白砂人集

白砂人集 索引

序文切字切字の事表八句の心得
第三四句目~てにをはの秘事・押え字らん止て止
連体修飾係結び下句の音節構成出席心持奥書

 


はくさじんしゅう

白砂人集

<解題>
 「貞門誹諧作法伝書」の一つ、松永貞徳編。芭蕉が学び、伝えた書の一つである。

 「芭蕉俳諧を継承した許六の説」をとらえる一助として、ここに挙げる。

 底本は、
   ① 「正風芭蕉体奥義伝秘蘊集(付、白砂人集)文鳴(写) 八戸市立図書館蔵」、
   ② 「白砂人集、支子文庫・九州大学附属図書館蔵」、
   ③ 「白砂人集、安永2(1773)年、貞門可道(写)、早稲田大学図書館蔵」、
   ④ 「古今伝授・和歌教訓・白砂人集、明和9(1772)年、許六門守鳳(写)、富山市立図書館蔵」、
  以上4巻。


 

凡例

 底本①は、自称五世の文鳴が伝授したものなので、これを基とした。しかし、①は意味をとらえにくいため、底本②③④を参照した。①の誤りは概ね②で補うことができた。

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底本①


白砂人集
文鳴本

 底本①は、「自称五世」の「文鳴」が筆写したものである。しかし、読み取りにくい記述であること、読み手を考慮しない独特な書体であることなど、難点がある。
 読み取れない部分は薄赤等で示し[専ら底本②の記述を括弧内に補った]。
 底本③④の記述は、③〔底本③〕のように、○数字を示した。

底本②

白砂人集
支子本

 底本①の不明部分は、ほとんど、この支子くちなし本で解決できた。伝の経路未詳。

底本③

大秘伝
白砂人集

 題を「大秘伝白砂人集」とする。貞門の伝書。

底本④

白砂人集
白馬本

 序の題に「白馬」とある。同載の「秘書要決」は許六門の伝書。

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許六門孟遠著「秘蘊集」

白砂人集

底本① 文鳴本

 夫、和歌は、神明の内証、仏道の妙理なり。
 また連歌は、人皇十二代景行天王の御宇、日本武尊、新治の筑波を過ていくよかねつると、上の句ばかりあそばされしことより始り、はいかゐママは猶、久かたのあまの浮橋のもとにして、うましをとめにあひぬと、の玉ひしより、今に至るまで、世人翫びて事最も不少※1
 予、生て壮年の後、此道に執心ふかく、此一巻、古賢連歌の至極を記し過にして正※2いつの比にや、三井寺に法橋紹巴の玄仍にわたさるるとて、筆を染玉ふを、予、秘写して宝とするといへども、道にふかき門弟二三子にあたふ。
 必、汝の宝とせよ。人にしらす事なかれと、仍て愚書をまじへて、号、  白砂人集。

※1 底本②③④により、
 世の人、これを翫ぶこと、尤ももっとも=いかにも・当然少からず。
 と、了解。

※2 底本③④により、
 古賢連歌の至極を、記し過ぎにし天正
 と、了解。

底本② 支子本

 夫、和歌は、神明の内証、仏道の妙理なり。
 人王十二代景行天皇の御宇、日本武尊、新治筑波を過ていくよかねつると、上の句斗遊されしより始り、誹諧は猶、ひさかたのあまのうき橋のもとにして、うましをとめにあひぬと、のたまひしより、今に至るまで、世人翫之事、最不少
 予、生れて壮年の後、此道に執心ふかし。此一巻は、古賢連歌の至極成、記し過にして正いつの比にや、紹巴法橋、玄仍へわたさるるとて、筆を染給ふを、予、秘写して宝とするといへども、道にふかき門弟、二三子にあたふ。
 必、汝の宝とせよ。人にしらす事なかれと、愚書をまじへて、号、白砂人集。

底本③ 大秘伝白砂人集

 大秘伝白砂人集

 夫、和歌は、神明の内証、仏道の妙理なり。
 又、連歌は、人皇十一代景行天皇。日本武尊、にいはりの筑波をすぎていくよかねと、上の句ばかりあそばされより始り、俳諧は猶、久かたのあまのうき橋のもとにして、神かたらひ給し時、むまし乙女にあひぬと、の給しよりおこりて、今にまで、人翫之事、尤不少
 予、生千載の後、此道に執ふかし。此一巻は、古賢連歌の至極を記し過にし天正いつ比にや、三井寺にて、法橋紹巴の玄仍にわたさるとて、筆を染玉ふ。予、秘蜜秘密して、宝とするといへども、道にふかき門弟二三子にあとふ。
 必、汝がたからとせよ。人にしらする事なかれと、仍、愚書をまして、白砂人集と号す。

底本④ 白馬本

 白馬記

 夫、和歌は、神明の内証、仏道の妙理なり。
 人皇十二代景行天皇の御宇、日本武乃尊、新治の筑波を過ていくよかねつると、上の句ばかりあそばされしより始り、俳諧は猶、久かたの天のうき橋の本にして、うましをとめにあひぬと、の玉ひしより、今に至るまで、世の人、是を翫事は、尤少からず
 余、生れて壮歳の後、此道に執心ふかし。此一巻は、古賢連歌の至極を記し過にし天正いつの比にや、三井寺にて、法橋紹巴の玄仍にわたさるるとて、筆を染たまふを、予、秘写して宝とするといへども、道にふかき門第子門弟子二三子に与ふ。
 必、汝の宝とせよ。人に伝ふる事なかれと、仍て愚書をまじへて、号、白砂人集。

芭蕉 

 底本①文鳴本で読み取れないところは、底本②③④で解決した。


 それ、和歌は、神明の内証、仏道の妙理なり。
 また、連歌は、人皇十二代景行天皇の御宇、日本武尊「新治 筑波を過て 幾夜か寝つる」と、上の句ばかりあそばされしことより始り、俳諧は猶、久方の天の浮橋のもとにして、「うましをとめにあひぬ」と、(伊邪那岐命が)宣ひしより、今に至るまで、世の人、これ俳諧を翫ぶこと、尤も少からず。
 予貞徳は、生れて壮年の後、此道に執心深く、此一巻、則ち古賢連歌の至極を記し過ぎにし天正いつのころにや、三井寺に法橋紹巴の玄仍にわたさるるとて、筆を染め給ふものを、秘写して宝とするといへども、道に志深き門弟、二三子に与ふ。
 必ず、汝の宝とせよ。人に知らすことなかれと、よりて愚書を交へて、「白砂人集」と号くなづく


 底本①は、文化4(1807)年の写本で、上記のようにおざなりな記述が目立つが、「秘蘊集」「秘書要訣」を同時に載せ、刊記により許六門の伝書と確定するので、以下、これを元にする。

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白砂人集

(切字)

切字、五つ一 発句に於て、さまざまの習あり。
 初学のうちは、切字むつかしきといふに、五つのさまあり。
 一には落着のかな、二には願の哉、三には 浮たるかな、四にはしづむ哉、五つには現在の哉といふ、是なり。
 現在の哉といふは、「し」の字きりて、又哉と留る事なり。
  山遠し花ゆへ曇る霞かな
 これ、現在のしなり。是にて切るる。哉ととまらず。二重きれなり。
  あかねさし出てもくもる春日哉
 是、現在の「し」なれども、「さし出る」とつづき、「くもる」ゆへに、苦しからず。大事の秘事なり。
や-かな一 やといふて哉と留らず。
 されども、又、口合のやとて、「住よしや、逢坂や」などの「や」文字は、「名所のや」ともいふ。哉とも留るなり。
  しぐれ来や雲に露けき山路哉
 是はけりといひ、心のやなり。哉とも留るなり。
切字の事
切字の事   切字の事
 哉・も哉[もがな]・や・そ・か・めり・けり・ばや・はなし・もなし・めや・なれや
 ちと心得ある[心得たる]切字は、上手の句にしめす。左のごとし。
※ 「もがな」は、【もが+な】である。
  寒し山本かくす峰の松   [雪遠し山本からは峰の松]
 現在のしなれば、きるるなり。
  雁の声秋にも越つ雪の山  [雁の声秋にも越つ雪の山]
  きかざりき秋の都のゆきの山
  秋更ぬ松の夜あらし沖つ風
 是は「畢ぬおわんぬ」とて、切るるなり。
 「ふのぬ」とて、「あらぬ、みへぬ[見ぬ]、しらぬ」などといふは、きれぬなり。
  忘れじな神のむかしをまつの花[わするるな神の昔を松の花]
 此「な」に心得ある事なり。「忘れじな[わするるな]神の昔を」と、押[ゆ]るなり。
※ 「[忘れ+じ]+な」は、「忘れないぞ」の意。
いく  いく盛りいく木の花の神桜  [いく盛いく木の花の初ざくら]
いさ  花はいさ人より柳桜哉    [人はいさ人こそ柳さくら哉]
さらば  さらば世に知らぬ鳥なれ郭公
かは  おもふをば思はぬ世かはほととぎす[思ふとも思はぬ世かはほととぎす]
やは  都やは紅葉の庭の峰の松
らん  月細し桂や茂りかくすらん
 是は、はね字の発句とて習ひあり。なかなか、むざと[習ひ有ながら、むざと]せぬことなり、とぞ。其上[そのかみ]名将[宗匠達][③名匠]も、せずに過ぎしもあり。又、一世一句ありとなり。
下知 此外は、下知したる詞、「ふけ嵐、鳴け小鹿、咲けさくら、月をみよ」などの類なり。
心の切字 また、上手の句に、表にみへぬ切字有なり。心の切字とてむつかし。
  あなとうと春の日みがく玉津しま   ※たふと
  五み雨[五月雨]は峰の松風谷の水  ※心敬僧都
  花は紐柳は髪を時つ風

 右、何れも切字みへず。心得有なり。
上手の句 又、上手の句に、
  吹あらし散やはつくす柳哉  [吹けあらし散やは尽す桜かな]
  鐘淋し誰にねごとの霜夜哉  [鐘淋し誰に寝よとの霜夜かな]

 右二句、二所、三所、切字有りしといへども、上手の手段難斗[右、二所も三所も切字有といへども、上手の手段はかりがたし]。

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表八句の心得の事

発句一 先、発句は大将軍なれば、花実相備り、位高く、句がらあらまほし。其うへさし合、さり後の悔と云々[去嫌なければいかにもよき句をせらるべし。短慮は後悔と云々]。
 殊に百韻ともつづくる巻頭は、折にふれて脇の句からげたりければ、公家の上座、百姓のなをりたるやうなり。
(脇)
一 脇の仕やうは、発句の云のこしたるを以て、其末を次やうにすべしとなり。

本意

 一ふしてだてをなし、爰やうに[てだてをなしたきやうに]思ひては、脇の本意にあらず。

仕様
 又、脇に五つの仕様あり。一には相対付、二つには打越付、三つには違ひ付、四つには心付、五つには比留り。
発句・脇・第三
 発句は亭主、脇は客なり[発句は客人、脇は亭主]。第三は、相伴のごとし。
 底本③「発句は亭主脇は客人第三は相伴のごとし」
 底本④「発句は亭主脇は客人第三は相伴のごとし」

止め字
 脇、てにをはにとめず。文字か物の名にて留るなり。
  とくひらけ梅はつぼめる片枝哉
   雪こそ花と霞む春の日
  梅の花と草木をなぜる匂ひ哉 [④宗祇]
   庭白妙の雪の春風     [庭の白妙の雪の花風]
 [③庭白妙の雪のはる風]
 [④庭の白妙の雪の花風      仝]
(第三)
第三 第三は、脇によく付ずとも風体を飾り、優に丈高く、のびのびとすべし。
第三
し-て
 是にも「現在のし」入れては、「て」と留らず。「過去のし」は苦しからず。
  里遠し行もつづきぬ山路にて [里遠し行も尽せぬ山路にて]
 是、現在のしなり。てとは留まらず。
(四句目~)
四句目一 四句目は、脇より引き下げて、安々と付べし。四句めぶりとて、軽きを本とす。毛髪に芭蕉をくくりたるやうにすべし[くくり付たるやうにすべし]※1
 留りは、「けり・なり・そな」[「けり・なり・さ」]※2などと、留べし。
※1 底本③「かろきを本とす。毛髪にばせをくくりたるやうにすべし」
※1 底本④「軽きを本とす。毛髪に芭蕉をくくりたる様に」
  →いづれも、了解不能。

※2 底本③「けり・なり・さ」。
※2 底本④「けり・なり・ける」。

五句目一 五句目は第三の体をかかへとり[かたどり]、長高くあるべし。
 留りは「らん」か「けらし」などにてよし。
まとめ 総て発句は哉、脇は文字、第三はて、四句めけり、五句はね字と、かよふかやう・かよう[か様]にしたるがよく候ふ。
六句目一 六句目は、脇のごとし。相添て[打添て]付るなり。
七句目一 七句目は五句よりかるく、風景に付べし[風景にすべし]。
八句目一 八句目は四句目になぞらへて、安々と、句がらも重からぬを、八句めぶりといふなり。

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てにをはの秘事

(押さえ字)
にて止一 にて留りに置おく押字おさえじ 「を・は・も・から・ぬ」
 此かな、なくては、「にて」ととまらず。
~見ゆ。一 下の句、みゆに置押字 「へ・る・む・く」 此かな、なくては、「見ゆ」留りならず。
  秋は山道の色かはる見ゆ  [秋は山路の色かはるみゆ]
~つつ。一 下の句、つつ留まりに置押字 「を・も・ね・とて・つ・は・に・れ」
 右、口伝あることなり。
~て。一 下句、て留、千句にも一つあり。[千句にも一つあり。] 「は・す・て」 此、万代秘伝の押字なり。
に止一 に留り、上にいふきれかないらねば聞にくし[に留りの上に、いひ切る仮名なくしては、聞にくし]。
て止一 其よかな三文字上に入れてはてと留らず。但し、押字有て大事なり。[そのよの三字、上に入ては、て留らず。但、押へ字有なり。大秘事なり。と文字なり。]
  身のかぎり今とぞ知らばかしこくて
 これ、にてはと、留らず[にては、とまらず]。
  身のかぎり今ぞと知らばかしこくて
 是ぞと、ともどもに押へ、留るなり[是ぞと、と文字、おさゆるなり]。
に止 2一 「け・た・よ」の三字、上にあれば、に、留らず。
  いそげ[急げ]人まだ末遠き深山路に
 是、すはらず。
(らん止)
ぬけらん一 覧留り、ぬけらんとて有なり。
  詠ながめ入る山にや月のありぬらん
 かやうに「詠入」とむかひながら、「月の有ぬらん」とうたがママは、ぬけらんなり。
ふれらん 又、詮もなくて、らんと云を、ふれらんと申なり。
  草の店あはれに月や消ぬらん
 是、はね字の手本なるべし。
疑うらん 又、うたがふらんは、
  小鹿なく外山の奥や時雨らん
 かやうにすべきものをと、古人さたし侍る。
(て止)
上五言切 五文字に云切て留りならず[五文字云切て、て留りならず]。

  いかにせんつれなき人を恋侘て
 是、「いひ切のて留り」とて、嫌ふなり。
  いかにせんとばかりに人を恋わびて
 これ、「せんとばかり」とつづきたるゆへ、よし。
かやうの事 かやうの事、更に知る人なし。とがめずとも、其作者の心をとりせらるるなり[其作者、心劣りせらるるものなり]。

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(連体修飾)
首切れ連歌一 首切れ連歌とて、甚きろふ嫌う句作、有なり。
  衣うつ浅茅が原に里ふりて
 是、「衣うつ浅茅が原」とは、つづかず。
  衣うつ里は浅茅に埋もれて
 是、「衣うつ里」と、つづきて、よし。
(係結び)
係結び一 上に「ぞ」とありて、「見ゆ」と留らず。
  思はぬ色ぞ別れ路に見ゆ
 これ、よきやうなれど、悪し。
一 ぞと云て、て留りすることは、八つ※1の押字あり。「し・き・ぬ・る・ゆ・つ・く・と」、[ぞといふて、とまりすることは、八つ※1の押へ字あり。「し・き・ぬ・る・※2・つ・く」と、]此字なり。
※1 「八つ」とあるので、「と」まで入れたか。
※2 ヤ行の四段活用はないので「ゆ」は除外。これで、六つになるが、サ行四段活用連体形の「す」、ハ行同じく「ふ」を加えると、丁度「八つ」になる。
こそ一 こそとあらば、「ね・け・れ・[へ]」、此かな[仮名]、なくては留らず。  
※ 外に、「て・め」がある。
(短句、下句の音節構成)
二五・三四一 下の句に、二五の三四と申事有なり。
  山の遠きはまづ暮ぬらん
 是、二五の留りとて、句さへも悪しく聞ゆ。
  山の遠きは夕なるらん
 是、三四とて、句作りもよし。

<貞門資料>
・ 「俳諧埋木」に、「すべて、三四をよきにさだめ、四三をあしきにさだめたり。二五と五二とは、その句によるべきにやとぞ」。

<蕉門資料>
・ 「直旨伝」に、「二五・五二、別条なし。三四心よく、四三よろしからず。好ざるなり。然ども、千句などには、場に任すべし」。
・ 「誹諧之秘記」に、「下の句に、二五・三四・五二・四三といふ事、いかにも覚えねばならぬ事なり」。
・ 「七七の短句の文節構成」で、「七部集の芭蕉の短句」の検討あり。

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出席心持の事

心得一 夢想・神祇・懐旧の時、句心得有なり[心得有なり]。
祝儀 祝儀などの人たるに、まつは千歳、亀は万年など、限りては悪し。小松などを植て、末をたのむやうにすべしと云々、祇公のたまへり。
一 句毎に名句せんと、長々敷案じ、又、一句一句に面をすり替り過ぎたるは、一座の興もさめて気のどくに人もおもふなり。
 只、座入四五句さらさらと、付よき前句を得、一ふし面にて[面白ふ]付たるは、誠に懐紙もはなやかに、一座も興あり。
絆切 第一 きづなをきる[切る]といふこと、此道の根本なり。
 三句目のはなれをいふなり。
 たとへば、「秋の山」といふ平句を、名所にとりなし、「鳥羽」と付、また淀などと付ること、三句に渡るなり。万の道になぞらへて知べし。
※ この一文、②のみなし。
異名一 鴬を「金衣鳥・経読鳥」などやうに、むざとは有べからず。
 鴬と、一つ過ぎて後は、有べし。
 一つ過ずとも、「寺に梅」などといふ句あらば、「経読鳥」などとすべし。
 又、鴬一つ過て 、なしくひすと有べし。よみくせ有てひの字をいとよまず、むうくひすとよむなり[物うくひすと有べし。よみくせ有て、ひの字を「い」とよまず、「物うくひす」とよむなり]。
※ もの憂く秘す。
付け心一 前句の付心を知る事第一心得いらざるてにをはは捨て根本に付るなり[④前句の付心を知る事、第一と心得、いらざるてにをはは捨て、根本に付るなり]。
   たがへて敲く門の帰るさ
  九重はにたる家居の数々に

 是、名人の句なり。「たがへてたたく門」に「似たる家[居]」をつけ、「帰るさ」を捨てらるるなり。
四手一 四つ手[四手]付※1とて、甚嫌ふやうすの事。
   山は梢の秋になる比
  日ぐらしの鳴声やどす峰の松
 右、山に峰、梢にまつ、秋に成り日ぐらし[秋になるにひぐらし]。是、四つ手[四手]付なり。
 あまりきらはずといへども、はいかゐママには、殊に[③④事に]より、句作により、いかにも四つ手付嫌ふなり。※2
※1 連歌の付けに「四手(しで)」がある。四手は【垂・紙幣】の当て字。
 二条良基「僻連秘抄」に、「四手しで、たしかにきりくみたるやうなるべし」とある。「四」に意味はなく、「よつで」は、後代の誤読に基づく。
※2 末の一文、②になし。
はまる・はづる一 此道に「はまる・はづる」といふことあり。
 心得を以て[④以心伝心]なれば、筆に及がたく、弘法大師筆道の伝にも、此こと在なり。聞にまた[③ありと聞に、又]、鼓に長じたる人の語りしは、鼓にも此心得在なりといへり。尤、さも有べし。直に入す[③口入す]べき事なり。
ひれの詞一 ひれの詞といふこと有なり。前句に用なき[事]をとり出したるを、いふなり。
   暮るる霞は薄墨のいろ
  雉子なく萩の焼原雨過て

 右、「くるる霞」といふに、「雨過て」を付、又、「薄墨のいろ」に「焼原」を付、「雉子」には[は]前句に用なし。是、ひれなり。
一 恋の道、歌はひとしほ[一入]句作りもやさしくありつべし。
 俳[諧]に於ては、いかにも根本とすべし。
   そなたを思ふほどは見へけり
  二声とたたかぬさきに戸を明て

 これ等の付かた、連歌には好まざる付かたといへども、俳には、いかにもねがふ所なり。
一ふし 下の句に、一ふしと申事有なり。下の句は、文字もすくなく、たけもなければ[足らねば]、云足らぬものなり。
  風もいづくの宿り問らん
 此句、旅の空に宿り定め、寝たる折ふし、風の吹くを、風もわがごとくにやと有心持[我ごとくにやあるとの心]なり。もの字にて、我が心も篭る[心をこむる]なり。是、一ふしと云なり。
 総別、こと葉の花、当世春にならずといへども、もの字入れては、春に成るなり。秘事[大秘事なり]。
詮なき句一 詮なき句とて、いらざる句作り有なり。
   霞める海のそこをしらばや
作意一 作意といふことは、当意名妙[即妙]なるを以て、此道の妙所に叶とす。
 或人、
  立寄て涼しさまさる木陰哉
 と[いふ句を]せしに、心敬僧都、
  立さりて涼しさまさる木かげ哉
 誠に、此道の名匠、無二の珎作哉と思ひ侍る。
心入一 心入ふかき句に
   心のかよふ夕にぞなる
  立出て都忘れぬ旅の空
 一 兼載八月十五夜の発句 (峰の庵とも)
   雲雰も月にかくるる今宵哉
 めずらし俳意とて[珍しき句作とて]、上古、沙汰し侍る。

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奥書等

底本①

白砂人集
文鳴本

 右一巻当家雖秘書依師因不相伝/之畢努々外見有間敷候

長頭麿在判 


<三巻末>
 自所持之書物相伝之申者也

            芭蕉翁 桃青在判 

  時元禄六癸酉春三月日
       森川氏許六雅丈
             旨
               羅当
    文化四卯年三月末の四日 京いふ  ㊞

 貞徳→季吟→芭蕉1693→許六→孟遠1729没→許音1749没1758?文鳴 … 1807京幽(写)

底本②

白砂人集
支子本

 右一巻者当家雖為秘/書依師筆因不相伝畢/努々外見有間敷候

長頭麿在判 

右一巻は、当家秘書とすと雖も、師筆に依りて、残らず相伝畢ぬに因て、努々外見有るまじく候ふ。

底本③

大秘伝
白砂人集

 右之一巻者当家雖秘書依師第之因不残相伝/之畢努々外見有間敷候
  承応二年正月下旬

長頭丸判 

 右、長頭丸と云は、俳諧貞徳の事之。貞徳は先祖松永弾正久秀の遺息に永種といふもの隠れて一人有を保つ永種の子を貞徳といふなり。延陀丸とも明心居士とも云なり。

貞徳弟子    
宮川松堅  
道柯居士 

  享保十一年丙午二月二十四か夜卒
               寿九十四歳

(辞世 略)

              道柯弟子 晩山 
                 吟花堂 

(追善 略)

  安永二癸巳 末春仲旬写之畢

源可道 

 貞徳→1653松堅→1726?晩山1730没1773源可道

底本④

白砂人集
白馬本

 右一巻当家雖秘書依師第之因不残/伝之畢努々外見有間鋪者也

           長頭麿在判 

  年号月日
   誰丈 矣


<秘書要訣>

 自所持之書物相伝之申者也

            芭蕉翁 桃青判 

  元禄六癸酉春三月日
   森川許六丈
 右相伝之以本写進所也

五老井 許六印 

  于時宝永六己丑臘月
 右此書者白馬之二十五ヶ条雖為相伝之 秘書写進所也

帰兮園 守分 

  于時明和九壬辰十一月六日
   富樫守鳳雅丈

 貞徳→季吟→芭蕉1693→許六→1709守分…1772守鳳 ←秘書要訣の伝
※1 

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