芭蕉七部集(連句)

芭蕉七部集連句索引

冬の日狂句凩初雪の包かね炭売の霜月やいかに
春の日春めく奈良坂蛙のみ山吹の
阿羅野麦を忘遠浅や美き鯲時鳥待月に柄雁金も落着に我もら初雪や一里の
ひさご木の本色々の鉄砲の亀の甲畦道や
猿蓑鳶の羽市中は灰汁桶梅若菜
炭俵梅が香兼好も空豆の子は裸秋の空道下り振売の雪の松
続猿蓑八九間雀の字勇み立猿蓑に夏の夜
 凡例 

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芭蕉七部集「冬の日」

1 冬の日「狂句こがらしの」の巻 -歌仙-

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 笠は長途の雨にほころび、帋衣はとまりとまりのあらしにもめたり。侘つくしたるわび人、我さへあはれにおぼえける。むかし狂哥の才士、此國にたどりし事を、不圖おもひ出て申侍る
句称作者読み備考
1発句狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉芭蕉きょうくこがらしの みはちくさいに にたるかな初冬
2たそやとばしるかさの山茶花野水たそやとばしる かさのさざんか初冬
3第三有明の主水に酒屋つくらせて荷兮ありあけの もんどにさかや つくらせて月の句
4初オ4かしらの露をふるふあかむま重五かしらのつゆを ふるうあかうま三秋
5初オ5朝鮮のほそりすゝきのにほひなき杜国ちょうせんの ほそりすすきの においなき三秋
6初オ折端日のちりちりに野に米を苅正平ひのちりちりに のにこめをかる晩秋
7初ウ折立わがいほは鷺にやどかすあたりにて野水わがいおは さぎにやどかす あたりにて 
8初ウ2髪はやすまをしのぶ身のほど芭蕉かみはやすまを しのぶみのほど
9初ウ3いつはりのつらしと乳をしぼりすて重五いつわりの つらしとちちを しぼりすて
10初ウ4きえぬそとばにすごすごとなく荷兮きえぬそとばに すごすごとなく
11初ウ5影法のあかつきさむく火を燒て芭蕉かげぼうの あかつきさむく ひをたきて三冬
12初ウ6あるじは貧にたえし虚家杜国あるじはひんに たえしからいえ 
13初ウ7田中なるこまんが柳落るころ荷兮たなかなる こまんがやなぎ おつるころ仲秋
14初ウ8霧にふね引人はちんばか野水きりにふねひく ひとはちんばか三秋
15初ウ9たそがれを横にながむる月ほそし杜国たそがれを よこにながむる つきほそし三秋
16初ウ10となりさかしき町に下り居る重五となりさかしき まちにおりいる 
17初ウ11二の尼に近衛の花のさかりきく野水にのあまに このえのはなの さかりきく晩春
18初ウ折端蝶はむぐらにとばかり鼻かむ芭蕉ちょうはむぐらにとばかり はなかむ三春
19名オ折立のり物に簾透顔おぼろなる重五のりものに すだれすくかお おぼろなる三春
20名オ2いまぞ恨の矢をはなつ声荷兮いまぞうらみの やをはなつこえ 
21名オ3ぬす人の記念の松の吹をれて芭蕉ぬすびとの かたみのまつの ふきおれて 
22名オ4しばし宗祇の名を付し水杜国しばしそうぎの なをつけしみず 
23名オ5笠ぬぎて無理にもぬるゝ北時雨荷兮かさぬぎて むりにもぬるる きたしぐれ初冬
24名オ6冬がれわけてひとり唐苣野水ふゆがれわけて ひとりとうちさ三冬
25名オ7しらじらと砕けしは人の骨か何杜国しらじらと くだけしはひとの ほねかなに 
26名オ8烏賊はえびすの國のうらかた重五いかはえびすの くにのうらかた 
27名オ9あはれさの謎にもとけじ郭公野水あわれさの なぞにもとけじ ほととぎす三夏
28名オ10秋水一斗もりつくす夜ぞ芭蕉しゅうすいいっと もりつくすよぞ三秋
29名オ11日東の李白が坊に月を見て重五じっとうの りはくがぼうに つきをみて三秋
30名オ折端巾に木槿をはさむ琵琶打荷兮きんにむくげを はさむびわうち初秋
31名ウ折立うしの跡とぶらふ草の夕ぐれに芭蕉うしのあと とぶろうくさの ゆうぐれに 
32名ウ2箕に鮗の魚をいたゞき杜国みにこのしろの うおをいただき 
33名ウ3わがいのりあけがたの星孕むべく荷兮わがいのり あけがたのほし はらむべく
34名ウ4けふはいもとのまゆかきにゆき杜国きょうはいもとの まゆかきにゆき
35名ウ5綾ひとへ居湯に志賀の花漉て杜国あやひとえ おりゆにしがの はなこして花:晩春
36挙句廊下は藤のかげつたふ也重五ろうかはふじの かげつとうなり晩春

2 冬の日「はつ雪の」の巻 -歌仙-

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おもへども壮年いまだころもを振はず
句称作者読み備考
1発句はつ雪のことしも袴きてかへる野水はつゆきの ことしもはかま きてかえる 
2霜にまだ見る蕣の食杜国しもにまだみる あさがおのめし 
3第三野菊までたづぬる蝶の羽をれて芭蕉のぎくまで たずぬるちょうの はねおれて 
4初オ4うづらふけれとくるまひきけり荷兮うずらふけれと くるまひきけり 
5初オ5麻呂が月袖に鞨鼓をならすらむ重五まろがつき そでにかっこを ならすらん 
6初オ折端桃花をたをる貞徳の富正平とうかをたおる ていとくのとみ 
7初ウ折立雨こゆる浅香の田螺ほりうへて杜国あめこゆる あさかのたにし ほりうえて 
8初ウ2奥のきさらぎを只なきになく野水おくのきさらぎを ただなきになく 
9初ウ3床ふけて語ればいとこなる男荷兮とこふけて かたればいとこ なるおとこ 
10初ウ4縁さまたげの恨みのこりし芭蕉えんさまたげの うらみのこりし 
11初ウ5口おしと瘤をちぎるちからなき野水くちおしと ふすべをちぎる ちからなし 
12初ウ6明日はかたきにくび送りせん重五あすはかたきに くびおくりせん 
13初ウ7小三太に盃とらせひとつうたひ芭蕉こそうだに さかずきとらせ ひとつうたい 
14初ウ8月は遅かれ牡丹ぬす人杜国つきはおそかれ ぼたんぬすびと 
15初ウ9縄あみのかゞりはやぶれ壁落て重五なわあみの かがりはやぶれ かべおちて 
16初ウ10こつこつとのみ地蔵切町荷兮こつこつとのみ じぞうきるまち 
17初ウ11初はなの世とや嫁のいかめしく杜国はつはなの よとやよめりの いかめしく 
18初ウ折端かぶろいくらの春ぞかはゆき野水かぶろいくらの はるぞかわゆき 
19名オ折立櫛ばこに餅すゆるねやほのかなる荷兮くしばこに もちすゆるねや ほのかなる 
20名オ2うぐひす起よ帋燭とぼして芭蕉うぐいすおきよ しそくとぼして 
21名オ3篠ふかく梢は柿の蔕さびし野水しのふかくこずえはかきのへたさびし 
22名オ4三線からむ不破のせき人重五さんせんからん ふわのせきびと 
23名オ5道すがら美濃で打ける碁を忘る芭蕉みちすがら みのでうちける ごをわする 
24名オ6ねざめねざめのさても七十杜国ねざめねざめの さてもしちじゅう 
25名オ7奉加めす御堂に金うちになひ重五ほうがめす みどうにこがね うちにない 
26名オ8ひとつの傘の下擧りさす荷兮ひとつのかさの したこぞりさす 
27名オ9蓮池に鷺の子遊ぶ夕ま暮杜国はすいけに さぎのこあそぶ ゆうまぐれ 
28名オ10まどに手づから薄様をすき野水まどにてずから うすようをすき 
29名オ11月にたてる唐輪の髪の赤枯て荷兮つきにたてる からわのかみの あかがれて 
30名オ折端戀せぬきぬた臨済をまつ芭蕉こいせぬきぬた りんざいをまつ 
31名ウ折立秋蝉の虚に聲きくしずかさは野水しゅうぜんの からにこえきく しずかさは 
32名ウ2藤の實つたふ雫ほつちり重五ふじのみつとう しずくほっちり 
33名ウ3袂より硯をひらき山かげに芭蕉たもとより すずりをひらき やまかげに 
34名ウ4ひとりは典侍の局か内侍か杜国ひとりはすけの つぼねかないしか 
35名ウ5三ケの花鸚鵡尾ながの鳥いくさ重五みかのはな おうむおながの とりいくさ 
36挙句しらかみいさむ越の独活苅荷兮しらかみいさむ こしのうどかり 

3 冬の日「つつみかねて」の巻 -歌仙-

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杖をひく事僅(わずか)に十歩
句称作者読み備考
1発句つゝみかねて月とり落す霽かな杜国つつみかねて つきとりおとす しぐれかな 
2こほりふみ行水のいなずま重五こおりふみゆく みずのいなずま 
3第三歯朶の葉を初狩人の矢に負て野水しだのはを はつかりびとの やにおいて 
4初オ4北の御門をおしあけのはる芭蕉きたのごもんを おしあけのはる 
5初オ5馬糞掻あふぎに風の打かすみ荷兮ばふんかく おうぎにかぜの うちかすみ 
6初オ折端茶の湯者をしむ野べの蒲公英正平ちゃのゆしゃおしむ のべのたんぽぽ 
7初ウ折立らうたげに物よむ娘かしづきて重五ろうたげに ものよむむすめ かしずきて 
8初ウ2燈籠ふたつになさけくらぶる杜国とうろふたつに なさけくらぶる 
9初ウ3つゆ萩のすまふ力を撰ばれず芭蕉つゆはぎの すまうちからを えらばれず 
10初ウ4蕎麦さへ青し滋賀楽の坊野水そばさえあおし しがらきのぼう 
11初ウ5朝月夜双六うちの旅ねして杜国あさづくよ すごろくうちの たびねして 
12初ウ6紅花買みちにほとゝぎすきく荷兮べにかうみちに ほととぎすきく 
13初ウ7しのぶまのわざとて雛を作り居る野水しのぶまの わざとてひなを つくりいる 
14初ウ8命婦の君より米なんどこす重五みょうぶのきみより こめなんどこす 
15初ウ9まがきまで津浪の水にくづれ行荷兮まがきまで つなみのみずに くずれゆき 
16初ウ10佛喰たる魚解きけり芭蕉ほとけくうたる うおほどきけり 
17初ウ11縣ふるはな見次郎と仰がれて重五あがたふる はなみじろうと あおがれて 
18初ウ折端五形菫の畠六反杜国げんげすみれの はたけろくたん 
19名オ折立うれしげに囀る雲雀ちりちりと芭蕉うれしげに さえずるひばり ちりちりと 
20名オ2眞昼の馬のねぶたがほ也野水まひるのうまの ねぶたがおなり 
21名オ3おかざきや矢矧の橋のながきかな杜国おかざきや やはぎのはしの ながきかな 
22名オ4庄屋のまつをよみて送りぬ荷兮しょうやのまつを よみておくりぬ 
23名オ5捨し子は柴苅長にのびつらむ野水すてしこは しばかるたけに のびつらん 
24名オ6晦日をさむく刀賣る年重五みそかをさむく かたなうるとし 
25名オ7雪の狂呉の國の笠めづらしき荷兮ゆきのきょう ごのくにのかさ めずらしき 
26名オ8襟に高雄が片袖をとく芭蕉えりにたかおが かたそでをとく 
27名オ9あだ人と樽を棺に呑ほさん重五あだひとと たるをひつぎに のみほさん 
28名オ10芥子のひとへに名をこぼす禪杜国けしのひとえに なをこぼすぜん 
29名オ11三ケ月の東は暗く鐘の聲芭蕉みかづきの ひがしはくらく かねのこえ 
30名オ折端秋湖かすかに琴かへす者野水しゅうこかすかに ことかえすもの 
31名ウ折立烹る事をゆるしてはぜを放ちける杜国にることを ゆるしてはぜを はなちける 
32名ウ2聲よき念佛藪をへだつる荷兮こえよきねぶつ やぶをへだつる 
33名ウ3かげうすき行燈けしに起侘て野水かげうすき あんどんけしに おきわびて 
34名ウ4おもひかねつも夜るの帯引重五おもいかねつも よるのおびひくるママ
35名ウ5こがれ飛たましひ花のかげに入荷兮こがれとぶ たましいはなの かげにいる 
36挙句その望の日を我もおなじく芭蕉そのもちのひを われもおなじく 

4 冬の日「炭売りの」の巻 -歌仙-

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なに波津にあし火燒く(たく)家はすゝけたれど
句称作者読み備考
1発句炭賣のおのがつまこそ黒からめ重五すみうりの おのがつまこそ くろからめをの×
2ひとの粧ひを鏡磨寒荷兮ひとのよそいを かがみとぎさむ 
3第三花棘馬骨の霜に咲かへり杜国はないばら ばこつのしもに さきかえり 
4初オ4鶴見るまどの月かすかなり野水つるみるまどの つきかすかなり 
5初オ5かぜ吹ぬ秋の日瓶に酒なき日芭蕉かぜふかぬ あきのひかめに さけなきひ 
6初オ折端荻織るかさを市に振する羽笠おぎおるかさを いちにふりする 
7初ウ折立加茂川や胡磨千代祭り微近み荷兮かもがわや ごまちよまつり ややちかみ 
8初ウ2いはくらの聟なつかしのころ重五いわくらのむこ なつかしのころ 
9初ウ3おもふこと布搗哥にわらはれて野水おもうこと ぬのつきうたに わらわれて 
10初ウ4うきははたちを越る三平杜国うきははたちを こゆるまるがお 
11初ウ5捨られてくねるか鴛の離れ鳥羽笠すてられて くねるかおしの はなれどり 
12初ウ6火おかぬ火燵なき人を見む芭蕉ひおかぬこたつ なきひとをみんをか×
13初ウ7門守の翁に帋子かりて寝る重五かどもりの おきなにかみこ かりてねる 
14初ウ8血刀かくす月の暗きに荷兮ちがたなかくす つきのくらきに 
15初ウ9霧下りて本郷の鐘七つきく杜国きりおりて ほんごうのかね ななつきく 
16初ウ10ふゆまつ納豆たゝくなるべし野水ふゆまつなっと たたくなるべし 
17初ウ11はなに泣櫻の黴とすてにける芭蕉はなになく さくらのかびと すてにける 
18初ウ折端僧ものいはず欵冬を呑羽笠そうものいわず やまぶきをのむ 
19名オ折立白燕濁らぬ水に羽を洗ひ荷兮しろつばめ にごらぬみずに はをあらい 
20名オ2宣旨かしこく釵を鑄る重五せんじかしこく かんざしをいる 
21名オ3八十年を三つ見る童母もちて野水やそとせを みつみるわらわ ははもちて 
22名オ4なかだちそむる七夕のつま杜国なかだちそむる たなばたのつま 
23名オ5西南に桂のはなのつぼむとき羽笠せいなんに かつらのはなの つぼむとき 
24名オ6蘭のあぶらに〆木うつ音芭蕉らんのあぶらに しめぎうつおと 
25名オ7賎の家に賢なる女見てかへる重五しずのやに けんなるおんな みてかえる 
26名オ8釣瓶に粟をあらふ日のくれ荷兮つるべにあわを あらうひのくれ 
27名オ9はやり来て撫子かざる正月に杜国はやりきて なでしこかざる しょうがつに 
28名オ10つゞみ手向る弁慶の宮野水つづみたむくる べんけいのみや 
29名オ11寅の日の旦を鍛冶の急起て芭蕉とらのひの あしたをかじの とくおきて 
30名オ折端雲かうばしき南京の地羽笠くもこうばしき なんきんのつち 
31名ウ折立いがきして誰ともしらぬ人の像荷兮いがきして たれともしらぬ ひとのぞう 
32名ウ2泥にこゝろのきよき芹の根重五どろにこころの きよきせりのね 
33名ウ3粥すゝるあかつき花にかしこまり野水かゆすする あかつきはなに かしこまり 
34名ウ4狩衣の下に鎧ふ春風芭蕉かりぎのしたに よろうはるかぜ 
35名ウ5北のかたなくなく簾おしやりて羽笠きたのかた なくなくすだれ おしやりて 
36挙句ねられぬ夢を責るむら雨杜国ねられぬゆめを せむるむらさめ 

5 冬の日「霜月や」の巻 -歌仙-

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田家眺望
句称作者読み備考
1発句霜月や鸛の彳々ならびゐて荷兮しもつきや こうのつくつく ならびいて 
2冬の朝日のあはれなりけり芭蕉ふゆのあさひの あわれなりけり 
3第三樫檜山家の体を木の葉降重五かしひのき さんかのていを このはふり 
4初オ4ひきずるうしの塩こぼれつゝ杜国ひきずるうしの しおこぼれつつ 
5初オ5音もなき具足に月のうすうすと羽笠おともなき ぐそくにつきの うすうすと 
6初オ折端酌とる童蘭切にいで野水しゃくとるわっぱ らんきりにいで 
7初ウ折立秋のころ旅の御連歌いとかりに芭蕉あきのころ たびのごれんが いとかりに 
8初ウ2漸くはれて富士みゆる寺荷兮ようやくはれて ふじみゆるてら 
9初ウ3寂として椿の花の落る音杜国じゃくとして つばきのはなの おつるおと 
10初ウ4茶に糸遊をそむる風の香重五ちゃにいとゆうを そむるかぜのか 
11初ウ5雉追に烏帽子の女五三十野水きじおいに えぼしのおんな ごさんじゅう 
12初ウ6庭に木曽作るこひの薄衣羽笠にわにきそつくる こいのうすぎぬ 
13初ウ7なつふかき山橘にさくら見ん荷兮なつふかき やまたちばなに さくらみん 
14初ウ8麻かりといふ哥の集あむ芭蕉あさかりという うたのしゅうあむ 
15初ウ9江を近く独楽庵と世を捨て重五えをちかく どくらくあんと よをすてて 
16初ウ10我月出よ身はおぼろなる杜国わがつきいでよ みはおぼろなる 
17初ウ11たび衣笛に落花を打拂羽笠たびごろも ふえにらっかを うちはらい 
18初ウ折端籠輿ゆるす木瓜の山あひ野水ろうごしゆるす ぼけのやまあい 
19名オ折立骨を見て坐に泪ぐみうちかへり芭蕉ほねをみて そぞろになみだぐみ うちかえり 
20名オ2乞食の簔をもらふしのゝめ荷兮こじきのみのを もらうしののめ 
21名オ3泥のうへに尾を引鯉を拾ひ得て杜国どろのうえに おをひくこいを ひろいえて 
22名オ4御幸に進む水のみくすり重五みゆきにすすむ みずのみくすり 
23名オ5ことにてる年の小角豆の花もろし野水ことにてる としのささげの はなもろし 
24名オ6萱屋まばらに炭團つく臼羽笠かややまばらに たどんつくうす 
25名オ7芥子あまの小坊交りに打むれて荷兮けしあまの こぼうまじりに うちむれて 
26名オ8おるゝはすのみたてる蓮の實芭蕉おるるはすのみ たてるはすのみ 
27名オ9しずかさに飯臺のぞく月の前重五しずかさに はんだいのぞく つきのまえ 
28名オ10露をくきつね風やかなしき杜国つゆおくきつね かぜやかなしき 
29名オ11釣柿に屋根ふかれたる片庇羽笠つりがきに やねふかれたる かたびさし 
30名オ折端豆腐つくりて母の喪に入る野水とうふつくりて ははのもにいる 
31名ウ折立元政の草の袂も破ぬべし芭蕉げんせいの くさのたもとも やれぬべし 
32名ウ2伏見木幡の鐘はなをうつ荷兮ふしみこはたの かねはなをうつ 
33名ウ3いろふかき男猫ひとつを捨かねて杜国いろふかき おねこひとつを すてかねて 
34名ウ4春のしらすの雪はきをよぶ重五はるのしらすの ゆきはきをよぶ 
35名ウ5水干を秀句の聖わかやかに野水すいかんを しゅうくのひじり わかやかに 
36挙句山茶花匂ふ笠のこがらし羽笠さざんかにおう かさのこがらし 

6 冬の日「いかに見よと」の巻 -表合せ-

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追加
句称作者読み備考
1発句いかに見よと難面うしをうつ霰羽笠いかにみよと つれなくうしを うつあられ 
2樽火にあぶるかれはらの松荷兮たるひにあぶる かれはらのまつ 
3第三とくさ苅下着に髪をちやせんして重五とくさがり したぎにかみを ちゃせんして 
44句目檜笠に宮をやつす朝露杜国ひがさに みやをやつす あさつゆ 
55句目銀に蛤かはん月は海芭蕉しろがねに はまぐりかわん つきはうみ 
6挙句ひだりに橋をすかす岐阜山野水ひだりに はしをすかす ぎふやま 
貞享甲子歳  / 京寺町二條上ル町 / 井筒屋庄兵衛板 

芭蕉七部集「春の日」(連句)

7 春の日「春めくや」の巻 -歌仙-

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曙見んと、人々の戸扣きあひて、熱田のかたにゆきぬ。渡し舟さはがしくなりゆく比、幷松のかた(ならびまつ)も見えわたりて、いとどのどかなり。重五(じゅうご)が枝折おける竹墻(たけがき)ほどちかきにたちより、けさのけしきをおもひ出侍る / 二月十八日
句称作者読み備考
1発句春めくや人さまざまの伊勢まいり荷兮はるめくや ひとさまざまの いせまいり 
2櫻ちる中馬ながく連重五さくらちるなか うまながくつれ 
3第三山かすむ月一時に舘立て雨桐やまかすむ つきいちどきに たちたちて 
4初オ4鎧ながらの火にあたる也李風よろいながらの ひにあたるなり 
5初オ5しほ風によくよく聞ば鴎なく昌圭しおかぜに よくよくきかば かもめなく 
6初オ折端くもりに沖の岩黒く見え執筆くもりにおきの いわくろくみえ 
7初ウ折立須广寺に汗の帷子脱かへむ重五すまでらに あせのかたびら ぬぎかえん 
8初ウ2をのをのなみだ笛を戴く荷兮おのおのなみだ ふえをいただく 
9初ウ3文王のはやしにけふも土つりて李風ぶんおうの はやしにきょうも つちつりて 
10初ウ4雨の雫の角のなき草雨桐あめのしずくの つののなきくさ 
11初ウ5肌寒み一度は骨をほどく世に荷兮はださむみ いちどはほねを ほどくよに 
12初ウ6傾城乳をかくす晨明昌圭けいせいちちを かくすありあけ 
13初ウ7霧はらふ鏡に人の影移り雨桐きりはらう かがみにひとの かげうつり 
14初ウ8わやわやとのみ神輿かく里重五わやわやとのみ みこしかくさと 
15初ウ9鳥居より半道奥の砂行て昌圭とりいより はんみちおくの すなゆきて 
16初ウ10花に長男の帋鳶あぐる比李風はなにおとなの たこあぐるころ 
17初ウ11柳よき陰ぞこゝらに鞠なきや重五やなぎよき かげぞここらに まりなきや 
18初ウ折端入かゝる日に蝶いそぐなり荷兮いりかかるひに ちょういそぐなり 
19名オ折立うつかりと麥なぐる家に連待て李風うっかりと むぎなぐるいえに つれまちて 
20名オ2かほ懐に梓きゝゐる雨桐かおふところに あずさききいる 
21名オ3黒髪をたばぬるほどに切残し荷兮くろかみを たばぬるほどに きりのこし 
22名オ4いともかしこき五位の針立昌圭いともかしこき ごいのはりたて 
23名オ5松の木に宮司が門はうつぶきて雨桐まつのきに ぐうじがかどは うつぶきて 
24名オ6はだしの跡も見えぬ時雨ぞ重五はだしのあとも みえぬしぐれぞ 
25名オ7朝朗豆腐を鳶にとられける昌圭あさぼらけ とうふをとびに とられける 
26名オ8念佛さぶげに秋あはれ也李風ねぶつさぶげに あきあわれなり 
27名オ9穂蓼生ふ蔵を住ゐに侘なして重五ほたでおう くらをすまいに わびなして 
28名オ10我名を橋の名によばる月荷兮わがなをはしの なによばるつき 
29名オ11傘の内近付になる雨の昏に李風かさのうち ちかづきになる あめのくれに 
30名オ折端朝熊おるゝ出家ぼくぼく雨桐あさくまおるる しゅっけぼくぼく 
31名ウ折立ほとゝぎす西行ならば哥よまん荷兮ほととぎす さいぎょうならば うたよまん 
32名ウ2釣瓶ひとつを二人してわけ昌圭つるべひとつを ふたりしてわけ 
33名ウ3世にあはぬ局涙に年とりて雨桐よにあわぬ つぼねなみだに としとりて 
34名ウ4記念にもらふ嵯峨の苣畑重五きねんにもらう さがのちさはた 
35名ウ5いく春を花と竹とにいそがしく昌圭いくはるを はなとたけとに いそがしく 
36挙句弟も兄も鳥とりにいく李風おとともあにも とりとりにいく 

8 春の日「なら坂や」の巻 -歌仙-

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三月六日野水(やすい)亭にて
句称作者読み備考
1発句なら坂や畑うつ山の八重ざくら旦藁ならざかや はたうつやまの やえざくら 
2おもしろうかすむかたがたの鐘野水おもしろうかすむ かたがたのかね×面白ふ
3第三春の旅節供なるらむ袴着て荷兮はるのたび せっくなるらん はかまきて 
4初オ4口すゝぐべき清水ながるゝ越人くちすすぐべき しみずながるる 
5初オ5松風にたおれぬ程の酒の酔羽笠まつかぜに たおれぬほどの さけのよい×たをれ
6初オ折端賣のこしたる虫はなつ月執筆うりのこしたる むしはなつつき 
7初ウ折立笠白き太秦祭過にけり野水かさしろき うずまさまつり すぎにけり 
8初ウ2菊ある垣によい子見ておく旦藁きくあるかきに よいこみておく×をく
9初ウ3表町ゆづりて二人髪剃ん越人おもてまち ゆずりてふたり かみそらん 
10初ウ4暁いかに車ゆくすぢ荷兮あかつきいかに くるまゆくすじ×すじ
11初ウ5鱈負ふて大津の濱に入にけり旦藁たらおうて おおつのはまに いりにけり 
12初ウ6何やら聞ん我國の聲越人なにやらきかん わがくにのこえ 
13初ウ7旅衣あたまばかりを蚊やかりて羽笠たびごろも あたまばかりを かやかりて 
14初ウ8萩ふみたふす万日のはら野水はぎふみたおす まんにちのはら 
15初ウ9里人に薦を施す秋の雨越人さとびとに こもをほどこす あきのあめ 
16初ウ10月なき浪に重石おく橋羽笠つきなきなみに おもしおくはし×をく
17初ウ11ころびたる木の根に花の鮎とらむ野水ころびたる きのねにはなの あゆとらん 
18初ウ折端諷尽せる春の湯の山旦藁うたいつくせる はるのゆのやま 
19名オ折立のどけしや筑紫の袂伊勢の帯越人のどけしや つくしのたもと いせのおび 
20名オ2内侍のえらぶ代々の眉の圖荷兮ないしのえらぶ よよのまゆのず 
21名オ3物おもふ軍の中は片わきに羽笠ものおもう いくさのうちは かたわきに 
22名オ4名もかち栗とぢゝ申上ゲ野水なもかちぐりと じじもうしあげ 
23名オ5大年は念佛となふる恵美酒棚旦藁おおどしは ねんぶつとなうる えびすだな 
24名オ6ものごと無我によき隣也越人ものごとむがに よきとなりなり 
25名オ7朝夕の若葉のために枸杞うゑて荷兮あさゆうの わかばのために くこうえて×うえ
26名オ8宮古に廿日はやき麥の粉羽笠みやこにはつか はやきむぎのこ 
27名オ9一夜かる宿は馬かふ寺なれや野水いちやかる やどはうまかう てらなれや 
28名オ10こは魂まつるきさらぎの月旦藁こはたままつる きさらぎのつき 
29名オ11陽炎のもえのこりたる夫婦にて越人かげろうの もえのこりたる めおとにて 
30名オ折端春雨袖に御哥いたゞく荷兮はるさめそでに おうたいただく 
31名ウ折立田を持て花みる里に生れけり羽笠たをもちて はなみるさとに うまれけり 
32名ウ2力の筋をつぎし中の子野水ちからのすじを つぎしなかのこ 
33名ウ3漣や三井の末寺の跡とりに旦藁さざなみや みいのまつじの あととりに 
34名ウ4高びくのみぞ雪の山々越人たかびくのみぞ ゆきのやまやま 
35名ウ5見つけたり廿九日の月さむき荷兮みつけたり にじゅうくにちの つきさむき 
36挙句君のつとめに氷ふみわけ羽笠きみのつとめに こおりふみわけ 

9 春の日「蛙のみ」の巻 -歌仙-

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 三月十六日、旦藁が田家(でんか)にとまりて
句称作者読み備考
1発句蛙のみきゝてゆゝしき寝覚かな野水かわずのみ ききてゆゆしき ねざめかな 
2額にあたるはる雨のもり旦藁ひたいにあたる はるさめのもり 
3第三蕨烹る岩木の臭き宿かりて越人わらびにる いわきのくさき やどかりて 
4初オ4まじまじ人をみたる馬の子荷兮まじまじひとを みたるうまのこ 
5初オ5立てのる渡しの舟の月影に冬文たちてのる わたしのふねの つきかげに 
6初オ折端芦の穂を摺る傘の端執筆あしのほをする からかさのはし 
7初ウ折立磯ぎはに施餓鬼の僧の集りて旦藁いそぎわに せがきのそうの あつまりて 
8初ウ2岩のあひより藏みゆる里野水いわのあいより くらみゆるさと 
9初ウ3雨の日も瓶燒やらむ煙たつ荷兮あめのひも かめやくやらん けむりたつ 
10初ウ4ひだるき事も旅の一つに越人ひだるきことも たびのひとつに 
11初ウ5尋よる坊主は住まず錠おりて野水たずねよる ぼうずはすまず じょうおりて 
12初ウ6解てやおかん枝むすぶ松冬文といてやおかん えだむすぶまつ×をかん 
 今宵は更けたりとてやみぬ。同十九日荷兮(かけい)室にて
13初ウ7咲わけの菊にはをしき白露ぞ越人さきわけの きくにはおしき しらつゆぞ×おしき 
14初ウ8秋の和名にかゝる順旦藁あきのわみょうに かかるしたごう 
15初ウ9初雁の声にみずから火を打ぬ冬文はつかりの こえにみずから ひをうちぬ 
16初ウ10別の月になみだあらはせ荷兮わかれのつきに なみだあらわせ 
17初ウ11跡ぞ花四の宮よりは唐輪にて旦藁あとぞはな しのみやよりは からわにて 
18初ウ折端春ゆく道の笠もむつかし野水はるゆくみちの かさもむつかし 
19名オ折立永き日や今朝を昨日に忘るらむ荷兮ながきひや けさをきのうに わするらん 
20名オ2簀の子茸生ふる五月雨の中越人すのこだけおうる さみだれのなか 
21名オ3紹鴎が瓢はありて米はなく野水じょうおうが ふくべはありて こめはなく 
22名オ4連哥のもとにあたるいそがし冬文れんがのもとに あたるいそがし 
23名オ5瀧壺に柴押まげて音とめん越人たきつぼに しばおしまげて おととめん 
24名オ6岩苔とりの篭にさげられ旦藁いわごけとりの かごにさげられ 
25名オ7むさぼりに帛着てありく世の中は冬文むさぼりに きぬきてありく よのなかは 
26名オ8莚二枚もひろき我庵越人むしろにまいも ひろきわがいお 
27名オ9朝毎の露あはれさに麦作ル旦藁あさごとの つゆあわれさに むぎつくる 
28名オ10碁うちを送るきぬぎぬの月野水ごうちをおくる きぬぎぬのつき 
29名オ11風のなき秋の日舟に網入よ荷兮かぜのなき あきのひぶねに あみいれよ 
30名オ折端鳥羽の湊のをどり笑ひに冬文とばのみなとの おどりわらいに×おどり
31名ウ折立あらましのざこね筑广も見て過ぬ野水あらましの ざこねつくまも みてすぎぬ 
32名ウ2つらつら一期聟の名もなし荷兮つらつらいちご むこのなもなし 
33名ウ3我春の若水汲に晝起て越人わがはるの わかみずくみに ひるおきて 
34名ウ4餅を食ひつゝいはふ君が代旦藁もちをくいつつ いわうきみがよ 
35名ウ5山は花所のこらず遊ぶ日に冬文やまははな ところのこらず あそぶひに 
36挙句くもらずてらず雲雀鳴也荷兮くもらずてらず ひばりなくなり 

10 春の日「山吹の」の巻 -未完歌仙、表六句-

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追加 / 三月十九日舟泉(しゅうせん)亭
句称作者読み備考
1発句山吹のあぶなき岨のくづれ哉越人やまぶきの あぶなきそばの くずれかな 
2蝶水のみにおるゝ岩ばし舟泉ちょうみずのみに おるるいわばし 
3第三きさらぎや餅洒すべき雪ありて聽雪きさらぎや もちさらすべき ゆきありて 
4初オ4行幸のために洗ふ土器螽髭みゆきのために あらうかわらけ 
5初オ5朔日を鷹もつ鍛冶のいかめしく荷兮ついたちを たかもつかじの いかめしく 
6初オ折端月なき空の門はやくあけ執筆つきなきそらの もんはやくあけ 
 


芭蕉七部集「阿羅野」(曠野集 員外)
 
 

 尾陽蓬左、橿木堂主入荷分子、集を編て名をあらのといふ。何故に此名有事をしらず。予はるかにおもひやるに、ひとゝせ、此郷に旅寝せしおりおりの云捨、あつめて冬の日といふ。其日かげ相續て、春の日また世にかゝやかす。げにや衣更着、やよひの空のけしき、柳櫻の錦を争ひ、てふ鳥のをのがさまざまなる風情につきて、いさゝか實をそこなふものもあればにや。いといふのいとかすかなる心のはしの、有かなきかにたどりて、姫ゆりのなにゝもつかず、雲雀の大空にはなれて、無景のきはまりなき、道芝のみちしるべせむと、此野の原の野守とはなれるべらし。

  元祿二年弥生

芭蕉桃青 

11 曠野「鴈ならし」の巻 -歌仙-

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 誰か華をおもはざらむ。たれか市中にありて朝のけしきを見む。我東四明の麓に有て、花のこゝろはこれを心とす。よつて佐川田喜六の、よしの山あさなあさなといへる哥を、実にかんず。又

  麥喰し鴈と思へどわかれ哉

 此句尾陽の野水子の作とて、芭蕉翁の傅へしをなほざりに聞 しに、さいつ比、田野へ居をうつして、実に此句を感ず。むかしあまた有ける人の中に、虎の物語せしに、とらに追はれ たる人ありて、濁色を変じたるよし、誠のおほふべからざる 事左のごとし。猿を聞て實に下る三声のなみだといへるも、實の字老杜のこゝろなるをや。猶鴈の句をしたひて

句称作者読み備考
1発句麥をわすれ華におぼれぬ鴈ならし素堂むぎをわすれ はなにおぼれぬ かりならし 

  この文人の事づかりとてとどけられしを、三人開き幾度も吟じて

2手をさしかざす峰のかげろふ野水てをさしかざす みねのかげろう 
3第三橇の路もしどろに春の来て荷兮かんじきの みちもしどろに はるのきて 
4初オ4ものしづかなるおこし米うり越人ものしずかなる おこしごめうり 
5初オ5門の石月待闇のやすらひに野水かどのいし つきまつやみの やすらいに 
6初オ折端風の目利を初秋の雲荷兮かぜのめききを はつあきのくも 
7初ウ折立武士の鷹うつ山もほど近し越人もののふの たかうつやまも ほどちかし 
8初ウ2しをりについて瀧の鳴る音野水しおりについて たきのなるおと 
9初ウ3袋より經とり出す草のうへ荷兮ふくろより きょうとりいだす くさのうえ 
10初ウ4づぶと降られて過るむら雨越人ずぶとふられて すぎるむらさめ 
11初ウ5立かへり松明直ぎる道の端野水たちかえり たいまつねぎる みちのはた 
12初ウ6千句いとなむ北山のてら荷兮せんくいとなむ きたやまのてら 
13初ウ7姥ざくら一重櫻も咲残り越人うばざくら ひとえざくらも さきのこり 
14初ウ8あてこともなき夕月夜かな野水あてこともなき ゆうづくよかな 
15初ウ9露の身は泥のやうなる物思ひ荷兮つゆのみは どろのようなる ものおもい 
16初ウ10秋をなほなく盗人の妻越人あきをなおなく ぬすびとのつま×なを
17初ウ11明るやら西も東も鐘の声野水あくるやら にしもひがしも かねのこえ 
18初ウ折端さぶうなりたる利根の川舟荷兮さぶうなりたる とねのかわぶね 
19名オ折立冬の日のてかてかとしてかき曇越人ふゆのひの てかてかとして かきくもり 
20名オ2豕子に行と羽織うち着て野水いのこにゆくと はおりうちきて 
21名オ3ぶらぶらときのふの市の塩いなだ荷兮ぶらぶらと きのうのいちの しおいなだ 
22名オ4狐つきとや人の見るらむ越人きつねつきとや ひとのみるらん 
23名オ5柏木の脚氣の比のつくづくと野水かしわぎの かっけのころの つくづくと 
24名オ6さゝやくことのみな聞えつる荷兮ささやくことの みなきこえつる 
25名オ7月の影より合にけり辻相撲越人つきのかげ よりあいにけり つじずもう 
26名オ8秋になるより里の酒桶野水あきになるより さとのさけおけ 
27名オ9露しぐれ歩鵜に出る暮かけて荷兮つゆしぐれ かちうにいづる くれかけて 
28名オ10うれしとしのぶ不破の萬作越人うれしとしのぶ ふわのまんさく 
29名オ11かしこまる諫に涙こぼすらし野水かしこまる いさめになみだ こぼすらし 
30名オ折端火箸のはねて手のあつき也荷兮ひばしのはねて てのあつきなり 
31名ウ折立かくすもの見せよと人の立かゝり越人かくすもの みせよとひとの たちかかり 
32名ウ2水せきとめて池のかへどり野水みずせきとめて いけのかえどり 
33名ウ3花ざかり都もいまだ定らず荷兮はなざかり みやこもいまだ さだまらず 
34名ウ4捨て春ふる奉加帳なり越人すててはるふる ほうがちょうなり 
35名ウ5墨ぞめは正月ごとにわすれつゝ野水すみぞめは しょうがつごとに わすれつつ 
36挙句大根きざみて干にいそがし荷兮だいこきざみて ほすにいそがし 

12 曠野「遠浅や」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句遠浅や浪にしめさす蜊とり亀洞とおあさや なみにしめさす あさりとり 
2はるの舟間に酒のなき里荷兮はるのふなまに さけのなきさと 
3第三のどけしや早き泊に荷を解て昌碧のどけしや はやきとまりに にをときて 
4初オ4百足の懼る藥たきけり野水むかでのおじる くすりたきけり 
5初オ5夕月の雲の白さをうち詠舟泉ゆうづきの くものしろさを うちながめ 
6初オ折端夜寒の簔を裾に引きせ釣雪よさむのみのを すそにひききせ 
7初ウ折立荻の聲どこともしらぬ所ぞや執筆おぎのこえ どこともしらぬ ところぞや 
8初ウ2一駄過して是も古綿亀洞いちだすごして これもふるわた 
9初ウ3道の邊に立暮したる宜禰が麻荷兮みちのべに たちくらしたる きねがあさ 
10初ウ4楽する比とおもふ年栄昌碧らくするころと おもうとしばえ 
11初ウ5いくつともなくてめつたに藏造釣雪いくつとも なくてめったに くらづくり 
12初ウ6湯殿まゐりのもめむたつ也舟泉ゆどのまいりの もめんたつなり×まいり
13初ウ7涼しやと莚もてくる川の端野水すずしやと むしろもてくる かわのはた 
14初ウ8たらかされしや彳る月荷兮たらかされしや たたずめるつき 
15初ウ9秋風に女車の髭をとこ亀洞あきかぜに おんなぐるまの ひげおとこ×おとこ
16初ウ10袖ぞ露けき嵯峨の法輪釣雪そでぞつゆけき さがのほうりん 
17初ウ11時々にものさへくはぬ花の春昌碧ときどきに ものさえくわぬ はなのはる 
18初ウ折端八重山吹ははたちなるべし野水やえやまぶきは はたちなるべし 
19名オ折立日のいでやけふは何せん暖に舟泉ひのいでや きょうはなにせん あたたかに 
20名オ2心やすげに土もらふなり亀洞こころやすげに つちもらうなり 
21名オ3向まで突やるほどの小ぶねにて荷兮むこうまで つきやるほどの こぶねにて 
22名オ4垢離かく人の着ものの番昌碧こりかくひとの きるもののばん 
23名オ5配所にて干魚の加減覚えつゝ釣雪はいしょにて ひうおのかげん おぼえつつ 
24名オ6哥うたうたる聲のほそぼそ舟泉うたうとうたる こえのほそぼそ×うたふたる
25名オ7むく起に物いひつけて亦睡り野水むくおきに ものいいつけて またねむり 
26名オ8門を過行茄子よびこむ荷兮もんをすぎゆく なすびよびこむ 
27名オ9いりこみて足軽町の藪深し亀洞いりこみて あしがるちょうの やぶふかし 
28名オ10おもひ逢たりどれも高田派釣雪おもいあいたり どれもたかだは 
29名オ11盃もわするばかりの下戸の月昌碧さかずきも わするばかりの げこのつき 
30名オ折端ややはつ秋のやみあがりなる野水ややはつあきの やみあがりなる 
31名ウ折立つばくらもおほかた帰る寮の窓舟泉つばくらも おおかたかえる りょうのまど 
32名ウ2水しほはゆき安房の小湊亀洞みずしおはゆき あわのこみなと 
33名ウ3夏の日や見る間に泥の照付て荷兮なつのひや みるまにどろの てりつけて 
34名ウ4桶のかつらを入しまひけり昌碧おけのかつらを いれしまいけり 
35名ウ5人なみに脇差さして花に行釣雪ひとなみに わきざしさして はなにゆく 
36挙句ついたつくりに落る精進野水ついたつくりに おつるしょうじん 

13 曠野「鯲」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句美しき鯲うきけり春の水舟泉うつくしき どじょううきけり はるのみず 
2柳のうらのかまきりの卵松芳やなぎのうらの かまきりのかい 
3第三夕霞染物とりてかへるらむ冬文ゆうがすみ そめものとりて かえるらん 
4初オ4けぶたきやうに見ゆる月影荷兮けぶたきように みゆるつきかげ 
5初オ5秋草のとてもなき程咲みだれ松芳あきくさの とてもなきほど さきみだれ 
6初オ折端弓ひきたくる勝相撲とて舟泉ゆみひきたくる かちずもうとて 
7初ウ折立けふも亦もの拾はむとたち出る荷兮きょうもまた ものひろわんと たちいづる 
8初ウ2たまたま砂の中の木のはし冬文たまたますなの なかのきのはし 
9初ウ3火鼠の皮の衣を尋きて舟泉ひねずみの かわのころもを たずねきて 
10初ウ4涙見せじとうち笑ひつゝ松芳なみだみせじと うちわらいつつ 
11初ウ5高みより踏はづしてぞ落にける冬文たかみより ふみはずしてぞ おちにける 
12初ウ6酒の半に膳もちてたつ荷兮さけのなかばに ぜんもちてたつ 
13初ウ7幾年を順礼もせず口をしき松芳いくとせを じゅんれいもせず くちおしき×口おし
14初ウ8よまで双帋の繪を先にみる舟泉よまでそうしの えをさきにみる 
15初ウ9なに事もうちしめりたる花の貌荷兮なにごとも うちしめりたる はなのかお 
16初ウ10月のおぼろや飛鳥井の君冬文つきのおぼろや あすかいのきみ 
17初ウ11灯に手をおほひつゝ春の風舟泉ともしびに てをおおいつつ はるのかぜ 
18初ウ折端數珠くりかけて脇息のうへ松芳じゅずくりかけて きょうそくのうえ 
19名オ折立隆辰も入歯に聲のしわがるゝ冬文りゅうたつも いればにこえの しわがるる×しはがる
20名オ2十日のきくのをしき事也荷兮とうかのきくの おしきことなり×おしき
21名オ3山里の秋めづらしと生鰯松芳やまざとの あきめずらしと なまいわし 
22名オ4長持かうてかへるやゝさむ舟泉ながもちこうて かえるややさむ×かふて
23名オ5ざぶざぶとながれを渡る月の影荷兮ざぶざぶと ながれをわたる つきのかげ 
24名オ6馬のとほれば馬のいなゝく冬文うまのとおれば うまのいななく×とをる
25名オ7さびしさは垂井の宿の冬の雨舟泉さびしさは たるいのしゅくの ふゆのあめ 
26名オ8莚ふまへて蕎麥あふつみゆ松芳むしろふまえて そばあおつみゆ 
27名オ9つくづくと錦着る身のうとましく冬文つくづくと にしききるみの うとましく 
28名オ10暁ふかく提婆品よむ荷兮あかつきふかく だいばぼんよむ 
29名オ11けしの花とりなほす間に散にけり松芳けしのはな とりなおすまに ちりにけり×なをす
30名オ折端味噌するおとの隣さわがし舟泉みそするおとの となりさわがし×をと×さはがし
31名ウ折立黄昏の門さまたげに薪分荷兮たそがれの かどさまたげに たきぎわけ 
32名ウ2次第次第にあたゝかになる冬文しだいしだいに あたたかになる 
33名ウ3春の朝赤貝はきてありく兒舟泉はるのあさ あかがいはきて ありくちご 
34名ウ4顔見にもどる花の旅だち松芳かおみにもどる はなのたびだち 
35名ウ5きさらぎや曝をかひに夜をこめて冬文きさらぎや さらしをかいに よをこめて 
36挙句そら面白き山口の家荷兮そらおもしろき やまぐちのいえ 

14 曠野「ほととぎす」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句ほとゝぎす待ぬ心の折もあり荷兮ほととぎす またぬこころの おりもあり 
2雨のわか葉にたてる戸の口野水あめのわかばに たてるとのくち 
3第三引捨し車は琵琶のかたぎにて野水ひきすてし くるまはびわの かたぎにて 
4初オ4あらさがなくも人のからかひ荷兮あらさがなくも ひとのからかい 
5初オ5月の秋旅のしたさに出る也荷兮つきのあき たびのしたさに いづるなり 
6初オ折端一荷になひし露のきくらげ野水いっかにないし つゆのきくらげ 
7初ウ折立初あらしはつせの寮の坊主共野水はつあらし はつせのりょうの ぼうずども 
8初ウ2菜畑ふむなとよばりかけたり荷兮なばたけふむなと よばりかけたり 
9初ウ3土肥を夕夕にかきよせて荷兮つちごえを ゆうべゆうべに かきよせて 
10初ウ4印判おとす袖ぞ物うき野水いんぱんおとす そでぞものうき 
11初ウ5通路のついはりこけて逃かへり野水かよいじの ついはりこけて にげかえり 
12初ウ6六位にありし戀のうはきさ荷兮ろくいにありし こいのうわきさ 
13初ウ7代まゐりたヾやすやすと請おひて荷兮だいまいり ただやすやすと うけおいて×まいり
14初ウ8銭一貫に鰹一節野水ぜにいっかんに かつおひとふし 
15初ウ9月の朝鶯つけにいそぐらむ野水つきのあさ うぐいすつけに いそぐらん 
16初ウ10花咲けりと心まめなり荷兮はなさきけりと こころまめなり 
17初ウ11天仙蓼に冷食あさし春の暮荷兮またたびに ひやめしあさし はるのくれ 
18初ウ折端かけがねかけよ看經の中野水かけがねかけよ かんきんのうち 
19名オ折立たヾ人となりて着物うちはおり野水ただひとと なりてきるもの うちはおり×はをり
20名オ2夕せはしき酒ついでやる荷兮ゆうべせわしき さけついでやる 
21名オ3駒のやど昨日は信濃けふは甲斐野水こまのやど きのうはしなの きょうはかい 
22名オ4秋のあらしに昔浄瑠璃荷兮あきのあらしに むかしじょうるり 
23名オ5めでたくもよばれにけらし生身魄野水めでたくも よばれにけらし いきみたま 
24名オ6八日の月のすきといるまで荷兮ようかのつきの すきといるまで 
25名オ7山の端に松と樅とのかすかなる野水やまのはに まつともみとの かすかなる 
26名オ8きつきたばこにくらくらとする荷兮きつきたばこに くらくらとする 
27名オ9暑き日や腹かけばかり引結び荷兮あつきひや はらかけばかり ひきむすび 
28名オ10太鼓たゝきに階子のぼるか野水たいこたたきに はしごのぼるか 
29名オ11ころころと寐たる木賃の艸枕荷兮ころころと ねたるきちんの くさまくら 
30名オ折端氣だてのよきと聟にほしがる野水きだてのよきと むこにほしがる 
31名ウ折立忍ぶともしらぬ顔にて一二年野水しのぶとも しらぬかおにて いちにねん 
32名ウ2庇をつけて住居かはりぬ荷兮ひさしをつけて すまいかわりぬ 
33名ウ3三方の數むつかしと火にくぶる荷兮さんぼうの かずむつかしと ひにくぶる 
34名ウ4供奉の艸鞋を谷へはきこみ野水ぐぶのわらじを たにへはきこみ 
35名ウ5段々や小塩大原嵯峨の花野水だんだんや おしおおおはら さがのはな 
36挙句人おひに行はるの川岸執筆ひとおいにゆく はるのかわぎし 

15 曠野「うちわ」の巻 -歌仙-

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 月さしのぼる気色は、昼の暑さもなくなるおもしろさに、柄をさしたらばよき團(うちわ)と、宗鑑法師の句をずんじ出すに、夏の夜の疵といふ、なほ其跡もやまずつづきぬ
句称作者読み備考
1発句月に柄をさしたらばよき團哉宗鑑つきにえを さしたらばよき うちわかな 
2蚊のをるばかり夏の夜の疵越人かのおるばかり なつのよのきず×おる
3第三とつくりを誰が置かへてころぶらむ傘下とっくりを たれがおきかえて ころぶらん 
4初オ4おもひがけなきかぜふきのそら傘下おもいがけなき かぜふきのそら 
5初オ5眞木柱つかへおさへてよりかゝり越人まきばしら つかえおさえて よりかかり 
6初オ折端使の者に返事またする越人つかいのものに へんじまたする 
7初ウ折立あれこれと猫の子を選るさまざまに執筆あれこれと ねこのこをよる さまざまに 
8初ウ2としたくるまであほう也けり傘下としたくるまで あほうなりけり 
9初ウ3どこでやら手の筋見せて物思ひ傘下どこでやら てのすじみせて ものおもい 
10初ウ4まみおもたげに泣はらすかほ越人まみおもたげに なきはらすかお 
11初ウ5大勢の人に法華をこなされて越人おおぜいの ひとにほっけを こなされて 
12初ウ6月の夕に釣瓶縄うつ傘下つきのゆうべに つるべなわうつ 
13初ウ7喰ふ柿も又くふかきも皆澁し傘下くうかきも またくうかきも みなしぶし 
14初ウ8秋のけしきの畑みる客越人あきのけしきの はたけみるきゃく 
15初ウ9わがまゝにいつか此世を背くべき越人わがままに いつかこのよを そむくべき 
16初ウ10寐ながら書か文字のゆがむ戸傘下ねながらかくか もじのゆがむと 
17初ウ11花の賀にこらへかねたる涙落つ傘下はなのがに こらえかねたる なみだおつ 
18初ウ折端着ものゝ糊のこはき春風越人きものののりの こわきはるかぜ 
19名オ折立うち群て浦の苫屋の塩干見よ越人うちむれて うらのとまやの しおひみよ 
20名オ2内へはひりてなほほゆる犬傘下うちへはいりて なおほゆるいぬ×はいり×なを
21名オ3酔ざめの水の飲たき比なれや傘下よいざめの みずののみたき ころなれや 
22名オ4たヾしづかなる雨の降出し越人ただしずかなる あめのふりだし 
23名オ5歌あはせ獨鈷鎌首まゐらるゝ越人うたあわせ とっこかむくび まいらるる×まいらる 
24名オ6また献立のみなちがひけり傘下またこんだての みなちがいけり 
25名オ7灯臺の油こぼして押かくし傘下とうだいの あぶらこぼして おしかくし 
26名オ8臼をおこせばきりぎりす飛越人うすをおこせば きりぎりすとぶ 
27名オ9ふく風にゑのころぐさのふらふらと越人ふくかぜに えのころぐさの ふらふらと 
28名オ10半はこはす築やまの秋傘下なかばはこわす つきやまのあき 
29名オ11むつむつと月みる顔の親に似て傘下むつむつと つきみるかおの おやににて 
30名オ折端人の請にはたつこともなし越人ひとのうけには たつこともなし 
31名ウ折立にぎはしく瓜や苴やを荷ひ込傘下にぎわしく うりやあさやを にないこみ 
32名ウ2干せる疊のころぶ町中越人ほせるたたみの ころぶまちなか 
33名ウ3おろおろと小諸の宿の昼時分傘下おろおろと こもろのしゅくの ひるじぶん 
34名ウ4皆同音に申念佛越人みなどうおんに もうすねんぶつ 
35名ウ5百万もくるひ所よ花の春傘下ひゃくまんも くるいどころよ はなのはる 
36挙句田楽きれてさくら淋しき越人でんがくきれて さくらさびしき 

16 曠野「雁がね」の巻 -歌仙-

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深川の夜
句称作者読み備考
1発句雁がねもしづかに聞ばからびずや越人かりがねも しずかにきかば からびずや 
2酒しひならふこの比の月芭蕉さけしいならう このころのつき×しゐ
3第三藤ばかま誰窮屈にめでつらむ芭蕉ふじばかま たれきゅうくつに めでつらん 
4初オ4理をはなれたる秋の夕ぐれ越人りをはなれたる あきのゆうぐれ 
5初オ5瓢箪の大きさ五石ばかり也越人ひょうたんの おおきさごこく ばかりなり 
6初オ折端風にふかれて歸る市人芭蕉かぜにふかれて かえるいちびと 
7初ウ折立なに事も長安は是名利の地芭蕉なにごとも ちょうあんはこれ みょうりのち 
8初ウ2醫のおほきこそ目ぐるほしけれ越人いのおおきこそ めぐるおしけれ 
9初ウ3いそがしと師走の空に立出て芭蕉いそがしと しわすのそらに たちいでて 
10初ウ4ひとり世話やく寺の跡とり越人ひとりせわやく てらのあととり 
11初ウ5此里に古き玄蕃の名をつたへ芭蕉このさとに ふるきげんばの なをつたえ 
12初ウ6足駄はかせぬ雨のあけぼの越人あしだはかせぬ あめのあけぼの 
13初ウ7きぬぎぬやあまりかぼそくあてやかに芭蕉きぬぎぬや あまりかぼそく あてやかに 
14初ウ8かぜひきたまふ声のうつくし越人かぜひきたもう こえのうつくし 
15初ウ9手もつかず昼の御膳もすべりきぬ芭蕉てもつかず ひるのごぜんも すべりきぬ 
16初ウ10物いそくさき舟路なりけり越人ものいそくさき ふなじなりけり 
17初ウ11月と花比良の高ねを北にして芭蕉つきとはな ひらのたかねを きたにして 
18初ウ折端雲雀さへづるころの肌ぬぎ越人ひばりさえずる ころのはだぬぎ×さえづる
19名オ折立破れ戸の釘うち付る春の末越人やぶれどの くぎうちつける はるのすえ 
20名オ2見世はさびしき麥のひきは(わ)り芭蕉みせはさびしき むぎのひきわり×ひきはり
21名オ3家なくて服紗につゝむ十寸鏡越人いえなくて ふくさにつつむ ますかがみ 
22名オ4ものおもひゐる神子のものいひ芭蕉ものおもいいる みこのものいい 
23名オ5人去ていまだ御坐の匂ひける越人ひとさりて いまだおましの においける 
24名オ6初瀬に籠る堂の片隅芭蕉はつせにこもる どうのかたすみ 
25名オ7ほとゝぎす鼠のあるゝ最中に越人ほととぎす ねずみのあるる さいちゅうに 
26名オ8垣穂のさゝげ露はこぼれて芭蕉かきほのささげ つゆはこぼれて 
27名オ9あやにくに煩ふ妹が夕ながめ越人あやにくに わずらういもが ゆうながめ 
28名オ10あの雲はたがなみだつゝむぞ芭蕉あのくもはたが なみだつつむぞ 
29名オ11行月のうはの空にて消さうに越人ゆくつきの うわのそらにて きえそうに 
30名オ折端砧も遠く鞍にゐねぶり芭蕉きぬたもとおく くらにいねぶり×いねぶり
31名ウ折立秋の田をからせぬ公事の長びきて越人あきのたを からせぬくじの ながびきて 
32名ウ2さいさいながら文字問にくる芭蕉さいさいながら もじといにくる 
33名ウ3いかめしく瓦庇の木藥屋越人いかめしく かわらびさしの きぐすりや 
34名ウ4馳走する子の痩てかひなき芭蕉ちそうするこの やせてかいなき 
35名ウ5花の比談義参もうらやまし越人はなのころ だんぎまいりも うらやまし 
36挙句田にしをくうて腥きくち芭蕉たにしをくうて なまぐさきくち×くふて

17 曠野「天津雁」の巻 -歌仙-

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 翁に伴はれて來る人のめずらしきに
句称作者読み備考
1発句落着に荷兮の文や天津厂其角おちつきに かけいのふみや あまつかり 
2三夜さの月見雲なかりけり越人みよさのつきみ くもなかりけり 
3第三菊萩の庭に疊を引ずりて越人きくはぎの にわにたたみを ひきずりて×引づり
4初オ4飲てわするゝ茶は水になる其角のみてわするる ちゃはみずになる 
5初オ5誰か来て裾にかけたる夏衣其角だれかきて すそにかけたる なつごろも 
6初オ折端齒ぎしりにさへあかつきのかね越人はぎしりにさえ あかつきのかね 
7初ウ折立恨たる泪まぶたにとヾまりて越人うらみたる なみだまぶたに とどまりて 
8初ウ2静御前に舞をすゝむる其角しずかごぜんに まいをすすむる 
9初ウ3空蝉の離魂の煩のおそろしさ其角うつせみの かげのなやみの おそろしさ 
10初ウ4あとなかりける金二万兩越人あとなかりける きんにまんりょう 
11初ウ5いとほしき子を他人とも名付けたり越人いとおしき こをたにんとも なづけたり×いとをし
12初ウ6やけどなほして見しつらきかな其角やけどなおして みしつらきかな×なをし
13初ウ7酒熟き耳につきたるさゝめごと其角さけくさき みみにつきたる ささめごと 
14初ウ8魚をもつらぬ月の江の舟越人うおをもつらぬ つきのえのふね 
15初ウ9そめいろの富士は浅黄に秋のくれ越人そめいろの ふじはあさぎに あきのくれ 
16初ウ10花とさしたる草の一瓶其角はなとさしたる くさのひとかめ 
17初ウ11饅頭をうれしき袖に包みける其角まんじゅうを うれしきそでに つつみける 
18初ウ折端うき世につけて死ぬ人は損越人うきよにつけて しぬひとはそん 
19名オ折立西王母東方朔も目には見ず越人せいおうぼ とうほうさくも めにはみず 
20名オ2よしや鸚鵡の舌のみじかき其角よしやおうむの したのみじかき 
21名オ3あぢなきや戸にはさまるゝ衣の妻其角あじなきや とにはさまるる きぬのつま 
22名オ4戀の親とも逢ふ夜たのまん越人こいのおやとも おうよたのまん 
23名オ5やゝおもひ寐もしねられずうち臥て越人ややおもい ねもしねられず うちふして 
24名オ6米つく音は師走なりけり其角こめつくおとは しわすなりけり 
25名オ7夕鴉宿の長さに腹のたつ其角ゆうがらす しゅくのながさに はらのたつ 
26名オ8いくつの笠を荷ふ強力越人いくつのかさを になうごうりき 
27名オ9穴いちに塵うちはらひ草枕越人あないちに ちりうちはらい くさまくら 
28名オ10ひひなかざりて伊勢の八朔其角ひいなかざりて いせのはっさく×ひいな
29名オ11滿月に不斷櫻を詠めばや其角まんげつに ふだんざくらを ながめばや 
30名オ折端念者法師は秋のあきかぜ越人ねんじゃほうしは あきのあきかぜ 
31名ウ折立夕まぐれまたうらめしき帋子夜着越人ゆうまぐれ またうらめしき かみこよぎ 
32名ウ2弓すゝびたる突あげのまど其角ゆみすすびたる つきあげのまど 
33名ウ3道ばたに乞食の鎮守垣ゆひて其角みちばたに こじきのちんじゅ かきゆいて 
34名ウ4ものきゝわかぬ馬子の鬮とり越人ものききわかぬ まごのくじとり 
35名ウ5花の香にあさつき膾みどり也越人はなのかに あさつきなます みどりなり 
36挙句むしろ敷べき喚續の春越人むしろしくべき よびつぎのはる 

18 曠野「新酒」の巻 -歌仙の前半(半歌仙ではない)-

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句称作者読み備考
1発句我もらじ新酒は人の醒やすき嵐雪われもらじ しんしゅはひとの さめやすき 
2秋うそ寒しいつも湯嫌越人あきうそさむし いつもゆぎらい 
3第三月の宿書を引ちらす中にねて越人つきのやど しょをひきちらす なかにねて 
4初オ4外面藥の草わけに行嵐雪そともくすりの くさわけにいく 
5初オ5はねあひて牧にまじらぬ里の馬嵐雪はねあいて まきにまじらぬ さとのうま 
6初オ折端川越くれば城下のみち越人かわこえくれば しろしたのみち 
7初ウ折立疱瘡貌の透とほるほど歯のしろき越人いもがおの すきとおるほど はのしろき×透とをる
8初ウ2唱哥はしらず声ほそりやる嵐雪しょうかはしらず こえほそりやる 
9初ウ3なみだみるはなればなれのうき雲に嵐雪なみだみる はなればなれの うきぐもに 
10初ウ4後ぞひよべといふがわりなき越人のちぞいよべと いうがわりなき×はりなき
11初ウ5今朝よりも油あげする玉だすき越人けさよりも あぶらあげする たまだすき 
12初ウ6行燈はりてかへる浪人嵐雪あんどんはりて かえるろうにん 
13初ウ7着物を碪にうてと一つ脱嵐雪きるものを きぬたにうてと ひとつぬぎ 
14初ウ8明日は髪そる宵の月影越人あすはかみそる よいのつきかげ 
15初ウ9しら露の群て泣ゐる女客越人しらつゆの むれてなきいる おんなきゃく 
16初ウ10つれなの醫者の後姿や嵐雪つれなのいしゃの うしろすがたや 
17初ウ11ちる花に日はくるれども長咄越人ちるはなに ひはくるれども ながばなし 
18初ウ折端よぶこ鳥とは何をいふらむ越人よぶこどりとは なにをいうらん 

19 曠野「桐の木」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句初雪やことしのびたる桐の木に野水はつゆきや ことしのびたる きりのきに 
2日のみじかきと冬の朝起落梧ひのみじかきと ふゆのあさおき 
3第三山川や鵜の喰ものをさがすらむ落梧やまがわや うのくいものを さがすらん 
4初オ4賤を遠から見るべかりけり野水しずをとおから みるべかりけり 
5初オ5おもふさま押合月に草臥つ野水おもうさま おしおうつきに くたびれつ 
6初オ折端あらことごとし長櫃の萩落梧あらことごとし ながびつのはぎ 
7初ウ折立川越の歩にさゝれ行穐の雨野水かわごしの ぶにさされゆく あきのあめ 
8初ウ2ねぶと痛がる顔のきたなさ落梧ねぶといたがる かおのきたなさ 
9初ウ3わがせこをわりなくかくす縁の下野水わがせこを わりなくかくす えんのした 
10初ウ4すがゝき習ふ比のうきこひ落梧すががきならう ころのうきこい 
11初ウ5更る夜の湯はむつかしと水飲て野水ふくるよの ゆはむつかしと みずのみて 
12初ウ6こそぐり起す相住の僧落梧こそぐりおこす あいずみのそう 
13初ウ7峯の松あぢなあたりを見出たり野水みねのまつ あじなあたりを みだしたり 
14初ウ8旅するうちの心綺麗さ落梧たびするうちの こころきれいさ 
15初ウ9烹た玉子なまのたまごも一文に野水にたたまご なまのたまごも いちもんに 
16初ウ10下戸は皆いく月のおぼろげ落梧げこはみないく つきのおぼろげ 
17初ウ11耳や歯やようても花の數ならず野水みみやはや ようてもはなの かずならず 
18初ウ折端具足めさせにけふの初午落梧ぐそくめさせに きょうのはつうま 
19名オ折立いつやらも鶯聞ぬ此おくに落梧いつやらも うぐいすききぬ このおくに 
20名オ2山伏住て人しかるなり野水やまぶしすみて ひとしかるなり 
21名オ3くはらくはらとくさびぬけたる米車落梧からからと くさびぬけたる こめぐるま 
22名オ4提灯過て跡闇きくれ野水ちょうちんすぎて あとくらきくれ 
23名オ5何事を泣けむ髪を振おほひ落梧なにごとを なきけんかみを ふりおおい 
24名オ6しかじか物もいはぬつれなき野水しかじかものも いわぬつれなき 
25名オ7はつかしといやがる馬にかきのせて落梧はずかしと いやがるうまに かきのせて 
26名オ8かゝる府中を飴ねぶり行野水かかるふちゅうを あめねぶりゆく 
27名オ9雨やみて雲のちぎるゝ面白や落梧あめやみて くものちぎるる おもしろや 
28名オ10柳ちるかと例の莚道野水やなぎちるかと れいのえんどう 
29名オ11軒ながく月こそさはれ五十間野水のきながく つきこそさわれ ごじっけん 
30名オ折端寂しき秋を女夫居りけり落梧さびしきあきを めおとおりけり 
31名ウ折立占を上手にめさるうらやまし野水うらないを じょうずにめさる うらやまし 
32名ウ2黍もてはやすいにしへの酒野水きびもてはやす いにしえのさけ 
33名ウ3朝ごとの干魚備るみづ垣に落梧あさごとの ひうおそなえる みずがきに 
34名ウ4誰より花を先へ見てとる落梧たれよりはなを さきへみてとる 
35名ウ5春雨のくらがり峠こえすまし野水はるさめの くらがりとうげ こえすまし 
36挙句ねぶりころべと雲雀鳴也落梧ねぶりころべと ひばりなくなり 

20 曠野「冬籠もり」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句一里の炭賣はいつ冬籠り一井ひとさとの すみうりはいつ ふゆごもり 
2筧の先の瓶氷る朝鼠彈かけひのさきの かめこおるあさ 
3第三さきくさや正木を引に誘ふらむ胡及さきくさや まさきをひきに さそうらん 
4初オ4肩ぎぬはづれ酒に酔ふ人長虹かたぎぬはずれ さけにようひと 
5初オ5夕月の入ぎは早き塘ぎは鼠彈ゆうづきの いりぎわはやき つつみぎわ 
6初オ折端たはらに鮒をつかみこむ秋一井たわらにふなを つかみこむあき 
7初ウ折立里深く踊教に二三日長虹さとふかく おどりおしえに にさんにち 
8初ウ2宮司が妻にほれられて憂胡及ぐうじがつまに ほれられてうき 
9初ウ3問はれても涙に物の云にくき一井とわれても なみだにものの いいにくき 
10初ウ4葛篭とヾきて切ほどく文鼠彈つづらとどきて きりほどくふみ 
11初ウ5うとうとと寐起ながらに湯をわかす胡及うとうとと ねおきながらに ゆをわかす 
12初ウ6寒ゆく夜半の越の雪鋤長虹さえゆくよわの こしのゆきすき 
13初ウ7なに事かよばりあひてはうち笑ひ鼠彈なにごとか よばりあいては うちわらい 
14初ウ8蛤とりはみな女中也一井はまぐりとりは みなじょちゅうなり 
15初ウ9浦風に脛吹まくる月涼し長虹うらかぜに はぎふきまくる つきすずし 
16初ウ10みるもかしこき紀伊の御魂屋胡及みるもかしこき きいのおたまや 
17初ウ11若者のさし矢射てをる花の陰一井わかものの さしやいておる はなのかげ×おる
18初ウ折端蒜くらふ香に遠ざかりけり鼠彈ひるくらうかに とおざかりけり 
19名オ折立はるのくれありきありきも睡るらむ胡及はるのくれ ありきありきも ねむるらん 
20名オ2帋子の綿の裾に落つゝ長虹かみこのわたの すそにおちつつ 
21名オ3はなしする内もさいさい手を洗鼠彈はなしするうちも さいさいてをあらい 
22名オ4座敷ほどある蚊屋を釣けり一井ざしきほどある かやをつりけり 
23名オ5木ばさみにあかるうなりし松の枝長虹きばさみに あかるうなりし まつのえだ 
24名オ6秤にかゝる人々の興胡及はかりにかかる ひとびとのきょう 
25名オ7此年になりて灸の跡もなき一井このとしに なりてやいとの あともなき 
26名オ8まくらもせずについ寐入月鼠彈まくらもせずに ついねいるつき 
27名オ9暮過て障子の陰のうそ寒き胡及くれすぎて しょうじのかげの うそさむき 
28名オ10こきたるやうにしぼむ萩のは長虹こきたるように しぼむはぎのは 
29名オ11御有様入道の宮のはかなげに鼠彈おありさま にゅうどのみやの はかなげに 
30名オ折端衣引かぶる人の足音一井きぬひきかぶる ひとのあしおと 
31名ウ折立毒なりと瓜一きれも喰ぬ也長虹どくなりと うりひときれも くわぬなり 
32名ウ2片風たちて過る白雨胡及かたかぜたちて すぐるゆうだち 
33名ウ3板へぎて踏所なき庭の内一井いたへぎて ふみどころなき にわのうち 
34名ウ4はねのぬけたる黒き唐丸鼠彈はねのぬけたる くろきとうまる 
35名ウ5ぬくぬくと日足のしれぬ花曇長虹ぬくぬくと ひあしのしれぬ はなぐもり 
36挙句見わたすほどはみなつゝじ也胡及みわたすほどは みなつつじなり 

京寺町通二條上ル町井筒屋 / 井筒屋庄兵衛板  



芭蕉七部集「ひさご」(連句)
 
 

 江南の珍碩我にひさごを送レり。これは是水漿をもり酒をたしなむ器にもあらず、或は大樽に造りて江湖をわたれといへるふくべにも異なり。吾また後の惠子にして用ることをしらず。つらつらそのほとりに睡り、あやまりて此うちに陥る。醒てみるに、日月陽秋きらゝかにして、雪のあけぼの闇の郭公もかけたることなく、なほ吾知人ども見えたきりて、皆風雅の藻思をいへり。しらず、是はいづれのところにして、乾坤の外なることを。出てそのことを云て、毎日此内にをどり入。

  元祿三 六月

越智越人 

21 ひさご「桜かな」の巻 -歌仙-

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花見
句称作者読み備考
1発句木のもとに汁も膾も櫻かな芭蕉このもとに しるもなますも さくらかな 
2西日のどかによき天気なり珍碩にしびのどかに よきてんきなり 
3第三旅人の虱かき行春暮て曲水たびびとの しらみかきゆく はるくれて 
4初オ4はきも習はぬ太刀のひきはだ芭蕉はきもならわぬ たちのひきはだ 
5初オ5月待て假の内裏の司召珍碩つきまちて かりのだいりの つかさめし 
6初オ折端籾臼つくる杣がはやわざ野水もみうすつくる そまがはやわざ 
7初ウ折立鞍置る三歳駒に秋の來て芭蕉くらおける さんさいこまに あきのきて 
8初ウ2名はさまざまに降替る雨珍碩なはさまざまに ふりかわるあめ 
9初ウ3入込に諏訪の涌湯の夕ま暮野水いりこみに すわのいでゆの ゆうまぐれ 
10初ウ4中にもせいの高き山伏芭蕉なかにもせいの たかきやまぶし 
11初ウ5いふ事を唯一方へ落しけり珍碩いうことを ただいっぽうへ おとしけり 
12初ウ6ほそき筋より恋つのりつゝ野水ほそきすじより こいつのりつつ 
13初ウ7物おもふ身にもの喰へとせつかれて芭蕉ものおもう みにものくえと せつかれて 
14初ウ8月見る顔の袖おもき露珍碩つきみるかおの そでおもきつゆ 
15初ウ9秋風の船をこはがる波の音野水あきかぜの ふねをこわがる なみのおと 
16初ウ10雁ゆくかたや白子若松芭蕉かりゆくかたや しろこわかまつ 
17初ウ11千部讀花の盛の一身田珍碩せんぶよむ はなのさかりの いしんでん 
18初ウ折端巡禮死ぬる道のかげろふ野水じゅんれいしぬる みちのかげろう 
19名オ折立何よりも蝶の現ぞあはれなる芭蕉なによりも ちょうのうつつぞ あわれなる 
20名オ2文書ほどの力さへなき珍碩ふみかくほどの ちからさえなき 
21名オ3羅に日をいとはるゝ御かたち野水うすものに ひをいとわるる おんかたち 
22名オ4熊野みたきと泣給ひけり芭蕉くまのみたきと なきたまいけり 
23名オ5手束弓紀の関守が頑に珍碩たつかゆみ きのせきもりが かたくなに 
24名オ6酒ではげたるあたま成覧野水さけではげたる あたまなるらん 
25名オ7双六の目をのぞくまで暮かゝり芭蕉すごろくの めをのぞくまで くれかかり 
26名オ8假の持佛にむかふ念仏珍碩かりのじぶつに むかうねんぶつ 
27名オ9中々に土間に居れば蚤もなし野水なかなかに どまにすわれば のみもなし 
28名オ10我名は里のなぶりもの也芭蕉わがなはさとの なぶりものなり 
29名オ11憎れていらぬ躍の肝を煎珍碩にくまれて いらぬおどりの きもをいり 
30名オ折端月夜つきよに明渡る月野水つきつきよに あけわたるつき 
31名ウ折立花薄あまりまねけばうら枯て芭蕉はなすすき あまりまねけば うらがれて 
32名ウ2唯四方なる草庵の露珍碩ただよほうなる そうあんのつゆ 
33名ウ3一貫の錢むつかしと返しけり野水いっかんの ぜにむつかしと かえしけり 
34名ウ4醫者のくすりは飲ぬ分別芭蕉いしゃのくすりは のまぬふんべつ 
35名ウ5花咲けば芳野あたりを欠廻野水はなさけば よしのあたりを かけまわり 
36挙句虻にさゝるゝ春の山中珍碩あぶにささるる はるのやまなか 
翁  十二 / 珍碩 十二 / 曲水 十二

22 ひさご「春の草」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句いろいろの名もむつかしや春の草珍碩いろいろの なもむつかしや はるのくさ 
2うたれて蝶の夢はさめぬる芭蕉うたれてちょうの ゆめはさめぬる 
3第三蝙蝠ののどかにつらをさし出て路通こうもりの のどかにつらを さしだして 
4初オ4駕篭のとほらぬ峠越たり路通かごのとおらぬ とうげこえたり 
5初オ5紫蘇の實をかますに入るゝ夕ま暮珍碩しそのみを かますにいるる ゆうまぐれ 
6初オ折端親子ならびて月に物くふ珍碩おやこならびて つきにものくう 
7初ウ折立秋の色宮ものぞかせ給ひけり路通あきのいろ みやものぞかせ たまいけり 
8初ウ2こそぐられてはわらふ俤路通こそぐられては わらうおもかげ 
9初ウ3うつり香の羽織を首にひきまきて珍碩うつりかの はおりをくびに ひきまきて 
10初ウ4小六うたひし市のかへるさ珍碩ころくうたいし いちのかえるさ 
11初ウ5鮠釣のちひさく見ゆる川の端路通はえつりの ちいさくみゆる かわのはし 
12初ウ6念佛申てをがむみづがき路通ねぶつもうして おがむみずがき 
13初ウ7こしらへし薬もうれず年の暮珍碩こしらえし くすりもうれず としのくれ 
14初ウ8庄野の里の犬におどされ珍碩しょうののさとの いぬにおどされ 
15初ウ9旅姿稚き人の嫗つれて路通たびすがた おさなきひとの うばつれて 
16初ウ10花はあかいよ月は朧夜路通はなはあかいよ つきはおぼろよ 
17初ウ11しほのさす縁の下迄和日なり珍碩しおのさす えんのしたまで うららなり 
18初ウ折端生鯛あがる浦の春哉珍碩いきだいあがる うらのはるかな 
19名オ折立此村の廣きに醫者のなかりけり荷兮このむらの ひろきにいしゃの なかりけり 
20名オ2そろばんおけばものしりといふ越人そろばんおけば ものしりという 
21名オ3かはらざる世を退屈もせずに過荷兮かわらざる よをたいくつも せずにすぎ 
22名オ4また泣出す酒のさめぎは越人またなきいだす さけのさめぎわ 
23名オ5ながめやる秋の夕ぞだゞびろき荷兮ながめやる あきのゆうべぞ だだびろき 
24名オ6蕎麥眞白に山の胴中越人そばまっしろに やまのどうなか 
25名オ7うどんうつ里のはづれの月の影荷兮うどんうつ さとのはずれの つきのかげ 
26名オ8すもゝもつ子のみな裸むし越人すもももつこの みなはだかむし 
27名オ9めづらしやまゆ烹也と立どまり荷兮めずらしや まゆにるなりと たちどまり 
28名オ10文殊の知恵も槃特が愚痴越人もんじゅのちえも はんどくがぐち 
29名オ11なれ加減又とは出來ジひしほ味噌荷兮なれかげん またとはできじ ひしおみそ 
30名オ折端何ともせぬに落る釣棚越人なんともせぬに おちるつりだな 
31名ウ折立しのぶ夜のをかしうなりて笑出ス荷兮しのぶよの おかしゅうなりて わらいだす 
32名ウ2逢ふより顔を見ぬ別して荷兮あうよりかおを みぬわかれして 
33名ウ3汗の香をかゝへて衣をとり残し越人あせのかを かかえてきぬを とりのこし 
34名ウ4しきりに雨はうちあけてふる越人しきりにあめは うちあけてふる 
35名ウ5花ざかり又百人の膳立に荷兮はなざかり またひゃくにんの ぜんだてに 
36挙句春は旅ともおもはざる旅荷兮はるはたびとも おもわざるたび 
珍碩 九 / 翁 一 / 路通 八 / 荷兮 十 / 越人 八

23 ひさご「卯月哉」の巻 -歌仙-

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城下
句称作者読み備考
1発句鐵砲の遠音に曇る卯月哉野径てっぽうの とうねにくもる うづきかな 
2砂の小麥の痩てはらはら里東すなのこむぎの やせてはらはら 
3第三西風にますほの小貝拾はせて泥土にしかぜに ますほのこがい ひろわせて 
4初オ4なまぬる一つ餬ひかねたり乙州なまぬるひとつ もらいかねたり 
5初オ5碁いさかひ二人しらける有明に怒誰ごいさかい ふたりしらける ありあけに 
6初オ折端秋の夜番の物もうの聲珍碩あきのよばんの ものもうのこえ 
7初ウ折立女郎花心細氣におけはれて執筆おみなえし こころほそげに おけはれて※おけはるママ
8初ウ2目の中おもく見遣がちなる野径めのなかおもく みやりがちなる 
9初ウ3けふも又川原咄しをよく覺え里東きょうもまた かわらばなしを よくおぼえ 
10初ウ4顔のおかしき生つき也泥土かおのおかしき うまれつきなり 
11初ウ5馬に召神主殿をうらやみて乙州うまにめす かんぬしどのを うらやみて 
12初ウ6一里こぞり山の下苅怒誰ひとさとこぞり やまのしたがり 
13初ウ7見知られて岩屋に足も留られず泥土みしられて いわやにあしも とめられず 
14初ウ8それ世は泪雨としぐれと里東それよはなみだ あめとしぐれと 
15初ウ9雪舟に乗越の遊女の寒さうに野径そりにのる こしのゆうじょの さむそうに 
16初ウ10壹歩につなぐ丁百の錢乙州いちぶにつなぐ ちょうひゃくのぜに 
17初ウ11月花に庄屋をよつて高ぶらせ珍碩つきはなに しょうやをよって たかぶらせ 
18初ウ折端煮しめの塩のからき早蕨怒誰にしめのしおの からきさわらび 
19名オ折立くる春に付ても都わすられず里東くるはるに つけてもみやこ わすられず 
20名オ2半氣違の坊主泣出す珍碩はんきちがいの ぼうずなきだす 
21名オ3のみに行居酒の荒の一譟乙州のみにゆく いざけのあれの ひとさわぎ 
22名オ4古きばくちののこる鎌倉野径ふるきばくちの のこるかまくら 
23名オ5時々は百姓までも烏帽子にて怒誰ときどきは ひゃくしょうまでも えぼしにて 
24名オ6配所を見廻ふ供御の蛤泥土はいしょをみまう くごのはまぐり 
25名オ7たそがれは船幽霊の泣やらむ珍碩たそがれは ふなゆうれいの なくやらん 
26名オ8連も力も皆座頭なり里東つれもちからも みなざとうなり 
27名オ9から風の大岡寺繩手吹透し野径からかぜの たいこじなわて ふきとおし 
28名オ10蟲のこはるに用叶へたき乙州むしのこわるに ようかなえたき 
29名オ11糊剛き夜着にちひさき御座敷て泥土のりこわき よぎにちいさき ござしきて 
30名オ折端夕辺の月に菜食嗅出す怒誰ゆうべのつきに なめしかぎだす 
31名ウ折立看經の嗽にまぎるゝ咳氣聲里東かんきんの せきにまぎるる がいきごえ 
32名ウ2四十は老のうつくしき際珍碩しじゅうはおいの うつくしききわ 
33名ウ3髪くせに枕の跡を寐直して乙州かみくせに まくらのあとを ねなおして 
34名ウ4醉を細目にあけて吹るゝ野径よいをほそめに あけてふかるる 
35名ウ5杉村の花は若葉に雨氣づき怒誰すぎむらの はなはわかばに あまけづき 
36挙句田の片隅に苗のとりさし泥土たのかたすみに なえのとりさし 
野径 六 / 里東 六 / 泥土 六 / 乙州 六 / 怒誰 六 / 珍碩 五 / 筆 一

24 ひさご「亀の甲」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句亀の甲烹らるゝ時は鳴もせず乙州かめのこう にらるるときは なきもせず 
2唯牛糞に風のふく音珍碩ただぎゅうふんに かぜのふくおと 
3第三百姓の木綿仕まへば冬のきて里東ひゃくしょうの もめんしまえば ふゆのきて 
4初オ4小哥そろふるからうすの縄探志こうたそろうる からうすのなわ 
5初オ5獨寐て奥の間ひろき旅の月昌房ひとりねて おくのまひろき たびのつき 
6初オ折端蟷螂落てきゆる行燈正秀とうろうおちて きゆるあんどん 
7初ウ折立秋萩の御前にちかき坊主衆及肩あきはぎの ごぜんにちかき ぼうずしゅう 
8初ウ2風呂の加減のしずか成けり野径ふろのかげんの しずかなりけり 
9初ウ3鶯の寒き聲にて鳴出し二嘯うぐいすの さむきこえにて なきいだし 
10初ウ4雪のやうなるかますごの塵乙州ゆきのようなる かますごのちり 
11初ウ5初花に雛の巻樽居ならべ珍碩はつはなに ひなのまきだる すえならべ 
12初ウ6心のそこに恋ぞありける里東こころのそこに こいぞありける 
13初ウ7御簾の香に吹そこなひし笛の役探志みすのかに ふきそこないし ふえのやく 
14初ウ8寐ごとに起て聞ば鳥啼昌房ねごとにおきて きけばとりなく 
15初ウ9錢入の巾着下て月に行正秀ぜにいれの きんちゃくさげて つきにゆく 
16初ウ10まだ上京も見ゆるやゝさむ及肩まだかみぎょうも みゆるややさむ 
17初ウ11蓋に盛鳥羽の町屋の今年米野径かさにもる とばのまちやの ことしまい 
18初ウ折端雀を荷う篭のぢヾめき二嘯すずめをになう かごのじじめき 
19名オ折立うす曇る日はどんみりと霜をれて乙州うすぐもる ひはどんみりと しもおれて 
20名オ2鉢いひならふ声の出かぬる珍碩はちいいならう こえのでかぬる 
21名オ3染て憂木綿袷のねずみ色里東そめてうき もめんあわせの ねずみいろ 
22名オ4撰あまされて寒きあけぼの探志えりあまされて さむきあけぼの 
23名オ5暗がりに薬鑵の下をもやし付昌房くらがりに やかんのしたを もやしつけ 
24名オ6轉馬を呼る我まはり口正秀てんまをよばる わがまわりぐち 
25名オ7いきりたる鑓一筋に挟箱及肩いきりたる やりひとすじに はさみばこ 
26名オ8水汲かふる鯉棚の秋野径みずくみかうる こいだなのあき 
27名オ9さはさはと切籠の紙手に風吹て二嘯さわさわと きりこのしでに かぜふきて 
28名オ10奉加の序にもほのか成月乙州ほうがのじょにも ほのかなるつき 
29名オ11喰物に味のつくこそ嬉しけれ珍碩くいものに あじのつくこそ うれしけれ 
30名オ折端煤掃うちは次に居替る里東すすはくうちは つぎにいかわる 
31名ウ折立目をぬらす禿のうそにとりあげて探志めをぬらす かぶろのうそに とりあけて 
32名ウ2恋にはかたき最上侍昌房こいにはかたき もがみざむらい 
33名ウ3手みじかに手拭ねぢて腰にさげ正秀てみじかに てぬぐいねじて こしにさげ 
34名ウ4縄を集る寺の上茨及肩なわをあつむる てらのうわぶき 
35名ウ5花の比昼の日待に節ご着て野径はなのころ ひるのひまちに せちごきて 
36挙句さゝらに狂ふ獅子の春風二嘯ささらにくるう ししのはるかぜ 
乙州 四/ 正秀 仝/ 珍碩 仝/ 及肩 仝/ 里東 四/ 野径 仝/ 探志 仝/ 二嘯 仝/ 昌房 仝

25 ひさご「角大師」の巻 -歌仙-

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田野
句称作者読み備考
1発句畦道や苗代時の角大師正秀あぜみちや なわしろどきの つのだいし 
2明れば霞む野鼠の顔珍碩あくればかすむ のねずみのかお 
3第三觜ぶとのわやくに鳴し春の空珍碩はしぶとの わやくになきし はるのそら 
4初オ4かまへをかしき門口の文字正秀かまえおかしき かどぐちのもじ 
5初オ5月影に利休の家を鼻に懸正秀つきかげに りきゅうのいえを はなにかけ 
6初オ折端度々芋をもらはるゝなり珍碩たびたびいもを もらわるるなり 
7初ウ折立虫は皆つゞれつゞれと鳴やらむ正秀むしはみな つづれつづれと なくやらん 
8初ウ2片足片足の木履たづぬる珍碩かたしかたしの ぼくりたずぬる 
9初ウ3誓文を百もたてたる別路に正秀せいもんを ひゃくもたてたる わかれじに 
10初ウ4なみだぐみけり供の侍珍碩なみだぐみけり とものさむらい 
11初ウ5須广はまた物不自由なる臺所正秀すまはまた ものふじゆうなる だいどころ 
12初ウ6狐の恐る弓かりにやる珍碩きつねのおそる ゆみかりにやる 
13初ウ7月氷る師走の空の銀河正秀つきこおる しわすのそらの あまのがわ 
14初ウ8無理に居たる膳も進まず珍碩むりにすえたる ぜんもすすまず 
15初ウ9いらぬとて大脇指も打くれて正秀いらぬとて おおわきざしも うちくれて 
16初ウ10獨ある子も矮鶏に替ける珍碩ひとりあるこも ちゃぼにかえける 
17初ウ11江戸酒を花咲度に恋しがり正秀えどざけを はなさくたびに こいしがり 
18初ウ折端あひの山弾春の入逢正秀あいのやまひく はるのいりあい 
19名オ折立雲雀啼里は厩糞かき散し珍碩ひばりなく さとはまやこえ かきちらし 
20名オ2火を吹て居る禅門の祖父正秀ひをふいている ぜんもんのじじ 
21名オ3本堂はまだ荒壁のはしら組珍碩ほんどうは まだあらかべの はしらぐみ 
22名オ4羅綾の袂しぼり給ひぬ正秀らりょうのたもと しぼりたまいぬ 
23名オ5歯を痛人の姿を絵に書て珍碩はをいたむ ひとのすがたを えにかきて 
24名オ6薄雪たわむすゝき痩たり正秀うすゆきたわむ すすきやせたり 
25名オ7藤垣の窓に紙燭を挟おき珍碩ふじがきの まどにしそくを はさみおき 
26名オ8口上果ぬいにざまの時宜正秀こうじょうはてぬ いにざまのじぎ 
27名オ9たふとげに小判かぞふる革袴珍碩とうとげに こばんかぞうる かわばかま 
28名オ10秋入初る肥後の隈本正秀あきいりそむる ひごのくまもと 
29名オ11幾日路も苫で月見る役者舩珍碩いくかじも とまでつきみる やくしゃぶね 
30名オ折端素布子ひとつ夜寒也けり正秀すぬのこひとつ よさむなりけり 
31名ウ折立沢山に兀め兀めと叱られて珍碩たくさんに はげめはげめと しかられて 
32名ウ2呼ありけども猫は帰らず正秀よびありけども ねこはかえらず 
33名ウ3子規御小人町の雨あがり珍碩ほととぎす おこびとまちの あめあがり 
34名ウ4やしほの楓木の芽萌立正秀やしおのかえで きのめもえたつ 
35名ウ5散花に雪踏挽ずる音ありて珍碩ちるはなに せったひきずる おとありて 
36挙句北野の馬場にもゆるかげろふ正秀きたののばばに もゆるかげろう 
正秀 十九 / 珍碩十七
寺町二條上ル町 / 井筒屋庄兵衛板 


芭蕉七部集「猿蓑」(連句)
 
 

 晋其角序

誹諧の集つくる事、古今にわたりて此道のおもて起べき時なれや。幻術の第一として、その句に魂の入ざれば、ゆめにゆめみるに似たるべし。久しく世にとゞまり、長く人にうつりて、不變の變をしらしむ。五徳はいふに及ばず、心をこらすべきたしなみなり。彼西行上入の、骨にて人を作りたてゝ、聲はわれたる笛を吹やうになん侍ると申されける。人には成て侍れども、五の聲のわかれざるは、反魂の法のおろそかに侍にや。さればたましゐの入たらば、アイウエオよくひゞきて、いかならん吟聲も出ぬべし。只誹諧に魂の入たらむにこそとて、我翁行脚のころ、伊賀越しける山中にて、猿に小蓑を着せて、誹諧の神を入たまひければ、たちまち断腸のおもひを叫びけむ、あたに懼るべき幻術なり。これを元として此集をつくりたて、猿みのとは名付申されける。是が序もその心をとり魂を合せて、去來凡兆のほしげなるにまかせて書。

  元祿辛未歳五月下弦

雲 竹 書 

27 猿蓑「鳶の羽」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句鳶の羽も刷ぬはつしぐれ去来とびのはも かいつくろいぬ はつしぐれ 
2一ふき風の木の葉しづまる芭蕉ひとふきかぜの このはしずまる 
3第三股引の朝からぬるゝ川こえて凡兆ももひきの あさからぬるる かわこえて 
4初オ4たぬきをおどす篠張の弓史邦たぬきをおどす しのはりのゆみ 
5初オ5まいら戸に蔦這かゝる宵の月芭蕉まいらどに つたはいかかる よいのつき 
6初オ折端人にもくれず名物の梨去來ひとにもくれず めいぶつのなし 
7初ウ折立かきなぐる墨繪をかしく秋暮て史邦かきなぐる すみえおかしく あきくれて 
8初ウ2はきごゝろよきめりやすの足袋凡兆はきごころよき めりやすのたび 
9初ウ3何事も無言の内はしづかなり去來なにごとも むごんのうちは しずかなり 
10初ウ4里見え初て午の貝ふく芭蕉さとみえてそめて うまのかいふく 
11初ウ5ほつれたる去年のねござのしたゝるく凡兆ほつれたる こぞのねござの したたるく 
12初ウ6芙蓉のはなのはらはらとちる史邦ふようのはなの はらはらとちる 
13初ウ7吸物は先出來されしすゐぜんじ芭蕉すいものは まずでかされし すいぜんじ 
14初ウ8三里あまりの道かゝへける去來さんりあまりの みちかかえける 
15初ウ9この春も盧同が男居なりにて史邦このはるも ろどうがおとこ いなりにて 
16初ウ10さし木つきたる月の朧夜凡兆さしきつきたる つきのおぼろよ 
17初ウ11苔ながら花に並ぶる手水鉢芭蕉こけながら はなにならぶる ちょうずばち 
18初ウ折端ひとり直し今朝の腹だち去來ひとりなおりし けさのはらだち 
19名オ折立いちどきに二日の物も喰て置凡兆いちどきに ふつかのものも くうておき 
20名オ2雪けにさむき嶋の北風史邦ゆきけにさむき しまのきたかぜ 
21名オ3火ともしに暮れば登る峯の寺去來ひともしに くるればのぼる みねのてら 
22名オ4ほとゝぎす皆鳴仕舞たり芭蕉ほととぎすみな なきしまいたり 
23名オ5痩骨のまだ起直る力なき史邦やせぼねの まだおきなおる ちからなき 
24名オ6隣をかりて車引こむ凡兆となりをかりて くるまひきこむ 
25名オ7うき人を枳穀垣よりくゞらせん芭蕉うきひとを きこくがきより くぐらせん 
26名オ8いまや別の刀さし出す去來いまやわかれの かたなさしだす 
27名オ9せはしげに櫛でかしらをかきちらし凡兆せわしげに くしでかしらを かきちらし 
28名オ10おもひ切たる死ぐるひ見よ史邦おもいきったる しにぐるいみよ 
29名オ11青天に有明月の朝ぼらけ去來せいてんに ありあけづきの あさぼらけ 
30名オ折端湖水の秋の比良のはつ霜芭蕉こすいのあきの ひらのはつしも 
31名ウ折立柴の戸や蕎麦ぬすまれて歌をよむ史邦しばのとや そばぬすまれて うたをよむ 
32名ウ2ぬのこ着習ふ風の夕ぐれ凡兆ぬのこきならう かぜのゆうぐれ 
33名ウ3押合て寝ては又立つかりまくら芭蕉おしあいて ねてはまたたつ かりまくら 
34名ウ4たゝらの雲のまだ赤き空去來たたらのくもの まだあかきそら 
35名ウ5一構鞦つくる窓のはな凡兆ひとかまえ しりがいつくる まどのはな 
36挙句枇杷の古葉に木芽もえたつ史邦びわのふるはに このめもえたつ 
去来 九 / 芭蕉 九 / 凡兆 九 / 史邦 九

27 猿蓑「市中は」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句市中は物のにほひや夏の月凡兆いちなかは もののにおいや なつのつき 
2あつしあつしと門々の聲芭蕉あつしあつしと かどかどのこえ 
3第三二番草取りも果さず穂に出て去来にばんぐさ とりもはたさず ほにいでて 
4初オ4灰うちたゝくうるめ一枚凡兆はいうちたたく うるめいちまい 
5初オ5此筋は銀も見しらず不自由さよ芭蕉このすじは ぎんもみしらず ふじゅうさよ 
6初オ折端たゞとひやうしに長き脇指去來ただとひょうしに ながきわきざし 
7初ウ折立草村に蛙こはがる夕まぐれ凡兆くさむらに かわずこわがる ゆうまぐれ 
8初ウ2蕗の芽とりに行燈ゆりけす芭蕉ふきのめとりに あんどゆりけす 
9初ウ3道心のおこりは花のつぼむ時去來どうしんの おこりははなの つぼむとき 
10初ウ4能登の七尾の冬は住うき凡兆のとのななおの ふゆはすみうき 
11初ウ5魚の骨しはぶる迄の老を見て芭蕉うおのほね しわぶるまでの おいをみて 
12初ウ6待人入し小御門の鎰去來まちびといれし こみかどのかぎ 
13初ウ7立かゝり屏風を倒す女子共凡兆たちかかり びょうぶをたおす おなごども 
14初ウ8湯殿は竹の簀子侘しき芭蕉ゆどのはたけの すのこわびしき 
15初ウ9茴香の實を吹落す夕嵐去來ういきょうの みをふきおとす ゆうあらし 
16初ウ10僧やゝさむく寺にかへるか凡兆そうややさむく てらにかえるか 
17初ウ11さる引の猿と世を経る秋の月芭蕉さるひきの さるとよをふる あきのつき 
18初ウ折端年に一斗の地子はかる也去來ねんにいっとの じしはかるなり 
19名オ折立五六本生木つけたる瀦凡兆ごろっぽん なまきつけたる みずたまり 
20名オ2足袋ふみよごす黑ぼこの道芭蕉たびふみよごす くろぼこのみち 
21名オ3追たてゝ早き御馬の刀持去來おいたてて はやきおうまの かたなもち 
22名オ4でつちが荷ふ水こぼしたり凡兆でっちがになう みずこぼしたり 
23名オ5戸障子もむしろがこひの賣屋敷芭蕉としょうじも むしろがこいの うりやしき 
24名オ6てんじやうまもりいつか色づく去來てんじょうまもり いつかいろづく 
25名オ7こそこそと草鞋を作る月夜ざし凡兆こそこそと わらじをつくる つきよざし 
26名オ8蚤をふるひに起し初秋芭蕉のみをふるいに おきしはつあき 
27名オ9そのまゝにころび落たる升落去來そのままに ころびおちたる ますおとし 
28名オ10ゆがみて蓋のあはぬ半櫃凡兆ゆがみてふたの あわぬはんびつ 
29名オ11草庵に暫く居ては打やぶり芭蕉そうあんに しばらくいては うちやぶり 
30名オ折端いのち嬉しき撰集のさた去來いのちうれしき せんじゅうのさた 
31名ウ折立さまざまに品かはりたる恋をして凡兆さまざまに しなかわりたる こいをして 
32名ウ2浮世の果は皆小町なり芭蕉うきよのはては みなこまちなり 
33名ウ3なに故ぞ粥すゝるにも涙ぐみ去來なにゆえぞ かゆすするにも なみだぐみ 
34名ウ4御留守となれば廣き板敷凡兆おるすとなれば ひろきいたじき 
35名ウ5手のひらに虱這はする花のかげ芭蕉てのひらに しらみはわする はなのかげ 
36挙句かすみうごかぬ昼のねむたさ去來かすみうごかぬ ひるのねむたさ 
凡兆 十二 / 芭蕉 十二 / 去来 十二

28 猿蓑「灰汁桶」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句灰汁桶の雫やみけりきりぎりす凡兆あくおけの しずくやみけり きりぎりす 
2あぶらかすりて宵寝する秋芭蕉あぶらかすりて よいねするあき 
3第三新疊敷ならしたる月かげに野水あらだたみ しきならしたる つきかげに 
4初オ4ならべて嬉し十のさかづき去来ならべてうれし とおのさかずき 
5初オ5千代経べき物を様々子日して芭蕉ちよふべき ものをさまざま ねのびして 
6初オ折端鶯の音にたびら雪降る凡兆うぐいすのねに たびらゆきふる 
7初ウ折立乗出して肱に餘る春の駒去來のりだして かいなにあまる はるのこま 
8初ウ2摩耶が高根に雲のかゝれる野水まやがたかねに くものかかれる 
9初ウ3ゆふめしにかますご喰へば風薫凡兆ゆうめしに かますごくえば かぜかおる 
10初ウ4蛭の口處をかきて氣味よき芭蕉ひるのくちどを かきてきみよき 
11初ウ5ものおもひけふは忘れて休む日に野水ものおもい きょうはわすれて やすむひに 
12初ウ6迎せはしき殿よりのふみ去來むかえせわしき とのよりのふみ 
13初ウ7金鍔と人によばるゝ身のやすさ芭蕉きんつばと ひとによばるる みのやすさ 
14初ウ8あつ風呂ずきの宵々の月凡兆あつぶろずきの よいよいのつき 
15初ウ9町内の秋も更行明やしき去來ちょうないの あきもふけゆく あきやしき 
16初ウ10何を見るにも露ばかり也野水なにをみるにも つゆばかりなり 
17初ウ11花とちる身は西念が衣着て芭蕉はなとちる みはさいねんが ころもきて 
18初ウ折端木曽の酢茎に春もくれつゝ凡兆きそのすぐきに はるもくれつつ 
19名オ折立かへるやら山陰傅ふ四十から野水かえるやら やまかげつたう しじゅうから 
20名オ2柴さす家のむねをからげる去來しばさすいえの むねをからげる 
21名オ3冬空のあれに成たる北颪凡兆ふゆぞらの あれになりたる きたおろし 
22名オ4旅の馳走に有明しをく芭蕉たびのちそうに ありあかしおく 
23名オ5すさまじき女の智慧もはかなくて去來すさまじき おんなのちえも はかなくて 
24名オ6何おもひ草狼のなく野水なにおもいぐさ おおかみのなく 
25名オ7夕月夜岡の萱ねの御廟守る芭蕉ゆうづくよ おかのかやねの ごびょうもる 
26名オ8人もわすれしあかそぶの水凡兆ひともわすれし あかそぶのみず 
27名オ9うそつきに自慢いはせて遊ぶらむ野水うそつきに じまんいわせて あそぶらん 
28名オ10又も大事の鮓を取出す去來またもだいじの すしをとりだす 
29名オ11堤より田の青やぎていさぎよき凡兆つつみより たのあおやぎて いさぎよき 
30名オ折端加茂のやしろは能き社なり芭蕉かものやしろは よきやしろなり 
31名ウ折立物うりの尻聲高く名乗すて去來ものうりの しりごえたかく なのりすて 
32名ウ2雨のやどりの無常迅速野水あめのやどりの むじょうじんそく 
33名ウ3昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ芭蕉ひるねぶる あおさぎのみの とうとさよ 
34名ウ4しよろしよろ水に藺のそよぐらむ凡兆しょろしょろみずに いのそよぐらん 
35名ウ5糸櫻腹いつぱいに咲にけり去來いとざくら はらいっぱいに さきにけり 
36挙句春は三月曙のそら野水はるはさんがつ あけぼののそら 
凡兆 九 / 芭蕉 九 / 野水 九 / 去来 九

29 猿蓑「梅若菜」の巻 -歌仙-

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餞乙刕(以下乙州)東武行く
句称作者読み備考
1発句梅若菜まりこの宿のとろゝ汁芭蕉うめわかな まりこのしゅくの とろろじる 
2かさあたらしき春の曙乙州かさあたらしき はるのあけぼの 
3第三雲雀なく小田に土持比なれや珍碩ひばりなく おだにつちもつ ころなれや 
4初オ4しとぎ祝うて下されにけり素男しとぎいおうて くだされにけり 
5初オ5片隅に虫齒かゝへて暮の月乙州かたすみに むしばかかえて くれのつき 
6初オ折端二階の客はたゝれたるあき芭蕉にかいのきゃくは たたれたるあき 
7初ウ折立放やるうづらの跡は見えもせず素男はなちやる うずらのあとは みえもせず 
8初ウ2稲の葉延の力なきかぜ珍碩いねのはのびの ちからなきかぜ 
9初ウ3ほつしんの初にこゆる鈴鹿山芭蕉ほっしんの はじめにこゆる すずかやま 
10初ウ4内藏頭かと呼聲はたれ乙州くらのかみかと よぶこえはたれ 
11初ウ5卯の刻の簔手に並ぶ小西方珍碩うのこくの みのてにならぶ こにしがた 
12初ウ6すみきる松のしづかなりけり素男すみきるまつの しずかなりけり 
13初ウ7萩の札すゝきの札によみなして乙州はぎのふだ すすきのふだに よみなして 
14初ウ8雀かたよる百舌鳥の一聲智月すずめかたよる もずのひとこえ 
15初ウ9懐に手をあたゝむる秋の月凡兆ふところに てをあたたむる あきのつき 
16初ウ10汐さだまらぬ外の海づら乙州しおさだまらぬ そとのうみづら 
17初ウ11鑓の柄に立すがりたる花のくれ去来やりのえに たちすがりたる はなのくれ 
18初ウ折端灰まきちらすからしなの跡凡兆はいまきちらす からしなのあと 
19名オ折立春の日に仕舞てかへる経机正秀はるのひに しもうてかえる きょうづくえ 
20名オ2店屋物くふ供の手がはり去來てんやものくう とものてがわり 
21名オ3汗ぬぐひ端のしるしの紺の糸半残あせぬぐい はしのしるしの こんのいと 
22名オ4わかれせはしき鶏の下土芳わかれせわしき にわとりのした 
23名オ5大胆におもひくづれぬ恋をして半残だいたんに おもいくずれぬ こいをして 
24名オ6身はぬれ紙の取所なき土芳みはぬれがみの とりどころなき 
25名オ7小刀の蛤刃なる細工ばこ半残こがたなの はまぐりばなる さいくばこ 
26名オ8棚に火ともす大年の夜園風たなにひともす おおどしのよる 
27名オ9こゝもとはおもふ便も須磨の浦猿雖ここもとは おもうたよりも すまのうら 
28名オ10むね打合せ着たるかたぎぬ半残むねうちあわせ きたるかたぎぬ 
29名オ11此夏もかなめをくゝる破扇園風このなつも かなめをくくる やれおおぎ 
30名オ折端醤油ねさせてしばし月見る猿雖しょうゆねさせて しばしつきみる 
31名ウ折立咳聲の隣はちかき縁づたひ土芳せきごえの となりはちかき えんづたい 
32名ウ2添へばそふほどこくめんな顔園風そえばそうほど こくめんなかお 
33名ウ3形なき繪を習ひたる會津盆嵐蘭かたちなき えをならいたる あいづぼん 
34名ウ4うす雪かゝる竹の割下駄史邦うすゆきかかる たけのわりげた 
35名ウ5花に又ことしのつれも定らず野水はなにまた ことしのつれも さだまらず 
36挙句雛の袂を染るはるかぜ羽紅ひなのたもとを そむるはるかぜ 

 芭蕉 三  去来 二  嵐蘭 一 / 乙州 五  正秀 一  史邦 一 / 珍碩 三  半残 四  野水 一 /

 素男 三  土芳 三  羽紅 一 / 智月 一  園風 三 / 凡兆 二  猿雖 二

京寺町二條上ル丁 / 井筒屋庄兵衛板 


芭蕉七部集「炭俵」(連句)
 

 炭俵序

此集を撰める孤屋・野披・利牛らは、常に芭蕉の軒に行かよひ、瓦の窓をひらき心の泉をくみしりて、十あまりなゝの文字の野風をはげみあへる輩也。霜凍り冬どのゝあれませる夜、この二三子庵に侍て、火桶にけし炭をおこす。庵主これにロをほどけ、宋人の手亀らずといへる薬是ならんと、しのゝ折箸に燠のさゝやかなるを竪におき、横になほしつゝ、金屏の松の古さよ冬籠と、舌よりまろびいづる聲の、みたりが耳に入、さとくもうつるうのめ鷹のめどもの、是に魂のすわりたるけにや、これを思ひ立、はるの日ののつと出しより、秋の月にかしらかたぶけつゝ、やゝ吟終り篇なりて、竟にあめつちの二まきにわかつとなん。是をひらきみるに、有声の絵をあやどりをさむれば、又くぬぎ炭の筋みえたり。けだしくも題号をかく付侍事は、詩の正義にいへる五つのしな、あるはやまとの巻々のたぐひにはあらねど、例の口に任せたるにもあらず。竊により所ありつる事ならし。ひと日芭蕉旅行の首途に、やつがれが手を携へて再会の期を契り、かつ此等の集の事に及て、かの冬寵の夜、きり火桶のもとにより、くぬぎ炭のふる哥をうちずしつるうつりに、炭だはらといへるは誹也けり、と独ごちたるを、小子聞をりてよしとおもひうるとや、此集をえらぶ媒と成にたり。この心もて宜しう序書てよと云捨てわかれぬ。今此事をかうがへ、其初をおもふに、題号おのづからひゞけり。さらに弁をつくる境にはあらじかしとくちをつぐむ。

元祿七の年夏閏さつき初三の日 素 龍 書 

30 炭俵「梅が香」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句むめが香にのつと日の出る山路かな芭蕉うめがかに のっとひのでる やまじかな 
2處々に雉子の啼たつ野坡ところどころに きじのなきたつ 
3第三家普請を春のてすきにとり付て野坡やぶしんを はるのてすきに とりついて 
4初オ4上のたよりにあがる米の直芭蕉かみのたよりに あがるこめのね 
5初オ5宵の内ばらばらとせし月の雲芭蕉よいのうち ばらばらとせし つきのくも 
6初オ折端藪越はなすあきのさびしき野坡やぶごしはなす あきのさびしき 
7初ウ折立御頭へ菊もらはるゝめいわくさ野坡おかしらへ きくもらわるる めいわくさ 
8初ウ2娘を堅う人にあはせぬ芭蕉むすめをかとう ひとにあわせぬ 
9初ウ3奈良がよひおなじつらなる細基手野坡ならがよい おなじつらなる ほそもとで 
10初ウ4ことしは雨のふらぬ六月芭蕉ことしはあめの ふらぬろくがつ 
11初ウ5預けたるみそとりにやる向河岸野坡あずけたる みそとりにやる むこうがし 
12初ウ6ひたといひ出すお袋の事芭蕉ひたといいだす おふくろのこと 
13初ウ7終宵尼の持病を押へける野坡よもすがら あまのじびょうを おさえける 
14初ウ8こんにやくばかりのこる名月芭蕉こんにゃくばかり のこるめいげつ 
15初ウ9はつ雁に乘懸下地敷て見る野坡はつかりに のりかけしたじ しきてみる 
16初ウ10露を相手に居合ひとぬき芭蕉つゆをあいてに いあいひとぬき 
17初ウ11町衆のつらりと酔て花の陰野坡ちょうしゅうの つらりとようて はなのかげ 
18初ウ折端門で押るゝ壬生の念佛芭蕉かどでおさるる みぶのねんぶつ 
19名オ折立東風風に糞のいきれを吹まはし芭蕉こちかぜに こえのいきれを ふきまわし 
20名オ2たヾ居るまゝに肱わづらふ野坡ただいるままに かいなわずらう 
21名オ3江戸の左右むかひの亭主登られて芭蕉えどのそう むかいのていしゅ のぼられて 
22名オ4こちにもいれどから臼をかす野坡こちにもいれど からうすをかす 
23名オ5方々に十夜の内のかねの音芭蕉ほうぼうに じゅうやのうちの かねのおと 
24名オ6桐の木高く月さゆる也野坡きりのきたかく つきさゆるなり 
25名オ7門しめてだまつてねたる面白さ芭蕉かどしめて だまってねたる おもしろさ 
26名オ8ひらうた金で表がへする野坡ひろうたかねで おもてがえする 
27名オ9はつ午に女房のおやこ振舞て芭蕉はつうまに にょうぼのおやこ ふるまいてて 
28名オ10又このはるも済ぬ牢人野坡またこのはるも すまぬろうにん 
29名オ11法印の湯治を送る花ざかり芭蕉ほういんの とうじをおくる はなざかり 
30名オ折端なは手を下りて靑麥の出來野坡なわてをおりて あおむぎのでき 
31名ウ折立どの家も東の方に窓をあけ野坡どのいえも ひがしのかたに まどをあけ 
32名ウ2魚に喰あくはまの雑水芭蕉うおにくいあく はまのぞうすい 
33名ウ3千どり啼一夜一夜に寒うなり野坡ちどりなく ひとよひとよに さむうなり 
34名ウ4未進の高のはてぬ算用芭蕉みしんのたかの はてぬさんよう 
35名ウ5隣へも知らせず嫁をつれて来て野坡となりへも しらせずよめを つれてきて 
36挙句屏風の陰にみゆる菓子盆芭蕉びょうぶのかげに みゆるかしぼん 

31 炭俵「兼好も」の巻 -歌仙-

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三吟
句称作者読み備考
1発句兼好も莚織けり花ざかり嵐雪けんこうも むしろおりけり はなざかり 
2あざみや苣に雀鮨もる利牛あざみやちさに すずめずしもる 
3第三片道は春の小坂のかたまりて野坡かたみちは はるのこざかの かたまりて 
4初オ4外をざまくに圍ふ相撲場嵐雪そとをざまくに かこうすもうば 
5初オ5細々と朔日ごろの宵の月利牛ほそぼそと ついたちごろの よいのつき 
6初オ折端早稲も晩稲も相生に出る野坡わせもおくても あいおいにでる 
7初ウ折立泥染を長き流にのばすらむ野坡どろぞめを ながきながれに のばすらん 
8初ウ2あちこちすれば昼のかねうつ利牛あちこちすれば ひるのかねうつ 
9初ウ3隣から節々嫁を呼に來る野坡となりから せつせつよめを よびにくる 
10初ウ4

てうてうしくも譽るかひわり

嵐雪ちょうちょうしくも ほむるかいわり 
11初ウ5黒谷のくちは岡崎聖護院利牛くろだにの くちはおかざき しょうごいん 
12初ウ6五百のかけを二度に取けり野坡ごひゃくのかけを にどにとりけり 
13初ウ7綱ぬきのいぼの跡ある雪のうへ嵐雪つなぬきの いぼのあとある ゆきのうえ 
14初ウ8人のさはらぬ松黑む也利牛ひとのさわらぬ まつくろむなり 
15初ウ9雑役の鞍を下せば日がくれて野坡ぞうやくの くらをおろせば ひがくれて 
16初ウ10飯の中なる芋をほる月嵐雪めしのなかなる いもをほるつき 
17初ウ11漸と雨降やみてあきの風利牛ようようと あめふりやみて あきのかぜ 
18初ウ折端鶏頭みては又鼾かく野坡けいとうみては またいびきかく 
19名オ折立奉公のくるしき顔に墨ぬりて嵐雪ほうこうの くるしきかおに すみぬりて 
20名オ2抱揚る子の小便をする利牛だきあぐるこの しょうべんをする 
21名オ3くわたくわたと河内の荷物送り懸野坡かたかたと かわちのにもつ おくりかけ 
22名オ4心みらるゝ箸のせんだく嵐雪こころみらるる はしのせんだく 
23名オ5婿が来て娘の世とは成にけり利牛むこがきて むすめのよとは なりにけり 
24名オ6ことしのくれは何も貰(口+羅)はぬ野坡ことしのくれは なにももらわぬ 
25名オ7金佛の細き御足をさするらむ嵐雪かなぶつの ほそきみあしを さするらん 
26名オ8此かいわいの小鳥皆よる利牛このかいわいの ことりみなよる 
27名オ9黍の穂は残らず風に吹倒れ野坡きびのほは のこらずかぜに ふきたおれ 
28名オ10馬場の喧嘩の跡にすむ月嵐雪ばばのけんかの あとにすむつき 
29名オ11弟はとうとう江戸で人になる利牛おとうとは とうとうえどで ひとになる 
30名オ折端今に庄やのくちはほどけず野坡いまにしょうやの くちはほどけず 
31名ウ折立賣手からうつてみせたるたゝき鉦嵐雪うりてから うってみせたる たたきがね 
32名ウ2ひらりひらりとゆきのふり出し利牛ひらりひらりと ゆきのふりだし 
33名ウ3鎌倉の便きかせに走らする野坡かまくらの たよりきかせに はしらする 
34名ウ4かした處のしれぬ細引嵐雪かしたところの しれぬほそびき 
35名ウ5獨ある母をすゝめて花の陰利牛ひとりある ははをすすめて はなのかげ 
36挙句まだかびのこる正月の餅野坡まだかびのこる しょうがつのもち 

32 炭俵「空豆の」の巻 -歌仙-

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ふか川にまかりて
句称作者読み備考
1発句空豆の花さきにけり麥の縁孤屋そらまめの はなさきにけり むぎのへり 
2昼の水鶏のはしる溝川芭蕉ひるのくいなの はしるみぞがわ 
3第三上張を通さぬほどの雨降て岱水うわばりを とおさぬほどの あめふりて 
4初オ4そつとのぞけば酒の最中利牛そっとのぞけば さけのさいちゅう 
5初オ5寝處に誰もねて居ぬ宵の月芭蕉ねどころに だれもねていぬ よいのつき 
6初オ折端どたりと塀のころぶあきかぜ孤屋どたりとへいの ころぶあきかぜ 
7初ウ折立きりぎりす薪の下より鳴出して利牛きりぎりす まきのしたより なきだして 
8初ウ2晩の仕事の工夫するなり岱水ばんのしごとの くふうするなり 
9初ウ3いもうとをよい處からもらはるゝ孤屋いもうとを よいところから もらわるる 
10初ウ4僧都のもとへまづ文をやる芭蕉そうずのもとへ まずふみをやる 
11初ウ5風細う夜明がらすの啼わたり岱水かぜほそう よあけがらすの なきわたり 
12初ウ6家のながれたあとを見に行利牛いえのながれた あとをみにゆく 
13初ウ7鯲汁わかい者よりよくなりて芭蕉どじょうじる わかいものより よくなりて 
14初ウ8茶の買置をさげて賣出す孤屋ちゃのかいおきを さげてうりだす 
15初ウ9この春はどうやら花の静なる利牛このはるは どうやらはなの しずかなる 
16初ウ10かれし柳を今にをしみて岱水かれしやなぎを いまにおしみて 
17初ウ11雪の跡吹はがしたる朧月孤屋ゆきのあと ふきはがしたる おぼろづき 
18初ウ折端ふとん丸げてものおもひ居る芭蕉ふとんまるげて ものおもいいる 
19名オ折立不届な隣と中のわるうなり岱水ふとどきな となりとなかの わるうなり 
20名オ2はつち坊主を上へあがらす利牛はつちぼうずを うえへあがらす 
21名オ3泣事のひそかに出來し浅ぢふに芭蕉なくことの ひそかにできし あさじうに 
22名オ4置わすれたるかねを尋ぬる孤屋おきわすれたる かねをたずぬる 
23名オ5着のまゝにすくんでねれば汗をかき利牛きのままに すくんでねれば あせをかき 
24名オ6客を送りて提る燭臺岱水きゃくをおくりて さげるしょくだい 
25名オ7今のまに雪の厚さを指てみる孤屋いまのまに ゆきのあつさを さしてみる 
26名オ8年貢すんだとほめられにけり芭蕉ねんぐすんだと ほめられにけり 
27名オ9息災に祖父のしらがのめでたさよ岱水そくさいに じじのしらがの めでたさよ 
28名オ10堪忍ならぬ七夕の照り利牛かんにんならぬ たなばたのてり 
29名オ11名月のまに合せ度芋畑芭蕉めいげつの まにあわせたき いもばたけ 
30名オ折端すたすたいうて荷ふ落鮎孤屋すたすたいうて になうおちあゆ 
31名ウ折立このごろは宿の通りもうすらぎし利牛このごろは しゅくのとおりも うすらぎし 
32名ウ2山の根際の鉦かすか也岱水やまのねぎわの かねかすかなり 
33名ウ3よこ雲にそよそよ風の吹き出す孤屋よこぐもに そよそよかぜの ふきいだす 
34名ウ4晒の上にひばり囀る利牛さらしのうえに ひばりさえずる 
35名ウ5花見にと女子ばかりがつれ立て芭蕉はなみにと おなごばかりが つれだちて 
36挙句余のくさなしに菫たんぽゝ岱水よのくさなしに すみれたんぽぽ 
芭蕉 / 孤屋 / 岱水 / 利牛 / 各九句

33 炭俵「早苗舟」の巻 -百韻-

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百韻
句称作者読み備考
1発句子は裸父はてゝれで早苗舟利牛こははだか ちちはててれで さなえぶね 
2岸のいばらの眞ツ白に咲野坡きしのいばらの まっしろにさく 
3第三雨あがり珠数懸鳩の鳴出して孤屋あめあがり ずずかけばとの なきだして 
4初オ4与力町よりむかふ西かぜ利牛よりきまちより むかうにしかぜ 
5初オ5竿竹に茶色の紬たぐりよせ野坡さおだけに ちゃいろのつむぎ たぐりよせ 
6初オ6馬が離れてわめく人聲孤屋うまがはなれて わめくひとごえ 
7初オ7暮の月干葉の茹汁わるくさし利牛くれのつき ひばのゆでじる わるくさし 
8初オ折端掃ば跡から檀ちる也野坡はけばあとから まゆみちるなり 
9初ウ折立ぢゝめきの中でより出するりほあか孤屋じじめきの なかでよりだす るりほあか 
10初ウ2坊主になれどやはり仁平次利牛ぼうずになれど やはりにへいじ 
11初ウ3松坂や矢川へはひるうら通り野坡まつざかや やがわへはいる うらどおり 
12初ウ4吹るゝ胼もつらき闇の夜孤屋ふかるるひびも つらきやみのよ 
13初ウ5十二三弁の衣裳の打そろひ利牛じゅうにさん べんのいしょうの うちそろい 
14初ウ6本堂はしる音はとろとろ野坡

ほんどうはしる おとはどろどろ

 
15初ウ7日のあたる方はあからむ竹の色孤屋ひのあたる かたはあからむ たけのいろ 
16初ウ8只奇麗さに口すゝぐ水利牛ただきれいさに くちすすぐみず 
17初ウ9近江路のうらの詞を聞初て野坡おうみじの うらのことばを ききそめて 
18初ウ10天氣の相よ三か月の照孤屋てんきのそうよ みかづきのてり 
19初ウ11生ながら直に打込むひしこ漬利牛いきながら すぐにうちこむ ひしこづけ 
20初ウ12椋の實落る屋ねくさる也野坡むくのみおちる やねくさるなり 
21初ウ13帯賣の戻り連立花ぐもり孤屋おびうりの もどりつれだつ はなぐもり 
22初ウ折端御影供ごろの人のそはつく利牛みえいくごろの ひとのそわつく 
23二オ折立ほかほかと二日灸のいぼひ出野坡ほかほかと ふつかやいとの いぼひいで 
24二オ2ほろほろあへの膳にこぼるゝ孤屋ほろほろあえの ぜんにこぼるる 
25二オ3ない袖を振てみするも物おもひ利牛ないそでを ふりてみするも ものおもい 
26二オ4舞羽の糸も手につかず操野坡まいばのいとも てにつかずくる 
27二オ5段々に西国武士の荷のつどひ孤屋だんだんに さいごくぶしの にのつどい 
28二オ6尚きのふより今日は大旱利牛なおきのうより きょうはおおてり 
29二オ7切うじの喰倒したる植たばこ野坡きりうじの くいたおしたる うえたばこ 
30二オ8くばり納豆を仕込廣庭孤屋くばりなっとを しこむひろにわ 
31二オ9瘧日をまぎらかせども待ごゝろ利牛おこりびを まぎらかせども まちごころ 
32二オ10藤ですげたる下駄の重たき野坡とうですげたる げたのおもたき 
33二オ11つれあひの名をいやしげに呼まはり孤屋つれあいの なをいやしげに よびまわり 
34二オ12となりの裏の遠き井の本利牛となりのうらの とおきいのもと 
35二オ13くれの月横に負來る古柱野坡くれのつき よこにおいくる ふるばしら 
36二オ折端ずゐきの長のあまるこつてい孤屋ずいきのたけの あまるこってい 
37二ウ折立ひつそりと盆は過たる浄土寺利牛ひっそりと ぼんはすぎたる じょうどでら 
38二ウ2戸でからくみし水風呂の屋ね野坡とでからくみし すいふろのやね 
39二ウ3伐透す樅と檜のすれあひて孤屋きりすかす もみとひのきの すれあいて 
40二ウ4赤い小宮はあたらしき内利牛あかいこみやは あたらしきうち 
41二ウ5濱迄は宿の男の荷をかゝへ野坡はままでは やどのおとこの にをかかえ 
42二ウ6師走比丘尼の諷の寒さよ孤屋しわすびくにの うたのさむさよ 
43二ウ7餅搗の臼を年々買かへて利牛もちつきの うすをねんねん かいかえて 
44二ウ8天滿の状を又忘れけり野坡てんまのじょうを またわすれけり 
45二ウ9廣袖をうへにひつぱる舩の者孤屋ひろそでを うえにひっぱる ふねのもの 
46二ウ10むく起にして参る觀音利牛むくおきにして まいるかんのん 
47二ウ11燃しさる薪を尻手に指くべて野坡もえしさる まきをしりてに さしくべて 
48二ウ12十四五両のふりまはしする孤屋じゅうしごりょうの ふりまわしする 
49二ウ13月花にかきあげ城の跡ばかり利牛つきはなに かきあげしろの あとばかり 
50二ウ折端弦打颪海雲とる桶孤屋つるうちおろし もずくとるおけ 
51三オ折立機嫌能かひこは庭に起かゝり野坡きげんよく かいこはにわに おきかかり 
52三オ2小昼のころの空静也利牛こひるのころの そらしずかなり 
53三オ3縁端に腫たる足をなげ出して孤屋えんはなに はれたるあしを なげだして 
54三オ4鍋の鑄かけを念入てみる野坡なべのいかけを ねんいれてみる 
55三オ5麥畑の替地に渡る傍じ杭利牛むぎはたの かえちにわたる ぼうじぐい 
56三オ6賣手もしらず頼政の筆孤屋うりてもしらず よりまさのふで 
57三オ7物毎も子持になればだヾくさに野坡ものごとも こもちになれば だだくさに 
58三オ8又御局の古着いたヾく利牛またおつぼねの ふるぎいただく 
59三オ9妓王寺のうへに上れば二尊院孤屋ぎおうじの うえにのぼれば にそんいん 
60三オ10けふはけんかく寂しかりけり野坡きょうはけんかく さみしかりけり 
61三オ11薄雪のこまかに初手を降出し利牛うすゆきの こまかにしょてを ふりいだし 
62三オ12一つくなりに鱈の雲膓孤屋ひとつくなりに たらのくもわた 
63三オ13錢さしに菰引ちぎる朝の月野坡ぜにさしに こもひきちぎる あさのつき 
64三オ折端なめすヾきとる裏の塀あはひ利牛なめすずきとる うらのひあわい 
65三ウ折立めを縫て無理に鳴する鵙の聲孤屋めをぬいて むりになかする もずのこえ 
66三ウ2又だのみして美濃だよりきく野坡まただのみして みのだよりきく 
67三ウ3かゝさずに中の巳の日をまつる也利牛かかさずに なかのみのひを まつるなり 
68三ウ4入来る人に味噌豆を出す孤屋いりくるひとに みそまめをだす 
69三ウ5すぢかひに木綿袷の龍田川野坡すじかいに もめんあわせの たつたがわ 
70三ウ6御茶屋のみゆる宿の取つき利牛おちゃやのみゆる しゅくのとりつき 
71三ウ7ほやほやとどんどほこらす雲ちぎれ孤屋ほやほやと どんどほこらす くもちぎれ 
72三ウ8水菜に鯨まじる惣汁野坡みずなにくじら まじるそうじる 
73三ウ9花の内引越て居る樫原利牛はなのうち ひっこしている かたぎはら 
74三ウ10尻輕にする返事聞よく孤屋しりがるにする へんじききよく 
75三ウ11おちかゝるうそうそ時の雨の音野坡おちかかる うそうそどきの あめのおと 
76三ウ12入舟つヾく月の六月利牛いりふねつづく つきのろくがつ 
77三ウ13拭立てお上の敷居ひからする孤屋ふきたてて おうえのしきい ひからする 
78三ウ14尚云つのる詞からかひ野坡なおいいつのる ことばからかい 
79名オ折立大水のあげくに畑の砂のけて利牛おおみずの あげくにはたの すなのけて 
80名オ2何年菩提しれぬ栃の木孤屋なんねんぼだい しれぬとちのき 
81名オ3敷金に弓同心のあとを継野坡しききんに ゆみどうしんの あとをつぎ 
82名オ4丸九十日湿をわづらふ利牛まるくじゅうにち しつをわずらう 
83名オ5投打もはら立まゝにめつた也孤屋なげうちも はらだつままに めったなり 
84名オ6足なし碁盤よう借に来る野坡あしなしごばん ようかりにくる 
85名オ7里離れ順礼引のぶらつきて利牛さとはなれ じゅんれいひきの ぶらつきて 
86名オ8やはらかものを嫁の襟もと孤屋やわらかものを よめのえりもと 
87名オ9氣にかゝる朔日しまの精進箸野坡きにかかる ついたちしまの いもいばし 
88名オ10うんじ果たる八専の空利牛うんじはてたる はっせんのそら 
89名オ11丁寧に仙臺俵の口かヾり孤屋ていねいに せんだいだわらの くちかがり 
90名オ12訴訟が済で土手になる筋野坡そしょうがすんで どてになるすじ 
91名オ13夕月に醫者の名字を聞はつり利牛ゆうづきに いしゃのみょうじを ききはつり 
92名オ折端包で戻る鮭のやきもの孤屋つつんでもどる さけのやきもの 
93名ウ折立定免を今年の風に欲ぼりて野坡じょうめんを ことしのかぜに よくぼりて 
94名ウ2もはや仕事もならぬおとろへ利牛もはやしごとも ならぬおとろえ 
95名ウ3暑病の殊土用をうるさがり孤屋あつやみの ことにどようを うるさがり 
96名ウ4幾月ぶりでこゆる逢坂野坡いくつきぶりで こゆるおうさか 
97名ウ5減もせぬ鍛冶屋のみせの店ざらし利牛へりもせぬ かじやのみせの たなざらし 
98名ウ6門建直す町の相談孤屋もんたてなおす まちのそうだん 
99名ウ7彼岸過一重の花の咲立て野坡ひがんすぎ ひとえのはなの さきたてて 
100挙句三人ながらおもしろき哉執筆さんにんながら おもしろきかな 

34 炭俵「秋の空」の巻 -未完歌仙(32句まで)-

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句称作者読み備考
1発句秋の空尾上の杉に離れたり其角あきのそら おのえのすぎに はなれたり 
2おくれて一羽海わたる鷹孤屋おくれていちわ うみわたるたか 
3第三朝霧に日傭揃る貝吹て孤屋あさぎりに ひようそろえる かいふいて 
4初オ4月の隠るゝ四扉の門其角つきのかくるる よとびらのもん 
5初オ5祖父が手の火桶も落すばかり也其角じじがての ひおけもおとす ばかりなり 
6初オ折端つたひ道には丸太ころばす孤屋つたいみちには まるたころばす 
7初ウ折立下京は宇治の糞舩さしつれて孤屋しもぎょうは うじのこえぶね さしつれて 
8初ウ2坊主の着たる簔はをかしき其角ぼうずのきたる みのはおかしき 
9初ウ3足輕の子守して居る八つ下り孤屋あしがるの こもりしている やつさがり 
10初ウ4息吹かへす霍乱の針其角いきふきかえす かくらんのはり 
11初ウ5田の畔に早苗把て投て置孤屋たのくろに さなえたばねて なげておく 
12初ウ6道者のはさむ編笠の節其角どうしゃのはさむ あみがさのふし 
13初ウ7行燈の引出さがすはした銭孤屋あんどんの ひきだしさがす はしたぜに 
14初ウ8顔に物着てうたゝねの月其角かおにものきて うたたねのつき 
15初ウ9鈴縄に鮭のさはればひヾく也孤屋すずなわに さけのさわれば ひびくなり 
16初ウ10雁の下たる筏ながるゝ其角がんのおりたる いかだながるる 
17初ウ11貫之の梅津桂の花もみぢ孤屋つらゆきの うめづかつらの はなもみじ 
18初ウ折端むかしの子ありしのばせて置其角むかしのこあり しのばせておく 
19名オ折立いさ心跡なき金のつかひ道其角いさこころ あとなきかねの つかいみち 
20名オ2宮の縮のあたらしき内孤屋みやのちぢみの あたらしきうち 
21名オ3夏草のぶとにさゝれてやつれけり其角なつくさの ぶとにさされて やつれけり 
22名オ4あばたといへば小僧いやがる孤屋あばたといえば こぞういやがる 
23名オ5年の豆蜜柑の核も落ちりて其角としのまめ みかんのさねも おちちりて 
24名オ6帯ときながら水風呂をまつ孤屋おびときながら すいふろをまつ 
25名オ7君來ねばこはれ次第の家となり其角きみこねば こわれしだいの いえとなり 
26名オ8稗と塩との片荷つる籠孤屋ひえとしおとの かたにつるかご 
27名オ9辛崎へ雀のこもる秋のくれ其角からさきへ すずめのこもる あきのくれ 
28名オ10北より冷る月の雲行キ孤屋きたよりひえる つきのくもゆき 
29名オ11紙燭して尋て來たり酒の残其角しそくして たずねてきたり さけのざん 
30名オ折端上塗なしに張ておく壁孤屋うわぬりなしに はりておくかべ 
31名ウ折立小栗讀む片言まぜて哀なり其角おぐりよむ かたことまぜて あわれなり 
32名ウ2けふもだらつく浮前のふね孤屋きょうもだらつく うけまえのふね 

 孤屋旅立事出來て、洛へのぼりけるゆゑに、今四句未-満にして、吟終りぬ

  其角 / 孤屋 / 各十六句

35 炭俵「案山子」の巻 -歌仙-

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天野氏興行
句称作者読み備考
1発句道くだり拾ひあつめて案山子かな桃隣みちくだり ひろいあつめて かかしかな 
2どんどと水の落る秋風野坡どんどとみずの おちるあきかぜ 
3第三入月に夜はほんのりと打明て利牛いるつきに よはほんのりと うちあけて 
4初オ4塀の外まで桐のひろがる桃隣へいのそとまで きりのひろがる 
5初オ5銅壺よりなまぬる汲んでつかふ也野坡どうこより なまぬるくんで つかうなり 
6初オ折端つよう降たる雨のついやむ利牛つようふりたる あめのついやむ 
7初ウ折立瓜の花是からなんぼ手にかゝる桃隣うりのはな これからなんぼ てにかかる 
8初ウ2近くに居れど長谷をまだみぬ野坡ちかくにおれど はせをまだみぬ 
9初ウ3年よりた者を常住ねめまはし利牛としよりた ものをじょうじゅう ねめまわし 
10初ウ4いつより寒い十月のそら桃隣いつよりさむい じゅうがつのそら 
11初ウ5臺所けふは綺麗にはき立て野坡だいどころ きょうはきれいに はきたてて 
12初ウ6分にならるゝ嫁の仕合利牛ぶんにならるる よめのしあわせ 
13初ウ7はんなりと細工に染まる紅うこん桃隣はんなりと さいくにそまる べにうこん 
14初ウ8鑓持ばかりもどる夕月野坡やりもちばかり もどるゆうづき 
15初ウ9時ならず念仏きこゆる盆の内利牛ときならず ねぶつきこゆる ぼんのうち 
16初ウ10鴫まつ黑にきてあそぶ也桃隣しぎまっくろに きてあそぶなり 
17初ウ11人の物負ねば樂な花ごゝろ野坡ひとのもの おわねばらくな はなごころ 
18初ウ折端もはや弥生も十五日たつ利牛もはややよいも じゅうごにちたつ 
19名オ折立より平の機に火桶はとり置て桃隣よりひらの はたにひおけは とりおきて 
20名オ2むかひの小言たれも見廻ず野坡むかいのこごと たれもみまわず 
21名オ3買込だ米で身躰たゝまるゝ利牛かいこんだ こめでしんだい たたまるる 
22名オ4帰るけしきか燕ざはつく桃隣かえるけしきか つばめざわつく 
23名オ5此度の薬はきゝし秋の露野坡このたびの くすりはききし あきのつゆ 
24名オ6杉の木末に月かたぐ也利牛すぎのこずえに つきかたぐなり 
25名オ7同じ事老の咄しのあくどくて桃隣おなじこと おいのはなしの あくどくて 
26名オ8だまされて又薪部屋に待野坡だまされてまた まきべやにまつ 
27名オ9よいやうに我手に占を置てみる利牛よいように わがてにさんを おいてみる 
28名オ10しやうしんこれはあはぬ商ヒ桃隣しょうしんこれは あわぬあきない 
29名オ11帷子も肩にかゝらぬ暑さにて野坡かたびらも かたにかからぬ あつさにて 
30名オ折端京は惣別家に念入利牛きょうはそうべつ いえにねんいり 
31名ウ折立焼物に組合たる富田魵桃隣やきものに くみあわせたる とんだえび 
32名ウ2隙を盗んで今日もねている利牛ひまをぬすんで きょうもねている 
33名ウ3髪置は雪踏とらする思案にて野坡かみおきは せったとらする しあんにて 
34名ウ4先沖まではみゆる入舟桃隣まずおきまでは みゆるいりふね 
35名ウ5内でより菜がなうても花の陰利牛うちでより さいがのうても はなのかげ 
36挙句ちつとも風のふかぬ長閑さ野坡ちっともかぜの ふかぬのどかさ 

36 炭俵「振賣の」の巻 -歌仙-

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神無月廿日ふか川にて即興
句称作者読み備考
1発句振賣の鴈あはれ也えびす講芭蕉ふりうりの がんあわれなり えびすこう 
2降てはやすみ時雨する軒野坡ふってはやすみ しぐれするのき 
3第三番匠が椴の小節を引かねて孤屋ばんじょうが もみのこぶしを ひきかねて 
4初オ4片はげ山に月をみるかな利牛かたはげやまに つきをみるかな 
5初オ5好物の餅を絶さぬあきの風野坡こうぶつの もちをたやさぬ あきのかぜ 
6初オ折端割木の安き國の露霜野坡わりきのやすき くにのつゆじも 
7初ウ折立網の者近づき舟に聲かけて利牛あみのもの ちかづきふねに こえかけて 
8初ウ2星さへ見えず二十八日孤屋ほしさえみえず にじゅうはちにち 
9初ウ3ひだるきは殊軍の大事也芭蕉ひだるきは ことにいくさの だいじなり 
10初ウ4淡氣の雪に雑談もせぬ野坡あわけのゆきに ぞうだんもせぬ 
11初ウ5明しらむ籠挑灯を吹消して孤屋あけしらむ かごぢょうちんを ふきけして 
12初ウ6肩癖にはる湯屋の膏藥利牛けんぺきにはる ゆやのこうやく 
13初ウ7上おきの干葉刻むもうはの空野坡うわおきの ほしばきざむも うわのそら 
14初ウ8馬に出ぬ日は内で恋する芭蕉うまにでぬひは うちでこいする 
15初ウ9絈買の七つさがりを音づれて利牛かせかいの ななつさがりを おとずれて 
16初ウ10塀に門ある五十石取孤屋へいにもんある ごじっこくどり 
17初ウ11此嶋の餓鬼も手を摺月と花芭蕉このしまの がきもてをする つきとはな 
18初ウ折端砂に暖のうつる青草野坡すなにぬくみの うつるあおくさ 
19名オ折立新畠の糞もおちつく雪の上孤屋しんはたの こえもおちつく ゆきのうえ 
20名オ2吹とられたる笠とりに行利牛ふきとられたる かさとりにいく 
21名オ3川越の帯しの水をあぶながり野坡かわごしの おびしのみずを あぶながり 
22名オ4平地の寺のうすき藪垣芭蕉へいじのてらの うすきやぶがき 
23名オ5干物を日向の方へゐざらせて利牛ほしものを ひなたのかたへ いざらせて 
24名オ6塩出す鴨の苞ほどくなり孤屋しおだすかもの つとほどくなり 
25名オ7算用に浮世を立る京ずまひ芭蕉さんように うきよをたつる きょうずまい 
26名オ8又沙汰なしにむすめ産<ヨロコブ>野坡またさたなしに むすめよろこぶ 
27名オ9どたくたと大晦日も四つのかね孤屋どたくたと おおつごもりも よつのかね 
28名オ10無筆のこのむ状の跡さき利牛むひつのこのむ じょうのあとさき 
29名オ11中よくて傍輩合の借りいらひ野坡なかよくて ほうばいあいの かりいらい 
30名オ折端壁をたゝきて寐せぬ夕月芭蕉かべをたたきて ねせぬゆうづき 
31名ウ折立風やみて秋の鴎の尻さがり利牛かぜやみて あきのかもめの しりさがり 
32名ウ2鯉の鳴子の綱をひかふる孤屋こいのなるこの つなをひかうる 
33名ウ3ちらはらと米の揚場の行戻り芭蕉ちらはらと こめのあげばの いきもどり 
34名ウ4目黑まゐりのつれのねちみやく野坡めぐろまいりの つれのねちみゃく 
35名ウ5どこもかも花の三月中時分孤屋どこもかも はなのさんがつ なかじぶん 
36挙句輪炭のちりをはらふ春風利牛わずみのちりを はらうはるかぜ 
芭蕉 / 野坡 / 孤屋 / 利牛 / 各九句

37 炭俵「雪の松」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句雪の松をれ口みれば尚寒し杉風ゆきのまつ おれくちみれば なおさむし 
2日の出るまへの赤き冬空孤屋ひのでるまえの あかきふゆぞら 
3第三下肴を一舟濱に打明て芭蕉げざかなを ひとふねはまに うちあけて 
4初オ4あひだとぎるゝ大名の供子珊あいだとぎるる だいみょうのとも 
5初オ5身にあたる風もふはふは薄月夜桃隣みにあたる かぜもふわふわ うすづきよ 
6初オ折端粟をかられてひろき畠地利牛あわをかられて ひろきはたけじ 
7初ウ折立熊谷の堤きれたる秋の水岱水くまがやの つつみきれたる あきのみず 
8初ウ2箱こしらへて鰹節賣る野坡はここしらえて かつおぶしうる 
9初ウ3二三疊寐所もらふ門の脇子珊にさんじょう ねどころもらう もんのわき 
10初ウ4馬の荷物のさはる干もの沾圃うまのにもつの さわるほしもの 
11初ウ5竹の皮雪踏に替へる夏の來て石菊たけのかわ せったにかえる なつのきて 
12初ウ6稲に子のさす雨のばらばら杉風いねにみのさす あめのばらばら 
13初ウ7手前者の一人もみえぬ浦の秋野坡てまえしゃの ひとりもみえぬ うらのあき 
14初ウ8めつたに風のはやる盆過利合めったにかぜの はやるぼんすぎ 
15初ウ9宵々の月をかこちて旅大工依々よいよいの つきをかこちて たびだいく 
16初ウ10背中へのぼる兒をかはゆがる桃隣せなかへのぼる こをかわゆがる 
17初ウ11茶むしろのきはつく上に花ちりて子珊ちゃむしろの きわつくうえに はなちりて 
18初ウ折端川からすぐに小鮎いらする石菊かわからすぐに こあゆいらする 
19名オ折立朝曇はれて気味よき雉子の声杉風あさぐもり はれてきみよき きじのこえ 
20名オ2背戸へ廻れば山へ行みち岱水せどへまわれば やまへゆくみち 
21名オ3物思ひたヾ鬱々と親がゝり孤屋ものおもい ただうつうつと おやがかり 
22名オ4取集めてはおほき精進日曾良とりあつめては おおきいもいび 
23名オ5餅米を搗て俵へはかりこみ桃隣もちごめを ついてたわらへ はかりこみ 
24名オ6わざわざわせて薬代の礼依々わざわざわせて やくだいのれい 
25名オ7雪舟でなくばと自慢こきちらし沾圃せっしゅうで なくばとじまん こきちらし 
26名オ8となりへ行て火をとりて來る子珊となりへいきて ひをとりてくる 
27名オ9又けさも仏の食で埒を明利牛またけさも ほとけのめしで らちをあけ 
28名オ10損ばかりして賢こがほ也杉風そんばかりして かしこがおなり 
29名オ11大坂の人にすれたる冬の月利合おおさかの ひとにすれたる ふゆのつき 
30名オ折端酒をとまれば祖母の氣に入野坡さけをとまれば ばばのきにいる 
31名ウ折立すゝけぬる御前の箔のはげかゝり子珊すすけぬる おまえのはくの はげかかり 
32名ウ2次の小部屋でつにむせる声利牛つぎのこべやで つにむせるこえ 
33名ウ3約束にかヾみて居れば蚊に食れ曾良やくそくに かがみておれば かにくわれ 
34名ウ4七つのかねに駕籠呼に來る杉風ななつのかねに かごよびにくる 
35名ウ5花の雨あらそふ内に降出して桃隣はなのあめ あらそううちに ふりだして 
36挙句男まじりに蓬そろゆふる岱水おとこまじりに よもぎそろうる 

 杉風 五  野坡 三 / 孤屋 二  沾圃 二 / 芭蕉 一  石菊 二 / 子珊 五  利合 二 /

 桃隣 四  依々 二 / 利牛 三  曾良 二 / 岱水 三

京寺町通 井筒屋庄兵衛 / 江戸白銀町 本家 藤助 

芭蕉七部集「続猿蓑」(連句)

38 続猿蓑「八九間」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句八九間空で雨降る柳かな芭蕉はっくけん そらであめふる やなぎかな 
2春のからすの畠ほる聲沾圃はるのからすの はたけほるこえ 
3第三初荷とる馬子もこのみの羽織きて馬莧はつにとる まごもこのみの はおりきて 
4初オ4内はどさつく晩のふるまひ里圃うちはどさつく ばんのふるまい 
5初オ5きのふから日和かたまる月の色沾圃きのうから ひよりかたまる つきのいろ 
6初オ折端狗脊かれて肌寒うなる芭蕉ぜんまいかれて はださむうなる 
7初ウ折立澁柿もことしは風に吹れたり里圃しぶがきも ことしはかぜに ふかれたり 
8初ウ2孫が跡とる祖父の借銭馬莧まごがあととる そふのしゃくせん 
9初ウ3脇指に替てほしがる旅刀芭蕉わきざしに かえてほしがる たびがたな 
10初ウ4煤をしまへばはや餅の段沾圃すすをしまえば はやもちのだん 
11初ウ5約束の小鳥一さげ賣にきて馬莧やくそくの ことりひとさげ うりにきて 
12初ウ6十里ばかりの余所へ出かゝり里圃じゅうりばかりの よそへでかかり 
13初ウ7笹の葉に小路埋ておもしろき沾圃ささのはに こみちうもれて おもしろき 
14初ウ8あたまうつなと門の書つけ芭蕉あたまうつなと かどのかきつけ 
15初ウ9いづくへか後は沙汰なき甥坊主里圃いずくへか あとはさたなき おいぼうず 
16初ウ10やつと聞出す京の道づれ馬莧やっとききだす きょうのみちづれ 
17初ウ11有明におくるゝ花のたてあひて芭蕉ありあけに おくるるはなの たてあいて 
18初ウ折端見事にそろふ籾のはえ口沾圃みごとにそろう もみのはえぐち 
19名オ折立春無尽まづ落札が作大夫馬莧はるむじん まずおちふだが さくだゆう 
20名オ2伊勢の下向にべつたりと逢里圃いせのげこうに べったりとあう 
21名オ3長持に小挙の仲間そはそはと沾圃ながもちに こあげのなかま そわそわと 
22名オ4くはらりと空の晴る青雲芭蕉からりとそらの はるるあおぐも 
23名オ5禅寺に一日あそぶ砂の上里圃ぜんでらに いちにちあそぶ すなのうえ 
24名オ6槻の角のはてぬ貫穴馬莧けやきのかくの はてぬぬきあな 
25名オ7濱出しの牛に俵を運ぶ成り芭蕉はまだしの うしにたわらを はこぶなり 
26名オ8なれぬ娵にはかくす内証沾圃なれぬよめには かくすないしょう 
27名オ9月待に傍輩衆のうちそろひ馬莧つきまちに ほうばいしゅうの うちそろい 
28名オ10籬の菊の名乗さまざま里圃まがきのきくの なのりさまざま 
29名オ11むれて来て栗も榎もむくの聲沾圃むれてきて くりもえのきも むくのこえ 
30名オ折端伴僧はしる駕のわき芭蕉ばんそうはしる のりもののわき 
31名ウ折立削やうに長刀坂の冬の風里圃そぐように なぎなたざかの ふゆのかぜ 
32名ウ2まぶたに星のこぼれかゝれる馬莧まぶたにほしの こぼれかかれる 
33名ウ3引立て無理に舞するたをやかさ芭蕉ひきたてて むりにまわする たおやかさ 
34名ウ4そつと火入におとす薫沾圃そっとひいれに おとすたきもの 
35名ウ5花ははや残らぬ春のたゞくれて馬莧はなははや のこらぬはるの ただくれて 
36挙句瀬がしらのぼるかげろふの水里圃せがしらのぼる かげろうのみず 

39 続猿蓑「雀の字や」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句雀の字や揃うて渡る鳥の聲馬莧からのじや そろうてわたる とりのこえ 
2てり葉の岸のおもしろき月沾圃てりはのきしの おもしろきつき 
3第三立家を買てはひれば秋暮て里圃たちいえを かいてはいれば あきくれて 
4初オ4ふつふつなるをのぞく甘酒馬莧ふつふつなるを のぞくあまざけ 
5初オ5霜氣たる蕪喰ふ子ども五六人沾圃しもげたる かぶくうこども ごろくにん 
6初オ折端莚をしいて外の洗足里圃むしろをしいて そとのせんぞく 
7初ウ折立悔しさはけふの一歩の見そこなひ馬莧くやしさは きょうのいちぶの みそこない 
8初ウ2請状すんで奉公ぶりする沾圃うけじょうすんで ほうこぶりする 
9初ウ3よすぎたる茶前の天氣きづかはし里圃よすぎたる ちゃまえのてんき きづかわし 
10初ウ4有ふりしたる國方の客馬莧あるふりしたる くにがたのきゃく 
11初ウ5何事もなくてめでたき駒迎沾圃なにごとも なくてめでたき こまむかえ 
12初ウ6風にたすかる早稲の穂の月里圃かぜにたすかる わせのほのつき 
13初ウ7臺所秋の住居に住かへて馬莧だいどころ あきのすまいに すみかえて 
14初ウ8座頭のむすこ女房呼けり沾圃ざとうのむすこ にょうぼよびけり 
15初ウ9明はつる伊勢の辛洲のとし籠り里圃あけはつる いせのからすの としごもり 
16初ウ10簔はしらみのわかぬ一徳馬莧みのはしらみの わかぬいっとく 
17初ウ11俵米もしめりて重き花盛沾圃ひょうまいも しめりておもき はなざかり 
18初ウ折端春静なる竿の染かせ里圃はるしずかなる さおのそめかせ 
19名オ折立鶯の路には雪を掃残し馬莧うぐいすの みちにはゆきを はきのこし 
20名オ2死なぬ合点で煩うて居る沾圃しなぬがてんで わずろうている 
21名オ3年々に屋うちの者と中悪く里圃ねんねんに やうちのものと なかわるく 
22名オ4三崎敦賀の荷のかさむ也馬莧みさきつるがの にのかさむなり 
23名オ5汁の實にこまる茄子の出盛て沾圃しるのみに こまるなすびの でさかりて 
24名オ6あからむ麥をまづ刈てとる里圃あからむむぎを まずかりてとる 
25名オ7日々に寺の指圖を書直し馬莧にちにちに てらのさしずを かきなおし 
26名オ8殿のお立のあとは淋しき沾圃とののおたちの あとはさびしき 
27名オ9錢かりてまだ取つかぬ小商里圃ぜにかりて まだとりつかぬ こあきない 
28名オ10卑下して庭によい料理くふ馬莧ひげしてにわに よいりょうりくう 
29名オ11肌入て秋になしけり暮の月沾圃はだいれて あきになしけり くれのつき 
30名オ折端顔にこぼるゝ玉笹の露里圃かおにこぼるる たまざさのつゆ 
31名ウ折立此盆は實の母のあと問て馬莧このぼんは まことのははの あとといて 
32名ウ2有付て行出羽の庄内沾圃ありついてゆく でわのしょうない 
33名ウ3直のしれた帷子時のもらひ物里圃ねのしれた かたびらどきの もらいもの 
34名ウ4聞て氣味よき杉苗の風馬莧ききてきみよき すぎなえのかぜ 
35名ウ5花のかげ巣を立雉子の舞かへり沾圃はなのかげ すをたつきじの まいかえり 
36挙句あら田の土のかはくかげろふ里圃あらたのつちの かわくかげろう 

40 続猿蓑「いさみ立つ」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句いさみ立鷹引すうる嵐かな里圃いさみたつ たかひきすうる あらしかな 
2冬のまさきの霜ながら飛沾圃ふゆのまさきの しもながらとぶ 
3第三大根のそだゝぬ土にふしくれて芭蕉だいこんの そだたぬつちに ふしくれて 
4初オ4上下ともに朝茶のむ秋馬莧かみしもともに あさちゃのむあき 
5初オ5町切に月見の頭の集め銭沾圃ちょうぎりに つきみのとうの あつめせん 
6初オ折端荷がちらちらと通る馬次里圃にがちらちらと とおるうまつぎ 
7初ウ折立知恩院の替りの噂極りて馬莧ちよいんの かわりのうわさ きわまりて 
8初ウ2さくらの後は楓わかやぐ沾圃さくらのあとは かえでわかやぐ 
9初ウ3俎の鱸に水をかけながし里圃まないたの すずきにみずを かけながし 
10初ウ4目利で家はよい暮しなり馬莧めききでいえは よいくらしなり 
11初ウ5状箱を駿河の飛脚請とりて沾圃じょうばこを するがのひきゃく うけとりて 
12初ウ6まだ七つにはならぬ日の影里圃まだななつには ならぬひのかげ 
13初ウ7草の葉にくぼみの水の澄ちぎり馬莧くさのはに くぼみのみずの すみちぎり 
14初ウ8伊駒気づかふ綿とりの雨沾圃いこまきづかう わたとりのあめ 
15初ウ9うき旅は鵙とつれ立渡り鳥里圃うきたびは もずとつれたつ わたりどり 
16初ウ10有明高う明はつるそら馬莧ありあけたこう あけはつるそら 
17初ウ11柴舟の花の中よりつつと出て沾圃しばぶねの はなのなかより つつとでて 
18初ウ折端柳の傍へ門をたてけり里圃やなぎのそばへ もんをたてけり 
19名オ折立百姓になりて世間も長閑さよ馬莧ひゃくしょうに なりてせけんも のどかさよ 
20名オ2ごまめを膳にあらめ片菜沾圃ごまめをぜんに あらめかたざい 
21名オ3賣物の澁紙づゝみおろし置里圃うりものの しぶがみづつみ おろしおき 
22名オ4けふのあつさはそよりともせぬ馬莧きょうのあつさは そよりともせぬ 
23名オ5砂を這ふ棘の中の絡線の聲沾圃すなをはう いばらのなかの ぎすのこえ 
24名オ6別を人がいひ出せば泣里圃わかれをひとが いいだせばなく 
25名オ7火燵の火いけて勝手をしづまらせ馬莧こたつのひ いけてかってを しずまらせ 
26名オ8一石ふみし碓の米沾圃いっこくふみし からうすのこめ 
27名オ9折々は突目の起る天氣相里圃おりおりは つきめのおこる てんきあい 
28名オ10仰に加減のちがふ夜寒さ馬莧ぎょうにかげんの ちがうよざむさ 
29名オ11月影にことしたばこを吸てみる沾圃つきかげに ことしたばこを すうてみる 
30名オ折端おもひのまゝに早稲で屋根ふく里圃おもいのままに わせでやねふく 
31名ウ折立手拂に娘をやつて娵のさた馬莧てばらいに むすめをやって よめのさた 
32名ウ2参宮の衆をこちで仕立る沾圃さんぐうのしゅを こちでしたてる 
33名ウ3花のあと躑躅のかたがおもしろい里圃はなのあと つつじのかたが おもしろい 
34名ウ4寺のひけたる山際の春馬莧てらのひけたる やまぎわのはる 
35名ウ5冬よりはすくなうなりし池の鴨沾圃ふゆよりは すくのうなりし いけのかも 
36挙句一雨降てあたゝかな風里圃ひとあめふりて あたたかなかぜ 

41 続猿蓑「猿蓑に」の巻 -歌仙-

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句称作者読み備考
1発句猿蓑にもれたる霜の松露哉沾圃さるみのに もれたるしもの しょうろかな 
2日は寒けれど静なる岡芭蕉ひはさむけれど しずかなるおか 
3第三水かゝる池の中より道ありて支考みずかかる いけのなかより みちありて 
4初オ4篠竹まじる柴をいたヾく維然しのだけまじる しばをいただく 
5初オ5鶏があがるとやがて暮の月芭蕉にわとりが あがるとやがて くれのつき 
6初オ折端通りのなさに見世たつる秋支考とおりのなさに みせたつるあき 
7初ウ折立盆じまひ一荷で直ぎる鮨の魚維然ぼんじまい いっかでねぎる すしのうお 
8初ウ2昼寐の癖をなほしかねけり芭蕉ひるねのくせを なおしかねけり 
9初ウ3聟が来てにつともせずに物語支考むこがきて にっともせずに ものがたり 
10初ウ4中国よりの状の吉左右維然ちゅうごくよりの じょうのきっそう 
11初ウ5朔日の日はどこへやら振舞れ芭蕉ついたちの ひはどこへやら ふるまわれ 
12初ウ6一重羽織が失てたづぬる支考ひとえばおりが うせてたずぬる 
13初ウ7きさんじな青葉の比の樅楓維然きさんじな あおばのころの もみかえで 
14初ウ8山に門ある有明の月芭蕉やまにもんある ありあけのつき 
15初ウ9初あらし畑の人のかけまはり支考はつあらし はたけのひとの かけまわり 
16初ウ10水際光る濱の小鰯維然みずぎわひかる はまのこいわし 
17初ウ11見て通る紀三井は花の咲かゝり芭蕉みてとおる きみいははなの さきかかり 
18初ウ折端荷持ひとりにいとヾ永き日支考にもちひとりに いとどながきひ 
19名オ折立こち風の又西に成北になり維然こちかぜの またにしになり きたになり 
20名オ2わが手に脉を大事がらるゝ芭蕉わがてにみゃくを だいじがらるる 
21名オ3後呼の内儀は今度屋敷から支考のちよびの ないぎはこんど やしきから 
22名オ4喧嘩のさたもむざとせられぬ維然けんかのさたも むざとせられぬ 
23名オ5大せつな日が二日有暮の鐘芭蕉たいせつな ひがふつかあり くれのかね 
24名オ6雪かき分し中のどろ道支考ゆきかきわけし なかのどろみち 
25名オ7來る程の乗掛は皆出家衆維然くるほどの のりかけはみな しゅっけしゅう 
26名オ8奥の世並は近年の作芭蕉おくのよなみは きんねんのさく 
27名オ9酒よりも肴のやすき月見して支考さけよりも さかなのやすき つきみして 
28名オ10赤鶏頭を庭の正面維然あかけいとうを にわのしょうめん 
29名オ11定らぬ娘のこゝろ取しづめ芭蕉さだまらぬ むすめのこころ とりしずめ 
30名オ折端寐汗のとまる今朝がたの夢支考ねあせのとまる けさがたのゆめ 
31名ウ折立鳥籠をづらりとおこす松の風維然とりかごを ずらりとおこす まつのかぜ 
32名ウ2大工づかひの奥に聞ゆる芭蕉だいくづかいの おくにきこゆる 
33名ウ3米搗もけふはよしとて歸る也支考こめつきも きょうはよしとて かえるなり 
34名ウ4から身で市の中を押あふ芭蕉からみでいちの なかをおしあう 
35名ウ5此あたり弥生は花のけもなくて維然このあたり やよいははなの けもなくて 
36挙句鴨の油のまだぬけぬ春支考かものあぶらの まだぬけぬはる 

42 続猿蓑「夏の夜や」の巻 -歌仙-

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  今宵賦

野盤子 支考    

 今宵は六月十六日のそら水にかよひ、月は東方の乱山にかゝげて、衣裳に湖水の秋をふくむ。されば今宵のあそび、はじめより尊卑の席をくばらねど、しばしば酌てみだらず。人そこそこに涼みふして、野を思ひ山をおもふ。たまたまかたりなせる人さへ、さらに人を興ぜしめむとにあらねば、あながちに弁のたくみをもとめず、唯萍(うきくさ)の水にしたがひ、水の魚をすましむるたとへにぞ侍りける。

 阿叟は深川の草庵に四年の春秋をかさねて、ことしはみな月さつきのあはひを渡りて、伊賀の山中に父母の古墳をとぶらひ、洛の嵯峨山に旅ねして、賀茂・祇園の涼みにもたゞよはず。かくてや此山に秋をまたれけむと思ふに、さすが湖水の納涼もわすれがたくて、また三四里の暑を凌て、爰に草鞋の駕をとゞむ。

 今宵は菅沼氏をあるじとして、僧あり、俗あり、俗にして僧に似たるものあり。その交のあはきものは、砂川の岸に小松をひたせるがごとし。深からねばすごからず。かつ味なうして人にあかるゝなし。幾年なつかしかりし人々の、さしむきてわするゝににたれど、おのづからよろこべる色、人の顔にうかびて、おぼへず鶏啼て月もかたぶきける也。

 まして魂祭る比は、阿叟も古さとの方へと心ざし申されしを、支考はいせの方に住ところ求て、時雨の比はむかへむなどもおもふなり。

 しからば湖(「にほ」と振る)の水鳥の、やがてばらくばらに立わかれて、いつか此あそびにおなじからむ。去年の今宵は夢のごとく、明年はいまだきたらず。今宵の興宴何ぞあからさまならん。そゞろに酔てねぶるものあらば、罰盃の数に水をのませんと、たはぶれあひぬ。

句称作者読み備考
1発句夏の夜や崩て明し冷し物芭蕉なつのよや くずれてあけし ひやしもの 
2露ははらりと蓮の縁先曲翠

つゆははらりと はすのふちさき

 
3第三鶯はいつぞの程に音を入て臥高うぐいすは いつぞのほどに ねをいれて 
4初オ4古き革籠に反故おし込維然ふるきかわごに ほうごおしこむ 
5初オ5月影の雪もちかよる雲の色支考つきかげの ゆきもちかよる くものいろ 
6初オ折端

しまうて銭を分る駕かき

芭蕉しもうてぜにを わけるかごかき 
7初ウ折立猪を狩場の外へ追にがし曲翠いのししを かりばのそとへ おいにがし 
8初ウ2山から石に名を書て出す臥高やまからいしに なをかいてだす 
9初ウ3飯櫃なる面桶にはさむ火打鎌維然いびつなる めんつにはさむ ひうちがま 
10初ウ4鳶で工夫をしたる照降支考とびでくふうを したるてりふり 
11初ウ5おれが事哥に讀るゝ橋の番芭蕉おれがこと うたによまるる はしのばん 
12初ウ6持佛のかほに夕日さし込曲翠じぶつのかおに ゆうひさしこむ 
13初ウ7平畦に菜を蒔立したばこ跡支考ひらうねに なをまきたてし たばこあと 
14初ウ8秋風わたる門の居風呂維然あきかぜわたる かどのすえぶろ 
15初ウ9馬引て賑ひ初る月の影臥高うまひきて にぎわいそむる つきのかげ 
16初ウ10尾張でつきしもとの名になる芭蕉おわりでつきし もとのなになる 
17初ウ11餅好のことしの花にあらはれて曲翠もちずきの ことしのはなに あらわれて 
18初ウ折端正月ものゝ襟もよごさず臥高しょうがつものの えりもよごさず 
19名オ折立春風に普請のつもりいたす也維然はるかぜに ふしんのつもり いたすなり 
20名オ2藪から村へぬけるうら道支考やぶからむらへ ぬけるうらみち 
21名オ3喰かねぬ聟も舅も口きいて芭蕉くいかねぬ むこもしゅうとも くちきいて 
22名オ4何ぞの時は山伏になる曲翠なんぞのときは やまぶしになる 
23名オ5笹づとを棒に付たるはさみ箱臥高ささづとを ぼうにつけたる はさみばこ 
24名オ6蕨こはばる卯月野の末芭蕉わらびこわばる うづきののすえ 
25名オ7相宿と跡先にたつ矢木の町支考あいやどと あとさきにたつ やぎのまち 
26名オ8際の日和に雪の氣遣維然きわのひよりに ゆきのきづかい 
27名オ9呑ごゝろ手をせぬ酒の引はなし曲翠のみごころ てをせぬさけの ひきはなし 
28名オ10着かへの分を舟へあづくる臥高きがえのぶんを ふねへあずくる 
29名オ11封付し文箱來たる月の暮芭蕉ふうつけし ふみばこきたる つきのくれ 
30名オ折端そろそろありく盆の上臈衆支考そろそろありく ぼんのじょうろしゅ 
31名ウ折立虫籠つる四条の角の河原町維然むしごつる しじょうのかどの かわらまち 
32名ウ2高瀬をあぐる表一固曲翠たかせをあぐる おもてひとこり 
33名ウ3今の間に鑓を見かくす橋の上臥高いまのまに やりをみかくす はしのうえ 
34名ウ4大キな鐘のどんに聞ゆる維然おおきなかねの どんにきこゆる 
35名ウ5盛なる花にも扉おしよせて支考さかりなる はなにもとびら おしよせて 
36挙句腰かけつみし藤棚の下臥高こしかけつみし ふじだなのした 

 續猿蓑は、芭蕉翁の一派の書也。何人の撰といふ事をしらず。翁遷化の後、伊賀上野、翁の兄松尾なにがしの許にあり。某懇望年を経て、漸今歳の春本書をあたえ、世に廣むる事をゆるし給へり。書中或は墨けし、あるひは書入等のおほく侍るは、草稿の書なればなり。一字をかえず、一行をあらためず、その書其手跡を以て、直に板行をなす物也。

  元禄十一寅      ゐつゝ屋

    五月吉日          庄兵衛書   


「芭蕉七部集(連句)」凡例

・ 芭蕉七部集から、連句を抜き出し、句称を示した。

 

・ 参考にした図書

 

・ 発句のかな・漢字などは、極力尊重したが、以下のような変更もしている。

 

・ 「読み」は、現代仮名遣いで表記し、五七五の間に空白を入れた。

 


  

芭蕉七部集(連句)

芭蕉七部集索引

冬の日木枯しはつ雪霽かな炭売の霜月やうつ霰
春の日 春めく奈良坂蛙のみ山吹の
阿羅野遠浅や時鳥雁がね天津厂新酒桐の木冬籠り
ひさご桜かな春の草卯月哉亀の甲角大師
猿蓑鳶の羽市中は灰汁桶梅若菜
炭俵梅が香兼好も空豆の早苗舟秋の空案山子振賣の雪の松
続猿蓑八九間雀の字猿蓑に夏の夜
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