誹諧之秘記

誹諧之秘記 索引

本式表表十句裏三つ物歌仙三十六
百韻といふ事よよしの事祈祷の誹諧之事誹は俳六義
十八・十九夢想之事賦物之事切字之事
恋の大習賦物之事2夢想賀の誹諧
千句短冊五文字にや哉留第三にの
若菜十二種春季之中馬酔木加冠の賦
第三名残のうら止字・句切・文字
皮肉骨二五・三四・五二・四三篇序題曲流発句三十体
付句六体主人公景感道奥書

 


 


誹諧之秘記

<解題>
 「誹諧之秘記(誹諧三部書)」(浪花書林文栄堂板、宝暦9(1759)年、早稲田大学図書館蔵)は、「蕉風俳諧作法伝書」の一つである。「三部」とは、「誹諧之秘記」及び「袖珍抄」の二書、並びに「本式古式」の一巻を言う。このことから「二書一巻」の別名もある。
 さらに、この二書・一巻に「俳諧伝授」と題したものが岩瀬文庫にあって、一巻の奥書に、「右晋子其〔角〕先生之箱中より及書写/半時庵淡々(模写花押)」とあると、書誌に記す。
 淡々は、元禄6(1693)年、20歳で芭蕉に入門、元禄13(1700)年、其角に入門した人である。享保19(1734)年61歳で大坂に帰り、浪花書林から板行の年は、86歳であった。なお、板行本は、淡々の写本と一致することから、淡々のかかわりが推測される。
 ここでは、三部書の内、「誹諧之秘記」を取り上げ、他の芭蕉伝書と比較し、その関連を見る。
 底本は、「誹諧之秘記」浪花文栄堂板。


<凡例>
・ 本文は、自分が読みやすいよう、表記を適宜変更した。
・ 関連がある伝書名を【墨付き括弧】内に示し、た。
 【埋木】 「誹諧埋木うもれぎ」は、芭蕉が延宝2(1674)年3月に伝授された北村季吟著の俳諧式目書。明暦2(1656)年成立。関連部分を赤字で示す。
 【直旨伝】 「蕉門俳諧師説録/直旨伝じきしでん」は、芭蕉庵に出入りした門人の聞き書きで、越人の元に遺されたものを、鳳朗が得て、文久2(1862)年に板行されたもの。関連部分を青字で示す。


誹諧三部書 一

誹諧之秘記

端書  はしがき
 誹諧伝といふこと、世に周く多し。予、年来一道に煩ひ、気力を尽す。神に託し、因縁を尋て、時々じじ妙あり。語事なく、いひ放すにあらず。
 吾、俳師としたる人、五人あり。師にして師とせず。
 俳諧に成就の時日あり。只、差合くりと云はれんよりは、句者と云はれんこそ、成就の本意。此境、尤も専要、外なし。
 「御傘おからかさ」にありといひ、亦見あたらずなどと、老宗匠の云ふ、稀々あり。芳席の不興、浅まし。
 貞徳、まつたく、「御傘」ごときに、本心をくだかず。道の草の鎌成べし。なお、一座の了簡専要と書きたる高情、心をとめぬこそ本意すくなしなけれ
 てにをはは、姉小路殿の一巻添物なり。堂上の面々、各々此てにをはの外なし。

 俳諧は、日本ひのもとのはいかいなり。
 口受法を知らずして、宗匠と呼に答ふ人、腹いたしといふも諌言なり。

                        ばせを 

直旨伝】 「外なし」まで同じ。「御傘」の読みは、その序に「声で読む」とある。音読みである。

 翁曰、俳諧伝といふ事、世に周く多し。予、年来此一道にわづらひ、気力を尽す。神に詫し、因縁を尋て、時々妙有り。語事なく、いひはなすにあらず。
 われに、師五人あり。師として師とせず。
 俳諧に成就の時日は、ただ、差合くりと云はれんよりは、句者と云れんこそ、成就の本意なれ。此境は専要、外に云事なし。
 「御傘ごさん」はありといひ、亦見あたらずなどと、老顔したる宗匠のいふ稀々有り。芳席の不興、浅まし。
 貞徳も、全く「御傘」ごときに、本心を砕かず。道の草の鎌なり。なほ一座の了簡専要と書きたる高情に、心をとめぬこそ本意すくなけれ。
 てにはは、先、姉小路殿の一巻、よく明らめやすし。堂上の各も、このてにはの外なし

* 「五人の師」とは、「俳諧伝授」(淡々写)の注に、「重頼維舟・西武さいむ・正賢松堅?・西順さいじゅん・玖也きゅうや」とある。鳳朗は、推測で「貞徳・貞室・季吟・宗因・宗祇」とする。


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誹諧之秘記

本式表本式表
 恋は入れず。神祇・釈教は発句。月・雪・花・ほととぎす・名所・寝覚め、此のごとし。
表十句裏 世に表十句は知る人多し。裏の詮義無沙汰なり。
   ウラは、古法二句也。秘也。此二句に恋を入るべし。今首尾の吟とて、表六句・裏六句するなり。自然、古法の表裏の数にかなひたる事、道の天然なり。

三つ物之事

三つ物 天地人の三つなり。
 歳旦は、天意尤もよし。脇、尤も地理なり。第三、尤も人意なり。此の心、得たる上は、いか様とも自由有べし。
 歳旦にかぎり、三つ物といふは、三の数、火の形、則ち陽を貯ふる祈祷あり。

歌仙三十六

歌仙
三十六
 歌仙三十六の数は、
 アナニヱヤニヱヤウマシヲトコニアヒヌ  十八
 アナニヱヤニヱヤウマシヲトメニアヒヌ  十八

百韻といふ事

 百句と成るとも、百詠百吟などといふべきを、いかに韻とは申すぞ。不思議申すべき様なし。知る人なし。誹諧の大事、是なり。此数、詩を以て割たる数にて、雪月花の用ひ所、明かなり。
  表八句 裏十四句なり。裏十六句と数を定むべきなり。律詩・絶句の姿の数也。
 仍て表の趣、
  起承転合  四句め迄、五句めより。
  起承転合  月の座、転の場なり。
 裏の月花の座、数へ候へば、起か転の所へ極めてあたるなり。再熟甘心少なからず。仍て韻の字済むなり。

よよしの事

世吉
四十四
 別条無し。五十韻は、半韻とて好まず。

祈祷の誹諧之事

 口受口授

誹は俳

誹・俳 誹は俳なり。カヘシ、ハイ、ハヒなり。
       別伝委 ※仮名反切

 仍て古今にも、いづれの字、用てもくるしからず候。宗祇文庫書に委細あり。清輔の不審と書きたるは、是を以て不念なり。;

六義

 誹の六義は連歌に預からず。歌道の六義也。
 そへうた也。よそへよめるなり。定家は色の見えぬを、其品物よせ合て、あらはるるなり。
 本意なり。鋪しくなり。故に賦をかぞへ歌と云ふなり。賦は、量はかりなり。
 なずらへなり。たくらべとも。物の物に似たる也。比喩たとえなり。
 たとへなり。そへ歌とは、顕蔵の違あり。似たる事にて少し違ひなり。
 物の成就して調ひたる体なり。ただこと歌なり。言雅意雅あり。意雅は治定なき体なり。言雅は言葉にあらはして、一句を作るなり。雅は、ただしきなり。
 いはひ歌なり。世を誉め、神に告るなり。祝儀なり。つき出して褒美したるは、讃頌の体なり。只神明に告る心、奉納発句に入体なり。

十八・十九

十八・十九
心切
 十七字のてにをはは常也。「十八」「十九」いふは、発句のあとへ、一字二字入て聞く句也。
 尤も、心切ともいふなり。

夢想之事

句数 発句ならば、表六句然るべし。夢想の句、短句ならば、表七句成べし。百韻悪しく候。歌仙、然るべし。賀の興行は、座短き、宜しかるべく候。表九句も同じ。
匂いの花一 匂ひの花といふ事は、千句と夢想にいふことにて、常の会に申さざる事、未練の次第にて候。意趣は、千句満座に香を焚き候故、匂ひの花と申候。夢想同意なり。

賦物之事

 賦の字説。 夢の字説。 ←※位置を誤る。
じょうふ うわふ
上賦
 上賦は、 山路やまじを「何路なにじ」と取る也。
げふ したふ
下賦
 下賦は、 山路を「山何やまなに」と取る也。
一字露顧 一字露顧は、 香は、蚊也。
二字反音 二字反音は、 花は、縄也。
三字中略 三字中略は、 あやめは、雨也。
四字上下略 四字上下略は、 うぐひすは、杭也。
 ・ 「ひ」のかな違へども、此類苦しからず。 ※定家仮名遣いでは区別する。
 ・ 「くひ」とは取がたし。訓あしし。口受口授
五字中三字略 五字中三字略は、 杜若は、肩也。
三字上下略 三字上下略は、 あやめは矢也。
無誹言 上賦下賦の外、誹言無くても、かまひ申さず。かまひ申すといふは、重秘を知らぬ人のいふことなり。

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切字之事

 切字之事、助字じょじ也。
 咄しにも切字あれども、一句の塩梅を知らず、切字とて極めて用ひて、いろいろの諧書といふ物に書きたり。尤も初心の為なり。この了簡まいらぬ中うちは、誹諧の成就にあらず。
此境偏に大事にて候。
もなし止め一 もなし留は、
 発句は、たとへば、馬に角もなし、と真に申を発句のもなしなり。
 第三は、牛に角もなし、と転じたるこころにて、第三のもなし。
みゆ止め一 みゆ留は、
    関のまがりにところ掘みゆ
    きつねの扇くはへ来るみゆ

 凡そ右の句にて、「フ・ル・ツ・ク」と字を入れて、心に「のが」といふ事をおもへば留るなり。
 たとへば、「来るのがみゆる」といふ、「掘るのがみゆる」といふなり。
 「いふ」までが、世に伝受なり、重秘は、何のおさへ字なくとも、随分風情みゆるといふを、「みゆ」残すにて留るなり。
 松のひまよりあはぢしまみゆ、とよみたり。此内に何のおさへがななし。考ふべし。
 一重に覚え論ずる者には、のいて通すものなり。和歌の道也。論じ勝んとすれば、我が大事を覚えず。無益にいひちらし、人の宝にすること、浅ましく見苦しき類ひなり。

てにをは止め
一 てにをは止めの脇は、万葉を濫觴はじめとするなり。大秘也。
 「けり」は「鳧」なり。「かも」は「鴨」なり。「捨也」はとまらず。「成」は留るなり。
第三
韻字止め
一 第三の韻字留めは、用体の有物にて、五文字のものにて留るなり。
 貞室、滝の月と留まられたり。奇異のためしなり。是にて格あるべし。
第三
一字韻字
一 第三、一字韻字は、「哉」に限らず。一字韻にて留るべし。
を回し一 を廻しは、上に「さへ」といひて、下に「を」と押へ侍るなり。二つ物をくらべ云ふにて、とまるなり。一つにてもとまるは、心に今一つ用ひてするなり。
大回し一 大廻切、好まざる事なり。
    つもりやせぬつもりやはせぬ花の雪
 「つもりはせぬ花の雪」と、まはるなり。
三段切一 三段切、物を三つ分つ事にて子細なし。
    霜は今朝峰の木に布しく関の花
三字切一 三字切
    かいで見よ何のかもなし梅の花
 梅花清香の外、汚穢の匂ひなきといふ心なり。たとへば、
    見わたせば雪ほど黒き物はなし
 といふと同意なり。「雪の白きに対する物なき」といふことなり。二字三字の格。
埋木】三字切
    かいで見「よ「何のかもなし梅の花
し止め一 過去・現在・未来の「し」は、
 「い」に通ふ「し」、現在なり。切字なり。
 「た」に通ふ「し」は過去なり。切れざるなり。「た」に通ふ「し」は過去なり。切れず。(重複ママ)
 未来は、「あるべし・なかるべし・あらじ・なるらし、霧し留、人し」、などいふ格なり。切字に成るなり。
埋木】三しの事
 ふかし・とをし・おほしなどは現在のしなり。
 あるべし・なかるべし・あらじ・なからじ、などは未来のしなり。
  此二つのしにては切字になるなり。
 ありし・思ひし・なかりしなどは、過去のしとて、切字にならざるなり。さきにひく所の「夜め遠め」の句は、現在のし。「あのよなるも及ばじ」といへるは、未来のしにて侍るなり。
なれや止一 なれやは、成哉なるかな・にてに通ふ。

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各記

恋の大習

恋の大習一 神祇・釈教、恋の大習と申事あり。連歌何もこと外ように秘し申事也。
 予、世の中の宗匠を考ふるに、この重秘をしらず。露沾公へ伝へ申したる外、他言なし。
 たとへば、恋に結びたる神祇は、神祇の句に二句去なり。是を三句去と覚え、捌事未練なり。釈尤も同意なり。
 神祇と神祇と三句去なり。恋の情の神祇格別なり。

賦物之事

賦物一 賦物之事、さまざま説どもあり。心用しんようしがたし。連歌はニイハリ新治ツクバといふ、「やまとだけママ」の句より濫觴として、うたふ心の祈祷なれば、賦の字は「やまとだけ」といふ心にて、書くと申すこそ、後人の説にて用ひ難し。
   賦 日下武 賦 点なし 賦 武家祝儀の会
           新宅    此一格なし、賦用ひず

 篇を書くに、日下と心に思ひて書くべしといふ。甚だ異説の事成べし。賦物は歌の懐紙の端作りに准じたる事にて、外にむつかしき子細なし。
 賦、うたへをうたふ心にて、なぞ気成べし。
 上古、端シ無シ事といふ事あり。其心まつたくあたる也。
 本式の面は、賦物十句へ通ふ様に取ること、是以て後人の説なり。
 最初表十句いたし候時分、左様のむつかしき委細の事はつくらず。只一通りにて候。
 然れども十句へ通ふ様に取申すも一興成るべし。
 手柄顔致し申事にては、毛頭あるまじく候。
 賦の専要の大事は祈祷にあるべし。口受口授

夢想

夢の字説 夢想之事、夢の字に書様之在り候。かの賦の字をいふ輩ともがら、夢の字は、
   夢異体字とも   夢異体字2とも   書也と。

    艹罒日夕     艹罒     との割字也。
 いつとても、天神の御日の前夜を取ゆへ、艹罒のと書くといふ説、甚だ不届の事、人をまよはし伝らしむ。
 各々連歌師の申すことにや。受用して申あへる者数多なり。夢の字、何の心なし。
 夢想をひらくは、当前の祈祷、賀儀かぎの心、わたくしあるまじきなり。ひらくに別条無し。床に聖像をかけ、焼香絶ず、執筆計乙なし。甲とも。
 夢想に、亭主脇をすれば、宗匠第三もするなり。一順済みて、一家の総代と書てするもあり。又、第三に総代として、一順を付るもあり。いづれも苦しからず候。
※ 祭神菅原道真の命日が25日なので、前夜は「廿四日の夕」となるという浮説。

賀の誹諧

賀に
呼付付句
 かかる時、呼付つけ句といふをきらふなり。「かな」といふ発句に、「しき島」の類ひ。
 「玉柳」、いむべし、「たまやなき」といふに通ふゆへなり。

 「かなしき」と呼かける故なり。
 新宅其外、賀の誹諧の心得成べし。
埋木】祝儀祝言の心得
 宗祗、言ふ。祝言の発句に「かな」ととめ候はんに、脇のはじめのことば、「しきしまの道」などやうのこと、すまじきなり。「かなしき」と、読み続けらるゝゆゑなり。また、脇のとまりに「うれしき」など、とめ候はんと、かなしきと文字ならびてあしく候ふ。
 すべて、玉柳などいふ詞、心すべきなり。「玉や、なき」と言ふにも、よまれ候へばなり。これにて、よろづ心得べきなり。

千句

執筆 千句の仕やう別条無し。凡そ執筆三人より五人まで、宗匠の数ほど然るべし。宗匠十人に執筆十人と申事にてもなく候。
宗匠 宗匠も三人より五人迄然るべし。聞宗匠、助言宗匠、句宗匠とて、三人是非あるべし。朝明六ツ粥をたべ申候、昼七つ頃に満座然るべく、はやく仕舞候はば、追加宴然るべし。

短冊

短冊掛け一 たんざくかけ、巾二尺五寸、高さ一尺四寸五分。一尺五寸もよし
角足一 角足かどあし当日の発句かけ、短冊十枚也。竹釘打なり。
短冊寸法一 短冊寸法、巾一寸九分・二寸一分、又一寸八分よし。十百韻にて候へば、百韻出来以後、たんざく一枚がけ候、順々かくの如し。

五文字にや

一 五文字にやと切らんと留る発句のときは、いつにても也やなり、哉やなり定まらず。捨やにては、うたがひになり、留り申さず候。

哉留

一 哉留多くとまらず。
  賢なる哉此人の外なし
  貧なる哉此人の外なし
 草木准じて、花哉、柳哉、心哉、物二つ言てはとまり不定に候、考ふべし。

第三にの

一 第三にのと留る、奇異の事のやうに申し伝へ候へど、除字てにをはといふて、ほのぼのの歌の体なり。たとへば、きよめてのと留るは、きよめてなりのは除字のてにはなり。各之に准ず。かやうの事を世に杉形りのてにはなどと誾るののしるなり。のいて通すべし。論ずべからず。

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若菜十二種

一 若菜十二種、多く知らぬ人あり。仍て之を記す。
 薊あざみ・苣おおばこ、ちさ・芹せり・蕨わらび
 薺なずな・蔡(*葵あおい)・蓬よもぎ・氷蓼みずたで
 水雲もずく・芝しば・まんねんたけ・菘からし、たかな、こおほね・土玉(菌くさひら)。
 この中、菘はさまざま説あり。白河院に松を奉る僻事ひがごととあり。大外記師遠もろとおと云ふ。
 大根也、之を用、二条家(*良基)の説なり。

春季之中

一 春季之中に
 箱鳥・貌鳥、各々うぐひすのやうに覚えて春に用ひ来れり。不吟味なり。雄略記にみえたり。鷲也、梟也、雑なり。源氏にもよめり。かかる事も、我はせずとも、人のとがめず過ぎぬべし。論ずべからず。

馬酔木

一 馬酔木と書きたるあせみは夏也。あせみ花咲くとよみたるも夏なり。俗に云ふアセボなり。馬の酔ふ木、古事夏なり。

加冠の賦

一 加冠の賦と云ふ事あり。たとへば、舜しゆんといふ付に、草冠をして、蕣と成るなり。奇異の例なり。

一 脇はひつとり付、心付、うちそへ、ちがひ、ころ留りなり。箇様之事は、未細みさいにするに及ばず。誹諧成就なければ、書きても益なし。満足すれば自然と済む事なり。

 賀の仕やう  口受(口授)

第三


発句・脇・第三
一 第三たけ高き句よろし。
 桜・花・梅柳・松竹・花を待開くママ・玉すだれ・まきの屋、此外いろいろ然るべきものあり。是は別段の脇の心なり。未練成就の味はひ、子細に及ばず。其内、祝儀の発句にわすれても、千とせ、千代などとかぎりたる句悪しく、多くある事なり。
※ 「賀(祝儀・祝言)の発句・脇・第三」とあるべき。
埋木】祝儀祝言の心得
   また、言ふ、祝言の時、発句・脇・第三の句などに仕様のこと。 「桜・花・梅・柳・松・竹・花を待・花ひらく・めぐむ花・花おそし・木のめたつ・若葉しげる・木玉の砌・玉しく庭・玉すだれ・まきの屋・甍かさなる・軒のつまづま・門道のゆきゝたえやらぬ・里々の行かひ・駒はなちおく」このごとく然るべく候ふ。  また、言ふ。祝義の時「松は千代・千年」などと、限りを定めざるよし。さりながら、かたづくべからず。 「花をうゑそむる・小松うゑ・(小松)ううる」など、然るべく末をかゝへ候ふことよし。

名残のうら

名残裏一 名残のうら一順などは、句の事を捨て、いかにもすらすらとすべし。多くかかる無益の所なり。骨を折り、一座誹諧も興ざめ、板行にしても、くどくどと誹諧の拍子、跡へもどるものなり。
直旨伝】名残裏
 翁曰、名残の裏は句の事を捨て、いかにもすらすらと句作すべし。不深切にやり句するやうにせよとにはあらず。今更事をもとめ、耳立やうの事を慎べきなり。又句並を追ふにも及ばず。
 揚句は付かぬやうにといふ古説も、一句に成て、一座退屈し興醒るゆゑにかくいふなり。

(止字・句切・文字など)

重ねらん一 かさねらんは  とめざらん物ゆへまりをけあぐらん この格なり。
埋木】 かさねらん
    とめざらん物ゆへまりをけあぐらん
    秘所ぞうきしるらん事をかくすらん
一字撥ね一 一字はねとは  なん、みん、せん等なり。
埋木】 一字ばねとは、
 押字なくて、はぬるなり。
 たとへば、「なん・せん・みん」、などなり。
二字はなし一 二字はなしとは 前句の押へ字をうけてはぬるなり。
埋木】 二字はなしとは、
 二字はなしとは 前句の「や」をうけて、はぬることをいふ。
三字加へ一 三字加へとは   たとへば、玉藻さくといふ句に、前と付、花に末摘と付る類ひなり。
※ 玉藻前たまものまえは、殺生石になった伝説上の姫。
埋木】 三字くはへとは、
 宗養、三ヶ月に原と付け、老にその森とつくる類なり、との給へり。はいかいに言ふ、
    ┌ 手折て供にもたせぬる萩
    └大水も心かくらし玉まつり
四字不同一 四字不同は    松と藤とあり。前句に風と波付るなり。
埋木】 四字不同
 宗養言ふ。松と藤と有る前句に、風と波と付るなり、云々。
 愚案ずるに、松に風はくるしかるまじけれど、藤に浪は、今の世のはいかいならば、うしろ付とやいはん。それもまた、句の仕立やうによるべきにや。
治定のか一 治定の乎は    のみか也。尤もてと留るなり。
埋木】 治定のかと言ふ事
    花のみ若衆ざかりもしばしに
 この「か」にては、「て」ととまるなり。また、
    あらそふもちをねずみのひいてい
 かやうにてもとまるべし。
句切連歌  句切連歌といふ事あり。季吟誹諧の句に、
   付句
   ○ まあをなはただ松ばかり。紅葉して
 句切連歌とは、後人の名目なり、歌にわかれ、てにをはといふものなり。
埋木】 句切連歌
 彼の宗養の抄物に、句切連歌と侍るは、一句のうちを、句をきりて、きく所あるを言ふとぞ。長頭丸、をしへ玉へりける連歌の句、これを略す。
    ┌ 世にそまらざる気だてとぞしる
    └まあ紙花はたゞ松ばかり。紅葉して
重又・地又一 重ね又地又は   二度ある事重又、誓ひたるは地又なり。
埋木】 又といふ詞に、
 重又、地又と言ふ事有り。
  重又 また留守をして茶磨ひけとや
  地又 とあふそもじならねばなごりをし
すみのてには一 すみのてにはは  七もじの留り字なり。てにはにてなきをいふ。なり留、此格なり。
埋木】 すみのてには
    のびあがりのぞく垣ごし_花ありて
    すんずりとしたる松陰_駒とめて

 かく、のこしをくてにをはに、一句のたけたかくなるものなれば、第三などせんに、この心ばへありてよきぞと、返す返すぞ、の玉ひけるを、今に小耳にはさみて、忘れがたく、げにげにと思ひ出る折々、おほく侍るぞかし。のちの、これをみん人、かならずかならず、ゆるがせにおもひなすべからず。

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皮肉骨

皮肉骨一 皮肉骨かわにくほねと三つにわけたる体有り。
 予、年来是を工夫するに、一句一句に皮肉骨ひにくこつ調ひ、申物なり。
 骨をせんと考へ、皮をなさんと思ひ、肉をつけんとおもふは、此道の大煩ひなり。
 自然と満足の誹諧は、ととのほひ、未練の人に教へても、埒せぬものにて候へば、此境執行しつぎょうあるべし。
 真草行、右同断。
直旨伝】皮肉骨
 皮肉骨と三つにわけたる体、予、年来是を工夫するに、一句一句に、皮肉骨、調ふ物なり。
 骨をせんと考へ、皮をなさんと思ひ、肉をつけんとおもふは、此道の大煩ひなり。
 自然と満足の俳諧は調ひ、未練の人に教ても、埓せぬ事なり。此境、修行すべし。真草行も同断なり。

二五・三四・五二・四三

下の句一 下の句に、二五・三四・五二・四三といふ事、いかにも覚えねばならぬ事なり。
 二五、三四とは、
   まさに時節を  さくさくら花
   待たる君に   来たるあかつき

 五二、四三とは、
   橋翻ひるがえり ほととぎすなく
   峰の旅人の   行衛もしらず

 二五、五二別条なし。三四心よく、四三よろしからず。好まず候。
 然れども、千句などには。
直旨伝】付合下の句
 付合、下の句に、二五・三四・五二・四三といふ事、いかにも覚ねばならね事なり。
  二五 三四とは
   まさにしぐれをさくさくらかな
   待たる君に来たるあかつき
  五二 四三とは
   橋翻りほとゝぎすなく
   峰の旅人の行衛もしらず
 二五・五二、別条なし。三四心よく、四三よろしからず。好ざるなり。然ども、千句などには
、場に任すべし。

篇序題曲流

 歌の篇序題曲流、当時誹諧日々ある事、其作者しらず。此五情心に味ふ事専一なり。未練には云ふまじき事なり。

発句三十体てい

三十体 十体の内より出る事なり。発句の心得にいかにも成るべし。自然とよろしき句は、三十体の内、いづれに成るとも、叶ふ物なり。
                      こうざん
 ○幽玄体 ○行雲  ○廻雪  ○長高  ○高山
                 ぶつあい  ふめい
 ○遠白  ○澄海  ○有心  ○物哀  ○不明
  りせい  ぶみん   しきょく  りてい   ぞんちょく
 ○理世  ○撫民  ○至極  ○麗体  ○存直
  かれい  しょうてい ちくてい  しかるべきてい
 ○花麗  ○松体  ○竹体  ○可然体 ○秀逸体
            めんはく  いつこう
 ○抜群  ○写古  ○面白  ○一興  ○景曲
  じょうてい みよう  いつせつ  りやくき  ごうりき
 ○濃体  ○見様  ○一節  ○拉鬼  ○強力
直旨伝】 三十体
 翁曰、発句案る時、和歌の三十体、つかまへ方より案じ力なり。いかにも発句の心得に成べし。よき句は自然と三十体のうち、いづれになりとも叶ふものなり。
  幽玄体 行雲 廻雪 長高 高山 遠白 有心 物哀 不明  理世
  撫民  至極 澄海 麗体 存直 花麗 松体 竹体 可然体 秀逸体
  抜群  写古 面白 一興 景曲 濃体 見様 一節 拉鬼  強力

付句六体

付句六体  ヒツトリ クラベ ヒツパリ クリツケ ウミタシ ヨソヘ
直旨伝】 付合六体
  ひつとり くらべ ひつはり くりつけ うみ出し よそへ
  是より別れて、万体に変ずべし。変体等を定べからず。広く自然なるを専要とすべし。

主人公

 右発句題、之在る時、つかまへかたより案じ力ちからなり。 発句は多く物語の様々ようよう成る者なり。兎角主人あるじきみをたてて、いかにも句に成るやうに作配さはい可然、主人公しゆじんこうなきは、絵にかかれぬものなり。
直旨伝】 三十体
 翁曰、発句案る時、和歌の三十体、つかまへ方より案じ力なり。いかにも発句の心得に成べし。よき句は自然と三十体のうち、いづれになりとも叶ふものなり。

景感道

 ここに、我家の記に、景感道と云ふ書あり。

※ 猪苗代兼載1452-1510撰、連歌の伝書。室町中期の連歌師。心敬に師事、文明7(1475)年上洛、宗祇の支援を得て、連歌師として活躍。「新撰莵玖波集」編。没59歳。

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奥書等

巻末

ばせを在判 

 誹諧之秘記

巻頭

 誹諧秘記 一書 百韻四十四歌仙去嫌夢想其外秘することどもいたす
 袖珍抄 一書 発句十八の切字其外手尓葉の伝来を悉くあらはす
 本式古式 一巻 誹人席に臨むとき心得るべき事を記す


 誹諧之秘記 全

浪花書林 文栄堂 / 翰林堂 / 文観堂 

 誹諧三部書は、宝暦9(1759)年板行。

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