蕉門俳諧師説録(直旨伝・師説録)

蕉門俳諧師説録(直旨伝・師説録) 索引

越人序鳳朗頭注
総論風雅俳の字俳諧の式変風の俳諧
初折発句案じ方切字の事脇の句法第三の句法
四句目心得の事 初表心得の事 初裏
名残折名残表名残裏の事
月・花・恋月の句花の句恋の句
付合・指合・去嫌付合付合六体去嫌季のこと
諸般雑説催事懐紙用捨大切の習
唱句五義(篇序題曲流)親句・疎句てには
雑の句俳言発句合文章増補
奥書等直旨伝跋師説録跋師説録跋、頭注

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蕉門俳諧師説録(直旨伝・蕉門正風師説録)

<解題>
 「蕉風俳諧作法伝書」の一つで、越人序、門人著・越人編という。
 田川鳳朗(鴬笠)が稿を得て、頭注を加えて成ったのは、文政8(1825)年(鴬笠跋)、芭蕉没後132年。刊行は、さらに37年後の文久2(1862)年である。

 「蕉門俳諧師説録」は、「直旨伝」と「蕉門正風師説録」(以下「師説録」)から成る。

 ここでは、「直旨伝」を芭蕉庵に出入りした門人の聞き書き、「師説録」を門人の解釈と読み分けて、鳳朗の注を参考にしつつ、「芭蕉の伝」を探っていく。


 なお、このページは、「直旨伝」を項目別に整理し、必要に応じて、「師説録」の内容を加えたものである。


<凡例>
 ・ 内容は抄出・再編したもので、記述順ではない。各段末に頁番号(和本なので、何丁目かの数字)を付す。頭の ◇j は直旨伝、 ◆s は師説録。
 ・ 鳳朗跋によれば、入手の稿は、虫損・汚損の欠けを補ったと言う。そのためか、難解な箇所が多々あるので、次のように補足・修正を加えた。
   〔補足〕  凡名所所名故非名所、同前なり。
   〔修正〕  苔枕苔莚
 ・ 「元禄式、巻之三(雑)」と一致、または近似する部分は、青色で示した。「元禄式」41項の内29項(70.7%)が「直旨伝・師説録」の内容にほぼ一致する。
 ・ 「昼の錦・二十五箇条」と一致又は類似する部分は、紫色で示した。
 ・ 「俳諧有也無也之関」が一致又は類似する部分は引用し、茶色で示した。
 ・ 内容の違いは、次のように背景色で示す。
直旨伝師説録鳳朗頭注
紛らわしい部分は縮小
愚注
記事記事


直旨伝・師説録

蕉門俳諧師説録 乾(直旨伝)・坤(師説録)

底本

 天保三大家の一人、鳳朗(1762-1845)が採取刊行した芭蕉の伝書で、「正風俳諧直旨伝」及び「蕉門正風師説録」からなる。

 底本は、「蕉門俳諧師説録 乾・坤(花御本鳳朗著)、文久2(1862)年、芝飯倉、一貫堂刊。早稲田大学図書館蔵」、及び、虫損を補うため参照した「同中村俊定文庫」の二巻。

越人序

 直旨伝・師説録の二書は、本一書にして、誰の蔵するといふこともなく、誰の志にて集るといふことも侍らず。芭蕉庵の日夜席毎の記事の積たるものなり。だれかうけ持てしるしたるといふにもあらず。席に当り事にふれたる輩、こころごころの記事する上を事によりて、誰もかれも其折々の論談をもらさずかきしるしたるがつみて、かかる書とはなりたるなり。
 先師の発語ありて論じしめされしをはじめとし、門人わがともがらの、おのおの問にしたがひて物語有たる条々、又先師みづからもしるし申されしことどもをわかちて、直旨伝とし、門人互に論じ出て師の正思にかけ其可否をしめし、或は、論当りてうなづかれし物等を、寄せゑらみて師説録とす。
 其師説録の中にも、問いの外にとき示されし類は、師もかく申されしなどおのがむきむきにしるせるままなり。それも誰がさいはいして取わけたるといふきはもなく、おもひおもひにわけ始めしが、一地(一致)して大かたにわかれ、かく二名二本とはなれるなり。
 あるじも蔵主もなく門人なりの惣蔵(総蔵)とやいはん。はからずも予の手にとどまりたるは、天のたまもの也と鷽く(嘯く)もうれしきうちに、又はからずも、師のかたみとまで思はるる今となりぬるぞかなしき。
鳳朗頭注 端書、作者の名なく時日もしるさず等の文意を考えれば、またく祖翁の生前に得たる趣に聞へはべり。按に、翁生前には、よも此表題(直旨伝・師説録)はあらじ。
 又、遷化の時の首途の跡に、この書深川へ残たらんには、名をさめんもの、杉風及桃隣・其角・嵐雪か、ともがらの外にあるべからず。
 思ふに、此序、越人みづから書るか。さらば、遷化の時の東都の首途に、かく道の秘事などしるせし記事なれば、翁座右の書などと一処にありつらんを、何ごころなく一くるめに、別の書どもと共に頭陀ものとなりけんをば、名古屋へ捨ておかれしか、又は越人にあづけられしかなるべし。深川へ残てあらんには、いづれの手筋へか東都へ伝はるべきか。其沙汰なきこそ旅中へ持たれし証なるべし。
 されば、ヶ条の次第など、あらかたにたちて見ゆれば、越人校合ありて、表題もかくかうむらせしものならん。さらば、序も亦越人のかけるに相違あらじ。
 但、時代を考ふるに、越人旧禄につきて帰参せしは、翁遷化のはるか後なり。
 又、「越人は翁勘気の門人なり」と許六が書けるは、支考が讒を真事とせる誤なり。かたちもなき虚説なり。野水・荷兮の両士が説も、支考がいつはりの説なるかし。

 ➊ →資料「その1 芭蕉は、芭蕉庵の資料をすべて持ち出したか」参照。
 ➋ →資料「その2 芭蕉は、最後の旅で、名古屋に立ち寄ったか」参照。
 ➌ →資料「その3 越人は、熊本へ行ったか」参照。

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正風俳諧直旨伝・蕉門正風師説録

風雅

  ┌不易 流行 │則大道也
  └無 └有 ┌翁俳諧 ┌有心           │大無を指す

   夫、天地は風雅なり。万象も亦風雅なり。此風雅は、仏祖の肝胆にして、四時に従て、
                 ┌心月               ┌心花
  移らずといふことなし。思ふ所、月にあらずといふことなく、観ずる所、花にあらずと
         ┌常光           如幻┐ ┌有花帰無
  いふことなし。心、月にあらざれば、夷狄に類し、容、花にあらざれば、禽獣にひとし。
                 ┌玄微
  夷狄を出て、禽獣をはなれ、容、造化にかへれよ。


    古池や蛙飛こむ水の音

 野州那須雲岩寺仏頂和尚使六祖五左ヱ衛門問、桃青曰、如何是祖西来意。答曰、蛙飛コム水ノ音也ト。是ニ五文字を置てホ句とせり。右鎌倉円覚寺成拙和尚伝。尚問二代清陰和尚答同。 ◇j01

 俳の字の事 直旨伝 ◇j01

俳の字

 翁曰、字義の論にかかはらず。只、はいかいといふ名にてよきなり。他門に対して論ずべからず。それを捨て、是を用る人、唯我門に遊ぶ人なり。 ◇j01
有也無也之関
 然れども勅諚を以て編めるの書なれば、これを古実の例として、それに俳の字に通用するなり。他門に対して論ずべからず。ここを以て、これを有也無也の関と名付け侍るものか。それを捨て、これを用ゐること、只我が門に遊ぶ人なり。

 俳諧式の事 直旨伝 ◇j01-02

俳諧の式

 翁曰、俳諧の式は、連歌の敷きにて、先達の沙汰しけるなり。連歌に新式あり。追加共に二条摂政良基公の御作なり。今按るに、一条禅閤の御作なり。此三つを一部としたるは、肖柏の作なり。
 連歌に四つとある物は、俳諧には五つとし、七句は五句去とし、俳諧なれば、万事安々と沙汰しけるなり。
 按るに、追加に漢和の式あり。大概是を俳諧のと、昔より定るなり。貞徳の「御傘」其外世に多し。是等の式の中に、信用しがたき事も有。
 俳無言といへるあり。大やう宜し。去嫌の式なくては、調がたし。
 自門にも書あれかしといへるもあれど、慎べきことはりなり。法式を定るといふ事は、甚重きことなり。
 されども花の本と称せらるるうへは、其法たたずしては、名の詮なし。代々に連歌去嫌あまたあれども、世人、是を守らざるは何事ぞや。私に法を作りて、是を守れとは、恥べき事なり。
 指合の事は、時宜にもよるべし。先は大方にしてよろし。

 若、志ある輩は、此趣を書起て、ひそかに自門の大法ともなさばなすべし。 ◇j01-02

 変風の俳諧の弁 直旨伝 ◇j02-03

変風
虚実

 翁曰、世に俳諧といふ事はじまりて代々利口のみに嬉遊する故に、世に行はるるといへども、いかにして古人の詞のみを以てかしこき道に入らんや。
 予、此道に遊ぶ事三十年、はじめて、其実を得たり。
 名は古人の俳諧を仮るといへども、こころは、往古のはいかいにはあらず。されば、俳諧の名は伝りて、其意を用ひず。代々むなしく押映る事はいかにぞや。ここをもて、予、常にいふ「俳諧に古人なし」と
 去ながら、古人の跡を踏みて求めざれば、復変風の理は識がたし。おもふ所の境にも、此後何人の出て是をむ。我、唯後世を思るるなり。
 昔より詩歌に名ある人、多し。みな、其実より入て、実をたどるのみ。われは、実なきものより実を求んと思ふなり。
 虚実の間に遊て、しかも虚実にとどまらず。これ、わが家の秘事なり。 ◇j02-03
有也無也之関
 正風体は、虚実の間に遊んで、しかも虚実の間に止まらず、是我家の秘訣なり。

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初折

発句案じ方 直旨伝 ◇j24-29

発句作法

 翁曰、発句は頭よりすらすらと言下し来るを上品とす。もの、一つ二つ三つ、取合てなすはよからず。黄金を打延たるごとく作るべし。
 又曰、発句は取合ものなり。題にものひとつ取合せて、よく取合すを上手といふ。
 又曰、題の内より案じては、なきものなり。題の外を尋れば、有ものなり。
 又曰、発句は一もつの上にて仕立る事はかたき物なり。
   毛衣につつみてぬくし鴨の足
 一物のうへにて仕立たるとなり。
 翁の詞、かやうに其人によりて、一筋ならず。彼と是と工夫して偏執をはなるべし。 ◇j24-25

落ちつき

 又曰、発句は落つかざれば発句に非ず。
   君が春蚊屋はもへ黄に極りぬ
 越人が句、すでに落つきたりと見へしが、又此重み出来たり。月影・朝ぼらけなどと置て、蚊帳の句とすべし。かはらぬ色を君が代にかけて、歳旦となし侍るゆへ、心重く、句、奇麗ならず。 ◇j24

心の作

 又曰、句を作るに、作過て、心の直を失ふなり。心の作はよし。詞の作、好むべからず。 ◇j25

案は十分に

 又曰、句は、七八分に言つめてはけやけし。五六分の句はいつまでも飽かず。但、かくいへばとて、案方を五六分にせよとにはあらず。案は十分にして、作を五六分にせよとなり。

 又曰、発句は大方、物語のやうになる物なり。とかく主人公をたてて、いかにも句になるやうに作配可然。主人公なきは絵にかゝれぬ物なり。絵にかゝれぬは、発句にあらず。 ◇j25

題の本情

 発句の、題に動くうごかぬといふ事、功者の上には論なき事なり。其ものより案じ入て、しほりより生来る詞なれば、動くべきやうなし。
 初心の句作するは、其題の本情を見ずして、其場に生来らぬ物を、しほりのわきまへなく、詞をきりつき、柳にやせん桜にやせんと、跡より取付る故に、何にも成べく見ゆるなり。其本情より入らぬ故なり。 ◇j25
 嵐雪論ず、雷電の謡に、菅公大に怒り給ひ、御前にありあふ柘榴をかみくだき、妻戸にくはつと吹かけ給へば火焔と成てと書し文勢、此御前にありあふもの、饅頭・羊羹ならば、火焔となる文勢、しほらし。きはめて柘榴の外なし。物の本情、慥なる故に、動事なしと申しぬ。 ◇j26

三十体

 翁曰、発句案る時、和歌の三十体、つかまへ方より案じ力なり。いかにも発句の心得に成べし。よき句は自然と三十体のうち、いづれになりとも叶ふものなり。
  幽玄体 行雲 廻雪 長高 高山 遠白 有心 物哀 不明  理世
  撫民  至極 澄海 麗体 存直 花麗 松体 竹体 可然体 秀逸体
  抜群  写古 面白 一興 景曲 濃体 見様 一節 拉鬼  強力 
 ◇j26

凡俗なる句

 連歌に句難をいふ事あり。俳諧にも有るべし。
 心敬僧都云、「凡俗なる句、姿の凡俗・心の凡俗なり。姿の凡俗は聞へ安く、心の凡俗は少、わきがたくやあらん」。
 道に心地を思はぬ人の句に、其あやまち有物なり。景曲の句には大かたなし。有心なる句を作るに用心すべし。 ◇j26-27

※ 「ささめごと」(心敬)

 凡俗なる句と申す、いかなる姿にて侍るやらん。
 姿と心との凡俗侍るべし。姿の凡俗はきこえやすく、心の凡俗はすこし分けがたくや侍らん。
   松うゑおかん古郷の庭 と云ふに、
  夢さそふ風を月見んたよりにて

 是は姿よろしきやうに侍れども、心ことの外にや侍らん。だれの人か、小松植ゑおきて、夢さまして月見んとたくみ侍らん。
  豊年(とよとし)をさなへもいそげむぎの秋
 たとへは、世務をおもへる凡俗なり。
  春はたゞいづれの草もわかなかな
 七草などは、二葉・三葉、雪よりもとめえたるやうこそ艶に侍るに、是はいづれをもわかずむしり取りたる、無下なり。

無心所着

 無心所着といふ事、既に万葉集に沙汰あり。素より、俳諧にも有べき事なり。
 未来記に、
  ふる山の千尋の松のたがみそぎ
      このゆふつけてつもる白雪

 定家卿判曰、ふる山※布留の山といふ名所にや。又如何。「たがみそぎゆうつけ鳥のから衣(※たがみそぎゆふつけ鳥か唐衣たつたの山にをりはへて鳴く 古今995 よみ人しらず)」といふ歌をとりて、したるとみゆ。松の雪・みそぎ、心得ず。一向、無心所着のさたとやと、云々。 ◇j27

句を聞く事

 他の句を聞く事、大切の習あり。わが好かたを胸中にさだめては、人の句、聞がたし。
 われをはなれて、その句の天性を見るべし。うち聞より、よく感ずる句あり。これは、人をして、よく感ざしむ句なり。
 又、深切に聞ざれば、聞へがたき句は、意味深長の句なり。強てまかりて聞て、漸聞たるは、まことに聞ゆる句にあらず。其句の入ほがなり。聞人、正しければ、是を咎るなり。己くらき時は、ともに作者の邪路に入て、是を聞とりたりとす。志あさく、さかいに入らぬ輩、幽玄の心、おぼろげにもさとりしるべからず。 ◇j27-28

※ いりほが【鑿・入穿】 和歌などで、たくみ過ぎていやみに落ちること。(広辞苑)

 心敬僧都の説に、いりほがといふに、姿の入ほが、心の入ほがあるべし。
  木をきるや霜の剱のさやま風
 手だりの人の句なれども、はじめの五文字、入ほがなるべし。さへにけりなどにて、さし延てしかるべし。剱にて木をきるもよろしからず。
  夏草や春のおもかげ秋の花
 是は姿の入ほがなるべし。是等のすがたしたるに、又秀逸も有べし。分別ものなりとなり。 ◇j27

* 「しかるべし」ではわからないので、「ささめごと」から全文を引く。

 歌にはいりほがとて、余りにさかひに入り過ぎたるをば嫌ひ侍り。連歌にはあるまじきやらむ。
 此の句常に見え侍り。心の入ほが・姿の入ほが有べし。
  木をきるや霜のつるぎのさやま風
 此等はたくましき手だりの人の句なり。されども、初め五文字、いますこし入ほが成べし。さえにけりなどにては、さしのびて見え侍るべきか。つるぎにて木をきるもよろしからず。
  夏草や春の面かげ秋のはな
 此の句は、すこし姿いりもみたる。入ほが成べし。これらの姿したるに、又秀逸も有るべし。分別すべきことなり。

句を見る事

 句を見る事、大やう、一句の成就と不成就と、新古・糟粕・等類・同巣、又古事・古意等の寄せ、扨、其うへ好悪と見るなり。位絶勝に至ては、判者の力つくなり。
 同巣と等類とは別なり。作例、亦別なり。 ◇j28

句を判ずる事

 句を判ずる事、物を鏡にうつすごとし。此故に、名師ならざれば、判者となし難し。 ◇j28

匂ひの句

 匂ひの句といふ事、歌に上品なり。発句、又しかり。
 古人、定家興の歌を評して云、「朧月夜に仙女の俤、かりに顕れて消失たらん、匂ひなるべし」となり。

皮肉骨

 「皮肉骨」と三つにわけたる体、予、年来是を工夫するに、一句一句に、「皮肉骨」調ふ物なり。
 骨をせんと考へ、皮をなさんと思ひ、肉をつけんとおもふは、此道の大煩ひなり。
 自然と満足の俳諧は調ひ、未練の人に教ても、埓せぬ事なり。此境、修行すべし。「真草行」も同断なり。 ◇j29
 (骨は)さび・からみ・細み・さびしみ、風雅の骨なり。
 (皮肉は)匂ひ・ひびき・しほり・風情は、風雅の皮肉なり。皮肉骨も句によりて皮肉の勝ものあり。骨の勝ものあり。直旨伝につきて見るべし。 ◆s15

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切字の事 直旨伝 ◇j19-21

切字なし
伝授の事

 師曰、切字なしの発句の事、伝受せぬ人、推量に色々申侍るといへども、一つもあたることなし。
 初心の中に、切字なしにてよき発句あるものなり。
 されども、功者の人に、「切字はいづれにある」と、咎められたる時、云開くべき事をしらざれば、よき発句とても捨るなり。
 此ゆゑによき師を撰て、はやく此大事を伝授すべきなり。
 伝授の事は、あまりに心安きゆゑ重くするものなり。唯、道を重んずるのことはりなり。
 ◇j19

切れ

 又曰、詞を云残す所に、心あまりて、余情を含む。爰をさして、切といふ。 ◇j20

自他切

 又曰、自他の分る所、言葉の休む所、是句の切なり。 ◇j20
有也無也之関
 自他分くるところ、その言葉やすむ、これ句切なり。

証句

 伝に曰、
    春もややけしきととなふ月と梅
 けしきととなふ比にもなりけるかな。月と梅とをかくながむるは、といふほどの言葉をあませるなり。
    咲みだす桃の中より初ざくら
 桃の中よりゆかしはつ桜。
    赤々と日はつれなくも秋の風
 日はつれなくも入るかな。秋の風のかなしきに、日さへみじかくなりゆくといふほどの詞あまれり。 ◇j21

 師曰、前章のごとく、此事、大切の伝なり。執心ならぬ輩に、猥りに伝授をすべからず。道を重んずる事、私にあらず。此伝、諸家につたへぬにや。
 近世、切字なき句、猥りにきこへ侍るとなり。 ◇j21

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脇の句法 直旨伝 ◇j03

韻字止め

 翁曰、脇の留を韻字といふは、真名文字にて留る故なり。聯句の脇句は対なり。此格に倣ふて、韻字留といふ。 ◇j03

脇体

 脇体の事、五体三体など、姉小路殿伝、宗養・紹巴・昌琢・宗祇の発明の説あれども、俳諧は其発句に対して体を定めず。宜くすべし。定むれば古くなるなり。 ◇j03

旅体

 唯の発句に旅の脇はせぬものなり。第三苦しからず。 ◇j03
 発句は大悟の立つ所、脇は大悟の収る所故に、脇は少しも跡へ心の残る処なきやういひきるなり。いささか次へはこぶ心あるは、脇にあらず。平句なり。翁一大事の秘密なり、ゆめゆめ口外すべからず。是翁の道の規矩準縄のひとつなり。
 翁曰、脇の手尓葉留は、万葉を濫觴とす。鳧、けりなり。かもは鴨なり。捨也はとまらず、成は留るなり。大秘なり。
 如是にてかたちは手尓葉留と見せて心中はやはり字留なり。翁既に大秘としたまへり。無益にいひちらして、人の宝にする事、浅ましく見ぐるしとまでのたまへり。かへすがへす可秘。
 此外の手尓葉留、是に倣て推てしるべし。 ◇j03

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第三の句法 直旨伝 ◇j04

句体

 翁曰、第三は大付にても、転じて長高くすべし
 古法には留りの沙汰なかりしを、宗祇・心敬の比より今の格式は立り。 ◇j04

疑の発句

 疑の発句の時は第三はね字に留めず。うたがひの句は二句去ゆへなり。 ◇j04

脇てには止

 又曰、古書にいはく、脇句手尓葉なれば第三文字留といふも、懐紙に仮名の並ばざるやうの書法より定りたり。是如くの事は功者達人の業なり。初心は常の留りをよしとす。 ◇j04

寄る

 第三は、二句の間より出るやうの心にて脇を付るにあらず寄る也、移をとるなり。 ◇j04

哉留の発句

 但、哉留の発句、にて留の第三、いにしへは嫌ひ侍れども今は嫌はず。 ◇j04

初春の発句

 初春の発句に初春の第三はあるべからず。他倣ふなり。 ◇j04

第三 師説録

第三一転

 第三に変化といはず、一転といふべし。変化と心得て、強て自然を失ふべからず。当流の集々を見て味るべし。 ◆s05

手尓葉をぬく

 古法に杉形、大山の法あり。当流には是を用ひず。すみの手尓葉をぬくといふ事あり。むかしより大切の事とせしか。今は大方の人知れるやうになりたり。
 この手尓葉をぬく時は、先、第三の位をうるものなり。初心の階梯なり。 ◆s05

すみの手尓葉

 すみの手尓葉といふは、上、五・七の間、下、七・五の間の手尓葉なり。すみの手尓葉とは、「やすみ」の上略、五七五の間の休み字といふ事なり。
 留はいつとても、「て留」にすべし。 ◆s05

もなし止め

 若し、さし合時は、「もなし・なれや・らん・に」などにて留るべし。 ◆s05

哉留の発句

 但、「哉留」の発句、「にて留」の第三すべからず。「にて」は「哉」に通ふ故なり。
 気韻といふ事失ふべからず。肝要なり。 ◆s05

※ すぐ上の直旨伝及び元禄式に、「いにしへは嫌ひ侍れども今は嫌はず」とある。
 元禄3年の歌仙「木の本に」(蓑虫庵小集のほう)は「発句哉止め、第三にて止め」である。

発句・脇
から出る

 又曰、第三は前二句とは違へり。二句の間より一物なり出ると知るべし。付かぬやうにと云説、覚悟なり。移・匂ひ・寄・位等尤微意なり。 ◆s06

第三は致す

 但、第三に限り、「付る」といはぬものなり。「第三を致す」といふなり。脇に付るにあらざればなり。 ◆s06

第三の一転

 又曰、発句、人倫・人事ならば、脇も然り。其時は気色なり。
 発句・脇、景曲ならば、第三人情にて作るべし。
 発句・脇、大ならば、第三中より小、余は是に效へ(傚、ならえ)。都て三句均しからざる始なり。 ◆s06
景色・人情 発句・脇人倫なるとき、第三極て景色を付るといふこと格式のやうには心得べからず。人のうへ及び景曲にて続くとも、一転きらびやかなるときは害なし。ただ、転を専にするを旨とする為にかく大旨を述たるなり。
  ┌ 発句 雪ごとにうつばりたわむ住ゐ哉 岱水
  │ 脇   けむらで寒し浦のしほ焼   路通
  └ 第三 さまざまの魚の心もとし暮て  芭蕉
  ┌ 発句 水鶏啼と人のいへばや佐屋泊  芭蕉
  │ 脇   苗の雫を舟になげ込     露川
  └ 第三 朝風にむかふ合羽を吹たてゝ  素覧

 かく景色斗も人情斗もつづきたる例多し。とかく其場のもやうによるべきなり。 ◆s06

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四句目 直旨伝 ◇j04

句体

 翁曰、四句目にて春秋の季をつづけ、月花の句を付る事、必あるまじきなり。四句目心得あり。 ◇j04
巧者の場 伝曰、四句目平句のはじめなり。古式は初心の場とす。蕉門に於ては功者の場とす。
 句作軽く、はしりを専要とす。「言葉のはしり」「心のはしり」「付のはしり」あり。三つうち必ずその一つを心懸けて作るべし。 ◇j04

四句目 師説録

軽く 四句目は軽くすべしといふ事、昔よりの教なり。さるを心得違てやり句するやうに覚たるは誤なり。
 蕉門の説には、四句目を変化のはじめとす。大切の場なり。すらすらとするは作のこゝろへなり。此故に「也留」にするが宜しなどもいへり。その旨を知らば何ぞかゝはる所あらん。

 猿蓑集に「狸をおどす篠張の弓」といふ句もあり。発句脇、景曲の時は、第三人事の句大かた出来ゆへに、四句目に力らなければ、第三ばかり離もののやうになるなり。かかる時は、大方人事を付るなり。 ◆s07
打添う事 四句目は第三に打添ふをよしとす。付起すは悪し。「狸をおどす」の付、事を起したる句作に似たれども、第三によくよく打添て一句はしれり。故に波たつ事なし。妙なり。 ◆s07

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 心得の事 初表 直旨伝 ◇j04

上の句賞玩

 翁曰、第三より後は一順(18句まで)に上の句(長句)を賞玩す。中にも月の座は、名ある場なり。老功に当べし。
 面に同季をせぬも、懐紙のつらを嗜むゆへなり。 ◇j04

初表、百韻5~7句目 師説録

五句目・
六句目
 五句目六句目然る可くすべし。ふしくれだたぬやうにと心得べし。
 八句表の時は、此二句無役の場にて仕にくき所なり。ややもすれば表ならぬ句の出来るものなり。 ◆s07
七句目七句目月を出すときは論なし。秋の発句の時は爰に他の季の句を出すべし。
 歌仙は一季にてもくるしからず。名号の俳諧は大方法によるかたよろしきなり。 ◆s07
 一季の表はせぬといふ法なり。 ◆s07

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 心得の事 初裏 直旨伝 ◇j05

四春八木

 翁曰、初裏に至りて四春八木とて、連歌に古説有。四句目春を出さず。八句目高き植物を出さず。月にはり合、花に窒る(つまる)故の遠慮なり。俳諧もその心得なり。他の句はかへすに及ばず。
 春季出なば花を付くべし。これを呼出しの花といふなり。 ◇j05
 一座の貴人、或いは賞翫の人に花の句を乞んため春を引上て出すをいふなり。 ◇j07

花前秋季

 花の前に秋季を遠慮すべし。 ◇j05

恋句の花

 恋の句の花はむつかしき業とて、連歌の秘にて前句より慎むといへり。俳諧にはその沙汰なし。 ◇j05
初裏三句目 伝曰、初裏の三句目、捌のはじめなり。いささか気を改て付起すべし。しづむべからず、さはがしかるべからず。 ◇j05

※ 古説……「俳諧無言抄(梅翁、延宝2(1674)年)」に、「又、連歌には四春八木と覚て、四句目に春を仕出さず。八句めにたかき植物をし出さざるは、花につかゆる故なり。俳には、六句めに春を用捨し、拾句めにたかき植物辞制有べきなり。然ども、他の句の出したるを返にもあらざれば、春の季出たらば、その春のうちにて花を引上、植物出たらば、その付句に花有べきなり」とある。

 ・ 連俳百韻
  ┌───┬────────────────────────────┬──┐
  │ 折面 │          初ウ・二ウ・三ウ           │ 百 │
  ├───┼────────────────────────────┤  │
  │ 句 │ ⑭ ⑬ ⑫ ⑪ ⑩ ⑨ ⑧ ⑦ ⑥ ⑤ ④ ③ ② ① │ 韻 │
  ├───┼────────────────────────────┼──┤
  │月・花│   花     月                   │ 連 │
  │ 差合 │   ↑         ×←高い植物(月に張合)    │   │
  │ 去嫌 │   7 6 5 4 3 2 1 春 春 ←三続・七句去│ 歌 │
  ├───┼────────────────────────────┼──┤
  │月・花│        月                   │ 俳 │
  │ 差合 │   ↑ × ×←高い植物(花に指合)          │   │
  │ 去嫌 │   5 4 3 2 1 春 春 ←三続・五句去    │ 諧 │
  └───┴────────────────────────────┴──┘

 ・ 俳諧歌仙
  ┌───┬────────────────────────┬──┐
  │ 折面 │           初ウ            │  │
  ├───┼────────────────────────┤  │
  │ 句 │ ⑫ ⑪ ⑩ ⑨ ⑧ ⑦ ⑥ ⑤ ④ ③ ② ① │ 歌 │
  ├───┼────────────────────────┤  │
  │月・花│        月               │ 仙 │
  │ 差合 │   ↑ × ×←高い植物(花に指合)      │  │
  │ 去嫌 │   5 4 3 2 1 春 春 ←三続・五句去│  │
  └───┴────────────────────────┴──┘

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名残の折

名残表 直旨伝

三句目 又曰、名残の表の三句目、猶その心得あるべし、初裏の三句目よりも一際起して付改むべし。 ◇j05

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名残の裏の事 直旨伝

句作

 翁曰、名残の裏は句の事を捨て、いかにもすらすらと句作すべし。不深切にやり句するやうにせよとにはあらず。今更事をもとめ、耳立やうの事を慎べきなり。又句並を追ふにも及ばず。 ◇j07

古説

 揚句は付かぬやうにといふ古説も、一句に成て、一座退屈し、興醒るゆゑにかくいふなり。又兼て按じ置ともいへり。ものに著すべき俳諧などは、跡にて付直すべし。 ◇j08

挙句主1

 揚句は発句の主、又は亭主のする所にあらず。始の一順の終に執筆の句なくば、執筆すべし。 ◇j08

文字

 (挙句で)発句にある文字を用ひず。 ◇j08

挙句主2

 相伝は是の如くなりといへども、賀莚追善など曠の会には其座其巻の摸様によりて、発句主に名残の花を所望する事もあり。さる事あれば、揚句も亭主にさすることもあり。かやうの事は例にはなき事なり。 ◇j08

挙句主3

 発句に発句の作者揚句せずといふは、句引して末に揚句の作者を書なり。
 句引とは巻末に誰何句と書。他は准てわきまふべし。 ◇j15

挙句の花

 揚句の花、宗祇の神祇の巻にせられし事は、常には無きことなり。 ◇j16

名残の裏 師説録

挙句

 揚句はひたひたと付て仕まふがよきなり。 ◆s21

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月・花・恋

月の句 直旨伝

初表の月 表の月の座の句、亦一位ある事、他の平句と同じからざる事、但し第三の次にたつほどの位を持べし。 ◇j05

月こぼし

 翁曰、(百韻で)月の定座をこぼす事、五十句うちにはあるべからず。奥に至りて、三折も過ては、少興にもなるものなれば、稀に翻す事もあり。是も定例にてはなし。
 歌仙にはくるしからず。元来略式なる故なり。 ◇j05

月の異名

 月の座に月の字も有明の字もさし合たる時は、異名にてすべし。 ◇j05
 但し月の字有明の字など近き時、定座に月の字を出す事、法外の変格あれども、初心のすべき所にあらず。かならず宗匠・功者にまかすべし。 ◇j06

発句に月次

 月並の月の字、発句にあるときは、本月、連歌に三句去なり。俳諧には二句去べし。有明とも桂男ともする法なり。兼て有の字明の字など嗜べし。同字なれば、月とうち出してせず。表の心得大切なり。
 連歌に一座とは十八人の事なり。当時俳諧に連仙といふは表一巡の句数なり。 ◇j12
異名せず 月並の月、二句隔て、月の字出さぬ法にはあらず。句作りのふりによるべし。但、有明の外、十六夜・亥中・まつ宵の類もあなり。なるべきだけは、異名にてはせぬ方よし。正風にては大方異名にてはせぬなり。古集にも少なきにて知るべし。 ◇j12

月賞玩

 月は上の句を賞翫とす。落月無月はつゝしむべし。法にはあらず。 ◇j05
 伝曰、落月無月の句、もし付たる時、心得あり。口伝。 ◇j05

星月夜

 翁曰、星月夜は秋季にて、賞翫の月にはあらず。若発句に出る時は、素秋にして、他の季の有明などの付句致すべし。 ◇j05
 ○素秋は先づせぬ事なれどもなさで叶はぬ場には、なさずんばあるべからず。古法ありといへども、当流にこれを用ひず。別に当流の法あり。 口伝。 ◇j06

<秘蘊集> 星月夜の事、習なり。月にならず。秋なり。秋をつづけて五句有るなり。又、六句めに他の季の月するなり。口伝有り。人に習ふことなり。

去嫌

 翁曰、月といふ字は五句隔つと新式に有り。 ◇j05
 門人問、「月は何句去べきや」。翁曰、何句去りても出がたし。間に他の季節あるときは五句去なり。 ◇j06

同面月二句

 (百韻で)月二句、裏に稀にあり。此時は月数八つなり。名残の裏はまれにもなし。 ◇j06

月の句 師説録

巻頭秋の月

 秋は第三までに月を出すなり。 ◆s06

星月夜

 星月夜は月にならぬなり。其時は句のあつかひ、大切の心得あり。 ◆s06
 星月夜の月を持たる変例
  春と秋集名残の表
  うたれてかへる中の戸の翠簾 
   柊に目をさす程の星月夜 翁

 次、谷の梟と付け、名残の裏、引返し冬篭と付、冬三句にわたして冬月としたり。異なる例なり。 ◆s06
 ※┌ 名オ10  打れて帰る中の戸の御簾 芭蕉  歌仙「衣装して」
  │ 名オ11 柊木に目をさす程の星月夜 曽良
  │ 名オ12  つらのをかしき谷の梟  路通
  └ 名ウ1  火を燒ば岩の洞にも冬籠  曽良

発句
星月夜

 星月夜、発句に出る時は、素秋にして、他の季の有明などの句を敍るなり。伝授のひとつなり。 ◆s18

三月尽
九月尽

 三月尽、九月尽はいかやうにもすべし。
 九月尽は脇にも月をする事なし。第三に月を出せば季戻して宜からず。習ひなきうちは、九月尽の発句立ぬがよきなり。直旨に委し。 ◆s06

月異名

 月の句異名にするはよからず。拠無くする事なり。
 月前是を制して月の字出すべからずと芭蕉も申されし。尤も時にもよるべし。法には非ずとなり。
 百句も三十六句も、悉く雑の句なる旨をさとらば、月の扱ひ、いかやうにもありて、異名の論かかはりなかるべし。 ◆s17

変格猥にせず

 折端に月をこぼせる、稀にはあり。故ある事と心得て、猥りにすべからず。
 すべての変格子細も知らず、みだりになすものあり。変格を格式にとるは不学の誤なり。
 月花を引上げ、或はこぼしなどする事も、会釈ある席には、其理なくては失礼なり。常の席・無名の俳諧・両吟等にはともかくもあるべし。 ◆s18
 実に道をあきらめ自然に師とも仰がるゝ輩、其座其時の運び、変化物好にて古になき変格をもなす事もあるべし。是は其座限りの事にて、又すべくもあらず。
 去来糸桜をもて花にかへたるも古伝ありとはいへど、珍らしき物好なり。是等をもても思ふべし。 ◆s18

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花の句 直旨伝

 伝曰、それ花は万物の花にして、桜にあらず。又、桜になきにしも非ず。又曰、桜は花なり、花は桜なり。 ◇j07

短句・定座

 翁曰、花四本のうち、下の句(短句)一句ばかりはあり。まれにも定座をこぼす事なし。 ◇j06

賞翫の花
下心の花

 或は賞翫の花の句、前句への付意や、又其句の心か。
 其実は梅・菊・牡丹などを下心にして仕立、正花となしたるは、其草木にしたがひ、季を定むべきや。
 ◇j06

正月の花
九月の花

 或問、正月に花を見る、九月に花咲などいふ句は何とあつかふべきにや。
 答曰、正月の花は、陽春美名なれば子細なし。九月に花咲などは大に誤なり。なき事なり。名木を隠して花といふ句はあるべし。 ◇j06

花は桜
春の花
匂の花

 花は桜のことながら、都て春の花をいふ。是等を正花に立ずしては、花の句多く出るゆへに、却て賞翫軽し。
 宗祗時代までは、百韻に花三本、雨ひとつなり。
 宗長の時に至りて匂の花一本雨一つ。
 勅許を蒙り度旨奏問せられて、花四本雨二つには極りはべる。 ◇j06
<匂ひの花> 翁曰、匂ひの花といふ事、千句と夢想にいふ事にて常の会に申さざる事、未練の次第なり。意想は千句満座に香を焚くにより匂ひの花といふ。
 今は名号の俳諧には何にても焚くなり。 ◇j06
<起こり> 匂ひの花、根元の起りは、後柏原院御宇久我家の黒方梅花の薫物、兼々望給ひしを、牡丹花進上申されし時、何にても御褒美かづけ給はれと勅し給ひしに、此花の事申されしかば、やさしく思召て 勅許を蒙りけるより匂ひの花の称出来たるなり。よつて、連の席及び俳の席にても、此花の句作る時、必ず黒方の薫焚事古実とはなれり。
 但、俳席に於て、今は此花吟声の時焚なり。香主の習、口伝。 ◇j06

名残の花
匂いの花

 所以ある俳諧には、発句に心の通ふやうの名残の花有るべし。揚句も亦自然と其こゝろばへなり。譬へば客来て其日の事を述て先より雑談時をうつし、帰る時に至りて又其日の事を云事、礼を尽して罷帰るが如し。但発句に同意にせよといふにはあらず。
 匂ひの花とは本式会に称すべし。常には名残の花といふべし。 ◇j08

扱へば正花

 波の花。潮の花、古式には正花にあらずといへども、扱へば正花なり。用ざるときはその通りなり。霜雪の花、同事ながら、これはただ雪霜の賞翫ある故、其通見満すべし。 ◇j06

花桜の論

 翁曰、花と桜の事、細川玄旨法印より秘して花咲先生へ口決し給ふ正伝ありといへども、其後更に用るものなし。
 門人去来、予の猿蓑の巻に末の花を略して、彼伝を顕すことあり。惣じて桜一本の時は、咲く・開く或は莟などいふ字を置べきなり。是正花に立る習なり。
 ◇j07
 【有也無也之関、俳諧五花の口訣
 付合一本桜の事  正花になるなり。
   糸桜腹一ぱいに咲きにけり
 右付合、一本桜の事は、細川法印(幽斎、細川藤孝)より秘して、花咲先生(貞徳)に口訣の正伝なり。其後、更に用ゐる人なし。
 門人去来、予の猿蓑の巻に「末の花」と略して、彼伝をあらはさず。総じて桜一本の時は、「咲・開・莟」、これらの文字を句の内に置くなり。即ち正花に立ならひなり。
正伝なり。
 伝曰、花桜といふ事、本歌にすべき習ひあり。一山一縄手など、平一面に花を見渡したる時の事なり。 ◇j07
 去来曰、猿蓑集の時花を桜にかへんと請ふ。
 先師曰、その所以いかん。
 余(去来)答曰、凡花は桜にあらずといへる一通。又馨の花なりといふも拠あり。畢竟花は咲く時節をのがれまじきとおもひ侍るなり。
 師曰、されど往昔は四本の花のうち一本はさくらなり。汝のいふ所も所謂なきにあらず。兎も角も作すべし。されども尋常の桜にてかへたらんは、詮なかるべしとなり。 ◇j07

桜三品

 桜三品といふ事
  山さくら さくら花 花さくら
 山桜は散るけしきを賞翫とす。さくら花は峰も麓も満山の花爛漫たるをいふ。
 花桜は咲散る交々の体をいふ。只其わかちある事をしりて、又、強ちにかかはるべからず。 ◇j07

花に桜

 花に桜付る事、むかしは花衣・花の袖などやうの物には誠の桜をつけ、誠の花には、桜鯛・桜人のごときものを付たれど、当流は是を用ひず。花は花、桜は桜と分明に付るを習ひとす
     辛崎の松は花よりおぼろにて
      山はさくらをしほる春雨

 桜の句に花は付るべからず。花にさくらは苦しからず。吉野に花は付べし。花に吉野は付べからず。桜も同じこころへなり。他の花の名所も、是に准ず。句の仕立やう心得あり。
    但、是古式なり。 ◇j11
有也無也之関
     から崎の松は花より朧にて
      山はさくらをしほる春雨

 右、花に桜を付ること。前句、粧ひの花・花娵・花聟・花嫁・花かつほ(かつを)ならば、家桜・山桜の類を付け、前句生花のときは、桜貝・さくら鯛・さくら人などと句作るなり。前の、花にあらざる桜はよし。
 芭門に於て、桜に花を付、花に吉野をつけ、其外花に名所を付ることあり。別義なくして、此例の表裏なり。古式を取てとらず、取らずしてとるの意趣あり。
      さくらをこぼす市のあさがり
     大和路へ入る日はけふも花ぐもり

 是如なり。 ◇j11
 ※ ┌  桜をこぼす市の麻刈      竹翁  蕉風雁木伝
   └ 大和路へいるとてけふも花曇   嵐雪

花の句 師説録

巻頭の花

 春の巻頭に、第三までに花出ても、出ずとても苦しからず。素春にも植物は出すかたよしといふ説あれども、なくても亦苦しからず。其場のよろしきにしたがふべし。 ◆s06

変格の心得

 花の句の事、定座に花とばかりする事は、勿論子細なし。変格の扱は殊の外子細あり。先、引上る方はくるしからず。まれにもこぼす事はあるべからず。桜を正花にする事も秘事なり。猥にあらせまじきためなり。句作、尤、習ひあり。 ◆s18
 他の説に心得しるとも、故なくてすべからず。此外にもさまざま伝授の秘事なきにしもあらず。すべて伝授とする事は、大方は用なき事、或は至極の事、或は全くすべきことにて、是等みな秘蔵とせり。猥りにゆるすときは、半途の人、しり顔に珍事を求て、常になし侍る故、秘して教ざるなり。さまで、其業、高き人ならずとも、志まことに道に深切なる輩には、其人によりて免許すべきなり。覚悟の人はしりて、心にをさめ、みだりに事をなさず、口にもださぬものなり。かかる人をゑらびて、皆伝すべし。 ◆s19

花前に植物

 花前に植物差合時は、似せものの花をする習なり。
 其時は、其一句は雑にて前の植物にかまはねども、其句に春を付て正花に扱ふ故に、後をば植物定式の去嫌にする法なり。
 此格ありといへども、花前に心なく植物を出す事、双なき無礼なり。急と制して其句を戻すべし。面々慎てすべからず。

 只、貴人などの風と植物を出し給ふを返し侍ん事、いかがなれば其時の用に扱ふへきための格なり。事もなきに、好て似せものゝ花せん事をかしからぬ心得をしるべし。いづことても正花正月をもて遊ぶこそ風流なれ。 ◆s19
有也無也之関
 打越花の事    正花になるなり。
     みよし野は常の雲さへ春のいろ
 定座の一二句前に、水仙・山茶花・花野・梅等の句有りて、花あらはれたるときは、定座の花にさはるゆゑ、多くは花前とて、執筆の許さざるところなり。貴人高位の拠なく、句作り出来たらば、返句もいかが。そのときは証句のごとく綴りて、花脇にも、春の句を付べし。
<頭注>  打越花の事
     みよし野は常の雲さへ春の色
 右、定座の一二句前、水仙・山茶花・花野・桜ママ等の句ありては、花の字・植物、花の座にさはる故に、宗匠・執筆のゆるさざるなり。
 しかれども、其人、高位・正客などの句、強て返すに及ばず。其時此句作の例を用ゆ。此体を味とりて作ば、いかやうにもあるべし。かくて次に、春の句を付べし。是素より芭蕉の教なり。 ◆s19

初表の花

 花の句、発句・脇・第三の外、表にせざる法なり。秘事とせり。 ◆s20

扱えば正花

 波の花・潮の花、正花にあらず。されど扱へば正花なりと、先師申されけるなり。
 雪の花・霜の花、扱ふて正花にもなるべきや。本意は雪霜を賞翫していへる花の字なれば、前条(波の花)とは違へりとなり。 ◆s20

花紅葉

 花紅葉とつづけて正花なり。雑なり。二季兼たる名なればなり。尤、句によりて其強きかたに季を定て、後を付るなり。 ◆s20

花吹雪・花の雲

 花のふぶき、植物にあらず。花の雪と同前。花の雲、植物なり。 ◆s20

花の波

 花の波、水辺なり。植物の花の雲は、花を雲とも雲を花とも見る体あるべし。句によりて分別すべし。花の波は、散て浮たるをいふ。 ◆s20

花の都・花皿

 花の都、正花なり。花皿、正花なり。其故は、樒は常ながら、其時節時節の花を手向るものなればなり。 ◆s20

名残の花・
匂ひの花

 名残の花と称する、常の事なり。匂ひの花とは、本式に。 ◆s21

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恋の句 直旨伝

恋は大切

 恋の句、昔より二句付ざれば捨ず。
 昔の句は兼日に恋の詞を集置て、心の恋の涙をば問はざるなり。
 恋は別て大切なり。作意安からず。
 宿昔、宗砌・宗祇の比まで、一二句にて止事あれば、其例にならひ、此後門弟子議して、一句にても置べきか。其趣は前句恋とも恋ならずともさだめがたき句あるを、必恋の句付て、前句ともに恋に取なすべし。左様の時は其句のみにして、其次に恋の句付るに及べからず。新式にも其沙汰あり。然れども議する所は其座の宗匠にまかすべし。 ◇j09
恋は季節同格 又曰、恋は月花よりも大切のものにて、扱は春秋の季節同格の位なり。この故に句数も春秋と同じくつづくなり。都て季節と同じ扱にて、季節の代にも立る物なり。月花の代にも遣ふ。春秋のはじめの句に、もし恋あらば、その季につれて三句ながら恋をわたすべし。もし春秋二句前に恋出なば、四句恋をつづけ、春秋の三句目に恋出たらば、一句春秋を付のべて春秋の恋をすべし。これまた秘事のひとつなり。
 同季は五句されども季と季の間に他の季あるときは四句にてゆるす例なり。又季と季の間に恋ある時も四句にてゆるす例なり。是則、恋を季節同様に扱ふ故なればなり。是又秘事。 ◇j05
神祇釈教の恋 翁曰、神祇、釈教恋の習あり。
 いづれも連歌に殊更秘し伝る大事なり。予世の中の宗匠を考るに、此重秘を知らず。露沾公へ伝へ侍りし外、他言せず。
 恋に結びたる神祇は、神祇の句に二句去なり。これを三句去と覚、捌くこと、未練なり。釈、尤も同意なり。神祇と神祇三句去なり。恋の情の神祇、格別なり。 ◇j08

 →「誹諧之秘記、恋の大習

恋の句 師説録

恋二句目

 恋の句、二句目骨折なり。詞にて付捨て置くは無念なり。 ◆s21

恋一句

 一句にてさしおくことのあるは、付て前句に心かよひ、二句の間に恋を含る処なり。 ◆s21

心の恋

 当流詞の恋をとらず。心の恋を恋とする所なり。 ◆s21

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付合・指合・去嫌

付合 直旨伝 ◇j28-29

骨を得る

 翁曰、発句は門人に作者あり。付合は、老吟、骨を得たり。 ◇j28

付合下の句

 付合、下の句に、二五・三四・五二・四三といふ事、いかにも覚ねばならね事なり。
  二五 三四とは、
   まさにしぐれをさくさくら花
   待たる君に来たるあかつき

  五二 四三とは、
   橋翻りほとゝぎすなく
   峰の旅人の行衛もしらず

 二五・五二、別条なし。三四心よく、四三よろしからず。好ざるなり。然ども、千句などには、場に任すべし。 ◇j29

付合六体 直旨伝 ◇j29

付合六体

    ひつとり  くらべ   ひつはり
    くりつけ  うみ出し  よそへ
 是より別れて、万体に変ずべし。変体等を定べからず。広く自然なるを専要とすべし。 ◇j29

 ひつとり 順接・継承で、引き取りの音便形「引っ取り」
 くらべ  比較・対照で「比べ」
 ひつはり 引用で、古事・古意などの「引っ張り」
 くりつけ 古歌・古句手繰る、等類・同巣などの「繰り付け」
 うみ出し 創造的・生産的な「産み出し」
 よそへ  比喩・比況などの「寄え」

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去嫌のこと

趣旨

 一座に一句・二句・三句・四句・五句のものなど定むる事、後の付にくきものを考てさだめ置しものなり。
 されば、うちこしをを嫌ふといふものは、一座にも数多仕たき物をさだむるなり。
 是より三句・五句・七句、それぞれに分別して、付の支るやうに付よきやうに定るなり。或は、表に嫌ふものも、折をきらふものも、みなみな其分別なり。
 所詮、付苦き物を仕出す事、好ざる事なり。

 大やう連歌に二句といふものは五句、五句といふものは七句と、俳諧にはゆるすなり。 ◇j17

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季のこと

九月尽に
月なし

 九月尽の発句の時は月なくともよきなり。七句目、他の季にて月あるべし。 ◇j15

三月尽に
第三雑

 三月尽の発句に、第三雑の句ためし有。 ◇j16

九月尽に
第三冬

 九月尽に第三冬の句付る事有。その時は四句目冬たるべし。 ◇j16

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諸般

表に都
水海など

 都は表にもすべし。水海同前なり。凡名所所名故非名所、同前なり。
 いほりとはすべし。庵とはあるべからず。釈なり。 ◇j11
 「元禄式 ㊱」に「都、(巻に)二つなり。面にもすべし。非名所水海、同前なり」とある。

 雑説

 狩の事、いろいろ有り。狩と斗は、雑なり。生類に嫌はず。
 巡狩(じゅんしゅ)とて、其国の治否をしろしめさんと、勅使を立らるる、是を狩の使といふなり。
其余は、皆求るこころなり。 ◇j11

 初瀬の鐘、非釈。 ◇j12

浜庇

 浜庇、居所にあらず。砂の崩て、空(うろ)に成たる所をいふ。但、浜辺にある庇をいふ時は、勿論居所なり。但、非居所浜庇たりとも、浜辺の家の庇にかけて、作れる句ならば、いふに及ばず、居所なり。浜手の岸の根、なみにされくぼみて、上の方ばかり残て、さし出たるを云。 ◇j12
 波の間ゆ見ゆる小島の浜久木久しくなりぬ君に逢はずして (万葉集2753、植物)
 浪間より見ゆる小島の浜庇久しくなりぬ君に逢ひ見で (伊勢物語116、浜家の庇)

稲莚

 稲莚とは、稲の莚を敷たるやうに見ゆるをいふ。植ものなり。苔莚、猶同じ。 ◇j12

 世の字の事、浮世は述懐なり。世の中は、平生なり。
 平世とは、何の世にもかまはぬ世の事なり。浮世とは、憂せといふ心なり。ものうい世といふことは、但浮世といふ句も、述懐のこころなきは、平世なり。万事かやうの分別あることなり。他推して考しるべし。 ◇j12

長句短句続

 花前に上の句して、又花の句を撰ばれてする其次に又、出勝にも句前にも当てする事、少も苦しからず。長句短句のつづきたるなどいはぬ事なり。こゝろに差別するまでの事なり。 ◇j12
 むかし慈照院殿大原野の花見の時、宗碩一巡より下の句六句つづけ、裏一順にて長句一句あり。是は公家武家十八人の句並を揃んが為なり。尤、席ふりの事なり。 ◇j13

水辺

 水洗・水遣ふ・水、連歌に水辺なり。俳諧に用いず。
 雨に笠等す連歌に嫌ふ。俳諧、句作によりて苦しからず。雨に傘屋の類なり。 ◇j13

夕立

 夕立、連歌に、暮に二句。夕の字に五句。立の字に二句なり。子細は、昼過ぎより暮までに降を夕立といふよしなり。俳にこれを用いず。朝にも夜にも正しく降物なり。夕の字、立の字付てくるしからず。白雨と書くべきなり。
 野分、又同じ。暴風と書くべきなり。 ◇j13
木枯 木枯のさばきの事、木の字に二句、風体に二句、枯に折を嫌ふべし。凩と書事あれど、是は、木がらしの風といふものなり。木枯といふ句に木屋の腰かけといふ句あり。あしきなり。 ◇j13

<秘蘊集> 木がらしのさばきの事。大口伝なり。木の字二句、風体に二句、枯に折を嫌ふ。木の字は付句も嫌ふなり。風と云字出ても同事。

恵美須
恵比寿
 恵美須、連に神の内に入らず。俳には神祇なり。事代主命なり。(蛭子紙・ゑびす鯛の如きは、美名にして神祇にあらず) ◇j14
非山類 木曽路・鈴鹿路、非山類になり。遠く越る故なり。 ◇j14
非山類 小野の奥、芳野の奥、同前なり。 ◇j14
木の葉 木の葉、尤も連に冬なり。衣類なり。俳には、句によりて分別あるべし。 ◇j14
木葉衣 伏義ふっき・ふくぎ神農しんのうの別、今の世には木葉衣なし。 ◇j14
袖の露 袖の露、恋なり。句体に依るべし。 ◇j14
水鳥の巣 鳰の巣、連に雑なり。俳には、夏なり。水鳥の巣、都て夏なり。 ◇j14
鷺の巣 鷺の巣、水鳥にあらざれども、夏なり。 ◇j14

春宮

 春の宮、雑なり。東宮の御事なり。 ◇j14

草枕

 草枕、植物にあらず。迷路旅路or逆旅といふ事なり。草を枕せしも非植物。夜分に嫌はず。
 笹枕・苔枕苔莚、植物なり。
 ◇j14

村雨

 村雨、季なし。但、春秋春冬の句には付べからず。大方、夏秋の宵にふる雨なり。 ◇j14

玉柏

 玉柏、石の事なり。又、屋根の雪を落すものをもいふ。 ◇j14

かげろふ

 陽炎は、もゆるといはでもすなり。蜉蝣といふ虫なり。旦に生て夕に死すはかなきことをいふは、此虫なり。
 秋、蜻蛉をいふ。
 又、「日影に鳥の飛かげのきらりとうつる」をも、かげろふと云なり。是は、「かげろふ稲妻水の月」などいふ、それなり。
 又、「野もせの草」の草のかげろふ(よられつる野もせの草のかぎろひて涼しく曇る夕立の空 新古今・西行)は、日影を雲のさしおほひて、陰に成たるさまなり。
 此二つの物は雑なり。
 かの雲のかげ(影)は、「翳・陰」の二字を用ゆべし。 ◇j14

松の門

 松の門・杉の窓、板にていふなり。非植物。但、松の戸・松の住居など、隠者の住所に云立たるは、句の仕立によりて植物にもなるべし。
 楢柴は雑なり。椎柴は秋なり。 ◇j15

絵の花・紅葉

 絵に書たる花・紅葉の類、連に雑なり。二句なり。俳に嫌はず。但、扱へば、季を持なり。 ◇j15

田鶴

 芦鴨・芦田鶴、非植物。たづ、田に田の字付ても苦しからず。仮名にて書法なり。 ◇j15

夕闇

 夕闇、夜分なり。宵やみと云事なり。暮時分に嫌はず。 ◇j15

時雨

 時雨に時の字付ても、苦しからず。春日春日山に春の字・日の字、同前。 ◇j15

 雷に神の字、連に二句なり。俳に是を用いず。 ◇j15

軒の菖蒲

 軒のあやめ、連に水辺なり。俳に嫌はず。 ◇j15

非水辺物

 非水辺もの、連歌に、硯の水・軒の玉水・潦雲凌雲の波、新式にその数多し。但、雲水は水辺なり。雲と水との類、すべて俳諧には別物なり。
 屏風・几帳・数珠、連歌に用る品ながら、俳に用る時は、慣言葉なり。
 ◇j16

催事

追善

 追善の俳諧に、鬼の字・地獄の沙汰等、ゆめゆめあるべからず。 ◇j16

夢想

 夢想の俳諧に、夢の字あるべからず。 ◇j16

<秘蘊集> 夢想の会には、夢の字・左遷の噂、忌む。

わたまし
移徙

 移徙のはいかいに、燃・焼・倒るゝの言葉、尤禁忌なり。ためる・枯るなどの類も用捨すべし。其他推てしるべし。 ◇j16

元服

 元服に兀山・神無月の類、是等の心遣、句数多くわり直て、初心ほど句少くする、古例なり。初心の声先なりとも、宗匠の句あらば、是を付るなり。所詮さし合、去嫌の事は、時によつて捌かする事なれば、宗匠・巧者にまかすべし。 ◇j17

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 懐紙用捨の事 ◇j9-11

表に嫌うもの

 本式千句表の条、下に、古法表十句の例をまもりて、令式は表八句の後裏二句過ぎるまで、表のごとく嫌ふものの類、今に至るまで、連歌にはせず。俳諧にはゆるすべきか。
 師曰、「いはれなき事なり。連歌に鬼女竜虎など、さし出たる類は、表のうちに嫌ふ。俳にも鬼女は成がたし。其外、人を殺す切る縛る等の類、用捨すべし。是等は百韻の中にも一句に過ぐべからず」。 ◇j09
事更の祝言 或問、「恋の詞、述懐の類、祝言にいひ立たる句は、いかが侍らん」。
 答曰、「句によるべし。文字はくるしからず。仮令、祝言にいひなすとも、人のうへにいはば、述懐なり。花は淋しきの類は苦しからず。壁の崩れにさがる夕顔ならば、全く貧家の体なれば、慎むべし。他人の句は咎るに及ばず」。 ◇j10
下心に本説 又問ふ、「恋・無常、其外表に嫌ふ故事・本説を下こころに持て白地に云離さざる、俳のもののうへに仮用たるなどの句の類は如何侍らん」。
 答曰、「大方は表に嫌ふべし。事にもよるべきながら、詞に出ずして、下ごころに嫌ふことを持たるは、作者論べからず」。 ◇j10
表に人名 又問、「古今の人名、表に出す事いかが」。
 答曰、「その人の名は捨べし。古人の名は、ことによりて、苦からず。若し出る事あらば、其人合あるやうに句作すべし。変例なれば、常々することにあらず」。 ◇j10
恋の句 又問、「懐紙に恋の句なくては叶はぬや。是を好む所以は如何」。
 答曰、「此事は、至て大切の事なり。懐紙に恋の句を大切に目立る事は、神代、陰陽和合して、豊葦原草創の其例なり。恋なくては叶がたきにや。あらしむべし」。 ◇j11
一座一句の物 「一座一句のもの、連歌新式に、四十ばかり有り。別条にいへる鬼女・竜虎に一つなれども、俳諧には、いひかへて、又あるべきなり。たとへば、虎屋・虎之助の類なり。生類の虎のこころなければ、すべて本名異名なり。どちらにても一つ。異体は数をさだめず。俳は他は是に准ず」。 ◇j11

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此二ヶ条大切の習なり 尤可秘の之  ◇j16

指合繰る 新式の大意は、末座の人、初心の人、句沢山にするを押ためなり。此故に水辺にあらざる硯の水の類をも水辺近しとて執筆のくらば、初心末座のものは、それに任すべきとあり。
 爰は一筋あらんと宗匠などの案る所、初心の人無下に付侍らば、なきさし合もくる事、執筆の故実なり。本式にも記るなり。 ◇j16

 唱句の事  ◇j17-18

唱句 唱句は、漢にも倭にも、発句ならぬもの出し事基とする、是をいふ。歌にも、下の句を出して、上の句付る事、ありしなり。是より連歌も起りて、後に、百韻千句など云法は、定りしなり。其中に、狂連歌といふ、たはぶれたる詞のありしが、今の俳諧の連歌となれるなり。付合修行のにはママ、唱句もよろし。漢和は、第一、唱句より起るによりて、「漢和聯句」と端書をするなり。当流にて、今は好まざる事なり。

 五義の事  ◇j18-19

五義 歌の篇序題曲流、俳諧の日々にある事、其作意しらず。此五つ心に味ふ事、第一の事なり。未練にはいふまじき事なり。此五つの情、歌の五句に環のごとくめぐりて、一首となるものなり。 ◇j18

(親句・疎句)  ◇j19

親句・疎句 連歌に、親句・疎句といふ事あり。是をもて見れば、当流の平常の句は、疎の疎なるもの多し。この位、あやうき場なれば、当流至極の境と申すべし。されば、ますます疎句を旨とすべきな者ながら、親句はよせよせくさり鏈り正しく侍れば、神明に祈り、或いは祝言などの類は親句に仕立べし。其親句にあたる句をいはば、
   元日やはれて雀の物がたり   ※嵐雪
   磨直す鏡もしろし雪の花

 是等なるべし。
 疎句は、当流の常ながら、中にも当たりぬべきは、
   柴戸や錠のさされて冬の月   ※其角、猿蓑、此木戸と改
   鳶の羽もかいつくろひぬ初時雨

 いささかも題によせたる詞ははべらず。
 此境上も所以あるときの発句に、五音連声といふ事あり。相通をもて、五七五の句読をくさる鏈るなり。心・詞、正しく廻りあたらば、いかで連声に及ばん。是によりて、強て詞をまげ、相通をなさんとせば、句神をうしなひ、牛の角をためんとするにひとしかるべし。いかで、天地鬼神の裁応を得ん。
 又、其相通にてくさるを親句といふものと、心得違たるも有り。誤なり。 ◇j19

 てにはの事  ◇j20-21

てには① 翁曰、俳諧伝といふ事、世に周く多し。予、年来此一道にわづらひ、気力を尽す。神に詫し、因縁を尋て、時々妙有り。語事なく、いひはなすにあらず。
 われに、師五人あり。師として師とせず。
 俳諧に成就の時日は、ただ、差合くりと云はれんよりは、句者と云れんこそ、成就の本意なれ。此境は専要、外に云事なし。
 「御傘ごさん」はありといひ、亦見あたらずなどと、老顔したる宗匠のい いふ?稀々有り。芳席の不興、浅まし。
 貞徳も、全く「御傘」ごときに、本心を砕かず。道の草の鎌なり。なほ一座の了簡専要と書きたる高情に、心をとめぬこそ本意すくなきなけれ
 てにはは、先、姉小路殿の一巻、よく明らめやすし。堂上の各も、このてにはの外なし。 ◇j20
② 俳書諸註にさまざま名目をつけて、「武心哉、治定哉、或は疑のや、口のや」など、数々教はべれども、みな自在の格にあらず。本来、てにをはは、歌文章のうへにかぎらず。
 今に談話の上手も是にあらざれば、言のこころわきがたし。然れば天性おのれに備はれるものなり。此故に、いにしへは、てにをはを教るの書、なかりしなり。
 ◇j21
③ 世くだりて、人の心、凡俗になるが故に、みづから明らむる事かたく、書を得て学ぶに至る。ここに於て、歌には歌をもて、教ゆと見へたり。
 古人、てにはは公界くがいなりと云へり。まづ、此旨をさとりて、古歌古句を多くよみ、其自然をしるべし。
 ◇j21-22
④ 諸書の教、公ならざる事を年来愁侍りしに、近来桜井栂井、とがのい一室1722-91といふもの「てには細引綱網引綱、あびきのつな1770同「蜘の巣垣すがき、巣掻き1781といふ書をあらはす。其教るところの広大なる、是等に過たるはなし。よつて、此二書をもて、又、わが徒の学とすべし。 ◇j22
・ ④、「蜘のすがき」は、天明元(1781)年のもので、人名・書名もいい加減であるから、鳳朗の記述であることは、明らかである。これは、本来、頭注に置くべきである。
・ ①は、ほぼそのまま、「誹諧之秘記、端書」に利用されている。この書は、宝暦9(1759)年に「誹諧三部書」として板行されているから、鳳朗の捏造とは言えない。
 「五人の師」とは、「俳諧伝授」(淡々写)の注に、「重頼維舟・西武さいむ・正賢松堅?・西順さいじゅん・玖也きゅうや」とある。鳳朗は、推測で「貞徳・貞室・季吟・宗因・宗祇」とする。
・ ②は、「翁曰く」の中身か、鳳朗の蛇足かの何れかである。

 雑の句の事  ◇j22

雑の句 雑の句に、三つの義あり。
 一には、二季兼ねたる句。
 二つには、当季のものふたつ三つとり合せて、いづれの季を題ともわかちがたき句。
 三つには、当季ひとつにても其季を題とせず、其所を題とし、その事を題として、その季はあしらひものに仕立たると、なり。

 名所にもあれ、何事にもあれ、その題のために寄せたるは、雑の句にあらずして、題詠の格にはべる。 ◇j22
無季の句 無季の句、恋・旅・名所・離別・讃等には、まれに有るべし。わざと好みてすべからず。いかにしても、季の詞入れがたき時は、此格もしかるべし。 ◇j22
古歌・故事 古歌をとる事、和歌にては二句、或は、二句半取べきか。三句取る事、過分と申なり。
 発句には一句半までは、取べし。発句は上の句のものなるが故に、二句取ては、我が句とすべき所なし。此覚悟なくして、古歌故事を二句取体の句、見へはべるは、学ざる故か。猶、大切の覚悟侍るなり。口訣なり。 ◇j22-23
字余り 文字余りの事、天性文字の余れるは、ゑんわたし、延びのどやかにして、よろし。貞享の比までは、猥りに文字の余れる句あれども、当時はやうやく一二字に過ぎず。多く余れるは、宜しからず。 ◇j23
贈答 贈答の句、貴人に対して、素より称揚謙遜の事、常ながら、打付に其事を申は、宜しからず。高座、其外、時に随ひ、比喩して句作べし。
 平常の出会は、其時の宜きに応じて、いかやうにも挨拶すべし。
 又、挨拶の句、貴人は各別格別、尋常の人には下心の句もくるしからず。
 風雅の交宜交誼、嫌意なく、打やはらぎたる意なり。「山の井の浅くも人を思ふものかな」といへるは、貴き人に対しての歌ながら、さのみ㒸したる詞とも見へず。所詮いかにも風流に作すべし。 ◇j23
季句 季句といふ事、和歌に侍り。連歌にも用ゆ。俳諧にも、時にふれてすべき事ながら、殊別、耳立やうの句作は悪し。また、初心は、詞のいひかけにからまれ其を命なりとして、心そぞろに力をうしなはんか。猥にはゆるしがたくや。 ◇j23
<頭注> めづらしやを出羽のはつ茄子  ※いではの
    すずしさやほの三日月の羽黒山
  是、季句なり。
 ◇j23-24

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 俳言といふ事  ◇j29-

俳言 翁曰、連俳、元一なり。俳言はいごんとは、音にていふ詞を、都て連歌よりいふ事なり。連歌に出る音のもの有り。是を俳言といふなり。
 或は、「屏風・几帳・拍子・律の調子・侭ならぬ・胡蝶」の類なり。千句連歌に出る「鬼女・竜虎」、其外千句のものの言葉は、皆俳言なり。連歌に嫌ふ詞の「桜木・飛梅」などの詞、「無名抄」にも紹巴の聞書にもあまた見へ侍る。かやうの物みな俳言なり。 ◇j29-30
 但、俳諧に於て、俳言といふ事いはず。連歌より俳諧に対していふ事なり。
 俳諧にて是をいふは、他門はしらず、当流にては誤なり。 ◇j30
俗談平話 又曰、「俳諧は俗談平話なり」といふを、誤れるにや、俗語をもて俳諧と心得たる有り。道に委しからぬ輩なるべし。俗中の雅言は、俳諧なり。鄙俗語は、俳諧ならず。「俗談平話を正さんが為」なり
 鄙俗語とは、「鳶をとんび、雪隠をせんち、牛房牛蒡をごんぼう」の類なり。かかるたぐひは、都にて云騒し、平話たり共、用ひがたし。
 又曰、座頭といはんより、琵琶法師とは雅言なり。牽頭とはいはじ。「及キュウか?とは、今めかし。やりてとはいふべし。

 発句合の事  ◇j30-31

発句合 翁曰、発句合、衆議判と云は、連中会合して、論議批判するをいふなり。蛙合は、衆議判の格なり。故に、判者もはきとなし
 本判といふは、判者、必、序にても跋にても書なり。且又、句引までも作るなり。
 歌に歌合あり。是に格を倣ふものなり。
 又、即興の判は、左右に文台を立て、判者あり。難陳ありて、判者是を聞、それにもかかはらず、判を書なり。巻頭は多こそ。

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 文章の事

序跋

 翁曰、文章の事、惣名を文章と云。
 序に   曲序  来序  内序
   右三体あり
 曲は  其起るよしを云。
 来は  今より前の事を云。
 内は  其書の内の事をかく。
   此三体を兼て、一序に書事も有。

 又曰、跋はふみとどむるなり。序ありて後の跋なり。
 序も跋も其法は同じ。跋は序よりも猶委しく書くべきなり。ふみとどまりて、くはしくするの意なり。
 序・跋ともに、年号・月日を書事なり。
  但、年月日なしにも置あり。
  口伝、将序すれば必跋有りといふにもあらず。
  序ばかりも有。序跋揃たる時の書やう、口伝す。 ◇j31

 増補

六義

 翁曰、俳諧に六義取べからず。歌の六義も「古今集」にはあれど、義理合はず。六義は、侍の人の事なり。 ◇j32

 又曰、俳諧の書は、あながちに熟字をえらぶべからず。吟となへ清く調ひ字形の風流なるを用べし。 ◇j32

 又曰、俳諧集のもやうは、やはり俳諧集のうちにて作すべし。「あらの集」の献立を見て、我を折たり。

 又曰、六尺を越んと欲するものは、正に七尺を望べし。されど、こころうき時は、邪路に入安く、心ひくきときは、古人の骨中をしることあたはず。 ◇j32

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奥書等

鳳朗跋 直旨伝

直旨伝跋

 師説録に奥書ありて、此書にむなし。
 考ふるに、本一部の分別したるにて、二書、更に連綿たる故ならんか。されど、亦重んずべき、種々もあなれば、ともに猥にすべきにあらざるかし。
 予、亦諸書の類語を鼇頭ごうとう=頭注して、本義を照らし、又、一二の増補を追加して、序に其よしをここにしるして、慎をおぎなふものなり。
                       鴬笠居士 ◇j33

鳳朗跋 師説録

師説録跋

 二書の別て伝る所以は、序詞に詳なるが如し。
 然して、わが祖父此事を越人に受けて、反故の裏に書写す。古の間易(簡易)、しかも極めて麁なるがうへに、或は紙魚のために文字を欠かれ、垢の為に端を朽され、見るに甚心をわづらはしむ。仍てその紙魚の跡の欠字を補ひ、一々監義して、是を新たに明らかにす。然して、此二書天下普通に伝る所にあらず。珍書の極といふべし。秘壺せずんばあるべからず。今は是を万古に伝へて、道とともに不朽ならしめん事をねがふのみ。
  文政八年乙酉1825季秋日書
         鴬笠居士 印「鴬笠居士」

   文久二壬戌年1862
     仲夏刻成     芝飯倉五丁目
                万屋忠蔵 梓
  ◆s21-22
鳳朗頭注 直旨伝の序詞を考ふるに、翁いまそかりける比、越人の庫中に入りしとは見ゆるに、此書には先師と書れば、滅後手をいれたりと見ゆ。
 按るに、記事の侭にては事の次第もみだらなるべくして、貫通すべからず。されば、越人の編直せるならんと思はる。既に翁の死後に至ぬれば、先師と書きあらたむるならん。稀に翁としるせる所もあるは、其記事のままならん。これ等は事義にかかはらぬ事なれば、さばかり深きせんさくもなかりしなるべし。 ◆s21-22

 ➍ →資料「その4 鳳朗の祖父は、越人に会ったか」参照。

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資料 索引
その1元禄7年、芭蕉は、最後の旅で、芭蕉庵の資料をすべて持ち出したか。芭蕉の遺品
その2芭蕉は名古屋に立ち寄ったか。杉風宛書簡曽良宛書簡猪の早太
その3越人は、熊本へ行ったか。越人、九国へ肥後藩士 佐分利越人
蕉門諸生全伝俳諧者流奇談 夢の桟碧梧桐の炯眼
仮説 越人は熊本藩士であったそれからの越人 / 歳旦帳
越人の没年 / 誹諧古渡集越智越人略歴
その4鳳朗の祖父は、越人に会ったか。鳳朗の祖父鳳朗の父鳳朗の師
その5「直旨伝・師説録」の内容は、他の芭蕉の伝書と矛盾しないか。伝書・著作との整合
「直旨伝・師説録」と「元禄式」「笈の小文」「山中問答」・「二十五箇条」