俳諧の決め事

  「決め事」は一座の約束事。座に臨んでは宗匠に従う。宗匠は衆議を尊重する。

索引
歌仙の構成歌仙の進行用語・用字・音付け
花の句月の句恋の句


決め事 - 花の句

花の句

花の句流れ
区分流れ
句毎に「花の字」を確認
記事
花の字があれば、正花か判定
初折発句◇花の字があるか?Yes→

1 正花か判定する。
  Yes↓  No→→ 正花でない。花の句は三句去。
  ↓

2 花の季を確認する。
 [春]   [春以外]→┌ 正花である。
  ↓        └ 名残折の花は春季。

 正花である。3~5句春季(三春・晩春)を続ける。

「花の句判定1」

定座初折では、もう花は詠まない。
No↓
◇花の字があるか?
以下繰り返し
Yes→名残の折の花は、長句に限る。
No↓
第三
4句目

6句目
花の句を詠まない。  初表の四句目からは、花を遠慮。
1句目

8句目
◇花の字があるか?
以下繰り返し
9句目 花前、樹木や恋を出さない。
10句目 花前、樹木や恋を出さない。軽い句に仕上げる。
11句目定座 花の座 花の句が出ていなければ、ここで詠む。
12句目花の句を詠まない。  折端は末座で、花を詠まない。
名残の折1句目

12句目
◇花の字があるか?
以下繰り返し
1句目
2句目
3句目 花前、樹木や恋を出さない。
4句目 花前、樹木や恋を出さない。軽い句に仕上げる。
5句目定座 花の座 花の句が出ていなければ、ここで詠む。
挙句花の句を詠まない。 挙句は末座で、花を詠まない。
花の句判定

 「花」と言ったときは春季で桜、他の植物の花ではない。また、桜といったときも花の句としない。
 芭蕉は、
   花は桜にあらず、桜にあらざるにもあらず。
 と言う。花は、桜だけでなくて、「万物の心の花」を言う。万物の内、そのよさを楽しみ、尊重するときに用いる言葉が「花」である。


   世に花といふは、桜の事なりと言ふ人も有れど、花とは万物の心の花なり。
   たとへば花聟・花嫁の類、茶の出ばな・染もののはなやかなるも、そのものそのものの正花なれば、
  花と、賞翫の二字に定まりぬ。
   いづれの花にても、春の季にして、植物に三句去べし。花は春の発生する物なれば也。   「二十五条、花に桜


 ただ、「花」は、四季にわたり、無季もあることは、下記「正花」のとおりである。

非正花 【花の文字】 松花堂<固有名>
【桜の花】  桜・糸桜・桜花
【非桜の花】 卯の花・花薄・梅の花・萩の花・橘の花・木犀の花・牡丹の花<有名の花>
【異名の花】 花の兄(梅)・赤き花・花の宰相(芍薬)・花の君(杜若)・花の弟(菊)
【草の花】  花野・花畑・花壇・草の花・秋の花<以上五草>
【非植物】  月の花(光)・風花(雪)・雪霜の花\花田・花色・花染・花の帽子(以上千草)\浪の花・湯の花・椛花・花かつを・茶の花香・花かいらぎ・花ぬり・灯の花・火花(花火と異なる)・花やか・花々し・花子(はなご)・花桜(色目)

・ 冬季「茶の花」、春季「梅の花」、夏季「橘の花」、秋季「木犀の花」など、「正花」ではない。
正花春季…… 花・花明り・花終わる・花盛り・花散る・飛花・落花など\花供・花陰・花会式・やすらい花・花生<花にちなんだ名>\作り花・紙花・餅花<作り花>\花嫁<人間一世の花>\花の顔・花莧肌<すがたの花>\心の花・褒美の花などは曲節物。好んで用いない。
夏季…… 残る花・若葉に結ぶ花・花御堂・花摘・氷室の花<正しき花>
秋季…… 花火・花灯篭・池坊立花・花の頭(はなのとう)<作り花>\花角力・花踊<人の花>\花紅葉<雑にもある>
冬季…… 餅花・造花・花炭<作り花の例>\帰り咲き・帰り花・忘れ咲<花字なくても>此類も曲節物なれば、好んでは用ひず。

花の句、去嫌

付け可

花前後、雨風苦しからず。/花前後、名所苦しからず。

打越可

非植物:花①松花堂/草類: 草①花/風に散る花:秋風①花散る

三句去

正花-有名:花③卯花、花③花薄/有名-有名:萩花③菊花
花-他季桜

面去

花と同季桜: 花-桜

折去

正花:花∧花/:春季∧帰花

一巻一
句の花

 月花を結ぶ句、他季の花、短句の花、正花の桜、花(か)の字、右五つの内一つ出づる時は、百韻にても外はせず。\贋物の花、風雨付くる花、名所付くる花、花に桜の付句、神・釈名、名所、恋、同景物の花、散る・咲く・莟等の花。\其外、同体の運びを許さず、花は月より制重し。


花の句について

■ 花の句とは
元禄式

 花といふは、桜のことにして、桜は正花に非ず。花に付ること、別に伝受あり。大事なり。

二十五条

 世に花といふは、桜のことなりと言ふ人も有れど、花とは万物の心の花なり。
 例へば、花聟・花嫁の類、茶の出ばな・染もののはなやかなるも、そのものそのものの正花なれば、花と、賞翫の二字に定まりぬ。
 いづれの花にても、春の季にして、植物に三句去るべし。花は春の発生するものなればなり。

直旨伝 花は桜のことながら、都て春の花を言ふ。是等を正花に立ずしては、花の句多く出るゆへに、却つて賞翫軽し。
 宗祗時代までは、百韻に花三本、雨ひとつなり。
 宗長の時に至りて匂の花一本雨一つ。
 勅許を蒙り度旨奏問せられて、花四本雨二つには極りはべる。
<頭注> 伝曰、それ花は万物の花にして、桜にあらず。又、桜になきにしも非ず。又曰、桜は花なり、花は桜なり。
<頭注> 翁曰、匂ひの花といふ事、千句と夢想にいふ事にて常の会に申さざる事、未練の次第なり。意想は千句満座に香を焚くにより匂ひの花と言ふ。
 今は名号の俳諧には何にても焚くなり。
 匂ひの花、根元の起りは、後柏原院御宇久我家の黒方梅花の薫物、兼々望給ひしを、牡丹花進上申されし時、何にても御褒美かづけ給はれと勅し給ひしに、此花の事申されしかば、やさしく思召て 勅許を蒙りけるより匂ひの花の称出来たるなり。よつて、連の席及び俳の席にても、此花の句作る時、必ず黒方の薫焚事古実とはなれり。
 但、俳席に於て、今は此花吟声の時焚なり。香主の習、口伝。
直旨伝 桜三品といふ事
  山さくら さくら花 花さくら
 山桜は散るけしきを賞翫とす。さくら花は峰も麓も満山の花、爛漫たるを言ふ。
 花桜は咲散る交々の体を言ふ。只其わかちある事をしりて、又、強ちにかかはるべからず。 □j07
有也無也

 「花桜」とは、野山一面見渡す限り、道一筋見はるかす限り咲いた桜を言う。

■ 正花・非正花
二十五条

 たとへば花聟・はな嫁の類、茶の出ばな・染もののはなやかなるも、そのものそのものの正花なれば、花と、賞翫の二字にさだまりぬ。いづれのはなにても、春の季にして、植物に三句去べし。花は春の発生する物なれば也。

師説録 花紅葉とつづけて正花なり。雑なり。二季兼たる名なればなり。尤、句によりて其強きかたに季を定て、後を付るなり。
師説録 花の波、水辺なり(非正花)。植物の花の雲は、花を雲とも雲を花とも見る体あるべし。句によりて分別すべし。花の波は、散て浮たるを言ふ。
師説録 花の都、正花なり。花皿、正花なり。其故は、樒は常ながら、その時節時節の花を手向るものなればなり。
直旨伝 波の花。潮の花、古式には正花にあらずといへども、扱へば正花なり。用ゐざるときはその通りなり。
 霜雪の花、同事ながら、これはただ雪霜の賞翫ある故、其通見満すべし。 □j06
師説録 波の花・潮の花、正花にあらず。されど扱へば正花なりと、先師申されけるなり。
 雪の花・霜の花、扱ふて正花にもなるべきや。本意は雪霜を賞翫していへる花の字なれば、前条(波の花)とは違へりとなり。
師説録 花のふぶき、植物にあらず。花の雪と同前。花の雲、植物なり(正花)。
有也無也

 襲 (かさね) の色目(表は白、裏は青か紅)を表す「花桜」は非正花。

有也無也

 花嫁、花聟も正花であるが、雑である。春季を付けて用いるときは、「見立て花」と言う。(※ ただし、「二十五条」「海印録」は、花嫁を春の正花とする。)

■ 花の句、句数・長句短句・定座・変格
直旨伝 翁曰、花四本のうち、下の句(短句)一句ばかりはあり。
 まれにも定座をこぼす事なし。
師説録 花の句の事、定座に花とばかりする事は、勿論子細なし。変格の扱は殊の外子細あり。先、引上る方はくるしからず。まれにもこぼす事はあるべからず。桜を正花にする事も秘事なり。猥にあらせまじきためなり。句作、尤、習ひあり。
 他の説に心得しるとも、故なくてすべからず。此外にもさまざま伝授の秘事なきにしもあらず。すべて伝授とする事は、大方は用なき事、或は至極の事、或は全くすべきことにて、是等みな秘蔵とせり。猥りにゆるすときは、半途の人、しり顔に珍事を求て、常になし侍る故、秘して教ざるなり。さまで、其業、高き人ならずとも、志まことに道に深切なる輩には、其人によりて免許すべきなり。覚悟の人はしりて、心にをさめ、みだりに事をなさず、口にもださぬものなり。かかる人をゑらびて、皆伝すべし。
海印録

<「古今抄」引用> 月花の座といふ事は、付合の辞儀に譲り譲りて、七句目、十三句目の高句をもて、定座とす。
 例に、其故をしる時は、月花の座を必とせず、四花七月の式は調ふべし。されど、古式の表八句に、四句以下に至りては、花を遠慮とは尤も也。


 花をせぬ所、表は四句目より端迄、歌仙は三句、百韻は五句。裏は折端の短句、及び、二う、三うの折端と、挙句を末座としてせず。二、三終りの表の端は苦しからず。
 其余、いづこに在りてもよし。或ひは句、脇、第三迄に花出て、後折の花、定座上りたる例もあり。但し、百韻四本の花、皆引上げたるはなし。

■ 花の句、前句・打越句
師説録 花前に植物差合ふときは、似物の花をする習ひなり。
 その時は、その一句は雑にて前の植物にかまはねども、その句に春を付て正花に扱ふ故に、後をば植物定式の去嫌にする法なり。
 此格ありといへども、花前に心なく植物を出すこと、双なき無礼なり。屹度制してその句を戻すべし。面々慎てすべからず。
 只、貴人などのふと植物を出し給ふを返し侍らん事、いかがなれば、其時の用に扱ふべきための格なり。事もなきに、好て似せものゝ花せん事、をかしからぬ心得をしるべし。いづことても正花正月をもて遊ぶこそ風流なれ。
   打越花の事
    みよし野は常の雲さへ春の色
 右、定座の一二句前、水仙・山茶花・花野・桜等の句ありては、花の字・植物、花の座にさはる故に、宗匠・執筆のゆるさざるなり。
 しかれども、其人、高位・正客などの句、強て返すに及ばず。其時此句作の例を用ゆ。此体を味とりて作ば、いかやうにもあるべし。かくて次に、春の句を付べし。是素より芭蕉の教なり。
有也無也

 打越に花があれば、正花になる例。
   みよし野は常の雲さへ春のいろ
 花の定の一二句前に、「水仙・山茶花・花野・梅」等が出たときは、花前として、執筆が許さないところである。しかし、貴人高位がよんどころなく出したら、返句もし難い。
 そのときは証句のごとく作って、次も春の句を付けるとよい。

海印録

 これ(↑上記有也無也)は、古式の論である。蕉門に、このような鋳形の捌きはない。古式でも、一度こう捌いたら、二度とはしない。
 また、「花の字を隠して正花になるとき」は、隠しても植物なので、打越に木類は許さない。もし、花の座前の越に木類が出たら、すぐ花の句を付ける。草類の打越は、問題ない。

海印録

 「花前に風雨を許さず」と言うのは、特別なときで、普段は、かえって自在を得る練習となる。とは言え、風雨の句に、蕾の花を出すのは、呑まれた付。紋切りで拙い。

二十五条

 或は、桜鯛の類など、前の花にあらざる桜ならば、あきらかにしつて付べきなり。花前のうゑものとても、此類にて知るべし。

元禄式

 花前に、恋の句付かけぬものなり。

■ 花の句の呼び出し
海印録

一座賞玩すべき人(貴人・名人など)有りて、その人に花を望む時、その句前に至り、前句より春季を出して、花を望む也。(芭蕉談)

■ 初表の花
師説録 花の句、発句・脇・第三の外、表にせざる法なり。秘事とせり。
師説録 春の巻頭に、第三までに花出ても、出ずとても苦しからず。素春にも植物は出すかたよしといふ説あれども、なくてもまた苦しからず。その場のよろしきに従ふべし。
■ 匂いの花・名残の花、挙句
海印録

名残の裏、5句目の花を言う。蕉門では、発句・脇の意を匂わせる特殊な花の句を言う。


発句    ┌ 両の手に桃と桜や草のもち    芭蕉
脇     │  翁に馴れしてふ鳥の児     嵐雪
      ├
名ウ5 匂花│ 栄えよと未来を植ゑし花の陰   其角
挙句  匂 └  三人笑ふはるの日ぐらし    嵐雪


 満座を前に香を焚いたというのは古式で、千句興行、夢想俳諧など特別な場合である。

直旨伝 所以ある俳諧には、発句に心の通ふやうの名残の花有るべし。揚句も亦自然とその心ばへなり。
 例へば客来てその日のことを述て先より、雑談に時を移し、帰る時に至りて又その日のことを言ふこと、礼を尽して罷り帰るがごとし。
 但し発句に同意にせよと言ふにはあらず。
 匂ひの花とは本式会に称すべし。常には名残の花と言ふべし。
師説録 名残の花と称する、常の事なり。匂ひの花とは、本式に。
元禄式

 揚句に花をする事、宗祇法師神祇の巻にせられしことあり。常にはあるべからず。

■ 花の句と桜・名所
二十五条

 古へより、花に桜を付る事、伝授あると初心にはゆるさず。
 但、花は桜にあらず、桜にあらざるにもあらずといふ事、我家の伝受としるべし。
 伝いとざくらの事あり

直旨伝 花に桜付る事、むかしは花衣・花の袖などやうの物には誠の桜をつけ、誠の花には、桜鯛・桜人のごときものを付たれど、当流は是を用ひず。花は花、桜は桜と分明に付るを習ひとす。
     辛崎の松は花よりおぼろにて
      山はさくらをしほる春雨

 桜の句に花は付るべからず。花にさくらは苦しからず。吉野に花は付べし。花に吉野は付べからず。桜も同じこころへなり。他の花の名所も、是に准ず。句の仕立やう心得あり。
    但、是古式なり。
<頭注> 芭門に於て、桜に花を付、花に吉野をつけ、其外花に名所を付ることあり。別義なくして、此例の表裏なり。古式を取てとらず、取らずしてとるの意趣あり。
      さくらをこぼす市のあさがり
     大和路へ入る日はけふも花ぐもり

 是如なり。 □j11
 ※ ┌  桜をこぼす市の麻刈      竹翁  蕉風雁木伝
   └ 大和路へいるとてけふも花曇   嵐雪
有也無也

 月に更科、花に芳野と付けてはいけない。宇治に茶、竜田に紅葉は付けられる。また、(月に更科はだめだが、)更科に月は付けてもよい。その場あっての景物だからである。

海印録

 (↑上記有也無也について)「月に名所」と同じく、前後の嫌いはない。吉野に麦・米は許さない。また、見立てがあるときは、吉野に吉野とも、付けられる。

直旨伝 翁曰、花と桜の事、細川玄旨法印より秘して花咲先生へ口決し給ふ正伝ありといへども、其後更に用るものなし。
 門人去来、予の猿蓑の巻に末の花を略して、彼伝を顕すことあり。惣じて桜一本の時は、咲く・開く或は莟などいふ字を置べきなり。是正花に立る習なり。
 □j07
 「俳諧有也無也、俳諧五花の口訣」に、
  付合一本桜の事  正花になるなり。
   糸桜腹一ぱいに咲きにけり
 右付合、一本桜の事は、細川法印(幽斎、細川藤孝)より秘して、花咲先生(貞徳)に口訣の正伝なり。其後、更に用ゐる人なし。門人去来、予の猿蓑の巻に「末の花」と略して、彼伝をあらはさず。総じて桜一本の時は、「咲・開・莟」、これらの文字を句の内に置くなり。即ち正花に立ならひなり。正伝なり。
 とある。
 伝曰、花桜といふ事、本歌にすべき習ひあり。一山一縄手など、平一面に花を見渡したる時の事なり。
 去来曰、猿蓑集の時花を桜にかへんと請ふ。
 先師曰、その所以いかん。
 余(去来)答曰、凡花は桜にあらずといへる一通。又馨の花なりといふも拠あり。畢竟花は咲く時節をのがれまじきとおもひ侍るなり。
 師曰、されど往昔は四本の花のうち一本はさくらなり。汝のいふ所も所謂なきにあらず。兎も角も作すべし。されども尋常の桜にてかへたらんは、詮なかるべしとなり。
■ 花の句、季
二十五条

 いづれのはなにても、春の季にして、植物に三句去べし。花は春の発生する物なれば也。

直旨伝 或は賞翫の花の句、前句への付意や、又其句の心か。その実は梅・菊・牡丹などを下心にして仕立、正花となしたるは、その草木にしたがひ、季を定むべきや。
直旨伝 或問、正月に花を見る、九月に花咲などいふ句は何とあつかふべきにや。
 答曰、正月の花は、陽春美名なれば子細なし。九月に花咲などは大に誤なり。なき事なり。名木を隠して花といふ句はあるべし。