角
     ├─七
    尋│文によりひともじ草を尋ねばや 扇雪

         ○

[笠]

     ┌ 月夜を嫌ふ人も有らうか   里紅
     ├─五
    嫌└ 自然と嫌ふ赤みその嗅    諷左

         ○

[笠]

     │夜咄の春まだ飽きぬ火燵哉   麻三
     ├─
    飽└ 裏陰にもちと夏を住飽き   里紅

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[深川]

     ┌ 正気散のむ風の軽さよ    岱水
     ├─十四
    飲│付合は皆上戸にて飲明かし   嵐蘭

         ○

[笠]

     ┌ 夫の持病の疝気案ずる    楚琢
     ├─十五
    案└ 墨をすりつゝ狂歌案ずる   里紅

         ○

[さる]
梅若菜

初ウ10  ┌ 汐定まらぬ外の海面     乙州 ※そとのうみづら
     ├──
名ウ5 定│花に未だことしの連れも定らず 野水 ※集「花に又」

[藤]
短歌行

初ウ1  │ばゞ達をよせて和尚の仕立物  風鶴 里紅
     ├─十二
名オ6 寄└ 一門よせて聟の献立     里紅

[百歌仙]

     │尾もひれも終残さぬ肴喰    万亀
     ├─六
    終└ 早苗もついと植終はる空   万亀

         ○

[笠]

     │打続く日和に花を待合せ    楚琢
     ├─二十
    続│漕続く柴積舟の五六艘     連支

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[ひな]
傘に

名オ9  │足場よき月の細道一筋に    濁子
     ├─八
挙句  細└ 陽炎落つる岩の細滝     曽良

[冬]
こがらしの

初オ5  │朝せんの細り薄の匂ひなき   杜国
     ├─九
初ウ9 細│黄昏を横に眺むる月細し    杜国

※ 「細り」は【ラ四動詞】。「細し」は【シ形容詞】。

         ○

[皮篭摺]

     ┌ 里の後に鳴子ゆふ薪     ロ遊
     ├─十
    結│今結うた髪を損ふわやく者   凉菟

[鳥ノ道]

     │結懸けて細縄たらぬ花の垣   木節
     ├─十一
    結│髪結うて番に出る日の朝月夜  惟然

         ○

[雑]
百韻
賑かに

三オ1  │春風に衣張結ぶ杭ゆりて    岩翁
     ├─十三
三ウ1 結│橋詰に小家結たる絵馬書    尺草 ※集「小屋むすびたる」

         ○

[節文]
七夕や

初ウ1  │万能も只一心の馴の果     蓮二 ※集「なれのはて」
   ㋬ │ 四
初ウ6 馴└ 馴れぬ純子の夜着に寝はぐれ 童平 ※緞子の?

※ 「なれの果て」の「なれ」は、「成れ」。

[桃白]
半歌仙
名月や

オ4   ┌ まだ生馴れの酒の試み    涼葉 ※なまなれの
     ├─九
ウ8  馴└ 飯の強きも喰馴るゝ秋    此筋

         ○

[あめ]

     │仮初めの鷹の御供に召れつる  之道
     │ 十
    初└ 契り初めしは壬生の念仏   蚊夕

[深川]
口切に

初ウ2  ┌ 新に橋を踏初むる也     也竹
     ├─十二
名オ3 初│咲き初めて忍ぶ便りも猿すべり 翁

         ○

[句兄]
飛ぶ蛍

初オ6  ┌ 後るゝ徒士は被く袖笠    彫棠 ※おくるるかちはかずく
     ├──十四
名オ3 被│事触がふりたるゑぼし引被き  彫棠 
※集「詑触」、鹿島神宮の触れ歩き

         ○

[山カタ]

     │商はすれど行義は武士のまね  六之
     ├──
    商│商は仕廻遊ぶを徳にして    六之

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[鶴]
百韻
日の春を

二ウ1  │筑紫迄人の娘を召連れて    李下
     │ 六
二ウ8 召└ あら野の牧の御召撰に    其角 
※集「御召撰みに」、料馬選び

         ○

[四幅]

     │青々と川の向ふの夏木立    月狂
     │ 十一
    向│検台の向ふ遙かに霞ませて   梨月

[水仙]

     │月まつ庵のむかふ兀山     杏雨
     ├─七
    向└ 手習向かふうばの傘     兎白

         ○

[梅十]

     │いざをばの笑見よとて雛の酒  七雨
     │ 六
    笑└ 笑うて嫁の奥へ逃げゆく   里紅

[夏衣]

     ┌ 鴉は歌をよむ人を笑ふ    南木
     ├─七
    笑│衿に笑うて逃ぐる上﨟衆    東花

[笠]

     ┌ 辛みに泣いて笑ふ田楽    童平
     │ 七
    笑└ 笑ひ仲間の山も三吟     里紅

[三笑]

     │笑ひたい時も笑はぬ心から   伯兎
     ├─八
    笑└ 何とぞいへばはや笑ふ也   蓮二

         ○

[拾]
箱根越す

初ウ2  ┌ 飯早稲くさき田舎也けり   翁  ※めし
     ├─十一
名オ2 臭└ 浅つ葱くらふ人の臭さよ   荷兮 ※あさつき

         ○

[翁]

     │鎌倉のお寮お寮と名を呼びて  里圃
     ├─十
    呼│おれを旦那と妹がよぶかも   里圃

         ○

[笠]

     │夜咄しもそろそろゐろり賑うて 箕白
     ├─五
    咄│帰る事忘れて咄す古朋輩    楚琢

[笠]

     │あの見ゆる此方の山に咄あり  連支
     ├─九
    咄│一薬罐かへて和尚の長咄    諷山

[水仙]

     ┌ 振廻咄しんとしてきく    杏雨
     ├─六
    咄│耳遠きくせに小者の咄し合   野坡

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[一]
百韻
須磨ぞ秋

名オ13  │忍び路の霧の妻戸を突倒し   翁
     ├─四
    突└ 蝦蟇鉄拐や吐息つくらむ   似春

※ 「吐く」は「突く」と同語源。

         ○

[むつ]

初オ5  │舞鷹に小さく成りし鴻の鳥   桃隣
     ├──十四
名オ2 舞└ 畳の上へ許すしゝ舞     桃隣

         ○

[ひな]

     ┌ 年を問はれて衾冠りぬ    此筋
     │ 六
    冠│月寒く頭巾あぶりて冠る也   文鳥

         ○

[渡鳥]

     │千石と登れば人も人らしき   卯七
     ├─九
    登│棒だけに月は登れど暮の雲   閑鹿

         ○

[星合]

発句   │牛部屋に蚊の声よわし秋の風  翁
     ├─七
初オ3 弱│休み日も瘧ぶるひの顔よわく  路通

         ○

[笠]

     │君が代は餅の花のと和らぎて  蓮二
     ├─六
    和└ 和らかな物きれば風ひく   童平

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[拾]
[幽蘭集]
初秋は

初ウ6  ┌ 釣簾の一重も恥づる黒髪   安信 ※こす(鉤簾)のひとえも
     ├─十三
名オ8 恥└ 昔恥かし今の竹垣      牛歩

[鶴]
百韻
日の春を

初ウ12  ┌ 恥かしの記をとづる草の戸  芳重 ※懺悔録
     ├─十三
二オ12 恥└ 近江の田植みのに恥づらむ  朱絃

 「はづる」と「はづかし」とは、活異なれども、同活の証句見当らぬ故に挙げたり。同意に心得よ。

[蓬]
海くれて

名オ5  │ほつほつと炮烙作るぢゞ一人  東藤
     ├─八
名ウ2 作└ 高麗の県に畑作りて     桐葉

[つばめ]
馬かりて

初ウ11  │花の香は古き都の町作り    曽良
     ├─八
名オ8 作└ 哀れに作る三日月の脇    北枝

[山琴]

     │詩に作る滝はなけれど三日の月 呂仙
     ├─九
    作│軽薄をちらして台の作り松   音吹

         ○

[梅十]

     ┌ 息子の足を借りて茸狩    梅光
   ㋬ ├─三
    借└ をばが上着を借りて詰袖   仲志

[桃白]

     │笠からむ歌の返事に蓑もなし  史邦
     ├─八
    借└ かりし屏風をかへす夕ぐれ  杉風

[冬団]
めづらしや

名オ1  │米借に草の戸出づる朝霞    翁
     ├─十一
名ウ1 借│匂へとて鉢に植ゑたる菊借りて 重辰 ※集「匂へとぞ」

         ○

[壬]

     │侘しげに牛の子逃がす朝朗け  一桐
     ├─十八
    侘└ 脚気をわびて膏薬をはる   槐市

         ○

[風麦亭]
四十句
木の本に

14    ┌ 莚を立に走り飛びする    翁  ※集「たて(楯)に」
   ㋬ │ 四
19   飛│鐘霞む喰裂紙を飛び付きて   土芳 
※くいさきがみ、和紙を湿らせちぎった紙、桜草の品種名でもある。

[拾]
[継ハシ]
おきふしの

初オ4  ┌ 石踏返す飛越の月      曽良 ※とびこえのつき
     ├──十四
名オ1 飛│まつ程は足音なくて飛ぶ蛙   素英

         ○

[次韻]
五十韻
鷺の足

初オ5  │夢に来て鼾を語る時鳥     其角
     ├─六
初ウ4 語└ 先祖を見しる霜の夜語    楊水

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[三顔]

     │気ばらしに辛崎迄は誘ふ神   曲紫
     ├─八
    誘└ 鹿笛吹いて誘ひ出さうか   不有

         ○

[あめ]

     │義は済て読み癖わろき文の道  是計
     ├─六
    読└ 真砂の数が歌のよみ方    光延

[あら]
美しき

初ウ8  ┌ よまで冊子の画を先に見る  舟泉 ※集「双紙の絵を」
     ├─十三
名オ10 読└ 暁ふかく提婆品よむ     荷兮

         ○

[なむ俳諧]
百韻
南無の花

二オ8  ┌ たが謗るやらくさめ三つ四つ 里鳳 ※集「誰そしるやら」
     ├─八
二ウ3 謗│金持を謗るは人のひがみから  貫仙

         ○

[翁]

     │簾より外が踊の誉人也     沾徳
     ├─八
    誉└ 自在を切つて細工誉められ  文桂

[さみ]

     ┌ 鼓を誉むるばかりではない  一宇
     ├─十二
    誉│飼立をなじますうちの誉遣ひ  一宇

         ○

[翁]

     │うるにさへ精進物は哀れにて  乙州
     ├─五
    売│花売の後姿のおもはゆき    正春

[長良]
長歌行
うれしさも

第三   │月花も買うた程には売りかねて 童平 ※集「うれかねて」
     ├─七
初ウ3 売│笠脱いでねだれにはひる茶碗売 里紅 
※「ねだれ」は「強請れ」で押売

[さみ]

     │売りたさに喰れて仕廻ふ呉服店 一宇
     ├─十
    売└ 此あたりにはうる餅もなし  佐角

         ○

[小弓]?

     ┌ 何買に出て坊主ののらのらと 渭川
     ├─十
    買└ 月まつ舟の小買物する    東鷲

[あら]
美しき

名オ4  ┌ 長持買うてかへるやゝ寒   舟泉
     ├─十二
名ウ5 買│如月や晒を買ひに夜をこめて  冬文 ※集「曝(さらし)を」

[其灯]
釣瓶さへ

初オ4  ┌ 買うた茶入はあちの掘出   宜考 冝考
     ├─十三
初ウ12 買└ 苗代の候語るふん買     楚雀 ※集「糞買」

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[印]
あなむざんやな

初オ6  ┌ 玉子貰うて戻る山本     鼓蟾
     ├─十五
名オ10 貰└ 本家の早苗貰う百姓     翁

         ○

[深川]
青くても

脇    ┌ 提げて重たき秋のあら鍬   洒堂
     ├──十八
名オ3 重│皮たびに地雪踏重き秋の霜   洒堂

         ○

[山カタ]

     │立横に並んで下戸も花の陰   栗几 ※縦横に
     ├─八
    並└ 小鯛の側に並ぶ青鯖     栗几

         ○

[続さる]
雀の字や

初ウ11  │俵米もしめりて重き花盛り   沾圃 ※ひょうまいも
     ├─五
名オ5 盛│汁の実に困る茄の出盛りて   沾圃

[深川]

名オ7  │日盛りに鯔うる声を夢心    洒堂
     ├─九
名ウ5 盛│花盛り御室の道の人通り    桐奚

[新百]

     │花盛り寒食過ぎて幾日目ぞ   乙由
     ├─九
    盛│あの人も只はゐるまい若盛り  支考

         ○

[印]
[金蘭集]
五十句

14    ┌ 文盗まれて我れ現なき    翁
     ├─十二
27   盗│道の名と盗人の名は残る露   曽良

[皮篭摺]

     │盗人のないもほいなし花の主  石周
     ├─十一
    盗│足取も皮盗まれた芦毛馬    ロ遊

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[雪白]

     ┌ 薄の花のみだれ姿や     燕雨
     ├─十
    乱│花は今峰も梺も咲乱れ     只白

[ぶり]

     │駈廻る蓑を野分の吹乱し    桃呂
     ├──
    乱│夜明から時雨て雲をかき乱し  楓里

         ○

[拾]

     ┌ 紙巻添へて軽き笠の緒    野童
     ├─六
    巻│菰斗り身にまく人を見知りかね 丈草

         ○

[山中]

     ┌ 別れの涙面目もなし     桃妖
     ├─六
    別│乙鳥の左右へはらりと鳴別れ  北枝

[笈]
水鶏啼くと

初ウ6  ┌ 藺を刈上げて門に弘ぐる   素覧
     ├─九
名オ4 刈└ 刈りもり時の瓜を漬込む   露川

[一橋]
馬子の袖に

初ウ5  │六月の始め稲かる国有りて   言水
     ├─十七
名オ11 刈│月かげの夜終廟の草刈りし   清風

         ○

[砥]
百舌鳥なくや

初ウ6  ┌ 村をはなれて小家一軒    夕兆
     ├──二十三
名オ12 離└ 薮をはなれず人近な雉    林紅

         ○

[一橋]
春行くに

名オ1  │汲みはてぬ浮世を年魚の命にて 清風
   ㋬ │ 三
名オ5 果│布子着て布子に帰る北の果   清風

[藤]
源氏行
其花の

初ウ9  │川向ひなれば使もはてぬはず  水胡
     ├─七
二オ5 果│いせ講の果はいつでも後夜が鳴 侃如

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[三日]

     │川のない所は雨に田を植ゑて  応石
     │ 七
    植│植置いてことしは寺の花盛り  麁線

[やへ]

     │神の領植ゑるともなし千々の花 伊良
     ├─八
    植└ かたみの菊を植育ておく   景桃

         ○

[次韻]
百韻
世に有て

第三   │哀れとも茄は菊に末枯れて   翁
     ├─八
初ウ4 枯└ 枯れゆく宿に冬子うむ犬   其角

[次韻]
百韻
世に有て

三ウ13  │松茸に道し紛へば枯茨     楊水 ※みちしまがへば
     ├─十一
名オ11 枯│鰯なる御簾のうるめは枯残り  才丸

[やへ]

     ┌ 浮世の花と金の蔓ほる    猶始
     ├─十四
    掘│夢に見し勢至を掘に来るびく尼 筺水

         ○

[蓬]
海暮れて

初ウ7  │笠敷きて衣の破れつゞりゐる  桐葉
     ├──十七
名ウ1 破│破れたる具足を国に送りける  東藤

         ○

[炭]
百韻
子は裸

二ウ10  ┌ むく起きにして参る観音   利牛
     ├─四
三オ1 起│きげむよい蚕は庭に起かゝり  野坡 ※集「機嫌能かひこは」

[山中]

     ┌ こけては起きて山を見ありく 凉菟
     ├─九
    起└ 起きて見たればかはる分別  万子

[拾]

     │引起す霜の薄や朝の月     丈草
     ├─六
    起└ 今宵も舟にゆり起す夢    丈草

[雪白]
山吹や

初ウ10  ┌ 具足の別れ起す教経     魯九
     ├─九
名オ8 起└ 女房の金で起す身帯     曽北 ※集「身体」、身代か

[だて]
かげろうふの

初ウ3  │五月迄小袖の綿も脱ぎあへず  翁
     ├─十一
名ウ3 脱│城北の初雪はるゝ蓑脱いで   嗒山

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[俳]
百韻
錦どる

二オ8  ┌ 槐の隠るゝ迄に帰見しはや  似春 ※かいの
     ├─十四
二ウ9 隠│庭稲荷樅に隠れて仄かなる   卜尺

[焦]

     ┌ 早縄よるは沖津白波     一雀
     ├─九
    早└ 早い後段に猶羽抜鳥     大町

[焦]

     ┌ 早歌よまぬ心きたなき    粛山
     ├─十五
    早└ 包み分けたるつばき早梅   其角

         ○

[歌]

     │娘ども連れて一度は京参り   鷹仙
     ├─十
    参│参れとて山の談義の鐘が今   里紅

[このは]

     │銀をかす利勘の為の寺参り   石介 ※利得勘定のこと
     ├─十一
    参│太閤の御前へ参る唐西瓜    巨郭

         ○

[水仙]

     ┌ みかむの匂ふ袖の重たさ   いち
     ├─五
    匂└ 布せの銀さへ匂ふ哀れさ   魚文

[草刈]

     │暖簾の奥なつかしき茶の匂ひ  従吾
     ├─十二
    匂└ 春の匂ひも過ぐる長月    従吾

         ○

[拾]

     │一かいの松動く程ふく嵐    岱水
     ├─十一
    動│うばそくも花に心や動くらむ  友五

         ○

[次韻]
百韻
春澄にとへ

三オ3  │凩のからしの枝に藁ほせる   才丸
     ├─十五
三ウ5  │さびしさをそばに露ほす豆俵  才丸
    干├─九
名オ1  │配所人芦の小着布を干しかねて 翁  
※はいじょびとあしのこぎのを

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[だて]

     │転寝の夢心へ疎き御所の様   栗斎
     ├─九
    疎│恋すれば世に疎き人憎き人   素蘭

         ○

[一橋]

     ┌ いつかふむべき古郷の橋   清風
     ├─九
    踏└ 湯殿の道の踏枯らす笹    才丸

[鶴]

     │三度ふむよしのゝ桜よしの山  仙化
     ├─十三
    踏│岩根ふみ重き地蔵を荷ひ捨て  其角

[拾]
初秋は

初オ5  │蛤の殼踏分くる高砂子     安信 ※集「高砂に」、[鵆]は「高砂子」
     ├──二十一
名オ9  │狗子の踏みあらしなる蘭の鉢  自笑(鳴海) 
※えのころの。集「からしたる」
    踏├─五
名ウ3  │石ふみて片下りなる岨の道   如風

         ○

[桜山]?

     ┌ 先づ十人のそばは出来たり  一洞
     ├─
   出来└ をのこ子出来て老の慰み   石柴

         ○

[桃]
短歌行

初ウ7  │南から仕廻ふて北の花も今   朗式
     ├─十一
名ウ3仕廻│開張も花も首尾ようちり仕廻ひ 非亮

[山カタ]

     │入相も長閑に庭を掃仕廻ひ   東羽
     │ 十二
   仕廻└ 煤はく迄に秋を仕廻うた   栗几

         ○

[翁]

     │はやらかす酒に息子のちゑ売て 沾圃
     ├─十
   流行└ 腹疫病の流行り鎮まる    翁

[藤]

     │踊よりそれて寺子のかけ歩行  筆花
     ├─五
   歩行│雲雀なく空から誘ふ歩行神   芦舟

[皮篭摺]

     │売りありく九條あたりの芋の声 支考
     ├─十二
    歩└ 梅嗅ぎありく今の俳諧    芦本

 爰に例なき物は、其類字を拠とせよ。譬へば、「動」の字面去にあれば、「なびく」、「そよぐ」は、例なくとも同去と知り、「参」の字例あれば、罷、詣も同じと心得よ。但し、相似たる詞にても、戦ひは耳だつ故に、百韻に一つか二つか。争いひは常なれば、面去にも可ならむと分別せよ。


面去、辞・体言

□ 面去、辞・体言(印は十去以上)       ↑ トップへ

 かりけり、さり、さて、いつ、いく、いかに、はや、先(まず)、猶、必、皆、此方(こち)、爰(ここ)、どこ、よそ、あはれ、初(はつ)、外、前、後、横、末、縁(へり)、西、東、あだ、くせ、俄、仮、頃、徳、役、番、隙、間(あわい)、礼、献(こん)、香(か)、賃、数、昔、殿(どの)、留主、世中、浮世、自由、義理、機嫌、景色。

[あら]
落着に

脇    ┌ 三夜さの月見雲なかりけり  越人
 かりけり├─七
初ウ4  └ 後なかりける金二万雨    越人

※ かりけり:【ク形容詞、なし】カリ活用連用形の活用語尾「かり」+【助動詞】「けり」

         ○

[七さみ]

     ┌ さりとは涙胸にせきあげ   朴人
     ├─十六
   さり│さりとては短い日也暮の月   之仲

[雪白]

     │さる程に袷に綿の頃なれば   沂青
     ├─十九
   さり│さりながら花には牛の足頼   魯九

※ さり:【ラ変動詞】の連用形さり、連体形さる

         ○

[山中]

     │一つかどの畑にさても草の花  乙由 ※集「いつかどの」
     ├─七
名ウ1さて│是はさてよい折節に蓬餅    自笑(加賀)

※ さても:【副詞】。さて:【感動詞】

[白ダラ]

     │枯れたわと思うたにさて梅の花 従吾
     ├─十三
   さて│是はさて俄寒さの秋のくれ   支考

※ さて:【感動詞】

         ○                    ↑ トップへ

[白扇]

     ┌ いつ覗いても明いてゐる寺  東園
     ├─七
   いつ└ 隣りのばははいつも十八   林紅

[住吉]

     ┌ 地にあるものかいつも八石  竹端
     ├─
   いつ│珍らしい肴でいつももてなされ 青竹

         ○

[拾]
夕顔や

初ウ6  ┌ 今の間に幾度しぐるゝ    惟然 ※集「何度」
     │ 四
初ウ11 幾│花の香に啼かぬ烏の幾群れか  翁

[句餞]
半歌仙

発句   │江戸桜心通はむ幾時雨     濁子
     ├─十五
ウ11 幾│鷺の巣の幾つか花に見え透いて 翁

         ○

[蓬]

初オ6  │酒のむ姨のいかにさびしき   桐葉
  いかに├──十八
名オ7  │いかになく鵙は吹矢を負ひ乍ら 翁

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[百歌仙]

     ┌ 七夕過ぎはもはや朝顔    京水
     ├─九
     │はや暮れかゝる祇園清水    帰帆
   はや├─十
     │外もはや明う成りたる月の前  支流

[百歌仙]

     ┌ はや喰うてゐる二日目の鮓  天垂
     ├─十
   はや│五六丁往て来る内にはや留主か 二々

[韻]

     │とやかくと最早日もなき年の暮 米巒
     ├─十三
   はや│よい花もはや端々は火を灯し  米巒

         ○

[ぶり]

     ┌ 先づ老僧の御目にかゝらう  松友
     ├─六
   まづ│春は先づ馬の祈祷にさる廻   松友

[七さみ]

     │先づはひしこのよきかげむぞや 曽北 ※鯷漬
     ├─十
   まづ│花といはゞ先づ莟より楽しまれ 凉菟

[桜山]?

     │乞食の家の先は妻入      支考
     │ 十五
     │ 先づは喧嘩も川向ひ也    支考
   まづ├─九
     │先づ十人のそばは出来たり   一洞

         ○

[梅別]

     ┌ 茶漬の恩の報じても猶    子靖
     ├─十
    猶│時鳥ならば山路は猶以て    孟村

         ○

[三日]

     │随分の人に必ずくせがある   柳江
     ├─十二
    必└ あんな雲から雨に必ず    林角

         ○

[三笑]

     │膳の時皆慇懃になられけり   蓮二
     ├─八
    皆└ ばゞにならねば皆しらぬ也  桃妖

[ぶり]

     ┌ しる人は皆出代りてゆく   枝三
     ├─十三
    皆└ 嫌ひな物も皆好きになる   任行

[あら]
月に柄を

初ウ7  │くふ柿も亦くふ柿も皆しぶし  傘下
     ├─十
名オ6  │ 又献立の皆違ひけり     傘下
    皆├─九
名ウ4  └ 皆同音に申す念仏      越人

         ○

[桜山]?

     ┌ 向いの鶏のこちにゐたがる  斗牛
     ├─十二
     │重箱のこちへは来ずによその花 支考
   此方├─三
     │風呂敷をあちらこちらと二人連 只草

[三匹]

     ┌ 隣りのばゞもこちに出来合ひ 反朱
     ├─六
   此方│こちの子も今拵へる挟箱    芦本

[四幅]

     │真白に見ゆるがこちの郡山   払周
     ├─六
   此方└ あの鈴音はこちの馬やら   梨月

[山琴]

     ┌ 兀げてはをれどこちの山也  野棠
     ├─六
   此方│あちらから嘘つく時は此方から 巴兮

         ○                    ↑ トップへ

[三日]

     │町からもこゝへは遠い大師講  除風
     │ 七
   ここ│小柴垣そこからこゝへ此流れ  井炊

[小弓]

     │吉原へ聞ゆる時はどこの鐘   風国
     ├─七
   どこ│百官やどこぞの程で去年が出る 東鷲

         ○

[そこ]

     ┌ つくばひたればよその殿様  日図
     │ 六
   よそ│剃りたれば衣かせ山よそに見て 素水

[笠]

     │あの杜はよそより早く暮掛かり 葉柳
     ├─六
   よそ└ 昼迄はまだよその遊び日   里紅

[桜山]?

     ┌ 黄色になれどよその枇杷也  和友
     │ 七
   よそ└ 念仏を誘ふよその入相    香鵲

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[拾]
雪ごとに

名オ7  │秋寒く哀れと拾ふむしの殻   夕菊
     ├─七
名ウ3哀れ│菅笠も哀れに見ゆる熊野道   路通

[越]

     │六月にうどんくうこそ哀れなれ 支考
     ├─九
   哀れ│傾城の哀れは文に定まりて   仙雅

         ○

[炭]
むめが香に

初ウ9  │初雁に乗懸下地敷きて見る   野坡
     ├─十一
名オ9 初│初午に女房の親子振廻て    翁

[春鹿]

     ┌ 馳走を殊に初の聖霊     円牙
     ├─五
    初└ 二人が二人いせを初旅    如朴

[冬]

発句   │初雪のことしも袴着て帰る   野水
     ├─十五
初ウ11 初│初花の世とやよめりの厳めしく 杜国

         ○

[其袋]

     │風通ふ氷室の外は暖かに    鋤立
     ├─七
    外│外に寝て咎めぬ犬を跨ぎ越え  嵐雪

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[笠]

     │物前の日和かたまる月の照り  連支
     │ 六
    前└ 質に節句もさせぬ昼前    里紅

[渡鳥]

     ┌ 打ちかぶせたる雪前の空   卯七
     ├─六
    前│前方の手代小者も打揃ひ    卯七

[皮篭摺]

     │昔から上戸の額盆の前     乙棹
     ├─九
    前│福山の殿は追付け御ざり前   芦本

[三顔]

名オ4  ┌ 手杵も内にをらぬ物前    廬元
     │ 十
名ウ3 前│百日の江湖も既に名残前    砥青

         ○

[雑]
十八句
生てあふ

オ5   │一時雨傘のうしろの遙か也   信徳
     ├─九
ウ9  後│乗物の後の窓の少さくて    彫棠

[一]
百韻
梅の風

名オ3  │其四隅多門は手木を横たへて  信章 ※てこを
     │ 十
名オ14 横└ 後陣はいまだ横町の露    翁

         ○

[一]
色付くや

初ウ8  ┌ あつ湯を流す末の白浪    翁  ※集「熱湯(にえゆ)」
     ├─七
初ウ8 末└ 羽ねのあがりしきぬぎぬの末 翁  
※集「はねの」、打越に「音羽」で、「羽」はない。前句に「時雨」で、「撥ねの上がりし」

[つくも]

     │月の秋是から末が哀れ也    如風
     ├─九
    末│花の春末一段に成りにけり   素雪

         ○

[十七]

名オ9  ┌ へりをぐるりと染むる丸薬  巴人
     ├─七
名ウ4 縁└ はらへや払へ臼に薄べり   雁山

         ○                    ↑ トップへ

[節文]

     │西受の二階の暑さこらへかね  水湖
     ├─十
    西└ 西谷東谷も入相       梅因

         ○

[桃盗]

     ┌ 東殿より西殿の事      松碌
     ├──
    東└ 雁南に東の月        松碌

         ○

[萩露]

     ┌ 此段毎にあだしのゝ露    其角
     ├─八
   あだ└ 十ながら古き卵は化思ひ   利牛

         ○

[はの]

     │瓦迄後朝くせの掃拭ひ     晋如
     ├─十六
   くせ└ 神へ向いても南無は口ぐせ  安士

         ○

〔庵野分〕

     │ふろ敷に質種包む俄事     左月
     ├─十二
    俄└ 俄隠者の侘びも手作り    文先

         ○                    ↑ トップへ

[ひさご]
木のもとに

初オ5  │月待ちて仮の内裡の司召    珍碩
     ├──二十
名オ8 仮└ 仮の持仏にむかふ念仏    珍碩

[印]
あなむざんやな

初ウ7  │柴の戸は納戸叩く頃静か也   翁
     ├─六
名オ2 頃└ 霞匂ひの髪洗ふ頃      享子 亨子

[三日]
夕顔を

名オ6  ┌ 朔日頃の粽配るらむ     除風
     ├─十
名ウ5 頃│此頃に花も咲うと言うて来る  除風 ※集「咲ふ(さこう)と」

[百囀]

     ┌ けふ此頃の空も冬枯れ    風竹
     │ 十
    頃│献立に奢る工夫も花の頃    杏里

[水仙]

     │外仕事喜ぶ頃の若楓      野坡
     │ 八
    頃│のし上がる譜代男の花の頃   兎白

[梅十]

     ┌ 熊野の舟のいつもつく頃   梅光
     │ 四
    頃│此頃は狸の化くる咄也     梨雪

         ○

[山カタ]

     ┌ 朝寝をすれば九損一徳    六之
     ├─十六
    徳│商ひは仕廻遊ぶを徳にして   六之

         ○

[拾]

     │陽炎に田舎役者の荷の通り   野明
     ├─八
    役└ 師走の役にたゝぬ両替    去来

[其鑑]

名オ1  │繋がれて番の屋敷は日も永し  此柱
     │ 九
名オ11 番│葈の二ばんに鎌をかくる也   葉圃 ※集「からむしの」

[むつ]

     │勝はづの碁を二番迄仕付けられ 桃隣 
     ├─十四
     │ 居ながら礼をしたる番神
    番├─
     │百ばんの外五六百土用干

[このは]

     ┌ 非番と見えてふらぬさみだれ 甫什
     ├─九
    番└ 小筒に番のゆるむ宇治殿   甫什

         ○

[山カタ]

     │昼からは節句も一寸隙になり  右範
     ├─十一
    隙│彼岸にも数珠やの店の隙さうな 栗几

         ○                    ↑ トップへ

[拾]

     ┌ 今の間に何度しぐるゝ    惟然
     ├─十一
    間└ 豆麩しかゝる窓間の月    惟然

         ○

[鳥ノ道]

初ウ7  │八朔の礼はそこそこ仕廻ひけり 木節
     ├─五
名オ1 礼│年礼に小さき奴等供させて   翁  ※集「年頭に」

         ○

[鳥劫]

     ┌ 川瀬を走るあゆの献立    芙雀
     ├─十
    献└ 手柄次第に酒は三献     母風

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[そこ]

     ┌ 買はぬ香具の手にも移り香  巴青
     ├─十
    香│花の香に及ばぬ山を打眺め   兎士

[小文]
帷子は

脇    ┌ 籾一舛を稲のこき賃     翁
     ├──十八
名オ3 賃│夕ぐれにせんたく賃を投込んで 岱水

         ○

[深川]

初ウ1  │鶏の卵の数を産揃へ      桐奚
     ├──
名ウ4 数│盆にかぞふる丸薬の数     支梁 ※集「かぞゆる」

         ○

[俳]
百韻
あら何共なや

二オ12  ┌ 月はむかしの親父友達    翁
     ├──十八
三オ3 昔│昔棹今の帝の御時に      信章 ※むかしざお、文禄の検地

[越]

     ┌ 昔咄せば入相がなる     候才
     ├───
    昔└ 昔の蛙古池になく      温之

[やわ]

     ┌ 髭のほしいも其の昔にて   富蘭
     ├───
    昔│重箱に昔の残る帆懸舟     子直

 こは、折去の例なれども、世の中・浮世の面去に照し見よ。

[江戸筏]

     │鵜殿見し是は小刀是は葭    睡足
     ├─五
    殿│何もかも笑うてすます親父殿  睡足

         ○                    ↑ トップへ

[続新]

     │方丈のるすは師兄に廻されて  茂秋
     ├──
   留主│けふあすと旦那のるすを淋がり 乙鳥

[桃]

     │台所も隠居のるすに気を延し  芦洲
     ├─二十二
   留守│昼ねに庵のるすを預かる    巵然

[夏衣]

     ┌ 二百十日も無事なよの中   文詞
     ├─十七
   世中│世の中よ仏の経に嘘はなし   槐五

         ○                    ↑ トップへ

[山中]
孫持たば

初ウ7  │なぶられて浮世を渡る 〓   播東
     ├─六
名オ2浮世└ 今の浮世に鬼は御ざらぬ   凉菟

         ○

[梅十]

     ┌ 井戸の自由を人のうらやむ  里紅
     ├──
   自由└ 流れを受けて物の自由さ   呂杯

         ○

[三顔]

     │誘はるゝ浮世の義理の寺参り  岸翠
     ├──
   義理└ まゝしい義理を母の気配り  東蝶

         ○

[梅十]

     │代官の友もなければふきげむな 蓮二
     ├─十三
   機嫌│母親のきげむを菓子で伺ひて  仲志

         ○

[桜山]?

     │風落ちてけしき若やぐ朝の月  松宇
     ├──
   景色│柴舟に歌よむ程の朝げしき   由残

 此巻の定めは、字類指合の大概也。未だ得ぬ書有りて、例に乏しき事あり。後、若し、軽き古例を得ば、此定めを減ずる字類もあらむ。学者、其意を得て、足らざるを補ひ給へかし。


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