俳諧の決め事

  「決め事」は一座の約束事。座に臨んでは宗匠に従う。宗匠は衆議を尊重する。

索引
歌仙の構成歌仙の進行用語・用字・音付け
花の句月の句恋の句


決め事 - 付け

「付け」の決め事

 「付け」の決め事は、次の通り。

1 脇は、韻字で止める。
2 第三は、「て」止め(ての省略を含む)。「らん・もなし」で止める。
3 前句までの句の内容・表現に戻らない。

 以上の細部については、知り得た範囲の芭蕉俳諧に倣い、後年追加されたものや、俗説・古式を用捨する。

付けの観点1「移り・響き・匂ひ・位」

 「去来抄、修行教」に、

昔は付物を専とす。中ごろは心付を専とす。今は移り・響き・匂ひ・位を以て付るをよしとす。

 と、ある。これは、俳諧の歴史であり、芭蕉の歩んだ道である。

俳諧の歴史、貞門期の芭蕉

・ 「心の付け」は、既に、連歌の大成者二条良基(1388年没)の分類に心付があるが、言語遊戯を主とする貞門の物付けを経て、西山宗因(1682年没)が広め、談林俳諧の特長となった。

俳諧の歴史、新風模索期の芭蕉

・ 談林が主に意味づけであったのを、芭蕉は「次韻」で、前句の景色や人物の情を見定め、発展させたり転じたりする付けとした。

俳諧の歴史、蕉風発祥

・ 芭蕉は野ざらし紀行の途次、「冬の日」で、貞門の物付・談林の意味付に加え、移り・響き・匂い・位などの付け方を用いた。前句の趣致風韻によって付ける匂付が特徴的で、前句に感応感合、前句の情緒気分を感じ取った付けである。
・ この特長は、既に「虚栗」に表れているが、「冬の日」で明瞭な形として示した。

俳諧の歴史、蕉風発祥

 では、この「移り・響き・匂ひ・位」を以て付けることを、まとめて何と呼ぶか。蕉門の書に当たったが、管見に入らぬので、現代の名著「連句入門、東明雅著(昭和53(1978)年稿、中央公論社)」の「…略…、蕉門の付けは、同じ心付の中で余情付とも言うべきであろう。…略…」に従って、余情付とした。但し、二条良基の分類の「余情付」を「よせいづけ」と読むのと分けて、「よじょうづけ」と読む。

余情付
移り前句の余情・情趣を受けて付け句に移す。
 <去来抄>匂ひといふも、移りといふも、わづかに句作のあやにして、のると乗らぬとの境なれば、冷暖自知の時ならでは、悟し明らむることあるまじ。
響き前句とつながる情緒・情動・気分。句体・語調にでることもある。
 <去来抄>響きは打てば響くがごとし。……一句一句に趣の変ることなれば、言語に尽くしがたきところ、看破せらるべし。
匂い前句とつながる感情や情況など、潜在する情趣。
前句に表現された世界を見定めて、その格に添って付ける。
 <去来抄>前句の位を知て付る事なり。たとへ好き句ありとも、位応せざればのらず。先師の恋の句をあげて、いはく。……恋句…人の妻・武家町人の下女・宿屋問屋の下女・古代の人・今様の女・武士の妻・町屋の腰元…これをもて、他はなずらへて、知らるべし。
・ 実際には、前句との間にあるもので、「付け」とは言いがたい。付けるごとに配慮する観点である。


付けの観点2「付け方」

 付けの手立てについて、芭蕉は「二十五箇条」で、

付句は趣向をさだむべし。

 と言う。続けて、「其趣向といふは、一字、二字、三字には過べからず。是を執中の法といふなり」とある。

二十五箇条、趣向を定ること

 去来抄の扱いを見る。

去来曰、「句案に二品有り。趣向より入ると、詞道具より入るとなり。詞道具より入ル人は、頓句多句なり。趣向より入る人は、遲吟寡句也と云。されど案方の位を論ずる時は、趣向より入るを上品とす。詞道具より入る事は、和歌者流には嫌と見へたり。俳諧は穴がちに嫌はず。」

去来抄、案じ方

 「句案」とは、付句の案じ方、すなわち「付け方」である。「趣向より入ると、詞道具より入る」の二通りで、「趣向が上品」「詞道具、俳諧はあながちに嫌わず」と言う。「詞道具」はいわゆる物付だが、排除する訳ではない。

去来抄、蕉門の付句

 以上のことから、芭蕉の付け方は「趣向から入る」を専らとしたと言える。


 このサイトで用いない「付けの分類(和歌十体・連歌十五体・七名八体など)」は、「決め事、付けの資料」に載せる。

 芭蕉俳諧の付け方は、次のとおり。


芭蕉俳諧の付け方
案じ方記事付けの案配付け様
余情付景色その他
趣向
より入る
・ 前句を十分に感じ取り、打越句以前に重ならぬよう発想する。
・ 執中の法による。
響き・匂い・移りは、すべての二句間にある。位は、すべての付句で考慮する。天象・地形・人事・草木・魚虫・鳥獣の遊ぶ様、その形容。何句続けてもよし。面影。
其場・其人・其時節等。
詞道具
より入る
・ 物付・心付は、付けの道筋が分かる。
・ 付けがたい付物をさっぱりとつけるのは手柄。
・ 一巻に1,2句あるのも風流。

【蕉門の付句】 蕉門の付句は、前句の情を引来るを嫌ふ。ただ、前句は、「是、いかなる場、いかなる人」と、「其事・其位」をよく見定め、前句をつき放して付べし。

→以上詳細は「去来抄、修行教-修行」以下参照。
→執中の法は「俳諧付合小鏡-執中の法」を参照。


「二十五箇条、趣向を定る事」に「空撓(そらだめ)」という案じ方があるとある。

→「二十五箇条、趣向を定る事」を参照。

そらだめ
空撓

・ 無心に前句を、何度も吟じる返す中で、自ずと浮かぶ句をもって付けとすること。
・ 前句との間に移り・響き・匂いなどが感じ取れなかったり、付け筋が理解できなかったりすることが多い。


 さては、二字三字の趣向にも渡らず、五体・八体の付かたにもよらず、世にいふ空撓(そらだめ)といへる案じかた有て、其時・其句にあらざれば、文字の道理に書尽しがたし。それは、百句にも三所四所はあるべし。しからざれば、言語の道理に落て、はいかいに不伝の妙所なし。(二十五箇条)


付けの観点3「人情自他」

 立花北枝(たちばなほくし)は、芭蕉の伝を案じ、句を「人情自」「人情他」「人情無」の三つに分類、「付方八方自他伝」(以下「自他伝」)を著した。

 この書の跋に、「右三年の工夫を以て、蕉翁に見せ申し候ふところの一法なり」とある。

・ 「自他伝」は、基本的に「人情あり」を「自・他」、「人情なし」を「場」と区分し、「自・他・場」三つの句について、付合を示している。

・ 三つのものの組合せは、3^で、27通りである。そのうち「*・○・*」のような9通り、「場・場・*」のような4通り、「*・*・場」のような4通り、計17通りを除く10通りのうち9通りを説明する。

山中問答、付方八方自他伝

・ 北枝が漏らした「自・他・他」の組合せを補ったのは、天明中興五傑の一人加舎白雄(かやしらお)である。

・ 「人情なし句」には、「時分・時節・天相・其場・其場のあしらひ」があること、「自・他」の判別が出来ない句は、付句で自か他がさだまることなど、詳しくなっている。

山中問答、資料-俳諧寂栞

 このように、北枝の「自他伝」は、「打越句の人情あり(人情自・人情他・人情自他半)」・「人情なし(場・時・事)」に留意するというだけの、極めて簡明な論である。

 しかし、「芭蕉の作品とは直接の関係がない」とする意見を耳にしたことがある。果たして、そうであろうか。

  たとへば歌仙は三十六歩なり。一歩も後に帰る心なし。行にしたがひ、心の改はたゞ先へ行心なれば也。
 これは、「三冊子-しろさうし」にある、土芳が聞いた芭蕉の言葉である。

 芭蕉は当然ながら、俳諧の座で、
  打越句までの人情及びその有無を見定め、観音開き・輪廻を避ける。
 ということを、極めて厳格に行っている。

 ちなみに、この「打越句までの人情及びその有無を見定め、観音開き・輪廻を避ける」は、北枝の自他論を一文で言い替えたものである。芭蕉の作品と関係がないわけはない。

・ このことについて、さらに、芭蕉一座の俳諧に、「自・他・場それぞれの観音開きがある」というので、一応検討をした。「人情自・他・場」の付け方は、前句と付句の間に存在するものであるから、連続・打越も当然で、特に問題は見られなかった。

決め事、資料-芭蕉一座俳諧の人情自他


人情自他
人情あり人情なし
人情自人情他
人情他人情他の会釈
人物自身の感情や行動を詠む他者の感情や行動を詠む人情他句に付けて、
その人について添える。
景気(場・景)、叙景や世相
 時分・時節・天相・其場・其場の会釈


去嫌・指合
去嫌
 去嫌

区分 
なし離す句数面去折去
付け可1句2句3句5句
打越可
天象日次・時分星・日月並  
今日照降・月次日次日和   
天候異天候晴-照 あめ-さめあめ-あめ同降物時雨・嵐 
時分夜分-夜分宵-明け夜-宵朝-朝    
時節時節・
異名月次・
異季
 ねん-とし
夏冬同季
1~3句続
ねん-ねん異月次・
夏-夏
春秋同季
3~5句続
涼-涼・
寒-寒
  
区分付け可打越可2句去3句去5句去面去折去巻一
雨・風・名所非植物の花の字植物名の花・他季桜  同季桜正花※↓
※ 巻に一 月花を結ぶ句、他季の花、短句の花、正花の桜、花(か)の字、この五つは、百韻でも一つ。\贋物の花、
風雨の花、名所の花、花に桜、神仏・名所・恋・同景物の花、散る・咲く・莟の花。\その外同体の運びを許さず。
植物 木-草異木・異草木や草の字松・竹・枝・葉苗根菜穂実種薮柴
楓-紅葉
異季桜・柳・菊
紅葉・梅・蕎麦
※↓
※ 巻に一(異名を含む) 柳・梅・椿・桜・桃・山吹・若菜・燕子花・牡丹・楓・紅葉・菊・芭蕉・水仙
生類類生類異生類
用具に生類
同生類
馬異体
鳥の字
虫の字
馬-馬の字馬異名・干支
・羽・尾・鶏・
蜂異季・貝
犬・牛・蚊・
蜂同季
魚・鯰
※↓
※ 巻に一(異名を含む) 鴬、喚子鳥、百千鳥、蝶、蝸牛、時鳥、水鶏、鶺鴒。蛬、松むし。狐・狸・鬼・虎・竜・雷・天狗。
異季の鴬・蛍・雁・燕・千鳥は巻2まで。
水辺異体用の水辺異水辺 同水辺舟-舟浪流滝橋
海浦浜池井
  
山類異体用の山類異山類 同山類 峰谷島  
区分付け可打越可2句去3句去5句去面去折去
神祇釈教
無常
神名-仏名
非神物
斎-祭
祓-鳥居
  神の字、神祇の宮
釈教神祇無常
非釈物
寺-院
尼-坊主
 てら-じてら-てら、坊-坊、僧-僧、尼-尼、講-講 
 人倫外の恋 恋句 恋の字 
無常二続き有  異無常 同体無常
述懐 異述懐 同体述懐   
名所名所-国名
国名-国名
京・外国・
地名・名物
異名所、
地名・国名
  京-都、国の字、外国名同士の付け 
三続き有旅体   旅の字 
 異場田-畑野、道田、畑何里・里(さと)
原村市町辻庭場石岩砂土
 
居所 異居所いえ・うち-カ・ケ商号の屋、壁-塀、家・宿・門・戸・垣住-住、窓-窓、柱-柱、店-店、棚-棚、畳-畳

※ 折去 庵、隣、風呂、普請、屋敷、屋根

人倫姿・情・用異人倫噂
異体
非人倫
父母男女
一人-二人
ひと-ニン
異人名
ひと-ひと
ニン-ニン
男女音訓、己、我同類古人名、男女同音訓、「老・若」「達・衆」「誰・師・独・使」「武・賤・稚」「君・客」「妻・嫁・親・祖母」

※ 折去 「官名・武名・仙・俗名」「雇人・奉公人・坊主・弟子」

肢体 異肢体ひげに髪
軽病
手・口・目
身・心、気
洟-洟紙
夢、涙
「髪・頭・尻・腹」「顔・足」「肌・裸・皺・腰」、異る尿屎-雪隠、重病 
以上、詳細は、「貞享式海印録、去り嫌いのまとめ」、及びそのリンクを参照。
指合
多岐多様に付き省略。「貞享式海印録、去嫌、言葉」、及びそのリンクを参照。

 


 

付合語彙の解説
語彙読み解説
会釈あしらい七名三法の一つ。会釈・拍子・色立に分類される。
七名の一つ。前句の人物の容姿、持ち物、動作を詠んで、さらりと付ける。
色立いろだて七名の一つ。前句の中に出てくる色彩を縁として付ける。色の取り合わせ。
有心うしん七名三法の一つ。有心・向付・起情に分類される。
七名の一つ。前句の姿情を見定め、言外の物をとらえる。
打越うちこし前句の前の句のこと。前々句。
移り付うつりづけ余情付の一つ。前句の余情・気分を、柔らかく受けて付ける。
面影おもかげ八体の一つ。故事、古歌で付けるとき、それと示唆する。
観相かんそう八体の一つ。人生、世相に対する喜怒哀楽の情を観じて述べる。
観音開きかんのんびらき付句が打越と変化しないこと。三句の転じの逆。御法度。
起情きじょう七名の一つ。叙景、叙事句の言葉のあやから情を引き出し、叙情句とする。
句去くさり類似した詞や縁の深い語は、隔てなければ付けてはならない定め。二句去・三句去・五句去・面去・折去がある。
位付くらいづけ余情付の一つ。前句に表現された世界を見定めて、その格に添って付ける。
心付こころづけ前句の心に着目して付ける。談林派の作風。芭蕉の余情付につながる。
差合さしあい同字語や同義語などが規定より近くに出るのを禁じること。
例:打越と同じ助詞や活用語尾が来ること。
去り嫌いさりぎらい季や語彙の分類で、離す句数、続ける句数の決まり。
変化を求めるために、同季・同字・類似語・縁語などを続けたり、近接して用いないが、格別なものを定め、尊重して続ける。
三句の転じさんくのてんじ付句が打越から、転じ離れること。
時宜じぎ八体の一つ。その世・その場の風俗、その座・その折のよろしきにかなう。
時節じせつ八体の一つ。前句の状態の時節
七名しちみょう付合構想の立て方、有心、会釈、遁句の三法を、さらに有心・向付・起情、会釈・拍子・色立、遁句の七つに分類。
時分じぶん八体の一つ。時刻を示す。
其場そのば八体の一つ。前句の人の居場所
其人そのひと八体の一つ。前句の人を描写する。
付合つけあい前句への付け方。
転じてんじ付句が前句から、転じ離れること。
天相てんそう八体の一つ。空模様を示す。
遁句にげく七名三法の一つ。会釈よりも軽く、時節、時分、天相、時宜などで受け流す。
遣句、伸句(さらりとした叙景句)とも言う。
人情自にんじょうじその句に登場する人物が、自分の姿や心情、振る舞いを表したもの。「自」と略す。
人情自他半にんじょうじたはん自他共に入れた句。「半」と略す。
人情自他論にんじょうじたろん歌仙の句を「人情なし」「人情自」「人情他」「人情自他半」の四つに分類。
人情自・他・自他半・無が、観音開きにならないよう工夫する。
人情他にんじょうたその句で語られる自分以外の人物の姿や心情・振る舞いを表したもの。「他」と略す。
人情無にんじょうむ
にんじょうなし
景色・時間時刻・事柄などを描き、人物の姿や心情を語らないもの。「場」と略す。
八体はってい
はったい
付句法を分類。其人・其場・時節・時分・天相・時宜・観相・面影の八つに分類。
響付ひびきづけ余情付の一つ。前句の世界を感得し、感応して付ける。
匂付においづけ余情付の一つ。前句の感情や情況、潜在するものに添って付ける。
拍子ひょうし七名の一つ。前句の句勢、語呂の勢いに応じる。
べたべた前句にべったりして、転じていないこと。転じの逆。
向付むかいづけ七名の一つ。前句の人物を見定め、別人をもって対立させる。
余情付よじょうづけ移り付・響き付・匂ひ付・位付、四つの付合の総称。
輪廻りんね付句が、打越以前の句と同じ世界になっていること。御法度。