貞享式海印録巻六 ⑤ 季節変格他

貞享式海印録 巻六⑤ 索引
季節変格季節変格素春、百韻、三所の変格
歌仙、素春・素秋、両方あるまじき事秋の字、近き異例
秋季・春季、六続き異例一巻一の物を、二、三用ひたる変格
表に惜しむ
物の変格
表に惜む物を用ひたる変格脇に、神・釈を出したる仕損じ
稲、木草変格稲、面去。変格木類・草類、越・三続
人倫等越人倫、越気、越人・者、越
天象等越天象、越日並・夜分、越
降物、越聳物、越
神祇釈教等越神祇、越釈教、越名所、越
野・山・天、越同体器、越衣類・火体、越
活字変格活字、越、変格辞・体字、越、変格
留字、越、変格「の」の字留、仕損じ
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貞享式海印録 曲斎述   安政6年(1859)序

 芭蕉の伝書という、「貞享式(別称二十五条)」をもとに、芭蕉俳諧の実例を根拠として、通則を見いだして記録したものである。

 このページでは、巻六、季節変格、表に惜しむ変格、稲面去変格、人倫・天象・神祇などの打越変格を見る。


貞享式海印録 巻六 ⑤

季節変格

□ 季節変格。       

[蓬]
つくづくと

名オ9 冬│白銀の鉢に白魚およがせて    桐葉 ※1 ※集「鮊、シロウオ」

(桑名にて)
野ざらし紀行

     │曙や〈雪薄し〉白魚しろき事一寸 翁  ※2

 偕に、貞享元冬の吟也。白魚は春なれども、桑名にては、冬より出づれば、実景なる故に此吟あり。
 もつとも、当季と成りがたき故に、始めは「雪薄し」と置かれしを、再案に「曙」と直されたり。こは、一時一興なれば、例としがたし。殊に、付句の中にて、一句捨にしたるは甚だ怪し。冬出で、春終るものにて、雑にせられぬものなればなり。この余、古集に生得夏の物を秋に出し、秋のものを春に入れたる類多かれど、そは式の定め過りにて、変格ならず。

※1 シラウオではない。シラウオは弱く、収穫後に生かし泳がすことは無理。芭蕉句に「藻にすだく白魚やとらば消えぬべき」とあるとおり。
 桐葉句の「鮊」は、シロウオで、旬は春。当時は季語でない。前句「たはれて君と酒買にゆく 芭蕉」、酒肴のシロウオで、おどり食い。付句は、「おほん帰京の時を占ふ 工山」。<野ざらし紀行、熱田三歌仙3

※2 「明ぼのや白魚白きこと一寸(野ざらし紀行)」の季語は、「白魚一寸」で、三冬。「野ざらし紀行」素堂序にあるとおり、シラウオの成魚は「天然二寸(6~7センチ)」。成魚が初春であれば、一寸の稚魚は冬になる道理。<野ざらし紀行、桑名、地蔵堂辺り

[ひさご]
鉄砲の

    冬│糊強き夜着に小さき蓙敷きて   泥土 ※集「剛き、こわき」「御座」
   ○冬└ 夕べの月に菜飯かき出す    怒誰 ※集「嗅出す」

 菜飯は、冬春の用なれども、古来雑也。季につれても用ひたる例なし。この月、後に季なければ、前に連れて冬となれど、再びする事にあらず。

※ 菜飯、現在は三春。

△ 素春、百韻、三所の変格。       ↑ トップへ

[誰]
百韻
電の

二オ9  │雪を見て笑ふも今年二つ子よ   普船
  10 │ 物貰にもにほふはつ梅     白燕 ※ものもらいにも
  11 │飾りしてほのぼの狭き間の町   氷花
     ├─ 八
二ウ6  │ 雑煮してうる上下の関     普船 ※かみしもの
  7  │腥に侍連れは小殿原       白燕 ※集「侍達は」
  8  │ うらはの柳聟の紋所      氷花 ※もんどこ
     ├─ 二四 十三
三オ8  │ 桜の渦をすくふ落合      才丸
  9  │線香の結び初めたよ春の庵    嵐雪
  10 │ 雉なくかたに樵やる弟子    挙白
  11 │人日に首くゝる身は有佗びて   湖水 ※じんじつに
  12 └ 松とる跡の月は汚れず     青井 ※けがれず

 百韻に、(素春)二は例あれども、三は外になし。

△ 歌仙、素春・素秋、両方あるまじき事。       ↑ トップへ

[一橋]

発句  雑│あゝ何れ花月に雪子規      仙庵
     │ 三
初オ5 秋│手を懸けて空の桂を枝をる哉   清風
  6 秋│ 萩ふむ童池水あやうき     仙庵
 素秋四句├─
初ウ1 秋│せがき寺女に髪を生やさせて   清風
  2 秋│ 別れを恥づる鵙の曙      仙庵
     │  八
初ウ11春│ならの京桜七重に咲ざりし    清風
  12春│ 水を朧の礎にたつ       仙庵
 素春三句├─
名オ1 春│鋤の刄に蛙はもろき命にて    仙庵

 雑の発句に月花を約めたる時、素春か素秋か一方出すはよし。又、一向なくてもよし。さるを、かく両方とも用ひては、雑の月花のために、作者捌かれし心地して、いと拙し。
 此故に、蕉門には、雑の月花出でざる時も、素春・素秋を一巻にせざるは、物好き過ぎて、却つて賤き故也。
 さて、爰に、「空の桂」といふは、桂木の事にて、月の桂にはあらねど、月花上りたる潤色に、桂桜を付たるは、弥(いよいよ)、発句にかまれし捌きなり。
 仮令、月花上りたればとて、月花に紛らはしきものを、素春・素秋の中に出すといふ、理なき捌きはなし。
 雑にても、慥かに月花は、月花也。さるを潤色せば、その月花はかへつて慥かならぬ道理にあたる也。

△ 秋の字、近き異例。       ↑ トップへ

[梅十]

     │麦秋の節句にかゝるはしかさよ  七雨 ※芒さ、はしかさ
     │ 二
     └ 破れ簾をあふつ秋風      仲志

 季かはりても、五去の物也。

△ 秋季・春季、六続き異例。       ↑ トップへ

[続花]

発句   │秋経てし墓にまかれば老心    木尓
     │ 其文月の廿七日        湖十
     │頓でゆく乙鳥も北やさしぬらむ  文十
     │ 禊の音の露寒き窓       老鼠
     │何として桂は光る何に似て    園二
     │ 赤蜻蛉のひたる汐先      茶井

[小弓]

名ウ1  │よの中の左細工も長閑也     東鷲
  2  │ 恋の宗旨を替へる出代     冬央 ※でがわり
  3  │乙鳥のかたい契りはかゝぬ文   如儂
  4  │ 今様とさへいへば正月     東鷲
  5  │其力花には笆のなかりけり    如儂 ※ませの、籬垣 (ませがき) 
挙句   │しらぬ顔して陽炎の中      冬央

 定座の花まで、春五は済みたれど、花の後に季なきもあしく、挙一句、雑にするも無念と思うて、続けけむ。花の後に季なくても、雑一句残りても、限りすむときは続くる事、さらさらなし。凡て、季の掟は重き物也。

△ 一巻一の物を、二、三用ひたる変格。       ↑ トップへ

 爰に挙るは、[古今四]に「一座一」と禁じたるものなり。此中、四は支考捌き巻にあり。自ら禁じて自ら破れども、外々に例なければ、禁の方をよしとす。

◆[なむ俳諧]
百韻
南無の花

初ウ9  │薄雪の画に似て萩の小柴垣    貫仙 ※集「絵に似て」
     ├─── 四十五
三オ13 │白露に洗うて清き萩の月     里鳳
    萩├── 十五
名オ1  │荻の模様も尽きて黄八丈    許舟 ※集「荻薙の」

[一]百韻

発句   │色づくや豆ふに落ちて薄紅葉   翁
   紅葉├───── 七十五
三ウ13 │花紅葉明かし暮して物として   杉風

◆[桜山]
百韻

     ┌ 藤で安井の鐘くもるらむ    臨川
    藤├─
     └ こゝらの藤を夏に眺むる    何悦

 季かはりても、栄枯の別なければ、同じ事也。

◆[桜山]
百韻

     │冬枯の木葉はらつくはたご寺   支考
   落葉├─────
     │落葉に道のすべる石段      従古
     ├─
     │はらはらと落ばに雨の降過ぎて  逸正

 古式に、「落葉、季をかへて四」と云へり。こは、皆、同季也。

[続の原]

発句   │雨の音色々にきく柳かな     蚊山
    柳├───
挙句   └ 続の原の青柳の庵       執筆

 挙句の韻なれども、同じ季也。

[やわ]
百韻

二オ1  │鴬の鳴いて見る日は暖かに    宇中
    鴬├───── 七十六
挙句   └ 小松の中に鴬を聞く      夏段

[とて]

     │飛たりや偖社雲雀落ちたりな   金毛 ※さてこそ
   雲雀├───
     │雲雀とん雀ちうちう蝶しろり   鬼貫

[松島]
松の花

脇    ┌ 汐干の跡を知りて行く蝶    翁 
    蝶├─
     └ 蝶まへとてか取り残す芝

[きく十]

     ┌ 蝶を忘れて猫も恋する     播東
     ├──
     └ 孫を相人に庭のてふてふ    朴人 ※あいてに


表に惜しむ物の変格

□ 表に惜む物を用ひたる変格。       ↑ トップへ

[次韻]

初オ3 釈・禅骨の力たわわになる迄に    楊水 才丸

[虚栗]

 6  恋・ 傾婦を蘭の肆にうる      其角 ※いちくらに

[百歌仙]

 3  恋・恋になる人を度々言出して    天垂

         ○

[売]

 4 名所・ 七えう山を出でかゝる月    翁  ※しち耀やま、架空の山

〔白鴉〕

 4 名所・ 江戸見てくれば先づ男也    二笠

[さる廻]

 5 名所・雲切のしてもあぶなき不二南   史邦

[皮篭摺]

 5 名所・売りありく九条あたりの芋の声  支考

[旭川]

 5 名所・越後から佐渡は向ふの磯なれば  曲紫

[古拾]
青葉より

 6 名所・ 天下一竹田稲色になる     翁  ※竹田近江は人名

[笈]

 6 名所・ 紙漉きかゝる上京の秋     支考

[山カタ]

 6 名所・ 流行歌きく淀の賑ひ      白狂

[印]
五十句
ぬれて行や

 7 名所・日を経たる湯本の峰の幽かなる  北枝 斧卜 ※地名とは限らない。

[師走嚢]

 近来け出しの名所と号けて、百句初表に名所するは、俳道の誑惑人也。連歌建治の式には、初面を十句として名所を作れり。夫によりて、「当流にもくるしからず」と心得たるは、誤り也。
 連歌には、新古の二式あり。俳諧は、応安の新式より定めたるものなれば、本式とも、新式ともいふべき物なし。連歌には、例あるにもせよ、貞徳・立圃・宗因等のせられぬ事を巧出し、「これぞ俳諧の本式也」とてなすは、破法の罪甚しき物也。(約文)

▲ 己、蕉門に在りながら、古式をもて蕉門の人を戒むるは、己こそ、誑惑破法の罪人なれ。都て、貞徳・宗因等のせざる事を巧みて、天理の俳諧を立てたるこそ、我門の意地なれ。
 さて、爰に挙ぐる売若菜、古拾遺、印の竿の三は、翁の捌き也。
 俳諧本式十句表に、名所一つ出す事は勿論なれども、この例は歌仙なる故に、暫く変格に出したり。されど、翁の例もあれば、強ひて制する変格にはあらず。

△ 脇に、神・釈を出したる仕損じ。       ↑ トップへ

[賀茂]

    場│かも山や梺の茶摘み時鳥     慈竹
    神└ 御田の歌にみきを捧ぐる    鴎笑

[賀茂]

    飲│みき迄を言ひのべて稲の穂懸哉  鷲洲
    神└ 木々の錦のそこに拝殿     鴎笑

 こは、発句の、「かも山・みき・穂懸」を神祇と思ひ過まりて、脇に神祇を出しけむ。「かも山・高野・住吉」の類は地名、「みき」も「みはま」と同じ称言。「き」は酒の古名。穂懸も神前に限らねば、神祗にならず。「御田・拝殿」は神祇なり。

[其日]

   無常│ありやなしや名こそ人こそ朧月  百阿
    釈└ 仏の嗅も空にしら梅      范孚

[みかの]

   無常│卯の花や名をかへてきく無常鳥  芦路
    釈└ 陀羅尼静けき南風受の窓   [日+巨]礫

 無常の句に無常の脇、釈の句に釈の脇はよし。此等は、発句を釈と思ひ過まりし物ならむ。


稲、木草変格

□ 稲、面去。変格。       ↑ トップへ

[寒ぎく]
三十二句
寒菊や

名オ8 秋┌ 稲盗人の縄を解きやる     翁  ※集「綱を」
     ├─ 四
名ウ1 夏│田を植うる向近江の稲の出来   翁  ※むかい

 古式は言ひかへて三(去)なれば、折去位の物ならむ。けだし、「苗の出来」と云ふを「稲の出来」と写誤せしにあらずや。

△ 木類・草類、越・三続。       ↑ トップへ

[一]
百韻
須磨ぞ秋

初オ5 木│山颪小柴の陰にさつと吹く    似春
  6 -│ しら雲かろき手水手ぬぐひ   似春
  7 木│紺浅ぎ鹿子交りに桜さく     翁

[みの]

発句  木│へぼち草垣穂に木瓜もなき家裁  麋塒 ※胡瓜
脇   木│ 笠面白や卯の実村雨      一晶
第三  木│ちる蛍沓に桜を払ふらむ     翁

※ 「木瓜」はキュウリのことで、ボケではない。

[俳]
五十韻
暁や

初ウ8 草┌ 月も名残りの良寒き芦     配力 集「やや寒き足」
  9 草│妹が里や溝に穂蓼の生茂り    園風
 10 草└ 文書きちらす庭のばせをは   風麦 ※「ばせう」が正しい

[句餞]
半歌仙
江戸桜

初オ6 根┌ 根松苗杉蝉のなく声      濁子
     ├─ 初ウ1  │池の橋渡し始めぬ垣ゆひて    其角
  2 根└ 湊入る帆の見ゆる家根越    嵐雪 ※集「やね越し」


人倫等越

□ 人倫、越。       ↑ トップへ

[桃白]
いざよひは

初ウ1  │よりつきのなき女房の顔重き   岱水
  2  │ 夜すがらぬらす山伏の髪    翁
  3  │若皇子に始めて草鞋奉り     濁子 ※わかみこに

[焦]
児くらべ

名オ3  │登蓮が下駄の前歯に雨はれて   紫紅
  4  │ 泥鰌の汁に四畳半とは     其雫
  5  │夕されば親仁へとふく神楽笛   其角
  6  │ あたらふるびの山を足軽    紫紅
  7  │孔明の刀懸なり鹿の角      其雫

[江戸筏]

     ┌ 猶も伯父ぢやと人買の梅    睡足 
     │浮世からうきよへなびく凧
     └ 方丈を出ていわしよぶ聟

△ 気、越。       ↑ トップへ

[梅十]

     │二本指よりも朱鞘は気遣ひな   蓮二
     │ 馬士も一ぱい過ぎた顔付    梨雪
     └ 花くもり明日の天気を受合ふて 泊楓

[山カタ]

     ┌ 若代になれば質も気遣ひ    野航
     │重箱に何やらけふは配り合ひ   白狂
     └ 旅に遊べば気もまめになる   東羽

△ 人・者、越。       ↑ トップへ

[金竜]

    人┌ 鴟夷も強ひての欲をせぬ人   格枝 ※しいも
     │庵室のきれいは二段無一段    菊陽
    人└ 拳程なる西瓜人並       尺樹

         ○

[笠]

    者│寺の名を飛脚の者もうろ覚え   里紅
     │ 薬罐をかりて薬せんずる    米花
    者│長居しておじやる月見はうさん者 荷丁


天象等越

□ 天象、越。       ↑ トップへ

[市の庵]
五十韻
宵の間や

名ウ6 月┌ 有明残る浜の朝やけ      サ笠 簑立
  7  │この頃の荒れに鱸もつれぬやら  史庭
  8 日└ 着きて日高く見ゆる小田原   キ柳

[桃]

    日│日は軒へ若代の朝寝叱られて   琶舟
     │ どこの使か顔も覚えず     梨月
    月│名月の芋に後住も居なじまれ   紫紅

[梅の別]

    星┌ 只きらきらと星二つ三つ    夏段
     │白壁の松も聳えて城の花     了阿
    日└ 駒鳥鳴いて日はなゝめなり   仲太

△ 日並・夜分、越。       ↑ トップへ

[山カタ]

   日並┌ 一匁には高い日雇や      右範
     │尼達は矢背の麦飯喰習ひ     馬岐
    日└ 莚おる子のよこに日のてる   野航

         ○

[百歌仙]

   日並│弓も今引捨て比の三日の月    若芝
     │ 近う豆ふの有りて仕合     紫道
   日並│西東花よ花よと五七日      里仙

         ○

[新百]

   夜分┌ 何を思ひの灯篭更行く     支考
     │有明の拍子もぬけて曇けり    反朱
   夜分└ 舟に伏見の一夜秋風      唐庭

△ 降物、越。       ↑ トップへ

[松島]
松の花

    雪┌ 吹雪の袖をふるふ兄弟     翁 
     │松竹の冥加を買はむ年の市
    霜└ 暦巻きたる暁の霜

[新百]

    露│露添へて机の先の萩すゝき    反朱
     │ 夜寒になりて人も恋しき    水甫
    雨│げにもさう村雨はれて峰の月   支考

△ 聳物、越。       ↑ トップへ

[幽]

    霞│雨霞む古蔵弘くをさまりて    仙風
     │ 白き鼠に雪ぞ解け行く     亀
    雲│雲間より赤い烏のほのぼのと   惣代

[さみ]

    曇│曇る日は鳩の天窓の病めるやら  壺秋
     │ 尊い事を知らすつき鐘     魏芝
    雲│さればこそ西は法輪花の雲    范孚

[其日]

    曇┌ 窓のくもりに起きて復寝る   范孚
     │あちらむく日とて台の花も咲き  吾由
    雲└ 藤山吹に色々の雲       桂州


神祇釈教等越

□ 神祇、越。       ↑ トップへ

[俳]
百韻
錦どる

二ウ9  │庭稲荷樅に隠れて仄かなる    卜尺
 10  │ 至らぬ役者芸冥加あれ     千春
 11  │共さわぎ院に日祭を催ほされ   翁  ※集「豊さわぎ」「日待を」

[越]

     ┌ 祈祷の札のあつちこちより   烏旧
     │江戸迄の便宜は月に六日づつ   不柳
     └ 祭りの首尾の一段とよき    管小

△ 釈教、越。       ↑ トップへ

[たこ]

     ┌ よき石見れば仏切りたき    半残
     │るり灯は月をくゝりしごとく也  梢風
     └ 僧の髭そる盆の夕ぐれ     之園

[山カタ]

     ┌ 後生願ひの隠居息災      六之
     │此蘇鉄鎌倉の世に植ゑたやら   馬岐
     └ 地頭から立つ開帳の札     白狂

△ 名所、越。       ↑ トップへ

[一]
百韻
色付や

名オ5  │玉子酒即時に須磨を打潰し    翁
  6  │ 冷も発らぬ大浪のあと     杉風
  7  │疝気持藻に住の江の音を絶えて  翁

[鶴]
百韻
日の春を

二ウ8  ┌ あら野の牧の御召撰みに    其角
  9  │鵙の一声夕日を月に改めて    文鱗 ※初懐紙「鵙の声」
 10  └ 糺の飴屋秋寒き也       李下

[続虚]
乞食にも

名ウ1  │恋聟に度会譲る家の風      其角 ※集「乞聟に」
  2  │ 名乗嬉しき幣鬮をとる     破笠
  3  │さ月まつ加茂の祭りの馬からむ  破笠

※ 「渡らひ」が正しい。家業を言う。名ウ6句とも神祇とするため、座興で、同音「度会」の字を用いた。

△ 野・山・天、越。       ↑ トップへ

[雪花]
磨なをす

初ウ6 野┌ 物よぶ声や野馬とるらむ    翁
     │松明に飯荷ひゆく秋の風     桐葉
    野└ 宮も吉野の哀れしる月     翁

[古拾]
実や月

初ウ4 山┌ 西をはるかに緑青の山     二葉   5  │隈どりの峰より月の落ちかかり  紀之
  6 山└ 秋を座敷の床のやまかぜ    卜尺

[古拾]
青葉より

    天┌ 天下一竹田稲色になる     翁
     │淀鳥羽の鏡の影に見えたりや   似春
    天└ やよ時鳥天帝のさた      春澄

△ 同体器、越。       ↑ トップへ

[次韻]

   枕 ┌ 衛士提灯を枕して眠る     才丸
     │はしたなりける女房の声更けて  翁
   寝巻└ 血摺の寝巻夜や忍ぶらむ    其角

[しし]

 木履・杖│幽霊は木履をはいて杖ついて   丈志
     │ 恋路の闇に迷ふ四つはし    素然
   傘 │御せんぎは傘の名に知れかかり  山隣

△ 衣類・火体、越。       ↑ トップへ

[焦]
牡丹ども

第三 羽衣│薮入の天の羽衣稀に着て     周東
初オ4  │ のばす拍子にとまる昼莚    銀杏 ※ひるござ
  5 袂│手本米袂からもるくれの月    其角

[思亭]

    袂┌ 袂ふるへば数珠と煎りまめ   孤柳
   借着│借着して下女のうかるる土用干  呉雪
    褄└ 褄はづれよりはづかしい筆   千怒

         ○

[夕顔]

    烟│垣間見に行水時の夕烟      円入
     │ 宿は鏡のかげの舎りに     袁立
    灯│灯火のむしも半ばは秋にして   宰陀

 前(△木類・草類)、植物打越以下、是迄の中、正格二去の部の物は、強ひて制する変化にもあらず。以下に挙ぐる字越の中にも、正格にて、二三去の物あり。


活字変格

□ 活字、越、変格。       ↑ トップへ

[むつ]
上気者

初ウ8 す┌ 負けた角力が勝つた振りする  桃隣
  9  │金掘と色の青さにしられけり   桃隣
 10 └ 鳥居の施主に潜り初めする   鋤立 ※集「施主の潜り初むる」

※ 元禄10(1697)年跋、刊本「武津致東利三」は、「初むる(はじむる)」。

[あら]
一里の

名オ5  │木鋏に明るうなりし庭の松    長虹 ※ 形式動詞の「なる」
  6  │ 秤にかゝる人々の興      胡及
  7 成│此年になりて灸の痕もなき    一井

[山カタ]

    成┌ 若代になれば賃も気遣ひ    野航
     │重箱に何やらけふは配りあひ   白狂
    成└ 旅に遊べば気もまめになる   東羽

         ○

[奥栞]

    取┌ 物取落す音のをかしき     路通
     │から尻を乗りあぐみたる花の山  路通
    取└ はらへど蚤の足に取つく    不玉

         ○

[このは]

    出┌ 踊にいづる宿の出女      許六 
     │月蝕の兀げて更けゆくあとの影
    出└ 香の烟りのをるる出格子

         ○

[壬]

    入│持槍の一間床には入りかね    貞翠
     │ 安房つかへば皆遣はるる    出芳
    入│宵の口入り乱れたる道具市    九節

[類]

    入│さく花をかねて手に入る作の鞍  止水
     │ 梅の雫は御酒の相伴      堤亭
    入│鴬に聟の中入ほのめかし     大町

         ○

[拾]
ひき起こす

初ウ7 知│菰ばかり身にまく人を見知りかね 丈草
  8  │ 湯の時ふるる夕ぐれの月    支考
  9 知│楽笛を知りて合はする秋の風  翁

[汐]

    知│芍薬の名を知るほどは取集め   麁線
     │ 仮初ながらひろい下市     蟻巧
    知│奉公の心をかへて思ひしれ    紫友

         ○

[梅さが]

    有┌ ちつと廻れば家のある道    去来
     │万日のいつ立初めて鉦の声    支考
    有└ 言付けてあるたご桶の数    牡年

[歌]

    有┌ 頓てありとはしれた御鷹野   吾仲
     │隙過ぎて女をたらす役者共    佐曲
    有└ 降るにもあらでぬらす張物   范孚

         ○

[鳥劫]

    無┌ 訳もない事いふな埓なき    母風
     │仏法も世法も知りてしらぬ顔   舎羅
    無└ いろはで万すまぬ事なし    芙雀

[鳥劫]

    無│何なくと夫々そこへ酒一つ    諷竹
     │ 草臥れたりな長い四里半    惟然
    無│あれ是と撰れど手にあふ筆もなき 芙雀

         ○

[浪化]

    懸│小鼓の拍子に霰ふりかゝり    元春
     │ 相伴なうて膳のさびしき    韋吹
    懸│暮れ懸る障子を矢張明けて置き  和木

         ○

[梅十]

    居│何ぢややら囁いて居て暇乞ひ   泊楓
     │ 娵入のあとの門火焚きつゝ   里紅
    居│清洲越覚えて居るはばば一人   有琴 
※きよすごし。形式動詞の「いる」

         ○

[文星]
十四句

 9  立│むくろ腹立ても連の未だ見えず  柳睡
10   │ 払ふあとから酢徳利の蝿    香鵲 香鶺
11  立│あけたての襖涼しう風もたせ   眉泉 ※接尾語の「たて」

 以上は、正格二去の物也。越の例、少なき故に、暫く爰に入れたれど、強ひての変格にもあらず。

[鶴]

    寄┌ 江湖江湖に年よりにける    仙化
     │卯の花のみな精にも見ゆるかな  芳重
    寄└ 竹うごかせば雀かたよる    楊水 ※片寄る→偏る

[続虚]

    鳴│山寺の鼎をならす朝催ひ     露荷
     │ 松に笠ぬぐ暮露の起臥し    其角 ※ぼろの
    鳴│新らしき鳴子をならす瓜作り   露荷

 以上(2例)は、正格三去なるものの変例也。

[類]
鰒汁や

名オ9 残│昨今に残る言の葉なかりけり   檀泉
 10  │ 杵も響きもしぶしぶとこそ   丈松
 11 残│舌かかぬ心わるさよ残る月    其幄

[桃]

    直│姉聟も上へ直せぬ男ぶり     鳥南
     │ 笑ひの鼻をはぢく摺鉢     指山
    直│花の時紛れた笠を替え直し    曙窓

 以上二例は、正格五去の物、以下五例は、正格面去の物なれば、決して変格をまぬる事なかれ。

[ひさご]
畦道や

名ウ4 萌┌ やしほの紅葉木の芽萌たつ   正秀 ※集「やしほの楓」
  5  │ちる花に雪踏引きずる音ありて  珍碩
挙句  萌└ 北野の馬場にもゆる陽炎    正秀

[歌]

    参│娘ども連れて一度に京参り    鷹仙
     │ 大工にこちの持仏拝ます    琴左     参│先づさめぬうちに参れと雪見廻  風草

[茶]

    貰│洗濯の暇を貰ふ宵の月      支考
     │ 野良に渡す蛬篭        以之 ※でっちに
    貰│寝所は貰ひ集めた画を張りて   扇車

[梅十]

    違│新米に腹のかげんのちがひけり  泊楓
     │ 古鉄買ひの棉実も買ふ     梅光
    違│言伝は薮から棒の人違ひ     蓮二

[風麦亭]
四十句
木の本に

27  張│張道を傘提げて一日忌      風麦 良品
28   │ 飯の強きを好まれにける    良品 土芳
29  張│月かげに灯篭張りて泣きくらし  翁  三園

※ 「花はさくら」には、「はり道を傘指てひとひつき」とある。「はり道」は「墾道」、「ひとつひき」は、「一つ引き(両)」。なお、作者名に違い。

△ 辞・体字、越、変格。       ↑ トップへ

[誰]
百韻
馬蹄又

    物┌ つらしと知らば来まい物とて  才丸
     │わりなくも乳探らする関の婆   嵐雪
    物└ 寝られぬうつつ妖ものの影   其角 ※ばけものの

[梅]
[菊塵]

    小│小襖に左右の銘は煤びたり    支考
     │ 都をちつて国々の旅      惟然 ※集「散つて」
    小│改る秤に小玉ためて見る     洒堂 ※集「銀をためて」

[あめ]

    小┌ 問はず語りに小僧夜更し    蚊夕
     │御もち槍鞘蝙蝠の打落す     忠清
    小└ 花の嵐のひづむ仮小屋     光延

 右、正格二去物の変例也。

[山カタ]

   とて│入相がなるとてととを待かねて  栗几
     │ 一荷にたらぬ盆の買物     蓮二
   とて│照ればよし降ればよしとて月と笠 六之

[笠]

    未┌ 黒津へやつた人はまだかも   里紅
     │脇詰を着たれば娵も世帯めき   荷丁
    未└ まだ杉の葉も青き酒店     諷山

[白扇]

    白┌ 雨ほどぬるる槙の白露     夕兆
     │此比の旅も山より冬近し     氷麦
    白└ 年の白髪を眉に見らるる    東園

[梅十]

    中│新宅も中半に花の咲きかかり   有琴
     │ 青酢は大し皿に若あゆ     呂杯
    中│雨にせく中にてる日は永からず  光延

 右、正格三去物の変例也。

〔頭陀行〕

    陰│夕顔の葉陰に月も忍び宿     百齢
     │ 薮入風流に質の置替へ     希吹 ※ やぶりみやげに
    陰│陰震なれば瘧も苦にならず    咄哉

 右、正格五去物。
 左、三例は、正格面去物の変なり。

[とて]

    偖┌ 偖も大きな鳥があれあれ    勝重
     │他人ほど親類が何のぎりしらう  加中
    偖└ 此月がさて昼に負けうぞ    琶住

[武蔵]
百韻
錦どる

名オ6 玉┌ 今その螈金色の玉       峡水 ※いもり
  7  │袖に入る雨竜夢を契りけむ    翁  ※あまりょう
  8 玉└ 涙の玉あり明暮に乾かず    麋塒

[続さる]
雀の字や

初ウ2ふり┌ 受状済んで奉公ぶりする    沾圃
  3  │よ過ぎたる茶前の天気気遣はし  里圃
  4ふり└ あるふりしたる国方の客    馬莧

△ 留字、越、変格。       ↑ トップへ

[やへ]

    に│身にしみし辛さはうつの山程に  重栄
     │ 世の様問ふやなくかんこ鳥   示右
    に│軒近う馴れて雀は住みけるに   用雪

[奥栞]

    ず│喰仕廻ふみその器も捨てられず  支考
     │ 先づ見事なる機のおり出し   重行
    ず│門前の隣りもいまだ定まらず   呂丸

[藤]

    ぬ┌ 芋煮る鍋の曲突に懸らぬ    里紅
     │出代りもまだ客人の衣裳付    呂杯
    ぬ└ 御大工衆の口にや勝たれぬ   梨雪

[山カタ]

    也│祭りには又隙さうなけしき也   馬岐
     │ 浜の肴に鳶の暮行く      右範
    也│三日月の二日に出るは馳走也   東羽

[とて]

    と┌ そんならさうよ雪は降るかと  勝重
     │酒をたち鱈腹呑んで詩を吐いて  月尋
    と└ そなたを見ても人違ひかと   芦角

 右、正格三去物の変例也。

△ 「の」の字留、仕損じ。       ↑ トップへ

[古拾]
のまれけり

初オ8  ① いつも初音のいつも初音の   似春 ※金葉集和歌引用。

「聞くたびに珍らしければ時鳥いつも初音の心地こそすれ」

[古拾]
のまれけり

初ウ6  ② 鼓の下手くそ寺はかつらの   似春 ※謡曲「熊野」引用。

「鷲の御山の名を残す。寺は桂の橋柱。立ち出でて峯の雲」

[一]色付や

二オ6  ③ 普請の積りよい手廻しの    杉風 ※見積

[一]
見渡せば

三ウ7  ④ぬれ縁や北に出づれば手盥の   似春 ※謡曲「鸚鵡小町」引用。

「北に出づれば湖の志賀辛崎の一つ松は、身の類なるものを」

[一]須磨ぞ

初ウ12  ⑤ 浪こす岩を切ってのはっての  翁  ※慣用句

[一]物の名

三ウ3  ⑥朝比奈の三ぶ様四郎様五郎様の  信徳 ※さぶさま、しろさま、ごろさまの

         ○

[三千]

脇    ⑦ 曲れどをれぬ雪の柳の     蓮二

[浪化]

     ⑧ あら湯の辞義は毒の薬の    文砌 ※新ゆ、更湯のこと。じぎは、辞儀

[越]

     ⑨ 昨日の菊に樽のさかなの    盤泉 ※菊の節句、酒樽、酒肴

[つるも]

     ⑩其匂ひ篭の目もるゝ松茸の    芦角

[文操]

     ⑪早稲の香の君が代なれや秋の田の 桃始

 前六は、天和前翁の捌き、後五は支考捌き、みなみな作意よろしからず。
 「の」の字、留におく時は、転倒の作にする物也。抑も「の字」は、物の居所を定むる辞なれば、夫が留にある時は、上に必ず其落付所なくては叶はず。
 (古今集巻十五)
 吹きまよふ野風を寒み秋萩の
     移りもゆくか人の心の  雲林院親王

と云ふは、「萩の風にちる如く、人の心の移りもゆくか」と云ふ心也。
上の脇も、曲れどをれず雪の柳のと、切字を入るる所なるを、ぬと下へ続く辞を用ひたる故に、あしく成つたり。此心をよくよく得ざる人は、妄りに用ふる事なかれ。

※ 転倒とは、倒置である。倒置とは、掛かる成分と受ける成分が通常とは逆になっていることをいう。
・ 主述の倒置
 曲斎の挙げた古今集の例を見ると、主部と述部の倒置である。
   [人の→心の][[移りも・ゆく]か]……「人の」は「心の」に掛かり<主部>となっている。<述部>「移りも」に「ゆく」が付いたまとまりに、疑問の終助詞「か」がついている。
□1 上の例句であてはまるのは、⑦のみ。大辞林❶2、主格の「の」。
  ⑦[[雪の→柳の][曲れど]][をれぬ]。  「ぬ」は打消しの助動詞「ず」の連体形だが、掛かり受けに影響しない。連体形で終わる語法もある。「ぬ」も切字。

□2 ❶1、連体修飾の倒置。修飾部、被修飾部の倒置。
  ③ [よい→手廻しの][普請の→積り]。
  ⑩ [[松茸の][篭の目→もるゝ]][其→匂ひ]。  2段の倒置
  ⑪ [[[秋の→田の][早稲の→香の]][君が→代]][なれや]。

□3 ❶1、連体修飾、被修飾部の省略。
  ① [[いつも][初音の→心地こそ]][すれ]。  「心地こそすれ」を省略。
  ② [鼓の→下手くそ]。[[寺は→かつらの](と)]→[(いふクセのところ)]。 「といふクセのところ」などをを省略。
  ④ [ぬれ縁や]。[北に→出づれば][手盥の→(あり)]。 「あり」などの受ける成分を省略。
  ⑥ [朝比奈の]/[三ぶ様・四郎様・五郎様の]/[(十八人も揚げた三晩の酒宴)]。 「十八人も揚げた三晩の酒宴」など、受ける成分を省略。前句「いつの大寄せいつの御一座 信章」を、遊女への問い掛けと見て付けた。「大寄せ」「御一座」は遊里用語。謡曲「和田酒盛」、浄瑠璃「風流和田酒盛」、幸若舞「和田酒盛」を踏まえる。

□4 ❸、並べ挙げ、続くべき語句を省略。
  ⑤ [[[浪→こす]→岩を][[切っての・はっての](と)]][(~なり)]。 「と、~なり」を省略。
  ⑧ [[あら湯の→辞義は][[毒の・薬の](と)]][(~なり)]。 「と、~なり」を省略。
  ⑨ [昨日の→菊に][[[樽の・さかなの](と)][(~なり)]]。 「と、~なり」を省略。

 

※ 以上、助詞「の」の用法や働きを見ると、「し損じ」ということはない。

「の」
大辞林

❶【格助】
1 連体修飾語を作る。
 ア 後続する名詞との所有・所在・所属・行為者などの関係を表す。「私-本」「空-星」「学校-先生」「偉人-業績」
 イ 性質・状態・材料などを表して下に続ける。「花-都」「紫-糸」「急-話」
 ウ 人間・数量・位置・論理などについての関係を表す。「社会悪-問題」「大臣-身辺」
 エ 同格の関係を表す。現代語では「ところの」「との」の形をとることがある。   ⓐ「政治家-山下氏」「よろしくと-おことば」 ⓑ「ビール-冷やしたの」「ある荒夷(えびす)-,恐しげなるが/徒然 142」
 オ 動作性名詞に付いて,その動作・作用の主が後ろの名詞であることを表す。「操業中-漁船」「ご賛成-方」
 カ 後ろの動作性名詞が表す動作・作用の主体・対象であることを表す。「彼-援助で助かる」「酒-飲みたさをこらえる」
 キ 「ごとし」「ようだ」「こと」などを続いて言って,実質・内容を表す。「リンゴ-ように赤い」「よって件(くだん)-ごとし」
2 従属句の主格・対象語格を表す。「ぼく-読んだ本」「お酒-飲みたい人」「折節-移りかはるこそ,ものごとに哀なれ/徒然 19」
3 (序詞などで用いて)「のように」の意味で,下の用言にかかる。「青山を横ぎる雲-いちしろく我と笑まして人に知らゆな/万葉集 688」
4 叙述を途中で言いさして,後に続ける。「門出したる所は,めぐりなどもなくて,かりそめの茅屋-,しとみなどもなし/更級」
❷【準体助】「のもの」など,名詞に準ずる意味に用いられる。
1 名詞に付いて,「のもの」の意を表す。「ぼく-がない」「こっち-がいい」「草の花は,なでしこ。唐-はさらなり。大和-もいとめでたし/枕草子 67」
2 活用語の連体形に付いて,その活用語を体言と同じ資格にする。「リンゴは赤い-がいい」「行く-はだれだ」
3 (「のだ」「のです」「のだろう」などの形で)確信的な断定・推定を表す。「ついに失敗した-である」「君がやった-だ」
❸【並立助】用言その他の語に付いて,物事をいくつも並べあげる場合に用いる。「なん-か-とうるさいぞ」「貸す-貸さない-とさんざんにもめた」「神仙伝-列仙伝-神仙通鑑-なんどと言うたぞ/史記抄 10」
❹【終助】
1 (下降調のイントネーションを伴って)断定の意を表す。「お金,使っちゃった-」「だめだった-」
2 (上昇調のイントネーションを伴って)質問の意を表す。「のか」の形をとることもある。「だれがした-」「ねえ,くれない-」
3 念を押す気持ちを表す。「のよ」「のね」などの形をとることもある。「道草しないで帰る-よ」「ふうん,ほんとうだった-」
4 (強いイントネーションを伴って)命令の意を表す。「さあ,早く寝る-」「だまって歩く-」


❺【格助2】〔格助詞「を」が,撥音「ん」の後に来て,連声によって「の」の形をとったもの。中世後期から近世へかけての語〕
格助詞「を」に同じ。「一すぢながながととほりて剣-とぎたてたが如くにてあるそ/中華若木詩抄」
❻【終助2】
1 文末に用いて,感動の気持ちをこめ,同意をうながしたり念を押したりする。だね。「しばらく見ないうちに,ずいぶん大きくなった-」「誠らしうは思はねど噓に涙は出ぬもの,真実去るが定ぢや-/浄瑠璃・宵庚申 下」
2 文末にあって,感動の意をこめて指定する。だなあ。「おのれ,にくいやつ-/狂言・末広がり 虎寛本」
七【間投助】文節末に用いて,言葉の調子を整える。ね。「そうして-,とうとう死んでしまったとさ」 〔中世後期以降の語。二 は現在ではやや古めかしい言い方にのみ用いられる〕



貞享式海印録 巻六 終り

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