俳諧の決め事

  「決め事」は一座の約束事。座に臨んでは宗匠に従う。宗匠は衆議を尊重する。

索引
歌仙の構成歌仙の進行用語・用字・音付け
花の句月の句恋の句


決め事 - 恋の句

恋の句

恋の句流れ
区分流れ
初表発句◇恋の句か?Yes→

ハート 発句が恋句のとき、脇も恋句を添える。

No↓
この面で、恋句を詠まない。
 ※ 情のない恋の詞も避ける。
第三
4句目
5句目
6句目
初裏・ 初折の裏、1句目から恋句が出てよい。指合に注意し、1,2箇所可。
*句目◇恋の句か?Yes→

ハート 恋句は2~3句続ける。ただし、付句により、前句も恋句になる場合は、2句と見なす。また、次の句が単独で恋の句でなくとも、付けて恋の情がある場合は、恋句と見なす。

No↓
名残表

・ 名残の折も、1句目から恋句が出てよい。指合に注意し、1,2箇所可。
*句目◇恋の句か?Yes→

ハート 恋句は3~5句続ける。ただし、前句が恋句になる場合、句数に注意。

No↓
恋の句判定

 人倫の恋の情がある句を言う。
 ・ 鹿の恋、猫の恋など、生類の恋を除く。
 ・ 故郷や肉親を恋うる情を除く。

二十五条  恋の句のことは、古式を用ひず。その故は、嫁・娘など、野郎・傾城の文字、名目にて恋と言はず。
 ただ、当句の心に恋あらば、文字にかゝはらず恋を付くべし。この故に、他門より、恋を一句にて捨ると言へるよし。
 恋は、風雅の花実なれば、二句より五句に至るといへども、先ずは陰陽の道理を定めたるなり。
 これは、我家の発明にして、他門に向かひて穿さくすべからず。
古式

恋の詞
貞門 …… 夫婦・二世の契・ひよくの中・連理の中・偕老洞穴・寝物語・ささやく・ふりのよき・落とし文・身をこがす・小指切り・恋やせ・口紅・男狂・涕ぐむ・りんき・そひふし・人妻・睦言・涙川・爪紅・ 約束・怨念・傾城・遊女・婚礼・懐妊・くどく・ほるる・鬼も十八・やくそく・離別・おとし文・胸をやく・情ぶり・くどきごと・淵に身投・よめ入・口べに・爪べに・姿見の鏡・匂袋・恋風・長枕・若後家。
連歌 …… なまめく・後朝・えにし・よすが・恋すてふ・ぬれ衣・片おもひ・恥かはし・思川・雅をかはす・恨み・かこつ・契り・もの思い・手弱女・上の空・心乱る・そねみ・ねたみ・さかしら・眉墨・逢瀬・添い寝・ささめ言・心替え・浅はか・独り居・乱れ髪・うかるる・目くばせ。

恋の句、去嫌
打越可

生類の恋と恋 : 恋鹿・恋猫・恋雉子①恋句
恋でない恋と恋 : 故郷恋・親恋・友恋①恋句

三句去

恋句の連と恋句 : 恋句③恋句

面去

恋の字 : 恋の字-恋の字


恋の句について

■ 恋の句とは
二十五条 恋の句の事は、古式を用ひず。其故は、嫁・むすめ等、野郎・傾城の文字、名目にて恋といはず。
 只当句の心に恋あらば、文字にかゝはらず恋を付くべし。
 是は、我家の発明にして、他門にむかひて穿鑿すべからず。
元禄式 恋に、心の恋・詞の恋といふことあり。詞の恋は恋にならず。当流は詞にかゝはらず、心の恋を専らとするなり。
  物さしに狂ふ男のたゝかれて
 といふ句、詞に恋なし。心の恋なり。女房・娘等の詞、句作によりて、表にもくるしからず。
師説録 当流詞の恋をとらず。心の恋を恋とする所なり。
■ 恋、位・非恋
去来抄

 牡年曰、「付句の位とは、いかなる事にや」。
 去来曰、「前句の位を知て付る事なり。たとへ好き句ありとも、位応せざればのらず。先師の恋の句をあげて、いはく、
    ┌上置の干菜刻むもうはの空
    └ 馬に出ぬ日はうちで恋する

 前句は人の妻にもあらず、武家・町人の下女にもあらず、宿屋・問屋の下女なりと見て、位を定めたるものなり。
    ┌細き目に花見る人の頬はれて
    └ なたね色なる袖の輪ちがひ

 前句、古代の人のありさまなり。
    ┌白粉をぬれども下地くろい顔
    └ 役者もやうの袖のたきもの

 前句のさま、今様の女と見ゆ。
    ┌ 尼になるべき宵のきぬぎぬ
    └月影に鎧とやらん見すかして

 前句、いかにも然るべきもののふの妻と見ゆ。
    ┌ ふすまつかんで洗ふあぶら手
    └懸乞に恋の心をもたせたや

 前句、町家の腰元などいふべきか。これをもて、他はなずらへて、知らるべし』。」。

海印録

 猫・鹿・雉の妻恋、或は親を恋ふ、友を恋ふる等の恋の字は、恋句の越を嫌はず。
 そは、妹背の恋だに三去なれば、異生異用の恋の字は嫌はぬ理也。

付合小鑑 恋は貴となく賤となく、ただ一情ながら、和歌にも逢ふ恋、逢あはぬ恋、逢ひて逢はざる恋など、趣様々なり。俳諧の付句とても、上・中・下、初・中・後、なきにしもあらず。
■ 恋の句、句数
二十五条 只当句の心に恋あらば、文字にかゝはらず恋を付くべし。此故に他門より、恋を一句にて捨るといへるよし。
 恋は、風雅の花実なれば、二句より五句に到るといへ共、先は陰陽の道理を定たるなり。
 是は、我家の発明にして、他門にむかひて穿鑿すべからず。
元禄式 我家に恋を二句にて捨る事、古き連歌の書に、「恋を二句にて捨る事、甚く無下の事なり。三句より五句までつゞくべし」とあり。古風の連歌、二句にて捨たる例あるを以て、此の如く、当流の難句、恋に極りたるゆへなり。
直旨伝  恋の句、昔より二句付ざれば捨ず。
 昔の句は兼日に恋の詞を集置て、心の恋の涙をば問はざるなり。
 恋は別て大切なり。作意安からず。
 宿昔、宗砌・宗祇の比まで、一二句にて止事あれば、其例にならひ、此後門弟子議して、一句にても置べきか、其趣は前句恋とも恋ならずともさだめがたき句あるを、必恋の句付て、前句ともに恋に取なすべし。左様の時は其句のみにして、其次に恋の句付るに及べからず。新式にも其沙汰あり。然れども議する所は其座の宗匠にまかすべし。
師説録 一句にてさしおくことのあるは、付て前句に心かよひ、二句の間に恋を含る処なり。
海印録

 昔(古式の事)は、五十韻百韻といへども、恋句なき時は、一巻とはいはず、端物とす。
 かくばかり大切なる物故に、皆恋句に泥み(なずみ)、伝か二句一所に出づる時は、幸ひとして、却つて巻中恋句稀なり。
 又、多く恋より句しぶり、吟重く、一巻不出来になれる故に、恋句出付けよからむ時は、二句か五句もあるべし。付けがたからむ時は、強ひて付けずとも、一句にても捨てよといへり。かくいふも、何卒巻面もよく、恋句も多く出でよかしと思ふ故也。(芭蕉談、約文)


 爰に、「一句」と云ふは、前句起しの事也。当句より起こる恋は、決して、一句にては捨てず。
 又、「恋句より巻しぶり」てと云ふは、初心のさた也。
 去来、何故に慮り過して、卯七に恋続きの法は伝へざるぞ。今も、此文に恐れて、恋を続けぬ人多し。
 ・ 恋、歌仙に一所より四所迄。[虚栗][阿羅野]にも、四所あり。
 ・ 百韻には、一所より七八迄也。[鶴の歩]には、八所出たり。(海印録、略文)

去来抄

 卯七・野明曰、「蕉門に恋を一句にて捨るはいかが」。
 去来曰、「予此事を伺ふ。
 先師曰、『古は恋の句数不定らず。勅已後、二句以上五句となる。此礼式の法なり。一句にて捨ざるは、大切の恋句に挨拶なからんはいかがとなり。一説に、恋は陰陽和合の句なれば、一句にて捨つべからずともいへり。皆大切に思ふ故なり。予が一句にても捨よといふも、いよいよ大切に思ふ故なり。汝は知るまじ。昔は恋出れば、相手の作者は、恋をしかけられたりと挨拶せり。又、五十韻・百韻といへども、恋句なければ、一巻とは云はず、はした物とす。かくばかり大切なるゆへ、皆恋句になづみ、わづか二句一所に出れば幸ひとし、かへつて巻中恋句まれなり。又、多くは、恋句より句しぶり吟重く、一巻不出来になれり。このゆへに、恋句出て付よからん時は、二句か五句もすべし。付がたからんときは、しばらく付ずとも、一句にても捨よと云へり。かくいふも何とぞ巻づらをよく、恋句も度々出よかしと思ふゆへなり。勅の上をかく云ふは、恐るゝ所有るに似たれども、それは連歌の事にて、俳諧の上に有らねば、背き奉るにもあらず。しかれども、我古人の罪人たる事をまぬかれず。ただ、後学の作しよからん事を思ひ侍るのみなり』。」。

■ 恋の句、指合・去嫌、面・折
元禄式 揚句 恋にても挙ること、殊に祝義なり。うき・つらき・かなしき・歎・泪・しぬるなども、祝言とて二句するなり。
海印録

 挙句に、初めて恋を出さぬは、後なくて不興なる故なり。

師説録 裏うつりに、恋を付る事、待兼恋とて、世に嫌へり。待兼恋と名付て制するは、何事ぞや。其故を問はば、ひしとつまるべし。
師説録 匂いの花、揚句にても、恋の句をする事くるしからず。かへつて祝儀なりと、翁の申されしにて、しるべし。
■ 恋の句、心得
師説録 恋の句、二句目骨折なり。詞にて付捨て置くは無念なり。
直旨伝
(注)
 翁曰、神祇、釈教恋の習あり。
 いづれも連歌に殊更秘し伝る大事なり。予世の中の宗匠を考るに、此重秘を知らず。露沾公へ伝へ侍りし外、他言せず。
 恋に結びたる神祇は、神祇の句に二句去なり。これを三句去と覚、捌くこと、未練なり。釈、尤も同意なり。神祇と神祇三句去なり。恋の情の神祇、格別なり。
海印録

 おおよそ、その始め、「逢ふ恋」ならば、次は「別るゝ恋」と見かへ、三は「隔つる恋」と変化し、四は「恨む恋」とも、五は「祈る恋」とも、六は「化恋(あだこい)」、七は「嫌ふ恋」、八は「随ふ恋」、九は「初恋」、十は「契る恋」といふやうに、一句一句に恋情を転じて、趣向に、老少・男女・貴賤・強弱・文質・虚実を分けて続けゆく時は、百韻干句といへども、変化自在なるべし。

海印録

 おおよそ、恋を続くるは、句面(くおもて)に恋語あるかぎりなり。たとい、付合たる句意には、深き恋情有りても、一句放して常のことなる句出でなば、そを限りに恋をやめよ。
 続くるも断つも、自然まかせなり。人皆さる法を知らざるゆえに、あるいは縁なきところを強ひて続けむとし、あるいは、残情ある句を無理に断ちて、前句の本意を失ふことあり。

■ 恋の句と、月・花・名所、呼出(言掛・仕掛)
元禄式 花前に、恋の句付かけぬものなり。
海印録

  「花に恋を仕懸るは、法外」と制するは、古式也。蕉門にはさる事なし。
 花に仕懸るあり、花より起るあり、花を起すあり、何れにても一座一句也。

有也無也

 月に恋を結び、名所を結びたる句は、一巻に一所と知るべし。

■ 恋の句、季
元禄式 恋の句、秋の句にはさみてせぬ事なり。
直旨伝
(注)
 又曰、恋は月花よりも大切のものにて、扱は春秋の季節同格の位なり。この故に句数も春秋と同じくつづくなり。都て季節と同じ扱にて、季節の代にも立る物なり。月花の代にも遣ふ。春秋のはじめの句に、もし恋あらば、その季につれて三句ながら恋をわたすべし。もし春秋二句前に恋出なば、四句恋をつづけ、春秋の三句目に恋出たらば、一句春秋を付のべて春秋の恋をすべし。これまた秘事のひとつなり。
 同季は五句されども季と季の間に他の季あるときは四句にてゆるす例なり。又季と季の間に恋ある時も四句にてゆるす例なり。是則、恋を季節同様に扱ふ故なればなり。是又秘事。