俳諧の決め事

  「決め事」は一座の約束事。座に臨んでは宗匠に従う。宗匠は衆議を尊重する。

索引
歌仙の構成歌仙の進行用語・用字・音付け
花の句月の句恋の句


決め事 - 月の句

 月の句

月の句数
 歌仙の月は、初折表に1、初折裏に1、名残の折に1の計3句。
月の座

 月の座は、初折表が5句目、初折裏が8句目、名残の折が、表の11句目である。
 芭蕉七部集で、月の句を拾うと、次の通り。

月の句の座

 各面の折端、名残裏は少ないが、詠まないことはない。それぞれ理由あってのことである。


➊ 月(秋)

月の句流れ-当季が秋のとき
区分流れ
当季秋記事
初表発句◇月の句か?Yes→

月の句この面で、月はもう詠まない。以下同じ。

No↓
◇月の句か?Yes→

月の句〃。

No↓・ 発句に、「月次month、日sun・星、日次date・天象、同時分」の語があれば、月moonの句は読めない。
・ 脇句に「月次」があれば、却下する。
第三指合がないかぎり、ここで出すよう努める。
◇月の句か?Yes→

月の句〃。

No↓・ 発句に「月次、日・星」、脇に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 第三に「月次、日・星」があれば、却下する。
4句目伸ばして秋季。
◇月の句か?Yes→月の句〃。
No↓・ 発句に「月次」、脇に「月次、日・星」、第三に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 4句目に「月次、日・星、日次・天象、同時分」があれば、却下する。
5句目月の句伸ばして秋季。月の句を出す。月の句〃。
6句目ここに月の句はない。
初裏・ 初折の裏も、月は1句詠む。流れは次のとおり。
*句目◇月の句か?Yes→

月の句この面で、月はもう詠まない。

No↓・ 3句前に「月次」、前々句に「月次、日・星」、前句に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 7句目が月の座とされるが、指合がなければ、どこに出てもよい。以下、句別の留意点。
1句目・ 月は、面去かつ五句去である。初表、発句が月の句の場合、ここで出せそうだが、これも面(おもて)の第1句であり、不都合である。
2句目・ 発句が月の句の場合、ここから出せる。秋季以外の月にする。脇句が月の句の場合も出せそうだが、短句の月が続くことになり、不都合。
3句目・ 脇・第三が月の句の場合、ここから出せる。秋季以外の月にする。
4句目・ 初オ4が月の句の場合、ここから出せそうだが、短句の月が続くことになり、不都合。
5句目・ 初オ5が月の句の場合、ここから出せる。秋季以外の月にする。
6句目・ 秋季以外の月にするが、初折の月が短句の場合遠慮する。
7句目 月の句月の句の収まりがよいので、月の座と言われる。ここまでに花が出ていなければ、夏月・冬月とし春季を避ける。秋月の連続も避ける。
8句目・ ここまでに花が出ていなければ、夏月・冬月とし春季を避ける。秋月の連続も避ける。
9句目

12句目

・ 指合がなければ、月の句はどこで出てもよい。

資料「芭蕉七部集、初折裏の月」参照。

・ 名残の折も、月を1句詠む。表裏、どこで詠んでもよいが、たいていは表に詠む。流れは前のとおり。
名残表・ 11句目が月の座とされるが、指合がなければ、どこに出てもよい。以下、句別の留意点。
1句目

10句目

・ 指合がなければ、月の句はどこで出てもよい。

11句目月の句 月の句の収まりがよいので、月の座と言われる。
12句目

・ 指合がなければ、月の句はここで出てもよい。

名残裏・ 指合があって、名残の折の月花を入れ換えることが、ままある。また、「月の字がある無月の句」が出た場合、月の句は同面に詠めないので、名残の裏で詠むことになる。 →「春の日、なら坂やの巻」
1句目

5句目

・ 指合がなければ、月の句はどこで出てもよい。

挙句・ 月が出ていけないことはないが、見たことはない。

➋ 月(春・夏・冬)

月の句流れ-当季が「春・夏・冬」のとき
区分流れ
当季「春・夏・冬」記事
初表発句◇月の句か?Yes→

月の句夏月・冬月。この面で、月はもう詠まない。

No↓
◇月の句か?Yes→

月の句〃。

No↓・ 発句に、「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 脇句に「月次」があれば、却下する。
第三ここで月を出すとき、当季が夏冬の場合、季移りに留意。
◇月の句か?Yes→

月の句この面で、月はもう詠まない。以下同じ。

No↓・ 発句に「月次、日・星」、脇に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 第三に「月次、日・星」があれば、却下する。
4句目ここで月を出すとき、当季春の場合、季移りに留意。
◇月の句か?Yes→月の句〃。
No↓・ 発句に「月次」、脇に「月次、日・星」、第三に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 4句目に「月次、日・星、日次・天象、同時分」があれば、却下する。
5句目月の句指合がなければ、ここで月を出す。秋季。
◇月の句か?Yes→月の句〃。
No↓・ 脇に「月次」、第三に「月次、日・星」、4句目に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 5句目に「月次、日・星、日次・天象、同時分」があれば、却下する。
6句目ここで月を出す。秋季。Yes→月の句〃。
初裏・ 初折の裏も、月は1句詠む。流れは次のとおり。

資料「芭蕉七部集、初折裏の月」参照。

*句目◇月の句か?Yes→

月の句この面で、月はもう詠まない。

No↓・ 3句前に「月次」、前々句に「月次、日・星」、前句に「月次、日・星、日次・天象、同時分」の語があれば、月の句は読めない。
・ 7句目が月の座とされるが、指合がなければ、どこに出てもよい。以下、句別の留意点。
1句目・ 月は、面去かつ五句去である。初表、発句が月の句の場合、ここで出せそうだが、これも面(おもて)の第1句であり、不都合である。
2句目・ 発句・脇が月の句の場合、ここから出せる。当季以外の月にする。
3句目・ 第三が月の句の場合、ここから出せる。当季以外の月にする。
4句目・ 初オ4が月の句の場合、ここから出せる。当季以外の月にする。
5句目・ 初オ5が月の句の場合、ここから出せる。当季以外の月にする。
6句目・ 初オ6が月の句の場合、ここから出せる。当季以外の月にする。
7句目 月の句月の句の収まりがよいので、月の座と言われる。ここまでに花が出ていなければ、夏月・冬月とし春季を避ける。秋月の連続も避ける。
8句目・ 花の句が出ていないとき、当季以外の夏月・冬月にする。秋月にすると、11句目に花と決まり、季移りを強いることになる。
9句目

・ 花の句が出ていないとき、夏月・冬月にすると、11句目に花と決まり、季移りを強いることになる。

10句目

・ 花の句が出ていないとき、春月なら出せる。

11句目

・ 花の句が出ていないとき、月花の句なら出せる。

12句目

・ 指合がなければ、月の句を出してもよい。

・ 名残の折、「月(秋)」に同じ。

➌ 月の句判定

月の句判定

 「月」には、天体の月moonと、暦の月monthがある。俳諧の正月(しょうげつ)は、古来称美されてきた、空にあって姿を変えつつ輝く月である。
 読みは、ガツ・ゲツ・つき(づき)。また、月の字を用いない正月(しょうげつ)もある。

非月 【月でない有明】  曙光の有明。行灯の有明、有明し。地名の有明
【恋の詞】  待宵の身など。
【宵闇の類】
  「朔・晦」 …… 月は日と同じほうにあり、見えない。
  「宵闇」 …… 月の出が遅い十六夜から上弦までの宵の暗さやその時分。
  「夕闇」 …… 月が出るまでの暗闇やその時分。宵闇。
  「夜陰」 …… 月のない夜のやみ。夜分。
  「暁闇」 …… 陰暦の月末から翌月の上弦ごろまで、夜明け前に月がなく暗いこと。
【無月の類】
  「無月」 …… 雲や雨で、月が見えないこと。残念な思いをのせて、名月について言う。雨の月・雨夜の月・雨月・雨名月・月の雨・曇る名月。
  「朔月」 …… 見えない月を想像して言う。(新月は朔を過ぎて見える月)
【月次】  一月~十二月。正月(しょうがつ)・睦月・如月・梅月・雛月・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・彩る月・紅葉月(もみはづき)・寝覚月・神無月・霜月・極月。月日。
【名称の月】  月日星(鴬)。月下美人・月下香・月夜柿。月老・月下翁・月下老人・月下氷人。月山。
【見立の月】  星月夜(星の光が月のように明るい夜)・卯花月夜(卯の花を月光に見立てて言う)。
春季 …… 春の月・朧月・朧月夜・月朧・春月・桜月夜。
夏季 …… 夏の月・月涼し・卯の花月夜(卯の花の白く咲いている月夜)。
秋季 …… <三秋> 月・朝月・ 有明月・五日月・入るさの月・遅月・下弦の月・片割月・下り月・弦月・上弦の月・月落つ・月傾く・月代・月白・月の秋・月の入・月の兎・月の蟾・月の鏡・月の暈・月の桂・月の剣・月の氷・月の出・月の鼠・月の舟・月上る・月の都・月の弓・月の輪・月更くる・月夜・月夜烏・月夜見・月渡る・十日月・上り月・二十日月・半月・昼の月・望くだり・夕月・夕月夜・弓張月・宵月・宵月夜・八日月・四日月。
 <初秋> 秋初月・七夜月・盆の月。
 <仲秋> 明の月・朝月夜・亥中の月・芋名月・今日の月・小望月・今宵の月・残月・三五の月・繊月・立待月・月待ち・月祭り・寝待月・残る月・初月・初月夜・更待月・眉書月・眉月・真夜中の月・満月・三日月・三日の月・名月・明月・望月・良夜・良宵・佳宵。
 <晩秋> 姥月・女名月・栗名月・梢の月・名残の月・後の月・二夜の月・豆名月。
冬季 …… 冬の月・寒月・寒三日月・月氷る・月凍つる・月冴ゆる・冬三日月・雪月夜。
【月の異名】 有明。新月・弓張・上弦・待宵・望(もち)・十五夜・三五夜・十六夜・既望(いざよい)・十七夜・のちの曙・立待・居待・臥待・寝待・下弦。古式に、桂男・桂かげ・玉兎・嫦娥(姮娥)・細愛壮子(ささらえおとこ)・金剛・盃の影。

➍ 月の句、去嫌

月の句、去嫌
付け可 日・星に月 : 夕日・星・七夕㋣月/
月と非月物 : 月㋣行灯、月㋣宵闇、月㋣非月の有明
打越可 異名の月と暦の月(つき) : 弓張①睦月・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月/
異名の月と暦の月(ガツ・ゲツ) : 有明①六月・正月/
月と月の字がない暦の月 : 月①着更衣・弥生・師走・/
月と暦の日 : 月①夏の日・日和・日永・幾日・日記/
月に天象 : 月①降・聳・風・照・朧・影・天、月①五月雨(さみだれは当て字、早+水垂れ)※さつき雨は三句去。/
天象の日に月 : 夏の日・日永・日和に、影・照・晴と作るときは、天象になる。日の影・照る日和・晴れの日永①月/
月に同時分 : 月①夕間暮れ、有明①朝。 ※景の月は可。時分の月は三句去。
二句去 月に日・星 : 月②星、月②日/
月(ゲツ)と暦の月(ガツ) : 名月①正月/
三句去 月と暦の月 : 有明・月①一月~十二月・今月・正月。 ※面を隔てれば、二句去/
月と非月の月 : 有明③月日
時分の月と同時分 : 出る名月③暮れ
五句去五去かつ面去 : 月⑤-月
面去面を隔て五去 : 月-⑤月

➎ 月の句、作法

月の句、作法

・ 歌仙では、初表1・初裏1・名残の折1の三月(さんげつ)。
・ 「定座」とは、初心のためのもの。月の句は、「いづこにても、一句立ちて、前句に能く応ずるところへ出す」(海印録)。ただし、月の座より後に出すのは二か所まで、端に出すのは一か所のみ。
・ 秋季3~5句のうちに、月を詠む。
・ 月の句は、面を隔てて、五句去り。
・ 異名の月は、月次の月が出ていなくても、必要に応じて用いる。異名の月は、歌仙に二つまで。
・ 同他季の月は、歌仙に二つまで。
・ 短句の月は、歌仙に二つまで。
・ 前後同趣向はよいが、同体は不可。例えば、「月影・夕月・月夜」はそれぞれが趣向、「別れの月・きぬぎぬの月」は同趣向。「三日月・繊月・眉月」、「半月・上弦・下弦」、「望月・満月」は、それぞれ同体。

月の句について

■ 月の句とは
二十五条 すべて、月花は風雅の道具なれば、なくて叶はぬ道理を知つて、さのみ月花の句に新しきを求むべからず。
 一座の首尾のよろしきに従ひて、毎々の俤の句なりとも、その時の、程よきやうに付て置べし。さして、奇怪を好まざれ。
海印録

 月花の座といふ事は、初心稽古のために書きたる物也。月花の座、更になし。
 発句にある時は、わけて風雅なるべし。脇にあるも、又いみじ。第三、四句目にあるもよし。
 五句目にあるを月の座といふは、秋の発句の時、五句より外、季続かざる故也。他季の発句ならば、六句目に月ありても苦しからず。只、表の内月一つ、裏の内月花とあるべき也。又、引上て出す月花は、正花(しょうか)正月(しょうげつ)あるべし。夫を、助字の月花に遣ふは不用也。(北枝考、約文)


 月は、端より端迄、いづこにても、一句立ちて前句に能く応ずる所へ出す也。
  …略…
 又、何の巻にても、月と月との間は同季・異季・異名にかはりても五去也。
 さて、八句ある表の月のみは、七句目迄に出して、端の八句目に出したる例なきは、表長くて、月の後るゝ隙なき故也。都て表に「他季の月」「異名の月」出で、或は月花の座入代へ(ノウ ※名残の裏)に、月出づる等の事、皆前句より然する事也。巻に摸様を付けむとて、かまへてする事ならず。(海印録)

■ 正月しょうげつ・非正月、異名
直旨伝 翁曰、星月夜は秋季にて、賞翫の月にはあらず。若発句に出る時は、素秋にして、他の季の有明などの付句致すべし。
 ○素秋は先づせぬ事なれどもなさで叶はぬ場には、なさずんばあるべからず。古法ありといへども、当流にこれを用ひず。別に当流の法あり。口伝。
師説録 星月夜は月にならぬなり。其時は句のあつかひ、大切の心得あり。
 星月夜の月を持たる変例
        春と秋集名残の表         → 真向翁「衣装して」
  ┌      うたれてかへる中の戸の翠簾   → 芭蕉
  └     柊に目をさす程の星月夜    翁 → 曽良

 次、谷の梟と付け、名残の裏、引返し冬篭と付、冬三句にわたして冬月としたり。異なる例なり。
 ※┌ 名オ10  打れて帰る中の戸の御簾   芭蕉  歌仙「衣装して」
  │ 名オ11 柊木に目をさす程の星月夜   曽良
  │ 名オ12  つらのをかしき谷の梟    路通
  └ 名ウ1 火を燒ば岩の洞にも冬籠    曽良
師説録 星月夜、発句に出る時は、素秋にして、他の季の有明などの句を敍るなり。伝授のひとつなり。
直旨伝 月の座に月の字も有明の字もさし合たる時は、異名にてすべし。
 但し月の字有明の字など近き時、定座に月の字を出す事、法外の変格あれども、初心のすべき所にあらず。かならず宗匠・功者にまかすべし。
師説録 月の句異名にするはよからず。拠無くする事なり。
 月前是を制して月の字出すべからずと芭蕉も申されし。尤も時にもよるべし。法には非ずとなり。
 百句も三十六句も、悉く雑の句なる旨をさとらば、月の扱ひ、いかやうにもありて、異名の論かかはりなかるべし。
■ 月の句、句数・長句短句・定座・変格
二十五条 月花は風雅の的なり。月は月々にあり、花は四季に有て、四花八月(古式百韻、歌仙は二花三月)とは定まりたるなり。
 初心の人は~、ひたと他人にゆづる時宜なり。
直旨伝 翁曰、(百韻で)月の定座をこぼす事、五十句うちにはあるべからず。奥に至りて、三折も過ては、少興にもなるものなれば、稀に翻す事もあり。是も定例にてはなし。
 歌仙にはくるしからず。元来略式なる故なり。
直旨伝 (百韻で)月二句、裏に稀にあり。此時は月数八つなり。名残の裏はまれにもなし。
直旨伝 月は上の句を賞翫とす。落月無月はつゝしむべし。法にはあらず。
 伝曰、落月無月の句、もし付たる時、心得あり。口伝。
師説録 折端に月をこぼせる、稀にはあり。故ある事と心得て、猥りにすべからず。
 すべての変格子細も知らず、みだりになすものあり。変格を格式にとるは不学の誤なり。
 月花を引上げ、或はこぼしなどする事も、会釈ある席には、其理なくては失礼なり。常の席・無名の俳諧・両吟等にはともかくもあるべし。
 実に道をあきらめ自然に師とも仰がるゝ輩、其座其時の運び、変化物好にて古になき変格をもなす事もあるべし。是は其座限りの事にて、又すべくもあらず。
 去来糸桜をもて花にかへたるも古伝ありとはいへど、珍らしき物好なり。是等をもても思ふべし。
■ 月の句、指合・去嫌
直旨伝 翁曰、月といふ字は五句隔つと新式に有り。
 門人問、「月は何句去べきや」。翁曰、何句去りても出がたし。間に他の季節あるときは五句去なり。
■ 月の句の呼び出し
海印録

  さて、前句より月を言ひかくとは、
     │掃除日の隙より所化の浮れ初め
     │ 玉の簾の高台寺前
  月定座│あらかねの芋は芋はと売歩行き
    月└ 今宵の月の名は隠れなし

 されば、前句より言懸くる月は、別に趣向を立つるに及ばず。すべては、前句の噂にして、月は安らかにすべきなり。(古今抄)


 「月を前より言ひかく」と云ふことは、翁にも諸門人にも、例なき新工夫なり。
 定座越に、「日・星」ある所にて、この捌きあらば、面白からむ。この越は、日次なれども、○を印せるは、この手柄に重みを付くる粧ひ也。全く、日次に月を嫌うてこぼしたるにあらぬ事は、この句の前後に「前句より言ひ懸くる月」とのみ書きたるにてしるし。  さるに、近世、この捌きを、三通りに見過まりて、「日次に月越を嫌ふ」「月をこぼす時は毎々言懸く」「こぼし月は只月とだにいはじ。見立も趣向もいらず」と、思ひ誤まりたるは、笑止の事なり。
 これ等の新格を再び用ふる時は、先人の手柄を襲ふに似たり。以下、「宵闇の条」に、去来の「恥づるに堪へず」と云ふ遺戒を見よ。
 古今抄八条の月、大方しかり。(海印録)

■ 初表の月
元禄式

 月次の月の字、発句・脇などにある時、表の月、有明の類なるべし。

直旨伝 月並の月の字、発句にあるときは、本月、連歌に三句去なり。俳諧には二句去べし。有明とも桂男ともする法なり。兼て有の字明の字など嗜べし。同字なれば、月とうち出してせず。表の心得大切なり。
 連歌に一座とは十八人の事なり。当時俳諧に連仙といふは表一巡の句数なり。
師説録 秋は第三までに月を出すなり。
■ 月の句と名所
海印録

 月に更科、花によしのなど、付行く事なかれ。宇治に茶、竜田に紅葉と、付行く事宜きは、其場に在つての景物なる故也。(有也無也之関)


 「有也無也之関」の説は、古式なれば論に及ばず。(海印録)

■ 月の句、季
元禄式

 月花といふ句 雑なり。

師説録 三月尽、九月尽はいかやうにもすべし。
 九月尽は脇にも月をする事なし。第三に月を出せば季戻して宜からず。習ひなきうちは、九月尽の発句立ぬがよきなり。直旨に委し。 ■s06
有也無也

 星合(ほしあい、七夕)の句に月を付るには、大事なことがある。月は重く、星は軽いが、七夕の夜は星が重いので、月をかすかに計らうべし。
   ┌ 星二つ映るや露のころび合
   └  ゑにしばかりに盃の影

有也無也

 月に、蛍・稲妻・花火の付。これらの光を称美し、月に押されぬようにする。
   ┌ 岩陰は蛍に波のもえ上り
   └  孫のきげんのすゞしさを月

海印録

 紅葉類に夜体の句を付けるときは、色を失ふので、古式では戒めたが、その心をもって(色を失わぬように)付けるときはよい。元より、夕月・有明・ただ月と付けるのは、(明るいので)問題ないが、度々このようにするのも、拙ないだろう。ただ、決まりに縛られぬようにしたい。
   ┌ 楢紅葉狂歌やさしく詠み添へて
   └  京の月夜はさぞ踊るらむ