俳諧の決め事-付けの資料

資料の索引
付け方和歌伝忠岑「和歌体十種」定家「毎月抄」
連歌良基「僻連秘抄」心敬「ささめごと」宗牧「四道九品」
貞門季吟「俳諧埋木」 六義他
蕉門呂丸「聞書七日草」 四道、三体北枝「山中問答」 趣向
嵐雪伝「十五箇条」「十五箇条、付方の名称」
支考「葛の松原」 走・響・匂支考「俳諧十論」七名支考「七名八体」
北枝
自他伝
自他伝の成立用語人情「自・他・場」
人情「自・他」の判別人情「有・無」の判別几董「付合てびき蔓」
芭蕉一座俳諧の人情自他猿蓑、「鳶の羽も」の巻卯辰集、「馬かりて」の巻

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歌仙の構成歌仙の進行用語・用字・音付け
花の句月の句恋の句

 

決め事 - 資料


付けの分類

和歌

伝忠岑十体
和歌体十種  古歌体・神妙体・直体・余情体・写思体・高情体・器量体・比興体・華艶体・両方体
 ※ 高情体が中心。
定家十体
毎月抄 幽玄様・事可然様・麗様・有心体・長高様・見様・面白様・有一節様・濃様・鬼拉体
 ※ 有心体が中心。
 季吟は、「十体の中より、さまざまのきざみきざみありて、すべて三十体なるべし」と、定家十体を細分し三十体とする。芭蕉はこれを相伝している。 →「俳諧埋木」を参照。

連歌

僻連秘抄・抄

 僻連秘抄(僻連抄)は、康永4(貞和元)・興国6(1345)年、二条良基26歳に成立の連歌論書。
 底本は、巻末に「二條殿御作」とある平松家本。京都大学附属図書館蔵。

一、連歌の付やう、しなじなにかはる事、あらあら是を記す。
ひらづけ
平付
① やうもなくみるところを、(詞・寄合で)ありのままに付るなり。
しで
四手
② (複数の詞・寄合で)たしかにきりくみたるやうなるべし。
けいき
景気
③ 眺望などのおもしろき体を、はなばなとみるやうにするなり。
こころづけ
心付
④ 詞・よりあひ(寄合=縁)をすてて、心ね計(心根ばかり)にて付べし。
ことばづけ
詞付
⑤ よりあひ(寄合=縁)をすてて、詞のたよりにて付べし。
うずみづけ
埋付
⑥ 上(表面)はつかぬやうにて、下(奥底)にふかき心あり。
よせい
余情
⑦ いはれぬやうなるを、おもひとけば、そのおもかげそひて、面白き風情なり。
たいよう
対揚
⑧ 春に秋、朝に夕、山に野などの類なり。
ひきちがい
引違
⑨ 月の夜雨をこひ、花の時風を忍ぶなり。
かくしだい
隠題
⑩ 物の名・ところの名など、かくして立入(裁ち入)るなり。
ほんか
本歌
⑪ 一首三句にわたるべからず。にげ歌あらば付べし。
但、件のにげ歌、さきの歌をとりたる後代の歌ならば、用べからず。
 又、新古今よりこのかたの作者、本歌にあらず。堀川院の百首の作者まで、とるべきなり。近代の歌も、証歌には、成るべし。ふるき作者ならば、近代の勅撰の歌をも用べし。
ほんぜつ
本説
⑫ おほかた同三句にわたるべからず。詩心、物語、又俗にいひつけたる事なり。
めいしょ
名所
⑬ さしたる用なきとき、ゆめゆめ出すべからず。当世、かくしてすること一の体也。
 仮令、「川の名のいくたび此浦のなにはかくれぬ」などいふやうの風情なり。
 名所ならでは、付まじきことのあらんには、ただもすべし。肝要あらば、耳遠なる名所をもすべし。詮なからんときは停止すべし。
いぶつ
異物
⑭ つねに用ゐざる鬼風情のものなり。ときどき珍しきもののきこゆるも、目さめて興あるなり。かやうのものなればとて、句がらの悪しくなる事なし。
 口のやさしき人のしたるは、やがて鬼のやうになるなり。花月のおそろしきもあり。
 又、鬼のやさしきもあり。そのものによるべからず。ただ、作者の風骨によるべし。
きょうく
狂句
⑮ さだまれる法なし。ただ、こころききて、興あるやうにとりなすべし。
 此外、やうやうの付様侍れども、少々をしるす也。
 いかにもよき句と申は、心も詞も寄合も、みな付たるやうにて、しかも、かしがましくはきこえぬなり。
 あまり幽玄ばかりにて、目のさむる事のなからんときは、異物などをも出すべし。
 又、こと葉こはからむ人は、いかにもやさしき方をまなぶべし。幽玄にてわろき事はなけれども、そればかりをたしなめば、連歌のちいさくつづまりたるやうになるなり。
ささめごと・抜書

 心敬の連歌論書。寛正4(1463)成立。連歌の歴史・作法を問答体で述べる。
 底本は、巻本、写。早稲田大学図書館蔵。

親句疎句「歌には疎句に秀歌おほし」と定家卿も申し給へるとなむ。いかにも親句・疎句二体あるべしとなり。
篇序題曲流此の事連歌の最用なるべし。仮令、下の句に曲の心あらば、上の句を篇・序・題になして言ひ残すべし。又、上の句に曲の心ありてもみたらば、下の句を篇・序・題になして言ひ流すべし。
六義大かた六くさの心、句ごとにわたるべきなり。
四道九品・参考

 宗牧の連歌論書。寛正4(1463)成立。子宗養のために記す。
 底本は、宮内庁書陵部蔵書及び東大国文学研究室蔵書の「四道九品」、並びに早稲田大学図書館蔵書の「結法」。

四道

添・随・放・逆
※ 伝本により、「そふ・したふ・引はなつ・さそふ」「さかふ・引はなつ・したふ・そふ」「そふ・同心・引はなつ・さかふ」「さかふ・引はなつ・したがふ・そふ」と、定まらない。
 一応、漢字の「添・随・放・逆」に当てられる。
  ┌  音する水は氷とけゝり
  └ 雪埋む深谷の小川春寒て
  ┌ 時のまにいたるとぞきく西の海(空)
  └  唐土までの春のはつかぜ
  ┌  たもとにかすむありあけの月
  └ 鳥のこゑ花のにほひに山こえて
  ┌ 鳴とりもあはれとやみむ谷の庵
  └  夕かぜあらき花のしたかげ

貞門俳諧

俳諧埋木

 季吟著。 →「俳諧埋木」参照

六義
賦比興風雅頌
 六義のこと、敷島のやまとことの葉には、古今集にぞ侍るを、京極黄門(定家)の御説に、「おおよそ六義の根本は毛詩よりことおこれり。よろしくこれを披見して、そのたゝずまひを見よ」とかや、の玉ひけり。
 連歌には心敬僧都、「大かたむくさの心句ごとにわたるべきなり」など、きこえ玉へりき。宗養なども、しるし給へるに、俳諧の句、ことなるべきにあらねば、今この説々にしたがひつゝ、先師の示し給へる句どもをつらね、次に愚句をもて、心あてに、それかとばかり、書きけがし侍る。
皮・肉・骨※ 三つの付合で示す。
真・草・行詞かけあひたるを 「真」といひ、趣ばかりを付るを、「草」といひ、大かたよりあひたるを、「行」といふとかや。
親句疎句【親句】 詞のたくみをもとゝし、前句の付合にしたしみたるなり。
【疎句】 前句の姿・ことばをからで、只ひとへに、心まで付たるなりと、のたまへり。
篇序題曲流心敬僧都、この五つの作りざまを、連歌にも、上下両句を、一つに吟じ合せて、心を得べしとなり。…略…。 されば、俳諧も、付けもてゆく心ばへは、ことなるべきにあらぬわざなれば、よく心うべきことなりかし。
十体十体の中より、さまざまのきざみきざみありて、すべて三十体なるべし。
 幽玄体・行雲体・廻雪体・長高体・高山体・遠白体・澄海体・有心体・物哀体・不明体・理世体・撫民体・至極体・麗体・存直体・花麗体・松体・竹体・事可然体・秀逸体・抜群体・写古体・面白体・一興体・景曲体・濃体・見様体・有一節体・拉鬼体・強力体

蕉門俳諧

聞書七日草、元禄2年6月

 呂丸著。「奥の細道」の途次訪れた芭蕉に学び、「聞書七日草」を著した。
底本は、「七日草」で、呂丸没後の例句が書かれたもの。酒田市立光丘図書館蔵。
<図司呂丸>ずしろがん
通称左吉。出羽手向村で染物業。奥の細道の芭蕉を歓待。元禄5(1692)年、芭蕉を訪ね「三日月日記」をもらう。伊勢参宮の後、京の支考を訪ね、元禄6(1693)年2月、京で客死。享年40歳未満という(陸奥鵆)。

四道の付合

(添随放逆)

【添】 まへ句に打添へて付る也。まへ句の位を見はからひて、仲よくつれそふ姿なり。
  ┌ むら雨の露もまだひぬ槇の葉に
  └  きりたちのぼる秋の夕暮れ    ※新古今、寂蓮法師
  ┌ 先一人花盗人をからめ置き  露荷 ※続虚栗、秋興二十四句
  └  酒買に行草庵の春     其角

【随】 まへ句にしたがふ也。いかにもとこしらへて、さてまへ句にいい残したる心をつく心なり。
  後撰
  ┌ しら露に風の吹きしく秋の野は
  └  つらぬき留めぬ玉ぞ散りけり   ※後撰集、文屋朝康
  ┌ 暁の寝言を母に起こされて     
※嵐雪 集に「さまされて」、虚栗、天和2
  └  つゐに発心ならず成けり     ※芭蕉
 いかにも寝言に起されたるが、その寝言にふかくかくしたる、発心の定三昧(じょうざんまい)打出んに、いかでその母のとどめざるべきと、随ひたるものなり。
 この付合不心得なれば、一句無心に落侍れども、このまへ句発心の見えぬものなれば、付句の主人、明らかなるにあらずや
【放】 付心のつづきたる花まへ句の心を付はなすものにて、また付合のよろしき也に、
  ┌  夢のかよひぢ人めよくらむ
  └ 住の江のきしによる波よるさへや  ※古今、藤原敏行
  ┌  あら野の牧のお召撰びに     ※其角、初懐紙、貞享3
  └ 鵙の一声夕日を月に改めて     ※文鱗、集に「鵙の声」

 あら野の牧の付心をはなれて、鵙の一声を、暮行方に月を見付たるとばかりを付、はなしたるものなり。されども、駒追の暮行く風景、あにかけはなるべけんや。
【逆】 まへ句白しといへば黒し、西といへば東、うれしといへば悲しと、別々に付て、しばらく相あらそい、しかも下心のよく付合たるものなり。
  草庵  京よりふじの高ねをぞ云る
  ┌ 田子の浦はまだはるかなる東ぢに
  │  昼も悲しきさほ鹿の声
  └ 櫨柞秋は日毎におもしろく     ※はじ、ははそ

 悲しきに面白きと付て、しばらくここにあらそふとは見ゆれど、つま恋ふ鹿の悲しきは、秋の衾の風流にて、世上の悲しきとは、おなじかるべからず。しかれば、秋色日々のにしき、面白きながめに、このさを鹿とおり入りて、秋を言ふ外、あに付合さるべけんや。すべて姿を付るよるべは、捨るがごときに、大事これあるよし。古人の秀逸この付合におゝし。

三体の心得

(皮肉骨)

 三体の心得、埋木の聞書也
【皮】 皮は外也。万事符合してみだれず。かざり具足したる也。
  ┌ わかの浦にしほみちくればかたをなみ
  └  あしべをさして田鶴啼わたる   ※続古今、家持
 埋木
  ┌  荷に念いるゝ大はかのしゆく   ※あをはか、青墓宿。
  └ 本膳はいとそさうなるはたごにて
 追加 蕉門
  ┌  桐の木高く月さゆる也      ※野坡 炭俵
  └ 門しめてだまつて寝たる面白さ   ※芭蕉

【肉】 肉は内也。おこなふ也。味ひ也。
  ┌ ほのぼのとあかしの浦の朝霧に
  └  島かくれ行く舟をしぞ思ふ    ※古今、読み人知らず
 埋木
  ┌  普賢の前によめるほけ経
  └ 鴬の声は桜のこちらにて
 追加 蕉門
  ┌  星さへ見へぬ二十八日      ※孤屋 炭俵
  └ ひだるきはことに軍の大事也    ※芭蕉

【骨】 骨はまこと也。俊成卿は定家卿の骨体なることを見さだめ給ひてその身の肉体をきはめ給ふと也。
  ┌ 立かへり又も此世にあとたれん
  └  名もおもしろき和歌の浦波    ※和歌奇徳、光孝天皇夢想。
 埋木
  ┌  からりからりとからめきぞする
  └ 山椒と胡椒をいれて摺小ばち
 追加 蕉門
  ┌  わが手に脉を大事がらるゝ    ※芭蕉 続猿蓑
  └ 後呼の内儀はこんど屋敷から    ※支考

三体の話

(六座)

【移】 皮の註なり
  ┌ 田子の浦に打出て見れば白妙の
  └  ふじの高根に雪はふりつゝ    ※山部赤人
【馨】 皮の註なり
  ┌  わが衣手に雪はふりつつ
  └ 君がため春の野に出てわかなつむ  ※光孝天皇

【面影】  肉の註なり
  ┌ ほととぎす啼つるかたをながむれば
  └  たゞ有明の月ぞ残れる      ※後徳大寺左大臣・藤原実定
【位】  肉の註なり
  ┌  人目も草もかれぬとおもへば
  └ 山里は冬ぞ淋しさまさりける    ※源宗于朝臣

【見入】 骨の註なり
  ┌  いま一たびの御幸待たなん
  └ 小倉山みねの紅葉ゝ心あらば    ※貞信公・藤原忠平
【響】 骨の註なり
  ┌  人にしられでくるよしもがな
  └ 名にしおはゞ逢坂山のさねかづら  ※三条右大臣・藤原定方

・ 「四道」は、「四道九品」(宗牧)、連歌の論で、「埋木」に見当たらない。証句は、「虚栗」「続虚栗」「初懐紙」のもので、蕉風開眼前。
・ 「皮肉骨」は、「埋木」(季吟)の伝。証句は「埋木」だが、「追加蕉門」とあるものは、「炭俵」「続猿蓑」のもの。いずれの集も、呂丸没翌年の撰で、後人の追加である。
・ 「三体の話」は、芭蕉の工夫か。「馨」は「におい」と読む。「見入」は、他に見ない。「見入(みいれ)」とは、「内部を深く見ること。深く思い、執着すること」の意。

 この約1か月後、北枝が芭蕉の言葉を記録するが、次のとおりである。

山中問答、元禄2年7・8月

 北枝著。 →「山中問答」参照

第2段 俳諧の道理に遊ぶ人は俳諧を転ず。俳諧の理屈に迷ふ人は転ぜらる。
第7段 世人俳諧に苦しみて、俳諧のたのしみを知らず。付句の案じやう、趣向を定むるに心得あり。

・ 「俳諧の理屈に迷ふ人は転ぜらる」「付句の案じやう、趣向を定むるに心得あり」、この言葉で十分だったが、北枝は腑に落ちなかったのか、書状で「付け方」を請う。芭蕉は、それに応えようと、十七の付け方をしたためるが、「付句爰にとゞまりて、却つて初心の迷ひあるべし」と、破棄する。これは、「湖東問答」に詳しいが、路通が近江にいた、元禄4年7月中下旬から9月上旬ぐらいのことと推察できる。

・ 十七の付け方は未だ見ないが、雪門の伝に拵えた十五箇条ならある。

十五箇条、元禄4年7~9月か
第2段     付句十五ヶ条証句
【埋付】  甲斐の根かたは雪の装束           【うづみ】
      鉄砲の玉ほりにゆく夏木だち
【違付】  _てとあうも軍最中             【ちがい】
      はつ風にひとり念仏の声すみて
【其人】  鶏頭見ては又鼾かく      ※野坡、炭俵 【そのひと】
      奉公のくるしきかほに墨を塗   ※嵐雪
【其場】 畷を下りて青麦の出来      ※野坡、炭俵 【そのば】
       どの家も東の方に窓あけて   ※野坡
【時分】 くるくると五郎に縄をかけまくも        【じぶん】
       夜はしらじらとあけ六のかね
【時候】 息災に祖父のしらがのめでたさよ ※岱水、炭俵 【じこう】
       堪忍ならぬ七夕の照り     ※利牛
【離付】 旅はうき物とはかねて知りながら        【はなち】
       ちらりちらりと雨の降りきて
【景気】  又も大事の鮓を取出す     ※去来、猿蓑 【けいき】
      堤より田の青やぎていさぎよき  ※凡兆
【向付】  きのふの文を又よみて見る          【むかい】
      城内の相図の狼烟ぱつとあげ
【逆付】 江戸の左右むかひの亭主登られて ※芭蕉、炭俵 【ぎゃく】
       こちにもいれどから臼をかす  ※野坡
【心付】 いもうとをよい処からもらはるゝ ※孤屋、炭俵 【こころ】
       僧都のもとへまづ文をやる   ※芭蕉
【響】  麦畑の替地に渡る傍じ杭     ※利牛、炭俵 【ひびき】
       売手もしらず頼政の筆     ※孤屋
【寂】  町内の秋も更ゆく明やしき    ※去来、猿蓑 【さび】
       何を見るにもつゆばかりなり  ※野水 
【撓】   星さへ見えず二十八日     ※孤屋、炭俵 【しおり】
      ひだるきはことに軍の大事也   ※芭蕉
【匂】   
にほひは一巻のにほひにして百句が百句にわたるものなり。依て証句はあげがたし。深くあぢはひてしるべし。 【におい】

     口伝名将の矢雑兵の楯のことあり。

  右十五ヶ条は、芭蕉翁北国行脚ののち、越の何某、この道執心深しといへども、付句の意味を得がたし。翁のもとへ書をもちて嘆しかば、翁付合の四道を要数分て十五条となして送らるるべきを、「後の世の人、この十五条にとゞまりて、無量の妙処失ん」ことをおそれ、その書を破裂せんとし、ねゆを、門人某、深くをしみ、ひそかに写しとゞめ、初心の手引草とす。穴かしこ。
 他に読話すべからず。
                 雪中庵嵐雪

・ 四道は、付ける際の態度・姿勢の分類であり、十五箇条の分類と符合しない。
・ 十五箇条の分類名称は、付句の内容名と付け方の名称に二分できる。
・ 十五箇条の分類は、良基の連歌十五体によく対応する。

 以下、四道・良基の連歌十五体・十五箇条の分類を対照した。

十五箇条、付方の名称
四道良基、連歌十五体十五
箇条
記事
内容手法
添・随 ①平付
②四手
⑤詞付
③其人
④其場
⑤時分
⑥時候
 連歌の名称は、詞・寄合の付け方によるものなので、蕉風俳諧の付合になじまない。
添・随・放・逆 ④心付⑪心付 連歌の名称をそのまま用いる。
⑥埋付①埋付
放・逆 ⑧対揚⑨向付 連歌の付け方を細分している。
⑩逆付
⑨引違②違付
⑦離付
添・随・放・逆③景気 ⑧景気 連歌の名称をそのまま用いる。
⑦余情 ⑫響 「響・匂・移・位」の内、二つを挙げる。
 「侘・寂・栞」の内、二つを挙げる。
⑬寂
⑭撓
⑮匂
 ⑩隠題  隠題以下、省略されている。
⑪本歌 (面影)
⑫本説
⑬名所
⑭異物  
⑮狂句  

 嵐雪名で伝わるものは十五体であったが、概要は十分つかめる。この内、蕉門独自のものが、⑫~⑮「響・寂・撓・匂」の四体である。
 芭蕉が北枝のために十七体を書き、却って初心の迷いと破棄したのは、元禄4年秋頃であった。その翌年5月に、支考が三体を書き残している。


葛の松原、元禄5年2~5月

 支考著。入門の翌年、奥羽の旅で書いた、随筆風俳論。

 世に景気付、こゝろ付といふことは侍れど。

はしり

  敵よせ来るむら松の音     ※千里、初懐紙(貞享3)
 有明のなしうちゑぼし着たりけり ※芭蕉

ひびき

  夜明けの雉子は山か麓か
 五む十し何ならはしの春の風   
ごむ:五墓日、じゅうし:十死日。暦注。

におい

  稲の葉のびの力なき風     ※珍碩、猿蓑
 発心の初に越る鈴鹿やま     ※芭蕉

 無所住心のところより付きたらば、百年の後、無心の道人あつて、誠によしといはむ。いとうれしからずや。

 「景気付・心付というようなことはよく言われるが、この三体は蕉門の誇り」と解釈する。

 しかし、これには問題があった。
 第一に、「匂」である。
 「去来抄、修行教」に、「匂ひといふも、移りといふも、わづかに句作のあやにして、のると乗らぬとの境なれば、冷暖自知の時ならでは、悟し明らむることあるまじ」とある。これは、嵐雪十五箇条の「にほひは一巻のにほひにして百句が百句にわたるものなり。依て証句はあげがたし」とよく合う。本来、匂付と言うものはない。

 次に、「走」である。去来は、「走」を「句走り」とする。また、「句に語路といふ物有り、句走リの事なり。語路は盤上を玉の走るがごとく、滞りなきをよしとす」と言い、付合の論としない。
 さらに、「響」についても、支考反省の辞に、
 「故翁在世の時に、『響きとは起情のことなり、走りとは拍子の事なり、馨とは百句が百句ながら二句の間の匂ひをいへば、付方の一名には如何ならん』と其時に、故翁に難破せられて、此度十論に弁義を付て、其あやまりを悔い申候」。(「口上、支考稿、享保8(1723)年」)
 が、ある。
 「十論」については、次の通り。

俳諧十論、支考著、享保4(1719)

 さて、一分の趣向とは、前句の作者は其心ならねど、其句の言使に心を賦りて、我句をそこへ付ぬれば、哀楽の姿も褒貶の情も、二句の間に見ゆるをいふ也。そこを俳諧之連歌と題して上にあまるを下にゆつろえ,下にたらぬを上におぎなふ。いづれの和歌か、上下をわけて句の作意をほめたるや、今は前句の噂をいひて、一句の作をほむる世となれば、其事は纔(わずか)に変ずれども、其心はおなじはこびにて、さるは付合の法にも及ばず、爰に一分の趣向といひ、前句の噂といふを知るべし。→下表㋑へ続く

三法第九変化の論
有心有心㋑ 誠に付るといふ時は、多くは人倫のさまにして、士農工商のまちまちに、貧福の情あり、老若の姿あり、貴賎の品は其人にしたがひて、衣裳の模様も、身帯の格好も、前句の言外を見つくし聞きつくして、聊もおのが按排をつけず、それぞれの道理をさばきたらん。そこに其人を見るやうにして、一字の手にはをも残さざる、それを今いふ有心付と知るべし。…略…、→㋣へ
向付㋺ さて向付といふことは、有心付の中の別名としるべし、例の打越に人ありて、人倫のさまはやかましけれども、或はあしらひ、或はにげて、同じ模様の面白からねば、其時に自他の差別を見て、向付の法を用ゆべし、前句は例の大名に「薄着数奇也」なンどあらんに、山寺の「老僧」を趣向にさだめて、「麦飯」を句に作るべし。世間は爰に酒か吸物か、時の結構を案ずる故に、例の噂とも断とも難ず。これらに麦飯の付合をば、或は俳諧のこなしとてもいへり。しかれば、よのつねの付方は、此方より彼方へ付るを、是は老僧をもて大名にむかへば、此名を向付とはいふ也。されど、商人も老僧も、おなじ大名の相手ながら、前のは大名を動さず、お下手の詞に、下品の相手をこしらへ、畏るの詞に前句をつなぎて、彼いふ有心の働を見るべし。
 後のは其人の風俗につけて、いくらも付やうのあるべきに、打越のさまのむづかしければこそ、其大名を動かして、薄着を鷹野のもどりと見たる、物なき所に物をもてむかへは、此いふ向付の働を見るべし。前句を動すと動さぬは、大むねこれらの用なれど、付方は毫末の差別にして、爰に俳諧の明と不明とを信すべし。→㋩へ
起情㋩ さて前句より情を起すといふは、連座の人の変化を思はず、縮れば五句も三句もちヾまりて、人の様のみやかましく、伸れば三句も五句ものびて、そこら風景がちならん、 たとへば「村雨の日影」といへるに、「田中の松のあつちこち」と付たらん。爰にて前句の情を動かして、「我は狐に化されたやら」と付たる、これ等は前句の「あつちこつち」といへる詞のあやを聞とがめて、無理にこの情を拵へたれば、此名を起情とはいへる也。
 しかれば、向付は縮む時の用にして、起情は伸る時の用と知べし。
会釈会釈㋥ さりとて百韻は百句ながら、一字一涙の脾胃を揉むべからず。俳諧は本より心のあそびにして、まして離付の道理あるをや。さるを、浮世のよひ事つくしに、腰に万貫の銀をまとひて、鶴に乗て、楊州にあそばんといへる、それらの程をしらざらんには、さて会釈といひ遁句といへる。
 会釈は、打越のむづかしき時に、其人の衣類か喰物か、そこらの道具・表色にて、程よふそこを除く事也。さるは、世間の諺に「浪人あしらひ」といふ事も、むづかしき時の機変也。およそ百韻は、六七十句も、この会釈にて過るものなれば、其中の模様はさまざまに変じて、世法の時宜も此間に修すべし。本より会釈といふ所にて、どちらへも変化の自由なれば、是を俳諧の地と名づけて、一巻の変化は此会釈によるべし。→㋣へ
拍子㋭ (其余は向かひ付といひ、前句の情を起すといひ、)拍子付は語路の勢にして、宗因の風に今の姿をとゝなへ、→㋬へ
[自注から] 追手三千土用八雪
      宇治勢田の灸箸をそ引たりける

 此句は檀林の名にひゝきて、例に言語の拍子なから評せは、橋のおもかげより、今の俳諧の姿にも似たれは、是等に聊の差別を知べし。拍子は殊に其姿を忘るべからず。
色立㋬ 色立は気色の取合せにして、頼政の「紅葉に白河」の類也。→㋺へ
[自注から]都にはまた青葉にて見しかとも
       紅葉ちりしくしら河のせき

 此歌は頼政の物数奇にて、全く能因の歌をとりながら、彼は陸奥に万里の情を詠し、是は白河にて色の姿をかたる。
遁句遁句㋣ 遁句は(会釈と)同体別名にして、風雨・寒暖のたぐひより、時分・時節のあしらひをいへば、遁句は軽く会釈は重し。爰に別名の故を知るべし。…略…、→㋭へ

 以下、「三法・七名」の説明となる。

 昔は貞享式をつくりて、響といひ走といひ馨といへる三名あり。中比は東華式には八体の附合あり、今は十論に四名を出して、附合の名は十五なれども、附方はたゞ三法にして、七名も八体も三法の中の細注と知るべし。

 七名が三法の細注は分かるが、八体と三法がどうつながるか分からない。
 また、趣向とのかかわりは示されない。趣向から入るのは、有心と称する㋑~㋩の3名。会釈と称する㋥~㋣の4名は、詞道具から入る「心付・物付」である。
 「七名八体」については、次のとおり。

七名八体
付けの手法・姿勢・態度付け句の内容
三法七名八体
有心有心前句の姿情を見定め、言外の物をとらえる。其人前句の人。
向付前句の人物を見定め、別人を立てる。其場前句の居場所。
起情叙景、叙事句から情を引き出す。時節前句の時節。
会釈会釈前句の人物の容姿、持ち物、動作などを付ける。時分前句の時刻。
拍子前句の句勢、語呂の勢いに応じる。天相空模様。
色立前句の色彩を縁として付ける。色の取り合わせ。時宜その世・その場にかなうもの。
遁句遁句軽く受け流す。遣句・伸句とも言う。観相人生、世相に対する情。
面影故事、古歌の余情。

 以上を見ると、七名は、三法の「有心」に「向付・起情」を、「会釈」に「拍子・色立」を加えたものと分かるが、違和感がある。

 先ず、「向付」は、「十論㋺」のとおり、打越・前句に人情があるときの転じ方。「起情」は、前句に人情がない場合の転じ方で、どちらも限定的。
 次に「拍子・色立」は、物付であり、蕉門で「巻に一つ」、あるいは「せいぜい折に一つ」とされたものである。これらを、「有心」や「会釈」と並立させるのはいかがなものか。また、「遁句」を「十論㋣」で「会釈の軽いもの」とするが、そうであれば、別立ての必要はないのではないか。会釈と区別し、軽く付け放ち、次へ渡すのが、遁句である。


 このように、七名八体は、項目が整理されているとは言いがたい。

 支考は、「響きとは起情のことなり、走りとは拍子の事なり」という芭蕉の詞の表面だけを受け取り、その心を聞いていなかったのであろうか。
 嵐雪は、「後の世の人、この十五条にとゞまりて、無量の妙処失ん」という芭蕉の心を押さえ、去来も、「却つて初心の迷ひあるべしと思ひ、終に其書をとゞむ」とし、「付句は千変万化にして数をもつていふものにあらず」と言い添えている。
 越人は、支考の「十論」に対し、「俳諧不猫蛇」(享保10(1725)年)で、「付様は三法や百法と限る事なし。……、前に云如く、趣向は泉の涌くごとく、限りなきもの也」と言っている。


 以上のことから、当サイトでは、七名八体などは用捨し、「付け方」は、「趣向より入る」とする。



付方八方自他伝

「自他伝検討」

自他伝の成立
資料「山中問答・付方八方自他伝」及び資料「立花北枝」を参照。
用語
人情句 人情とは、「人間の自然な心の動き。人としての情け」も含むが、俳諧では、人物や心情を言う。景色に対して言う。
 人情と人倫とは異なる。芭蕉は人情を重視したが、「芭蕉一門が人倫句を連らねるようになっ」たと誤解する向きがあるので、「人倫」についておさらいする。人倫は語彙の分類で、「人倫」と「人倫の噂」に大別する。
人倫【人倫】親子・兄弟・娵聟・舅姑・祖父祖母・孫彦・伯父伯母・甥姪・妻妾等、六親九族の文字。人名。
【人倫の噂】 (主)大名・神主・奥様・御隠居など。(誰)翁・老・僧・相手・客・友・連衆・旦那・あなた・先生・敵など。(身)我・己・某・私・拙者・手前・自身など。(独)一人・二人・幾人・大勢・群集・余・衆生など。(媒)医師・糸売・関取・曲者・大工・宮司・番頭。酒好・上手など。
 これらの語を用いた句を人倫句と言う。芭蕉は、人情句を連続させても、「人倫二句去」の式目を無視していない。人倫と人倫の噂、噂と異なる噂の打越を許したのみ。 →「貞享式海印録、人倫
【非人倫】仏・釈迦・文殊。鬼。仙人・仙女。天人など。
人物・ 一巻の成否は、人物の設定に左右される。「今ここで私は」の情は発句のみに許されている。脇は「あなたが今ここでそうあるならば」であり、第三から挙句までは、「いつかどこかで誰かが」と展開していく。
・ この「誰」を自と他に二分したのは、北枝の慧眼である。この「誰」かが自らを表現すれば「自」であり、「誰」かを他者と表現すれば「他」となる。
・ 文学作品では、この「誰」を「視点人物」、「自・他」を「登場人物」と言う。北枝は、「視点人物」を「見ている人」と表現する。
・ 「誰が見ているか」を分ければ、「一人称、我の視点」と「三人称・彼の視点」とになる。
・ 「どのように見ているか」は、「全知全能の視点」と「その人限定視点」に分けられる。
・ 人物の描写は、「地の文」と「会話文(書かれた言葉、言語化された思いを含む)」とに分けられる。
人情「自・他・場」
人情自【人情自】 視点人物(語り手)がその句に登場し、自らの姿・心情・振舞を表したもの。
自他伝例句
① 硯にむかひすだれ揚つゝ /② さつぱりと酔のさめたる明屋しき /③ 皆忘れたる明がたの夢 /
③ 抱籠の手ざはりもはや秋近き /⑤ 聖霊おくる朝のせはしき /⑥ 新しき草鞋に旅の改まり /
⑥ いのちなりけり洛外の春 /⑦ 薬のなづむ弥生つれなき /⑧ 染ぬきを思ひのまゝにうり課せ /
⑨ あのやうな小庵かなと思ふまで /⑩ あはれに成て公事が裁けぬ /⑫ 身は雲水のさまざまの秋 /
⑫ 笘舟に寝られもやらぬ闇深き /⑬ 編笠に凌けど夕日かゞはゆき /⑬ 遅れしつれに心ひかるゝ
人情他【人情他】 視点人物(語り手)が、その句でその場にいる他者を語り、その人物の姿・心情・振舞を表したもの。人倫・人倫の噂などの名称が出なくてもよい。
自他伝例句(人物が示されたもの)
① 雉子に驚く女ひとむれ /② 送り火に尼がなみだやかゝるらん /④ 入月に痩子抱たる物もらひ /
④ 脇ひらもみぬ鍛冶が勢ひ /⑥ 見よがしに桜がもとの女房達 /⑦ 一言もいはで日中の御垣もり /
⑦ ほろりほろりと屋根ふきの薹 /⑧ 叱る局にわらふつぼねに /⑩ 襷ながらに嫁のすり臼 /
⑫ 女の声でまよひ子をよぶ /⑬ たばこの火くれて内儀はもとの機
自他伝例句(人物が示されないもの)
③ 看病の粥ふきさます小くらがり /⑧ 一つづゝ手本もらふて粽結 /⑨ 鯨突一二の銛を争ふて /
⑪ 水上は懺悔懺悔とぬるませる
【人情他の会釈】 前句の人物(他者)の容姿、持ち物、動作を詠んで、さらりと付けるもの。
自他伝例句
⑤ 顔にみだるゝ髪の赤がれ /⑦ こぼれ松葉を手まさぐりゐる /⑧ よろよろと裾に莚の下向道 /
⑨ 無分別なる顔に雪ふる /⑩ 櫛いれぬ髪にも艶は生れつき
【場】 人情なしの総称。視点人物が、主に景色・時間時刻・事柄などを描き、人物の姿や心情を直接語らないもの。
自他伝例句
① 梨の花さき揃ふたる夕小雨 /② まつ風遠く水のゆくすゑ /③ 落瓦あらしは松に鎮りて /
④ 並木あらはに松の露ちる /⑪ さてものどかにさても黄鳥
「俳諧寂栞」(さびしおり、以下「寂栞」)例句
時分 けふの日もはや八下がり也 /時節 置わたしたる朝草の露 /天相  雨とふ雲にあらし催す /
其場 杭四五本を門の馬繋 /其場の会釈 赤く煤けし行燈のさや
人情
自他半
【人情自他半】 視点人物がその句に登場し、自らと他者の姿・心情・振舞を表したもの。
人情「自・他」の判別
自他
未分明
⑪     自他伝の例句                視点人物と描写対象
 ㋑┌  … 記述なし …            │┌見ている誰かが、自分か他者を
 ㋺│ 花守に花のたんざくのぞまれて 自ニモ他ニモ│└  ┌
 ㋩│  さてものどかにさても黄鳥  時節    │┌  └望まれた人が春の時節を
 ㋥└ 水上は懺悔懺悔とぬるませる  他     │└鴬を聞く人が、懺悔する人を

㋺の句の自他が未分明。㋑の句で、㋺の自他が決まるはずである。また、決まるように付けるはずである。
自他
決定の
付け
「寂栞」 付句をもて前句の自他をさばく事
      寂栞の例句         視点人物と描写対象
 ㋑┌  … 記述なし …    │┌見ている誰かが、自分か他者を
 ㋺│ 朝まだき狩弓狩矢持添て  │└  ┌見ている別人が、弓矢持つ人を   他に決定
 ㋩└  うしろ姿もはたち内外  │   └                他↑

 かく作る時は前句、他の句に成也。
 ㋑┌  … 記述なし …    │┌見ている誰かが、自分か他者を
 ㋺│ 朝まだき狩弓狩矢持添て  │└  ┌見ている別人が、自らを      自に決定
 ㋥└  冷たかりけり歩行渡り川 │   └                自↑

㋺の句の自他が未分明。㋩の句で㋺を他に、㋥の句で㋺を自に決める。決めなければ、次の句は詠めない。
登場
人物
自他伝例句
⑬ 遅れし連れに心引かるゝ 自
 その句に「人倫や人倫の噂」が登場しても、その場にいない人は、「人物」とみなされない。「連れ」は、「そこに居ぬ」人であるから、「自」の句になる。
人情「有・無」の判別
人情無
の情
「俳諧てびき蔓」(次段参照。以下「てびき蔓」)に次の提起がある。
⑦ 景気の句といへども、「見・聞・思・行」の文字あれば、是人事に拘るといふて、打こしを忌み憚ることあり。
⑨ 句の情(こころ)あり、作者の意(こころ)あり。景気と見ゆる句に情の句あり。情と見ゆる句に景の句あり。
 これは、いずれも「人物の情」が、語られているか否かという前提に立てば、自明。言外の表出は問題にしない。

付合てびき蔓
付け

私説
① 前に自他・体用(たいゆう)・人情・景気のわかちをもて、発句より第四・第五に及ぶ名目とす。一巻の連綿、四五句の運び、此法をもてよくしるべき処也。
② 或は巻中人情の句をもて、景気の句を挾み、又は景気の句をもて、人情の句を挿みなどするはよろしからず。是を俗に「観音びらき」といふて、禁忌する所也。
③ 或は人情二句・景気二句と縞筋を織たる如く、一巻を連綿する事あり。一巻おだやかなりどいへども、巻中に曲節ある事なし。
④ 尤、景気の句出ば是非二句対して、次に人情起情の句を待つべし。これを俗に「延す法」といふ。
⑤ 又、人情二句対して、次三句にわたる時は、彼の「向付の法」をもて自他を分ち、猶、人事四句も五句も続けゆくべし。さほどの曲節を用ひずんば、一巻の眼目とする所なきに似たり。
⑥ 既古集に、人情五六句続きたる巻有り。考へ見るべし。
 又曰、
⑦ 景気の句といへども、「見・聞・思・行(※八句の運)」の文字あれば、是人事に拘るといふて、打こしを忌み憚ることあり。もっとも、句にもよるべけれど、花といひ、ほとゝぎすといふ句にも、「見・聞」を遁れざるはなし。
⑧ ことごとく是を吟味せば、付合穿鑿、論に落て、一巻の調子をうしなふべし。
⑨ 句の情(こころ)あり、作者の意(こころ)あり。景気と見ゆる句に情の句あり。情と見ゆる句に景の句あり。このところをよく見解して論ずべきもの也。
⑩ たとはゞ、昔物語・双紙物などに、地の詞といふ事あるをもてしるべき也。
⑪ 付合の一巻は、作物語を上手に綴ると心得べきも、また一助ならずや。
 底本、「付合てびき蔓、高井几董編(汲古堂・平安書林、天明6(1786)年稿)」。跋に「……。余いふ、今蕉門の俳諧世に行るゝといへども。其事を委うする人、五指を屈するに過ず。然るに此書や、初学を手引して道を広うすのもとひなれば、我これを印刻して、世の好士にも見せまほしくおもふ処也。もし師(※客と佳棠自身の師、几董)の命に背くの罪軽からずば、我足下に代りて、三十棒を受べしといふて以て、終に梓行に及び侍るものならし。/汲古堂佳棠誌/天明丙午歳霜月朔旦冬至日」とある。早稲田大学図書館蔵。

芭蕉一座俳諧の人情自他
 まず、北枝の「自他伝」は、「自・他・場、それぞれ相互の打越を避ける論」ではない。「自他伝、他・場・自」に「面に句続き四五句も人情なき句付たるときは、今一句延ばして付るは、常のことなり」とある。人情なき句とは、場の句である。
 また、「人情自・他・場」の付け方は、前句と付句の間に存在するものである。句単独で判定するものではない。打越で問題とするのは、付け方で言えば、視点人物・登場人物が異なるかどうかである。場の句相互で言えば、時分・時節・天相・其場の異同である。
猿蓑、「鳶の羽も」の巻、元禄3(1690)年興行

 「貞享式海印録、自他の論」に、「自句ばかりは百句も続く物也」とある。
 「猿蓑」に、自句12句続きがあり、「つばめ歌仙」には打越があるというので、一応確かめた。

 なるほど、それぞれ単独句としてみれば、自の句が連続しているように見える。

 初ウ10  さし木つきたる月の朧夜   凡兆 場
 初ウ11 苔ながら花に並ぶる手水鉢   芭蕉 自→場(景色)
 初ウ12  ひとり直し今朝の腹だち   去来 自
 名オ1 いちどきに二日の物も食て置  凡兆 自
 名オ2  雪けにさむき島の北風    史邦 自→場(天候)
 名オ3 火ともしに暮れば登る峰の寺  去来 自 ※
 名オ4  ほとゝぎす皆鳴仕舞たり   芭蕉 自→場(景物)
 名オ5 痩骨のまだ起直る力なき    史邦 自
 名オ6  隣をかりて車引こむ     凡兆 自 ※
 名オ7 うき人を枳穀垣よりくゞらせん 芭蕉 自
 名オ8  いまや別の刀さし出す    去来 自
 名オ9 せはしげに櫛で頭をかきちらし 凡兆 自 ※
 名オ10  おもひ切たる死ぐるひ見よ  史邦 自 ※
 名オ11 青天に有明月の朝ぼらけ    去来 場

・ 先ず、「→場」と付した句は、人情なしと見る。前段「てびき蔓」⑦にかかわるが、打越に問題はない。同じく②、名オ2・4で人情句を挟むが、内容が転じており、差し合いはない。
・ ※印を付した句は、次のように、人情他と見る。

 ┌名オ2  雪けにさむき島の北風      ┌[視点人物]全知の見てる人が、
 └名オ3 火ともしに暮れば登る峰の寺  他 └ [作中人物]寺守の仕事を叙述。

   [解釈]今日は雪もよいで出漁はなかろうが、僧はいつも夕暮れに、目印となる灯りをともすため、峰の寺に登る。
 ┌名オ5 痩骨のまだ起直る力なき      ┌[視]全知の見てる人が、
 └名オ6  隣をかりて車引こむ     他 └ [作]病後の女の行動を描写。

   [解釈]病み上がりの女は、起き上がれないので、門を開けられない。仕方なく隣を借りて、牛車を引き込む。
 ┌名オ8  いまや別の刀さし出す      ┌[視]妻を離縁する武士が、
 └名オ9 せはしげに櫛で頭をかきちらし 他 └ [作]見た妻の仕草を描写。

   [解釈]「今や離縁だ」と、夫が別れの刀を差しだした。突然の離縁に混乱した女、頭を櫛でひっかきまわすのみだった。
 ┌名オ9 せはしげに櫛で頭をかきちらし   ┌[視]役者の仕草を見ている人が、
 └名オ10  おもひ切たる死ぐるひ見よ  他 └ [作]聞いた役者の言葉を記録。

   [解釈]舞台袖で頭を掻き乱した役者、「この覚悟を決めた死に狂いを見よ」と一言、舞台へと去った。

・ これで、自他の打越がほとんどなくなるが、名オ5・7で他句を挟んでいる。これは、次のように視点人物・登場人物が異なっており観音開きにはならない。
 ┌名オ4 ほとゝぎす皆鳴仕舞たり      ┌[視]時鳥を聞き終えた人が、
 └名オ5 痩骨のまだ起直る力なき    自 └ [作]自身の有り様を描写。

   [解釈]季節は移り、病は癒えたが、やせたまま骨が立っていて、まだ起きる力はない。
 ┌名オ6 隣をかりて車引こむ        ┌[視]車を引き込んだ女が、
 └名オ7 うき人を枳穀垣よりくゞらせん 自 └ [作]自分の思惑を叙述。

   [解釈]旦那様が隣から来るという。お見限りかと思うたが、カラタチの生け垣をくぐらせ、少しは痛い目に遭わせたい。

・ 自他場を並べると、次のようになる。
  場場自自場他場自他自自他他場
・ やはり、人情の自他は前句との関係で見なければならない。特に作中人物を、人倫・人倫の噂の名称で表すことが少ない作品は、見ている人と描かれている人を押さえなければ、人情自句と思い込みがちである。

卯辰集、「馬かりて」の巻、元禄2(1689)年興行

     元禄二の秋、翁をおくりて山中温泉に遊ぶ、三両吟
発句  馬かりて燕追ひ行くわかれかな 北枝 -
脇    花野みだるゝ山の曲りめ   曽良 場
第三  月よしと相撲に袴踏ぬぎて   芭蕉 自
初オ4  鞘ばしりしをやがてとめけり 北枝 他
初オ5 青淵に獺の飛込む水の音    曽良 場、情景 ┐
初オ6  柴かりこかす峰の笹道    芭蕉 自    │
初ウ1 霙降る左の山は菅の寺     北枝 場、時候 ┘
初ウ2  遊女四五人田舎わたらひ   曽良 他
初ウ3 落書に恋しき君が名も有て   芭蕉 自
初ウ4  髪はそらねど魚くはぬ也   北枝 自
初ウ5 蓮の糸とるも中々罪ふかき   曽良 他
初ウ6  先祖の貧をつたへたる門   芭蕉 他
初ウ7 有明の祭の上座かたくなし   北枝 自
初ウ8  露まづ払ふ猟の弓竹     曽良 自
初ウ9 秋風は物いはぬ子も涙にて   芭蕉 他
初ウ10  白きたもとの続く葬礼    北枝 他
初ウ11 花の香は古き都の町作り    曽良 場、情景 ┐
初ウ12  春を残せる玄扔の箱     芭蕉 場、器物 │
名オ1 長閑さやしらゝ難波の貝づくし 北枝 場、細工 ┘
名オ2  銀の小鍋に出す芹焼     曽良 他
名オ3 手枕にしとねのほこり打払ひ  芭蕉 自
名オ4  うつくしかれとのぞく覆面  北枝 自
名オ5 つぎ小袖薫売りの古風なり   芭蕉 他
名オ6  非蔵人なるひとの菊畑    芭蕉 場、景  ┐
名オ7 鴫ふたつ台にすゑても淋しさよ 北枝 自    │
名オ8  あはれに作る三ケ月の脇   北枝 場、器物 ┘┐
名オ9 初発心草の枕に修行して    芭蕉 他     │
名オ10  小畑も近く伊勢の神風    芭蕉 場、風  ┐┘
名オ11 疱瘡は桑名日長もはやり過   北枝 場、時事 │┐
名オ12  雨晴くもり枇杷つはる也   北枝 場、植物 ┘│
名ウ1 細長き仙女の姿たをやかに   芭蕉 場、絵画  ┘ ※仙女は非人倫。
名ウ2  あかねをしぼる水のしら浪  芭蕉 自
名ウ3 仲綱が宇治の網代と打詠め   北枝 他
名ウ4  寺に使を立てる口上     北枝 他
名ウ5 鐘ついて遊ん花のちりかゝる  芭蕉 自
挙句   酔狂人と弥生暮行く     執筆 自


 ※ 「山中三吟」とも呼ばれるが、名オ4まで三吟、名オ5から両吟である。名オ3・名オ5の作者打越は、二座なので問題にならない。

・ 場の句の打越が、6箇所あるが、内容が異なるので問題はない。問題は、人情無の句をまとめて場の句とするところにあるのだろう。



去嫌、続ける句数一覧(古式の概略)
去り嫌い続ける句数
1句1、2句1~3句2句2~5句3~5句



二句去り天象降り物、聳き物、
芸能、食物、
衣類、名所、
国名、同生類、
木類、草類、人倫
神祇、
釈教、
夜分
夏季、
冬季
  
三句去り同字同植物、
同時分(じぶん)
旅、述懐、
無常、
山類、
水辺、
居所
 恋※ 
五句去り月、田、煙、竹、松、衣、涙、夢    春季、
秋季※
打越可異生類(鳥類と獸類、魚類と虫類など)、草類と木類、降り物と聳き物、異時分(季節と時刻など)は、打越も可。
備考

※ 恋の句は、2~3句とし、「恋の呼び出し句」「恋離れの句」を入れて、5句まで。
※ 春季・秋季は、通常3句とする。

※ このサイトは、新式を用いる。