俳諧の作法 「二十五箇条」資料

資料 索引
古今集誹諧歌春秋獲麟解 韓愈
去来抄切字花に桜恋句
七部集発句・脇・第三脇・第三・4句目初裏の月
故実伝蕉翁口授二十五条芭蕉翁徒然草三四考、芭蕉翁口授
伝書元禄式(新々式)雑談集雑談集「哉止め発句の第三」
翁遺書花に桜の伝俳諧四季遣ひわけ口伝
姿情論「俳諧十論」(支考)「俳諧寂栞」(白雄)
仮名遣俳諧付合小鏡、仮名遣ひ之事
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本文校訂「二十五箇条」 : 元禄7年去来伝受。初版本・宋屋本・其角本と照合、校訂。
概説「二十五箇条」と諸伝書 : 山中問答・葛の松原・有也無也関・海印録・引続錦紙などの関連と解説。


資料「1 俳諧の道」

古今和歌集 誹諧歌

・ [歌番号][和歌][作者][分類][詞書][注釈]の順。
・ [作者]の「-」は、読み人知らず。
・ [分類]の「:印」が誹諧歌。ないもの(*1015~*1019)がそれ以外。
・ [詞書]の「-」は、題知らず。


1001~1010 長歌及び旋頭歌を略す。
1011 梅の花 見にこそきつれ 鴬の 人く人くと いとひしもをる - :-
1012 山吹の 花色衣 ぬしや誰 問へどこたへず くちなしにして 素性 :-
1013 いくばくの 田を作ればか 郭公 しての田をさを 朝なあさな呼ぶ 敏行 :-
1014 いつしかと またく心を はぎにあげて あまの川らを 今日やわたらむ 兼輔 :七月六日たなばたの心をよみける
*1015 むつごとも まだつきなくに 明ぬめり いづらは秋の 長してふ夜は 躬恒 -
*1016 秋の野に なまめきたてる をみなへし あなかしかまし 花も一とき 遍昭 -
*1017 秋くれば 野辺にたはるる 女郎花 いづれの人か つまで見るへき - -
*1018 秋霧の はれて曇れば をみなへし 花の姿ぞ 見えかくれする - -
*1019 花と見て 折らむとすれは をみなへし うたたあるさまの 名にこそ有りけれ - -
1020 秋風に ほころびぬらし 藤袴 つづりさせてふ きりぎりすなく 棟梁 :寛平御時きさいの宮の歌合のうた
1021 冬ながら 春の隣のちかければ 中垣よりぞ 花はちりける 深養父 :あす春立たむとしける日、隣の家のかたより風の雪をふきこしけるを見て、その隣へ詠みてつかはしける
1022 石上 ふりにし恋の 神さびて たたるに我は いぞねかねつる - :- ※石上
1023 枕より 跡より恋の せめくれば せむ方なみぞ 床なかにをる - :-
1024 恋しきか 方もかたこそ 有りときけ 立てれ居れとも なき心ちかな - :-
1025 ありぬやと 心見がてら あひ見ねば たはぶれにくき まてぞ恋しき - :-
1026 みみなしの 山のくちなし 得てしかな 思ひの色の したそめにせむ - :- ※耳成。山梔子
1027 あし引の 山田のそほづ おのれさへ 我を欲してふ 憂れはしきこと - :- ※案山子
1028 ふじのねの ならぬ思ひに もえはもえ 神だにけたぬ むなしけぶりを 紀乳母 :- ※不二・富士
1029 あひ見まく 星はかずなく 有りながら 人に月なみ まどひこそすれ 有朋 :- ※迷い・惑い
1030 人にあはむ 月のなきには 思ひおきて むねはしり火に 心焼けをり 小町 :-
1031 春霞 たなびく野辺の わかなにも なり見てしがな 人も摘むやと 興風 :寛平御時きさいの宮の歌合のうた
1032 思へども 猶うとまれぬ 春霞 かからぬ山も あらしと思へば - :-
1033 春の野の しげき草はの つま恋に とびたつ雉子の ほろろとぞ鳴く 貞文 :-
1034 秋の野に つまなき鹿の 年をへて なぞわが恋の かひよとぞなく 淑人 :-
1035 蝉の羽の ひとへにうすき 夏衣 なれはよりなむ 物にやはあらぬ 躬恒 :-
1036 かくれぬの 下よりおふる ねぬなはの ねぬなはたてじ くるないとひそ 忠峯 :- ※根蓴菜
1037 ことならば 思はずとやは いひはてぬ なぞ世中の たまだすきなる - :-
1038 思ふてふ 人の心の くまごとに たちかくれつつ 見るよしもがな - :-
1039 思へとも おもはずとのみ いふなれば いなやおもはじ 思ふかひなし - :-
1040 我をのみ 思ふといはば あるべきを いでや心は おほぬさにして - :-
1041 われを思ふ 人をおもはぬ むくいにや わが思ふ人の 我をおもはぬ - :-
1042 思ひけむ 人をそともに おもはまじ まさしやむくい なかりけりやは 深養父- :-
1043 いでてゆかむ 人をとどめむ よしなきに となりの方に はなもひぬかな - :-
1044 紅に そめし心も たのまれず 人をあくには うつるてふなり - :-
1045 いとはるる わが身は春の こまなれや のかひがてらに はなちすてつる - :-
1046 鴬の こぞのやどりの ふるすとや 我には人の つれなかるらむ - :-
1047 さかしらに 夏は人まね ささのはの さやぐ霜夜を わがひとりぬる - :-
1048 逢ふことの 今ははつかに なりぬれば 夜ふかからでは 月なかりけり 中興 :-
1049 もろこしの よしのの山に こもるとも おくれむと思ふ 我ならなくに 時平 :- ※諸越しの・唐土の。吉野・芳野
1050 雲はれぬ あさまの山の あさましや 人の心を 見てこそやまめ 中興 :-
1051 なにはなる ながらの橋も つくるなり 今はわが身を なににたとへむ 伊勢 :- ※浪花・難波。長柄の橋
1052 まめなれと なにそはよけく かるかやの 乱れてあれど あしけくもなし - :-
1053 なにかその 名の立つことの をしからむ しりてまどふは 我ひとりかは 興風 :-
1054 よそながら わが身にいとの よるといへば ただいつはりに すくばかりなり 久曽 :いとこなりける男によそへて人のいひけれは
1055 ねきことを さのみ聞きけむ やしろこそ はてはなげきの 杜となるらめ 讃岐 :-
1056 なげきこる 山としたかく なりぬれば つらつゑのみぞ まつつかれける 大輔 :- ※歎き・投げ木(薪)
1057 なげきをば こりのみつみて あしひきの 山のかひなく なりぬべらなり - :-
1058 人恋ふる 事をおもにと になひもて あふこなきこそ わびしかりけれ - :-
1059 よひのまに いでていりぬる みか月の われて物思ふ ころにもあるかな - :-
1060 そゑにとて とすればかかり かくすれば あないひしらず あふさきるさに - :-
1061 世中の うきたびごとに 身をなけば ふかき谷こそ あさくなりなめ - :-
1062 よのなかは いかにくるしと 思ふらむ ここらの人に うらみらるれば 元方 :-
1063 なにをして 身のいたづらに 老いぬらむ 年のおもはむ 事ぞやさしき - :-
1064 身はすてつ 心をたにも はふらさし つひにはいかが なるとしるべく 興風 :-
1065 白雪の 友にわが身は ふりぬれど 心はきえぬ 物にぞありける 千里 :-
1066 梅の花 さきてののちの 身なればや すき物とのみ 人のいふらむ - :-
1067 わびしらに ましらななきそ あしひきの 山のかひある けふにやはあらぬ 躬恒 :法皇にし河におはしましたりける日、さる山のかひにさけぶといふことを題にてよませ給うける
1068 世をいとひ このもとごとに たちよりて うつぶしそめの あさのきぬなり - :-

・ 「古今和歌集の誹諧」とは、「たゞ思ひよらぬ風情をよめるを、はいかいと言ふなり。されど、歌のあらき事をもまじへたるなり」。 → 「誹諧埋木、飛鳥井雅章古今和歌集の説」参照。

・ 「誹諧」は、ヒカイかハイカイか、は、宗祇の註に「宗祗言はく、誹は甫尾の切、諧胡皆切。和なり合なり」と反切で示し、明解である。確認すると、甫は fǔ 、尾は wěi または yǐ であるから、誹は fěi または fǐ となる。ハイ・ヒいずれも可で、読み間違いではない。 → 「誹諧埋木、宗祇の註」参照。

・ 「誹」の訓は「そしる」である。
 そし・る 【謗る・譏る・誹る】(動ラ五[四])
 ① 人を悪くいう。非難する。 「陰で-・る」 「けすさまじ,など-・る/枕草子 49」
 ② 不平を言う。文句を言う。 〔日葡〕 「まんきなるものの心はいかりと-・る事おほし/こんてむつすむん地」

・ 以上を念頭に、53首をみると、古今和歌集における「誹諧(ヒカイ・ハイカイ)」の意味が、見えてくる。
・ 53首それぞれの中心的感情語は、「いとふ,~なし,いくばくの,またく,ほころぶ,ちる,寝かぬ,せむ方なし,なし,にくし,~なし,うれはし,むなし,まどふ,心焼ける,つむ(摘・抓),うとむ,なく(鳴・泣),妻なし,あらず,いとふ,言いはてず,くまごとに,かひなし,いでや,むくい,むくい,はなもひぬ,たのまれず,いとはる,つれなし,ひとり,月なし,こもる,あさまし,わが身,乱る,まどふ,いつはり,ねし,なげく,なげく,わびし,わる,あふさきるさ,うし(憂),くるし,老いる,すつ,ふる(降・経),すき物,わびしら,いとふ」である。
 これらは、「そしり」ではなく、「なげき」である。
 では、古今和歌集の誹諧歌は「そしる」ではないかと言うと、そうではない。
 「そしる」の類語はは、「けなす」「くさす」「扱き下ろす」だが、すべて他動詞。これが、自分に向けられた場合はどうか。
 自らを、けなし、くさし、こき下ろすとき、湧く感情は、「なげき」である。漢語で言えば、悲嘆・慨嘆・嘆息・哀願である。
 自らを「そしる」、すなわち「かこつ」とき、「なげき」が生ずる。
 従って、「古今和歌集誹諧歌」の「誹」は、「なげき」と解するのがよい。

・ では、「諧」は「おかしみ」でよい。人生の悲哀や不条理を、第三者の視点から眺め、寛大な態度で受け入れるとき、おかしみが生ずるものである。

獲麟解

※3 「獲麟解 韓愈」
 麟之為霊、昭昭也。                     │麟:仁獣麒麟の雄。麒は雌。
 詠於詩、書於春秋、雑二-出於伝記百家之書    │
 雖婦人小子、皆、知其為一ㇾ祥也。           │
 然、麟之為物、不於家、不恒有於天下    │
 其為形也不類、非馬牛・犬豕・豺狼・麋鹿  │けんし・さいろう・びろく
 然則、雖麟、不其為一ㇾ麟也。        │
 角者吾知其為一ㇾ牛也、鬣者吾知其為一ㇾ馬。       │つの。たてがみ
 犬豕・豺狼・麋鹿、吾知其為犬豕・豺狼・麋鹿    
 為麟也、不知。                   │
 不知則其謂之不祥也、亦宜。             │
 雖然、麟之出、必有聖人在乎位、麟為聖人出也。  │麟、聖人の為に出づる也。
 聖人者、必知麟。麟之果不不祥也。         │麟=其角
 又曰、麟之所二-以為麟者、以德、不形。      │聖人=去来
 若麟之出、不聖人、則謂之不祥也、亦宜。     │


許六の解(「風俗文選」許六編)
 「獲麟ノ解」ノ解   許六
 魯の哀公十四年、西の狩に麟を得たり。孔子大きになげき給ひて、春秋をとどむ。夫れ麟はいづれの時出でて、孔子は見覚え給ふぞいといぶかし。鼠は愚にして火難の家をさけて命を保つ。麟は四霊の随一にして、狩あることをしらず、うろたへ出でたるも又いぶかし。孔子みづから聖に高ぶり、もしや牛馬の生まれそこなへるにてやありけん。これも又いぶかし。麟うせ、道行はれざる物ならば、 道は鱗にのみありて聖人の上にはなきことにや。猶又いぶかし。麟ほろぶれば、聖人も共にうせ給ふ例にてもあるや。たとひ聖人うせ給ふ例ありとも、道はまさしく存せり。是れとても歎くにたらず。
儒道たふとしとおもふものは、麒麟を第一にたふとび、次に聖人をあがむべきか。箸折るれば親に離れ、櫛の歯欠くれば子に別るる占ひとて、童蒙のものは深く悲しめり。箸をるる毎に親にも離れず、櫛木履欠くるたびに、子を失ふにてもなし。されば仁義の占ひもあはぬためしもありぬべし。麟をすかぬ聖人もありや、又聖人を好まぬ麟鳳もありや。むかし三皇九帝より以来このかた、孔子の外出でたる聖なし。和国も御代より打ちつづき、常時百年枝をならさぬ聖朝なるに、麟鳳出でたる取沙汰もなし。犬は戸口を守り、鶏は時を報す。麟出でて人もおどさず、鳳啼きて旅客の夢を破る能なし。
出ぬ方の聖人、いよいよ目出たかりぬべし。見ぬ唐土の鳥もねじと、徹書記があやまりたるは、もし出ぬ方をよみたるにや。世間聖人をしらずして、麟鳳にのみ目をつけて、末の凡夫の不目利は、かの一言のあやまりにて、聖人なしとおもふなるべし。今此の麟を解して見るに、とまり兼ねたる春秋の、よき場所に出で合はせ、挙句の趣向と見こなしたらば、何の麒麟に理屈のあらんや。
・ 口伝集「引続錦紙」に、「春秋心法獲麟の秘訣/此義は古文の内獲麟の解なり。去来を聖人にたとへたり。去来は、至てかしこき人にて、中々人のなつくところなし。翁の思はるるは、去来聖人の如し。一生門弟も付かず、我一代切なり。依て、蕉門広むる事叶はず。一代切りと見届けられて、其角には一向宗を授ると云ふ義なり。則、去来を聖人にたとへ、其角を麒麟にたとへるなり」とある。
 これは、「獲麟解」の「麟の出ずるは、必ず聖人位に在る有り。麟、聖人の為に出づるなり。聖人は、必ず麟を知る」を踏まえての喩えである。去来のために、其角が伝授するよう勧めたという経緯によく合う喩えである。
・ 許六は、解の解で、「挙句の趣向」と、無理に俳諧の秘訣と結び付けている。「二十五箇条」の口授は伝わっていないことが分かる。しかし、許六は、伝授に拘泥する。
 -「秘蘊集」 伝授せぬ人、推量にやりたる時、急度とがめ置くものなり。必ず必ず、容易にいたすこと有るべからず。切字自由に入らるる句を、入れずして、切れ字なしといふこと無念なり。何としても、切字入れては、発句あしくなる句有るべし。此所にて習の位にて、切字なくても苦しからず。是、口伝。
 -「宇陀法師」 切字なしの発句の習ひ、近年伝授請ぬ人、才覚分別にて、みだりにいひちらせる、散々の事なり。能、伝授仕たる人に、急度、習ふてすべし。
 -「風俗文選」 東花坊は賢き者なり。先師身まかりて後、みづから上手といはせ、師説にうとき事もあるにや、虚実新古の取り違へも有るべし。誹諧を弘むるには利ありて、はいかいの道を残すためには、大きに害あり。他の誹諧の事はおいて論ぜず。
・ 許六が伝受したのは、2巻である。晩年の「歴代滑稽伝」に、「俳諧大秘訣」というは、愚老一人に伝へ給ふ二巻の書よりなし」と言う。
 一巻は「白砂人集」、古式貞徳の伝で、これは伝譲である。もう一巻は「新々式」で、去来が伝受した「元禄式」とおなじものである。「二巻」とあるので、「二十五箇条」は伝受していないことになる。
 しかし、「俳諧雅楽抄」には、「翁曰」として「二十五箇条」のいくつかが出る。しかも、許六向けに書かれた内容である。これは、「伝授」ではなく「口授、口訣」だということか。

資料 「去来抄」 6切字、11花に桜、18恋句

去来抄、故実、切字

 卯七曰、「ほ句に切字を入るる事は如何」。
 去来曰、「故あり。先師曰、『汝切字を知ル哉』。去来曰、『いまだ伝授なし、自分に覚悟し侍る』。先師曰、『いかに』。去来曰、『たとへば、発句は一本木のごとしといへども、梢・根あり。付句は枝のごとし。大いなりといへども全からず。梢・根有る句は、切字の有無によらず、発句の体也なり』。先師曰、『然り。しかれども、それは面影を知りたるなり。是を伝授すべし。切字のことは連・俳ともに深く秘す。みだりに人に語るべからず』。
 総じて先師に承る事多しといへども、秘すべしと有しは是のみなれば、其事は暫く遠慮し侍る。
 『第一は切字を入る句は、句を切るため也。きれたる句は字を以て切るに 及ばず。いまだ句の切れる切れざるを知らざる作者のため、先達、切字の数を定られたり。此字を入るときは、十に七八は句切る也。残り二三は入れて切れざる句あり。又入れずして切れる句あり。此故に或はこのやは口合ひのや、このしは過去のしにて切れず。或は是は三段切、是は何切れ』などと、名目して伝授事なり。
 又、丈草に向て先師曰、『歌は三十一字にて切れ、発句は十七字にて切る』。丈草撰入(拶入)有り。
 又、ある人曰、『先師曰、[きれ字に用る時は、四十八字皆切れ字也。用いざる時は、一字もきれ字なし]と也』。
 是等は、皆々ここを知れと、障子ひとへを教へ給ふなり」。
 去来曰、「此事を記す、同門にもみだりなりと思ふ人あらん。愚意は格別也。この事、あながち、先師の秘し給ふべき事にもあらず。ただ先師の伝授の時、かく有りし故なるべし。予も秘せよと有けるは書せず。ただ、このあたりを記して、人も推せよと思ひ侍るなり」。

・ 太字は、芭蕉の言葉。ここに、「二十五箇条」の言葉は見られない。
・ 「第一は~」の内容は、季吟の伝書「埋木」で確認できる。「先達」は、宗祇か。宗祇は、「かな、けり、もがな、し、ぞ、か、よ、せ、や、れ、つ、ぬ、へ、ず、いかに、じ、け、らん」の18字を挙げる。季吟は、37字を挙げ、「猶、あげていふべからず」とする。
・ 「歌は~」は、切字の論ではない。「切れ」は命令形。「切る」は、切字を入れる。
・ 「きれ字は~」は、季吟の伝を、芭蕉自身の言葉で、簡潔に述べたもの。

去来抄、故実、脇

 卯七曰、「蕉門に手に葉留の脇・字留の第三、用る事はいかに。
 去来曰、「ほ句、脇は歌の上・下也。是をつらぬるを連歌と云といふ。一句一句に切るは長く連ねんが為也なり。歌の下句に字留と云事なし。文字留と定るは連歌の法也なり。是等は連歌の法によらず。歌の下の句の心も、昔の俳諧の格なるべし。
 昔の句に、
   守山のいちごさかしく成にけり
    姥らもさぞな嬉しかるらん
   まりこ川蹴ればぞ浪は上りける
    かゝりあしくや人の見るらん

 是等、手に葉の脇の証句也。第三も同じ。

去来抄、故実、花を桜に

 卯七曰、「猿みのに、花を桜にかへらるゝはいかに」。
 去来曰、「此時予花を桜にかへんといふ。先師曰、『故はいかに』。去来曰、『凡花は桜にあらずといへる、一通りはする事にて花聟・茶の出はな等も、はなやかなるによる。はなやかなりと 云ふも拠有り。必竟花はさく節をのがるまじと思ひ侍る也』。先師曰、『さればよ、古へは四本の内一本は桜也。汝がいふ所もゆへなきにあらず。兎もかくも作すべし。されど尋常の桜に替たるは詮なし。糸桜一ぱひと句主我まゝ也』と笑ひ給ひけり」。

去来抄、故実、恋句

 卯七・野明曰、「蕉門に恋を一句にて捨るはいかが」。
 去来曰、「予此事を伺ふ」。
 先師曰、「古は恋の句数不定らず。勅已後、二句以上五句となる。此礼式の法なり。一句にて捨ざるは、大切の恋句に挨拶なからんはいかがとなり。一説に、恋は陰陽和合の句なれば、一句にて捨つべからずともいへり。皆大切に思ふ故なり。予が一句にても捨よといふも、いよいよ大切に思ふ故なり。汝は知るまじ。昔は恋出れば、相手の作者は、恋をしかけられたりと挨拶せり。又、五十韻・百韻といへども、恋句なければ、一巻とは云はず、はした物とす。かくばかり大切なるゆへ、皆恋句になづみ、わづか二句一所に出れば幸ひとし、かへつて巻中恋句まれなり。又、多くは、恋句より句しぶり吟重く、一巻不出来になれり。このゆへに、恋句出て付よからん時は、二句か五句もすべし。付がたからんときは、しばらく付ずとも、一句にても捨よと云へり。かくいふも何とぞ巻づらをよく、恋句も度々出よかしと思ふゆへなり。勅の上をかく云ふは、恐るゝ所有るに似たれども、それは連歌の事にて、俳諧の上に有らねば、背き奉るにもあらず。しかれども、我古人の罪人たる事をまぬかれず。ただ、後学の作しよからん事を思ひ侍るのみなり」。

・ 


資料 「芭蕉七部集」 7脇、8第三、9四句目

芭蕉七部集、発句/脇/第三

1 こがらしの身は竹斎に似たる/たそやとばしるかさの山茶花/有明の主水に酒屋つくらせ
2 はつ雪のことしも袴きてかへる/霜にまだ見る蕣の食/野菊までたづぬる蝶の羽おれ
3 つゝみかねて月とり落す霽かな/こほりふみ行水のいなずま/歯朶の葉を初狩人の矢に負
4 炭賣のをのがつまこそ黒から/ひとの粧ひを鏡磨寒/花棘馬骨の霜に咲かへり
5 霜月や鸛の彳々ならびゐ/冬の朝日のあはれなりけり/樫檜山家の体を木の葉
6 いかに見よと難面うしをうつ霰/樽火にあぶるかれはらの松/とくさ苅下着に髪をちやせんし
7 春めくや人さまざまの伊勢まいり/櫻ちる中馬ながく/山かすむ月一時に舘立
8 なら坂や畑うつ山の八重ざくら/おもしろふかすむかたがたの鐘/春の旅節供なるらん袴着
9 蛙のみきゝてゆゝしき寝覚かな/額にあたるはる雨のもり/蕨烹る岩木の臭き宿かり
10 山吹のあぶなき岨のくづれ/蝶水のみにおるゝ岩ばし/きさらぎや餅洒すべき雪あり
11 麥をわすれ華におぼれぬ鴈ならし/手をさしかざす峰のかげろふ/橇の路もしどろに春の来
12 遠浅や浪にしめさす蜊とり/はるの舟間に酒のなき里/のどけしや早き泊に荷を解
13 美しき鰌うきけり春の水/柳のうらのかまきりの卵/夕霞染物とりてかへるらん
14 ほとゝぎす待ぬ心の折もあり/雨のわか葉にたてる戸の口/引捨し車は琵琶のかたぎにて
15 月に柄をさしたらばよき團/蚊のおるばかり夏の夜の疵/とつくりを誰が置かへてころぶらん
16 雁がねもしづかに聞ばからびず/酒しゐならふこの比の月/藤ばかま誰窮屈にめでつらん
17 落着に荷兮の文や天津厂/三夜さの月見雲なかりけり/菊萩の庭に疊を引づり
18 我もらじ新酒は人の醒やすき/秋うそ寒しいつも湯嫌/月の宿書を引ちらす中にね
19 初雪やことしのびたる桐の木/日のみじかきと冬の朝起/山川や鵜の喰ものをさがすらん
20 一里の炭賣はいつ冬籠り/かけひの先の瓶氷る朝/さきくさや正木を引に誘ふらん
21 木のもとに汁も膾も櫻かな/西日のどかによき天気なり/旅人の虱かき行春暮
22 いろいろの名もむつかしや春の草/うたれて蝶の夢はさめぬる/蝙蝠ののどかにつらをさし出
23 鐵砲の遠音に曇る卯月/砂の小麥の痩てはらはら/西風にますほの小貝拾はせ
24 亀の甲烹らゝ時は鳴もせ/唯牛糞に風のふく音/百姓の木綿仕まへば冬のき
25 畦道や苗代時の角大師/明れば霞む野鼠の顔/觜ぶとのわやくに鳴し春のにて
26 鳶の羽も刷ぬはつしぐれ/一ふき風の木の葉しづまる/股引の朝からぬるゝ川こえ
27 市中は物のにほひや夏の月/あつしあつしと門々の聲/二番草取りも果さず穂に出
28 灰汁桶の雫やみけりきりぎりす/あぶらかすりて宵寝する秋/新疊敷ならしたる月かげ
29 梅若菜まりこの宿のとろゝ汁/かさあたしき春の曙/雲雀なく小田に土持比なれや
30 むめがゝにのつと日の出る山路かな/處々に雉子の啼たつ/家普請を春のてすきにとり付
31 兼好も莚織けり花ざかり/あざみや苣に雀鮨もる/片道は春の小坂のかたまり
32 空豆の花さきにけり麥の縁/昼の水鶏のはしる溝川/上張を通さぬほどの雨降
33 子は裸父はてゝれで早苗舟/岸のいばらの眞ツ白に/雨あがり珠数懸鳩の鳴出し
34 秋の空尾上の杉に離れたり/おくれて一羽海わたる鷹/朝霧に日傭揃る貝吹
35 道くだり拾ひあつめて案山子かな/どんどと水の落る秋風/入月に夜はほんのりと打明
36 振賣の鴈あはれ也ゑびす講/降てはやすみ時雨する軒/番匠が椴小節を引かね
37 雪の松おれ口みれば尚寒し/日の出るまへの赤き冬空/下肴を一舟濱に打明
38 八九間空で雨降る柳かな/春のからすの畠ほる聲/初荷とる馬子もこのみの羽織き
39 雀の字や揃ふて渡る鳥の聲/てり葉の岸のおもしろき月/立家を買てはいれば秋暮
40 いきみ立鷹引すゆる嵐かな/冬のまさきの霜ながら/大根のそだゝぬ土にふしくれ
41 猿蓑にもれたる霜の松露/日は寒けれど静なる岡/水かゝる池の中より道あり
42 夏の夜や崩て明し冷し物/露ははらりと蓮の縁先/鶯はいつぞの程に音を入


  発句・脇の緑字は、「てには」止め。青字は、「捨てには」(用言)止め 。
  第三の太字は、「て・にて」止め。赤字は、「て・にて」以外の助詞・助動詞止め。下線は、体言止め。

<脇の止め字>

 脇42句について、止め字を見ると、次の通り。
 【名詞】 27 「山茶花・食(飯)・稲妻・松・鐘・岩橋・陽炎・里・卵・口・疵・月・朝・音・顔・聲・秋・曙・溝川・鷹・秋風・軒・冬空・聲・月・岡・縁先」
 【動詞】  8 「連れ(連用終止)・漏り・朝起き・静まる・啼たつ・盛る・咲く・飛ぶ」
 【形容詞】 2 「寒(語幹)・湯嫌い」
 【副詞】  1 「はらはら」
 【助動詞】 4 「けり・けり・なり・ぬる」

<第三の止め字>

・ 第三、42句について、止め字を見ると次の通り。
 【接続助詞て】31 推移・連続の意を表す。
 【格助詞に】  1 時・場所を表す。原因・理由を示す。【接続助詞て】が省略されたもの。
 【格助詞にて】 1 古文では、【格助詞に】+【接続助詞て】。所・時・歳・材料・理由・資格を表す。
 【用言】    2 「咲(き)かへり」「降(り)」。【接続助詞て】が省略されたもの。
 【体言】    1 「(春の)空」。【格助詞に】+【接続助詞て】が省略されたもの。
 ※ ここまで、「て止め」としてよい。
 【助動詞らん】 5 推量。
 【間投助詞や】 1 詠嘆の意を表す。或いは、【係助詞や】疑問・反語。また、「なれや」の「なれ」は【断定の助動なり】の已然形。
 ※ 「用言止め」「体言止め」は、「て・にて」が省略されたもので、「に止め」は「て」が省略されている。36句が「て止め」。

<発句・脇がてには止めの第三>
・ 発句・脇がてには止め(捨てにはを含む)のとき、
   5 ならびゐて/あはれなりけり/木の葉降り :第三、て止めを避けるが、平叙文では「降りて」で、「て」を略したのみ。
  18 醒めやすき/いつも湯嫌ひ /中に寝て  :て止め。
  19 桐の木に /冬の朝起き  /探すらん  :らん止め。
  20 桜かな  /よき天気なり /春暮れて  :て止め
  30 山路かな /雉子の啼き立つ/取り付きて :て止め。
  40 嵐かな  /霜ながら飛ぶ /ふしくれて :て止め
  普通に、「て止め」で、「らん止め」もある程度で、特別な扱いはない。

芭蕉七部集、脇/第三/四句目

1 たそやとばしるかさの山茶花/有明の主水に酒屋つくらせて/かしらの露をふるふあか馬
2 霜にまだ見る蕣の食(飯)/野菊までたづぬる蝶の羽おれて/うづらふけれとくるまひきけり
3 こほりふみ行水のいなずま/歯朶の葉を初狩人の矢に負て/北の御門をおしあけの春
4 ひとの粧ひを鏡磨/花棘馬骨の霜に咲かへり/鶴見るまどの月かすかなり
5 冬の朝日のあはれなりけり/樫檜山家の体を木の葉降り/ひきずるうしの塩こぼれつつ
6 樽火にあぶるかれはらの松/とくさ苅下着に髪をちやせんして/檜笠に宮をやつす朝露
7 櫻ちる中馬ながく連れ/山かすむ月一時に舘立て/鎧ながらの火にあたるなり
8 おもしろふかすむかたがたの鐘/春の旅節供なるらん袴着て/口すゝぐべき清水流るる
9 額にあたるはる雨のもり/蕨烹る岩木の臭き宿かりて/まじまじ人をみたる馬の子
10 蝶水のみにおるゝ岩ばし/きさらぎや餅洒すべき雪ありて/行幸のために洗ふ土器
11 手をさしかざす峰のかげろふ/橇の路もしどろに春の来て/ものしづかなるおこし米売り
12 はるの舟間に酒のなき里/のどけしや早き泊に荷を解て/百足の懼る藥たきけり
13 柳のうらのかまきりの卵/夕霞染物とりてかへるらん/けぶたきやうに見ゆる月影
14 雨のわか葉にたてる戸の口/引捨し車は琵琶のかたぎにて/あらさがなくも人のからかひ
15 蚊のおるばかり夏の夜の疵/とつくりを誰が置かへてころぶらん/おもひがけなきかぜふきの空
16 酒しゐならふこの比の月/藤ばかま誰窮屈にめでつらん/理をはなれたる秋の夕ぐれ
17 三夜さの月見雲なかりけり/菊萩の庭に疊を引づりて/飲てわするゝ茶は水になる
18 秋うそ寒しいつも湯嫌ひ/月の宿書を引ちらす中にねて/外面藥の草わけに行く
19 日のみじかきと冬の朝起/山川や鵜の喰ものをさがすらん/賤を遠から見るべかりけり
20 かけひの先の瓶氷る朝/さきくさや正木を引に誘ふらん/肩ぎぬはづれ酒によふ人
21 西日のどかによき天気なり/旅人の虱かき行春暮て/はきも習はぬ太刀のひきはだ
22 うたれて蝶の夢はさめぬる/蝙蝠ののどかにつらをさし出て/駕篭のとをらぬ峠越たり
23 砂の小麥の痩てはらはら/西風にますほの小貝拾はせて/なまぬる一つ餬ひかねたり
24 唯牛糞に風のふく音/百姓の木綿仕まへば冬のきて/小哥そろゆるからうすの縄
25 明れば霞む野鼠の顔/觜ぶとのわやくに鳴し春の/かまゑおかしき門口の文字
26 一ふき風の木の葉しづまる/股引の朝からぬるゝ川こえて/たぬきをゝどす篠張の弓
27 あつしあつしと門々の聲/二番草取りも果さず穂に出て/灰うちたゝくうるめ一枚
28 あぶらかすりて宵寝する秋/新疊敷ならしたる月かげに/ならべて嬉し十のさかづき
29 かさあたしき春の曙/雲雀なく小田に土持比なれや/しとぎ祝ふて下されにけり
30 處々に雉子の啼たつ/家普請を春のてすきにとり付て/上のたよりにあがる米の値
31 あざみや苣に雀鮨もる/片道は春の小坂のかたまりて/外をざまくに圍ふ相撲場
32 昼の水鶏のはしる溝川/上張を通さぬほどの雨降て/そつとのぞけば酒の最中
33 岸のいばらの眞ツ白に/雨あがり珠数懸鳩の鳴出して/与力町よりむかふ西風
34 おくれて一羽海わたる鷹/朝霧に日傭揃る貝吹て/月の隠るゝ四扉の門
35 どんどと水の落る秋風/入月に夜はほんのりと打明て/塀の外まで桐のひろがる
36 降てはやすみ時雨する軒/番匠が椴小節を引かねて/片はげ山に月をみるかな
37 日の出るまへの赤き冬空/下肴を一舟濱に打明て/あいだとぎるゝ大名の供
38 春のからすの畠ほる聲/初荷とる馬子もこのみの羽織きて/内はどさつく晩のふるまひ
39 てり葉の岸のおもしろき月/立家を買てはいれば秋暮て/ふつふつなるをのぞく甘酒
40 冬のまさきの霜ながら飛ぶ/大根のそだゝぬ土にふしくれて/上下ともに朝茶のむ秋
41 日は寒けれど静なる岡/水かゝる池の中より道ありて/篠竹まじる柴をいただく
42 露ははらりと蓮の縁先/鶯はいつぞの程に音を入て/古き革籠に反故おし込む


  脇の緑字は、体言(以下、用言連用止めなどの準体言を含む)止め以外。
  第三の青字は、「て・に・らん・なれや」止め以外。
  四句目の太字は、「なり・けり・たり・つつ」など、助詞・助動詞の止め。赤字は、体言止め以外。

<四句目の止め字>

・ 四句目、42句について、止め字を見ると次の通り。
 【助動詞なり】  1 伝聞・推定。外に断定も。
 【助動詞けり】  4 過去・詠嘆も。
 【助動詞たり】  2 完了・存続。
 【接続助詞つつ】 1 反復・継続・動作並行。
 【終助詞かな】  1 【係助詞か】+【終助詞な】で、感動・詠嘆。
 【動詞】     8 
なる、行く、ひろがる、いただく、おし込む、流るる(連体止)、からかひ(連用止準体法)、ふるまひ(連用止準体法)。
 【形容動詞】   1 かすかなり。
 【名詞】    24 
あか馬、春、朝露、子、土器、米売り、月影、空、夕ぐれ、人、ひきはだ、縄、文字、弓、一枚、さかづき、値、相撲場、最中、西風、門、供、甘酒、秋。
・ 体言止め・用言留めは、「なり」または「けり」を省略した形と見ることができる。
・ 「てには」止めの連続→5。体言止めの連続→25。

芭蕉七部集、初折裏の月

<初折裏の月>
・ 歌仙39巻について、初折裏の月を見ると次の通り。いわゆる定座の7句目ではなく、8句目が最多。
  5句目1、6句目3、7句目1、8句目12、9句目7、10句目9、11句目6。

<初ウ8の月>
・ 初ウ8の月の句は12、季は秋が11,夏が1。内、当季(発句の季)が秋以外の秋月は、その半数6で、次の通り。

1冬の日
  発句   ┌炭賣のをのがつまこそ黒からめ   重五 
       │
  初オ4 月│ 鶴見るまどの月かすかなり    野水 秋
       ├─
  初ウ8 月│ 血刀かくす月の暗きに      荷兮 秋
  初ウ9  │霧下りて本郷の鐘七つきく     杜国 秋
  初ウ10  │ ふゆまつ納豆たゝくなるべし   野水 秋
  初ウ11 花│はなに泣櫻の黴とすてにける    芭蕉 春
2曠野 ※除外
  発句  花┌麥をわすれ華におぼれぬ鴈ならし  素堂 
       
  初オ5 月│門の石月待闇のやすらひに     野水 秋
       ├─
  初ウ7  │姥ざくら一重櫻も咲残り      越人 春

  初ウ8 月│ あてこともなき夕月夜かな    野水 秋
3曠野
  発句   ┌遠浅や浪にしめさす蜊とり     亀洞 
       │
  初オ5 月│夕月の雲の白さをうち詠      舟泉 秋
       ├─
  初ウ8 月│ たらかされしや彳る月      荷兮 秋
  初ウ9  │秋風に女車の髭おとこ       亀洞 秋
  初ウ10  │ 袖ぞ露けき嵯峨の法輪      釣雪 秋
  初ウ11 花│時々にものさへくはぬ花の春    昌碧 春
4ひさご
  発句   ┌木のもとに汁も膾も櫻かな     芭蕉 
       │
  初オ5 月│月待て假の内裏の司召       洒堂 秋
       ├─
  初ウ8 月│ 月見る顔の袖おもき露      洒堂 秋
  初ウ9  │秋風の船をこはがる波の音     野水 秋
  初ウ10  │ 雁ゆくかたや白子若松      芭蕉 秋
  初ウ11 花│千部讀花の盛の一身田       洒堂 春
5炭俵
  発句   ┌むめがゝにのつと日の出る山路かな 芭蕉 
       │
  初オ5 月│宵の内ばらばらとせし月の雲    芭蕉 秋
       ├─
  初ウ8 月│ こんにやくばかりのこる名月   芭蕉 秋
  初ウ9  │はつ雁に乘懸下地敷て見る     野坡 秋
  初ウ10  │ 露を相手に居合ひとぬき     芭蕉 秋
  初ウ11 花│町衆のつらりと酔て花の陰     野坡 春
6続猿蓑
  発句   ┌猿蓑にもれたる霜の松露哉     沾圃 
       │
  初オ5 月│鶏があがるとやがて暮の月     芭蕉 秋
       ├─
  初ウ8 月│ 山に門ある有明の月       芭蕉 秋
  初ウ9  │初あらし畑の人のかけまはり    支考 秋
  初ウ10  │ 水際光る濱の小鰯        惟然 秋
  初ウ11 花│見て通る紀三井は花の咲かゝり   芭蕉 春

※ 「2曠野、麦をわすれ」は、発句に花が出ているので、除外できる。
・ 花が出ていない初折のウ8で秋月が出れば、初ウ10まで三句が秋季で、初ウ11は花だから「季移り<『貞享式海印録、季移り』参照>」となる。
・ 季移りは、両季穏かに移るを宗とする。初ウ10の季語を見ると、よく配慮されている。「1冬の日、炭売の」は、「冬まつ納豆」で、冬の字を入れた秋季。「3曠野、遠浅や」の「露」は比喩で、形式的秋季。「4ひさご、木のもとに」は「雁ゆく」で、春にわたる秋季。「5炭俵、梅が香に」は、「露」で秋季だが、単なるしずくとか人名と見なせば雑。「6続猿蓑、猿蓑に」は「小鰯」で秋季だが、稚魚のシラスと見なせば、春。
・ 「曠野、落着に」のように、初ウ10で秋花を詠む解決法がある。
 曠野
  発句   ┌落着に荷兮の文や天津厂      其角 秋
  脇   月│ 三夜さの月見雲なかりけり    越人 秋
       ├─
  初ウ8 月│ 魚をもつらぬ月の江の舟     越人 秋
  初ウ9  │そめいろの富士は浅黄に秋のくれ  越人 秋
  初ウ10 花│花とさしたる草の一瓶       其角 秋

・ 「冬の日、初雪の」のように、初ウ8が夏月・冬月なら、雑を1、2句挟めるので、問題はない。
冬の日
  発句   ┌はつ雪のことしも袴きてかへる   野水 
       │
  初オ5 月│麻呂が月袖に鞨鼓をならすらん   重五 秋
       ├─
  初ウ8 月│月は遅かれ牡丹ぬす人       杜国 夏
  初ウ9  │縄あみのかゞりはやぶれ壁落て   重五 雑
  初ウ10  │こつこつとのみ地蔵切町      荷兮 雑
  初ウ11 花│初はなの世とや嫁のいかめしく   杜国 春


資料「13 二季に渡るもの」

伝蕉翁口授二十五条(口二五)

[口二五01] 霞は朝うすく、夕に深し
[口二五02] 霧は朝深く、夕にうすし
[口二五03] 雲は朝立つて夕に帰る
[口二五04] 春風は朝に寒し
[口二五05] 秋風は夕に寒し
[口二五06] 夏は野山深し
[口二五07] 冬は野山浅し
[口二五08] 春サメはさうざうしく、ねぶし
[口二五09] 五月雨は降り続き、きたなし
[口二五10] 夕立はさめたるもの
[口二五11] 秋風はあはれなるもの
[口二五12] 靄は夏のもの
[口二五13] 水けぶりは冬のもの
[口二五14] 川音は昼静かに 夜さわがし
[口二五15] 海の音は昼さわがしく 夜静かなり
[口二五16] 草うつぶきて雨を知る
[口二五17] 草なびきて風を知る
[口二五18] 木の花は朝に咲く
[口二五19] 草の花は夕に咲く
[口二五20] 淡雪は春なるべし [25条⑧]
[口二五21] 翡翠(かわせみ)は夏なるべし
[口二五22] 上弦は七日八日頃の月
[口二五23] 下弦は廿二三夜頃の月
[口二五24] 法楽は寺社に納めず、此方にて手むくるを言ふ
[口二五25] 奉納は即ち寺社に納むる事なり


 芭蕉ある時門人に語つて曰ふ、何の花は夏か秋かと、やゝもすれは人に尋ぬる人おほし、是れ心がけ悪しき故なり、四時の景物は目を閉ちて見れば目前に春夏秋冬ともさへぎるものゝ季節を取りちがへるは無念のことなり云々と、実に芭蕉は、内界に向かつて不退転の修行に怠らざりしと同時に、外界に向つても絶えず精細の観察を怠らざりしなり。<俳諧百話>

・ 「俳諧百話(青蓮庵、金桜堂 明治35年4月)」に、芭蕉翁口授の二十五条と言ひ伝ふるもの」として紹介。(紛らわしいので、以下「口二五」と略す。)
・ 緑字は、次の「芭蕉徒然草」と近似した内容。
・ 青字は、下の「三四考、芭蕉翁口授」と近似した内容。
・ 太字は、「二十五箇条、二季に渡るものゝ事」に対応。丸数字⑧は、対応する記号。
・ 赤字は、疑問箇所。「秋風」は「秋雨」の誤りか。(後述)

芭蕉翁徒然草

[徒然01]金屏は寒し、銀屏涼し。
[徒然02]塵は綺麗なる所にも見ゆ。埃はきたなき所、ほこりといへば風などに立つ景色あり。
[徒然03]花の雲ははなやかに、花の曇はうつとうしく、花吹雪は目さましく、花の雪は眠りを催す、
[徒然04]卯の花くたしは降るもの、卯の花は雪を降らす、
[徒然05]秋は闇々音あり、萩は月に静なり、
[徒然06]清水影をうつし、口漱ぎなどすとも、足洗ふこと勿れ、
[徒然07]町の雪見は朝にして、山の雪見は暮をのぞむ。
[徒然08]白梅は早く寒し、紅梅は遅く暖なり。
[徒然09]桃はいやしく賑はし、李は艶にさびし、
[徒然10]春風は朝に寒く、秋風は夕に寒し
[徒然11]秋来るは音あり、花匂ふは淋しく静なり、
[徒然12]花薫るは華車(華奢)にしてさゞめき、春もの毎静に賑はしく、秋もの毎寂しくさわがし。
[徒然13]茶摘は風流にして、桑摘はわびし。
[徒然14]若菜摘は気高く、草摘みは田舎めきたり、
[徒然15]田植はにぎはしく、田草取はさびし、
[徒然16]夏は野山深く、冬は野山浅し、
[徒然17]川狩は男、茸狩は女勝なり、
[徒然18]霞はあしたに薄く、霧は夕に浅し、
[徒然19]霧は立つとも降るとも、霞は立つとのみ、
[徒然20]雲はあしたに行いて、夕にかへる
[徒然21]木の花は朝に咲き、草花は夕に開く
[徒然22]海棠は昼さわがしく夜静なり、川は夜さわがしく昼静なり
[徒然23]夜寝ぬ鳥は、雁・ほとゝぎす・千鳥・鴛鴦・・水鶏・梟・
[徒然24]暁より嗚く鳥は、鶏・・鴬、雲雀・行々子、
[徒然25]来る雁はゆふべ、行く雁はあした、
[徒然26]梅の花は兄にして、水仙は弟なり。
[徒然27]花散るは賑はしく、花落つるは淋し、
[徒然28]万の花散るは急はしく、落るはゆたかなり、
[徒然29]霧昇るは夕、霧下るはあした、
[徒然30]牡丹は朝にぎはしく、富貴なり、
[徒然31]菊はにぎはしく淋しく、隠逸なるものなり、
[徒然32]竃のぬり立、白壁の壁、上酒の酔ひさめは寒き情なり。
[徒然33]きぬぎぬ、塒の鷹、緋縮緬、紅染は暑き情なり、
[徒然34]拭ひ椽(テン、たるき)、川端、松原、鶴の脚は涼しき体なり、
[徒然35]酒はかきはしき(かぐわしき)もの
[徒然36]茶は静なるもの、
[徒然37]餅は心地よきもの、
[徒然38]若菜はさわやかに、
[徒然39]桜は長閑なるもの、梅は強きもの、
[徒然40]海棠は眠りたり、笑ふたり、
[徒然41]梨子(なし)は静にして、浮気あり
[徒然42]祭りとばかりは加茂、御祭りは伊勢なり、
[徒然43]神楽とばかりは禁裡、余は里神楽、里祭りなり
[徒然44]鴬は待つ心、不如帰は野山をたつねて聞く心、
[徒然45]桜は尋ね、柳尋ねず。
[徒然46]花は惜しみ、紅葉はをしまず。
[徒然47]鹿はあはれを元とし、初雪は待ち、時雨霰は待たず、
[徒然48]藤は長き日にわびたるかたち、四月盛りなれども、咲きそめる所を取り、歌にも俳にも具に(ともに)用ゆ、
[徒然49]④牡丹・杜若は歌には春なり、連歌には夏なり、若葉にあしらひ無ければなり、
[徒然50]⑦青葉は雑にもまた季にも、若葉は春のこと勿論なり、青葉は草にても雑または夏なり、
[徒然51]④西瓜は秋にして夏にも用ゆ、
[徒然52]⑨虫の声、砧、夜分ならず。夜分結ぶもおかし、
[徒然53]⑩鐘の声としてよし、鐘の音(ね)とやせんとはいへど、歌にもよむなり、
[徒然54]❶❷袷・夜着・布団・扇、発句の時は季になり、付句には雑にもなるなり、姿によるべし
[徒然55]①出代り・彼岸・薮入りは二季に渡る、
[徒然56]村雨は雑なれども、四月・七月の心持ちあるべし、
[徒然57]汐干は春なり、汐の干るは季にあらず。
[徒然58]汐干潟も作によりては春の季危し、
[徒然59]暮れといふは、七ッ時より六つの上刻まで、
[徒然60]夕間暮は、暫時のことなり、
[徒然61]初汐は、八月十五夜なり、
[徒然62]草枕は、植物ならず、逆旅とも書く。
[徒然63]冬の月はおそろしく、夏の月は更けて面白く、春の月はうすきを愛し、秋の月は隈なきを賞づる。
[徒然64]桃は、仙家めき在所めき、
[徒然65]梅は、痩せて風流なり、
[徒然66]桜は、ふときにしかず。
[徒然67]鶴は、昼めでたし、夜悲し、
[徒然68]雉子は、昼つよく、よるあはれなり、
[徒然69]蛙は、昼おかしく夜あはれなり、
[徒然70]蕣(朝顔)は、はかなくうつくし、
[徒然71]木槿は、垣につき、
[徒然72]陽炎は、消えてあかるく、稲妻は消えてくらし。
[徒然73]白魚は、やさしく弱し、
[徒然74]桜鯛は、うつくしくにぎはし、但し小さき虫なり、
[徒然75]とろゝ汁は、おかしく、鰒汁はいやし、
[徒然76]花園は、広くして、春の姿なり、花壇は狭くして秋の形なり、
[徒然77]初紅葉は、山深きより、初花は人里近し。
[徒然78]紙衣は、老の姿、また軽き人などに。
[徒然79]雪吹は空を分たれ、淡雪は地にながめず、
[徒然80]氷は、雪より早く、霜は氷より早し、
[徒然81]夏の蛙は、高き所、秋の蛙は土の下に鳴く。
[徒然82]古簾は気高くよし、簾は涼し、
[徒然83]紫陽花は、見るうちかはる、鶏頭花は枯れてもかはらず、
[徒然84]鮎は、親子連れず、鯎(うぐい)は親子連るゝ。
[徒然85]蝸牛は、家を荷ひ、蓑虫は枝に下がる、
[徒然86]山路といへば、道あるに極る、
[徒然87]春雨はうつくしくねぶたし
[徒然88]夕立は心晴れ晴れし、すがすがしく
[徒然89]秋雨は淋しく、時雨はそゞろに寒く、眠りを催し、
[徒然90]五月雨は、長くきたなくあきるものなり
    一年の雨ふり尽くす五月かな
       正月十三日の夜徒然の余りおもひ出つる
       ままにしるす
                      はせを
   丈草様へ


 と有り。徒然草の名は、この徒然なるままにあるより浮人の命ぜし名なるべし。とにもかくにも、前にしるせる廿五ヶ条は、これより抜粋せしものか。廿五条をつけ加へて、徒然草をなせしか。今は定かならねど、芭蕉の一生の事は細大漏らさす記載しあるべき筈の一葉集にも此文字のことにつきては、些の消息をも伝へねば、疑を存しつつ、兎にも角にも、希世の珍物として、今ここに抄出するものなり。<俳諧百話>

・ 同「俳諧百話」から。
・ 「緑字」は、上の「口二五」と近似した内容。
・ 「紫字」は、「宇陀法師、題の事」と近似した内容。
・ 白丸数字①④⑦⑨⑩は、「二十五箇条、13二季に渡るものゝ事」に対応。
・ 黒丸数字➊❷は、「二十五箇条、14発句の時は季に用事」に対応。
・ 「前にしるせる廿五ヶ条(「口二五」)は、これより抜粋せしものか。廿五条を(「口二五」に)つけ加へて、徒然草をなせしか」とあるが、抜粋にせよ、付け加えにせよ、「口二五」側に、重ならない内容が多数ある以上、いずれもあるまい。
・ 「赤字」は、意味不明な箇所。「芭蕉翁徒然草」は、勘違いや書き違いが明らかな箇所が多い。「希世の珍物」の評あり。

・ 金沢の「月明文庫」に、同様な「芭蕉翁口授」がある。「三四考、坤の巻」所載である。上記下線部が見当たらないが、「口二五」、「二十五箇条」の内容がほぼ入っている。

三四考、芭蕉翁口授

[三四001]金屏は寒し。銀屏涼し。
[三四002]塵は綺麗なる所にも見ゆ埃はきたなき所、ほこりといへば風などに立つ景色あり。
[三四003]花の雲ははなやかに、花の曇はうつとし。
[三四004]花吹雪は目さましく、花の雪は眠りを催す。
[三四005]卯の花くたしは降物、卯の花の雪は降らず。
[三四006]萩は暗に音あり、萩は月に静まる。
[三四007]清水影をうつし、嗽などするとも、足洗ふべからず。
[三四008]町の雪見は朝にして、山の雪見は暮を望む。
[三四009]しら梅は早く寒し。紅梅は遅くあたたかし。
[三四010]桃は賤しく賑し、又仙家めき在所めく、李は艶にさびし。
[三四011]春風は朝寒くふく。秋風は夕寒く吹。
[三四012]春来るは音なく、秋来るは音あり、
[三四013]花匂ふは淋しく静なり、花薫るはきやしやにして、さゞめきたる風情あり。
[三四014]春は物事静なり、賑也。秋は物事淋しく騒がし。
[三四015]春雨は騒うしく眠し。五月雨は降続き、きたなし。
[三四016]夕立はさめたるもの、秋の雨は哀なるもの。
[三四017]茶摘は風流に、桑摘はわびし。
[三四018]若菜摘は気高く、草摘みは田舎めきたり。
[三四019]田植は賑はしく、田草取は寂し。
[三四020]夏は野山深く、冬は野山浅し。
[三四021]川かりは男がち、茸狩は女がちなり。
[三四022]霞は朝うすく、霧は朝深し。
[三四023]霞は立つといへども降るとは言はず、霧は立つとも降るとも。
[三四024]⑧ 淡雪は春なるべし。水煙は冬のもの。
[三四025]靄は夏たつもの。翡翠は夏なるべし。
[三四026]草うつむきて雨を知る。草なびきて風を知る。
[三四027]雲は朝行て夕に帰る。
[三四028]木の花は朝咲く。草の花は夕さく。
[三四029]海の音は昼騒しく夜静なり。川の音は夜騒しく昼静かなり。
[三四030]夜ル寝ぬ鳥は、雁・時鳥・鵆・駒鳥・鴛鴦・梟・水鶏・矮鶏(チャボ)
[三四031]暁より嗚鳥は、鶏・鴬・・雲雀・行々子。
[三四032]来る雁は夕、ゆく雁は朝なり。
[三四033]梅は花の兄、水仙は乙(弟)なりとぞ。
[三四034]花ちるは賑しく、花落るはさびし。
[三四035]花散るは急にして、落るは豊なり。
[三四036]登るは夕、露時雨は朝なり。
[三四037]牡丹は花の富貴なる物、菊は隠逸なるもの。
[三四038]蓮は、花の君子なるもの。
[三四039]竃のぬりたて、酒の酔醒、白壁の塗立、寒き情なり。
[三四040]並びに、きぬぎぬ・塒出の鷹・緋縮緬・紅染、暑き情なり。
[三四041]拭椽・川端・鶴の足・松原、涼しき体なり。
[三四042]酒は賑しき物、茶は静かなるもの。
[三四043]餅はこころよきもの、飴は童らしきもの。
[三四044]若葉はさわやかに、桜は長閑なるもの。
[三四045]梅は強きもの、海棠は眠たり。
[三四046]梨の花は静にして、泣くけしき有。
[三四047]桜はたづね、柳はたづねず。
[三四048]紅葉はたづねず。又尋ねぬにもあらず。
[三四049]花はをしみ、紅葉はをしまず。
[三四050]祭とばかりは加茂、御祭は伊勢なり。
[三四051]神楽と斗は禁裡、余は皆里神楽なり。
[三四052]鴬は待つ心、本定なり。郭公(ほととぎす)は野山を尋て聞く。
[三四053]又、思ひよらず聞く。鴬は妙に鳴く。
[三四054]時鳥は鳴て通る。又、妙に鳴かざるにも非ず。
[三四055]藤は長き日に侘たるかたち、四月盛りなれども、咲き初る所を取りて、歌にも俳にも春に用ゆ。
[三四056]牡丹・杜若、歌には春、連俳には夏なり、若葉あしらひ無ければ、夏なり
[三四057]⑦ 青葉、雑にも季にもする。草の若葉、春のこと勿論なり。草の青葉は雑なり。
[三四058]② 西瓜は、秋にしてよし。
[三四059]⑥ みそさゞゐ秋の鳥なれども、冬にしてをかし。
[三四060]蕗の薹は雪中珍しく、冬にも春にも用ゆ。早蕨は岩上よし。
[三四061]⑨ 虫の声・砧、夜分ならず。夜分結ぶもをかし。
[三四062]⑩ 鐘の声はよし。鐘の音とはせぬといへども、歌にもよむなり。
[三四063]⑩ 砧うつといはぬといへども、作りやうにて、打つともいうなり。心得べし。
[三四064]❶❷ 袷・布団・夜着・扇など、発句の時は季になる。付合の時は雑にもなる。前句、作りやう次第なり。
[三四065]屏風・几帳・数珠の類、連歌にも用ゆ。
[三四066]①②③ 出代・彼岸・薮入、二季に渡る。春秋の季なくとも、前句のうつりにて、其季を定む。
[三四067]村雨は雑なれども、四月・七月の心持ち有るべし。
[三四068]汐干とあれば春なり、汐の干るとは季にならず。
[三四069]潮干潟も作りやうにて、春あやふし。
[三四070]暮といふは七ツ半過ぎより六ツの上刻までなり。
[三四071]夕間暮はしばらくのことなり。夕間に非ず、夕間ぐれなり。_※本来、夕-目暗。
[三四072]初汐は八月十五夜なり。草枕、植物にあらず、逆旅と書く。
[三四073]冬の月は更けておそろし。夏の月は更けて面白し。
[三四074]春の月は薄きを愛す。秋の月は隈なきを愛づる。
[三四075]梅は痩せて風流に、桜はふときにしかず。
[三四076]鶴は昼めでたし夜悲し。雉子は昼騒がしく夜哀れなり。
[三四077]蛙は昼をかしく、夜淋し。
[三四078]蕣ははかなく美し。木槿は限りあり
[三四079]陽炎は消えて明るく、稲妻は消えて闇し。
[三四080]されど、月夜にもなきにあらず。
[三四081]白魚は美しく弱々し。桜鯛は美しく賑はし、但し小さき魚なり
[三四082]とろゝ汁はをかしく、鰒汁は賤し。
[三四083]花園は広くして春のかたち。花壇は狭く秋のかたち。
[三四084]初紅葉は山深きより、はつ花は人里が先なり
[三四085]紙衣は老の姿、また軽き人などに。衾は賤しく旅などに。
[三四086]淡雪は地に詠めず、吹雪は空をわかたず
[三四087]氷は雪よりも早く、霜は氷よりも早し。
[三四088]夏の蛙は高き所に鳴く。秋の蛙は地の下に鳴く
[三四089]法楽は寺社に納めず、此方にて手向るをいふ。
[三四090]奉納は即ち寺社に納むるなり。
[三四091]青簾は気高く、葭簾は涼し。_※青竹を編んだ簾。
[三四092]紫陽花はかはる、鶏頭は枯れても色変らず。
[三四093]鮎は親子連れず、鮠(はや)は親子連るゝ。
[三四094]百舌鳥は二羽連れず。色鳥はいろいろの鳥なり。
[三四095]草萌は艸の萌黄にして、芦の角は、芦の芽なり。
[三四096]蝸牛は家を荷ひ、蓑虫は枝に下がる。父恋しとも啼く。又鬼子とも。
[三四097]山路といへば、道あるに極る。


  合考
[三四101] 露は三月にわたり、露時雨は九月なり。
  …中略…
[三四134]⑤ 星月夜は、月夜に非ず。秋なり。稲光は、雑なり。
  …以下略…


<三四考(乾)序>
…略…、
 文政のはじめ、やつがれ、北陸行脚のころ、加賀の国金沢の何がしかのもとにいたるに、あるじひとつのとちものを携帯て、云やう、「我祖某は、芭蕉翁の風雅に入て、北枝叟の門に遊ぶこと年ひさしかりしが、故ありて此書を家に伝ふ。幸かな、今叟に是を譲らむ」。予、ただちに受けてひらき見るに、
…略…。
 将に翁の口授といへるは、いつのころよりか我許に有て、句作るに心得第一の遺書なめり。猶、そが賜に初学の人の迷ひぬるあらましをかいそえ、あめつちのふたつに分て、標号をとりも直さず三四考と改め、其よしをしるして終に桜木にのぼせ侍るにこそ。
 天保七年孟冬日     閑口庵 鴎里

・ 太字は、「二十五箇条」に対応。
・ 緑字青字は、「口二五」に対応。「口二五」の赤字は誤写か。
・ 紫字は、「宇陀法師、題の事」と近似した内容。
・ 橙字は、「蕉門俳諧師説録 直旨伝、雑節」と近似した内容。
・ 白丸数字①~⑩は、「二十五箇条、13二季に渡るものゝ事」に対応。
・ 黒丸数字➊❷は、「二十五箇条、14発句の時は季に用事」に対応。
・ 下線部は、「芭蕉翁徒然草」にないもの。また、内容が異なるもの。


<鴎里> 徳島の俳人。天保12(1841)年、芭蕉150回忌を挙行、眉山大滝山聖観音堂前に句碑「しばらくは滝にこもるや夏のはじめ」を建立。嘉永6(1853)年没。
・ 序に言う「金沢の何某」に譲られたのは、「北枝考」「山中問答」「蕉門誹諧随門記」「附方自他伝」。
・ 「芭蕉翁口授」は、「いつのころよりか我許に有て」と、出処を明らかにしないが、鴎里は「遺書なめり」と言う。「合考」は鴎里の著と分かる。


資料 「元禄式」

元禄式


 ┌──┐
 │正凬│(朱陰刻)
 └──┘
 元禄式巻之三 芭蕉翁
 ● 雑之部

① 春の宮 雑なり。東宮の御事なり。
② 草枕 植物にあらず。逆旅と書くゆへなり。草を枕としても植物にあらず。夜分に嫌はず。
③ 笹枕・苔莚 植物なり。
④ 技折とは、道のしるしなり。木の枝など折りかけて、家_(路)のしるしとするなり。深山にてある事なり。
 ● よしの山去年の枝折の道かへて
       まだ見ぬかたの花をたづねん  西行

⑤ 村雨 雑なり。しかし、春冬の前句には付べからず。四月・七月にふる雨なり。
  祭といふ句、同前なり。
⑥ 玉柏 石の事なり。又屋根の雪をおとす物ともいへり。
⑦ 松の門 杉の門 杉の窓 雑なり。板にてしたるをいふ。非植物。
⑧ 絵に書る花紅葉の類ひ 連歌植物に二句。俳諧不嫌之。春秋も二句なり。但あつかへば季を持なり。
⑨ 月花といふ句 雑なり。
⑩ 芦鴨・芦たづ 非植物。あつかへば季を持なり。田鶴に田の字付ても苦しからず。かなに書く法なり。
⑪ 夕闇 夜分なり。宵闇といふ事なり。暮時分に嫌はず。
⑫ 時雨に時の字付くも、くるしからず。
⑬ 春日山に春の字・日字、付句を嫌はず。
⑭ 雷に神の字、連(連歌)に二句なり。俳(俳諧)、これを用ひず。
⑮ 軒のあやめ、連に水辺なり。俳、これを用ひず。
⑯ 恋の句、秋の句にはさみてせぬ事なり。
⑰ 花前に、恋の句付かけぬものなり。
⑱ 揚句 恋にても挙ること、殊に祝義なり。うき・つらき・かなしき・歎・泪・しぬるなども、祝言とて二句するなり。
⑲ 我家に恋を二句にて捨る事、古き連歌の書に、「恋を二句にて捨る事、甚く無下の事なり。三句より五句までつゞくべし」とあり。古風の連歌、二句にて捨たる例あるを以て、此の如く、当流の難句、恋に極りたるゆへなり。
⑳ 揚句に花をする事、宗祇法師神祇の巻にせられしことあり。常にはあるべからず。
㉑ 挙句に発句の字せず。発句の作者、挙句をせず。為其、句引の末に揚句と作者を書くなり。
㉒ 只の発句に旅の脇せぬ事なり。第三にはくるしからず。
㉓ 哉留の発句に、第三にて留。いにしへは嫌ひ侍れど、今は嫌はず。
㉔ 非水辺物、連歌に硯の水・軒の玉水・潦雲の波 但雲水は水辺也雲と水と二物也 新式にその数多し。俳諧には分別物なり。
㉕ 屏風・几帳・珠数、連歌に用ゆるといへども俳諧に用ゆる時は平話なり。
㉖ 新式の大意は、末座の人、或は初心の輩、句たくさんにするを押へんが為なり。非水辺、硯の水の類を水辺近しとて、執筆くらば、初心末座の人は、夫れに任す可。貴人功者の連歌の仕所を、無下に付たらん時は、なき指合をもくる事、執筆の故実なり。
㉗ 一座に一句、二三四五句の物と定るは、あとの付にくき物を考て定むるなり。打越を嫌ふ物は、一座にもあまた仕度き物を定むるなり。これより七句隔る物などは、それぞれに分別して、付よき様に定むるなり。或は、面を嫌ひ折を嫌ふ物、皆々その分別なり。所詮、付にくき物を仕出すこと、好ざることなり。
㉘ 夢想の俳諧、一座に夢の字あるべからず。
㉙ 追善の俳諧に、鬼の字・地獄の沙汰、ゆめゆめあるべからず。
㉚ 移徙の俳諧に、燃る・焼る・ひしぐ・倒るゝの詞、尤禁忌なり。
㉛ 切字のこと、むかしより書々に書出し侍れば、これを略す。細川玄旨の曰、「連歌に、ある人に語て口むつかしき切字悉く伝受し侍れど、これまで、一度もせずしての益なし。切字沢山なれば、人のよく聞しり面白かるやうにしたるがよし」といへり。此心、俳諧に第一と心得らるべし。
㉜ 切字なしの発句の事、伝受せぬ人、推量にいろいろ申し侍れど、一つもあたらず。この大事早速伝受すべきことなり。初心の中には、切字なしにてよき発句あるものなり。しかれども、伝来なければ、この切字なしのよき発句捨るものなり。宗匠の慈悲にて初心たりとも、はやく伝受すべし。抑、切字なしの伝といふは短く伝ふる時はなくてもくるしからずといふことなり。五七五の間にいひ切たる、是切字の伝受なり。いづれの切字なしの発句も、いひきらぬ句はかつてなし。しかれども、伝受せぬ人、推量にやりたる時は急度とがめ置ものなり。すべて伝受事あまり心安き伝受なれば、わざとおもくするもの也。
㉝ 三月に渡る発句、柳・霞・月・雪の類、脇にて当季を定る、この例なり。脇の季いづれの月と吟味して、第三を案ずべし。是三句に渡るゆへなり。たとへば、初春の発句に初春の第三せず。暮秋の発句に暮秋の第三せずといふことなり。暮春暮秋の第三、別に伝受あり。むつかしきことなり。初心のすべきことにあらず。
㉞ 一座一句のもの、連歌新式に、四十ばかりあり。然ども、俳諧には、慥かに二つもすべし。いひかへて、又ある可し。鬼女虎龍の類、一句出て後、虎屋・虎之助などは、虎のかたちなければ、数を定めず。二つも三つもあるべし。他、これに准ず。
㉟ 花といふは、桜のことにして、桜は正花に非ず。花に付ること、別に伝受あり。大事なり。
 ● 辛崎の松は花よりおぼろにて
    山は桜をしほるはるさめ

㊱ 都、二つなり。面にもすべし。非名所水海、同前なり。
㊲ 狩、いろいろあり。狩とばかりは、雑なり。生類に嫌はず。又、巡狩とて、その国の治否をしらんため、勅使を立らるゝ、是を狩の使といふ。その余は、皆求る心なり。
㊳ 二句、三句、四句、五句のもの、右に准ず。俳は寛制にして、あまたこれをゆるす。時に臨て、分別あるべし。
㊴ 浜庇 非居所、砂の崩れたる所をいふなり。
㊵ 月次の月の字、発句・脇などにある時、表の月、有明の類なるべし。
㊶ 恋に、心の恋・詞の恋といふことあり。詞の恋は恋にならず。当流は詞にかゝはらず、心の恋を専らとするなり
 ● 物さしに狂ふ男のたゝかれて
 といふ句、詞に恋なし。心の恋なり。女房・娘等の詞、句作によりて、表にもくるしからず。
 

 右一巻者俳諧之新式也。門人去来、依懇望、即於落柿舎、自書而与之者也。
  元禄三年春三月   芭蕉翁  桃青
 ┌──┐      ┌──┐
 │空山│(朱陰刻) │百羅│(朱陰刻)
 │捫虱│      │ 房│
 └──┘      └──┘

※ 「芭蕉と蕉門俳人、大礒義雄著」を参照した。

・ 緑字は、「翁口授」と同じ。
・ 太字は、「二十五箇条」に対応。
 項目に整理してみると、次の通り。


 -雑  ①春の宮:雑。/②草枕:植物にあらず。/④技折:道の印。/⑤村雨:雑なり。四月・七月。祭、同前。/⑥玉柏:石の事。/⑦松の門・杉の門・杉の窓:雑。/⑧絵に書る花紅葉の類/⑨月花:雑。/⑩芦鴨・芦たづ:非植物。
 -植物名が入る雑 ③笹枕・苔莚:植物。
指合
 -雑 ⑪夕闇:夜分なり。/㊱都:二つ。非名所水海、同前。/㊲狩とばかり:雑なり。生類に嫌はず。/㊳二句、三句、四句、五句のもの:右に准ず。/㊴浜庇:砂の崩れたる所。
 -冬 ⑫時雨に時の字:くるしからず。/指合、春/⑬春日山に春の字・日字:嫌はず。
 -夏 ⑭雷に神の字:連二句。俳用ひず。/⑮軒のあやめ:連水辺。俳用ひず。
 -恋句 ⑯恋の句:秋の句にはさみてせぬ事。/⑰花前:恋の句付ぬ。/⑱揚句:恋にても挙る、殊に祝義。うき・つらき・かなしき・歎・泪・しぬる:祝言とて二句する。/⑲我家に恋を二句にて捨る事。
 -挙句 ⑳揚句に花:常にはあるべからず。/㉑挙句に発句の字:せず。発句の作者:挙句をせず。
 -発句 ㉒只の発句:旅の脇せず。/㉓哉留の発句に、第三にて留:嫌はず。
㉔非水辺物、連歌に硯の水・軒の玉水・潦雲の波。
連歌の言葉 ㉕屏風・几帳・珠数:俳諧は平話。
指合繰ること ㉖新式の大意は、末座・初心の輩押へんが為。執筆に任す可。なき指合をもくる事、執筆の故実。
去嫌 ㉗一座にあまた仕度き物を定むる。付にくき物、好ざること。/㉞一座一句のもの、俳諧には、二つもすべし。いひかへて、又ある可し。
慶弔等 ㉘夢想の俳諧:夢の字あるべからず。/㉙追善の俳諧:鬼の字・地獄の沙汰あるべからず。/㉚移徙の俳諧:燃る・焼る・ひしぐ・倒るゝの詞、尤禁忌。
切字 ㉛切字のこと、略す。/㉜切字なしの発句の事、五七五の間にいひ切たる、是切字の伝受。いづれの切字なしの発句も、いひきらぬ句はかつてなし。
発句の季 ㉝三月に渡る発句、脇にて当季を定る。
花の句 ㉟花といふは、桜のことにして、桜は正花に非ず。
月の句 ㊵月次の月の字、発句・脇にある時、表の月、有明の類なるべし。
恋の句 ㊶詞にかゝはらず、心の恋を専らとする。

・ 


資料「哉止め発句の第三」

雑談集、冒頭

一、伏見にて、一夜俳諧もよほされけるに、かたはらより「芭蕉翁の名句、いづれにてや侍る」と、尋出られけり。
 「折ふしの機嫌(時機・様子)にては、大津尚白亭にて
  辛崎の松は花より朧にて
 と申されるこそ、一句の首尾、言外の意味、あふみの人もいまだ見のこしたる成べし。
 其けしき、こゝにもきらきらとうつろい侍るにや」と申したれば、又かたはらより、中古の頑作(けんさく)にふけりて、是非の境に本意をおほはれし人さし出て、
 「其句、誠に俳諧の骨髄得たれども、慥かなる切字なし。すべて名人の格的には、さやうの姿をも発句とゆるし申すにや」
 と不審しける。答へに、
 「哉どまりの発句に、にてどまりの第三を嫌へるによりて、しらるべきか。『おぼろ哉』と申す句なるべきを、句に句なしとて、かくは言ひ下し申されたる成べし。『朧にて』と居(スヘ)られて、哉よりも猶徹したるひゞきの侍る。是、句中の句、他に的当(マサニアキラカ)なかるべし」と。
 此論を再び、翁に申し述べ侍れば、
 「一句の問答に於ては然るべし。但し予が方寸の上に分別なし。いはゞ、『さゞ波やまのゝ入江に駒とめてひらの高根のはなをみる哉』、只眼前なるは」と申されけり。

 ・ 刊記に、「元禄辛未歳内立春日」とある。元禄4年の立春は12月18日である。

※1 「れ」は敬語。「催した」のは、季吟・信徳・西鶴の内。元禄元(1688)年、其角は、9月10日素堂亭残菊の宴を終え、上京。9月17日、鳴海・名古屋訪問。次いで伊勢参宮。10月2日膳所・堅田。京の季吟亭訪問、同月、信徳らと百韻(「新三百韻」)。


資料「はせを翁遺書、抜書口伝」

花に桜の伝

 ┌ 辛さきの松は花よりおぼろにて  *芭蕉
 └  山は桜をしほる春雨      *千那
 ┌ 山伏の山と一つはやはつさくら  彦根許六 *山といつはや山桜
 └  門出もよし野ははなの雲      支考 *花の頃

 「山伏の」は、「東西夜話(元禄14)」の句であり、芭蕉の伝ではない。また、「桜に花」で、関係ない。以下略す。
 「はせを翁遺書」(桃嶺子伝羽毛写、明和三中冬。早稲田大学図書館蔵)より。

俳諧四季遣ひわけ 口伝

[抜書01][三四011][徒然10]春風は朝寒く吹。
[抜書02][三四011][徒然10]秋風は夕べ寒吹。
[抜書03][三四014]     春は物ごと静なり。
[抜書04][三四020][徒然16]夏は野山ふかし。
[抜書05][三四014]     秋は物さはがしく。
[抜書06][三四020][徒然16]冬は野山あさし。
[抜書07][三四022][徒然18]霞は朝うすく、夕べ深く。
[抜書08][三四022][徒然18]霧は朝ふかく、夕べあさし。
[抜書09][三四027][徒然20]雲は朝たつ、夕帰る。
[抜書10][三四028][徒然21]木の花は朝に咲なり。
[抜書11][三四028][徒然21]草の花は夕べ咲なり。
[抜書12][三四026]     竹なびきて風を知る。
[抜書13][三四026]     草低向うつむきて雨を知る。
[抜書14][三四015]     春雨は|淋しき/寝むたきもの。(~夏花の父母と云)
[抜書15][三四015]     五月雨は|降つづきたる物/くらきもの/きたなきもの。(あく情)
[抜書16][三四016]     秋の雨はあはれなもの。(さびしき)
[抜書17]           時雨は|こころほそし/片に降て片に降ず。(冬の雨をかしき)
[抜書18][三四016]     夕立は|さかりもの/急なもの。
[抜書19][三四067][徒然56]むら雨、四月・八月七月の物なり。但、外の月は雨あるものなり。
[抜書20][三四029][徒然22]川音|昼静に聞/夜はさはがし。
[抜書21][三四029][徒然22]海の音|昼はさはがし/夜は静に聞。
[抜書22][三四025]     もやは夏たつものなり。
[抜書23][三四024]     水けむりは冬のものなり。

[抜書24][三四052][徒然44]時鳥は、野山を尋て、聞こころを云ふ。
[抜書25][三四052][徒然44]鴬は、 待心といへども、尋て聞心を云はず。
[抜書26]      [徒然47]鹿は、 あはれをいひて、待よしを云はず。
[抜書27][三四047][徒然45]桜は、 尋ねれども、   柳はたづねず。
[抜書28]      [徒然47]初雪は、待なりとも、   時雨・あられはまたず。
[抜書29][三四049][徒然46]花は、 おしむと云へども、紅葉はおしまず。


 右、故実なり。

・[抜書17]は、他に見ない。
・[抜書24~29]は、「宇陀法師」の「時鳥は、野山を尋てきく心を云。鴬は、待心をいへ共、尋て聞心をいはず。鹿はあはれをいひて、待よしをいはず。桜は尋ぬれ共、柳は尋ず。初雪は、まて共、時雨・あられ霰はまたず。花はをしむといへ共、紅葉は惜まず」に、順序・内容が一致する。

資料「姿情」

「俳諧十論」支考著、享保4(1719)年跋
    第五姿情ノ論
 そも俳諧の風姿・風情とは、其体に古今の差別あれば也。
 古風は耳に其情を聞て、言語の上の姿をとゝなへず。
 今様は目に其姿を見て、言語の外の情を含む。しかれば古は情のみにして、今は姿の論としるべし。物に情あらば姿なからんや。無情の草木も姿あればと生なま物しりはあらそはめど、誰か目前の姿をしらざらん。言語の姿の見がたきに、まして其上の風と雅とをしらずば、世にいふ木男木女にて、姿情の論には及ばざらん。
 今いふ風言雅語のふたつは、俳諧体の一大事なるをや。そもそも姿情の先後を論ぜば、人は天地の次に生じたれど、仰ぎて天といひ伏して地といふより、三才の姿はさだまりぬ。天地は人のつけたる名なれば、人を姿のはじめにして、月星をさして天の姿といひ、草木をさして地の姿といへる占文の秘訣も爰ならん。しからば姿は先にして、情は後なりと決すべし。
 たとへ君臣父子といへども、情は天地の間にこもりて、姿は忠と孝とにあらはる。いざや、其情は其姿にしたがひて、あれどもなきがごとくなれば、今は姿の論といふ也。誠よ、君父の忠孝も甲冑を帯すれば忠情そなはり、衣食を供すれば孝情あらはる。世に人ありて情は先なりと論ぜば、君父の前に姿をくるしめず、寝て居て忠孝の情をつくすべきや。姿の先なるは論ずるに及ばず。此故に仏の経にも五逆の姿を地獄と名づけて、鉄の門に槍薙刀をそなへ、十善の姿を極楽と名づけて、玉の台に笙篳篥をかざる。さるを儒仏のあらそひに、苦楽の情はさもあらん、地獄極楽の姿は迂詐ならんと、迂詐をとらへて迂詐かと疑へる、それを禅語には繋驢橛けろけつといへり。
 本より仏経に方便あれば、儒書にも工面なからんや。爰を文章の姿とはいふ也。そもや、中古の誹諧は、双六な世の歳旦といへば、目出たしと詞をむすび、五畿内の雪には、つめた飯とつゞけたる。それさへ情のみにして風なきを、風姿は夢にだも見ざるならん。
 誠や、今の俳諧といふは、古池の蛙に姿を見さだめて、情は全くなきに似たれども、さびしき風情を、その中に含める風雅の余情とは、此いひ也。
 さるは、俳諧のみならんや。世々の詩歌も此姿なるをしらぬは、中古の麁学とやいはむ。
 爰に、連俳の姿を論ぜば、月花をおしむは、古今一情にして、詩歌もおなじく、連俳もおなじ。姿は詩歌・連俳とわかれて、ちるにつけても千差あり、傾くにつけても万別あり、是をもて是を思へば、連俳はおなじ歌道をゆけども、草履と木履とに姿かはりて、俳言・連語の論には及ざらん。むかしは、連歌の情をもて俳諧の姿をいはむとて、俳言といふ事を論ぜしとや。風情はよし、古きをたづねて、風姿はさらに新しきをしれや。新古は時の付合によりて、物の変化にしるべき也。しかれば、其情の其姿にしたがひて、連歌はしらず、俳諧には姿はありて情なしといはむも、人を誨おしえる端的の処ならん。爰に俳諧の付合を論ぜば、つねに前句の姿を見て、前句の情を聞には及ばず
 此故に、吾翁は耳をもて俳諧を聞べからず、目をもて俳諧を見るべしといへる。耳目は姿情のつかひものにして、彼には明暗のさかひあれば也。されど、言語の姿といふは心得ぬ人もあるべけれど、あら寒しといふ時は、両袖をまきで首をちゞめ、あら暑しといふ時は、片肌をぬぎて膝をまくる。是を下品の姿と見たるは、あらと置たる助語の変也。しかれば一字一点より、付合の姿もかはりゆけば、日夜におなじ俳諧をいふとも、古いといふ事あるべきや。此故に、温故知新の四字より今の俳諧の師たる事をしるべし。
 史記の評林にもこれらを賛して、或は敏捷の変にして、学ぶ者は詞を失はずとも、或は好事の者をして心をあそばしめ、耳をおどろかすとも、すべては言語の形容より文章の虚実をいへるならん。
 いざや、我門の俳諧師は、姿情は新古をわかつため也、新古は言語のつきざる故なりとしりて、其言に儒・仏・神道をあつかひ、其語に詩歌・連歌をさばかば、俳諧は言語の媒とも、新古の鑑ともしるべき也。

●○△→ママ
占文→せんもん・うらのふみ:占い定めた事柄を記した文書。せんぶん:平安時代以降の陰陽道の文書。
迂詐→うそ
繋驢橛→ロバをつなぐ杭。禅宗で、精神の自在を奪って、向上を妨げるもの、無意味なもの、無価値なもののたとえ。
・ 双六な世の歳旦や大目出度
「直旨伝」、「他の句を聞く事、大切の習あり。わが好かたを胸中にさだめては、人の句、聞がたし。われをはなれて、その句の天性を見るべし」。
「俳諧寂栞」白雄・紫笛著、文化9(1812)年刊
    姿情の事
 いにしへより論多し。姿をさきに情をのちにすといふも、初学のことなり。情をさきに姿をのちにすといふは、もつともいはれなき事なり。姿情は天地の如し。前後の論にまどはず、ものの姿と己の心と相合する時を一句にむすびて、例の自己のたのしみとすべし。 (補)ものの姿と己のこころと相合する時を一句にむすべとは、俳諧の出る雅境をしめされしならん。心得べし。
  あの雲はいなづまを待便哉    翁
  鹿の音に人の顔みる夕かな    一髪

 かくのごとく、姿情の前後にかゝはらざるをしるべし。
  (補)
  詩法要標云詩之義意不一要其帰不過情与景而已情兼景者上也偏到者次也
 偏到とは情のみによるを情到といふ。是俳諧の風情のみいふに同じ。又姿のみによるを景到といふ。是俳諧にいふ風姿のみなり。
 又情中寓景、景中寓情あり。
 又云、惟情可以全萹 言然苟無法注之易入流俗故曰融情於景物之中托思於風雲之表者難之。
 姿を眼前に見るがごとくにいいなすものを風姿といふ。
     三の情の事
  枯枝に烏のとまりけり秋の暮
 さびしき余情、かぎりなし。
   秋はきぬ紅葉は庭にちり敷ぬ
      道ふみ分てとふ人もなし
  わたり掛て藻の花覗く流かな   凡兆

 涼しき余情かぎりなし。
   道野辺に清水流るゝ柳陰
      しばしとてこそ立どまりつれ
  うき我を淋しがらせよ鳴鳩
  たらち女の湯婆やさめん鐘の声  鼠弾
  中々に子をこそおもへ秋の暮   粛山
  此ごろの思ひはるゝかな稲のはな 土芳
  秋いまだ七日の夜の明やすき   猿雖

 是等いはゆる通情なり。親子・夫妻・朋友の情はさらなり。春の花のはなやかに、秋の夕辺の露のもろきたとへ、いづれか通情にもるゝ事なし。情はきらふ。いかにとなれば、おのれおのれの情にして、聞く人いかで歎ずべきや。
<異本>
    ○ 姿情の事
姿皆の事昔より論多し姿を先に情を後にすといふも初学の事なり情を先に姿を後にすといふはもとより謂れなきことなり姿情は天地のごとく姿情の論に惑はず能く万物に応ずる事をいふべし
 野さらしを心に風のしむ身哉
 応々といへどたゝくや雪の門  去来
 鹿の音に人の顔見る夕かな   一髪
姿情の前後に拘はらさるを知るべし

俳諧付合小鏡  ◇ 仮名遣ひ之事

① 端のいを、下に書く訓。
  はしのいを、下にこそかけ、かろければ
       額   貝  甕   灰
   こい たい ひたい かい もたい はい

<定>鯉→こひ、こゐとも、こいとも。鯛→たひ 
<歴>→こひ・たひ・ひたひ・かひ・もたひ・はひ 

③④⑤ 「を・お」軽重の事。 男はおとこ  女はをんな
     小桶  男   小男   折  手折
   おけ 小をけ おとこ 小をとこ おる 手をる

<定>小桶→こをけ、唯桶はおけ。花をる、おりふし、おとこ 
<契>男→をとこ 
<歴>桶→をけ、折る→をる 

   赴    趣    面白
   おもむく をもむき おもしろうして

<歴>趣→おもむき 

⑥ 端の「を」を上に書く事。
                
  はしのをはちいさく軽きはこのをや
   各    己   小舟  鴦  音
   をのをの をのれ をふね をし をと

<定>風の音→おと 
<契>→  
<歴>各々→おのおの、己→おのれ、音→おと 

⑦ 奥の「お」の字。
          重  御座
  おくのおはおほきくおもくおはします
       多     思  召
   鳥の  おほく   おほしめされよ

<歴>尾→を 

⑩⑪ 奥の「ゑ」下に書く事。
  おくのゑを下に書く字はあまたなし
     家  末  えトモ 右衛門 左兵衛
   こゑ いゑ すゑ つゑ  ゑもん さひやうゑ

<定>杖→つゑ
<契>杖→つえ、つゑとも 
<歴>家→いへ 

 其の字に持ちたる仮名の有事。
  そなはりて五音の外のかなもあり
   位    於をいてトモ 宿直  猪
   くらゐに おゐて   とのゐ ゐのしゝ

<定>→ 
<契>→  
<歴>於いて→おいて 

         ひは悪し

⑯ 中の「ゐ」の事。
  中のゐはひゞすくなき仮名ぞかし
   雲井      円居  椎柴
   くもゐ くれなゐ まとゐ しゐしは

<定>→くれなゐ 
<契>→ 
<歴>椎→しひ 

・ 赤字は、歴史的仮名遣い(青字)と異なるもの。

・ 太字は、二十五箇条の用例と一致する語。



昼の錦/二十五箇条 関連ページ目録
其角伝受翻刻・校訂 昼の錦  元禄2年伝受・元禄17年相伝
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初版本「昼錦抄」・宋屋本「昼の錦」・其角本「昼の錦」と照合、支考の改変部分が顕在化。
宋屋本 昼の錦・引続錦紙  宝永7年支考写本の写
初版本「昼錦抄」と、よく一致する。口伝集を併せて載せる。
校合・再現 昼の錦
諸本を校合、去来伝受本を再現。
許六伝受俳諧雅楽抄  元禄6年伝受
許六の発句作法書。口訣を得た内から、五箇条を「翁曰」と引用。
資料 資料「昼の錦/二十五箇条」 : 古今集・去来抄・七部集・三四考・寂栞などの関連部分をまとめる。
「二十五箇条」と諸伝書 : 山中問答・葛の松原・有也無也之関・貞享式海印録などとの関連を探る。
「昼の錦・二十五箇条」検討 : 去来相伝本、初版本・校正本・支考門本・宋屋本の表現を比較検討。
「二十五箇条」の伝承と空阿 : 空阿の遺品に「不易鏡」があって、宋屋本とほぼ同じ奥書を記す。
「昼の錦・二十五箇条」諸本の関連 : 其角伝受本と各去来伝受本とを比較し、校合の資料とする。


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