俳諧付合小鏡

俳諧付合小鏡 索引

俳諧付合小鏡序三物の解たばこ盆の説恋、上・中・下
恋、初・中・後(恋、付句の例)付合三儀付合四道
執中之法付句に季をむすぶ事月花の事色字之事
邪正之事三句目之事俤の句、並びに故事・故歌の事
畳字之事序破急之事付句に新古なき事一座案じ方之事
恋の句数の事仮名遣ひ之事歌仙(「ひつじ田や」の巻)
瓢中四季混雑 (発句集)(跋文)凡例
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俳諧付合小鏡 蓼太述/門人 牛家著   安永4(1775)年序

<解題>
 蕉門俳諧の難解な俳論の中で、最も簡明な作法書。蓼太は、蕉風復興を目指す天明中興五傑の一人。
 底本は、「俳諧発句小鑑・俳諧付合小かゞみ 佐々醒雪・巌谷小波校、俳諧叢書第4冊、博文館、大正3」。国立国会図書館蔵。


<蓼太略歴>

大島蓼太(りょうた)。通称平助、雪中庵三世。二世吏登門(初世嵐雪)。天明中興の五傑の一で、富麗な作風。門下に沙羅・花嬌・乙児、他三千余。句集・著書多数。
享保3(1718)年生、芭蕉没後23年、嵐雪没後10年。天明7(1787)年没、70歳。


俳諧付合小かがみ

俳諧付合小鏡序

 友を鏡とし、銅をかゞみとす。其の賢愚得失の境にもあらず。爰に、又、鏡あり。四時の変化造次をうつさずといふ事なし。かの百錬の始めは、八雲八重垣の落穂を拾ひ、筑波根の田井の雫を汲むといへども、あながちに艶なる詞をからず。只、俗語平話におもひを述ぶ。よつて、童子の何といふ手引の書、見侍らむといふに、あたふるの鏡なし。
 雪中老師、是をつぶやき、予、筆をとりて、小冊子なれり。
 此頃、書肆西邑、頻りに乞ふにまかせ、付合小かゞみと題して、うちくれぬ。

  安永四乙未孟春                     雪星観牛家

三物の事・たばこ盆の説

◇ 三物の解

         発句より第三迄を三ツ物といふ。
 三物の解    脇に五体第三に二体あり。
         師によりて学ぶべし。


 発句、脇、第三。「起・定・転・合」の習ひあり。各詩の格式也。
 起とは、四時の景物に対して、一物なき所に情を起し、十七字に結ぶ。これ発句なり。
 定とは、譬へば、発句は、梅にもせよ、鴬にもせよ、その物に打ち添へて、或ひは場を定め、時節を合はせ、発句に言ひ残したる所を補ふなり。よつて請け定まるの心なり。
 転とは、発句・脇を一連の前句となし、天地より人の生じて、万物始まりたる如く、又、これより一起すれば、付を微細にせず、二句の懐ゆるやかに、遠きをよしとす。

 四句目は合の場ながら、百韻・歌仙の続きものなれば、詩の格と違つて、ここに習ひあり。詩の起定転とは、

  薄暮層巒雲遶腰   │ 薄暮層巒(ラン、やま)、雲、腰を遶り(めぐり)
  傾盆一雨定明朝   │ 盆傾一雨、明朝を定む
  老翁八十眉如雪   │ 老翁八十眉、雪の如し
  立抜渓辺独木橋   │ 渓辺を抜け、独り木橋に立つ


 この句の心は、夕暮がた、立ち並びたる山々の腰を、雲のめぐる風情なり。よつて、「盆をかたぶける程の雨が、明朝降らう」となり。これ、発句と脇の一情なり。
 第三は、此山の日和くせを見覚えたる八十の翁なり。

 かくの如く、発句脇の「情」を転じて、「景情」二句つづかば、「人」に替り、「人情」二句来らば「風景・時節・時分等」に一転する也。
 猶ほ、古人の三物に工夫すべし。

 春

 秋

    発句     脇     第三
     若葉     春の雪   帰鳥

  蒟蒻にけふは売勝若菜哉
   吹上らるゝ春の雪ばな
  帰る鴨かへらぬ鴨もさはだちて

    発句     脇     第三
     蜻蛉     芦の穂   霧

  蜻蛉の壁をかゝゆる西日かな
   潮落かゝる芦の穂のうへ
  霧の外の鐘を隔つる松こみて

    発句     脇     第三
     梅      雉子    家普請

  梅が香にのつと日の出る山路かな
   所々に雉子の鳴たつ
  家普請を春の手透にとりつきて

    発句     脇     第三
     きりぎりす  秋夜    居所

  灰汁桶の雫やみけりきりぎりす
   油かすりて宵寝する秋
  新畳敷ならしたる月影に

    発句     脇     第三
     鴬      礼者    薮入

  鴬に朝日さすなり竹格子
   礼者うすらぐ春の静さ
  薮入の土産似合ひにこしらへて

    発句     脇     第三
     初茸     谷川    替地

  初茸やまだ日数へぬ秋の露
   青き薄に濁る谷川
  野分から居村の替地さだまりて

 夏

 冬

    発句     脇     第三
     題しらず   水鶏    雨

  そらまめの花咲きにけり麦の縁
   昼の水鶏のはしる溝川
  上張を通さぬほどの雨ふりて

    発句     脇     第三
     初時雨    木の葉   旅人

   鳶の羽もかひつくろひぬ初時雨
    ひとふき風の木の葉しづまる
   股引の朝から濡るゝ川越て

    発句     脇     第三
     夏の月    門涼    時節

  市中は物の匂ひやなつの月
   暑し暑しと門々の声
  二番草とりも果さず穂に出でゝ

    発句     脇     第三
     霜      橋     景情

   霜に今行くや北斗の星の前
    笛の音こほる暁の橋
   ひと番ひ鶴の来て寝る松経りて

◇ たばこ盆の説       ↑ トップへ


 四句目より揚句迄は、三物と違うて、付句千変万化なり。※1地畷・※2皮肉骨の習ひあり。前句を耳に聞かずして、眼に見るべし。然る時は、その形あらはれ、付くべきもの、打越あしき物、あきらか也。おもひ量ると見るとの違ひ也。

 たとへば、
   先づ真中に煙草盆おく
  あまくだる紫雲の小袖上草履

 されば、このたばこ盆の真中に置くといふを、耳に聞かずして、目に見る時は、尋常にはあらで、遊郭の初会などと見ゆるなり。かの※3薄雲・小紫(共に京町三浦屋の人)ともいへるものの、ゆるぎ出でたる風情ならんか。

    又
   ひきずるやうな銅たばこ盆
  使者たてゝ小坊主ぐるみ掃きなぐり

 何某侯(なにがしこう)の使者の間の掃除、句上にあきらかなり。

    又
   銀のかな具の提げたばこ盆
  尼君は※4浅黄綸子に丸頭巾

 御庭めぐりの尼公つき添ひ切り禿(かむろ)やうのものの提げたるたばこ盆の風情なり。

    又
   鉄釘じめの大多葉粉盆
  腰懸て将棋の向ふ※5半合羽

 昼、一しきのり居眠りにゆるされたる商家の見世先(店先)なり。

    又
   埃だらけの提げたばこぼん
  葺かへてさあ降ればふれ吹かばふけ

 会津ものの埃だらけなるは、葺かへ仕廻うたる行水前なるべし。

    又
   ほこりだらけの塗りたばこ盆
  麦秋のころは御寺のあげ畳

 同じく埃だらけながら、塗烟草盆とあれば風姿かはりて、田舎寺などの麦秋、さもあるべきか。

 されば、煙草盆と耳に聞く所は、只一色ながら、目に見る所はひとつひとつにわかりて、付句もそれに随ふべし。

※1 地畷/地縄手(じ・なわて):付合を地と縄手になぞらえた論か。不識。

※2 皮肉骨(ひ・にく・こつ):付合の深浅を、三層に分類。[俳諧埋木]に出る。

※3 薄雲(うすぐも)・小紫(こむらさき):共に、京町三浦屋の花魁。源氏名。高尾に次ぐ。小唄や歌舞伎に登場。

※4 浅黄綸子(あさぎ・りんず):浅黄/浅葱は色名<「野ざらし紀行、東海道」で色を参照>。綸子/綾子は、滑らかで光沢がある絹織物。

※5 半合羽(はんがっぱ):腰まで上半身を覆う、丈の短いカッパ。町人が愛用。


恋、上中下、初中後の事

◇ 恋、上・中・下       ↑ トップへ


 恋は貴となく賤となく、ただ一情ながら、和歌にも逢ふ恋、あはぬ恋、逢ひてあはざる恋など、趣、さまざまなり。俳諧の付句とても、上・中・下、初・中・後、なきにしもあらず。

    上品
   来べき宵とてゆふがほの蜘
  うしろから鏡の機嫌なぐさめて

 上﨟の、人待ち給ふ夕化粧なり。「※6我がせこが来べき宵也さゝがにの蜘のふるまひかねてしるしも」と、右近の君などの慰さめ申したる、夕顔の宿の風情もあらんか。

    中品
   比は出口の柳枯れ枯れ
  嘘かりに来る手に筆を持ちながら

 ※7川竹の風情なり、この文の返り事いかにと、姉女郎などに囁きたる年波の有様ならん。偽りのうちに誠有りて、中品の恋といはんか。

    下品
   田植に色の白き雇人
  居風呂に水さす恋と焚く恋と

 「君は小田巻麻の糸思ひ合はせてよるばかり」と、麦搗き唄の鄙ぶり、恋なほ哀れふかし。やもめ女の雇人見る心地せらる。「馬に出ぬ日は内で恋する」といへる付句も、このあたりか。

※6

 [古今和歌集、巻第十四、1110] 衣通姫(そとおりひめ・そとおしひめ)
    衣通姫の独居て帝を恋奉りて
   我が背子が 来べき宵也 小蟹の 蜘蛛の振舞 予て徴しも
   わがせこが くべきよいなり ささがにの くものふるまい かねてしるしも

 [日本書紀、巻第十三、允恭天皇] 衣通郎姫(そとおしのいらつめ)
 八年春二月、幸于藤原。密衣通郎姫之消息
 是夕、衣通郎姫、恋天皇而独居。其不シテ天皇之臨スヲ而歌
   和餓勢故餓 勾倍枳予臂奈利 佐瑳餓泥能 区茂能於虚奈比 虚予比辞流辞毛
   わがせこが  くべきよひなり  ささがねの  くものおこなひ   こよひしるしも
   我が背子が  来べき宵なり   笹が根の   蜘蛛の行ひ     今宵著しも

※7 川竹(かわたけ):遊女。うき川竹の身から。

◇ 恋、初・中・後       ↑ トップへ

    初恋
   押やられてもはてぬ初恋
  虫干の摸様も鴛のをしへ鳥

 はつ草のねよげながら、顔うち赤めたるあどなき恋なり。中だち初むる女も、ささめきたる虫干のかいまぎれと付けたり。
  ※7父母愛少女  女是聡明子
    生不識鴛鴦  繍出鴛鴦是

 これ等の余情か。

    中恋
   裂いて捨るがなほ起請なり
  吉原をこちらの髪に梳直し

 きのふの綾羅の仇なるより、けふの紬の実ならんこそと、始め終わりを含みて、中の恋ともいはんか。

     後恋
   枕の文を解きてなぐさむ
  髪結ふた幽霊ひとりなつかし

 ※8「楊貴妃帰つて唐帝のおもひ、李夫人去て漢皇のなさけ」とありし、雨月のつれづれならば、かの反魂の薫もあらまほしきか。

※7 未詳

※8 [和漢朗詠集]
    対雨恋月
   楊貴妃帰唐帝思。李夫人去漢皇情。 源順
   楊貴妃帰りて、唐帝の思ひ。李夫人去りて、漢皇の情(こころ)。

(恋、付句の例)       ↑ トップへ

 猶ほ、恋の姿情、この六種に尽くし難し。よつて、ここに、諸集のうちより抜粋す、これを読みて工夫すべし。

  前句  様々に品替はりたる恋をして
  付    浮世の果は皆小町なり

  前句  うは置きの干菜刻むもうはの空
  付    馬に出ぬ日は内で恋する

  前句   薬をはこぶ簾中の秋     ※れんちゅうのあき
  付   此恋は兄が合点を待つばかり

  前句  それそこへそよぐ被の迦陵頻  ※そよぐかずきの
  付    眼鏡へかはる恋もはるばる

  前句   我が物おもひ浮世一人
  付   此の恋をいはんとすれぼ消にて

  前句   泣てしまうた跡は寝られず
  付   下紐のむすびめ高きわすれ草

  前句  我が年にあはねど娘盗出し
  付    恋にかならず恋の友達

  前句オサメ 長女使の御返事を待つ
  付   かくし題思ふ方にもよみまさん

  前句   口紅粉凄き石仏の顔     ※くちべにすごき。[萩の露]に「口紅すごき」
  付   消の恋涙こぼして見せにけり

  前句   傾城とのを御客あしらひ   ※けいせい殿を
  付   疱瘡神のけふは髪梳くもの好み ※いもがみの

  前句  しとやかに朽葉鹿子の古狐
  付    封もそのまゝ師直が文


付合三儀の事

◇ 付合三儀       ↑ トップへ

一 寄合  前句に対して、趣向を定る事。

一 句作  前句に対して、新古虚実の事。

一 てには 前句に対して、枝折の事。


付合四道の事

◇ 付合四道       ↑ トップへ

一 転   前句の人情、或ひはその場その時の一転なり。放の付句に差別あるべし。

一 随   前句の姿情を動かさず、したがふなるべし。

一 放   前句に対して、風雨・寒暖・陰晴、四時の働きと見るべし。

一 逆   前句の姿情を見直し、多くは放ちたる付句としるべし。


執中の事

◇ 執中之法       ↑ トップへ


 [芭蕉翁二十五条]の内、付句に執中(三儀の寄合)の法あり。
 執中とは、中をとるといふことなり。案じ方の肝要とす。
 「源氏物語」などの、大部なる物も、須磨の左遷より筆をたてゝ、前後は枝葉なりとぞ。浄瑠璃の五段続きも、先づ三段目のおもしろき所を作して、さて、初後は寄せもの也。
 付句も左の如く、前句に対して付くべき物は、一字、二字、三字には過ぎず。是を弁へざれば、句に向つて、趣向を求むる事遅し。ここに至りて、執中の法を用ふべし。その一字、二字に、てにはを加へ、延べもし、縮めもして、二句連綿する事なり。付句は、蓮の茎を切りはなして、中に糸を引くがごとく、情のかよひたるを上品とす。
 「つらねうた」といふも、此の心にや。

  へし折る枝のからき肉桂
   扨は夢座敷なくなる草枕
 付は、夢の一字。

   糊強き袴に秋を打うらみ
  鬢の白髪を今朝見付けたり    ※びんの
 付は、老の一字。

   手紙を持ちて人の名を問ふ
  本膳が出ればおのおのかしこまり
 付は、振舞。

  此の秋も門の板橋崩れけり
   赦免にもれて独り見る月
 付、左遷。

   鳴子おどろく片薮の窓
  盗人につれそふ妹が身を泣きて
 付、盗人の妻。


付句に季をむすぶ事

◇ 付句に季をむすぶ事       ↑ トップへ


 付句の春移り、秋移りに至りて、初心の人、先づ、季立より案ずるによつて、前句の全体に付かず。季は、前句のしをりにして、付けは、例の執中なり。
 又、五三句おもくわたりたる時は、季立斗りにてはしる也。其の時は、季に一作有るべし。
 予、一とせ、先師と両吟の歌仙に、
    鬼のやうなるやり人泣かせる  ※やりて
   焼飯の花もすがるゝ六阿弥陀

 此の所、打越しに人事あり。殊更半折のはづれなれば、さらさらと参るべしと、例の、堤の若草、或は、陽炎やうのもの出でたり。師の曰く、「かゝる処は、季立のみあしらひなれば、景物に一作あるべし」と也。予、眼を閉ぢて、前句のあたりを見れば、花もすがるゝ(末枯るる)三月下旬、眼のあたり物こそあれと、
   秋を隣りに麦しらみたり
 師の云、「其の如く、季立の扱かひ、遠きを捜さずして、足下に玉ある事を思ふべし」となり。
 猶、季の扱ひ、あらましを爰に拾ふ。これを読みて、工夫すべし。

前句   霧立ちのぼる歌に其のまゝ
    おとなしうつかへて児のふぢばかま

  付は、児。ふぢばかま、あしらひ也。

前句   処々をさする秋風
    新しい鰹なりしが薄紅葉

  付は、かつを也。薄紅葉、あしらひ也。

前句   宮川にすべるやうなる月の影
    稲妻よりもきいた剃刀

  付は、一銭剃(一文の路傍髪結)也。稲妻は、あしらひ也。

前句   下手の砧のなほ哀れなり
    剃捨てはせいで尾花の九十九髪

  付は、老女なり。尾花は、あしらひ也。

前句   いぶすなと勝手を覗く亭主ぶり
    此の段殊にあだし野の露

  付は、講釈なり。露は、あしらひ也。

前句   稲荷の茶屋もあかぬ春の日
    うなひより乳母がなぐさむ手毬にて

  付は、乳母也。手毬は、あしらひ也。

前句   虻の陀羅尼も先づ彼岸から
    纜を解きて渡唐の遠霞
       ※ともづなを
  付は、渡唐也。遠霞、あしらひ也。

前句   青きもふます駕は何事
    土産にもまだ春風の奈良団扇

  付は、土産也。春風は、あしらひ也。


月花之事

◇ 月花の事       ↑ トップへ


 月花の句は、一巻の陰陽なり。なくてならぬ道理を知りて、前々の、俤ある句なりとも据て、一巻を調ふべしと、[二十五条]にあり。
 されども、其前句によりて、只「月の」「花の」とあしらひては、付かぬ句あり。
 これ、又、付句に季を結ぶが如く、月花を句の用になして働かすべし。

 此の頃或人の句に、
   婆々にわたせば赤子泣きやむ
  爰元は花の弥生も蟵の月
     ※かやのつき
 かく付侍れば、一句の趣向は、貰ひ乳にして、月と花とは句作の用也。赤子のせわかたるに、蚊のあしらひ、余情かぎりなし。

   狂歌も一首出来て名月
  鋤鍬に荒れても花の都あと

 付は、旧都なり。花は、句作の用也。花前に至りて、かかる傍若無人の前句を出せるを、乙児が、只何となく付けわたして、席上皆舌を吐けり。

   医者が遠くて間にあはぬ也
  菅笠に花の都と書いて有り

 是れも花前の難則なり。付は、前句の煩ふ(わずらう、患う)人を「みやこ人」と、見出して、花の一字は用なり。句作也。尾城の巴静が席上の人に、涙をこぼさせし付句なり。

   枕もふたつ鴛鴦にならべる   ※おしに
  浮舟をまはす花の瀬月の淀

 浮舟は、恋のあしらひにして、趣向は舟逍遙也。月と花とは、句作なり。

  籾臼の唄聞きながら我が鼾
   月をほしたるほら貝の酒

 付は、山伏の仮枕にして、月は、句作なり。

   かんにんならぬ七夕の照り
  名月の間にあはせたき芋畠

 前句、「七夕の照り」とあれば、真昼の句なり。よつて、付は、芋畠にして、月は、句作也。

   曠野の百合に涙かけつゝ
  狼の番して明る夏の月

 付は、番人。月は、あしらひなり。

  ばらばらと銭落したる石の上
   酒で乞食の成りやすき月

 付は、乞食。月は、あしらひ也。

   日は赤う出る二月朔日
  初花に伊勢の蚫のとれ初めて

 付は、伊勢の船にして、花はあしらひ也。

   曲突焚付くる妻の尻軽
  花の露月の鏡もそれながら

 付は、櫛笥也。月花は、用。髪結さして、立働く姿明かなり。

 又、月花の句は、前句の作者に、功者・不功者有り。功者の人、前句へ廻る時は、ほどよきあしらひ を出して、付句に骨をらせぬ也。

 ※9[三吟未来記]、初折の花前、秋の三句目なるを「庵の雑水をすゝる小男鹿」と、翁の付けられたり。されば、此の鹿は、妻乞ふ秋にもあらず。奈良あたりの鹿にして、一句はなしては、雑也。よつて、秋季に花を付くるむつかしみもなく、すらすらと運び侍り。名人の心づかひ、後学の作者、おもふべし。

※9 「三吟未来記」蓼太、安永3(1774)年
 初オ発句  ┌ 両の手に桃と桜や草の餅      芭蕉 春
 〃〃脇   │  翁に馴れし蝶鳥の児       其角 春
 〃〃第三  │ 野屋敷の火縄もゆるすかげろうふは 嵐雪 春
       ├─
 初ウ8   │  ふたゝび暮るゝ霧の明け方    嵐雪 秋
 〃〃9 月座│ 見尽して蚊屋へ這入月の友     其角 秋
 〃〃10   │  庵の雑水をすゝる小男鹿     芭蕉(秋)
 〃〃11 花座│ 一通彼岸の華の咲ちりて      嵐雪 春
 初〃端   └  日永にめぐる嵯峨や太秦     其角 春


色字之事

◇ 色字之事       ↑ トップへ


 [二十五条]に曰く、「発句・付句ともに趣向の浮ばざる時は、眼を閉ぢて、胸中に画をなすべし」と也。
 画は、鳥獣・草木・人事の上も、ことごとく形あらはるれば、詩中の画、画中の詩ともいふなるべし。

  都をば青葉とともに出でしかど
           紅葉散りしく白川の関
  しらじらししらけたる夜の月影に
           雪かきわけて梅の花折る

 初めの歌は、「青・紅」の色字に、春秋を尽し、後の詠は「白」の一字に、寒さを含めり。

 或は、詩にも※10「遺却珊瑚鞭。白馬驕不行」と、少年行の綺羅を飾り、以言の詩も、白駒、紅葉の色字にすぐれたりとかや。たとへば、貴妃小町といふとも、衣服あしくば、心をうごかすべからず。まして、五七五七七の風姿も、彩色なければ、我れのみしりて、人の耳に落ちず。

白字

   綾白々と蓑にこぼるゝ
 かくては、上﨟の落人などと、姿あらはるゝ也。

紅字

   紅絹赤々と蓑にこぼるゝ   ※もみあかあかと
 かくては、上﨟とも見えず。舞子・傾城など、引具したる雪見などの、一興とも見ゆる也。

青字

  酒盛に青経ひとりかしこまり
 下戸とも病後とも、「青」の字に、姿表はれたり。この「丹青」を遣ひ得る時は、貴賤老若の姿、四時の風物に至る迄明かなり。天地に孕る(みつる)もの、何か五色を離るる事あらん。発句、猶色字を以て、風姿定めたる句多し。

※10 「長楽少年行」崔国輔
  遺却珊瑚鞭   │ 遺却す、珊瑚の鞭
  白馬驕不行   │ 白馬、驕りて行かず
  章台折楊柳   │ 章台、楊柳を折る   ・章台:遊里の地名
  春日路傍情   │ 春日、路傍の情


邪正之事

◇ 邪正之事       ↑ トップへ

   しばりあげたる魚屋の盗人   ※なやの
  母の眼にたらぬ真珠を泣きながら


 白波の冷まじき夜も、かく付かへ侍れば、忽ち貧者の孝心にひかれて、盗みもいとしほしらく、かの※10「猛き武士の、心も和らぐる」とは、かゝる所ならん。これ、邪を転じて、正に至らしむる也。不孝・不忠・不義の句意、慎むべき第一なり。
 博奕などいふ句は、むかしよりいひ渡り侍れど、※11骨牌をかくして、※12「釈迦の」※13「あざの」とは、文台にのすべからず。これ、俗談平話をただすといへる、俳諧の一益なり。

※10 [古今和歌集、仮名序]
 やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。花に鳴く鴬、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の中をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは歌なり。

※11 骨牌(かるた):ここではウンスンカルタのこと。ポルトガル伝来の天正カルタを日本化し、江戸初期から博打で用いられた。
※12 釈迦:札、バウの十を、釈迦・釈迦十と呼んだ。
 百韻「見渡せば」 二ウ5  おもへらくかるたは釈迦の道なりと 桃青
 歌仙「わすれ草」 初ウ3  仇し世をかるたの釈迦の説れしは  信徳

 ・ 何れも、芭蕉出座の巻だが、骨牌を隠してはいない。
※13 あざ:札、バウの一を、あざ・あさと呼んだ。

 ・ 外に、つん・坊主・れい・きり・いす・そうた・おうる・こつふ。


三句目之事

◇ 三句目之事       ↑ トップへ


 付合の三句目は、粉骨有るべき所也。蕉門の作者、多くは、二筋立の縞のごとく、人情二句続けば、はや三句目は、「冬の、夏の、雨の、雪の」と逃げて、一巻力なし。古集の骨折を、師に学ばざるの故也。

 ひさご集に、
   文書くほどのちからさへなき
  羅に日をいとはるゝ御かたち   ※うすものに
   熊野見たきと泣き給ひけり
  たづか弓紀の関守がかたくなに
   酒で兀げたる天窓なるらん   ※あたま
  双六の目をのぞく迄暮れかゝり

 かく人事続き侍れど、かつて打越しの沙汰なし。

 是を、貞徳の[袖日記]に※14逆茂木といふ心は、先に立つ作者の、一己の手柄にせず。「逆茂木を引除け引除け、後より続く兵を、城際に近付くる」が如く、名人の交りたる一巻は、かくの如く、自他分明にしてはこびやすし。

 此六句の解をいはば、先づ「文書く程の力さへなき」と云ふ句は、「自」なり。
 その人の恋する君は、羅にも、日をいとふ程の及びなき上﨟と付けて、「他」也。
 これを、花山の上皇などの御俤と見て、「熊野見たきと泣き給ひけり」と、又「他」也。
 関守は、迎付にして、酒で兀げたるは関守のうへ也。
 双六の句の、一座の大勢に付けちらして、いはゞ、其場にもならん。これ、翁の粉骨なり。三句のはこびは、是等を証句として、工夫すべし。

※14 逆茂木(さかもぎ):侵入を防ぐため、とがった枝を用いた城柵。


俤之事、並びに故事・故歌取之事

◇ 俤の句、並びに故事・故歌の事       ↑ トップへ

   草庵にしばらく居ては打破り
  命うれしき撰集の沙汰

 翁曰く、「悌の句は、かくの如く、前を、西行・能因の境界と見て付くる也。直に、西行・能因と付くるは、手づつならん。ただ、俤にて付くべし。

 又、人を定めていふのみにもあらず。
   発心のはじめに越る鈴鹿山
  内蔵頭かと呼ぶ声は誰

 いか様、誰そが俤ならん。

 又、ある席にて宗祗老人、
 ※15「悲莫悲兮生別離、楽莫楽兮新相知此」の心をとりて、
   旅の心を何にたとへむ
  ならひとて長き別れはなぐさむに  宗祗

 かばかりの、かたき事を、うち和げて、つかはれたり。
 すべて、故事・古歌とり等、それときこえぬやうにかすませて、いたし侍る也。

※15 楚辞 九歌少司命篇 (屈原)
秋蘭兮麋蕪、羅生兮堂下。     │秋蘭と麋蕪、堂下に羅生す。
緑葉兮素枝、芳菲菲兮襲予。    │緑葉と素枝、芳、菲菲として予を襲う。
夫人自有兮美子、蓀何以兮愁苦。  │それ人には自ずから美子あり、蓀、何を以て愁苦す。
秋蘭兮青青、緑葉兮紫茎。     │秋蘭、青青たり、緑葉と紫茎と。
滿堂兮美人、忽独与余兮目成。   │満堂の美人、忽ち、独り余と目成す。
入不言兮出不辞、乗回風兮載雲旗。 │入るに言はず、出るに辞せず、回風に乗りて雲旗を載く。
悲莫悲兮生別離、楽莫楽兮新相知。
悲しきは生、別離より悲しきはなく、楽しきは新相知より楽しきはなし。
荷衣兮蕙帯、儵而来兮忽而逝。   │荷の衣、蕙の帯、儵として来り、忽として逝く。
夕宿兮帝郊、君誰須兮雲之際。   │夕に帝の郊に宿せば、君誰をか雲の際に須す。
与女遊兮九河、衝風至兮水揚波。  │汝と九河に遊べば、衝風至りて水、波を揚ぐ。
与女沐兮咸池、晞女髪兮陽之阿。  │汝と咸池に沐し、汝の髪を陽の阿に晞(かわ)かさん。
望美人兮未来、臨風怳兮浩歌。   │美人を望めども未だ来らず、風に臨んで怳として浩歌す。
孔蓋兮翠旌、登九天兮撫彗星。   │孔蓋と翠旌、九天に登りて彗星を撫づ。
竦長剣兮擁幼艾、蓀独冝兮爲民正。 │長剣を竦して幼艾を擁し、蓀、独り宜しく民の正なるべし。


畳字之事

◇ 畳字之事       ↑ トップへ

   ※16韮の柵木に鳶をながめて
  鳶の居る花の賤屋とよめりけり


 ※17「鳶の居る花の賤屋の朝もよひ木を割斧の音ぞ聞ふる」、この古歌取にして、同物異体の習ひあり、師によりて習ふべし。

※16 蒜の籬に。「野ざらし紀行/大垣/番外資料/鳶の評/芭蕉書簡」を参照。

※17 古歌ではない。「野ざらし紀行/大垣/番外資料/鳶の評/木韻書簡」を参照。


序破急之事

◇ 序破急之事       ↑ トップへ


 去来曰く、「表の句序の序、三の折破、名残の折急也。初折、二の折位、三の折にて乱れて、名残の折にて、さらさらと申すべし」、是れ百韻の法也。
 今時の盲俳、初折にけやけき事をいひ、名残の折にて重た苦しく、位ある事を云出して、判を乞ふに、長短の点を引く。誠に、一盲衆盲を引くとや、笑はん。


付句新古なき事

◇ 付句に新古なき事       ↑ トップへ


 ※18支考曰く、「付句は句に新古なし。付くる場に新古あり」。
 蓼云ふ、「森羅万象、いかで古からん。いかで新しからん」。

 [江戸筏集]に、蓮之(※れんじ、支考の変名)、
   弁当と先へ来て居る按摩取  ※あんまどり、按摩師
  しづこゝろなく花の散るらん


一座案じ方之事

◇ 一座案じ方之事       ↑ トップへ


 ※19其角云ふ、「一巻に、我が句、九句十句ありとも、一、二句能句あらばよし。残らず能句をせんと思ふは、却つて不出来なるものなり。いまだよき句なからんうちは、随分よき句をおもふべし」。

※18 ※19 [去来抄、修業教/付方
去来曰、「付かたは何事もなく、すらすらと聞ゆるをよしとす。巻を読むに思案工夫して、付句を聞むは苦しき事也」。
去来曰、「風は千変万化すといふとも、句体は『新く『清く『軽く『慥なる『正く『厚く『閑なる『和なる『剛たる『解たる『懐かしく『速なる、如此はよし。『鈍く『濁れる『』弱く『重く『薄く『しだるく『渋たる『堅く『騒しく『古き、かくのごとくは悪し。但し『堅きと『鈍なる句には善悪あるべし。
支考曰、「付句は句に新古なし。付る場に新古あり」。
去来曰、「古風の句を用るにも、場によりてよし。されど古風のままにはいかゞ。古体の内に今様有るべし」。
先師曰、「一巻表より名殘迄、一体ならんは、見ぐるしかるべし」。
去来曰、「一巻、面は無事に作るべし。初折の裏より名殘表迄に、物数寄も曲も有べし。半より名殘の裏にかけては、さらさらと骨折らぬ様に作るべし。末に至ては、互に退屈いできれたる物也。猶よき句あらんとすれば、却つて句渋りて出来ぬもの也。されど末々まで吟席いさみありて、好き句出来らんを無理に止るにあらず。好句をおもふべからずといふ事也」。
其角曰、「一巻に我句、九句・十句有とも、一二句好句あらば、残らず能句をせんと思ふべからず。却て不出来なるもの也。いまだ好句なからん内は、随分好句を思ふべし」。


恋之句数之事

◇ 恋の句数の事       ↑ トップへ


 ※20芭蕉翁曰く、「いにしへは、恋の句数定まらず(宗祇・宗長の時か)、勅已後、二句以上五句となる。是、礼式の法也。昔は、恋句一句出づれば、相手の作者は、恋をしかけられたりと挨拶せり。又、五十韻百韻といへども、恋句なければ、一巻といはず、はした物とす」。

※20 [去来抄 故実]
卯七・野明曰、「蕉門に恋を一句にて捨るはいかが」。
去来曰、「予此事を伺ふ」。
先師曰、「古は恋の句数不定らず。勅已後、二句以上五句となる。此礼式の法なり。一句にて捨ざるは、大切の恋句に挨拶なからんはいかがとなり。一説に、恋は陰陽和合の句なれば、一句にて捨つべからずともいへり。皆大切に思ふ故なり。予が一句にても捨よといふも、いよいよ大切に思ふ故なり。汝は知るまじ。昔は恋出れば、相手の作者は、恋をしかけられたりと挨拶せり。又、五十韻・百韻といへども、恋句なければ、一巻とは云はず、はした物とす。かくばかり大切なるゆへ、皆恋句になづみ、わづか二句一所に出れば幸ひとし、かへつて巻中恋句まれなり。又、多くは、恋句より句しぶり吟重く、一巻不出来になれり。このゆへに、恋句出て付よからん時は、二句か五句もすべし。付がたからんときは、しばらく付ずとも、一句にても捨よと云へり。かくいふも何とぞ巻づらをよく、恋句も度々出よかしと思ふゆへなり。勅の上をかく云ふは、恐るゝ所有るに似たれども、それは連歌の事にて、俳諧の上に有らねば、背き奉るにもあらず。しかれども、我古人の罪人たる事をまぬかれず。ただ、後学の作しよからん事を思ひ侍るのみなり」。


仮名遣ひ之事

◇ 仮名遣ひ之事       ↑ トップへ

一 端のいを、下に書く訓。
  はしのいを、下にこそかけ、かろければ
   鯉  鯛  額   貝  甕   灰
   こい たい ひたい かい もたい はい

一 同、下に書く声。
  こゑによむ字の下の字を書く事は
   内々   細々   例  次第
   ないない さいさい れい したい なり

一 「ほ」を「を」と読むかなの事。
  声はねてよむ字のをには、ほをぞ書く
   きんしゅん くん   あん   えん  かん
   槿蕣   薫   庵   塩  竿
   あさかほ かほる いほり しほ さほ

※ 歴史的仮名遣い照合
   槿蕣   薫   庵   塩  竿
   ○    かをる ○   ○  さを

          すへもの  しろたへ かへるかり たへかね
一 端の「へ」のかな  陶物   白妙  帰雁   堪忍
  はしのへは「ひふへ」とかよふかなに書く
   思ヒ  願フ   叶フ  伴ヒ
   おもふ ねかひを かなへ ともなふ

一 同(端の)「ひ」を除き、「る」の入るかなの事。
  ひをのぞき、「ゆふる」とかよふかなも有り
     ふ     へ     へ     ふ
   栄 ゆ  教 ゆ  植 ゆ  弁 ゆ
     る     ふ     う     る
   さかへ  をしふる うふる  わきまへ

※ 歴史的仮名遣い照合
   栄    教    植    弁
   さかえ  おしうる ううる  ○

一 端の「を」を上に書く事。
                緒
  はしのをはちいさく軽きはこのをや
   各    己   小舟  鴦  音
   をのをの をのれ をふね をし をと

※ 歴史的仮名遣い照合
   各    己   小舟  鴦  音
   おのおの おのれ ○   ○  おと

一 奥の「お」の字。
       大   重  御座
  おくのおはおほきくおもくおはします
     尾  多     思  召
   鳥のお  おほく   おほしめされよ

※ 歴史的仮名遣い照合
     尾  多     思  召
     を  ○     ○
   ○

一 「を・お」軽重の事。 男はおとこ  女はをんな
   桶  小桶  男   小男   折  手折
   おけ 小をけ おとこ 小をとこ おる 手をる
   赴    趣    面白
   おもむく をもむき おもしろうして

※ 歴史的仮名遣い照合
   桶  小桶 男   小男 折  手折 赴    趣 面白
   をけ ○  をとこ ○  をる ○  おもむき ○ ○ 

一 「う」の字を「む」に読むかなの事。
  うの仮名にむの字をかけば鼻へ入
   馬  烏羽玉  梅   埋木
   むま むは玉や むめの むもれき

一 下に書く「う」の字の事 入声の「う」は「ふ」也。同「お」は「ほ」なり。
  字の声の「う」の字は口のすぼるなり
   奉公   女房    料紙  焼香
   ほうこう ねうほう  れうし せうかう

※ 歴史的仮名遣い照合
   奉公   女房    料紙  焼香
   ○    にようはう ○   ○

一 「う」の仮名に「ふ」の字を書く事。
  うのかなにふの字をかくは入声字
   祝儀  蝋燭   法   無節竹
   しふぎ らふそく はふや らふ竹

※ 歴史的仮名遣い照合
   祝儀  蝋燭   法   無節竹
   ○   ○    ほふ (羅宇竹ならラウ、rau・rao)

一 中の「え」の仮名。 江也。正字衣也。
  中のえは中にゆとゆく時にかく
   聞ゆる 覚え   肥ゆを 越え
   きこえ おほゆる こえ  こゆるなど

一 奥の「ゑ」下に書く事。
  おくのゑを下に書く字はあまたなし
   声  家  末  杖えトモ 右衛門 左兵衛
   こゑ いゑ すゑ つゑ  ゑもん さひやうゑ

※ 歴史的仮名遣い照合
   声  家  末  杖   右衛門 左兵衛
   ○  いへ ○  ○   ○   ○

一 中の「ゐ」の事。
  中のゐはひゞすくなき仮名ぞかし
   雲井  紅    円居  椎柴
   くもゐ くれなゐ まとゐ しゐしは

※ 歴史的仮名遣い照合
   雲井  紅    円居  椎柴
   ○   ○    ○   しひしは

一 其の字に持ちたる仮名の有事。
  そなはりて五音の外のかなもあり
   位    於をいてトモ 宿直  猪
   くらゐに おゐて   とのゐ ゐのしゝ
         ひは悪し

※ 歴史的仮名遣い照合
   位    於     宿直  猪
   ○    おいて   ○   ○

 右の外に 「きくいしう」にかよふ仮名。
             ヤスキ
             ヤスク
   明、闇、軽、重、安 ヤスイ
             ヤスシ
             ヤスウ

 必ず五つにかよはねども、たとへば「おもひ・かろい」などゝ書く度に、此のかなは「い・ひ・ゐ」か、などゝ思ふ時、此の「きくいしう」にて、知るなり。

※ 形容詞の活用
  古語  活用形   未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
      ク活用語尾 く   く   し   き   けれ  -

  現代語 活用形   未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形
      活用語尾  かろ  かっ  い   い   けれ  かれ
               く
               う
・ 「い・う」は音便か、現代語の活用。


歌仙

(「ひつじ田や」の巻)       ↑ トップへ

 ひつじ田や青くも染めて初しぐれ  蓼太
  山は夕日に紅葉ちる頃      牛家
 此の供奉は牛ほろ酔ぬばかりにて  牛家
  燧袋を置きわすれつゝ      蓼太
 月くらき旅のやどりの一寝覚    蓼太
  瀬のふりかはる秋の川音     牛家
ウ 萩みだれ薄たふれし風の跡     蓼太
  下書とゝのふる目安まちまち   牛家
 消の聟もどらるゝ顔ながら     蓼太
  験者に惚れて猶哀れなり     牛家
 峰は只白雲ふかき片便       蓼太
  茄子四つ五つ夢に其のまゝ    牛家
 富づける下部まじりの集め銭    蓼太
  江戸に随ふ江戸の逗留      牛家
 漸しばし碓踏みて明けがらす    蓼太
  まだきさらぎの霜に入る月    牛家
 花衣脱で増賀のあか裸       蓼太
  乞食の泪かゝる若芝       蓼太

ナ 酒癖の世はさまぐに酌かはし    牛家
  城おだやかに嘱託の札      蓼太
 都からけふ逢ふ恋の輿いれて    牛家
  帯くるくると手伝て解く     蓼太
 青梅の毛虫に逃る割ばさみ     牛家
  厩菌匂ふ麦の夕晴        蓼太
 倦む時は車二輌のたゝみ庵     牛家
  とまりに来ませ背中合はせん   蓼太
 相傘を別れて走る袖笠に      牛家
  宵に豆腐のきれる庚申      蓼太
 挑ても行灯町のうす月夜      牛家
  弦音揃ふ綿弓の秋        牛家
ナウ剃捨てゝ消角力の奉加帳      蓼太
  むか腹たちのついと出て行く   牛家
 蕎麦切の勝手は箸もしどろなり   蓼太
  ぞんぶん迷ふ滝の枝道      蓼太
 花まもる神ましまして吉野山    牛家
  笠うち続く春のあけぼの     執筆

     去年の冬篭、ひとふた夜の云捨てを、
     爰にひろひ侍る。


瓢中四季混雑 (発句集)       ↑ トップへ

 かいしきも時とや鮎の下紅葉    天府
 折れ折れと折らせて花のあるじ哉  蓼太
 帰る夜は人にも告げず春の雁    魚汶
 鴬や俊成卿の小柴垣        乳峰
 汐見れば月の最中ぞ五月雨     百貢
 名月をさすがに不断桜哉      松隣
 冬瓜や染残されて猶老し      慎車
 きのふありあした見えけり杜若   富屋
 あけぼのゝ青き桜や郭公      如風
 出代や壁に九年の一枚絵      鳳宿
 蕣の市に隠れて咲にけり     蘭室
 寝た人の姿短かしきりぎりす    和星

 涅槃会やひと足遅き顔ばかり    白鳳
 かゆ杖や梅こぼさじと打ちはづし  牛家
 ひとつづつ笠のいざよふ躍かな   普成
 花ざかり木の間に松を見付けたり  子安
 田に配る水も蜘手やかきつばた   亀求
 吹いて行く春幽かなり夜の笛    黙我
 菜の花や竹からあまる村雀     逸賀
 潅仏や木々の雫を汐がしら     花口
 身のやせるほど嬉しいか鳴く雲雀  南瓜
 鐘よりも人さめやすき砧かな    画鏡
 杣の飯こぼれて白し苔の花     人左
  ○

 行く春やこらへかねたる行々子   婆心
 しぐるゝや真葛が原を紙合羽    山幸
 荒海の更けてしさるや夜の雪    連丈
 萍や春秋しらぬ心より       蓼太
 白菊の色に出るまで惜みけり    北魚
 しらきくや白きを染むる秋もなし  文母
 蕣や影さへ元の水ならず      翠羽
 はね返す柳に気あり春の雪     友鴎
 うき草のゆり捨られて暑さかな   白翅
 下戸ひとり花の嵐と詠れけり    盤中
 鷹据ゑて草鞋うたする野寺哉    夜兎
 いつの間にふた木となりぬ枯柳   夜梧
 花咲いてけふ立春と思ひけり    吐江
 迷ひ来てまよふ道なし雪の原    長羽
 男から先へ着なるゝ袷かな     鳳足

 蚊柱も半朽ちけり秋の風      蘭径
 うぐひすや地主権現の花の声    楚竜
 客たてゝ扨居直るやくすり喰    千牛
 傘さして肴うるなり春の雨     牛家
 方丈の昼寝を埋むさくらかな    雪凍
 菜の花も辛子に近き名残哉     貢雨
 喰さして女かしまし蕗の薹     蓼人
 活返る人のそよぎや夏の月     鳷喬
 松魚荷の続くや江戸の星月夜    理牛
 日をいとふすがた也けり白重ね   牛家
 名月や暁かけてわたし守      仙瓜
 駒牽の都へかゝる月夜哉      松把
 稲妻に細殿はしる女かな      三思
 散花や打ち散らしたる盤のうへ   斑象
 枝折れば蜉蝣のこぼるゝ木槿哉   周竹

  ○
 白菊や節句の果ても九十九髪    杉風
 菜の花の黄ばみ落ちてや帰る雁   青雨
 夕貌や揚鞠翦れて花に風      文来
 反りの合ふ草何々ぞ百合の花    梅郎
 村雨つ月見つ千々の寝覚哉     蓼太
 蕣に熊野が垣根は荒れにけり    蓼房
 しみじみと定家かづらに時雨かな  倉鼠
 目出たさのゆきゝ幾人墓参     雪麿
 木の葉から別れて出たるひたき哉  季令
 はしり過ぎ帰り過ぎては乙鳥かな  流光
 引かへて散るをさかりの花火かな  牛家
 ゆふがほの花のせて見る扇かな   時中
 我や鷺鷺や我れかと夕すゞみ    竟平
 柴人やさゝやく笹の下すゞみ    子得
 落鮎や一瀬一瀬に老の坂      米夫
 てふてふを只ひと口の牡丹哉    李院
 家土産の馬勃背負うて童かな    英波
 水門は形ばかりなり行々子     車童
 炭うりの倦くまで白き翁かな    魚遊
 草麦や頓てとろゝにほとゝぎす   梅素
 鉄砲に押し分け行くや薄はら    五明
 むめが香や門に彳む琵琶法師    蘭甫

 千早振る夜の錦や神禾舞      牛家
 一面に手拭白き十夜かな      石意
 炉に組し炭も連理の契りかな    関牛
 初ものゝ百味揃ふや呉祭      鷺川
 雫して青田を出づる蛍かな     竹条
 春雨や鶏の啼尾の下雫       豊扇
 まぎらはしいづれ彼岸の鐘の声   曲川
 此の君とけふこそ思へ青すだれ   漣風
 十六夜の間や葛城の神遊び     彭寿
 月涼し海に夕日は在りながら    稲里
 笋や蛇に追はるゝ児ひとり     如水
 濡色になやめる花の雨夜哉     牛家
 鐘きかぬ舟に至るや雁の声     五三
 音のよき波乗る舟の新酒かな    故友
 旅の日の外に三日四日桜かな    連牛
 鵲の橋懸くる間の月夜かな     立冬
 分別を碁にせばめけり冬篭     商成
 朝霧に垣間見てけり女郎花    すみ
 おのづから鶴遊ぶ也園の菊    荎路
 流れては水となりまた柳かな   見無
 冬の日やけふは何して日の暮し   梅堂
 ひとつづつ名月もてり千松島    牛家
 炭竃やけふも残りて峰の松     吐月

  ○
 菜の花や裏表なき小家かな     錦衣
 後の月望にくらべぬ誠かな     深松
 姥ひとり宿に捨てけり夏の月    五麗
 昼の月見付けて寒き鵆かな     鬼秀
 薪ほど折りて呉れけり桃の花    鬼守
 鴫たつやまだほのくらき門田より  風馬
 恋風に吹かれ歩行や更衣      鯉毛
 藻の花について廻はるや捨小舟   玉斧
 鴬や何に啼いても鄙ならず     鳴皐
 梅香や詩人の牛の尾のそよぎ    大斗
 臼唄や里は月待つ宵のほど     車時雨
 引て居る我が玉の緒よ鳴子縄    祇卜
 我袖もちぎれて飛ぶか秋の雲    意長
 ほとゝぎす啼くや春にも振向ず   斑石
 陣笠に葛水受けん土用干      鼠大
 こほらじと中に焚く火か夜の雪   吏中

 年よらぬ月ひとりあり枯尾花    尚美
 顔見世や誰れに遠寺の鐘の声    蓼太
 盗人の来べき宵なり子規      求光
 山吹や花散りかゝるさらし布    牛家
 海苔の香や魚と水との心より    斗水
 うぐひすの宵寝はいやし月と梅   汀雨
 鴬や宿は柳の青すだれ       百鏡
 山門や般若過ぎたる夕すゞみ    羅光
 行く春に京は扇のきぬた哉     宜麦
 盗むかとしきりに梅の匂ひかな   子興
 うかれ女に傾き易き月見かな    凉花
 花ながら物喰ふ萩の折枝かな    風道
 あらかねの土に照りこむもみぢ哉  頓吾
 しら菊にかならず隣る黄菊哉    麻仏
 いつの間に松をこえてや朧月    南羅
 草の闇木の闇分けて照射かな    山幸
 秋風や一筋きれる機の糸      虚舟

  玉笥山中
 雲早し行く六月と来る秋と     月巣
  他郷
 牡丹散りてうちかさなりぬ二三片洛陽蕪村
 暁の雷晴れて今朝の秋       儿董
 我庵の天窓数にも瓢かな      蝶夢
 にぎやかに雨もてはやす田植哉  諸九
 思ひあまり猫はなちやる雨夜哉 浪花旧国
 風も実女なりけり奈良がちさ    米汁
 うごかねばとんとうごかぬ柳かな  石漱
 遅桜梨にまじりて咲きにけり  播州布舟
 畑うちや初雷を聞いてから   伊勢入楚
 炭取りに篭も買ひたしなづな売   帰白
 傘ふせる雪吹や春も後しさり    素因
 むめが香におどろく梅の散日哉   樗良
 梅が香や縁に物干す比丘尼寺  伊賀桐雨
 はつものに市人騒ぐ時雨かな  尾張也有
 寒食や始めて見たる火とり虫    蝶羅
 打連れて汐木を拾ふ春日哉     暁台
 鎌ほどに月も出でたり麦の秋  伊予祇州
 きさらぎや川も桂も花曇    筑前杏扉
 物おもふ身はくだけるや秋の風   蝶酔
 山吹や莟の時を実のこゝろ    豊前此椎
 下闇や足の下行く水の音     豊後蘭里
 入相を聞いて居りけり花の下   周防介羅
 実ともなく葉ともなくつく土筆哉 築後官蘭
  雪中庵にて
 花咲きて雪の中なる庵哉     長崎李童
 昼通ふ道こそなけれ鹿の声    紀州湖堂
 川音の白きを後の月見かな   八丈島風宜
 虫の音に心も置かず降る夜哉   加賀千代尼

 ひとつ家の猫も啼きゐる春辺かな  半化
 小春までこらへかねてや遅桜   会津巨石
 接穂した石の鳥居や苔の花    仙台橙司
 袖の香の下戸とは見えぬ花柚哉   緑水
 柴刈の背に蝉ひとつ時雨けり    古道
 花に日を添へてかぞへむ百日紅  遠江稲牛
 ひとくだりまだ捨てられぬ暦かな 南部提国
 後先をふまへて望の涅槃かな   出羽投茶
 唐韻を仮名に崩して牡丹哉    常陸柳苔
 行く秋や藜も杖になりてから    青牛
 夕立や鳥から晴るゝ人の声     麻石
 入相のとゞかぬ空に雲雀かな    松林
 ゆふ顔や窓洩る月も花の数     万鈴
 所々笠に晴れたる田植かな    上総吏仙
 とても散る花には風も面白し    谷戸
 十六夜や出直して来る峰の松    可穂
 杯に百匹うかむ花柚かな     下総岷江
 葉桜に誠の雲は残りけり      巴蓼
 初雁や音信山の片だより      巴水
 田子の浦に打出でゝ見れば照射哉  鷺泊
 うごかさで水流れけり冬の月   武蔵帰景
 捨舟に躍る魚あり春の水      葛叟
 行く春やまだ此頃の年わすれ    西羊
 橋ありやなしや朧に鳴く蛙    相模石髪
 資朝の心をひと木柳かな     遠江蓼主
 口上の笹原はしる綜かな     駿河耳得
 隈なくて月さへ見えぬ今宵哉    奇峰
 陽炎の中にこそあれけふの月    洛梅
 芥子の花けふを五日にして散るか  兀子
 星合や地にあらば又大井川     阿人
 かはづ子の蛙に近し仏生会     金鳧


(跋文)

此一小冊子は、深山木のおとなひたき人々の、手にふるべくもあらねば、世にはゞかりの関はあれども、寽山の処蛩子さかしかれと、むばらの辣りたる其種をも、おしへがましう、かいつけ侍りぬ。

雪中庵蓼太  

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凡例

区分

説明

底本「俳諧付合小鏡」、 [編著者:大島蓼太編/牛家著]、 [出版:江戸本町、書林、西村源六]、[版行:安永4(1775)年序]、<早稲田大学図書館蔵>
表記等

1 なるべく原本に添って書き写したが、読み違えは多々あることと思われる。また、自分が読みやすくするため、以下の変更を加えた。

 ・ 適宜行換えをし、行頭は一字下げた。

 ・ 適宜句読点や括弧を加えた。

 ・ 漢字等、新字体があるものは、新字体に代えた。<發→発>

 ・ 一部、漢字を仮名にした。<句以外の「也」→なり>

 ・ 適宜仮名送りを変更した。<初の句→初めの句(本来始めの句)>

 ・ 適宜漢字を変更した。<居る→据える>



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